闇の中の光
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#600 [ゆーちん]
「いってぇ!」
「…我慢して。」
「もうちょっと優しくしてよ。」
「優しくしてるよ?」
「殴られるより消毒のが痛いし。」
哲夫は誰かを殴った?
…って、そんな事聞くのはタブーだよね。
:09/01/21 16:16 :SH901iC :FXDa00ZA
#601 [ゆーちん]
「シホ。」
「ん?」
「あの男…萌子に伝えてくれって頭下げに来た。」
心臓が波打った。
あの男って、宗太郎の事だよね。
「…何?」
「萌子がまだ好きだ、ってさ。」
:09/01/21 22:07 :SH901iC :FXDa00ZA
#602 [ゆーちん]
何、それ。
宗太郎、頭おかしいよ。
萌子のどこが好きなの。
嘘だ。
萌子をまだ好きでいてくれてるなんて嘘だよ。
「地元じゃ騒ぎになってるらしい。警察には届けてねぇみたいだけど…萌子を心配してる人もいるんだ。」
:09/01/21 22:07 :SH901iC :FXDa00ZA
#603 [ゆーちん]
「シホ…じゃねぇや。萌子。急かすつもりなんか無かったけど、近々戦ってこいよ。俺も戦ったんだ。次は萌子の番じゃねぇか?」
自信がないとか、まだ恐いとか、そんな甘い事を言ってる場合じゃないって思った。
:09/01/21 22:08 :SH901iC :FXDa00ZA
#604 [ゆーちん]
「前にも言ったけど、俺が味方だから心配なんかいらねぇぞ。萌子がずっと我慢してきた不満を正直に親に伝えろ。勝っても負けても、俺がいる。仲間もいる。帰ってくる家だってある。」
そんな嬉しい事言われちゃ涙腺が緩んじゃう。
でもね、私もう泣かない。
:09/01/21 22:09 :SH901iC :FXDa00ZA
#605 [ゆーちん]
泣いてる場合じゃないもん。
「明日、戻る。萌子に。」
「そ。」
「だから、それまではシホでいたい。」
「おうよ。」
「哲夫の事、信じていいんだよね?」
「当たり前だっつーの。」
「ありがとう。」
:09/01/21 22:10 :SH901iC :FXDa00ZA
#606 [ゆーちん]
誰かの為じゃなく、自分の為に戦わなきゃいけないんだ。
人生60年だとして、残り43年。
まだまだやりたい事がたくさんある。
やりたいって純粋に願ってしまう。
希望とか勇気を学べて、本当によかったよ。
一度死んで、よかった。
シホになれて、本当によかった。
:09/01/21 22:10 :SH901iC :FXDa00ZA
#607 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
今日はここまで
>>2▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/21 22:11 :SH901iC :FXDa00ZA
#608 [我輩は匿名である]
泣けました
楽しみにしてます
:09/01/22 03:28 :F903i :N6eJwZDc
#609 [ゆーちん]
感想ありがとうございます
嬉しいです
続きは今日の夜か明日になると思います
更新遅くて申し訳ありません
:09/01/23 07:32 :SH901iC :OVGZkR5U
#610 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
闇と光
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/23 21:25 :SH901iC :OVGZkR5U
#611 [ゆーちん]
薬箱を棚に戻し、部屋へ戻ると哲夫は眠っていた。
よほど眠かったのか、寝付きがいいのか。
もしくは傷の痛みが和らぎ、安心したのか。
どれにしろ、哲夫は私に伝えてくれたんだ。
戦う意味を。
:09/01/23 21:25 :SH901iC :OVGZkR5U
#612 [ゆーちん]
自惚れかもしれないけど、シホを必要としてくれる人はたくさんいる。
だけど萌子は誰からも必要なんかされていない。
ずっとそう思っていた。
だけど違った。
嘘かもしれないけど、宗太郎は萌子を必要だとしてくれていた。
:09/01/23 21:26 :SH901iC :OVGZkR5U
#613 [ゆーちん]
もし宗太郎の気持ちが本当だったとしても、私は彼の気持ちには応えられない。
哲夫が好きだから。
だけど、宗太郎たった一人にでも、萌子は必要とされた。
その事実に、自信がついたんだ。
親と戦おうって言う、自信。
:09/01/23 21:27 :SH901iC :OVGZkR5U
#614 [ゆーちん]
哲夫を起こさないように、シホとして最後になるかもしれない家事をした。
掃除、洗濯、料理。
お風呂の時間が近付くと、哲夫は目を覚ました。
「まだ眠い…」
「お風呂入ればすっきりするよ。」
:09/01/23 21:28 :SH901iC :OVGZkR5U
#615 [ゆーちん]
あくびばかりする哲夫と、いつもより長い時間、お湯につかった。
「気持ち良いね。」
「だな〜。風呂最高。」
気の抜けた哲夫の声が浴室に響き、自然と笑顔を誘った。
:09/01/23 21:30 :SH901iC :OVGZkR5U
#616 [ゆーちん]
「今日の夕飯、何だと思う?」
「何か焼いてた音がしたから〜…炒め物?」
「ヒント、哲夫の好きなもの。」
「あぁ、ハンバーグだ!」
「ブブー。ヒント2、私にとって思い出の料理。」
「シホにとって?」
「うん。じゃあヒント3。最後のヒントだよ。」
:09/01/23 21:31 :SH901iC :OVGZkR5U
#617 [ゆーちん]
「ん。」
「ヒント3。シホの初めての料理。」
哲夫は覚えてくれているのだろうか。
私がここに来て、シホとしての初めての食事であった食べ物。
誰かのために料理をするなんて、面倒だから嫌いだった。
だけど、美味しいって言ってくれる人のために作る料理は、嫌いじゃなかった。
:09/01/23 21:33 :SH901iC :OVGZkR5U
#618 [ゆーちん]
「わかった?」
少し考えた哲夫は、口の端を吊り上げて笑った。
「お好み焼きだ。」
嬉しかった。
覚えててくれたんだ。
照れるような、恥ずかしいような。
「正解。」
「さすが、俺。」
浴室には二人の笑い声が優しく響いた。
:09/01/23 21:34 :SH901iC :OVGZkR5U
#619 [ゆーちん]
お風呂から上がり、そのお好み焼きを頬張った。
簡単な料理だけど、私にとっては特別な料理。
色違いのお箸で食べたお好み焼き。
自分で作った物を、初めて美味しいって思えた。
料理って味だけじゃなく、誰とどこでどんな風に食べるかも左右されるんだね。
:09/01/23 21:35 :SH901iC :OVGZkR5U
#620 [ゆーちん]
食べ終わり、片付けが済めば、集会に行く支度をする。
着替えたり、髪をセットしたり、化粧したり。
今日もいつものように準備に取り掛かる。
そんな私を、ベットに腰掛けて煙草を吸う哲夫の目が、ずっと追い掛けていた。
:09/01/23 21:36 :SH901iC :OVGZkR5U
#621 [ゆーちん]
「何見てんの?」
「んー?」
「あんま見ないでよ。恥ずかしいじゃん。」
照れ笑いした私に哲夫は小さく呟いた。
「明日の今頃には、もういねぇのかなって思って。」
私の顔から笑顔が消えた。
同時に、化粧をする手の動きも止まった。
:09/01/23 21:45 :SH901iC :OVGZkR5U
#622 [ゆーちん]
「そんな寂しい事、言わないで。」
「…ん、悪い。」
ずっとずっと、はっきりさせたいって思っていた事があった。
この機会に、哲夫に聞いてもいいよね?
「聞いてもいいかな?」
「何?」
:09/01/23 21:46 :SH901iC :OVGZkR5U
#623 [ゆーちん]
「ずっと私を守ってくれるって言ったよね。それって、どういう意味なの?」
「…味方っつう事。」
「私って、哲夫にとって…何?味方以外の言葉で教えて。」
【味方】って言葉だけで充分なのに、私は欲が出た。
自分が欲しい言葉が返って来なかったらヘコむくせに…バカでしょ?
