闇の中の光
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#639 [ゆーちん]
二日ぶりの集会も相変わらず寒かった。


風が冷たくて、耳がちぎれんじゃないかってくらい。


だけど、楽しかった。


笑ったり驚いたり。


怪我をしている人もいたけど、いつものような賑やかさだった。

⏰:09/01/24 18:18 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#640 [ゆーちん]
本当に昨日、どんちゃん騒ぎしてきたの?ってくらいみんな穏やかに笑ってるもんだから。


こういう空間に、ずっといれたらいいのにな。


最後の集会とか、そんな事は考えないようにした。


だけど頭の端っこでは気になってたりして、上手く笑えてたのかはわからない。

⏰:09/01/24 18:19 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#641 [ゆーちん]
結局、何も言えずお開きしてしまい、みんなとバイバイした。


哲夫の元に駆け寄り、男の人たちともバイバイする。


集会場所から出て、哲夫に肩を抱かれながらいつもの道を歩く。


と、その時だった。

⏰:09/01/24 18:20 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#642 [ゆーちん]
「シホちゃん!」


そこにいたのは、のんちゃんだった。


「…のんちゃん。どうかした?」

「シホちゃんさぁ、居なくなったりしないよね?」


思わず、のんちゃんから目を反らしてしまった。


「何、言ってるの?」


私、上手く、笑えてる?


「隠さないでよ。今日のシホちゃん、何かおかしかったよ。」

⏰:09/01/24 18:21 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#643 [ゆーちん]
この人には、敵わない。


どうしてそんなに優しいの。


哲夫にしても康孝にしても、のんちゃんにしても。


シホとして出会った人たちは、みんな素敵な人ばかりだ。

⏰:09/01/24 18:22 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#644 [ゆーちん]
哲夫の顔を見上げると、私を見下ろしながら頷いてくれた。


のんちゃんには、話そう。


ていうか、話しを聞いてもらいたい。


同情とかが欲しいんじゃない。


のんちゃんへの気持ちは、哲夫に話したいって思った時の感情と同じようなもの。


大切な人だからこそ、私を知っていてもらいたい。

⏰:09/01/24 18:22 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#645 [ゆーちん]
「のんちゃん、ごめん。本当は言うつもりはなかったんだけど、実は‥」

「望実、うち来い。」


いきなり哲夫が言ったその言葉にのんちゃんは驚いていた。


「えっ、いやっ…それは…」

「集会中は人がいっぱいいるからマシだけど、今は3人だ。だからすっげぇ寒い。女は体冷やすなって小学校で習っただろ?」

⏰:09/01/24 18:23 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#646 [ゆーちん]
のんちゃんは遠慮していたけど、哲夫の命令だとすれば話しは別…らしい。


「のんちゃんは哲夫の家に来た事ないの?新人の時に掃除とか。」

「うん。私はそのルールが決まる前からチームに入ってたの。」

⏰:09/01/24 18:24 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#647 [ゆーちん]
と、なると…やっぱり緊張するのかな。


チームのリーダーである哲夫の家に行くという事は。


3人で歩く帰り道は、なんだか違和感たっぷりで…私まで緊張してしまった。


そんな私の肩から手を下ろし、煙草を吸う哲夫だけは平然としていたけどね。

⏰:09/01/24 18:24 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#648 [ゆーちん]
家に着くと、のんちゃんの表情は益々堅くなった。


「失礼しますっ!」

「そんな力まなくても。」

「いや、だって哲夫さんの家だし…」


すると、哲夫は笑いながら言った。


「シホの家でもあるんだぞ。ツレん家に入るだけなのに、そんなカチカチになる必要ねぇよ。」

⏰:09/01/24 18:25 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#649 [ゆーちん]
それを聞いたのんちゃんの表情は、少し緩んだ。


私も、緩んだ。


私の家でもあるんだって、この家。


それって、すごい嬉しい事だよね。


なんだか心がキュンとなる。


「それじゃあ、おっ…お邪魔します!」

⏰:09/01/24 18:26 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#650 [ゆーちん]
「リラックスしてね?そんな緊張されてちゃ、私も緊張しちゃうよ。」

「あっ、うん。そうだよね。」

「何か飲む?」

「ううん、お構いなく!」

「…紅茶でいい?」

「あっ、うん。じゃあ紅茶で。」


どっちだよ、とツッコミたくなるほどだった。

⏰:09/01/24 18:27 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#651 [ゆーちん]
いつものリラックスしたのんちゃんとは別人。


でもなんか、可愛かった。


のんちゃんのそういう性格、好きだな。


「哲夫は?」

「俺はいらなーい。ビール飲む。」

⏰:09/01/24 18:28 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#652 [ゆーちん]
のんちゃんにはソファーに座って待っててもらい、私と哲夫はキッチンに。


哲夫が冷蔵庫を漁りながら、声をあげた。


「望実ぃー!」


ソファーから立ち上がったのんちゃんは、元気な返事をする。


「はいっ!」

⏰:09/01/24 18:29 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#653 [ゆーちん]
「ビール飲むか?」

「いや、私まだ19なんで。」

「あぁ、そ。残念。」

「すみません。ありがとうございます!」


のんちゃん見てると、癒される。


と、同時に感心。


そんな風に尊敬できるような人がいて、緊張とかしちゃって…萌子には無かった事だったから。

⏰:09/01/24 18:29 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#654 [ゆーちん]
上下関係を知らなかった私に、そっと教えてくれたのは、哲夫のチームのおかげ。


あんまり上下関係を気にしないで、ってチームだったから私自体、緊張したり尊敬したりって事はなかったけど、その事実を目の当たりにして、ちょっと感動とかしちゃったし。

⏰:09/01/24 18:30 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#655 [ゆーちん]
「お待たせ。」

