闇の中の光
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#301 [ゆーちん]
「家族の特権物ねー…」


哲夫は何かに懐かしんでいた。


気になるけど聞いちゃいけない。


過去は、聞きたくないし聞かれたくない。


そんな関係なんだ、私たち。


「…ダメならいいよ。」

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#302 [ゆーちん]
哲夫の目は現在の光を映し、ニッと笑った。


「ダメじゃねぇよ。欲しけりゃ買ってやる。」

「…うん。」


お箸なんてさ、どうでもいいって思うかもしれないけど、私は思い入れがあるんだ。


いや、正確には私じゃなくて萌子だね。

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#303 [ゆーちん]
萌子は生きる希望や、楽しみなんか全然なかった。


何もいらない。


必要ない。


家族なんかこっちから願い下げだ。


何の夢もない家族。


一緒にいるのも辛い。


だけど…たまに優しかったんだ。

⏰:09/01/05 18:20 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#304 [ゆーちん]
萌子に暴力を振るっていた母も、萌子に暴力を振るう父も…ごくたまに、優しかったんだ。


だから、なかなか見放せなかったんだと思う。


そんなちっぽけな家族も、お箸だけはお揃いだった。

⏰:09/01/05 18:21 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#305 [ゆーちん]
父は青、母は赤、萌子は黄。


同じ形で長さが少しずつ違う、色違いのお箸。


赤と青が揃う事や赤を使う所を見たという事はもう何年もなかった。


青と黄だけが、動いていたんだ。

⏰:09/01/05 18:25 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#306 [ゆーちん]
文句を言いながらでも父は萌子が作った料理を食べてくれた。


あの青い箸で。


それが何だか家族らしくって、それだけが心安らぐ物だった。


こんな気持ち、萌子にしかわかりっこないよね。


哲夫にはわかんないよ、きっと。

⏰:09/01/05 18:27 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#307 [ゆーちん]
「ピンクとグリーン?」

「うん。グリーン嫌?」

「嫌じゃねぇけど…普通、色違いにすんなら赤と青だべ。」


それは、いや。


赤、青、黄は…いや。


「普通なんてつまんない。みんなと違う方がいい。」

「まぁ、それもそうだけど。じゃあピンクとグリーンでいっか。」

⏰:09/01/05 18:28 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#308 [ゆーちん]
哲夫に初めて自分からねだって買ってもらった物。


次の日の昼、さっそく使う事にした。


「つるつる〜。」


割り箸とは違う手触りに、哲夫は子供のように笑ってた。


そんな哲夫を見て、また心のどっかがウズウズした。

⏰:09/01/05 18:29 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#309 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

トラウマ

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/06 17:21 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#310 [ゆーちん]
自殺失敗から1ヵ月以上が経った。


波風立たない生活を過ごしていた私と哲夫。


だけど急に波が荒れた。


風が吹いた。


些細な事がきっかけで、事件が起こった。


私を苦しませた、ちょっとした事件が。

⏰:09/01/06 17:21 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#311 [ゆーちん]
その日もいつものように集会に来ていた。


のんちゃん達と、あの芸能人がカッコイイとか不細工だとか、そんな話をしていた。


他愛もない、楽しい会話。

⏰:09/01/06 17:22 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#312 [ゆーちん]
「殺すぞっ!」


その場に相応しくない言葉が響いたのは、のんちゃん達と笑いあったすぐの事だった。


私たちのグループの隣にいた男の子2人が言い争いを始めた。


じゃれあいなんて日常茶飯事。


だけど、これはじゃれあいなんかじゃない。


…喧嘩だ。

⏰:09/01/06 17:27 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#313 [ゆーちん]
「あぁ?お前もっかい言ってみろ!」

「調子乗ってんじゃねぇぞ、てめぇ!」


初めてチーム内での喧嘩を目の当たりにした。


驚きの次に私を襲ったのは、恐怖だった。


「殺されてぇのか!」

「あぁ?」

⏰:09/01/06 17:27 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#314 [ゆーちん]
その大声と怒鳴り声。


