闇の中の光
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#651 [ゆーちん]
いつものリラックスしたのんちゃんとは別人。
でもなんか、可愛かった。
のんちゃんのそういう性格、好きだな。
「哲夫は?」
「俺はいらなーい。ビール飲む。」
:09/01/24 18:28 :SH901iC :JFMqBZYE
#652 [ゆーちん]
のんちゃんにはソファーに座って待っててもらい、私と哲夫はキッチンに。
哲夫が冷蔵庫を漁りながら、声をあげた。
「望実ぃー!」
ソファーから立ち上がったのんちゃんは、元気な返事をする。
「はいっ!」
:09/01/24 18:29 :SH901iC :JFMqBZYE
#653 [ゆーちん]
「ビール飲むか?」
「いや、私まだ19なんで。」
「あぁ、そ。残念。」
「すみません。ありがとうございます!」
のんちゃん見てると、癒される。
と、同時に感心。
そんな風に尊敬できるような人がいて、緊張とかしちゃって…萌子には無かった事だったから。
:09/01/24 18:29 :SH901iC :JFMqBZYE
#654 [ゆーちん]
上下関係を知らなかった私に、そっと教えてくれたのは、哲夫のチームのおかげ。
あんまり上下関係を気にしないで、ってチームだったから私自体、緊張したり尊敬したりって事はなかったけど、その事実を目の当たりにして、ちょっと感動とかしちゃったし。
:09/01/24 18:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#655 [ゆーちん]
「お待たせ。」
「あっ、ありがとう。」
「砂糖とミルクは?」
「どっちも入れてくれる?」
「OK。」
紅茶を入れ終え、私も哲夫ものんちゃんのいる場所に移動した。
のんちゃんの表情は、玄関にいた時よりほんの少し、緩んだかな。
さて、何から話そうか。
:09/01/24 18:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#656 [ゆーちん]
紅茶を飲む音。
ビールを飲む音。
シンとした部屋。
最初に口を開いたのは、のんちゃんだった。
「美味しい。」
哲夫以外の人に美味しいと言われた。
それがたまらなく嬉しく感じてしまう。
「ありがとう。」
:09/01/24 18:31 :SH901iC :JFMqBZYE
#657 [ゆーちん]
他愛もない事だけど、私には心が奮い立つぐらい幸せな言葉なんだ。
インスタントの紅茶にお湯を入れただけなのに、美味しいって。
社交辞令かもしれないけど、嬉しい。
:09/01/24 18:31 :SH901iC :JFMqBZYE
#658 [ゆーちん]
こんな気持ちをどうやって伝えればいいのかわかんないけど、私なりの言葉で説明しよう。
大丈夫。
シホとしてのタイムリミットは、まだある。
萌子に戻る前に、シホとして、萌子の話をしておきたい。
:09/01/24 18:32 :SH901iC :JFMqBZYE
#659 [ゆーちん]
「今から話す事、上手く伝わらないかもしんない。けど私なりに頑張って伝えるから聞いてね。」
するとのんちゃんは、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。
そのエクボに、何度と心を落ちつかしてもらっただろう。
:09/01/24 18:32 :SH901iC :JFMqBZYE
#660 [ゆーちん]
「私、シホなんかじゃないの。」
「…。」
のんちゃんは、何も言わなかったし、何の反応も見せなかった。
「本当の名前は、金河萌子って言うんだ。」
「…そっか。」
「ごめんなさい。ずっと黙ってて。」
:09/01/24 18:33 :SH901iC :JFMqBZYE
#661 [ゆーちん]
「謝んないで。ていうか名前なんて何だっていいじゃん。あだ名みたいなもんだよ。」
「…うん。」
薄々気付いてたのかもしんない。
驚いているというより、確信を持った表情だったから。
:09/01/24 18:33 :SH901iC :JFMqBZYE
#662 [ゆーちん]
ゆっくりと萌子の話をした。
哲夫にお伽話をした時に、過去を思い出す痛みへの免疫はついたつもりだった。
だけどまだ弱かった。
途中、何度も泣きそうになった。
けど…泣かなかったよ。
泣いてちゃ、のんちゃんに伝えらんないもん。
:09/01/24 18:34 :SH901iC :JFMqBZYE
#663 [ゆーちん]
