闇の中の光
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#675 [ゆーちん]
夜空を見上げた。
今日も星が綺麗だ。
「シホぉ。」
「ん?」
「星だって、暗闇がなきゃ光ってんのに気付いてもらえないんだぞ。」
いきなり、何を言い出したのかと思った。
「シホが自分の事を闇で俺を光りだって言うなら、俺はシホの傍でずっと光っててやるよ。」
:09/01/24 21:20 :SH901iC :JFMqBZYE
#676 [ゆーちん]
言葉にならない感情が込み上げてきた。
この感情を何て呼ぶ?
答えがわからない。
だって、初めての体験だったし。
哲夫と過ごした数ヵ月、私には初めての事だらけだったよ。
:09/01/24 21:21 :SH901iC :JFMqBZYE
#677 [ゆーちん]
また、自分からすがってしまった。
荒っぽいSEXからは、溢れんばかりの愛を感じる。
愛してる人に愛をもらえるなんて、私の人生にはありえない事なんだと思ってた。
「シホ…」
哲夫が色っぽい声で私の名前を呼ぶ。
涙が出そうで鼻が痛くなった。
:09/01/24 21:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#678 [ゆーちん]
シホとして最後に見た夢は覚えていない。
それほど熟睡できたんだ。
安心しながら、心地よく、眠ったんだ。
誰かの温もりを感じながら眠るだなんて、私には贅沢すぎる。
そんな贅沢をさせてくれた哲夫の腕の中で、いつもの時間に自然と目を覚ました。
:09/01/24 21:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#679 [ゆーちん]
ぼーっとしながら、布団の中の温かさと哲夫の体温を楽しむ。
何も考えずに、ただただ布団の中でじっとしていた。
目を開けて眠っていたのかもしれない。
頑張らなきゃって前に進もうとする私がいる。
だけど、もう少し甘えていようよってすがっちゃう自分もいる。
:09/01/24 21:23 :SH901iC :JFMqBZYE
#680 [ゆーちん]
結局、哲夫も目を覚まし、必然的に起きる事になっちゃったけど。
「おはよ。」
「おはよう。」
「んー…便所。」
哲夫が起き上がり、ベットからいなくなると冷気が入ってきた。
なんだか寂しい。
:09/01/24 21:23 :SH901iC :JFMqBZYE
#681 [ゆーちん]
寂しがってる場合じゃない。
明日からは、この温もりは無いのかもしれないし。
いつまでも甘えてるわけにはいかない。
ベットから起き上がり、洗面所で顔を洗う。
目が覚める。
モヤモヤしていた気持ちも、眠気と共に吹き飛ばしてやった。
:09/01/24 21:29 :SH901iC :JFMqBZYE
#682 [ゆーちん]
パジャマを脱ぎ、何を着ようかと悩んでいた時だった。
「おっはー!」
まさかの来客。
康孝だ。
「あ、おはよう。」
「シホちゃん。何で下着姿なわけ?」
康孝が苦笑いする。
:09/01/24 21:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#683 [ゆーちん]
「何着ようかなって。」
すると哲夫が言った。
「着るもの決めてから脱げよ、バカ。」
そう言って、康孝の手に握られていた袋を奪い、そのまま私に手渡した。
「えっ、何これ。」
「ちょうど着るもの悩んでたんだろ?俺からのプレゼント。」
と、康孝が笑った。
:09/01/24 21:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#684 [ゆーちん]
袋の中身を見て、息を飲み込んだ。
「これ…」
私が初めてここに来た時、着ていた服だ。
あんなに汚かったのに、新品のように綺麗。
「私の制服…」
「康がクリーニングに出してくれたんだぞ。」
「ヤッちゃんが?」
「たまには俺だって役に立つだろ?」
:09/01/24 21:31 :SH901iC :JFMqBZYE
#685 [ゆーちん]
舌を出してピースサインをした康孝はバカっぽかった。
幼稚園児以下。
だけどそんな康孝が好きだった。
仲間として、男として、人として、好きだった。
だけどそれは哲夫への【好き】とは、また違う。
人間の感情は、数え切れない。
:09/01/24 21:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#686 [ゆーちん]
「それともう1つプレゼント。」
「え?」