:09/01/23 21:47 :SH901iC :OVGZkR5U
#624 [ゆーちん]
せっかく恋愛感情を知れたのに、一気に砕け散るのが恐かった。
勇気のない女だ。
でも今なら少しだけ自信があった。
【彼女】とまではいかないが、【ペット】ではないだろうっていう自信。
:09/01/23 22:56 :SH901iC :OVGZkR5U
#625 [ゆーちん]
「知りてぇの?」
「うん。」
哲夫の口が開いたシーンが、とてもスローモーションに目に映った。
次の瞬間、哲夫の口から出た言葉を聞き、私はまんまと泣かされた。
:09/01/23 22:57 :SH901iC :OVGZkR5U
#626 [ゆーちん]
「愛してる人。」
ねぇ、今なら前言撤回していいよ?
でないと私、信じちゃうから。
私が欲しかった言葉以上だよ、それ。
「じゃあ聞くけど、シホにとって俺って何?」
「…二酸化炭素くれる人。」
「フフッ。何だそれ。」
「嘘、ごめん。」
:09/01/23 22:58 :SH901iC :OVGZkR5U
#627 [ゆーちん]
嘘はだめだから、ちゃんと言い直せと叱られたから、言い直した。
「世界一大好きな人。」
泣いてる私を抱きしめた哲夫の笑顔は、幼稚園児みたいだったよ。
笑顔がキラキラしてた。
:09/01/23 22:58 :SH901iC :OVGZkR5U
#628 [ゆーちん]
私の心は闇だった。
だけど哲夫っていう、手をかざしたくなるような光が照らしてくれた。
「哲夫は光だ…。」
「光?俺、改名したっけ?」
「違う、そうじゃない。」
「じゃあ何。」
:09/01/23 22:59 :SH901iC :OVGZkR5U
#629 [ゆーちん]
「ずっと闇の中でウロウロしてた私に、哲夫が光を与えてくれた。そういう意味の光。その光のおかげで、私…こんな幸せな気分になってる。」
「じゃあ言わせてもらうけど。」
「何?」
「闇がなきゃ光は輝かねぇんだぞ?知ってた?つまりシホがいなきゃ俺は生きてけねぇっつう事だな。」
:09/01/23 23:00 :SH901iC :OVGZkR5U
#630 [ゆーちん]
何が、つまりだよ。
全然つじつま合わないし。
やっぱりちょっとバカなんだ。
そんな人間らしい哲夫の温もりに、涙が止まらなかった。
マスカラを塗る前でよかった。
塗ってたら、黒い涙だって哲夫にバカにされそうだからね。
:09/01/23 23:00 :SH901iC :OVGZkR5U
#631 [ゆーちん]
『これ以上抱きしめていると、歯止めが効かないから。』と笑いながら、私から離れた哲夫。
もっと哲夫の傍に居たかったんだけど…私も化粧の途中だし。
涙を拭いてからマスカラやアイライン、そしてアイシャドーを目に施す。
:09/01/23 23:01 :SH901iC :OVGZkR5U
#632 [ゆーちん]
このメイクは、哲夫に教えてもらった【シホのメイク】だ。
明日、萌子に戻ったら…またあの派手な化粧をしなきゃなんないのかな。
…って、別にそこまで完璧にシホと萌子を切り替えなくてもいいのか。
:09/01/23 23:04 :SH901iC :OVGZkR5U
#633 [ゆーちん]
目の前に迫る運命が近付くと、急に慌ててしまう私は、ただの臆病者だった。
焦っちゃって、恐くなっちゃって…また痛い思いをするのかなと思うと、何もかも投げやりたくなる。
:09/01/23 23:04 :SH901iC :OVGZkR5U
#634 [ゆーちん]
でも違う。
それは間違ってる。
いくら苦しくても、いくら辛くても、いくら恐くても、いくら痛くても…もう逃げちゃいけないんだよ。
【死】に逃げるのは、試合放棄してるって事。
私はまだまだ戦えるんだ。
戦うべきなんだ。
:09/01/23 23:05 :SH901iC :OVGZkR5U
#635 [ゆーちん]
まだ戦ってもいないのに、私は常に【敗退】の覚悟をしたまま、殴られたり蹴られたり…。
それで人生全てを嫌になる。
人間としての楽しさや希望や、光。
そんな素敵なもの全部を自ら手放そうとしていたんだ。
:09/01/23 23:05 :SH901iC :OVGZkR5U
#636 [ゆーちん]
そんな萌子の人生を、哲夫が変えてくれた。
色んな感情を教えてくれて、色んな希望を持たせてくれた人。
【命の恩人】だなんて言葉は一生関係のない言葉だと思っていたけど、今、ここにいる哲夫がそうだ。
そんな言葉が頭に浮かぶ自分にも、その言葉の対象である哲夫にも、【ありがとう】を与えたい。
:09/01/23 23:06 :SH901iC :OVGZkR5U
#637 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽
今日はここまで
>>2▽▲▽▲▽▲▽
:09/01/23 23:06 :SH901iC :OVGZkR5U
#638 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
仲間
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/24 18:17 :SH901iC :JFMqBZYE
#639 [ゆーちん]
二日ぶりの集会も相変わらず寒かった。
風が冷たくて、耳がちぎれんじゃないかってくらい。
だけど、楽しかった。
笑ったり驚いたり。
怪我をしている人もいたけど、いつものような賑やかさだった。
:09/01/24 18:18 :SH901iC :JFMqBZYE
#640 [ゆーちん]
本当に昨日、どんちゃん騒ぎしてきたの?ってくらいみんな穏やかに笑ってるもんだから。
こういう空間に、ずっといれたらいいのにな。
最後の集会とか、そんな事は考えないようにした。
だけど頭の端っこでは気になってたりして、上手く笑えてたのかはわからない。
:09/01/24 18:19 :SH901iC :JFMqBZYE
#641 [ゆーちん]
結局、何も言えずお開きしてしまい、みんなとバイバイした。
哲夫の元に駆け寄り、男の人たちともバイバイする。
集会場所から出て、哲夫に肩を抱かれながらいつもの道を歩く。
と、その時だった。
:09/01/24 18:20 :SH901iC :JFMqBZYE
#642 [ゆーちん]
「シホちゃん!」
そこにいたのは、のんちゃんだった。
「…のんちゃん。どうかした?」
「シホちゃんさぁ、居なくなったりしないよね?」
思わず、のんちゃんから目を反らしてしまった。
「何、言ってるの?」
私、上手く、笑えてる?