私をシホから萌子に戻させた。


父から受けた虐待が脳裏に浮かぶ。


やめて、怖い。


声を、出さないで。


震える体は、喧嘩している2人の方を向いて動かない。


見たくないのに、目が2人から離れない。

⏰:09/01/06 17:28 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#315 [ゆーちん]
「ちょっと、やめなよー。」


のんちゃんたちが慌てて止めに入る。


が、止められれば止められるほど興奮してしまうのだろう。


声が余計に荒くなった。


「ふざけんな!離せ!」

「お前なんか殺してやるよ!」

⏰:09/01/06 17:31 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#316 [ゆーちん]
私はシホだよ。


萌子じゃない。


暴力なんか振るわれた事ない。


なのに、なんで体が震えんの。


シホには何のトラウマもないじゃない。


トラウマがあるのは萌子だよ。


私は…シホなんだよ?

⏰:09/01/06 17:32 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#317 [ゆーちん]
「いや…やだよ…」


無意識に呟いていた。


恐くて恐くて、息がうまくできない。


「シホちゃん?」


みんなが私の異変に気付いた時には、苦しくて苦しくて息ができなかった。


「助けて…テツ…」

⏰:09/01/06 17:33 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#318 [ゆーちん]
知らないうちに涙も出ていた。


喧嘩する2人と、それを止める人の声。


私を心配する声。


そして…


「おい!シホ!」


哲夫の声も聞こえた。

⏰:09/01/06 23:35 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#319 [ゆーちん]
哲夫の匂いが鼻につく。


近くに来てくれたんだ。


「シホ、おい!どうした?」


駆け付けてくれた哲夫は、私を抱き抱えた。


やっと、やっと目が喧嘩する2人から離れた。


目に映るのは、哲夫の顔だけ。

⏰:09/01/06 23:36 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#320 [ゆーちん]
「テツ…怖い…」

「何?俺が怖いの?」


慌てている哲夫を見たのは初めてで、なんだか余計に涙が出てしまった。


首を横に振る私を見た哲夫は、すぐに喧嘩している2人に言った。

⏰:09/01/06 23:36 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#321 [ゆーちん]
「お前ら、ちょっと静かにしろ。」


哲夫の低くゆっくりした言葉に、さっきまで怒り狂ってた2人は悔しそうに言い合いを辞めた。


一気に、チーム全員の目が私と哲夫に向く。

⏰:09/01/06 23:37 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#322 [ゆーちん]
「康、車出してくれ。」

「おっ、おう。」


私は哲夫に抱っこされ、康孝の車に向かった。


『シホちゃん。』と、のんちゃんたちの声が聞こえたけど、息苦しくて何も言い返せなかった。


何でこんなに苦しいんだろう。


死にそうに、苦しい。

⏰:09/01/06 23:38 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#323 [ゆーちん]
車に乗り込み、哲夫は家まで走らるよう康孝に言った。


うるさい車が走り出す。


「テツ…」


息が、できないんだ。


それすら伝えられない。


名前を呼ぶのに必死。


「シホ…死ぬなよ。」

⏰:09/01/07 15:17 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#324 [ゆーちん]
さっきまで堂々としていた哲夫の表情が一気に弱くなった。


涙でぼやけてよく見えないけど、でも絶対…哲夫は焦っている。


哲夫に迷惑かけている。


「ごめ…ね…」

「いいから。無理に喋んなよ。」

⏰:09/01/07 15:18 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#325 [ゆーちん]
涙が止まらない。


苦しい。


「おい、康。家へ連れて帰るより病院のがいいのか?」

「わかんねぇよ。すげぇ苦しそうだし…もしかして過呼吸じゃね?」


…過呼吸?