「玄関にツルピカに輝いてるローファーが待ってるぞ。」
康孝の言葉を聞いた私はすぐさま玄関まで走った。
康孝の言う通り。
汚かったローファーが、ピカピカしている。
:09/01/24 21:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#687 [ゆーちん]
驚いていた私を追い掛けて来た康孝が、教えてくれた。
「靴みがき買って来て、みんなで磨いたんだぞ。」
【ありがとう】を何度言えばいいのかわからない。
【嬉しい】を通り越した感情が私を襲う。
「私、何て言ったらいいのか…」
「お礼はいいから早く服着ろ。」
:09/01/24 21:36 :SH901iC :JFMqBZYE
#688 [ゆーちん]
部屋に戻ると哲夫が笑ってた。
「哲夫ぉ、ローファーが…」
「フッ。よかったな。半泣きなってるし。」
「泣いてないよ。もう泣かないって決めたんだから。」
「そ。早く服着ないと風邪ひくぞ。」
「うん。今さっきヤッちゃんにも服着ろって叱られた。」
:09/01/24 21:37 :SH901iC :JFMqBZYE
#689 [ゆーちん]
二人の視線は気にならない。
というか着替える私なんか見ていなかったのかも。
久しぶりに袖を通した制服は、ひんやりしていた。
やけに体にフィットする。
あぁ、私はやっぱり紛れも無い【金河萌子】なんだって実感した。
:09/01/24 21:38 :SH901iC :JFMqBZYE
#690 [ゆーちん]
スカートを短くし、あの日履いてた靴下を引っ張り上げる。
靴下は、クローゼットの下の引き出しの1番奥に潜んでた。
久しぶりに取り出すもんだから、なんだか違和感たっぷりだった。
:09/01/24 21:39 :SH901iC :JFMqBZYE
#691 [ゆーちん]
「ほほぉー。シホちゃんも何だかんだでまだ現役だもんな。やっぱ制服似合うわ。」
康孝がそんな言葉をサラッと言いきると、哲夫に『セクハラかよ。』と笑われていた。
そんな笑ってた哲夫が、小さな声で呟いた。
:09/01/24 21:39 :SH901iC :JFMqBZYE
#692 [ゆーちん]
「懐かしいな。」
康孝も『あぁ。』と私を見ながら懐かしんでいた。
「つい昨日の事みたい。制服着た女が俺のナイフ握って眠ってたんだよな。」
「哲夫の部屋に知らない女子高生がいて、俺すっげぇビックリした。」
:09/01/24 21:40 :SH901iC :JFMqBZYE
#693 [ゆーちん]
「髪も服も化粧もぐちゃぐちゃで汚かったよな。」
「いきなり殺せって要求するし?」
「哲夫に何言われたのか知んねぇけど、次会った時はケロッとした顔だった。」
二人は私を見ながら懐かしそうに昔話を続けた。
:09/01/24 21:42 :SH901iC :JFMqBZYE
#694 [ゆーちん]
色んな感情が混ざりあう。
嬉しいけど、寂しい。
恥ずかしいような、緊張するような。
二人の視線を気にしながらも鏡の前に座り、化粧をし始めた私。
化粧は、哲夫に教えてもらった【シホのメイク】を施した。
:09/01/24 21:42 :SH901iC :JFMqBZYE
#695 [ゆーちん]
髪形だってシホのまま。
この髪形には、この化粧が合うっていうのもあるけど…私は萌子でもあるしシホでもある、って事を示したい意思の現れだったんだと思う。
:09/01/24 21:43 :SH901iC :JFMqBZYE
#696 [ゆーちん]
「できた。」
私の支度ができたのは、目が覚めて2時間程経ってからだった。
「じゃあ行くか。」
哲夫の問いに、私は頷く。
『車で待ってっから。』と言い、康孝が出て行った。
:09/01/24 21:44 :SH901iC :JFMqBZYE
#697 [ゆーちん]
最後に部屋を見渡した。
「ここはシホの部屋だ。お前の居場所はここにもある。」
哲夫にそう言われ、誇らしい気持ちでいっぱいだった。
「うん。」
:09/01/24 21:44 :SH901iC :JFMqBZYE
#698 [ゆーちん]
荷物は何もない。
萌子は手ぶらでここに来たのだから。
何も持たないその手を、哲夫に握ってもらい、家を飛び出した。
今日は冬らしくない気候だった。
暖かい風が私の背を押す。
:09/01/24 21:45 :SH901iC :JFMqBZYE
#699 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込み、後部座席へと座る。
隣には哲夫。
車内は相変わらずうるさくて、首に巻く方でない車のマフラーが低く唸る。
窓の外は、シホのよく知る町並み。
