闇の中の光

キーコーキーコー…

懐かしい音。

萌子が施設でいた時、園内にブランコがあった。

よく聞いた音。

ブランコはいつも人気で、取り合いしてたっけ。

「なぁシホ。」

「ん？」

私はブランコの向かいにある小さな鉄棒にもたれ掛かった。

「お前の名前、なんでシホにしたか覚えてる？」

「…星が好きだからでしょ？」

「うん、そう。」

私は空を見上げた。

「私も星、好きだよ。綺麗だよね。」

冬の星は、よく輝く。

真っ黒な空に、小さく光る星。

ベストマッチだよ。

「綺麗だな。」

哲夫は煙草をくわえながら空を見上げた。

白い煙が空を舞う。

「お前に言っておきてぇんだけどさ。」

「うん？」

「俺、マジでシホの事好きだからな。」

慌てて視線を哲夫に向けた。

だけど哲夫は空を向いたままで…信じられない事を言われた私は、目を丸くする事しかできない。

「お前この前、私をペットとかどうとか…私の好きと俺の好きは違うとか…」

ねぇ、心臓が痛いよ。

でもこの痛みは、心地いい方の痛み。

「一緒だっつうの。ペットとかさぁ…口実。お前を俺の傍に置いとくための。」

「哲夫、何言って‥」

「一目惚れって、生まれて初めてなんだよ俺。」

ずっと空を見ていた哲夫の目が、やっと私に降って来た。

「汚い格好でボロボロの女が倒れてて…俺なぜかそいつ見て惹かれちゃったんだよね～。まさか、あんな汚い女に一目惚れするなんて…自分でもビックリ。」

真面目な顔して、そんな事言わないでよ。

涙が出そうじゃない。

「殺せ殺せって喚くし、生意気だし、汚いし？」

白い煙と一緒に笑いも吐き出した哲夫。

「お前にとっちゃ同情なんていらねぇんだろうけど…俺はお前の事、可哀相な奴だなって思ったよ。だから余計に惹かれた。こいつ、俺より辛い思いしてんだろうなって思った。」

「…。」

何も言えない。

何も言っちゃいけない。

哲夫の話をゆっくり聞きたいから。

「お前と俺の好きは一緒だ。あ、やっぱ違うか。俺の好きのがお前よりでけぇわ。」

そんな嬉しい言葉、笑って言わないで。

涙が、出て来たよ。

「嘘…」

小さく呟いた独り言も哲夫は聞き逃さなかった。

「嘘じゃねぇよ。俺は好きな奴にしかキスしないし、髪切ってやったり、服とか携帯買ったりもしないぞ？それに…星の反対の名前だなんて付けないし。」

俯きながら涙を地面にポトポト落とした。