「隠さないでよ。今日のシホちゃん、何かおかしかったよ。」
:09/01/24 18:21 :SH901iC :JFMqBZYE
#643 [ゆーちん]
この人には、敵わない。
どうしてそんなに優しいの。
哲夫にしても康孝にしても、のんちゃんにしても。
シホとして出会った人たちは、みんな素敵な人ばかりだ。
:09/01/24 18:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#644 [ゆーちん]
哲夫の顔を見上げると、私を見下ろしながら頷いてくれた。
のんちゃんには、話そう。
ていうか、話しを聞いてもらいたい。
同情とかが欲しいんじゃない。
のんちゃんへの気持ちは、哲夫に話したいって思った時の感情と同じようなもの。
大切な人だからこそ、私を知っていてもらいたい。
:09/01/24 18:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#645 [ゆーちん]
「のんちゃん、ごめん。本当は言うつもりはなかったんだけど、実は‥」
「望実、うち来い。」
いきなり哲夫が言ったその言葉にのんちゃんは驚いていた。
「えっ、いやっ…それは…」
「集会中は人がいっぱいいるからマシだけど、今は3人だ。だからすっげぇ寒い。女は体冷やすなって小学校で習っただろ?」
:09/01/24 18:23 :SH901iC :JFMqBZYE
#646 [ゆーちん]
のんちゃんは遠慮していたけど、哲夫の命令だとすれば話しは別…らしい。
「のんちゃんは哲夫の家に来た事ないの?新人の時に掃除とか。」
「うん。私はそのルールが決まる前からチームに入ってたの。」
:09/01/24 18:24 :SH901iC :JFMqBZYE
#647 [ゆーちん]
と、なると…やっぱり緊張するのかな。
チームのリーダーである哲夫の家に行くという事は。
3人で歩く帰り道は、なんだか違和感たっぷりで…私まで緊張してしまった。
そんな私の肩から手を下ろし、煙草を吸う哲夫だけは平然としていたけどね。
:09/01/24 18:24 :SH901iC :JFMqBZYE
#648 [ゆーちん]
家に着くと、のんちゃんの表情は益々堅くなった。
「失礼しますっ!」
「そんな力まなくても。」
「いや、だって哲夫さんの家だし…」
すると、哲夫は笑いながら言った。
「シホの家でもあるんだぞ。ツレん家に入るだけなのに、そんなカチカチになる必要ねぇよ。」
:09/01/24 18:25 :SH901iC :JFMqBZYE
#649 [ゆーちん]
それを聞いたのんちゃんの表情は、少し緩んだ。
私も、緩んだ。
私の家でもあるんだって、この家。
それって、すごい嬉しい事だよね。
なんだか心がキュンとなる。
「それじゃあ、おっ…お邪魔します!」
:09/01/24 18:26 :SH901iC :JFMqBZYE
#650 [ゆーちん]
「リラックスしてね?そんな緊張されてちゃ、私も緊張しちゃうよ。」
「あっ、うん。そうだよね。」
「何か飲む?」
「ううん、お構いなく!」
「…紅茶でいい?」
「あっ、うん。じゃあ紅茶で。」
どっちだよ、とツッコミたくなるほどだった。
:09/01/24 18:27 :SH901iC :JFMqBZYE
#651 [ゆーちん]
いつものリラックスしたのんちゃんとは別人。
でもなんか、可愛かった。
のんちゃんのそういう性格、好きだな。
「哲夫は?」
「俺はいらなーい。ビール飲む。」
:09/01/24 18:28 :SH901iC :JFMqBZYE
#652 [ゆーちん]
のんちゃんにはソファーに座って待っててもらい、私と哲夫はキッチンに。
哲夫が冷蔵庫を漁りながら、声をあげた。
「望実ぃー!」
ソファーから立ち上がったのんちゃんは、元気な返事をする。
「はいっ!」
:09/01/24 18:29 :SH901iC :JFMqBZYE
#653 [ゆーちん]
「ビール飲むか?」
「いや、私まだ19なんで。」
「あぁ、そ。残念。」
「すみません。ありがとうございます!」
のんちゃん見てると、癒される。
と、同時に感心。
そんな風に尊敬できるような人がいて、緊張とかしちゃって…萌子には無かった事だったから。
:09/01/24 18:29 :SH901iC :JFMqBZYE
#654 [ゆーちん]
上下関係を知らなかった私に、そっと教えてくれたのは、哲夫のチームのおかげ。
あんまり上下関係を気にしないで、ってチームだったから私自体、緊張したり尊敬したりって事はなかったけど、その事実を目の当たりにして、ちょっと感動とかしちゃったし。
:09/01/24 18:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#655 [ゆーちん]
「お待たせ。」
「あっ、ありがとう。」
「砂糖とミルクは?」
「どっちも入れてくれる?」
「OK。」
紅茶を入れ終え、私も哲夫ものんちゃんのいる場所に移動した。
のんちゃんの表情は、玄関にいた時よりほんの少し、緩んだかな。
さて、何から話そうか。
:09/01/24 18:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#656 [ゆーちん]
紅茶を飲む音。
ビールを飲む音。
シンとした部屋。
最初に口を開いたのは、のんちゃんだった。
「美味しい。」
哲夫以外の人に美味しいと言われた。
それがたまらなく嬉しく感じてしまう。
「ありがとう。」
:09/01/24 18:31 :SH901iC :JFMqBZYE
#657 [ゆーちん]
他愛もない事だけど、私には心が奮い立つぐらい幸せな言葉なんだ。
インスタントの紅茶にお湯を入れただけなのに、美味しいって。
社交辞令かもしれないけど、嬉しい。
:09/01/24 18:31 :SH901iC :JFMqBZYE
#658 [ゆーちん]
こんな気持ちをどうやって伝えればいいのかわかんないけど、私なりの言葉で説明しよう。
大丈夫。
シホとしてのタイムリミットは、まだある。
萌子に戻る前に、シホとして、萌子の話をしておきたい。
:09/01/24 18:32 :SH901iC :JFMqBZYE
#659 [ゆーちん]
「今から話す事、上手く伝わらないかもしんない。けど私なりに頑張って伝えるから聞いてね。」
するとのんちゃんは、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。
そのエクボに、何度と心を落ちつかしてもらっただろう。
:09/01/24 18:32 :SH901iC :JFMqBZYE
#660 [ゆーちん]
「私、シホなんかじゃないの。」
「…。」
のんちゃんは、何も言わなかったし、何の反応も見せなかった。
「本当の名前は、金河萌子って言うんだ。」
「…そっか。」
「ごめんなさい。ずっと黙ってて。」
:09/01/24 18:33 :SH901iC :JFMqBZYE
#661 [ゆーちん]
「謝んないで。ていうか名前なんて何だっていいじゃん。あだ名みたいなもんだよ。」
「…うん。」
薄々気付いてたのかもしんない。
驚いているというより、確信を持った表情だったから。
:09/01/24 18:33 :SH901iC :JFMqBZYE
#662 [ゆーちん]
ゆっくりと萌子の話をした。
哲夫にお伽話をした時に、過去を思い出す痛みへの免疫はついたつもりだった。
だけどまだ弱かった。
途中、何度も泣きそうになった。
けど…泣かなかったよ。
泣いてちゃ、のんちゃんに伝えらんないもん。
:09/01/24 18:34 :SH901iC :JFMqBZYE
#663 [ゆーちん]
冷めきった紅茶で何度も喉を潤わせながら、話した。
途中、哲夫にも助けてもらいながら。
「それで私決めたの。明日…っていうか日付的には今日だね。」
「もしかして…」
「うん。萌子に戻るよ。それで、親と話し合ってみる。」
:09/01/24 18:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#664 [ゆーちん]
今までずっと、過去を聞くのを禁じられていた哲夫の仲間であるのんちゃんは、信じられないって顔をしながら萌子の過去を聞いていてくれた。
そのお伽話のクライマックスが、今日でシホを辞めるってもの。
そりゃ、ビックリするよね。
:09/01/24 18:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#665 [ゆーちん]
「すぐ帰って来るんだよね?」
「…わかんない。」
「何で?」
「親と和解できるなら、金河家で暮らすと思う。許せないぐらいムカつく親だけど…何だかんだで、ここまで育ててくれたのは、あの人達だし。」
:09/01/24 18:36 :SH901iC :JFMqBZYE
#666 [ゆーちん]
「育ててくれたって…子供に援交させて金稼ぎさす親なんか最低だよ?」
「うん。わかってる。最低な親だよね。」
「だったらどうして…」
「哲夫が、味方だから。」
「…哲夫さんが?」
:09/01/24 18:36 :SH901iC :JFMqBZYE
#667 [ゆーちん]
ずーっとベットの端に座りながら煙草を吸っていた哲夫。
そう、あの人が味方だから。
「私には哲夫がいるから。生きたいって思うようにもなれた。」
「シホちゃん…」
「殴られて蹴られて半殺しにされて…もし和解できなくても、死のうだなんて考えないようにする。誓うよ。」
:09/01/24 18:37 :SH901iC :JFMqBZYE
#668 [ゆーちん]
「その時はまたシホとしてここで暮らせばいい話。」
哲夫の付け加えのおかげで、話にリアリティが出た。
そっと哲夫に視線を向けると、優しい笑顔で私を見てくれた。
「もし萌子ちゃんに戻っちゃってもさ、絶対遊ぼうね?約束だから。」
:09/01/24 18:38 :SH901iC :JFMqBZYE
#669 [ゆーちん]
ありがとう、と言った。
「私も、ずっとシホちゃんの味方だから。親とか友達に何かされたら、ぶっ飛んでくよ。約束する。」
また、ありがとう、と言った。
感謝しても、しきれない。
:09/01/24 18:38 :SH901iC :JFMqBZYE
#670 [ゆーちん]
「私ら出会って2〜3ヵ月だけど、シホちゃんはマジで大切な仲間だから。」
「…仲間ってものも、萌子じゃわかんなかった。シホになって、仲間の良さを学んだんだよ。」
「私もシホちゃんから学んだ事いっぱいあるよ。」
:09/01/24 18:40 :SH901iC :JFMqBZYE
#671 [ゆーちん]
泣かないって決めたのに、勝手に流れてしまった。
「アハハ。泣き虫シホちゃん。」
「うるさいっ。」
涙が乾いた頃、のんちゃんは帰った。
夜も遅いし、近くまで送り届けた後、哲夫に肩を抱かれて家まで歩いた。
:09/01/24 18:41 :SH901iC :JFMqBZYE
#672 [我輩は匿名である]
シホちゃん大好き
なんだか私の昔の心に
すっごい似てて...