あぁ、そうだ。


過呼吸だよ。


萌子の時、よくなったじゃん。


過呼吸なら、対処法はわかる。

⏰:09/01/07 15:19 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#326 [ゆーちん]
「袋…」

「え?」


哲夫に聞き返され、もう一度『袋。』と答えるだけでも苦しい。


「袋なんかねぇよ。康、お前持ってる?」

「ない。」


私は両手を口元にあて、わずかながらも二酸化炭素を吸う努力をした。

⏰:09/01/07 15:20 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#327 [ゆーちん]
「え、何してんだよ。吐きてぇの?」

「哲夫、それたぶん二酸化炭素吸ってんだわ。過呼吸って、体中の二酸化炭素が足りなくて苦しくなる症状だから。」


康孝の説明に、うんうんと頷くと哲夫は不安な顔のまま私を見ていた。

⏰:09/01/07 15:21 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#328 [ゆーちん]
所詮は自分の小さな手の平。


すき間だらけで、二酸化炭素なんて気休め程度。


苦しくて、死にそうだ。


死にたくないなんて思ってしまった私は、愚か者だろうか?

⏰:09/01/07 15:21 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#329 [ゆーちん]
家に到着し、哲夫に抱き抱えられながら車から降りた。


ベットに寝かされ、哲夫は康孝に聞いた。


「袋どこ?」

「はぁ?知らねぇよ!」

「俺、自分んちのこと把握してねぇんだよ。」

「袋ぐらいどこかにあるだろ!」

⏰:09/01/07 15:22 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#330 [ゆーちん]
いざと言う時の男は情けない。


あたふたして…苦しさに襲われている私は、なぜか嬉しくなった。


「哲夫…」

「ほら、呼んでんぞ!」


哲夫と康孝が駆け寄ってくれた。


「シホ、袋どこにあんの?」

⏰:09/01/07 15:23 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#331 [ゆーちん]
哲夫の質問は無視した。


私を覗き込む彼の顔を、必死に手を伸ばし、自分の顔に押し付けた。


「はぁ?」


康孝から見ればいきなりのキス。


私は康孝の目も気にせず、哲夫の口を広げた。

⏰:09/01/07 15:24 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#332 [ゆーちん]
息を送り、また哲夫の口の中の空気を吸う。


哲夫は驚き、唇を離してしまった。


「シホ?いきなりキスとか意味わかんねぇんだけど。しかも舌じゃなくて息入れてくるって、どういう事だよ!」

⏰:09/01/07 15:24 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#333 [ゆーちん]
照れてんのか怒ってんのかわかんないけど、哲夫は笑ってた。


すると康孝はいきなり哲夫の頭を掴み、私に押し当てた。


「わかった!テツ、お前の口が袋変わりだ。キスじゃねぇ。お前が二酸化炭素送り込んでやればいいんだ。」

⏰:09/01/07 15:25 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#334 [ゆーちん]
康孝、バカに見えて頭いいんだ…。


助かった。


哲夫は康孝に言われた通り、息を吐いてくれた。


それは私に二酸化炭素を与えてくれているのと同じで、私を救ってくれる。


しばらくすると涙が止まり、息も落ち着いて来た。

⏰:09/01/07 15:26 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#335 [ゆーちん]
哲夫の口を離し、酸素を吸った。


うん、もう大丈夫かな。


「シホ、もういいのか?」

「うん、ありがと。」


胸を撫で下ろす2人。


「ヤッちゃんも、ありがとうね。」

「どいたま。」


康孝に頭を撫でられ、生きた心地を感じた。

⏰:09/01/07 15:27 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#336 [ゆーちん]
「それにしても康、よく過呼吸なんてわかったな。」

「あぁ、漫画で見たから。」


…なんだ。


漫画が情報源かよ。


でも、その漫画の情報を覚えてくれていたおかげで私は助かった。


ありがとね、康孝。

⏰:09/01/07 15:27 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#337 [ゆーちん]
「そんじゃ、もう大丈夫だろうから俺帰るわ。」


