闇の中の光
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#451 [ゆーちん]
どこに逃げたのかわかんない。
ずっと哲夫の腕の中で泣いていたから。
「シホ、おい。大丈夫か?」
「て…おっ…苦し…」
「過呼吸?」
たぶん。
私は頷いた。
:09/01/13 15:31 :SH901iC :4gcR8RAo
#452 [ゆーちん]
すぐに口を塞がれ、哲夫の二酸化炭素を吸った。
この前よりも治るのに時間がかかった。
頭が余計な事を考えているからかな。
さっきの宗太郎の顔と声が忘れらんない。
何で今更現れんのよ。
萌子の事、思い出したくないのに。
苦しいよ…体も心も。
:09/01/13 15:31 :SH901iC :4gcR8RAo
#453 [ゆーちん]
「シホ?」
「もう…大丈夫。」
「本当か?」
「うん。」
やっと落ち着いた。
だけど涙が止まらない。
「もう泣くな。お前、ちょっとここで待ってろ。」
「うん。」
「すぐに戻るから。」
頷く私を抱きしめてから、哲夫は走り去った。
:09/01/13 15:32 :SH901iC :4gcR8RAo
#454 [ゆーちん]
ここ、どこだろう。
寒い。
痛い。
眠い。
少し、横になろう。
冷たい地面に寝転がり、空を見上げた。
汚い空。
今日は星が1つも出ていない。
真っ暗な空だ。
暗闇が広がっている空。
気味悪い。
:09/01/13 15:32 :SH901iC :4gcR8RAo
#455 [ゆーちん]
次の瞬間にはシーンが変わっている。
前にもこんな事あったよね。
空を見ていたはずなのに、次の瞬間には家の天上が映る。
あぁ、そっか。
あれは自殺失敗した時だ。
て、ことはそろそろ哲夫が覗き込んで来るよ。
:09/01/13 15:34 :SH901iC :4gcR8RAo
#456 [ゆーちん]
「あ、起きた。わかるか、シホ?」
ほらね。
「哲夫…」
ベットから体を起こすと、見慣れた景色が広がる。
「家だから安心しろよ。」
哲夫は吸っていた煙草を消すと、私の隣に潜り込んで来た。
「今日は疲れたな。」
:09/01/13 15:35 :SH901iC :4gcR8RAo
#457 [ゆーちん]
時計を見ると、本来ならいつも私達が眠りにつく時間。
「ねぇ哲夫。のんちゃんは?」
「望実なら無事だ。康孝が助けた。」
「本当?」
「意識も戻ったし、普通に元気だったから康孝が家まで送ってった。」
「よかった…」
:09/01/13 15:35 :SH901iC :4gcR8RAo
#458 [ゆーちん]
心から安心した。
のんちゃんが助かって、本当に本当によかったよ。
「おいで。」
座っていた私を寝かし、哲夫の抱き枕変わりになった。
「哲夫、怪我してる。」
「これのどこが怪我?俺、無敵だもん。怪我なんかしねぇよ。」
:09/01/13 15:36 :SH901iC :4gcR8RAo
#459 [ゆーちん]
頬に傷を負っていた場所に絆創膏が貼ってあった。
「嘘つき。だって絆創膏貼ってあるじゃ‥」
「あぁ、これ?これはアレだよ。流行の最先端シール。」
笑ってしまった。
「何それ。」
哲夫も笑っていた。
:09/01/13 15:37 :SH901iC :4gcR8RAo
#460 [ゆーちん]
「心配すんな。余裕だから。」
私を抱きしめる力が強くなった。
哲夫の匂いや温かさが私を包む。
「ねぇ。」
「ん?」
「何だったの?一体…」
「その話はまた明日。俺眠いわ。」
さっきまでの騒ぎが嘘のようにこの部屋は静かだ。
:09/01/13 15:37 :SH901iC :4gcR8RAo
#461 [ゆーちん]
「やだ!気になって眠れないもん。」
「もぉ〜、めんどくせっ。」
「何だったの?」
