闇の中の光
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#730 [ゆーちん]
哲夫と過ごす季節は、いつだって寒い時だ。


11ヵ月ぶりの再会に、緊張などなかった。


ただただ気持ちが跳ね上がるだけ。


銀色だった頭は金色に戻り、1年前、死にきれなかった私を覗き込んだ哲夫を思い出させる。

⏰:09/01/25 11:49 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#731 [ゆーちん]
11ヵ月前、私は戦った。


あの憎々しい親と。


もう殴られるのは懲り懲りだ。


私をストレス発散の道具にするな。


いらないなら私を施設に戻して。


涙を耐えながら訴えた。

⏰:09/01/25 11:49 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#732 [ゆーちん]
私は変わった。


哲夫達のおかげで、生きたいと思うようになった。


けど、変わったのは私だけではなかったようだ。


父は仕事を見つけ、酒を控えては朝から夕方まで毎日働くようになっていた。


母も不倫は辞めたのか続けているのかはわからないけど、毎日家に帰って来る。

⏰:09/01/25 11:50 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#733 [ゆーちん]
引き分けだと思った。


もう殴らない。


苦しめない。


萌子が必要だ。


確かにそう言った。


最初は信じられなかった。


口だけなら、何だって言える。


態度で表してもらうまで、警戒心はとけなかった。

⏰:09/01/25 11:51 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#734 [ゆーちん]
母を信じてもいいのかもしれない、と思ったのは私が萌子に戻って1週間後の事だった。


冬休みがちょうど終わったので、私は康孝にクリーニングしてもらった制服を着て高校にまた通う事にした。

⏰:09/01/25 11:52 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#735 [ゆーちん]
冬休み前から長く休んでいたのだ。


担任に何か色々と聞かれる事だろうと、うんざりしていた。


「…いってきます。」


朝、ぎこちなくリビングを出た。


「萌子。」

「…何?」


母は言った。


「一緒に学校まで行きましょう。ずっと休んでたんだから、先生に説明しないと。」

⏰:09/01/25 11:53 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#736 [ゆーちん]
驚いた。


授業参観なんて来た事もなく、個人懇談さえ嫌がる母が自ら学校に出向くなんて。


私と母は、朝の寒い道を歩いて学校まで進んだ。


ぎこちなく、くすぐったい。

⏰:09/01/25 11:54 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#737 [ゆーちん]
学校に着き、職員室に行く。


担任が私を見て、目を丸くした。


「金河!」


久しぶりにその苗字を呼ばれた。


シホには苗字がなかったから。


「話を聞かせて下さい。こちらへ。」


担任が用意した教室に、3人で入る。


寒く、かび臭い教室。

⏰:09/01/25 11:54 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#738 [ゆーちん]
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」


母が、頭を下げた。


目を疑う。


あの、母が?


「冬休みに入る前から、私が体調を崩してしまい、ずっとこの子が私の面倒を見てくれていたんです。」

「お母様が体調をお崩しで?」

⏰:09/01/25 11:55 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#739 [ゆーちん]
私は黙って、母の話を聞いた。


「はい。学校にも連絡出来なくて本当に、色々とお手数かけて申し訳ありません。」


よくもまぁそんな嘘を。


「いえ、事情があったのなら仕方ないです。また今日から登校してくれるのなら、私達教師側としても嬉しいですからね。」

⏰:09/01/25 11:56 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#740 [ゆーちん]
嘘臭い教師の笑顔を睨んでやった。


心配なんかしなかったくせに。


ただのサボりだと思ってたに違いない。


わざわざ頭を下げる必要なんてないよ、お母さん。


「金河。授業は進んで勉強について行けないかもしれない。そんな時はいつでも先生に相談しなさい。友達だって助けてくれる。」

⏰:09/01/25 11:56 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#741 [ゆーちん]
虫ずが走る。


萌子の友達なんて、何も助けてくれないよ。


話が終わり、担任が職員室に戻った。


「あの嘘、ちゃんと付き合うから。」


それだけ言って、私はさっさと母から離れようと歩き出した。


「あっ、萌子待って。」


足を止め、振り返ると、心臓が跳ね上がる光景が目に飛び込んで来た。

⏰:09/01/25 11:57 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#742 [ゆーちん]
何年ぶりに見ただろう。


「お弁当、持って行きなさい。」

「…ん。」


これが、母からのお詫びのしるしなのだろうか。


ちょっと、泣きそうになった。


【ありがとう】を言うのが嫌で、お弁当を抱きしめ、私は教室までかけてった。

⏰:09/01/25 11:57 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#743 [ゆーちん]
教室に入ると、視線が痛かった。