冷めきった紅茶で何度も喉を潤わせながら、話した。
途中、哲夫にも助けてもらいながら。
「それで私決めたの。明日…っていうか日付的には今日だね。」
「もしかして…」
「うん。萌子に戻るよ。それで、親と話し合ってみる。」
:09/01/24 18:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#664 [ゆーちん]
今までずっと、過去を聞くのを禁じられていた哲夫の仲間であるのんちゃんは、信じられないって顔をしながら萌子の過去を聞いていてくれた。
そのお伽話のクライマックスが、今日でシホを辞めるってもの。
そりゃ、ビックリするよね。
:09/01/24 18:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#665 [ゆーちん]
「すぐ帰って来るんだよね?」
「…わかんない。」
「何で?」
「親と和解できるなら、金河家で暮らすと思う。許せないぐらいムカつく親だけど…何だかんだで、ここまで育ててくれたのは、あの人達だし。」
:09/01/24 18:36 :SH901iC :JFMqBZYE
#666 [ゆーちん]
「育ててくれたって…子供に援交させて金稼ぎさす親なんか最低だよ?」
「うん。わかってる。最低な親だよね。」
「だったらどうして…」
「哲夫が、味方だから。」
「…哲夫さんが?」
:09/01/24 18:36 :SH901iC :JFMqBZYE
#667 [ゆーちん]
ずーっとベットの端に座りながら煙草を吸っていた哲夫。
そう、あの人が味方だから。
「私には哲夫がいるから。生きたいって思うようにもなれた。」
「シホちゃん…」
「殴られて蹴られて半殺しにされて…もし和解できなくても、死のうだなんて考えないようにする。誓うよ。」
:09/01/24 18:37 :SH901iC :JFMqBZYE
#668 [ゆーちん]
「その時はまたシホとしてここで暮らせばいい話。」
哲夫の付け加えのおかげで、話にリアリティが出た。
そっと哲夫に視線を向けると、優しい笑顔で私を見てくれた。
「もし萌子ちゃんに戻っちゃってもさ、絶対遊ぼうね?約束だから。」
:09/01/24 18:38 :SH901iC :JFMqBZYE
#669 [ゆーちん]
ありがとう、と言った。
「私も、ずっとシホちゃんの味方だから。親とか友達に何かされたら、ぶっ飛んでくよ。約束する。」
また、ありがとう、と言った。
感謝しても、しきれない。
:09/01/24 18:38 :SH901iC :JFMqBZYE
#670 [ゆーちん]
「私ら出会って2〜3ヵ月だけど、シホちゃんはマジで大切な仲間だから。」
「…仲間ってものも、萌子じゃわかんなかった。シホになって、仲間の良さを学んだんだよ。」
「私もシホちゃんから学んだ事いっぱいあるよ。」
:09/01/24 18:40 :SH901iC :JFMqBZYE
#671 [ゆーちん]
泣かないって決めたのに、勝手に流れてしまった。
「アハハ。泣き虫シホちゃん。」
「うるさいっ。」
涙が乾いた頃、のんちゃんは帰った。
夜も遅いし、近くまで送り届けた後、哲夫に肩を抱かれて家まで歩いた。
:09/01/24 18:41 :SH901iC :JFMqBZYE
#672 [我輩は匿名である]
シホちゃん大好き
なんだか私の昔の心に
すっごい似てて...
また勇気が持てた(・ω・´)
だから最後まで
頑張って下さい
:09/01/24 19:34 :SH706ie :YP02nN8I
#673 [ゆーちん]
>>672さん
はいっ(>_<)
ありがとうございます
最後まで頑張ります!
:09/01/24 21:18 :SH901iC :JFMqBZYE
#674 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
ご褒美
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/24 21:19 :SH901iC :JFMqBZYE
#675 [ゆーちん]
夜空を見上げた。
今日も星が綺麗だ。
「シホぉ。」
「ん?」
「星だって、暗闇がなきゃ光ってんのに気付いてもらえないんだぞ。」
いきなり、何を言い出したのかと思った。
「シホが自分の事を闇で俺を光りだって言うなら、俺はシホの傍でずっと光っててやるよ。」
:09/01/24 21:20 :SH901iC :JFMqBZYE
#676 [ゆーちん]
言葉にならない感情が込み上げてきた。
この感情を何て呼ぶ?
