闇の中の光
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#301 [ゆーちん]
「家族の特権物ねー…」


哲夫は何かに懐かしんでいた。


気になるけど聞いちゃいけない。


過去は、聞きたくないし聞かれたくない。


そんな関係なんだ、私たち。


「…ダメならいいよ。」

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#302 [ゆーちん]
哲夫の目は現在の光を映し、ニッと笑った。


「ダメじゃねぇよ。欲しけりゃ買ってやる。」

「…うん。」


お箸なんてさ、どうでもいいって思うかもしれないけど、私は思い入れがあるんだ。


いや、正確には私じゃなくて萌子だね。

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#303 [ゆーちん]
萌子は生きる希望や、楽しみなんか全然なかった。


何もいらない。


必要ない。


家族なんかこっちから願い下げだ。


何の夢もない家族。


一緒にいるのも辛い。


だけど…たまに優しかったんだ。

⏰:09/01/05 18:20 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#304 [ゆーちん]
萌子に暴力を振るっていた母も、萌子に暴力を振るう父も…ごくたまに、優しかったんだ。


だから、なかなか見放せなかったんだと思う。


そんなちっぽけな家族も、お箸だけはお揃いだった。

⏰:09/01/05 18:21 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#305 [ゆーちん]
父は青、母は赤、萌子は黄。


同じ形で長さが少しずつ違う、色違いのお箸。


赤と青が揃う事や赤を使う所を見たという事はもう何年もなかった。


青と黄だけが、動いていたんだ。

⏰:09/01/05 18:25 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#306 [ゆーちん]
文句を言いながらでも父は萌子が作った料理を食べてくれた。


あの青い箸で。


それが何だか家族らしくって、それだけが心安らぐ物だった。


こんな気持ち、萌子にしかわかりっこないよね。


哲夫にはわかんないよ、きっと。

⏰:09/01/05 18:27 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#307 [ゆーちん]
「ピンクとグリーン?」

「うん。グリーン嫌?」

「嫌じゃねぇけど…普通、色違いにすんなら赤と青だべ。」


それは、いや。


赤、青、黄は…いや。


「普通なんてつまんない。みんなと違う方がいい。」

「まぁ、それもそうだけど。じゃあピンクとグリーンでいっか。」

⏰:09/01/05 18:28 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#308 [ゆーちん]
哲夫に初めて自分からねだって買ってもらった物。


次の日の昼、さっそく使う事にした。


「つるつる〜。」


割り箸とは違う手触りに、哲夫は子供のように笑ってた。


そんな哲夫を見て、また心のどっかがウズウズした。

⏰:09/01/05 18:29 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#309 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

トラウマ

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/06 17:21 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#310 [ゆーちん]
自殺失敗から1ヵ月以上が経った。


波風立たない生活を過ごしていた私と哲夫。


だけど急に波が荒れた。


風が吹いた。


些細な事がきっかけで、事件が起こった。


私を苦しませた、ちょっとした事件が。

⏰:09/01/06 17:21 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#311 [ゆーちん]
その日もいつものように集会に来ていた。


のんちゃん達と、あの芸能人がカッコイイとか不細工だとか、そんな話をしていた。


他愛もない、楽しい会話。

⏰:09/01/06 17:22 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#312 [ゆーちん]
「殺すぞっ!」


その場に相応しくない言葉が響いたのは、のんちゃん達と笑いあったすぐの事だった。


私たちのグループの隣にいた男の子2人が言い争いを始めた。


じゃれあいなんて日常茶飯事。


だけど、これはじゃれあいなんかじゃない。


…喧嘩だ。

⏰:09/01/06 17:27 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#313 [ゆーちん]
「あぁ?お前もっかい言ってみろ!」

「調子乗ってんじゃねぇぞ、てめぇ!」


初めてチーム内での喧嘩を目の当たりにした。


驚きの次に私を襲ったのは、恐怖だった。


「殺されてぇのか!」

「あぁ?」

⏰:09/01/06 17:27 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#314 [ゆーちん]
その大声と怒鳴り声。


私をシホから萌子に戻させた。


父から受けた虐待が脳裏に浮かぶ。


やめて、怖い。


声を、出さないで。


震える体は、喧嘩している2人の方を向いて動かない。


見たくないのに、目が2人から離れない。

⏰:09/01/06 17:28 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#315 [ゆーちん]
「ちょっと、やめなよー。」


のんちゃんたちが慌てて止めに入る。


が、止められれば止められるほど興奮してしまうのだろう。


声が余計に荒くなった。


「ふざけんな!離せ!」

「お前なんか殺してやるよ!」

⏰:09/01/06 17:31 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#316 [ゆーちん]
私はシホだよ。


萌子じゃない。


暴力なんか振るわれた事ない。


なのに、なんで体が震えんの。


シホには何のトラウマもないじゃない。


トラウマがあるのは萌子だよ。


私は…シホなんだよ?

