闇の中の光
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#200 [ゆーちん]
「ここにいて。」
「ここ…って集会?」
「こんな風に集まって、喋ったり騒いだり笑ったり…みんな楽しいのかな?」
「そりゃ楽しいっしょ。だから来てんだし。」
「何が楽しいんだろ。」
「んー、仲間に会えるからじゃね?」
「仲間?」
:09/01/01 20:49 :SH901iC :XAv2cR7M
#201 [ゆーちん]
康孝は煙草に火をつけた。
「ここならきっとシホちゃんにも仲間が出来ると思うよ。」
「上辺だけの仲間じゃなくって本当の仲間がいい。」
「おう、できるできる。そもそも上辺だけの奴なんて仲間って言わないからさ。」
:09/01/01 20:50 :SH901iC :XAv2cR7M
#202 [ゆーちん]
康孝の言葉に励まされたのは予想外だった。
ちょっとバカっぽいのに、なぜか私に勇気をくれた。
萌子の時には作れなかった本当の仲間を作りたい。
そう思ってしまうのは贅沢なのかな?
いいんだよね、私、普通の人生を過ごしても。
:09/01/01 20:50 :SH901iC :XAv2cR7M
#203 [ゆーちん]
「でも、いつ終わるかわからない人生だから…やっぱり仲間なんかいらないのかも。」
「何で?別に明日終わろうが今終わろうが仲間を作っちゃいけないなんてルールないよ。」
「そうだけど。」
「哲夫はシホちゃんを殺したりしないよ。」
:09/01/01 20:51 :SH901iC :XAv2cR7M
#204 [ゆーちん]
ぽんぽんと灰を地面に落とした康孝。
「…何で言い切れるの?私に飽きたらいつでも殺すって約束だもん。」
「殺す相手に服なんか与えないし、みんなに紹介しないっしょ。」
康孝が笑った。
なぜか安心した。
私、殺されないで済むの?って。
:09/01/01 20:51 :SH901iC :XAv2cR7M
#205 [ゆーちん]
死にたかったはずなのに、たった2日で気持ちが変わった。
たった1人の男の存在で気持ちが変わった。
出来ることなら、死なずにいたい。
このまま哲夫のペットでいたいんだ。
「根性ないなぁ…。」
「ほえ?何が?」
「ううん。独り言。」
:09/01/01 20:52 :SH901iC :XAv2cR7M
#206 [ゆーちん]
生きたいと願ってしまっていることが情けない。
もし昨日死んでいたのなら、あそこにいる哲夫の笑顔を見て、ちょっと心が温まるというような気持ちに襲われる事はなかったんだろうな。
それにー仲間を作りたいとも思わなかったのかもね。
:09/01/01 20:53 :SH901iC :XAv2cR7M
#207 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽
リズム
▽▲▽▲▽▲▽
:09/01/01 21:00 :SH901iC :XAv2cR7M
#208 [ゆーちん]
「シホ、お待たせ。」
哲夫が戻って来ると康孝はどこかに行ってしまった。
「康と何話してたの?」
私の隣に腰を降ろす哲夫。
「仲間を作るってどういう事なのかな、って思って。」
「…。」
:09/01/01 21:00 :SH901iC :XAv2cR7M
#209 [ゆーちん]
「私、仲間とか友達とか…そういうの苦手だから。」
しばらく黙り込んだ哲夫。
煙草に火をつけ、一口吸ってからゆっくり白い息を吐き出すと、低い声で話してくれた。
「ここにいる奴らはさ、みんな何かしら訳有りが多いんだ。同情っつーか傷の舐め合いだって言われるかもしんないけど、俺には必要な存在。」
:09/01/01 21:01 :SH901iC :XAv2cR7M
#210 [ゆーちん]
必要な存在って何だろう。
私にはまだわからない。
萌子の場合、必要な存在はいなかった。
両親、友達、彼氏…どれも必要ではなかった。
むしろ不必要。
無くなればいいと何度も思った。
:09/01/01 21:02 :SH901iC :XAv2cR7M
#211 [ゆーちん]
だからまだ、その必要な存在って意味がわからない。
「そうなんだ。」
「シホもいつかわかるから。慌てなくてもいいぞ。」
何かを悟ってくれたのだろうか。
深入りしてくれないところが有り難いんだ。
さすがリーダーしてるだけある。
人の心を読むのが上手いのだろう。
:09/01/01 21:02 :SH901iC :XAv2cR7M
#212 [ゆーちん]
「帰るか。」
「え、もう?」
「まだいたいのか?」