「萌子じゃ〜ん!」

「マジご無沙汰。」

「生きてたんだ、ウケる〜。」


何か…吐きそう。


また昔の自分に戻りそうで。


「おはよう。」


それだけ言って席に座った。

⏰:09/01/25 11:58 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#744 [ゆーちん]
上辺だけの奴らは、昔と同じように私に寄って来る。


「何でいきなりサボりだしちゃったのぉ〜?」

「別にサボってた訳じゃないよ。」

「いきなり携帯繋がんなくなったし、みんな大騒ぎだったし。」

「お金払ってなくて止まってた。」

「つか、化粧変えた?マジ、ウケんべ。」

「パンダみたいに真っ黒な目、もう流行んないしね。」

⏰:09/01/25 11:59 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#745 [ゆーちん]
「髪も真っ黒だし?」

「黒っていうか、茶色じゃない?私この色気に入ってんの。」

「ふーん。性格もコロッと変わったくない?」

「そう?ありがとう。」

「いきなり連絡途絶えて、もう死んだかと思ってたよ。ギャハハ!」

⏰:09/01/25 12:00 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#746 [ゆーちん]
死んだよ、一回。


外見も内面も変わって、生まれ変わったんだよ。


もう、こんな上辺だけの友達はいらない。


きつい言い方だったかもしれないけど、私は伝えた。


「みんなといると疲れる。もう関わりたくないんだ。」

⏰:09/01/25 12:00 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#747 [ゆーちん]
「…何だそれ。」

「ひどくない?」

「今までずっと仲良くやって来たじゃん。」


仲良く?


どこがだよ。


「ごめん、本気。一緒にいても楽しくないの。一緒にいるなら一人でいる方がマシ。」

⏰:09/01/25 12:01 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#748 [ゆーちん]
ブツブツと文句を言い、私の傍から離れると陰口を叩く。


イジメられたりするのかな?


別に怖いとは思わなかった。


退屈しのぎに調度いい、とさえ思える。


だけど元友達はいじめても来なかった。

⏰:09/01/25 12:02 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#749 [ゆーちん]
私なんかと友達だった事は最初から無かったかのような、そんな接し方。


それでいいよ。


みんなといた時より、なぜか一人でいる方が心が落ち着く。


もう、私には上辺だけの付き合いをする人はいらない。


スッキリした。

⏰:09/01/25 12:03 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#750 [ゆーちん]
母からの初めてのお弁当。


あぁ、信じてみてもいいのかも…そう思った。


料理のしない母が、全て手づくりのおかずを隙間なく詰めてくれていた。


冷凍食品なんかじゃなく、包丁やフライパンを使って作るような、そんなおかずだった。

⏰:09/01/25 12:03 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#751 [ゆーちん]
他の子にしてみちゃ、どうって事ないんだろうけど…私にとっては、これがきっかけで母を信じてみようかと思えたんだ。


そんな昼下がり。


冬晴れした空を見上げ、ちょっとだけ理想の家族像ってのを妄想してしまった。

⏰:09/01/25 12:04 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#752 [ゆーちん]
父を信じてもいいのかもと思ったのは、萌子に戻って1ヵ月程経った時だろうか。


私が作った晩ご飯に、初めて『美味い』と感想を述べてくれた。


他愛もない事が私にとっては嬉しくて、3人揃って色違いの箸を使いながら食事をとるのが奇跡に近かったから。

⏰:09/01/25 12:04 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#753 [ゆーちん]
萌子が死ぬ前に上辺で付き合っていた彼氏とやらは、いつのまにか私以外の彼女がいた。


驚きも、悲しみも、憎しみもない。


だって私にも大好きな彼氏がいるからね。


11ヵ月という月日は矢のように過ぎ、私は18歳になっていた。


彼も23歳になっている。

⏰:09/01/25 12:05 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#754 [ゆーちん]
そういえば宗太郎は元気だろうか。


あの襲撃の時に会った以来、顔も見てない。


連絡なんか取れる訳もなく、複雑な気持ちだけが残っていた。


私にちょっとばかし力をくれた宗太郎。


感謝しないといけないな。

⏰:09/01/25 12:06 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#755 [ゆーちん]
12月。


なぜ11ヵ月もの間会わなかったのか。


理由なんかない。


戦った後、電話で『引き分けかも。』と伝えると『また冬に会おうな。』と言われた。

⏰:09/01/25 12:06 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#756 [ゆーちん]
会いに行けば会ってくれる距離にいたのに11ヵ月もの間、会わなくても私は大丈夫だった。


自惚れだって言われてもいい。


私は見放されないっていう自信が、なぜか満々とあった。


12月の再会には意味があった。

⏰:09/01/25 12:08 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#757 [ゆーちん]
萌子に戻ってからの11ヵ月間、毎日なにかしら忙しかった。


