闇の中の光

結局、家に帰ってから、何も伝えらんなかった。

翌日、哲夫が出掛けるまでたくさん時間はあったのに何も言えずに、見送った。

「いってらっしゃい。」

「いってきます。」

笑顔の哲夫。

キスをもらってから送り出した。

家で一人ぼっち。

私はベットに潜り、哲夫の匂いを抱きしめた。

好きで、好きで、こんなに人を好きになれるなんてまだ信じらんない。

今頃、哲夫は怒ってるのかな。

誰かを殴ってるのかな。

願わくば、哲夫の笑った顔だけを見ていきたい。

これから先、ずっとずっと。

気が付くと哲夫が隣で眠っていた。

私、いつのまに寝ちゃったんだろう。

隣に哲夫がいる事実に、思わず涙が浮かんだ。

無事でよかった。

だけど顔には数ヵ所に傷。

見てて痛々しかった。

「…シホ。」

小さく囁いた哲夫。

「ごめん、起こした？」

「ううん。おはよう。」

「おはよう。ていうか…おかえり。」

「ただいま。」

笑ってる哲夫を見て、浮かんでいた涙は零れてしまった。

「情緒不安定だな、お前。」

「ごめ…なさ…」

「謝んなくていいっつうの。それより消毒して。ズキズキして熟睡できねぇ。」

「あ、うん。」

涙を拭いて、薬箱を取りに向かった。

薬箱の中には、私が以前買って来た薬が入っていた。

シホになって初めて１人で外に出た時、コンビニで買ったんだっけ。

哲夫が熱出して、助けたくて、じっとしてらんなくて…今思えば、きっとあの時から、私は哲夫を好きだったんだ。

「いってぇ！」

「…我慢して。」

「もうちょっと優しくしてよ。」

「優しくしてるよ？」

「殴られるより消毒のが痛いし。」

哲夫は誰かを殴った？

…って、そんな事聞くのはタブーだよね。

「シホ。」

「ん？」

「あの男…萌子に伝えてくれって頭下げに来た。」

心臓が波打った。

あの男って、宗太郎の事だよね。

「…何？」

「萌子がまだ好きだ、ってさ。」

何、それ。

宗太郎、頭おかしいよ。

萌子のどこが好きなの。

嘘だ。

萌子をまだ好きでいてくれてるなんて嘘だよ。

「地元じゃ騒ぎになってるらしい。警察には届けてねぇみたいだけど…萌子を心配してる人もいるんだ。」

「シホ…じゃねぇや。萌子。急かすつもりなんか無かったけど、近々戦ってこいよ。俺も戦ったんだ。次は萌子の番じゃねぇか？」

自信がないとか、まだ恐いとか、そんな甘い事を言ってる場合じゃないって思った。