「別にそんなんじゃないけど。」
「今日は何もトラブルとかなかったから俺がいてもいなくても、どっちでもいいし。帰りたい奴は帰るんだよ。」
「ふーん。じゃあ帰る。寒い。」
:09/01/01 21:03 :SH901iC :XAv2cR7M
#213 [ゆーちん]
哲夫は立ち上がり、『だったらもっと着込んで来いよ。』と笑った。
哲夫が歩き始めたので私も立ち上がり、彼の後を追った。
「康、俺ら帰るわ。」
哲夫が康孝にそう告げると、康孝が頷き、またみんなの方を向いて声を張り上げた。
「テッちゃん帰るって!」
:09/01/01 21:03 :SH901iC :XAv2cR7M
#214 [ゆーちん]
すると、その康孝の一言に、あれだけ騒がしかった場内は一気に同じ事を言い出した。
「お疲れ様でした!」
哲夫は『はーい、じゃあお先に。』とだけ答えた。
「シホ、おいで。」
呆気に取られていた私は、みんなを見ていた。
置いて行かれちゃたまらない。
:09/01/01 21:04 :SH901iC :XAv2cR7M
#215 [ゆーちん]
哲夫の声に素早く反応した私は、慌てて哲夫の元に駆け寄った。
「ほい。」
哲夫が着ていた上着が私の体を包む。
「テツ寒くないの?」
「男の子だもん。」
「ふーん。」
「ありがとうぐらい言え。」
「頼んでないよ。」
「生意気小娘。」
:09/01/01 21:05 :SH901iC :XAv2cR7M
#216 [ゆーちん]
哲夫の上着が温かい。
そのうえ肩を抱かれたので、もっと温かかった。
帰り道、私はたくさん笑った気がする。
家に戻ると哲夫は冷蔵庫からビールを取り出した。
「飲むか?」
「…飲んだ事ない。」
:09/01/01 21:06 :SH901iC :XAv2cR7M
#217 [ゆーちん]
「お子ちゃまだなぁ。俺のビールデビューなんて12才だぞ?」
「12才?」
「おうよ。中1の時、先輩に無理矢理飲まされて吐いたのが、俺の華々しいビールデビュー秘話だ。」
「フフッ…バカだ。」
コップに注いだビールを一気に飲み干した哲夫を見て、自然に口が動いていた。
:09/01/01 21:07 :SH901iC :XAv2cR7M
#218 [ゆーちん]
「美味しい?」
「おう!」
「美味しそうに飲むね。」
「だって本当に美味いし。飲んでみっか?」
「いい、いらない。」
「そ。」
哲夫がビールを飲む。
それは構わない。
だけど自分は飲みたくない。
まだ、恐いんだ。
:09/01/01 21:08 :SH901iC :XAv2cR7M
#219 [ゆーちん]
私はシホだけど、元は萌子だから。
萌子の時に恐かったものはシホになっても恐かった。
恐怖心が取れない。
ビールを飲むと機嫌が悪くなる、父と母の恐さが、未だに私を苦しめた。
:09/01/01 21:08 :SH901iC :XAv2cR7M
#220 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
ではまた
>>2▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/01 21:09 :SH901iC :XAv2cR7M
#221 [ゆーちん]
哲夫はビールを飲んでも酔わなかった。
よかった。
誰かが酔う姿は好きじゃないから。
「んー、眠い。」
「お風呂は?」
「朝入る。」
:09/01/03 21:36 :SH901iC :diob1dTs
#222 [ゆーちん]
「私、化粧落としてくる。」
「あいよ。」
ベットに倒れ込んだ哲夫を置いて、私は洗面所に向かう。
化粧を落としてから部屋に戻ると、哲夫はいびきをかいていた。
服を脱ぎ、パジャマに着替える。
哲夫の眠る隣に潜り、うるさいいびきを聞きながら、私は眠りについた。
:09/01/03 21:37 :SH901iC :diob1dTs
#223 [ゆーちん]
翌日は約束通り美容院に行って、カラーリングをしてもらった。
落ち着いたブラウンに染まった私の髪を何度も何度も哲夫は撫でてくれた。
その日は集会に行かず、留守番をした。
そのまた翌日は、眠る哲夫を起こさないよう朝から家事をして、昼前に起きた哲夫と一緒にお風呂に入る。
:09/01/03 21:38 :SH901iC :diob1dTs
#224 [ゆーちん]
ご飯を食べ、夕方までのんびり過ごし、集会に向かう哲夫を見送った。
なぜ集会に行かないのか。
別に具体的な理由はなかった。
仲間は欲しいけど慌てなくていいって哲夫が言ってくれたから。
だから行きたい時に行く。
それでいいんだよね?