また勇気が持てた(・ω・´)
だから最後まで
頑張って下さい
:09/01/24 19:34 :SH706ie :YP02nN8I
#673 [ゆーちん]
>>672さん
はいっ(>_<)
ありがとうございます
最後まで頑張ります!
:09/01/24 21:18 :SH901iC :JFMqBZYE
#674 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
ご褒美
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/24 21:19 :SH901iC :JFMqBZYE
#675 [ゆーちん]
夜空を見上げた。
今日も星が綺麗だ。
「シホぉ。」
「ん?」
「星だって、暗闇がなきゃ光ってんのに気付いてもらえないんだぞ。」
いきなり、何を言い出したのかと思った。
「シホが自分の事を闇で俺を光りだって言うなら、俺はシホの傍でずっと光っててやるよ。」
:09/01/24 21:20 :SH901iC :JFMqBZYE
#676 [ゆーちん]
言葉にならない感情が込み上げてきた。
この感情を何て呼ぶ?
答えがわからない。
だって、初めての体験だったし。
哲夫と過ごした数ヵ月、私には初めての事だらけだったよ。
:09/01/24 21:21 :SH901iC :JFMqBZYE
#677 [ゆーちん]
また、自分からすがってしまった。
荒っぽいSEXからは、溢れんばかりの愛を感じる。
愛してる人に愛をもらえるなんて、私の人生にはありえない事なんだと思ってた。
「シホ…」
哲夫が色っぽい声で私の名前を呼ぶ。
涙が出そうで鼻が痛くなった。
:09/01/24 21:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#678 [ゆーちん]
シホとして最後に見た夢は覚えていない。
それほど熟睡できたんだ。
安心しながら、心地よく、眠ったんだ。
誰かの温もりを感じながら眠るだなんて、私には贅沢すぎる。
そんな贅沢をさせてくれた哲夫の腕の中で、いつもの時間に自然と目を覚ました。
:09/01/24 21:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#679 [ゆーちん]
ぼーっとしながら、布団の中の温かさと哲夫の体温を楽しむ。
何も考えずに、ただただ布団の中でじっとしていた。
目を開けて眠っていたのかもしれない。
頑張らなきゃって前に進もうとする私がいる。
だけど、もう少し甘えていようよってすがっちゃう自分もいる。
:09/01/24 21:23 :SH901iC :JFMqBZYE
#680 [ゆーちん]
結局、哲夫も目を覚まし、必然的に起きる事になっちゃったけど。
「おはよ。」
「おはよう。」
「んー…便所。」
哲夫が起き上がり、ベットからいなくなると冷気が入ってきた。
なんだか寂しい。
:09/01/24 21:23 :SH901iC :JFMqBZYE
#681 [ゆーちん]
寂しがってる場合じゃない。
明日からは、この温もりは無いのかもしれないし。
いつまでも甘えてるわけにはいかない。
ベットから起き上がり、洗面所で顔を洗う。
目が覚める。
モヤモヤしていた気持ちも、眠気と共に吹き飛ばしてやった。
:09/01/24 21:29 :SH901iC :JFMqBZYE
#682 [ゆーちん]
パジャマを脱ぎ、何を着ようかと悩んでいた時だった。
「おっはー!」
まさかの来客。
康孝だ。
「あ、おはよう。」
「シホちゃん。何で下着姿なわけ?」
康孝が苦笑いする。
:09/01/24 21:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#683 [ゆーちん]
「何着ようかなって。」
すると哲夫が言った。
「着るもの決めてから脱げよ、バカ。」
そう言って、康孝の手に握られていた袋を奪い、そのまま私に手渡した。
「えっ、何これ。」
「ちょうど着るもの悩んでたんだろ?俺からのプレゼント。」
と、康孝が笑った。
:09/01/24 21:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#684 [ゆーちん]
袋の中身を見て、息を飲み込んだ。
「これ…」
私が初めてここに来た時、着ていた服だ。
あんなに汚かったのに、新品のように綺麗。
「私の制服…」
「康がクリーニングに出してくれたんだぞ。」
「ヤッちゃんが?」
「たまには俺だって役に立つだろ?」
:09/01/24 21:31 :SH901iC :JFMqBZYE
#685 [ゆーちん]
舌を出してピースサインをした康孝はバカっぽかった。
幼稚園児以下。
だけどそんな康孝が好きだった。
仲間として、男として、人として、好きだった。
だけどそれは哲夫への【好き】とは、また違う。
人間の感情は、数え切れない。
:09/01/24 21:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#686 [ゆーちん]
「それともう1つプレゼント。」
「え?」
「玄関にツルピカに輝いてるローファーが待ってるぞ。」
康孝の言葉を聞いた私はすぐさま玄関まで走った。
康孝の言う通り。
汚かったローファーが、ピカピカしている。
:09/01/24 21:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#687 [ゆーちん]
驚いていた私を追い掛けて来た康孝が、教えてくれた。
「靴みがき買って来て、みんなで磨いたんだぞ。」
【ありがとう】を何度言えばいいのかわからない。
【嬉しい】を通り越した感情が私を襲う。
「私、何て言ったらいいのか…」
「お礼はいいから早く服着ろ。」
:09/01/24 21:36 :SH901iC :JFMqBZYE
#688 [ゆーちん]
部屋に戻ると哲夫が笑ってた。
「哲夫ぉ、ローファーが…」
「フッ。よかったな。半泣きなってるし。」
「泣いてないよ。もう泣かないって決めたんだから。」
「そ。早く服着ないと風邪ひくぞ。」
「うん。今さっきヤッちゃんにも服着ろって叱られた。」
:09/01/24 21:37 :SH901iC :JFMqBZYE
#689 [ゆーちん]
二人の視線は気にならない。
というか着替える私なんか見ていなかったのかも。
久しぶりに袖を通した制服は、ひんやりしていた。
やけに体にフィットする。
あぁ、私はやっぱり紛れも無い【金河萌子】なんだって実感した。
:09/01/24 21:38 :SH901iC :JFMqBZYE
#690 [ゆーちん]
スカートを短くし、あの日履いてた靴下を引っ張り上げる。
靴下は、クローゼットの下の引き出しの1番奥に潜んでた。
久しぶりに取り出すもんだから、なんだか違和感たっぷりだった。
:09/01/24 21:39 :SH901iC :JFMqBZYE
#691 [ゆーちん]
「ほほぉー。シホちゃんも何だかんだでまだ現役だもんな。やっぱ制服似合うわ。」
