闇の中の光
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#714 [ゆーちん]
倉庫前に一生到着するな。


…とか、別に思わなかった。


私には味方がいる。


今ならどんな苦しい戦いだろうが自分から噛み付きに行ける勢いだった。


「あっ、ここか。」


康孝はやっと道を思い出してくれたらしく、車の速度を落とした。

⏰:09/01/25 11:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#715 [ゆーちん]
見覚えの、あるような…ないような。


そんな倉庫前。


康孝は車のエンジンを切ったけど、私の耳の中は余韻だらけ。


そんなうざったい余韻でさえ、今では心地よかった。


「シホちゃん。」


運転席から、体をひねって後部座席の方を向く康孝。

⏰:09/01/25 11:17 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#716 [ゆーちん]
「俺にとってシホちゃんは妹みたいな奴だったよ。」


最高の笑顔。


やけに幼く見えてしまう、その笑顔が私は大好きだ。


「私も。ヤッちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だった。いっつも運転してくれて、本当ありがとう。」

⏰:09/01/25 11:18 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#717 [ゆーちん]
康孝にはどう見えたかわかんないけど、私なりの最高の笑顔だったと思う。


「お安いご用じゃ!」


髪の毛をグシャグシャに掻き回された。


その手の温もりは、哲夫の温もりとはまた違う暖かさ。

⏰:09/01/25 11:19 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#718 [ゆーちん]
しおらしくなるのは嫌。


だから笑って車を降りた。


哲夫も後に続く。


康孝は降りて来なかった。


「シホ。」


哲夫に肩を抱かれ、私達は歩く。


ずっと無言のまま歩いた。


3度、角を曲がった時、哲夫は口を開いた。

⏰:09/01/25 11:19 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#719 [ゆーちん]
「ここで俺は女子高生を拾った。」


哲夫の視線は、冷たそうな地面だけを捕えていた。


「最初は死んでんだと思った。俺のナイフ握ってたから、すげぇびっくりした。」

「うん。」

「あまりにも汚い女で、何か笑えた。」

⏰:09/01/25 11:20 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#720 [ゆーちん]
哲夫の笑顔。


不思議なことに、それを見れば自然と勇気も沸く。


自分から、哲夫の腕から抜け出した。


「じゃあ、行くね。」

「道わかんのか?」

「何となく思い出せると思う。わかんなかったら誰かに聞くよ。」

⏰:09/01/25 11:20 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#721 [ゆーちん]
「そ。」

「ありがとう。」


【バイバイ】は言わない。


【バイバイ】したくないから。


また、会いたいから。


「シホ。」

「何?」

「いってらっしゃい。」


哲夫は右手をヒラヒラ動かし、私に手を振った。

⏰:09/01/25 11:21 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#722 [ゆーちん]
私も手を振り返す。


「行ってきます。」


【いってらっしゃい】だなんて、哲夫に初めて言われた。


【行ってきます】だって、哲夫に初めて言った。


ちょっと、くすぐったい。

⏰:09/01/25 11:21 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#723 [ゆーちん]
哲夫に背を向け、歩き出した時。


「だぁー!待って!」


拍子抜けしちゃうような、哲夫の声。


足を止め、哲夫の方を向くと何か投げられた。


「落とすな!」

「えっ?」

⏰:09/01/25 11:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#724 [ゆーちん]
落とすまいと慌てて掴んだもの。


携帯電話だった。


「…これ。」

「服とか化粧品は置いといてやる。あと箸も。でも携帯電話は携帯って言うぐらいだから、携帯しねぇといけないもんじゃん?」

⏰:09/01/25 11:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#725 [ゆーちん]
哲夫、康孝、のんちゃん、チームの女の子達。


萌子の携帯電話より、登録件数は少ないけど、とても純粋な携帯電話だって自分では思う。


「いいの?」

「負けたら電話して来い!ぶっ飛んでってやるから。」


哲夫の笑顔も、最高だ。

⏰:09/01/25 11:32 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#726 [ゆーちん]
涙は見せない。


笑顔を見せるんだ。


「ありがと。」

「次に会う時は、汚い格好で寝転がってんじゃなくて、綺麗な格好で恋人同士として会おうな!」

「うん!」


もう、振り返る事はなかった。


あまり見覚えのない道を堂々と歩いてやった。

⏰:09/01/25 11:32 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#727 [ゆーちん]
しばらく歩くと、すぐに見覚えのある道に出た。


足は自然と金河家に進む。


不思議と、人っこ一人出会わなかった。


目に映る、あの金河家。


吐き気がする。


そんな時は目を閉じて、笑顔を浮かべる。


のんちゃん、康孝、そして哲夫。

⏰:09/01/25 11:33 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#728 [ゆーちん]
よし、行こう。


私は歩くスピードを変えずに、家まで一直線と進んだ。


地獄への扉の鍵は開いたまま。


勢いよく扉を開けて、叫んでやった。


「ただいま!」

⏰:09/01/25 11:34 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


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