援助交際ではないアルバイトをし、父だけの収入では苦しい家庭を支えた。


高校3年生になり、夏には就職先が決まった。


秋が過ぎ、冬が来る。


本当に早かった。

⏰:09/01/25 12:08 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#758 [ゆーちん]
私の気持ちを親に打ち明けたのは11月の末。


家を出て行きたい。


好きな人と住みたい。


でもたまには家族として、3人で過ごしたい。


答えはOKだった。


私がいなくなった去年の冬、2人は考えてくれたらしい。

⏰:09/01/25 12:09 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#759 [ゆーちん]
萌子にも幸せな人生を歩かせてやりたい、って。


初心に戻って、1からやり直したいって思ったんだって。


信じがたい話だったけど、信じてみようと思った。


もう暴力を振るって来なくなったから。

⏰:09/01/25 12:10 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#760 [ゆーちん]
そんな私の幸せが、家を出て好きな人と暮らす事なら応援すると親は言った。


だけど仕送りを頼まれた。


結局お金かよ、って思ったけど援交してた時の苦痛とか苛立ちは感じなかった。


2人は私の巣立ちを、私は2人への仕送りを承諾し、話はまとまった。

⏰:09/01/25 12:11 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#761 [ゆーちん]
久しぶりにその携帯電話を使う。


ずっと料金は支払われていて、いつでも使える状態にしてくれていた。


「もっしっしー。」

「フフッ。元気そうだね。」

「俺はいつだって元気。」


私の兄のような人の11ヵ月ぶりの声には、何の変わりもなかった。

⏰:09/01/25 12:11 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#762 [ゆーちん]
「あの倉庫に迎えに来てくんないかな?」

「おうよ!」


康孝の威勢のいい返事。


よかった。


私の新たな旅立ちの出だしは好調。


断られたら、そのお伽話は見事に狂っちゃうからね。

⏰:09/01/25 12:12 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#763 [ゆーちん]
「ヤッちゃーん!」

「お久〜!」


相変わらずうるさい車。


康孝も相変わらずで、頭をくしゃくしゃと掻き乱してくる意地悪なところは変わらない。


後部座席に乗り込み、車はシホの家に向かう。

⏰:09/01/25 12:13 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#764 [ゆーちん]
シホに戻った途端、笑顔がどんどん溢れて来る。


そんな車内で、康孝と色んな事を話した。


「髪伸びたなー。」

「専属の美容師がいるから、他の美容師には切って貰わないの。」

「プッ。芸能人かよ。」

「前髪だけは自分で切ってたけど。」

「ふーん。相変わらずパッツン前髪で色も大人しい茶色だな。シホちゃん、って感じ。」

⏰:09/01/25 12:15 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#765 [ゆーちん]
メイクだってシホのまま。


私自身、そんな自分を気に入っていたんだ。


「のんちゃん元気?」

「おー、元気元気。彼氏できたみたいだぞ。」

「うっそぉ!色々聞きたいなぁ。」

「んじゃ早速今日の集会来いよ。また迎えに来てやるから。」

⏰:09/01/25 12:15 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#766 [ゆーちん]
ちょうど車は目的地に到着。


「いいの?」

「遠慮はいらないぞ、マイシスター。」

「英語似合わないね。」

「うるせっ!んじゃまた夕方に。」

「うん。ありがと。」


うるさい車から降りると、康孝は走り去った。

⏰:09/01/25 12:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#767 [ゆーちん]
11ヵ月ぶりのもう一つの我が家。


インターホンを押す。


ガチャ…


ドアが開く。


持っていた荷物は思わず手からずり落ち、その手は迷わず前に伸びる。


金髪頭をした笑顔の彼に。

⏰:09/01/25 12:23 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#768 [ゆーちん]
「…哲夫っ。」

「おかえり、シホ。」

「ただいま。」


そのあとしばらく、哲夫の腕の中で泣いたのは言うまでもないよね。

⏰:09/01/25 12:23 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#769 [ゆーちん]
12月のシホの帰宅。


それには1つの約束が関わっていた。


『イルミネーションを飾ろう。来年まで我慢しろ。』


そう、あれは私の我が儘でもあった約束。


家にクリスマスのイルミネーションを飾りたいって言うと、哲夫は来年だと約束してくれた。


その約束が叶えるための12月の帰宅。

⏰:09/01/25 12:24 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#770 [ゆーちん]
「もう電球とかツリーとか買ってあっから、集会行くまでに飾り切っちゃおうか。」

「うん。」

「あっ、でもその前に…」


久しぶりのキスは、煙草の味がやけに濃かった。


だけど幸せなキスだった。

⏰:09/01/25 12:25 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#771 [ゆーちん]
この幸せにたどり着く為に随分辛い思いをしたけど、今なら胸を張って言える。


生きててよかった、って。


END

⏰:09/01/25 12:25 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


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