康孝がそんな言葉をサラッと言いきると、哲夫に『セクハラかよ。』と笑われていた。
そんな笑ってた哲夫が、小さな声で呟いた。
:09/01/24 21:39 :SH901iC :JFMqBZYE
#692 [ゆーちん]
「懐かしいな。」
康孝も『あぁ。』と私を見ながら懐かしんでいた。
「つい昨日の事みたい。制服着た女が俺のナイフ握って眠ってたんだよな。」
「哲夫の部屋に知らない女子高生がいて、俺すっげぇビックリした。」
:09/01/24 21:40 :SH901iC :JFMqBZYE
#693 [ゆーちん]
「髪も服も化粧もぐちゃぐちゃで汚かったよな。」
「いきなり殺せって要求するし?」
「哲夫に何言われたのか知んねぇけど、次会った時はケロッとした顔だった。」
二人は私を見ながら懐かしそうに昔話を続けた。
:09/01/24 21:42 :SH901iC :JFMqBZYE
#694 [ゆーちん]
色んな感情が混ざりあう。
嬉しいけど、寂しい。
恥ずかしいような、緊張するような。
二人の視線を気にしながらも鏡の前に座り、化粧をし始めた私。
化粧は、哲夫に教えてもらった【シホのメイク】を施した。
:09/01/24 21:42 :SH901iC :JFMqBZYE
#695 [ゆーちん]
髪形だってシホのまま。
この髪形には、この化粧が合うっていうのもあるけど…私は萌子でもあるしシホでもある、って事を示したい意思の現れだったんだと思う。
:09/01/24 21:43 :SH901iC :JFMqBZYE
#696 [ゆーちん]
「できた。」
私の支度ができたのは、目が覚めて2時間程経ってからだった。
「じゃあ行くか。」
哲夫の問いに、私は頷く。
『車で待ってっから。』と言い、康孝が出て行った。
:09/01/24 21:44 :SH901iC :JFMqBZYE
#697 [ゆーちん]
最後に部屋を見渡した。
「ここはシホの部屋だ。お前の居場所はここにもある。」
哲夫にそう言われ、誇らしい気持ちでいっぱいだった。
「うん。」
:09/01/24 21:44 :SH901iC :JFMqBZYE
#698 [ゆーちん]
荷物は何もない。
萌子は手ぶらでここに来たのだから。
何も持たないその手を、哲夫に握ってもらい、家を飛び出した。
今日は冬らしくない気候だった。
暖かい風が私の背を押す。
:09/01/24 21:45 :SH901iC :JFMqBZYE
#699 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込み、後部座席へと座る。
隣には哲夫。
車内は相変わらずうるさくて、首に巻く方でない車のマフラーが低く唸る。
窓の外は、シホのよく知る町並み。
だけど萌子には全く知らない町並み。
この街はシホの生まれた場所だから。
:09/01/24 21:46 :SH901iC :JFMqBZYE
#700 [ゆーちん]
10分もすれば、シホでも萌子でも知らない景色が広がった。
「なぁシホちゃん、こんな事聞いて機嫌悪くしたらごめん。」
「何?」
「どこに住んでたの?」
康孝の質問に、私はひるむ事なく答えた。
すると車内の空気が一転。
:09/01/24 21:50 :SH901iC :JFMqBZYE
#701 [ゆーちん]
何か変な事でも言っただろうか。
哲夫と目が合い、どうしたのかと聞くと苦笑しながら言った。
「駅5つ。」
「え?」
「シホの住んでた場所と、萌子の住んでた場所は、駅5つ隣だって事。」
:09/01/24 21:51 :SH901iC :JFMqBZYE
#702 [ゆーちん]
これには驚いた。
そんなに近かったなんて。
外出なんて滅多になかったから、よその景色を知らない。
家族で出掛ける訳もなく、買い物は近くのスーパー。
援交も学校も付き合ってた彼氏達も、地元か隣街程度。
:09/01/24 21:51 :SH901iC :JFMqBZYE
#703 [ゆーちん]
「そんな…近かったんだ。」
「シホちゃん、いつでも連絡しろ。俺が地元以外の景色いっぱい見せてやっから。」
世間を知らない可哀相な子への同情としての優しさだったとしても、康孝の気遣いは嬉しいものだった。
「うん、ありがとう。」
:09/01/24 21:52 :SH901iC :JFMqBZYE
#704 [ゆーちん]
しばらく走ると康孝が哲夫に声をかけた。
「テッちゃーん、あの倉庫ここら辺だっけ?」
「んー…もう少し先じゃねぇの?」
「わかんねぇし。シホちゃん覚えてる?」
「え?」
「自分がナイフ拾った場所。」
:09/01/24 21:53 :SH901iC :JFMqBZYE
#705 [ゆーちん]
神様が置いてくれた、あのナイフを拾ったのは…どこだったっけ。
もう覚えてないよ。
そもそも、どうやって歩いてったのかもわからない。
「…ごめん。覚えてない。」
「そっか。仕方ねぇ、勘だ!」
そもそも、どうして哲夫はあの場所にナイフを落としたのだろう。
:09/01/24 21:53 :SH901iC :JFMqBZYE
#706 [ゆーちん]
そっと哲夫に聞いてみた。
一応、哲夫だけに聞こえるように声を出したつもりが、車内がうるさいため声を上げなくてはいけない。
自然と康孝の耳にも、声が聞こえてしまったらしい。
「えっ、テッちゃん話してなかったんだ。」
:09/01/24 21:54 :SH901iC :JFMqBZYE
#707 [ゆーちん]
康孝が笑った。
別にそんな複雑な理由がある訳じゃなさそうだ。
だったら聞いてもいいよね?
「そういえば話してなかったな。教えて欲しいか?」
私は頷いた。
:09/01/24 21:55 :SH901iC :JFMqBZYE
#708 [ゆーちん]
「あの日の集会は早く抜けて、康とラーメン食いに行ってたんだよ。」
「ラーメン?」
「そ。美味いラーメン屋ができたって噂聞いて。」
「味はイマイチだったけどな。」
「…それで?」
:09/01/24 21:55 :SH901iC :JFMqBZYE
#709 [ゆーちん]
「その帰りに康がションベンしたくなってさぁ。」
「はぁ?ションベンしたいって騒いだのは哲夫だろ?」
「バーカ。お前だっての。」
「いんや、哲夫だ。」
「どっちだっていいよ。それで?」
「倉庫の近くに草むらがあったから、そこでするかって事で結局2人でションベンした。」
:09/01/24 21:56 :SH901iC :JFMqBZYE
#710 [ゆーちん]
下品な話かもしれないが、私にとっては興味の沸く話だった。
続きを要求する。
「世の中物騒だから、康が護身用に持ってろってナイフくれたんだ。そのナイフは普段持ち歩かないんだけど、あの日はたまたま。それで案の定、倉庫前で落としちまった訳だ。家に帰ってから気付いて、康孝も帰っちまったから俺1人で探しに行ってさ。」
:09/01/24 21:56 :SH901iC :JFMqBZYE
#711 [ゆーちん]
普段は持ち歩かない。
たまたま持っていた。
倉庫前で落とした。
都合のいい解釈をしちゃうと、全て神様からのご褒美だったのかもって思ってしまう。
だって、こんなに私にとって都合のいい事が重なると、そう思っちゃうのも無理ないと思わない?