答えがわからない。
だって、初めての体験だったし。
哲夫と過ごした数ヵ月、私には初めての事だらけだったよ。
:09/01/24 21:21 :SH901iC :JFMqBZYE
#677 [ゆーちん]
また、自分からすがってしまった。
荒っぽいSEXからは、溢れんばかりの愛を感じる。
愛してる人に愛をもらえるなんて、私の人生にはありえない事なんだと思ってた。
「シホ…」
哲夫が色っぽい声で私の名前を呼ぶ。
涙が出そうで鼻が痛くなった。
:09/01/24 21:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#678 [ゆーちん]
シホとして最後に見た夢は覚えていない。
それほど熟睡できたんだ。
安心しながら、心地よく、眠ったんだ。
誰かの温もりを感じながら眠るだなんて、私には贅沢すぎる。
そんな贅沢をさせてくれた哲夫の腕の中で、いつもの時間に自然と目を覚ました。
:09/01/24 21:22 :SH901iC :JFMqBZYE
#679 [ゆーちん]
ぼーっとしながら、布団の中の温かさと哲夫の体温を楽しむ。
何も考えずに、ただただ布団の中でじっとしていた。
目を開けて眠っていたのかもしれない。
頑張らなきゃって前に進もうとする私がいる。
だけど、もう少し甘えていようよってすがっちゃう自分もいる。
:09/01/24 21:23 :SH901iC :JFMqBZYE
#680 [ゆーちん]
結局、哲夫も目を覚まし、必然的に起きる事になっちゃったけど。
「おはよ。」
「おはよう。」
「んー…便所。」
哲夫が起き上がり、ベットからいなくなると冷気が入ってきた。
なんだか寂しい。
:09/01/24 21:23 :SH901iC :JFMqBZYE
#681 [ゆーちん]
寂しがってる場合じゃない。
明日からは、この温もりは無いのかもしれないし。
いつまでも甘えてるわけにはいかない。
ベットから起き上がり、洗面所で顔を洗う。
目が覚める。
モヤモヤしていた気持ちも、眠気と共に吹き飛ばしてやった。
:09/01/24 21:29 :SH901iC :JFMqBZYE
#682 [ゆーちん]
パジャマを脱ぎ、何を着ようかと悩んでいた時だった。
「おっはー!」
まさかの来客。
康孝だ。
「あ、おはよう。」
「シホちゃん。何で下着姿なわけ?」
康孝が苦笑いする。
:09/01/24 21:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#683 [ゆーちん]
「何着ようかなって。」
すると哲夫が言った。
「着るもの決めてから脱げよ、バカ。」
そう言って、康孝の手に握られていた袋を奪い、そのまま私に手渡した。
「えっ、何これ。」
「ちょうど着るもの悩んでたんだろ?俺からのプレゼント。」
と、康孝が笑った。
:09/01/24 21:30 :SH901iC :JFMqBZYE
#684 [ゆーちん]
袋の中身を見て、息を飲み込んだ。
「これ…」
私が初めてここに来た時、着ていた服だ。
あんなに汚かったのに、新品のように綺麗。
「私の制服…」
「康がクリーニングに出してくれたんだぞ。」
「ヤッちゃんが?」
「たまには俺だって役に立つだろ?」
:09/01/24 21:31 :SH901iC :JFMqBZYE
#685 [ゆーちん]
舌を出してピースサインをした康孝はバカっぽかった。
幼稚園児以下。
だけどそんな康孝が好きだった。
仲間として、男として、人として、好きだった。
だけどそれは哲夫への【好き】とは、また違う。
人間の感情は、数え切れない。
:09/01/24 21:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#686 [ゆーちん]
「それともう1つプレゼント。」
「え?」
「玄関にツルピカに輝いてるローファーが待ってるぞ。」
康孝の言葉を聞いた私はすぐさま玄関まで走った。
康孝の言う通り。
汚かったローファーが、ピカピカしている。
:09/01/24 21:35 :SH901iC :JFMqBZYE
#687 [ゆーちん]
驚いていた私を追い掛けて来た康孝が、教えてくれた。
「靴みがき買って来て、みんなで磨いたんだぞ。」
【ありがとう】を何度言えばいいのかわからない。
【嬉しい】を通り越した感情が私を襲う。
「私、何て言ったらいいのか…」
「お礼はいいから早く服着ろ。」
:09/01/24 21:36 :SH901iC :JFMqBZYE
#688 [ゆーちん]