「あっ、ありがとう。」

「砂糖とミルクは?」

「どっちも入れてくれる?」

「OK。」


紅茶を入れ終え、私も哲夫ものんちゃんのいる場所に移動した。


のんちゃんの表情は、玄関にいた時よりほんの少し、緩んだかな。


さて、何から話そうか。

⏰:09/01/24 18:30 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#656 [ゆーちん]
紅茶を飲む音。


ビールを飲む音。


シンとした部屋。


最初に口を開いたのは、のんちゃんだった。


「美味しい。」


哲夫以外の人に美味しいと言われた。


それがたまらなく嬉しく感じてしまう。


「ありがとう。」

⏰:09/01/24 18:31 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#657 [ゆーちん]
他愛もない事だけど、私には心が奮い立つぐらい幸せな言葉なんだ。


インスタントの紅茶にお湯を入れただけなのに、美味しいって。


社交辞令かもしれないけど、嬉しい。

⏰:09/01/24 18:31 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#658 [ゆーちん]
こんな気持ちをどうやって伝えればいいのかわかんないけど、私なりの言葉で説明しよう。


大丈夫。


シホとしてのタイムリミットは、まだある。


萌子に戻る前に、シホとして、萌子の話をしておきたい。

⏰:09/01/24 18:32 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#659 [ゆーちん]
「今から話す事、上手く伝わらないかもしんない。けど私なりに頑張って伝えるから聞いてね。」


するとのんちゃんは、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。


そのエクボに、何度と心を落ちつかしてもらっただろう。

⏰:09/01/24 18:32 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#660 [ゆーちん]
「私、シホなんかじゃないの。」

「…。」


のんちゃんは、何も言わなかったし、何の反応も見せなかった。


「本当の名前は、金河萌子って言うんだ。」

「…そっか。」

「ごめんなさい。ずっと黙ってて。」

⏰:09/01/24 18:33 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#661 [ゆーちん]
「謝んないで。ていうか名前なんて何だっていいじゃん。あだ名みたいなもんだよ。」

「…うん。」


薄々気付いてたのかもしんない。


驚いているというより、確信を持った表情だったから。

⏰:09/01/24 18:33 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#662 [ゆーちん]
ゆっくりと萌子の話をした。


哲夫にお伽話をした時に、過去を思い出す痛みへの免疫はついたつもりだった。


だけどまだ弱かった。


途中、何度も泣きそうになった。


けど…泣かなかったよ。


泣いてちゃ、のんちゃんに伝えらんないもん。

⏰:09/01/24 18:34 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#663 [ゆーちん]
冷めきった紅茶で何度も喉を潤わせながら、話した。


途中、哲夫にも助けてもらいながら。


「それで私決めたの。明日…っていうか日付的には今日だね。」

「もしかして…」

「うん。萌子に戻るよ。それで、親と話し合ってみる。」

⏰:09/01/24 18:35 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#664 [ゆーちん]
今までずっと、過去を聞くのを禁じられていた哲夫の仲間であるのんちゃんは、信じられないって顔をしながら萌子の過去を聞いていてくれた。


そのお伽話のクライマックスが、今日でシホを辞めるってもの。


そりゃ、ビックリするよね。

⏰:09/01/24 18:35 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#665 [ゆーちん]
「すぐ帰って来るんだよね?」

「…わかんない。」

「何で?」

「親と和解できるなら、金河家で暮らすと思う。許せないぐらいムカつく親だけど…何だかんだで、ここまで育ててくれたのは、あの人達だし。」

⏰:09/01/24 18:36 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#666 [ゆーちん]
「育ててくれたって…子供に援交させて金稼ぎさす親なんか最低だよ?」

「うん。わかってる。最低な親だよね。」

「だったらどうして…」

「哲夫が、味方だから。」

「…哲夫さんが?」

⏰:09/01/24 18:36 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#667 [ゆーちん]
ずーっとベットの端に座りながら煙草を吸っていた哲夫。


そう、あの人が味方だから。


「私には哲夫がいるから。生きたいって思うようにもなれた。」

「シホちゃん…」

「殴られて蹴られて半殺しにされて…もし和解できなくても、死のうだなんて考えないようにする。誓うよ。」

⏰:09/01/24 18:37 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#668 [ゆーちん]
「その時はまたシホとしてここで暮らせばいい話。」


哲夫の付け加えのおかげで、話にリアリティが出た。


そっと哲夫に視線を向けると、優しい笑顔で私を見てくれた。


「もし萌子ちゃんに戻っちゃってもさ、絶対遊ぼうね?約束だから。」

⏰:09/01/24 18:38 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#669 [ゆーちん]
ありがとう、と言った。


「私も、ずっとシホちゃんの味方だから。親とか友達に何かされたら、ぶっ飛んでくよ。約束する。」


また、ありがとう、と言った。


感謝しても、しきれない。

⏰:09/01/24 18:38 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#670 [ゆーちん]
「私ら出会って2〜3ヵ月だけど、シホちゃんはマジで大切な仲間だから。」

「…仲間ってものも、萌子じゃわかんなかった。シホになって、仲間の良さを学んだんだよ。」

「私もシホちゃんから学んだ事いっぱいあるよ。」

⏰:09/01/24 18:40 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#671 [ゆーちん]
泣かないって決めたのに、勝手に流れてしまった。


「アハハ。泣き虫シホちゃん。」

「うるさいっ。」


涙が乾いた頃、のんちゃんは帰った。


夜も遅いし、近くまで送り届けた後、哲夫に肩を抱かれて家まで歩いた。

⏰:09/01/24 18:41 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


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