:09/01/03 21:39 :SH901iC :diob1dTs
#225 [ゆーちん]
シホになってちょうど1週間が経った。
「久しぶりに集会行ってもいい?」
私の質問に哲夫は笑って答えた。
「温かい格好してけよ。」
私の顔も自然と綻んだ。
この前のように肩を抱かれ、私たちは集会場所に向かう。
:09/01/03 21:40 :SH901iC :diob1dTs
#226 [ゆーちん]
到着した途端、哲夫への挨拶が飛び交った。
康孝が声を張り上げる。
報告者が手を挙げる。
私は黙って座っていた。
30分程すれば集会が終わり、また賑やかになった。
すると、隣から哲夫と康孝以外の声が初めて私の名前を呼んだ。
「シホさん。」
:09/01/03 21:41 :SH901iC :diob1dTs
#227 [ゆーちん]
振り向くと女の子がいた。
「はい。」
「あの、よかったらあっちで話しませんか?」
「私と?」
「ダメなら結構ですけど…」
「あ、いや…ダメじゃないですけど…」
戸惑う私に隣にいた哲夫が助け船を出してくれた。
「人見知りするけど、シホよろしくね。」
:09/01/03 21:42 :SH901iC :diob1dTs
#228 [ゆーちん]
哲夫に私を頼まれた女の子は『はい!』と笑った。
「行っていいの?」
私が問うと、哲夫は『もちろん。』と答えた。
「行きましょうシホさん。」
「…はい。」
戸惑いながらも、立ち上がり、その女の子の後をついて行った。
:09/01/03 21:43 :SH901iC :diob1dTs
#229 [ゆーちん]
1時間後、私は私を恥じていた。
いや、正確には…私は萌子に恥じていた、だ。
どうして友達の作り方を知らなかったんだろう。
どうして仲間の素晴らしさを知らなかったんだろう。
今まで、仲間がこんな素敵な事を知らなかったなんて。
萌子に、腹がたった。
:09/01/03 21:43 :SH901iC :diob1dTs
#230 [ゆーちん]
打って変わって、シホを、好きになった。
初めて出来た仲間。
無理に笑わなくていい会話。
ありのまま、楽にいられる居場所。
他愛もない会話だったけど、楽しかった、心から。
:09/01/03 21:44 :SH901iC :diob1dTs
#231 [ゆーちん]
時間を忘れ、たくさんの話をした。
ほとんどはみんなが話のを聞いていただけだったけど、夢中になって話を聞いたし、心から笑ったりもした。
感情があるって素晴らしい事だと思う。
仲間がいるって有り難い事だと思う。
:09/01/03 21:45 :SH901iC :diob1dTs
#232 [ゆーちん]
「シホさんはそういうムカつく店員に会った事ありますかぁ?」
「ありますよ。でも私はムカついても何も言えないんですよね。」
「マジっすか?そこはガツンと言っちゃいましょうよ〜。」
なんて、盛り上がってると私の後ろから哲夫の声がした。
:09/01/03 21:45 :SH901iC :diob1dTs
#233 [ゆーちん]
「楽しそうだね。」
みんなの顔がちょっと強張った。
「哲夫さん。」
「敬語同士で盛り上がるのも珍しいけどな。」
「いや、だってやっぱ哲夫さんの彼女だと気使っちゃいますよ。」
「別に気にしなくていいのに、なぁシホ。」
:09/01/03 21:46 :SH901iC :diob1dTs
#234 [ゆーちん]
哲夫に話を振られた私は大きく頷いた。
「みんなの方が年上だし、私に敬語なんか使わなくていいですから。」
「えっ、だったらシホさんも私らなんかに敬語なんかしないで下さいよ。仲良くやりましょう。」
:09/01/03 21:47 :SH901iC :diob1dTs
#235 [ゆーちん]
哲夫は『よかったな、シホ。怖いお姉さん達と仲良くなれて。』と言うと、みんなが笑った。
「怖くないよ、シホさん。うちらめちゃめちゃ優しいから。」
「シホさんはおかしくない?シホちゃんって呼ばせてもらおうよ。」
「あ、そうだね。いいかな、シホちゃんで。」
「うん。」
:09/01/03 21:48 :SH901iC :diob1dTs
#236 [ゆーちん]
敬語で会話していたのに、急にため口になってなんだか違和感があったけど、しばらくすれば気にもならなくなった。
いつの間にか哲夫は私の後ろからいなくなっていて、再び哲夫に会ったのは解散の時だった。
:09/01/03 21:48 :SH901iC :diob1dTs
#237 [ゆーちん]
「じゃあねシホちゃん。」
「また語ろうね!」
「今度は私の幼稚園時代の武勇伝、聞かせてあげるよぉ。」
