闇の中の光

「哲夫。」

「はいよ。」

「いつ帰って来たの？」

「２時ぐらい。」

「今日も集会あるの？」

「あるよ。行きたい？」

「ううん。」

「そ。なら留守番ね。」

「うん。」

時計を見ると12時を迎えようとしていた。

どうりでお腹が空くわけだ。

「シホ。お腹空かない？」

「空いた。」

「昨日の昼から何も食べてないんだわ、俺。」

私は、いつから食べてないんだろう。

一昨日の昼からだから…丸２日かな。

最後の食事はサンドイッチだった。

萌子として、友達と昼ご飯を食べた。

そして、昨日、萌子は死んだ。

私はシホになった。

シホになってから、まだ水一滴たりとも口にしていない。

今、やっと空腹感に襲われた。

あぁ、生きてるんだって思えた。

「飯食い行くか。シホ昨日風呂入った？」

「入ってない。」

「俺も入ってないし、一緒に入るか。」

「…やだ。」

「お前に拒否権はない。」

ニッと笑い、私の頭を優しく叩いた哲夫は立ち上がり、浴室に向かった。

私も立ち上がり、哲夫のあとを追った。

「ねぇ。」

「ん？」

「何でお湯、溜まってんの？」

「え？」

「いつ入れたの、お湯。」

「あぁ、機械が入れてくれんだよ。タイマーにして。俺毎日風呂入るの昼間だからさ、このくらいの時間になったら自動で溜まるように設定してあんの。」

驚いた。

世の中そんな素敵な機能のついたお風呂があるんだ。

信じらんない。

「楽チンだね。」

「便利な世の中だよな。」

哲夫はポケットから携帯灰皿を取り出し、煙草の火を消した。

「はい、脱いで。入るよ。」

下着だけの私は簡単に裸になった。

哲夫もすぐに服を脱ぎ捨て、私と一緒に湯舟につかる。

「うーっ、気持ちいい。俺風呂好きなんだわ。」

「どうして夜入んないの？」

「疲れてそのまま寝ちゃうんだよ。だからいっつも起きたら入る。」

「一日の始まりはお風呂からなんだね。」

「そゆ事～。」

今日も、哲夫に後ろから抱きしめられながら体を温める。

背中やお腹をずっと撫でてくれるんだ。

理由はわからないけど、なぜか哲夫が触れた場所は、痛みが和らいだ。

お風呂から出て、買って来た服を身にまとった。

「おぉー、似合う似合う。化粧もしろよ。化粧は女の身嗜みって言うからな。」

「…面倒だよ。」

「じゃあスッピンで行くのか？もしくはピザでも頼む？」

「…私が、作る。」

キッチンに行き、冷蔵庫の中を見ると、何とかなりそうだと思った。

「えっ、お前料理できんの？」

「…うん。」

萌子の時は、毎日料理していたから。

作りたくもない料理を、毎日毎日我慢して作ってたから。

「お好み焼きでいい？」