:09/01/24 21:57 :SH901iC :JFMqBZYE
#712 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽
今日はここまで
>>2▽▲▽▲▽▲▽
:09/01/24 21:57 :SH901iC :JFMqBZYE
#713 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
笑顔
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/25 11:16 :SH901iC :PIdEEYAI
#714 [ゆーちん]
倉庫前に一生到着するな。
…とか、別に思わなかった。
私には味方がいる。
今ならどんな苦しい戦いだろうが自分から噛み付きに行ける勢いだった。
「あっ、ここか。」
康孝はやっと道を思い出してくれたらしく、車の速度を落とした。
:09/01/25 11:16 :SH901iC :PIdEEYAI
#715 [ゆーちん]
見覚えの、あるような…ないような。
そんな倉庫前。
康孝は車のエンジンを切ったけど、私の耳の中は余韻だらけ。
そんなうざったい余韻でさえ、今では心地よかった。
「シホちゃん。」
運転席から、体をひねって後部座席の方を向く康孝。
:09/01/25 11:17 :SH901iC :PIdEEYAI
#716 [ゆーちん]
「俺にとってシホちゃんは妹みたいな奴だったよ。」
最高の笑顔。
やけに幼く見えてしまう、その笑顔が私は大好きだ。
「私も。ヤッちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だった。いっつも運転してくれて、本当ありがとう。」
:09/01/25 11:18 :SH901iC :PIdEEYAI
#717 [ゆーちん]
康孝にはどう見えたかわかんないけど、私なりの最高の笑顔だったと思う。
「お安いご用じゃ!」
髪の毛をグシャグシャに掻き回された。
その手の温もりは、哲夫の温もりとはまた違う暖かさ。
:09/01/25 11:19 :SH901iC :PIdEEYAI
#718 [ゆーちん]
しおらしくなるのは嫌。
だから笑って車を降りた。
哲夫も後に続く。
康孝は降りて来なかった。
「シホ。」
哲夫に肩を抱かれ、私達は歩く。
ずっと無言のまま歩いた。
3度、角を曲がった時、哲夫は口を開いた。
:09/01/25 11:19 :SH901iC :PIdEEYAI
#719 [ゆーちん]
「ここで俺は女子高生を拾った。」
哲夫の視線は、冷たそうな地面だけを捕えていた。
「最初は死んでんだと思った。俺のナイフ握ってたから、すげぇびっくりした。」
「うん。」
「あまりにも汚い女で、何か笑えた。」
:09/01/25 11:20 :SH901iC :PIdEEYAI
#720 [ゆーちん]
哲夫の笑顔。
不思議なことに、それを見れば自然と勇気も沸く。
自分から、哲夫の腕から抜け出した。
「じゃあ、行くね。」
「道わかんのか?」
「何となく思い出せると思う。わかんなかったら誰かに聞くよ。」
:09/01/25 11:20 :SH901iC :PIdEEYAI
#721 [ゆーちん]
「そ。」
「ありがとう。」
【バイバイ】は言わない。
【バイバイ】したくないから。
また、会いたいから。
「シホ。」
「何?」
「いってらっしゃい。」
哲夫は右手をヒラヒラ動かし、私に手を振った。
:09/01/25 11:21 :SH901iC :PIdEEYAI
#722 [ゆーちん]
私も手を振り返す。
「行ってきます。」
【いってらっしゃい】だなんて、哲夫に初めて言われた。
【行ってきます】だって、哲夫に初めて言った。
ちょっと、くすぐったい。
:09/01/25 11:21 :SH901iC :PIdEEYAI
#723 [ゆーちん]
哲夫に背を向け、歩き出した時。
「だぁー!待って!」
拍子抜けしちゃうような、哲夫の声。
足を止め、哲夫の方を向くと何か投げられた。
「落とすな!」
「えっ?」
:09/01/25 11:31 :SH901iC :PIdEEYAI
#724 [ゆーちん]
落とすまいと慌てて掴んだもの。
携帯電話だった。
「…これ。」
「服とか化粧品は置いといてやる。あと箸も。でも携帯電話は携帯って言うぐらいだから、携帯しねぇといけないもんじゃん?」
:09/01/25 11:31 :SH901iC :PIdEEYAI
#725 [ゆーちん]
哲夫、康孝、のんちゃん、チームの女の子達。
萌子の携帯電話より、登録件数は少ないけど、とても純粋な携帯電話だって自分では思う。
「いいの?」
「負けたら電話して来い!ぶっ飛んでってやるから。」
哲夫の笑顔も、最高だ。
:09/01/25 11:32 :SH901iC :PIdEEYAI
#726 [ゆーちん]
涙は見せない。
笑顔を見せるんだ。
「ありがと。」
「次に会う時は、汚い格好で寝転がってんじゃなくて、綺麗な格好で恋人同士として会おうな!」
「うん!」
もう、振り返る事はなかった。
あまり見覚えのない道を堂々と歩いてやった。
:09/01/25 11:32 :SH901iC :PIdEEYAI
#727 [ゆーちん]
しばらく歩くと、すぐに見覚えのある道に出た。
足は自然と金河家に進む。
不思議と、人っこ一人出会わなかった。
目に映る、あの金河家。
吐き気がする。
そんな時は目を閉じて、笑顔を浮かべる。
のんちゃん、康孝、そして哲夫。
:09/01/25 11:33 :SH901iC :PIdEEYAI
#728 [ゆーちん]
よし、行こう。
私は歩くスピードを変えずに、家まで一直線と進んだ。
地獄への扉の鍵は開いたまま。
勢いよく扉を開けて、叫んでやった。
「ただいま!」
:09/01/25 11:34 :SH901iC :PIdEEYAI
#729 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
約束
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/25 11:48 :SH901iC :PIdEEYAI
#730 [ゆーちん]
哲夫と過ごす季節は、いつだって寒い時だ。
11ヵ月ぶりの再会に、緊張などなかった。
ただただ気持ちが跳ね上がるだけ。
銀色だった頭は金色に戻り、1年前、死にきれなかった私を覗き込んだ哲夫を思い出させる。
:09/01/25 11:49 :SH901iC :PIdEEYAI
#731 [ゆーちん]
11ヵ月前、私は戦った。
あの憎々しい親と。
もう殴られるのは懲り懲りだ。
私をストレス発散の道具にするな。
いらないなら私を施設に戻して。
涙を耐えながら訴えた。
:09/01/25 11:49 :SH901iC :PIdEEYAI
#732 [ゆーちん]
私は変わった。
哲夫達のおかげで、生きたいと思うようになった。
けど、変わったのは私だけではなかったようだ。
父は仕事を見つけ、酒を控えては朝から夕方まで毎日働くようになっていた。
母も不倫は辞めたのか続けているのかはわからないけど、毎日家に帰って来る。
:09/01/25 11:50 :SH901iC :PIdEEYAI
#733 [ゆーちん]
引き分けだと思った。
もう殴らない。
苦しめない。
萌子が必要だ。
確かにそう言った。
最初は信じられなかった。
口だけなら、何だって言える。
態度で表してもらうまで、警戒心はとけなかった。
:09/01/25 11:51 :SH901iC :PIdEEYAI
#734 [ゆーちん]
母を信じてもいいのかもしれない、と思ったのは私が萌子に戻って1週間後の事だった。
冬休みがちょうど終わったので、私は康孝にクリーニングしてもらった制服を着て高校にまた通う事にした。
:09/01/25 11:52 :SH901iC :PIdEEYAI
#735 [ゆーちん]
冬休み前から長く休んでいたのだ。
担任に何か色々と聞かれる事だろうと、うんざりしていた。
「…いってきます。」
朝、ぎこちなくリビングを出た。
「萌子。」
「…何?」
母は言った。
「一緒に学校まで行きましょう。ずっと休んでたんだから、先生に説明しないと。」
:09/01/25 11:53 :SH901iC :PIdEEYAI
#736 [ゆーちん]
驚いた。
授業参観なんて来た事もなく、個人懇談さえ嫌がる母が自ら学校に出向くなんて。
私と母は、朝の寒い道を歩いて学校まで進んだ。
ぎこちなく、くすぐったい。
:09/01/25 11:54 :SH901iC :PIdEEYAI
#737 [ゆーちん]
学校に着き、職員室に行く。
担任が私を見て、目を丸くした。
「金河!」
久しぶりにその苗字を呼ばれた。
シホには苗字がなかったから。
「話を聞かせて下さい。こちらへ。」
担任が用意した教室に、3人で入る。
寒く、かび臭い教室。
:09/01/25 11:54 :SH901iC :PIdEEYAI
#738 [ゆーちん]
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」
母が、頭を下げた。
目を疑う。
あの、母が?
「冬休みに入る前から、私が体調を崩してしまい、ずっとこの子が私の面倒を見てくれていたんです。」
「お母様が体調をお崩しで?」
:09/01/25 11:55 :SH901iC :PIdEEYAI
#739 [ゆーちん]
私は黙って、母の話を聞いた。
「はい。学校にも連絡出来なくて本当に、色々とお手数かけて申し訳ありません。」
よくもまぁそんな嘘を。
「いえ、事情があったのなら仕方ないです。また今日から登校してくれるのなら、私達教師側としても嬉しいですからね。」
:09/01/25 11:56 :SH901iC :PIdEEYAI
#740 [ゆーちん]
嘘臭い教師の笑顔を睨んでやった。
心配なんかしなかったくせに。
ただのサボりだと思ってたに違いない。
わざわざ頭を下げる必要なんてないよ、お母さん。
「金河。授業は進んで勉強について行けないかもしれない。そんな時はいつでも先生に相談しなさい。友達だって助けてくれる。」
:09/01/25 11:56 :SH901iC :PIdEEYAI
#741 [ゆーちん]
虫ずが走る。
萌子の友達なんて、何も助けてくれないよ。
話が終わり、担任が職員室に戻った。
「あの嘘、ちゃんと付き合うから。」
それだけ言って、私はさっさと母から離れようと歩き出した。
「あっ、萌子待って。」
足を止め、振り返ると、心臓が跳ね上がる光景が目に飛び込んで来た。
:09/01/25 11:57 :SH901iC :PIdEEYAI
#742 [ゆーちん]
何年ぶりに見ただろう。
「お弁当、持って行きなさい。」
「…ん。」
これが、母からのお詫びのしるしなのだろうか。
ちょっと、泣きそうになった。
【ありがとう】を言うのが嫌で、お弁当を抱きしめ、私は教室までかけてった。
:09/01/25 11:57 :SH901iC :PIdEEYAI
#743 [ゆーちん]
教室に入ると、視線が痛かった。
「萌子じゃ〜ん!」
「マジご無沙汰。」
「生きてたんだ、ウケる〜。」
何か…吐きそう。
また昔の自分に戻りそうで。
「おはよう。」
それだけ言って席に座った。
:09/01/25 11:58 :SH901iC :PIdEEYAI
#744 [ゆーちん]
上辺だけの奴らは、昔と同じように私に寄って来る。
「何でいきなりサボりだしちゃったのぉ〜?」
「別にサボってた訳じゃないよ。」
「いきなり携帯繋がんなくなったし、みんな大騒ぎだったし。」
「お金払ってなくて止まってた。」
「つか、化粧変えた?マジ、ウケんべ。」
「パンダみたいに真っ黒な目、もう流行んないしね。」
:09/01/25 11:59 :SH901iC :PIdEEYAI
#745 [ゆーちん]
「髪も真っ黒だし?」
「黒っていうか、茶色じゃない?私この色気に入ってんの。」
「ふーん。性格もコロッと変わったくない?」
「そう?ありがとう。」
「いきなり連絡途絶えて、もう死んだかと思ってたよ。ギャハハ!」
:09/01/25 12:00 :SH901iC :PIdEEYAI
#746 [ゆーちん]
死んだよ、一回。
外見も内面も変わって、生まれ変わったんだよ。
もう、こんな上辺だけの友達はいらない。
きつい言い方だったかもしれないけど、私は伝えた。
「みんなといると疲れる。もう関わりたくないんだ。」
:09/01/25 12:00 :SH901iC :PIdEEYAI
#747 [ゆーちん]
「…何だそれ。」
「ひどくない?」
「今までずっと仲良くやって来たじゃん。」
仲良く?