そう言って康孝が帰ったすぐ、家の中の電気は真っ暗に消された。


「哲夫、ごめん。迷惑かけて…」


いつものように私の隣に潜り込み、ベットに寝転がると、哲夫は私を包み込んだ。

⏰:09/01/07 15:28 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#338 [ゆーちん]
「迷惑じゃねぇよ。でもすっげぇ心配した。」

「ごめんなさい。」


哲夫の腕の中はいい匂いで、温かくて、気持ち良い。


「謝るな。俺が悪い。ごめんな。」


哲夫が謝る理由なんか1つもないのに…何で謝ってんの?

⏰:09/01/07 15:29 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#339 [ゆーちん]
「怖かっただろ。ごめん。」


その優しい言葉に、おもわず涙が出そうになった。


うん、怖かったよ。


だけどそんなの素直に言えなくて…ただ黙って、哲夫の腕の中で目を閉じる事しかできなかった。

⏰:09/01/07 15:29 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#340 [ゆーちん]
過呼吸は、萌子の時に何度も経験した。


そのたび、自分で口に袋をあてて対処した。


あんなの慣れっこだったのに、久しぶりだったもんだから。


それにシホとしての過呼吸は初めてで…正直戸惑ったんだ。


自分で自分の事、わかんなくなってきてるかも。


自分が自分を理解できていない…。

⏰:09/01/07 15:32 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#341 [ゆーちん]
あの喧嘩事件から3日後、私は集会に顔を出した。


それまでの2日間は哲夫だけの参加。


顔を出すだけですぐに帰って来てくれた。


久しぶりの集会は、少し緊張した。

⏰:09/01/07 15:33 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#342 [ゆーちん]
「シホちゃん!」

「もう大丈夫?」


みんなの心配が、嬉しかった。


萌子の友達は、心配するっていう言葉を知らない奴らばっかだったから。


「ありがと。もう大丈夫だから。」


のんちゃん達と話していると、『シホさん。』と名前を呼ばれた。


振り返ると、喧嘩していたあの2人がいた。

⏰:09/01/07 15:33 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#343 [ゆーちん]
私が振り向くなり、頭を下げた。


「すみませんでした。」

「金輪際、喧嘩なんかしません。」


え?って顔で遠くにいた哲夫を見ると、ニッと笑っていた。


私は2人に視線を戻し『いえ、大丈夫です。』とだけ答えた。


言い訳や謝罪の言葉が聞こえたが、全部聞き流した。

⏰:09/01/07 15:34 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#344 [ゆーちん]
「許してくれますか?」

「あっ…はい、もちろん。」

「本当すみませんでした。」


もう一度頭を下げてから私の前から去って行った2人。


「あれ?許しちゃったの?」


のんちゃんが言った。

⏰:09/01/07 15:34 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#345 [ゆーちん]
「うん。だって許すも何も、私あの人たちに怒ったりしてないもん。」

「デコピンぐらい喰らわせればよかったのに。」


のんちゃんのエクボを見て、私の顔も緩んだ。


「行こ。」

⏰:09/01/07 15:35 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#346 [ゆーちん]
のんちゃんに手を取られ、みんながいる場所に向かった。


哲夫の手も好きだけど、のんちゃんの手も好き。


人の温もりが心地いいよ。


ねぇ。


ずっとこのままでいたいよ。


それは望んじゃいけないことなのかな?

⏰:09/01/07 15:36 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#347 [我輩は匿名である]
あげますx
頑張ってくださいP

⏰:09/01/07 22:06 📱:W61SA 🆔:kGu8gGvQ


#348 [(´ー`)]
あげあげ
更新楽しみにしてるよー
頑張って(*´∀)ノ

⏰:09/01/10 03:24 📱:SH902iS 🆔:tyjpPZnY


#349 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

age
ありがとう
ございます

不定期更新で
すみません

今から書きます

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/10 22:25 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#350 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

お釣り袋

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/10 22:27 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


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