だけど萌子には全く知らない町並み。
この街はシホの生まれた場所だから。
:09/01/24 21:46 :SH901iC :JFMqBZYE
#700 [ゆーちん]
10分もすれば、シホでも萌子でも知らない景色が広がった。
「なぁシホちゃん、こんな事聞いて機嫌悪くしたらごめん。」
「何?」
「どこに住んでたの?」
康孝の質問に、私はひるむ事なく答えた。
すると車内の空気が一転。
:09/01/24 21:50 :SH901iC :JFMqBZYE
#701 [ゆーちん]
何か変な事でも言っただろうか。
哲夫と目が合い、どうしたのかと聞くと苦笑しながら言った。
「駅5つ。」
「え?」
「シホの住んでた場所と、萌子の住んでた場所は、駅5つ隣だって事。」
:09/01/24 21:51 :SH901iC :JFMqBZYE
#702 [ゆーちん]
これには驚いた。
そんなに近かったなんて。
外出なんて滅多になかったから、よその景色を知らない。
家族で出掛ける訳もなく、買い物は近くのスーパー。
援交も学校も付き合ってた彼氏達も、地元か隣街程度。
:09/01/24 21:51 :SH901iC :JFMqBZYE
#703 [ゆーちん]
「そんな…近かったんだ。」
「シホちゃん、いつでも連絡しろ。俺が地元以外の景色いっぱい見せてやっから。」
世間を知らない可哀相な子への同情としての優しさだったとしても、康孝の気遣いは嬉しいものだった。
「うん、ありがとう。」
:09/01/24 21:52 :SH901iC :JFMqBZYE
#704 [ゆーちん]
しばらく走ると康孝が哲夫に声をかけた。
「テッちゃーん、あの倉庫ここら辺だっけ?」
「んー…もう少し先じゃねぇの?」
「わかんねぇし。シホちゃん覚えてる?」
「え?」
「自分がナイフ拾った場所。」
:09/01/24 21:53 :SH901iC :JFMqBZYE
#705 [ゆーちん]
神様が置いてくれた、あのナイフを拾ったのは…どこだったっけ。
もう覚えてないよ。
そもそも、どうやって歩いてったのかもわからない。
「…ごめん。覚えてない。」
「そっか。仕方ねぇ、勘だ!」
そもそも、どうして哲夫はあの場所にナイフを落としたのだろう。
:09/01/24 21:53 :SH901iC :JFMqBZYE
#706 [ゆーちん]
そっと哲夫に聞いてみた。
一応、哲夫だけに聞こえるように声を出したつもりが、車内がうるさいため声を上げなくてはいけない。
自然と康孝の耳にも、声が聞こえてしまったらしい。
「えっ、テッちゃん話してなかったんだ。」
:09/01/24 21:54 :SH901iC :JFMqBZYE
#707 [ゆーちん]
康孝が笑った。
別にそんな複雑な理由がある訳じゃなさそうだ。
だったら聞いてもいいよね?
「そういえば話してなかったな。教えて欲しいか?」
私は頷いた。
:09/01/24 21:55 :SH901iC :JFMqBZYE
#708 [ゆーちん]
「あの日の集会は早く抜けて、康とラーメン食いに行ってたんだよ。」
「ラーメン?」
「そ。美味いラーメン屋ができたって噂聞いて。」
「味はイマイチだったけどな。」
「…それで?」
:09/01/24 21:55 :SH901iC :JFMqBZYE
#709 [ゆーちん]
「その帰りに康がションベンしたくなってさぁ。」
「はぁ?ションベンしたいって騒いだのは哲夫だろ?」
「バーカ。お前だっての。」
「いんや、哲夫だ。」
「どっちだっていいよ。それで?」
「倉庫の近くに草むらがあったから、そこでするかって事で結局2人でションベンした。」
:09/01/24 21:56 :SH901iC :JFMqBZYE
#710 [ゆーちん]
下品な話かもしれないが、私にとっては興味の沸く話だった。
続きを要求する。
「世の中物騒だから、康が護身用に持ってろってナイフくれたんだ。そのナイフは普段持ち歩かないんだけど、あの日はたまたま。それで案の定、倉庫前で落としちまった訳だ。家に帰ってから気付いて、康孝も帰っちまったから俺1人で探しに行ってさ。」
:09/01/24 21:56 :SH901iC :JFMqBZYE
#711 [ゆーちん]
普段は持ち歩かない。
たまたま持っていた。
倉庫前で落とした。
都合のいい解釈をしちゃうと、全て神様からのご褒美だったのかもって思ってしまう。
だって、こんなに私にとって都合のいい事が重なると、そう思っちゃうのも無理ないと思わない?
:09/01/24 21:57 :SH901iC :JFMqBZYE
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