闇の中の光
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#296 [ゆーちん]
一通り買い物が終わると、私の欲しい物がないかを聞いてくる。


いつもは『ない。』と答えるけど、今日は『ある。』と答えた。


「何?」

「…お箸。」

「箸?箸ならまだあっただろ?」


うん、ある。


たくさん。


でもそれは割り箸じゃん。

⏰:09/01/05 18:14 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#297 [ゆーちん]
「お箸を洗いたいんだ。」


哲夫は私の言葉に笑い出した。


笑われて、少し腹が立った。


何で笑うの、って。


腹が立ったけど、嬉しかった。


あぁ、私、人間やってるんだって思えたから。

⏰:09/01/05 18:16 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#298 [ゆーちん]
「何で割り箸じゃだめなわけ?」

「だって…寂しいじゃん。」

「寂しい?」

「自分専用のお箸ってさ、何かこう…家族の特権物って言うか。」


ふと思った。


私は哲夫に取って、一体なんなんだろう。

⏰:09/01/05 18:17 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#299 [ゆーちん]
チームの中では彼女という存在として認知されてしまっているが、本当のところただのペット。


だけど世間一般からして、ペットだなんていう存在は認めてもらえない。


だって私は…人間だから。

⏰:09/01/05 18:17 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#300 [ゆーちん]
人間になりそこねた人間を拾った哲夫は、私のことをどう思っているのだろう。


…って、バカか私は。


そんな事を考えるようになっちゃったのかと思うと、この言葉にできない感情が何なのかわからなくて余計にウズウズする。

⏰:09/01/05 18:18 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#301 [ゆーちん]
「家族の特権物ねー…」


哲夫は何かに懐かしんでいた。


気になるけど聞いちゃいけない。


過去は、聞きたくないし聞かれたくない。


そんな関係なんだ、私たち。


「…ダメならいいよ。」

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#302 [ゆーちん]
哲夫の目は現在の光を映し、ニッと笑った。


「ダメじゃねぇよ。欲しけりゃ買ってやる。」

「…うん。」


お箸なんてさ、どうでもいいって思うかもしれないけど、私は思い入れがあるんだ。


いや、正確には私じゃなくて萌子だね。

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#303 [ゆーちん]
萌子は生きる希望や、楽しみなんか全然なかった。


何もいらない。


必要ない。


家族なんかこっちから願い下げだ。


何の夢もない家族。


一緒にいるのも辛い。


だけど…たまに優しかったんだ。

⏰:09/01/05 18:20 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#304 [ゆーちん]
萌子に暴力を振るっていた母も、萌子に暴力を振るう父も…ごくたまに、優しかったんだ。


だから、なかなか見放せなかったんだと思う。


そんなちっぽけな家族も、お箸だけはお揃いだった。

⏰:09/01/05 18:21 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#305 [ゆーちん]
父は青、母は赤、萌子は黄。


同じ形で長さが少しずつ違う、色違いのお箸。


赤と青が揃う事や赤を使う所を見たという事はもう何年もなかった。


青と黄だけが、動いていたんだ。

⏰:09/01/05 18:25 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


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