闇の中の光
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#501 [ゆーちん]
哲夫の声が、弱くなった気がした。
「俺はもう戦う相手がいないんだ。相手にしてくんねぇから、戦いたくても戦えねぇ。だから余計、萌子には戦って欲しい。俺の独りよがりだけど、わかってくれたら嬉しい。」
:09/01/15 18:48 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#502 [ゆーちん]
何度も何度も哲夫が『戦え。』って言うから、頭の中で萌子が父親を殴るシチュエーションを想像してしまった。
だけど哲夫が言う『戦え。』は、その意味じゃない。
体で戦うんじゃない。
心で戦わなきゃいけないんだ。
:09/01/15 18:48 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#503 [ゆーちん]
「萌子にしてきた事を許してやれって言ってんじゃねぇぞ?そりゃ許してあげるんなら許してやったらいいけど…無理だろ?だから、許さなくていい。まずは許せるかもしれないキッカケを作るんだ。」
哲夫の言葉は、スッと私の中に入り込む。
『なるほど。』ってなる。
:09/01/15 18:49 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#504 [ゆーちん]
だけど、今はまだ『そうだね。許してあげられるようなキッカケを作ってあげよう。』だなんて、1ミリ足りとも思わなかった。
そこまで大人じゃない。
「今はまだそんな事、考えれねぇか。」
哲夫の腕の中で、小さく頷いた。
:09/01/16 15:10 :SH901iC :GhjenJ72
#505 [ゆーちん]
萌子への質問なのに、シホが答える。
死んだ萌子の変わりに、私が返事してあげたの。
…なんちゃって。
わかってるよ。
現実的な話をすれば、金河萌子は生きてんの。
そう、私。
:09/01/16 15:10 :SH901iC :GhjenJ72
#506 [ゆーちん]
だけど千早哲夫の近くにいる時だけは、萌子っていう生き方を忘れて、シホになるの。
っていうか…そうでいたい。
シホのままでいたい。
:09/01/16 15:11 :SH901iC :GhjenJ72
#507 [ゆーちん]
ただの【逃げ】と【甘え】なの。
わかってる。
わかってるよ。
萌子の時にできなかった人間くさい事をシホで叶える。
それが楽しくて心地よくて、ついついシホに、哲夫にも頼り過ぎてたんだ。
:09/01/16 15:12 :SH901iC :GhjenJ72
#508 [ゆーちん]
いつかはシホを辞めて、萌子に戻り、親と戦わなきゃいけないんだ。
「いつかは…戦うよ。その時は、背中押してくれる?って…萌子が言ってる。」
泣いてたのがバレバレな私の声。
優しい哲夫の声は笑いを含んでいた。
:09/01/16 15:13 :SH901iC :GhjenJ72
#509 [ゆーちん]
「何?シホは死んだ萌子と通信できんの?」
「…超能力。すごいでしょ?」
「フッ。そりゃすごい。羨ましいわ。」
「…うん。萌子に、返事ある?」
哲夫は言った。
「俺が守ってやるから、心配すんなって萌子に伝えてやって?」
バレバレだ。
声を出して泣いた。
どうしてかな。
:09/01/16 15:14 :SH901iC :GhjenJ72
#510 [ゆーちん]
見ず知らずの私を拾って、生かしてくれて、仲間とか家族とか…そういうのも教えてくれた。
優しすぎるよ。
お人よしってレベルじゃないよね。
哲夫、いい人過ぎる。
巨大なチームを率いる頭なだけあるよ。
人の気持ちがわかる人なんだ。
:09/01/16 15:14 :SH901iC :GhjenJ72
#511 [ゆーちん]
「はいはい、わかったから。もう泣くなー。」
「子供扱いするなっ。」
「だって子供じゃん。まだ17なのにさ、こんなちっこい体で…でっかい荷物抱えちゃって。可哀相だよ、本当。」
「同情なんか、いらないよ。」
「お?同情するなら金をくれってやつ?金ならいくらでも‥」
:09/01/16 15:17 :SH901iC :GhjenJ72
#512 [ゆーちん]
「金なんかいらないよ。」
泣き顔のまま、哲夫の笑顔を見上げた。
答えのわからなかった感情が、爆発した。
「哲夫が欲しいよ。」
「…俺?」
「好きなんだよ、哲夫が。」
泣きすぎて、上手く言えたかわかんない。