みんなが私に手を振る。
「うん、バイバイ。」
私もみんなに手を振った。
哲夫の近くにいたせいか、みんなは手を振った後に頭を軽く下げた。
:09/01/03 21:50 :SH901iC :diob1dTs
#238 [ゆーちん]
「帰りますかシホさん。」
「うん。」
「寒くない?」
「今日は大丈夫。」
「そ。」
肩を抱かれ、帰ろうとする哲夫と私に、残っていた人たちが『お疲れ様っす!』と叫んだ。
哲夫は振り向きもせず手を上げただけだった。
:09/01/03 21:51 :SH901iC :diob1dTs
#239 [ゆーちん]
「楽しかった?」
「うん。」
「わかってきた?仲間の意味。」
「…うーん。」
「まぁそんな簡単にわかるわけないか。ゆっくりでいいからな。また行きたい時に行けばいいよ。」
「うん。」
家につくと日付はとっくに変わっていて、もうすぐ鳥が鳴き始めるような時間だった。
:09/01/03 21:52 :SH901iC :diob1dTs
#240 [ゆーちん]
「長居しすぎた。俺いつもはもうちょっと早く帰るんだよ。」
「そうなんだ。」
「シホは寝てるから知らないよな、俺が帰って来る時間なんて。」
「うん、知らない。」
なんて事を話しながら、私たちは眠りについた。
:09/01/03 21:53 :SH901iC :diob1dTs
#241 [ゆーちん]
私が2回目の集会に行ってから、また一週間が経った。
最近、ようやく生活リズムが出来てきた。
朝、哲夫を起こさないようにベットから抜け出し、洗濯や掃除、昼食の準備をする。
:09/01/03 21:54 :SH901iC :diob1dTs
#242 [ゆーちん]
哲夫が起きてくると一緒にお風呂へ入る。
お風呂から出て、遅めの昼食。
昼食を食べ終えてからの事は、日によってバラバラ。
のんびりと部屋で過ごす事もあれば、買い物行く事もある。
そして夕方、哲夫は私の頬にキスをしてから集会に出掛ける。
私は行かない。
:09/01/03 21:54 :SH901iC :diob1dTs
#243 [ゆーちん]
集会に行かない理由は、特になかった。
この前、私に話し掛けてくれた人たちとも話したいとは思うけど…まだ怖かったんだ。
仲良くなればなるほど、上辺だけだってわかった時の傷はもう付けたくない。
あそこにいるみんなは、上辺だけで近付いてるんじゃないって言ってくれるかもしんない。
:09/01/03 21:56 :SH901iC :diob1dTs
#244 [ゆーちん]
有り難いんだけど、やっぱりまだ怖いんだ。
だから気分がいい時だけ、集会に行く事にした。
哲夫が集会に行き、一人になると残りの家事を済ます。
で、眠くなれば寝る。
起きると哲夫に抱きしめられている。
そんな毎日だった。
:09/01/03 21:56 :SH901iC :diob1dTs
#245 [ゆーちん]
ある朝…じゃなくて、お昼か。
眠そうな顔で起きてきた哲夫は、煙草を吸いながら言った。
「望実がシホに会いたいってさ。」
「…のんちゃん?」
哲夫が言う【望実】と、私が言う【のんちゃん】は同一人物。
:09/01/03 21:58 :SH901iC :diob1dTs
#246 [ゆーちん]
【望実】のあだ名が【のんちゃん】ってわけ。
この前、私に初めて話し掛けてくれた子。
私より2つ年上で、エクボの可愛い女の子。
もしかしたら…仲良くなれるかもしれない子。
「また調子いい時でいいからさ、一度顔出してやったら?」
「うん、そうだね。」
:09/01/03 21:59 :SH901iC :diob1dTs
#247 [ゆーちん]
煙草を消し、立ち上がる時に私の頭を撫でてくれた哲夫。
「慌てんな。」
「…うん。」
わかってる。
慌ててなんかない。
怖くて、一歩足りとも踏み出せないだけ。
だけどそれじゃだめなんだ。
:09/01/03 22:00 :SH901iC :diob1dTs
#248 [ゆーちん]
踏み出さないと始まんない。
「風呂入るか。」
一日の始まりはお風呂から。
今日も哲夫は、後ろから抱きしめてくれる。
「哲夫。」
「何?」
「今日行ってもいい?」
「集会?」
「うん。」
のんちゃんの、私に会いたいと言ってくれた言葉をきっかけに、一歩踏み出そうと思う。
:09/01/03 22:00 :SH901iC :diob1dTs
#249 [ゆーちん]
哲夫は快く了解してくれた。
お風呂から上がり、出掛ける準備をする。
髪形、化粧、服装。
みるみる変身していく自分を見るのが楽しかった。
落ち着いた色の髪と、ナチュラルなメイク、それに派手すぎない服装。