「ただの殴り込みだよ。どこの奴らかは忘れたけど、前にあそこのチームと揉めてさ。向こうの頭と俺で話し合って和解したんだけど、どうやら頭が変わったらしいんだわ。」
:09/01/13 15:38 :SH901iC :4gcR8RAo
#462 [ゆーちん]
「向こうのリーダーが変わったから、哲夫と前のリーダーの和解なんて関係ない…みたいな?」
「まさに、それ。不意打ちすぎだから、女や新人はとりあえず逃がしたんだけど…何でお前ら逃げてなかったんだよ。」
:09/01/13 15:38 :SH901iC :4gcR8RAo
#463 [ゆーちん]
状況把握が遅くて逃げ遅れちゃったんだ、私とのんちゃん。
私のせいで、のんちゃんまで痛い思いさせちゃって…。
「…ごめんなさい。」
「どこ叩かれた?」
「腕とか…お腹蹴られたり。」
すると哲夫は急に体を起こし、私の服を脱がせた。
:09/01/13 15:39 :SH901iC :4gcR8RAo
#464 [ゆーちん]
「哲夫?」
「…うわ。本当だ。痛かっただろ?」
腫れたり青くなったりしている。
久しぶりにこんな汚い自分の肌を見て、また苦しくなった。
「ごめんな。助けてやれなくて。」
もう一度服を着せ、腫れている部分を撫でてくれた。
:09/01/13 15:39 :SH901iC :4gcR8RAo
#465 [ゆーちん]
再び寝転がった哲夫。
「哲夫のせいじゃない。」
「俺らのバカ騒ぎに、シホまで巻き込んでさ。本当、悪い。」
抱きしめられると殴られた腕が痛かった。
だけど痛いなんて言わない。
:09/01/13 15:40 :SH901iC :4gcR8RAo
#466 [ゆーちん]
このままこうしていたいから。
そう願ってしまうのは、ダメなことなのかな?
シホのままでいるのは、いけない事なのかな?
「なぁシホ。あの男…向こうのチームの奴だった。」
「…宗太郎?」
「シホの事泣かしたから殴ろうかと思ったのに、誰かが呼んだ警察が来ちゃって…みんな散らばって逃げたんだ。」
:09/01/13 15:40 :SH901iC :4gcR8RAo
#467 [ゆーちん]
哲夫は続けた。
「今回は警察のせいで解散したけど、白黒ハッキリさすために、あいつらはまた殴り込みに来ると思う。俺らもこのままやられっぱなしは嫌だし。だから近々また騒ぐと思う。その時は女無しで行くからさ…だからシホは留守番な。」
:09/01/13 15:41 :SH901iC :4gcR8RAo
#468 [ゆーちん]
何も言えない。
哲夫が誰かに殴られたり、誰かを殴ったりするのは嫌だ。
だけどそんなのを嫌がる権利なんて私にはない。
「うん…」
「なぁシホ?」
「何?」
「お前はシホだからな?変な事考えんなよ?」
:09/01/13 15:42 :SH901iC :4gcR8RAo
#469 [ゆーちん]
そう言ってもらえて嬉しかった。
宗太郎の事、考えたくない。
あいつを思い出すと、私はシホじゃなくなるから。
金河萌子の私になっちゃうから。
「おやすみ。」
「…うん、おやすみ。」
:09/01/13 15:43 :SH901iC :4gcR8RAo
#470 [ゆーちん]
哲夫はすぐに眠りについた。
私は寝息を立てる哲夫に抱かれ、しばらく考えていた。
宗太郎の事は考えちゃだめ。
わかってる。
だけど頭から離れらんないんだよね。
:09/01/13 15:43 :SH901iC :4gcR8RAo
#471 [ゆーちん]
私、このまま哲夫と一緒にいていいのかな?
哲夫に、昔の事、話した方がいいかな?
っていうか…聞いてもらいたいのかも。
:09/01/13 15:43 :SH901iC :4gcR8RAo
#472 [ゆーちん]
哲夫さ、いつかは聞いてくれるって言ったよね?