:09/01/16 15:18 :SH901iC :GhjenJ72
#513 [ゆーちん]
だけどちゃんと聞こえたらしく、哲夫は笑いながら答えてくれた。
「俺も好きだよ、シホの事。」
「違う!」
「何が違うの?」
「私の好きと、哲夫の好きは違うよ…全然。」
「はぁ?一緒だっつーの。」
「哲夫が言った好きは…私を…ただの…ペットとして…」
:09/01/16 15:19 :SH901iC :GhjenJ72
#514 [ゆーちん]
私、何が言いたいんだろう。
言葉が上手く出てこない。
「シホ、もうやめろ。喋るな。また苦しくなるぞ。」
「私は…テツは…」
「黙れ。」
笑っていたはずの哲夫は、やけに物静かな声で私に命令した。
その後、私が黙ってるよう唇を塞いでくれた。
:09/01/16 15:21 :SH901iC :GhjenJ72
#515 [ゆーちん]
過呼吸なんかになってない。
だから今日は、息じゃなくって…。
哲夫の舌が、私の口の中を支配してくれた。
「…シホ、もう泣くな。」
初めてこの家に来た時の事を思い出した。
:09/01/16 15:22 :SH901iC :GhjenJ72
#516 [ゆーちん]
このベットの上で、私は哲夫に萌子を殺せと頼んだ。
ナイフで喉をひとつき。
そうしてくれればよかったのに、哲夫はナイフではなく、自分の舌を喉にやった。
:09/01/16 15:23 :SH901iC :GhjenJ72
#517 [ゆーちん]
あんな最悪なキス、初めてだったよ。
殺されたかったのに、殺してくんないんだもん。
でもね、人間の気持ちって簡単に変わっちゃうらしくて…今、このキスは最高だって思う。
:09/01/16 15:23 :SH901iC :GhjenJ72
#518 [ゆーちん]
喉に舌が這っていく。
気持ち良いとか、恐いとか、悲しいとか…そんなんじゃない。
嬉しくて、私はただただ涙を流していたの。
「テツ…」
「ん?」
「好きです。」
「俺も好きですよ。」
「うん、ありがとね。」
:09/01/16 15:24 :SH901iC :GhjenJ72
#519 [ゆーちん]
ペットとしての【好き】なのか、それとも人として【好き】と言ってくれてるのかはわかんない。
もう、どっちでもいい。
哲夫がいてくれるだけでいいよ。
:09/01/16 15:25 :SH901iC :GhjenJ72
#520 [ゆーちん]
いつの間にか、初恋をしていた自分が嬉しくてたまらない。
あの日、神様がナイフを置いてくれたなら感謝する。
死ぬ為の道具じゃなくて、私を人間らしくしてくれた道具。
あのナイフのおかげで、私は恋ができた。
:09/01/16 15:25 :SH901iC :GhjenJ72
#521 [ゆーちん]
哲夫のSEXはさ、荒っぽかったよ。
でもね、幸せだった。
好きな人に『好き。』って言ってもらえて、キスしてもらえて、抱きしめてもらえて、体を重ねられて。
シホの人生、文句なんかないよ。
:09/01/16 15:27 :SH901iC :GhjenJ72
#522 [ゆーちん]
SEXが終わった後、哲夫にゆっくりキスされた時、『あぁ、これが幸せってやつなんだ。』って気付いた。
結局、私はペットなのか彼女なのか…そんなのはっきりさせなくてもいい。
この幸せを感じてられるなら、何だっていい。
だけど哲夫から離れるような事だけは嫌。
ずっと、ここにいたい。
:09/01/16 15:28 :SH901iC :GhjenJ72
#523 [ゆーちん]
:09/01/16 15:28 :SH901iC :GhjenJ72
#524 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
蕎麦
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/18 17:09 :SH901iC :.ySjYrww
#525 [ゆーちん]
12月30日。
哲夫だけ集会に顔を出し、1時間ほどで帰ってきた。
「今年最後の集会だったんだよね。お疲れ。」
「んー、集まり悪かったけどな。」
「…そっか。」
「今日はもう寝よ。眠いわ俺。」
集会で何を話して来たのかは知らないけど、哲夫は少し元気がなかった。
:09/01/18 17:10 :SH901iC :.ySjYrww
#526 [ゆーちん]
そりゃそうだよね。
いきなり自分のチームが襲撃に遭って、怪我人もたくさん出て、やり返しに行くって憤っている中、テンション高い方が変だもんね。