部屋に戻ると哲夫が笑ってた。
「哲夫ぉ、ローファーが…」
「フッ。よかったな。半泣きなってるし。」
「泣いてないよ。もう泣かないって決めたんだから。」
「そ。早く服着ないと風邪ひくぞ。」
「うん。今さっきヤッちゃんにも服着ろって叱られた。」
:09/01/24 21:37 :SH901iC :JFMqBZYE
#689 [ゆーちん]
二人の視線は気にならない。
というか着替える私なんか見ていなかったのかも。
久しぶりに袖を通した制服は、ひんやりしていた。
やけに体にフィットする。
あぁ、私はやっぱり紛れも無い【金河萌子】なんだって実感した。
:09/01/24 21:38 :SH901iC :JFMqBZYE
#690 [ゆーちん]
スカートを短くし、あの日履いてた靴下を引っ張り上げる。
靴下は、クローゼットの下の引き出しの1番奥に潜んでた。
久しぶりに取り出すもんだから、なんだか違和感たっぷりだった。
:09/01/24 21:39 :SH901iC :JFMqBZYE
#691 [ゆーちん]
「ほほぉー。シホちゃんも何だかんだでまだ現役だもんな。やっぱ制服似合うわ。」
康孝がそんな言葉をサラッと言いきると、哲夫に『セクハラかよ。』と笑われていた。
そんな笑ってた哲夫が、小さな声で呟いた。
:09/01/24 21:39 :SH901iC :JFMqBZYE
#692 [ゆーちん]
「懐かしいな。」
康孝も『あぁ。』と私を見ながら懐かしんでいた。
「つい昨日の事みたい。制服着た女が俺のナイフ握って眠ってたんだよな。」
「哲夫の部屋に知らない女子高生がいて、俺すっげぇビックリした。」
:09/01/24 21:40 :SH901iC :JFMqBZYE
#693 [ゆーちん]
「髪も服も化粧もぐちゃぐちゃで汚かったよな。」
「いきなり殺せって要求するし?」
「哲夫に何言われたのか知んねぇけど、次会った時はケロッとした顔だった。」
二人は私を見ながら懐かしそうに昔話を続けた。
:09/01/24 21:42 :SH901iC :JFMqBZYE
#694 [ゆーちん]
色んな感情が混ざりあう。
嬉しいけど、寂しい。
恥ずかしいような、緊張するような。
二人の視線を気にしながらも鏡の前に座り、化粧をし始めた私。
化粧は、哲夫に教えてもらった【シホのメイク】を施した。
:09/01/24 21:42 :SH901iC :JFMqBZYE
#695 [ゆーちん]
髪形だってシホのまま。
この髪形には、この化粧が合うっていうのもあるけど…私は萌子でもあるしシホでもある、って事を示したい意思の現れだったんだと思う。
:09/01/24 21:43 :SH901iC :JFMqBZYE
#696 [ゆーちん]
「できた。」
私の支度ができたのは、目が覚めて2時間程経ってからだった。
「じゃあ行くか。」
哲夫の問いに、私は頷く。
『車で待ってっから。』と言い、康孝が出て行った。
:09/01/24 21:44 :SH901iC :JFMqBZYE
#697 [ゆーちん]
最後に部屋を見渡した。
「ここはシホの部屋だ。お前の居場所はここにもある。」
哲夫にそう言われ、誇らしい気持ちでいっぱいだった。
「うん。」
:09/01/24 21:44 :SH901iC :JFMqBZYE
#698 [ゆーちん]
荷物は何もない。
萌子は手ぶらでここに来たのだから。
何も持たないその手を、哲夫に握ってもらい、家を飛び出した。
今日は冬らしくない気候だった。
暖かい風が私の背を押す。
:09/01/24 21:45 :SH901iC :JFMqBZYE
#699 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込み、後部座席へと座る。
隣には哲夫。
車内は相変わらずうるさくて、首に巻く方でない車のマフラーが低く唸る。
窓の外は、シホのよく知る町並み。
だけど萌子には全く知らない町並み。
この街はシホの生まれた場所だから。
:09/01/24 21:46 :SH901iC :JFMqBZYE
#700 [ゆーちん]
10分もすれば、シホでも萌子でも知らない景色が広がった。
「なぁシホちゃん、こんな事聞いて機嫌悪くしたらごめん。」
「何?」
「どこに住んでたの?」
康孝の質問に、私はひるむ事なく答えた。
すると車内の空気が一転。
:09/01/24 21:50 :SH901iC :JFMqBZYE
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