それが、今なんだ。
いつか、が、今なんだよ。
明日、目が覚めたら必ず話そう。
ゆっくりと思い出して、哲夫に聞いてもらおう。
哲夫に聞いてもらいたい。
:09/01/13 15:44 :SH901iC :4gcR8RAo
#473 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽
いったんSTOP
>>2▽▲▽▲▽▲▽
:09/01/13 15:45 :SH901iC :4gcR8RAo
#474 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
お伽話
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/15 18:17 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#475 [ゆーちん]
過呼吸は、疲れる。
いつの間にか眠ってしまい、夢も見ずに朝を迎えた。
いつもより少し早くに目が覚めて、哲夫の腕の中から抜け出し、トイレに行った。
寒い。
もう一度ベットに潜ろう。
:09/01/15 18:17 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#476 [ゆーちん]
再び、哲夫の眠る布団の中に戻ると自分がいた場所の温もりと、哲夫からの温もりが混ざって、心地いい空間ができていた。
ずっと、この空間にいれたらいいな。
シホのままでいたい。
:09/01/15 18:18 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#477 [ゆーちん]
萌子になんか、戻りたくない。
完璧なシホになりたいよ。
萌子の時のトラウマなんかに、もう苦しめられたくない。
だから…話さないと。
:09/01/15 18:19 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#478 [ゆーちん]
「…シホ。」
「ごめん、起こした?」
「ううん、俺が勝手に起きた。」
布団が動く音と共に、私は哲夫にきつく抱きしめられた。
「抱き枕。」
「辞めてよ。」
「なぁシホ。」
「何?」
:09/01/15 18:19 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#479 [ゆーちん]
「人間の温もりって安心すんのな。シホのおかげで俺、初めて知った。」
何を、言ってるんだろう、この人は。
人間の温もりなんて、哲夫なら有り余る程、もらってきたんじゃないの?
「俺さぁ、こうやって誰かを抱きしめた事もなけりゃ、抱きしめてもらった事もねぇの。」
:09/01/15 18:20 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#480 [ゆーちん]
哲夫の過去は、何だか少し同情と…仲間意識のようなものが沸いた。
「俺、長男でさ、親からの期待とかすげぇデカくて。親父の会社を俺に継がすのに必死なんだよ。」
哲夫の低い声が続く。
「そんな親に反抗して、迷惑かけて、親に見放されるっつう…よくあるパターンだ。」
:09/01/15 18:21 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#481 [ゆーちん]
「見放されるって…」
「金はいくらでもやるから千早家には帰って来るな、って。昔から冷たい親だったから甘えさせてもらった事もないし、物心ついた時から俺は家族に対してドライだったんだ。」
私が話をしようと思ってたこと、哲夫にバレちゃったのかな?
哲夫は自分の過去を淡々と話し続けた。
:09/01/15 18:23 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#482 [ゆーちん]
「会社は弟が継ぐらしくて、必死に勉強してる。俺が継ぐもんだと思ってて会社経営の勉強なんかしてなかったから慌てて将来の夢、変更ってわけだよ。弟には悪い事したなって思う。」
弟、いるんだ。
萌子には血の繋がったキョウダイ、いたのかな?
:09/01/15 18:24 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#483 [ゆーちん]
「実家飛び出して女のとこ転々として。でも自分の居場所が欲しくて…いつの間にかチームとか作ってた。親は、どっから俺の情報拾ったのか知んねぇけど、毎月お金を振り込む通帳みたいなの俺に送ってきやがった。」
:09/01/15 18:25 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#484 [ゆーちん]
そっか。
だから哲夫はお金には困らない生活をしていたんだ。
「通帳と一緒に手紙入ってて、たまには帰って来いとか書いてあるのかと思ったら…金はいくらでもやるから、うちの会社とは無関係だと誓え、みたいな事書いてあんの。」
:09/01/15 18:26 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#485 [ゆーちん]
それって…
「勘当ってやつ。ムカついたり悲しんだり悔しかったりしなかった。むしろ安心した。何でかわかんねぇけど、生きる勇気とか沸いたし。」
ねぇ、哲夫。
私も、話したい事があるよ。
:09/01/15 18:26 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#486 [ゆーちん]
いや、私じゃない。
萌子として、聞いて欲しい事があるよ。
:09/01/15 18:27 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#487 [ゆーちん]
「テツ…」
「ん?」
哲夫の腕の中で、萌子の話を始めよう。
「萌子はね、生まれてすぐ親に捨てられたんだ。施設で育って、7才の時に今の親の子供になった。最初は楽しかったの。でも、いつのまにか家族はバラバラになってた。父も母も、萌子に暴力を振るうの。痛くて恐くて苦しくて…生きる事に諦めてたんだぁ。」