哲夫も哲夫なりに大変なんだよ。
仕方ない。
:09/01/18 17:11 :SH901iC :.ySjYrww
#527 [ゆーちん]
翌日、体の芯から冷える寒さのせいで普段より少し早い時間に目が覚めた。
昨日、眠る時間が早かったから起きた時間も早いんだ。
哲夫の機嫌は、いいみたい。
「今日は集会ないんだよね?」
「うん。年末年始とクリスマスと盆は休み。あとゴールデンウイークも。」
:09/01/18 17:12 :SH901iC :.ySjYrww
#528 [ゆーちん]
「ふーん。なんか…学校みたい。」
ベットに座りながら笑う私の隣に、チョンと腰を降ろした哲夫。
「ありゃ学校より低レベル。幼稚園みたいなもんだな。」
「康とか幼稚園児っぽいもんね。」
「顔だけ大人で、中身は幼稚園児より幼い奴だ。」
:09/01/18 17:16 :SH901iC :.ySjYrww
#529 [ゆーちん]
煙草に火をつけるのかと思ったら、哲夫は私の手を取り自分の頬にあてた。
「何してんの?」
「ん?お前の手ぇ暖かいから。俺の顔寒い。」
「顔が寒いって表現おかしくない?」
あぁ、この気持ちを【愛おしい】とかって言うんだ。
哲夫が可愛くて、優しくしたくなる。
心臓をキュッと摘まれてるみたい。
:09/01/18 17:17 :SH901iC :.ySjYrww
#530 [ゆーちん]
その痛みが、気持ち良いの。
「そう?」
「うん。康孝がバカだって言ったよね?でもよく考えたら実は康孝より哲夫のがバカだったりして?」
私はもう片方の手も哲夫の頬に添えた。
「千早様をナメんな?」
「アハハ!」
人の笑顔って、安心する。
自分も他人も、笑顔は幸せになれるものなんだ。
:09/01/18 17:19 :SH901iC :.ySjYrww
#531 [ゆーちん]
両手で掴んだ哲夫の顔。
自分の方に引き寄せると、哲夫は『そんなバカな千早様を好きなシホが、1番バカだな。』と言ってから私にキスをくれた。
うん、そうだね。
私が1番バカだよ。
バカだけど、バカでよかったって思うんだ。
こんなに愛おしい気持ちを知らなかった自分をバカだと思うけど、その気持ちを教えてくれたのが哲夫でよかった。
ずっとこのままでいたい。
:09/01/18 17:20 :SH901iC :.ySjYrww
#532 [ゆーちん]
いつものようにお風呂に入りご飯も食べ終えた頃、哲夫が言った。
「シホちゃん。」
「何、テッちゃん。」
「デートしない?」
「…する。」
慌てて服を着て、化粧や髪を整えた。
:09/01/18 17:21 :SH901iC :.ySjYrww
#533 [ゆーちん]
「どこ行くの?」
「ん?内緒。」
哲夫に肩を抱かれ、暗くなった外をゆっくり歩く。
風が冷たい。
だけど哲夫が傍にいるから、平気。
:09/01/18 17:21 :SH901iC :.ySjYrww
#534 [ゆーちん]
歩いて向かった先は、近くの公園だった。
「ブランコ乗る?」
「乗らない。」
「そ。俺は乗っちゃうよ〜。」
哲夫はブランコに腰をかけ、小さく揺らした。
:09/01/18 17:22 :SH901iC :.ySjYrww
#535 [ゆーちん]
キーコーキーコー…
懐かしい音。
萌子が施設でいた時、園内にブランコがあった。
よく聞いた音。
ブランコはいつも人気で、取り合いしてたっけ。
:09/01/18 17:22 :SH901iC :.ySjYrww
#536 [ゆーちん]
「なぁシホ。」
「ん?」
私はブランコの向かいにある小さな鉄棒にもたれ掛かった。
「お前の名前、なんでシホにしたか覚えてる?」
「…星が好きだからでしょ?」
:09/01/18 17:23 :SH901iC :.ySjYrww
#537 [ゆーちん]
「うん、そう。」
私は空を見上げた。
「私も星、好きだよ。綺麗だよね。」
冬の星は、よく輝く。
真っ黒な空に、小さく光る星。
ベストマッチだよ。
:09/01/18 17:26 :SH901iC :.ySjYrww
#538 [ゆーちん]
「綺麗だな。」
哲夫は煙草をくわえながら空を見上げた。
白い煙が空を舞う。
「お前に言っておきてぇんだけどさ。」
「うん?」
「俺、マジでシホの事好きだからな。」
慌てて視線を哲夫に向けた。
だけど哲夫は空を向いたままで…信じられない事を言われた私は、目を丸くする事しかできない。
:09/01/18 17:26 :SH901iC :.ySjYrww
#539 [ゆーちん]
