闇の中の光
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#263 [ゆーちん]
自殺失敗から1ヵ月。


ここ最近、毎晩のように集会に顔を出すようになったせいか肌荒れするようになった。


『夜更かしごときでニキビなんて、シホもまだまだガキだな。』と哲夫に笑われた。


腹なんか立たない。


哲夫が笑っていると、なんだか嬉しくなれたから。

⏰:09/01/04 22:18 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#264 [ゆーちん]
「行くぞ、シホ。」

「うん。」


今日も集会に向かう。


とても寒い夜だった。


「あっ、シホちゃーん!」


のんちゃん達が私を呼ぶ。


哲夫に『行ってもいい?』とアイコンタクトを送ると、『もちろん。』と答える。


無言の会話。


哲夫の腕の中から抜け出し、のんちゃん達のところまで走った。

⏰:09/01/04 22:19 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#265 [ゆーちん]
「お疲れ様〜。」

「今日も寒いね!」


相変わらず、私は自分の事をあまり話さないで、みんなの話を聞くばかり。


だけど楽しかった。


笑うと、温かかったから。


これが仲間なのかな。


だとしたら、萌子の友達ごっこは本当にくだらないものだった。


信じていいんだよね、のんちゃん達のこと。


それに…テツの事。

⏰:09/01/04 22:20 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#266 [ゆーちん]
「シホ。」

「ん?」


日付が変わる30分前、私たちが集まる場所に哲夫が来た。


みんな、急に畏まっちゃって…何だか笑える。


「お楽しみ中、悪いんだけど俺そろそろ帰りたい。お前まだいるか?」


珍しい。


ここ最近は最後まで残ってたのに。

⏰:09/01/04 22:21 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#267 [ゆーちん]
「ううん、帰る。」

「いいのか?居たい時間まで居れば良いよ。帰りは康孝にでも頼めばいいし。」


私は首を振り、哲夫の傍に駆け寄った。


「じゃあね。」

「バイバーイ!」


みんなと別れ、いつものようにチーム全員が哲夫に挨拶。

⏰:09/01/04 22:21 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#268 [ゆーちん]
見慣れた儀式だ。


それが終わると、私の肩を抱いて歩き出す。


なぜ哲夫が早く帰りたがったのか、それは家についてからわかった事だった。

⏰:09/01/04 22:22 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#269 [ゆーちん]
ベッドに倒れ込んだ哲夫。


「シホ…薬箱取って。」

「薬箱?お腹でも痛い?」


すっかり慣れたこの部屋から、私は薬箱を取り出した。


絆創膏、消毒液、ガーゼ、うがい薬…など、たくさんの薬品が詰まっている。


新人が用意した物だそうだ。

⏰:09/01/04 23:24 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#270 [ゆーちん]
「哲夫?」

「シホ…あのさ…」


哲夫の様子がおかしいと気付いたのは、ちょうどこの時だった。


日付がもうすぐ変わる。


「えっ、テツ?」

「風邪…薬…出して…」

⏰:09/01/04 23:25 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#271 [ゆーちん]
いつの間にこんなに荒い息になったんだろう。


苦しそうに呼吸をする哲夫に全く気付かなかった。


それに、汗もひどい。


「哲夫!?」

「大丈夫だから…薬、探して…」

⏰:09/01/04 23:25 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#272 [ゆーちん]
かなり焦った。


こんな弱った哲夫なんか見た事ないから。


恐かった。


哲夫が死ぬんじゃないか、って。


いなくなるんじゃないか、って。


また一人ぼっちになるんじゃないか、って。

⏰:09/01/04 23:27 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#273 [ゆーちん]
必死に探した。


頭痛薬、腹痛の薬、胃薬、花粉症の薬…


手に取るたびに欲しい薬以外のものが現れる。


「あ、あった!」


風邪薬は1番底にあった。


「ちょうだい…」

「うん。あ、待って!」

「え?」

「…どうしよ。使用期限過ぎてる。」

⏰:09/01/04 23:28 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#274 [ゆーちん]
2年以上も前の薬。


どうして点検してくんなかったんだろう、と少し前までこの部屋の掃除などをしていた新人に腹が立った。


そんなの私のせいでもあるのにね。


「無いよりマシだ…ちょうだい…」

「でも、余計に悪化するといけないし。」

⏰:09/01/04 23:28 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#275 [ゆーちん]
迷う暇なんかなかった。


「待ってて。」


哲夫の財布を握り、私は家を飛び出した。


シホになって初めての事。


一人だけで家の外に出た事なんかない。


一人だと、妙に恐かったから。


だけどそんなのビビってる訳にいかない。

⏰:09/01/04 23:30 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#276 [ゆーちん]
哲夫が苦しんでいるんだ。


私はコンビニまで走った。


息が上がる。


久しぶりに体を動かした。


なまらないように気をつけていたはずなのに、やっぱり運動不足だ。


息が苦しい。


「すみません、風邪薬どこですか?」

⏰:09/01/04 23:30 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#277 [ゆーちん]
だけど私より、哲夫の方が苦しいんだ。


店員に教えてもらい、即購入。


来た道を走りながら戻る。


「テツ!」


家に帰ると、『脱走すんな、バカ。』と汗だくの哲夫が笑った。


無理に笑わなくていいよ。


苦しいくせに。

⏰:09/01/04 23:31 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#278 [ゆーちん]
水をコップに汲み、薬を哲夫に飲ませた。