どこがだよ。
「ごめん、本気。一緒にいても楽しくないの。一緒にいるなら一人でいる方がマシ。」
:09/01/25 12:01 :SH901iC :PIdEEYAI
#748 [ゆーちん]
ブツブツと文句を言い、私の傍から離れると陰口を叩く。
イジメられたりするのかな?
別に怖いとは思わなかった。
退屈しのぎに調度いい、とさえ思える。
だけど元友達はいじめても来なかった。
:09/01/25 12:02 :SH901iC :PIdEEYAI
#749 [ゆーちん]
私なんかと友達だった事は最初から無かったかのような、そんな接し方。
それでいいよ。
みんなといた時より、なぜか一人でいる方が心が落ち着く。
もう、私には上辺だけの付き合いをする人はいらない。
スッキリした。
:09/01/25 12:03 :SH901iC :PIdEEYAI
#750 [ゆーちん]
母からの初めてのお弁当。
あぁ、信じてみてもいいのかも…そう思った。
料理のしない母が、全て手づくりのおかずを隙間なく詰めてくれていた。
冷凍食品なんかじゃなく、包丁やフライパンを使って作るような、そんなおかずだった。
:09/01/25 12:03 :SH901iC :PIdEEYAI
#751 [ゆーちん]
他の子にしてみちゃ、どうって事ないんだろうけど…私にとっては、これがきっかけで母を信じてみようかと思えたんだ。
そんな昼下がり。
冬晴れした空を見上げ、ちょっとだけ理想の家族像ってのを妄想してしまった。
:09/01/25 12:04 :SH901iC :PIdEEYAI
#752 [ゆーちん]
父を信じてもいいのかもと思ったのは、萌子に戻って1ヵ月程経った時だろうか。
私が作った晩ご飯に、初めて『美味い』と感想を述べてくれた。
他愛もない事が私にとっては嬉しくて、3人揃って色違いの箸を使いながら食事をとるのが奇跡に近かったから。
:09/01/25 12:04 :SH901iC :PIdEEYAI
#753 [ゆーちん]
萌子が死ぬ前に上辺で付き合っていた彼氏とやらは、いつのまにか私以外の彼女がいた。
驚きも、悲しみも、憎しみもない。
だって私にも大好きな彼氏がいるからね。
11ヵ月という月日は矢のように過ぎ、私は18歳になっていた。
彼も23歳になっている。
:09/01/25 12:05 :SH901iC :PIdEEYAI
#754 [ゆーちん]
そういえば宗太郎は元気だろうか。
あの襲撃の時に会った以来、顔も見てない。
連絡なんか取れる訳もなく、複雑な気持ちだけが残っていた。
私にちょっとばかし力をくれた宗太郎。
感謝しないといけないな。
:09/01/25 12:06 :SH901iC :PIdEEYAI
#755 [ゆーちん]
12月。
なぜ11ヵ月もの間会わなかったのか。
理由なんかない。
戦った後、電話で『引き分けかも。』と伝えると『また冬に会おうな。』と言われた。
:09/01/25 12:06 :SH901iC :PIdEEYAI
#756 [ゆーちん]
会いに行けば会ってくれる距離にいたのに11ヵ月もの間、会わなくても私は大丈夫だった。
自惚れだって言われてもいい。
私は見放されないっていう自信が、なぜか満々とあった。
12月の再会には意味があった。
:09/01/25 12:08 :SH901iC :PIdEEYAI
#757 [ゆーちん]
萌子に戻ってからの11ヵ月間、毎日なにかしら忙しかった。
援助交際ではないアルバイトをし、父だけの収入では苦しい家庭を支えた。
高校3年生になり、夏には就職先が決まった。
秋が過ぎ、冬が来る。
本当に早かった。
:09/01/25 12:08 :SH901iC :PIdEEYAI
#758 [ゆーちん]
私の気持ちを親に打ち明けたのは11月の末。
家を出て行きたい。
好きな人と住みたい。
でもたまには家族として、3人で過ごしたい。
答えはOKだった。
私がいなくなった去年の冬、2人は考えてくれたらしい。
:09/01/25 12:09 :SH901iC :PIdEEYAI
#759 [ゆーちん]
萌子にも幸せな人生を歩かせてやりたい、って。
初心に戻って、1からやり直したいって思ったんだって。
信じがたい話だったけど、信じてみようと思った。
もう暴力を振るって来なくなったから。
:09/01/25 12:10 :SH901iC :PIdEEYAI
#760 [ゆーちん]
そんな私の幸せが、家を出て好きな人と暮らす事なら応援すると親は言った。
だけど仕送りを頼まれた。
結局お金かよ、って思ったけど援交してた時の苦痛とか苛立ちは感じなかった。
2人は私の巣立ちを、私は2人への仕送りを承諾し、話はまとまった。
:09/01/25 12:11 :SH901iC :PIdEEYAI
#761 [ゆーちん]
久しぶりにその携帯電話を使う。
ずっと料金は支払われていて、いつでも使える状態にしてくれていた。
「もっしっしー。」
「フフッ。元気そうだね。」
「俺はいつだって元気。」
私の兄のような人の11ヵ月ぶりの声には、何の変わりもなかった。
:09/01/25 12:11 :SH901iC :PIdEEYAI
#762 [ゆーちん]
「あの倉庫に迎えに来てくんないかな?」
「おうよ!」
康孝の威勢のいい返事。
よかった。
私の新たな旅立ちの出だしは好調。
断られたら、そのお伽話は見事に狂っちゃうからね。
:09/01/25 12:12 :SH901iC :PIdEEYAI
#763 [ゆーちん]
「ヤッちゃーん!」
「お久〜!」
相変わらずうるさい車。
康孝も相変わらずで、頭をくしゃくしゃと掻き乱してくる意地悪なところは変わらない。
後部座席に乗り込み、車はシホの家に向かう。
:09/01/25 12:13 :SH901iC :PIdEEYAI
#764 [ゆーちん]
シホに戻った途端、笑顔がどんどん溢れて来る。
そんな車内で、康孝と色んな事を話した。
「髪伸びたなー。」
「専属の美容師がいるから、他の美容師には切って貰わないの。」
「プッ。芸能人かよ。」
「前髪だけは自分で切ってたけど。」
「ふーん。相変わらずパッツン前髪で色も大人しい茶色だな。シホちゃん、って感じ。」
:09/01/25 12:15 :SH901iC :PIdEEYAI
#765 [ゆーちん]
メイクだってシホのまま。
私自身、そんな自分を気に入っていたんだ。
「のんちゃん元気?」
「おー、元気元気。彼氏できたみたいだぞ。」
「うっそぉ!色々聞きたいなぁ。」
「んじゃ早速今日の集会来いよ。また迎えに来てやるから。」
:09/01/25 12:15 :SH901iC :PIdEEYAI
#766 [ゆーちん]
ちょうど車は目的地に到着。
「いいの?」
「遠慮はいらないぞ、マイシスター。」
「英語似合わないね。」
「うるせっ!んじゃまた夕方に。」
「うん。ありがと。」
うるさい車から降りると、康孝は走り去った。
:09/01/25 12:16 :SH901iC :PIdEEYAI
#767 [ゆーちん]
11ヵ月ぶりのもう一つの我が家。
インターホンを押す。
ガチャ…
ドアが開く。
持っていた荷物は思わず手からずり落ち、その手は迷わず前に伸びる。
金髪頭をした笑顔の彼に。
:09/01/25 12:23 :SH901iC :PIdEEYAI
#768 [ゆーちん]
「…哲夫っ。」
「おかえり、シホ。」
「ただいま。」
そのあとしばらく、哲夫の腕の中で泣いたのは言うまでもないよね。
:09/01/25 12:23 :SH901iC :PIdEEYAI
#769 [ゆーちん]
12月のシホの帰宅。
それには1つの約束が関わっていた。
『イルミネーションを飾ろう。来年まで我慢しろ。』
そう、あれは私の我が儘でもあった約束。