:09/01/15 18:29 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#488 [ゆーちん]
まるで他人の話をしてるみたい。
お伽話でもするかのように私の口は語る。
:09/01/15 18:29 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#489 [ゆーちん]
「親も友達も彼氏も、みんな嫌い。ウザいだけ。必要のない存在。」
「…ん。」
「そんな人生に耐え兼ねた萌子は死ぬつもりだった。どの自殺方法が1番いいかなって考えてたんだけど、ある日の夜、父に本気で殺されかけた。自殺したかったのに他殺かって思ったけど、結局は父に半殺しのまま家からほうり出されたの。」
:09/01/15 18:32 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#490 [ゆーちん]
ほんの一ヶ月前のことなのに、なんだか10年以上前の話をしているみたいだった。
「首吊りとか飛び降りとか色々考えてたんだけど、もういいやって思った。半殺しのまま生きるのも苦しいだけだから、どんな方法でもいいから死にたいって思った。そんな気持ちのまま萌子はあてもなく夜道を歩いてたの。」
:09/01/15 18:32 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#491 [ゆーちん]
哲夫は、ずっと黙ったまま聞いてくれていた。
そのほうが話しやすい。
「そんな時、ふと目についたのがナイフで、神様が与えてくれたんだって思った。そのナイフで死になさいって言われた気がして、心臓を刺して死んでやろうって決めたの。で、ナイフを振りかざして…次の瞬間には知らない部屋にいた。死ねなかったんだってわかった時、自分が情けなかった。」
:09/01/15 18:33 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#492 [ゆーちん]
どうして生きているんだろうと、自分を恥じたっけ。
「でさ、またまた目の前にいた、いかつい顔の金髪男がいたから、調度いい、殺してもらおうと思った。そしたら…萌子はあっという間に殺されて、シホっていうペットになってた。」
:09/01/15 18:35 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#493 [ゆーちん]
「不思議な話だな。」
哲夫が笑った。
「不思議だよ。あんなに死にたいって思ってた萌子が、シホに生まれ変わった途端…死にたいなんて全く思わなくなった。むしろ生きたいとか、人間って楽しいって思うようになっちゃったの。本当…不思議だよ。」
:09/01/15 18:36 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#494 [ゆーちん]
哲夫が私を抱きしめる力が強くなったのがわかった。
「私はシホなのに、死んだはずの萌子がまだどっか心の奥に潜んでるみたい。だから…喧嘩の声が、父の暴力する声と重なって、苦しくなっちゃった。」
:09/01/15 18:37 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#495 [ゆーちん]
「なぁ、萌子。」
久しぶりに哲夫がその名前を呼んだ。
「萌子は死んだよ?」
「死んだ萌子に話し掛けてんの。」
「…ふーん。」
:09/01/15 18:39 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#496 [ゆーちん]
「萌子さ、辛かったな。頑張ったよ。お前の辛さなんか、俺全然わかんないけど…殴られたりするのって痛いよな。俺も喧嘩して殴られた経験あるから痛いのわかる。でもな、殴る方も痛いんだよ。手と心が痛いんだ。」
今度は私が哲夫を抱きしめる力が強くなった。
「暴力はもちろん、いけねぇ事。萌子を苦しめたんだから。親が憎いよな。わかるよ、俺もそうだったから。」
:09/01/15 18:40 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#497 [ゆーちん]
哲夫の小さな声が、耳元で響く。
「手は上げられてなくても、俺は言葉の暴力っつうの?それ体験してるんだ。でもさ、萌子の辛さに比べりゃ俺なんて屁だよ。萌子は女の子なのに…痛かったな。」
本当に、優しい声だった。
:09/01/15 18:41 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#498 [ゆーちん]
我慢してたのに…。
あまりにも優しい声だから、涙が溢れた。
だけど泣いてるなんてバレたくないから、ただただ哲夫の腕の中に顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。
「憎くて憎くて、殺してやりたいって思ったかもしんねぇ。でも…いくらムカつく奴でも、親には勝てないんだよ。」
:09/01/15 18:42 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#499 [ゆーちん]
…勝てない?
「萌子の親は、四六時中お前に暴力振るったか?一時でも優しくしてくれた事はねぇの?」
…あるよ。
激しい暴力を振るわれたあと、なんだか優しかった。
父も母も、謝りはしなかったけど…萌子に対して一瞬だけど優しくしてくれた気がする。
:09/01/15 18:42 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#500 [ゆーちん]
哲夫は、萌子の答えを聞いたかのように話を続けた。
「あるだろ?だったら、その親にまだ望みはある。諦めないで戦え。死んだら負けだ。親を殺せば、もっと負け。もし勝てなくても、引き分けならいい。」
:09/01/15 18:44 :SH901iC :Jfqqe8Pw
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