「お前この前、私をペットとかどうとか…私の好きと俺の好きは違うとか…」
ねぇ、心臓が痛いよ。
でもこの痛みは、心地いい方の痛み。
:09/01/18 17:29 :SH901iC :.ySjYrww
#540 [ゆーちん]
「一緒だっつうの。ペットとかさぁ…口実。お前を俺の傍に置いとくための。」
「哲夫、何言って‥」
「一目惚れって、生まれて初めてなんだよ俺。」
ずっと空を見ていた哲夫の目が、やっと私に降って来た。
「汚い格好でボロボロの女が倒れてて…俺なぜかそいつ見て惹かれちゃったんだよね〜。まさか、あんな汚い女に一目惚れするなんて…自分でもビックリ。」
:09/01/18 17:30 :SH901iC :.ySjYrww
#541 [ゆーちん]
真面目な顔して、そんな事言わないでよ。
涙が出そうじゃない。
「殺せ殺せって喚くし、生意気だし、汚いし?」
白い煙と一緒に笑いも吐き出した哲夫。
「お前にとっちゃ同情なんていらねぇんだろうけど…俺はお前の事、可哀相な奴だなって思ったよ。だから余計に惹かれた。こいつ、俺より辛い思いしてんだろうなって思った。」
:09/01/18 17:30 :SH901iC :.ySjYrww
#542 [ゆーちん]
「…。」
何も言えない。
何も言っちゃいけない。
哲夫の話をゆっくり聞きたいから。
:09/01/18 17:31 :SH901iC :.ySjYrww
#543 [ゆーちん]
「お前と俺の好きは一緒だ。あ、やっぱ違うか。俺の好きのがお前よりでけぇわ。」
そんな嬉しい言葉、笑って言わないで。
涙が、出て来たよ。
「嘘…」
小さく呟いた独り言も哲夫は聞き逃さなかった。
:09/01/18 17:32 :SH901iC :.ySjYrww
#544 [ゆーちん]
「嘘じゃねぇよ。俺は好きな奴にしかキスしないし、髪切ってやったり、服とか携帯買ったりもしないぞ?それに…星の反対の名前だなんて付けないし。」
俯きながら涙を地面にポトポト落とした。
:09/01/18 17:33 :SH901iC :.ySjYrww
#545 [ゆーちん]
「俺のSEXに、お前は愛を感じねぇのか?」
哲夫が笑った。
愛って、何だろう。
哲夫とSEXした時に感じたもの?
快楽以外の…あの感情の事?
胸がキュッて締め付けられて、体中電気が走って、たまらなく抱きしめたいって思わされる…あれ?
:09/01/18 17:33 :SH901iC :.ySjYrww
#546 [ゆーちん]
だったら、私はSEXしている以外の時も哲夫の愛を感じてるよ。
一緒にいるだけで感じさせてもらってる。
そっか…。
あれが、愛なんだ。
「…感じる。」
「だったら余計な事とか考えんな。夜中に騒ぐのも迷惑とか思ってないし。俺はお前の味方だから。」
:09/01/18 17:34 :SH901iC :.ySjYrww
#547 [ゆーちん]
【味方】って言葉が、心底嬉しかった。
甘えてもいい?
頼ってもいい?
「本当に?」
「うん、本当。」
「それはシホに?それとも萌子に?」
「…どっちも。」
「二股はダメだよ。」
「えぇーっ。んじゃ…萌子に。」
哲夫が煙草を消した。
またブランコを少し揺らす。
:09/01/18 17:35 :SH901iC :.ySjYrww
#548 [ゆーちん]
「何で萌子なの?」
「シホは仲間がいるから。」
「…そっか。ねぇ!」
「ん?」
「萌子から伝言。親と…戦う。だから味方してくれる?」
哲夫の返事は聞かなくてもわかっていた。
彼は断るはずないもん。
「当たり前。一生味方だって伝えといて。」
優しい人だから。
:09/01/18 17:36 :SH901iC :.ySjYrww
#549 [ゆーちん]
笑顔の哲夫の胸の中に飛び込んだ。
「哲夫…」
「はいはい、泣かないの。」
「ありがと…」
「戦って戦って、どうしてもダメな時はいつでも戻ってきていいから。俺の家はお前の家だ。」
「うん。」
:09/01/18 17:42 :SH901iC :.ySjYrww
#550 [ゆーちん]
「戦いに負けても死のうなんて考えんなよ?」
「うん。」
「でもまぁ俺が味方だし?死にたいなんて思わせねぇから。」
「うん。」
「守ってやるから、お前の事。ずっと。」
哲夫の服が私の涙で濡れた。
「ずっと?」
「ずっと。ゼット・ユー・ティー・ティー・オー!」
:09/01/18 17:42 :SH901iC :.ySjYrww
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