何だかんだで私はシホを気に入っていた。
:09/01/03 22:01 :SH901iC :diob1dTs
#250 [ゆーちん]
準備が終わり、残りの家事を済ませてから家を出た。
この前より、夜道が寒かった。
だから、この前より肩をきつく抱きしめてもらった。
人の温もりが心地いい。
哲夫の温もりが私に伝わって来た頃、集会場所に到着した。
:09/01/03 22:02 :SH901iC :diob1dTs
#251 [ゆーちん]
「お疲れ様っす!」
哲夫への挨拶が飛び交う。
その挨拶の中に、女の子の声が混じった。
「シホちゃん!」
声の主は探さなくても、向こうから近付いて来てくれた。
のんちゃんだ。
:09/01/03 22:20 :SH901iC :diob1dTs
#252 [ゆーちん]
「久しぶり〜!」
元気なシホちゃんの声と笑顔が、私を抱きしめた。
女の子に抱きしめられた事なんかなかったから、ちょっとビックリ。
「のんちゃん?」
「元気だった?超会いたかったよぉ!」
「あ、うん。のんちゃんも元気だった?」
「やや風邪ぎみ〜。でも余裕だよ?風邪なんかに負けてんないし!」
:09/01/03 22:20 :SH901iC :diob1dTs
#253 [ゆーちん]
のんちゃんの歓迎に驚きつつも、普通に嬉しかった。
私と会う事が、そんなに喜んでもらえるの?って。
「シホ、今から報告ばっかでつまんねぇだろうから望実たちと座ってろ。」
康孝たちと喋っていた哲夫が私の傍に来て言った。
:09/01/03 22:22 :SH901iC :diob1dTs
#254 [ゆーちん]
「あっ、哲夫さん。お疲れ様です。」
のんちゃんが挨拶すると、哲夫は『お疲れさん。』と言う。
「いいの?」
私が聞くと哲夫は頷いた。
「じゃあシホちゃん、あっち行こうよ。みんな待ってるし!」
「うん。」
そういう訳で、私はのんちゃんに手を引かれ、哲夫の傍から離れた。
:09/01/03 22:22 :SH901iC :diob1dTs
#255 [ゆーちん]
「シホちゃんだ!」
「久しぶり〜!」
「元気してた?」
そこにいた他の女の子たちは、みんな笑顔で私を受け入れてくれた。
集会が始まるまで、みんなで他愛もない話をする。
:09/01/03 22:23 :SH901iC :diob1dTs
#256 [ゆーちん]
「あーい、注目!」
康孝の声で、みんなは一気に静まり返る。
手を挙げて報告する人の話を聞く時間。
私には関係ないから、黙って座っている。
いつものように30分もすれば集会は終わる。
ここからは帰りたい人は帰ればいいって感じらしく、何人かは帰って行く。
:09/01/03 22:24 :SH901iC :diob1dTs
#257 [ゆーちん]
「のんちゃん達は帰らないの?」
私が聞くと、みんなは『帰る訳ないじゃん!』といった感じで笑っていた。
「せっかくシホちゃんに会えんのに、帰るの勿体ないし!」
「つーか帰っても暇だし。」
「みんなといる方が楽しいじゃん?」
:09/01/03 22:25 :SH901iC :diob1dTs
#258 [ゆーちん]
驚いた。
そんな答えが返ってくるなんてさ。「そっかぁ。」
「でも用があるときは集会終わったら嫌々帰るよ?」
「まぁでもウチらに用なんて滅多にないけどねぇ!」
笑い声のあとに、また違う話で盛り上がる。
この前よりも楽しい時間だった。
:09/01/03 22:25 :SH901iC :diob1dTs
#259 [ゆーちん]
「また来てよ?」
解散の時間になった。
「バイバイ。」
のんちゃん達ともさよならして、私は哲夫に肩を抱かれながら帰る。
「ねぇ哲夫。」
「ん?」
:09/01/03 22:28 :SH901iC :diob1dTs
#260 [ゆーちん]
「明日も集会来る。」
やっと一歩だけ進めた気がする。
「おう。」
哲夫の笑顔を見ると、明日も来たいと思う願望は、間違いなどではないんだと安心できる。
家に帰り、共に眠る。
これからは生活リズムをまた少し変えないとな。
:09/01/03 22:29 :SH901iC :diob1dTs
#261 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽
感想など
よろしくお願いします
>>2ではまた
▽▲▽▲▽▲▽
:09/01/03 22:30 :SH901iC :diob1dTs
#262 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
看病