「初めての…おつかい…偉かったな…」


バカ。


無理に笑わないでよ。


何だか泣けてくる。


「シホが…買ってくれた薬だ。すぐに…治るよ。」


辞めて。


自分が苦しいのに、私に気を使わないで。

⏰:09/01/04 23:32 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#279 [ゆーちん]
「ありがとな…」


頭なんか撫でないで。


自分が撫でられる立場なんだよ。


私に優しくしないで…。


「哲夫、着替えた方がいいよ。」

⏰:09/01/04 23:32 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#280 [ゆーちん]
人を介抱するなんて初めてだから、服を着替えさすのは私にとって大仕事。


やっと着替えが終わった頃には、薬が効いてきたらしく哲夫は眠ってしまった。


このまま私も寝るってわけにはいかない。


哲夫の、看病しなくちゃ。

⏰:09/01/04 23:33 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#281 [ゆーちん]
テレビや漫画の見よう見真似。


冷たいタオルをおでこに乗せて、部屋を温かくする。


哲夫を起こさないように体温計で熱を計ると、38.9度もあった。


もっと汗をかかせなきゃ。


でも、もし風邪じゃなかったら…


もし、この看病の方法が間違ってたら…

⏰:09/01/04 23:34 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#282 [ゆーちん]
哲夫、死なないで。


そんな事ばかり願っていた。


「テツ…」


とりあえず、私にできる事をしよう。


こまめに冷たいタオルに変えて、温かい格好をさせれば大丈夫だよ。


萌子は、そうしてきた。


体調を崩したら、自分で自分を看病した。

⏰:09/01/04 23:35 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#283 [ゆーちん]
大丈夫。


私は萌子じゃなくて、シホだけど、きっと大丈夫。


哲夫の看病、できる。


「哲夫、頑張ってね。」


主人の回復を祈るペットは、その夜、一睡もせずに哲夫の看病をした。

⏰:09/01/04 23:35 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#284 [ゆーちん]
タオルを変えて、汗だくの服も着替えさせて、体温を計る。


鳥が鳴く頃、37.5度まで下がった時には嬉しくて一気に緊張の糸がほどけた。


「よかったー。」


思わず哲夫の頭を撫でた。


綺麗な金色頭。


怖い顔して、寝顔は子供みたいな顔。

⏰:09/01/04 23:36 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#285 [ゆーちん]
昼前。


普段の起床時間。


哲夫は自然に目を覚ました。


私が作ったお粥を完食し、薬を飲み、もう一度眠ると言った。


「お前、寝た?」


『寝たよ。』と嘘をついた。


一睡もしないで看病してたの、なんて恩着せがましい事は言わない。

⏰:09/01/04 23:37 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#286 [ゆーちん]
眠る前、熱を計ると37.2度だった。


もう心配はない。


哲夫の回復力に感謝。


「俺、今日の集会は顔出すだけにするわ。」

「うん。」

「シホは居てもいいんだぞ?」

「ううん。私も哲夫と一緒に帰る。」

「そ。」

⏰:09/01/04 23:39 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#287 [ゆーちん]
再び眠りについた哲夫を見て、一気に安心した。


いつの間にか私はカーペットが敷いてある床で眠っていた。


起こされた時、集会に行く時間の30分前だった。


「哲夫、大丈夫なの?」

「ん。熱下がった。」


体温計をみせてもらうと、36.5度。

⏰:09/01/04 23:41 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#288 [ゆーちん]
「超〜平熱。」


ピースをして煙草の煙を私にかけた。


「よかった。でも無理しないでね。」

「うん。看病の得意なペットのおかげだな〜。」

「いつから体調悪かったの?」

「…3日前。」


恥ずかしそうに笑った哲夫。


全然、気付かなかったよ。

⏰:09/01/04 23:42 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#289 [ゆーちん]
「何か体ダルいなーと思っててさ。で、昨日の集会の途中で急に限界迎えて、こりゃダメだって訳でシホ呼びに行って…実はそこから記憶ない。」

「えぇ?重症だよ、それ。」

「所々に記憶はあんだ。俺の財布持って家飛び出したと思ったら、薬持って帰って来たとか。後はタオル変えたり、体温計を脇に突っ込んで来たり。」

⏰:09/01/04 23:43 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#290 [ゆーちん]
哲夫は煙草を消し、コップの水を飲み干した。


「一晩中寝ずに起きててくれたんだろ?」


…知ってたんだ。


「ありがとな。」


お礼を言われると、嬉しい気持ちになる。


そんな、子供みたいな事をゆっくりと学び始めたんだ。


萌子じゃ学べなかった、人間くさい気持ち。

⏰:09/01/04 23:43 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#291 [ゆーちん]
「気付いてあげられなくてごめん。」

「何が?」

「3日も前から体調悪かったなんて…」

「気にすんな。最近一気に寒くなったから体調崩しただけだし。迷惑かけてごめんな。」


迷惑なんて思わない。


私は首を振った。

⏰:09/01/04 23:44 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#292 [ゆーちん]
だけど、体調の変化に気付けなかった事は気にするよ。


私の事はなんでも気付いているのに、私は哲夫の事、何にも感じ取ってあげらんない。


あぁ…何となく人間らしくなって来たのかな、ってこの時思った。


悔しさとか嬉しさとか…そういう感情があるのは人間くさいでしょ。

⏰:09/01/04 23:45 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


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