家にクリスマスのイルミネーションを飾りたいって言うと、哲夫は来年だと約束してくれた。
その約束が叶えるための12月の帰宅。
:09/01/25 12:24 :SH901iC :PIdEEYAI
#770 [ゆーちん]
「もう電球とかツリーとか買ってあっから、集会行くまでに飾り切っちゃおうか。」
「うん。」
「あっ、でもその前に…」
久しぶりのキスは、煙草の味がやけに濃かった。
だけど幸せなキスだった。
:09/01/25 12:25 :SH901iC :PIdEEYAI
#771 [ゆーちん]
この幸せにたどり着く為に随分辛い思いをしたけど、今なら胸を張って言える。
生きててよかった、って。
END
:09/01/25 12:25 :SH901iC :PIdEEYAI
#772 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
あとがき
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/25 12:26 :SH901iC :PIdEEYAI
#773 [ゆーちん]
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今までのゆーちんの作品と、雰囲気はガラリと違ったんじゃないかなと思います。
テーマが重かった分、合間合間に楽しいシーンを入れようと頑張りましたが、どうだったでしょうかf^_^;
1番の長編作で、自分でもこんなに長くなるなんて思ってませんでした。
:09/01/25 12:27 :SH901iC :PIdEEYAI
#774 [ゆーちん]
もっと簡潔に終わらせたかったんですけど、伝えたい事が次から次へと溢れてしまい、こんな結果に(+_+)
ダラダラと長くなり、何が言いたいのかわからない、って批判があるかもしれません。
実際自分でもわからなくなったりしましたから…。
それは私の力不足なので謝ります(:_;)
すみませんm(__)m
:09/01/25 12:28 :SH901iC :PIdEEYAI
#775 [ゆーちん]
だけど何か1つでも伝わってくれたり、考えてくれたりしてくれると幸いです。
親子関係、友情、恋愛…などなど、みんな何かしら悩みを抱えているはずです。
自殺とか虐待とDVとか…。
私なんかの作品ですが役立てたらな、と思います(>_<)
:09/01/25 12:29 :SH901iC :PIdEEYAI
#776 [ゆーちん]
もっとあとがきで書きたい事があったんですが、約1ヵ月間ダラダラと更新して来て、やっと完結できた喜びに浸ってしまい、何がなんだか(-.-;)笑
また感想やアドバイスなどもいただけると嬉しいです!
:09/01/25 12:30 :SH901iC :PIdEEYAI
#777 [ゆーちん]
では、次に会えるのは【冷たい彼女〔続編〕】だと思うので、その時はまたよろしくお願いします。
長い間応援してくださった読者様、ありがとうございましたm(__)m
>>2:09/01/25 12:31 :SH901iC :PIdEEYAI
#778 [かすみ]
お疲れさまでした(^^)
この小説大好きでした
たくさん大切な何かが得れた気がします!!
ありがとうございました
:09/01/25 13:43 :D905i :☆☆☆
#779 [我輩は匿名である]
お疲れ様でした
毎日更新をのぞいて
読むのが楽しみでした
私にも過呼吸があって
なんだか重なっちゃいました
いつかその後の哲夫達も
読みたいです
:09/01/25 19:31 :F903i :a4cqaN1A
#780 [我輩は匿名である]
いつも仕事終わってからの楽しみにしてました☆この小説読んで人の純粋なやさしさ、思いやり、絆など色々と考えさせられました。本当よかったです☆
お疲れ様でした。また、小説書いてください!
:09/01/25 21:19 :N703imyu :ZPezwmCI
#781 [ゆーちん]
>>778かすみさん
早速の感想ありがとうございます
そう言っていただけると頑張った甲斐あります
これからもよろしくお願いしますm(__)m
:09/01/26 11:37 :SH901iC :/YQU96WE
#782 [ゆーちん]
>>779さん
感想ありがとうございます
実は私も過呼吸になった事あります
あれ、かなりキツイですよね
生き地獄です
笑
続編みたいなのは予定してないんですけど、機会があれば是非
応援ありがとうございました
:09/01/26 11:39 :SH901iC :/YQU96WE
#783 [ゆーちん]
>>780さん
仕事終わりに読んでくださってたなんて…ありがとうございます
不定期更新で申し訳ありませんでした
また新作の方も頑張りますので、よろしくお願いしますm(__)m
:09/01/26 11:40 :SH901iC :/YQU96WE
#784 [ゆーちん]
章ごとに
区切ったアンカーを
記載しておきます(^^)
よかったら
活用してみて下さい
:09/01/26 11:41 :SH901iC :/YQU96WE
#785 [ゆーちん]
:09/01/26 11:42 :SH901iC :/YQU96WE
#786 [ゆーちん]
:09/01/26 11:43 :SH901iC :/YQU96WE
#787 [エ]
主さんおつかれさまでしたイ
またあいましょー(´ω`)
:09/01/27 17:07 :W51CA :flIK6.3A
#788 [我輩は匿名である]
主様お疲れ様でした
この小説大好きで何度も
読み返しました
また機会があれば
萌子と哲夫のその後が
見たいです
次の作品も頑張って下さい
応援してます
:09/01/29 02:51 :SH906i :WNiAcyBg
#789 [我輩は匿名である]
まじ泣けた
主さんありがとう
:09/03/01 21:39 :SH904i :BluT9KQY
#790 [ゆち]
久々に最後まで
飽きんと読んだ!
めちゃ泣いたし
最高でした!ありがとう
:09/03/03 09:08 :D904i :pQoKFu4U
#791 [我輩は匿名である]
めちゃおもしろい
感動です!
:09/03/04 21:22 :SH903i :7oEXHjWo
#792 [我輩は匿名である]
めちゃおもしろい
感動です!
ゆーちんさん大好き
:09/03/04 21:22 :SH903i :7oEXHjWo
#793 [我輩は匿名である]
みんな読んで〜
:09/03/27 08:17 :N903i :ANqnd7Y.
#794 [ユウ]
やっぱりいつ、何を見てもゆーちんさんは凄いです。考え方が変わります。あたしも自殺したいと思ってて、なかなか実行出来なくて、でもしなくてよかったかも。これからも生き方は変わらないけど、いつか素直な自分になりたいです。
:09/03/28 02:29 :F03A :iERJNLWU
#795 [我輩は匿名である]
泣きました
:09/04/03 11:48 :SH904i :hO9VD1pA
#796 [我輩は匿名である]
:09/04/03 13:42 :N905imyu :d21HajVE
#797 [我輩は匿名である]
:09/04/03 14:10 :N905imyu :d21HajVE
#798 [我輩は匿名である]
:09/04/06 17:50 :N903i :mHTjdttY
#799 [我輩は匿名である]
:09/04/06 18:09 :D902i :☆☆☆
#800 [ゆーちん]
:09/04/10 08:55 :SH901iC :MY4.82P2
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