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/04 22:18 :SH901iC :bKxDy5AQ
#263 [ゆーちん]
自殺失敗から1ヵ月。
ここ最近、毎晩のように集会に顔を出すようになったせいか肌荒れするようになった。
『夜更かしごときでニキビなんて、シホもまだまだガキだな。』と哲夫に笑われた。
腹なんか立たない。
哲夫が笑っていると、なんだか嬉しくなれたから。
:09/01/04 22:18 :SH901iC :bKxDy5AQ
#264 [ゆーちん]
「行くぞ、シホ。」
「うん。」
今日も集会に向かう。
とても寒い夜だった。
「あっ、シホちゃーん!」
のんちゃん達が私を呼ぶ。
哲夫に『行ってもいい?』とアイコンタクトを送ると、『もちろん。』と答える。
無言の会話。
哲夫の腕の中から抜け出し、のんちゃん達のところまで走った。
:09/01/04 22:19 :SH901iC :bKxDy5AQ
#265 [ゆーちん]
「お疲れ様〜。」
「今日も寒いね!」
相変わらず、私は自分の事をあまり話さないで、みんなの話を聞くばかり。
だけど楽しかった。
笑うと、温かかったから。
これが仲間なのかな。
だとしたら、萌子の友達ごっこは本当にくだらないものだった。
信じていいんだよね、のんちゃん達のこと。
それに…テツの事。
:09/01/04 22:20 :SH901iC :bKxDy5AQ
#266 [ゆーちん]
「シホ。」
「ん?」
日付が変わる30分前、私たちが集まる場所に哲夫が来た。
みんな、急に畏まっちゃって…何だか笑える。
「お楽しみ中、悪いんだけど俺そろそろ帰りたい。お前まだいるか?」
珍しい。
ここ最近は最後まで残ってたのに。
:09/01/04 22:21 :SH901iC :bKxDy5AQ
#267 [ゆーちん]
「ううん、帰る。」
「いいのか?居たい時間まで居れば良いよ。帰りは康孝にでも頼めばいいし。」
私は首を振り、哲夫の傍に駆け寄った。
「じゃあね。」
「バイバーイ!」
みんなと別れ、いつものようにチーム全員が哲夫に挨拶。
:09/01/04 22:21 :SH901iC :bKxDy5AQ
#268 [ゆーちん]
見慣れた儀式だ。
それが終わると、私の肩を抱いて歩き出す。
なぜ哲夫が早く帰りたがったのか、それは家についてからわかった事だった。
:09/01/04 22:22 :SH901iC :bKxDy5AQ
#269 [ゆーちん]
ベッドに倒れ込んだ哲夫。
「シホ…薬箱取って。」
「薬箱?お腹でも痛い?」
すっかり慣れたこの部屋から、私は薬箱を取り出した。
絆創膏、消毒液、ガーゼ、うがい薬…など、たくさんの薬品が詰まっている。
新人が用意した物だそうだ。
:09/01/04 23:24 :SH901iC :bKxDy5AQ
#270 [ゆーちん]
「哲夫?」
「シホ…あのさ…」
哲夫の様子がおかしいと気付いたのは、ちょうどこの時だった。
日付がもうすぐ変わる。
「えっ、テツ?」
「風邪…薬…出して…」
:09/01/04 23:25 :SH901iC :bKxDy5AQ
#271 [ゆーちん]
いつの間にこんなに荒い息になったんだろう。
苦しそうに呼吸をする哲夫に全く気付かなかった。
それに、汗もひどい。
「哲夫!?」
「大丈夫だから…薬、探して…」
:09/01/04 23:25 :SH901iC :bKxDy5AQ
#272 [ゆーちん]
かなり焦った。
こんな弱った哲夫なんか見た事ないから。
恐かった。
哲夫が死ぬんじゃないか、って。
いなくなるんじゃないか、って。
また一人ぼっちになるんじゃないか、って。
:09/01/04 23:27 :SH901iC :bKxDy5AQ
#273 [ゆーちん]
必死に探した。
頭痛薬、腹痛の薬、胃薬、花粉症の薬…
手に取るたびに欲しい薬以外のものが現れる。
「あ、あった!」
風邪薬は1番底にあった。
「ちょうだい…」
「うん。あ、待って!」
「え?」
「…どうしよ。使用期限過ぎてる。」
:09/01/04 23:28 :SH901iC :bKxDy5AQ
#274 [ゆーちん]
2年以上も前の薬。
どうして点検してくんなかったんだろう、と少し前までこの部屋の掃除などをしていた新人に腹が立った。
そんなの私のせいでもあるのにね。
「無いよりマシだ…ちょうだい…」
「でも、余計に悪化するといけないし。」
:09/01/04 23:28 :SH901iC :bKxDy5AQ
#275 [ゆーちん]
迷う暇なんかなかった。
「待ってて。」
哲夫の財布を握り、私は家を飛び出した。
シホになって初めての事。
