闇の中の光

だけど私より、哲夫の方が苦しいんだ。

店員に教えてもらい、即購入。

来た道を走りながら戻る。

「テツ！」

家に帰ると、『脱走すんな、バカ。』と汗だくの哲夫が笑った。

無理に笑わなくていいよ。

苦しいくせに。

水をコップに汲み、薬を哲夫に飲ませた。

「初めての…おつかい…偉かったな…」

バカ。

無理に笑わないでよ。

何だか泣けてくる。

「シホが…買ってくれた薬だ。すぐに…治るよ。」

辞めて。

自分が苦しいのに、私に気を使わないで。

「ありがとな…」

頭なんか撫でないで。

自分が撫でられる立場なんだよ。

私に優しくしないで…。

「哲夫、着替えた方がいいよ。」

人を介抱するなんて初めてだから、服を着替えさすのは私にとって大仕事。

やっと着替えが終わった頃には、薬が効いてきたらしく哲夫は眠ってしまった。

このまま私も寝るってわけにはいかない。

哲夫の、看病しなくちゃ。

テレビや漫画の見よう見真似。

冷たいタオルをおでこに乗せて、部屋を温かくする。

哲夫を起こさないように体温計で熱を計ると、38.9度もあった。

もっと汗をかかせなきゃ。

でも、もし風邪じゃなかったら…

もし、この看病の方法が間違ってたら…

哲夫、死なないで。

そんな事ばかり願っていた。

「テツ…」

とりあえず、私にできる事をしよう。

こまめに冷たいタオルに変えて、温かい格好をさせれば大丈夫だよ。

萌子は、そうしてきた。

体調を崩したら、自分で自分を看病した。

大丈夫。

私は萌子じゃなくて、シホだけど、きっと大丈夫。

哲夫の看病、できる。

「哲夫、頑張ってね。」

主人の回復を祈るペットは、その夜、一睡もせずに哲夫の看病をした。

タオルを変えて、汗だくの服も着替えさせて、体温を計る。

鳥が鳴く頃、37.5度まで下がった時には嬉しくて一気に緊張の糸がほどけた。

「よかったー。」

思わず哲夫の頭を撫でた。

綺麗な金色頭。

怖い顔して、寝顔は子供みたいな顔。

昼前。

普段の起床時間。

哲夫は自然に目を覚ました。

私が作ったお粥を完食し、薬を飲み、もう一度眠ると言った。

「お前、寝た？」

『寝たよ。』と嘘をついた。

一睡もしないで看病してたの、なんて恩着せがましい事は言わない。

眠る前、熱を計ると37.2度だった。

もう心配はない。

哲夫の回復力に感謝。

「俺、今日の集会は顔出すだけにするわ。」

「うん。」

「シホは居てもいいんだぞ？」

「ううん。私も哲夫と一緒に帰る。」

「そ。」