一人だけで家の外に出た事なんかない。
一人だと、妙に恐かったから。
だけどそんなのビビってる訳にいかない。
:09/01/04 23:30 :SH901iC :bKxDy5AQ
#276 [ゆーちん]
哲夫が苦しんでいるんだ。
私はコンビニまで走った。
息が上がる。
久しぶりに体を動かした。
なまらないように気をつけていたはずなのに、やっぱり運動不足だ。
息が苦しい。
「すみません、風邪薬どこですか?」
:09/01/04 23:30 :SH901iC :bKxDy5AQ
#277 [ゆーちん]
だけど私より、哲夫の方が苦しいんだ。
店員に教えてもらい、即購入。
来た道を走りながら戻る。
「テツ!」
家に帰ると、『脱走すんな、バカ。』と汗だくの哲夫が笑った。
無理に笑わなくていいよ。
苦しいくせに。
:09/01/04 23:31 :SH901iC :bKxDy5AQ
#278 [ゆーちん]
水をコップに汲み、薬を哲夫に飲ませた。
「初めての…おつかい…偉かったな…」
バカ。
無理に笑わないでよ。
何だか泣けてくる。
「シホが…買ってくれた薬だ。すぐに…治るよ。」
辞めて。
自分が苦しいのに、私に気を使わないで。
:09/01/04 23:32 :SH901iC :bKxDy5AQ
#279 [ゆーちん]
「ありがとな…」
頭なんか撫でないで。
自分が撫でられる立場なんだよ。
私に優しくしないで…。
「哲夫、着替えた方がいいよ。」
:09/01/04 23:32 :SH901iC :bKxDy5AQ
#280 [ゆーちん]
人を介抱するなんて初めてだから、服を着替えさすのは私にとって大仕事。
やっと着替えが終わった頃には、薬が効いてきたらしく哲夫は眠ってしまった。
このまま私も寝るってわけにはいかない。
哲夫の、看病しなくちゃ。
:09/01/04 23:33 :SH901iC :bKxDy5AQ
#281 [ゆーちん]
テレビや漫画の見よう見真似。
冷たいタオルをおでこに乗せて、部屋を温かくする。
哲夫を起こさないように体温計で熱を計ると、38.9度もあった。
もっと汗をかかせなきゃ。
でも、もし風邪じゃなかったら…
もし、この看病の方法が間違ってたら…
:09/01/04 23:34 :SH901iC :bKxDy5AQ
#282 [ゆーちん]
哲夫、死なないで。
そんな事ばかり願っていた。
「テツ…」
とりあえず、私にできる事をしよう。
こまめに冷たいタオルに変えて、温かい格好をさせれば大丈夫だよ。
萌子は、そうしてきた。
体調を崩したら、自分で自分を看病した。
:09/01/04 23:35 :SH901iC :bKxDy5AQ
#283 [ゆーちん]
大丈夫。
私は萌子じゃなくて、シホだけど、きっと大丈夫。
哲夫の看病、できる。
「哲夫、頑張ってね。」
主人の回復を祈るペットは、その夜、一睡もせずに哲夫の看病をした。
:09/01/04 23:35 :SH901iC :bKxDy5AQ
#284 [ゆーちん]
タオルを変えて、汗だくの服も着替えさせて、体温を計る。
鳥が鳴く頃、37.5度まで下がった時には嬉しくて一気に緊張の糸がほどけた。
「よかったー。」
思わず哲夫の頭を撫でた。
綺麗な金色頭。
怖い顔して、寝顔は子供みたいな顔。
:09/01/04 23:36 :SH901iC :bKxDy5AQ
#285 [ゆーちん]
昼前。
普段の起床時間。
哲夫は自然に目を覚ました。
私が作ったお粥を完食し、薬を飲み、もう一度眠ると言った。
「お前、寝た?」
『寝たよ。』と嘘をついた。
一睡もしないで看病してたの、なんて恩着せがましい事は言わない。
:09/01/04 23:37 :SH901iC :bKxDy5AQ
#286 [ゆーちん]
眠る前、熱を計ると37.2度だった。
もう心配はない。
哲夫の回復力に感謝。
「俺、今日の集会は顔出すだけにするわ。」
「うん。」
「シホは居てもいいんだぞ?」
「ううん。私も哲夫と一緒に帰る。」
「そ。」
:09/01/04 23:39 :SH901iC :bKxDy5AQ
#287 [ゆーちん]
再び眠りについた哲夫を見て、一気に安心した。
いつの間にか私はカーペットが敷いてある床で眠っていた。
起こされた時、集会に行く時間の30分前だった。
「哲夫、大丈夫なの?」
「ん。熱下がった。」
体温計をみせてもらうと、36.5度。
:09/01/04 23:41 :SH901iC :bKxDy5AQ
#288 [ゆーちん]
「超〜平熱。」
ピースをして煙草の煙を私にかけた。
「よかった。でも無理しないでね。」
「うん。看病の得意なペットのおかげだな〜。」
「いつから体調悪かったの?」
「…3日前。」
恥ずかしそうに笑った哲夫。
全然、気付かなかったよ。
:09/01/04 23:42 :SH901iC :bKxDy5AQ
#289 [ゆーちん]
「何か体ダルいなーと思っててさ。で、昨日の集会の途中で急に限界迎えて、こりゃダメだって訳でシホ呼びに行って…実はそこから記憶ない。」
「えぇ?重症だよ、それ。」
「所々に記憶はあんだ。俺の財布持って家飛び出したと思ったら、薬持って帰って来たとか。後はタオル変えたり、体温計を脇に突っ込んで来たり。」
:09/01/04 23:43 :SH901iC :bKxDy5AQ
#290 [ゆーちん]
哲夫は煙草を消し、コップの水を飲み干した。
「一晩中寝ずに起きててくれたんだろ?」
…知ってたんだ。
「ありがとな。」
お礼を言われると、嬉しい気持ちになる。
そんな、子供みたいな事をゆっくりと学び始めたんだ。
萌子じゃ学べなかった、人間くさい気持ち。
:09/01/04 23:43 :SH901iC :bKxDy5AQ
#291 [ゆーちん]
「気付いてあげられなくてごめん。」
「何が?」
「3日も前から体調悪かったなんて…」
「気にすんな。最近一気に寒くなったから体調崩しただけだし。迷惑かけてごめんな。」
迷惑なんて思わない。
私は首を振った。
:09/01/04 23:44 :SH901iC :bKxDy5AQ
#292 [ゆーちん]
だけど、体調の変化に気付けなかった事は気にするよ。
私の事はなんでも気付いているのに、私は哲夫の事、何にも感じ取ってあげらんない。
あぁ…何となく人間らしくなって来たのかな、ってこの時思った。
悔しさとか嬉しさとか…そういう感情があるのは人間くさいでしょ。
:09/01/04 23:45 :SH901iC :bKxDy5AQ
#293 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽
ではまた
>>2▽▲▽▲▽▲▽
:09/01/04 23:45 :SH901iC :bKxDy5AQ
#294 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
色違い
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/05 18:13 :SH901iC :R4f3CKXI
#295 [ゆーちん]
すっかり回復した哲夫と、買い物に行った時の事。
「シホ、これ試着してこい。」
「シホ、これ履いてみ。」
「シホ、欲しい物あるか?」
哲夫との買い物はいつもこんな感じ。
洋服や靴をテキパキと選んでくれる。
:09/01/05 18:13 :SH901iC :R4f3CKXI
#296 [ゆーちん]
一通り買い物が終わると、私の欲しい物がないかを聞いてくる。
いつもは『ない。』と答えるけど、今日は『ある。』と答えた。
「何?」
「…お箸。」
「箸?箸ならまだあっただろ?」
うん、ある。
たくさん。
でもそれは割り箸じゃん。
:09/01/05 18:14 :SH901iC :R4f3CKXI
#297 [ゆーちん]
「お箸を洗いたいんだ。」
哲夫は私の言葉に笑い出した。
笑われて、少し腹が立った。
何で笑うの、って。
腹が立ったけど、嬉しかった。
あぁ、私、人間やってるんだって思えたから。
:09/01/05 18:16 :SH901iC :R4f3CKXI
#298 [ゆーちん]
「何で割り箸じゃだめなわけ?」
「だって…寂しいじゃん。」
「寂しい?」
「自分専用のお箸ってさ、何かこう…家族の特権物って言うか。」
ふと思った。
私は哲夫に取って、一体なんなんだろう。
:09/01/05 18:17 :SH901iC :R4f3CKXI
#299 [ゆーちん]
チームの中では彼女という存在として認知されてしまっているが、本当のところただのペット。
だけど世間一般からして、ペットだなんていう存在は認めてもらえない。
だって私は…人間だから。
:09/01/05 18:17 :SH901iC :R4f3CKXI
#300 [ゆーちん]
人間になりそこねた人間を拾った哲夫は、私のことをどう思っているのだろう。
…って、バカか私は。
そんな事を考えるようになっちゃったのかと思うと、この言葉にできない感情が何なのかわからなくて余計にウズウズする。
:09/01/05 18:18 :SH901iC :R4f3CKXI
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