⏰:09/01/06 17:32 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#317 [ゆーちん]
「いや…やだよ…」


無意識に呟いていた。


恐くて恐くて、息がうまくできない。


「シホちゃん?」


みんなが私の異変に気付いた時には、苦しくて苦しくて息ができなかった。


「助けて…テツ…」

⏰:09/01/06 17:33 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#318 [ゆーちん]
知らないうちに涙も出ていた。


喧嘩する2人と、それを止める人の声。


私を心配する声。


そして…


「おい!シホ!」


哲夫の声も聞こえた。

⏰:09/01/06 23:35 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#319 [ゆーちん]
哲夫の匂いが鼻につく。


近くに来てくれたんだ。


「シホ、おい!どうした?」


駆け付けてくれた哲夫は、私を抱き抱えた。


やっと、やっと目が喧嘩する2人から離れた。


目に映るのは、哲夫の顔だけ。

⏰:09/01/06 23:36 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#320 [ゆーちん]
「テツ…怖い…」

「何?俺が怖いの?」


慌てている哲夫を見たのは初めてで、なんだか余計に涙が出てしまった。


首を横に振る私を見た哲夫は、すぐに喧嘩している2人に言った。

⏰:09/01/06 23:36 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#321 [ゆーちん]
「お前ら、ちょっと静かにしろ。」


哲夫の低くゆっくりした言葉に、さっきまで怒り狂ってた2人は悔しそうに言い合いを辞めた。


一気に、チーム全員の目が私と哲夫に向く。

⏰:09/01/06 23:37 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#322 [ゆーちん]
「康、車出してくれ。」

「おっ、おう。」


私は哲夫に抱っこされ、康孝の車に向かった。


『シホちゃん。』と、のんちゃんたちの声が聞こえたけど、息苦しくて何も言い返せなかった。


何でこんなに苦しいんだろう。


死にそうに、苦しい。

⏰:09/01/06 23:38 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#323 [ゆーちん]
車に乗り込み、哲夫は家まで走らるよう康孝に言った。


うるさい車が走り出す。


「テツ…」


息が、できないんだ。


それすら伝えられない。


名前を呼ぶのに必死。


「シホ…死ぬなよ。」

⏰:09/01/07 15:17 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#324 [ゆーちん]
さっきまで堂々としていた哲夫の表情が一気に弱くなった。


涙でぼやけてよく見えないけど、でも絶対…哲夫は焦っている。


哲夫に迷惑かけている。


「ごめ…ね…」

「いいから。無理に喋んなよ。」

⏰:09/01/07 15:18 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#325 [ゆーちん]
涙が止まらない。


苦しい。


「おい、康。家へ連れて帰るより病院のがいいのか?」

「わかんねぇよ。すげぇ苦しそうだし…もしかして過呼吸じゃね?」


…過呼吸?


あぁ、そうだ。


過呼吸だよ。


萌子の時、よくなったじゃん。


過呼吸なら、対処法はわかる。

⏰:09/01/07 15:19 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#326 [ゆーちん]
「袋…」

「え?」


哲夫に聞き返され、もう一度『袋。』と答えるだけでも苦しい。


「袋なんかねぇよ。康、お前持ってる?」

「ない。」


私は両手を口元にあて、わずかながらも二酸化炭素を吸う努力をした。

⏰:09/01/07 15:20 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#327 [ゆーちん]
「え、何してんだよ。吐きてぇの?」

「哲夫、それたぶん二酸化炭素吸ってんだわ。過呼吸って、体中の二酸化炭素が足りなくて苦しくなる症状だから。」


康孝の説明に、うんうんと頷くと哲夫は不安な顔のまま私を見ていた。

⏰:09/01/07 15:21 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#328 [ゆーちん]
所詮は自分の小さな手の平。


すき間だらけで、二酸化炭素なんて気休め程度。


苦しくて、死にそうだ。


死にたくないなんて思ってしまった私は、愚か者だろうか?

⏰:09/01/07 15:21 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#329 [ゆーちん]
家に到着し、哲夫に抱き抱えられながら車から降りた。


ベットに寝かされ、哲夫は康孝に聞いた。


「袋どこ?」

「はぁ?知らねぇよ!」

「俺、自分んちのこと把握してねぇんだよ。」

「袋ぐらいどこかにあるだろ!」

⏰:09/01/07 15:22 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#330 [ゆーちん]
いざと言う時の男は情けない。


あたふたして…苦しさに襲われている私は、なぜか嬉しくなった。


「哲夫…」

「ほら、呼んでんぞ!」


哲夫と康孝が駆け寄ってくれた。


「シホ、袋どこにあんの?」

⏰:09/01/07 15:23 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#331 [ゆーちん]
哲夫の質問は無視した。


私を覗き込む彼の顔を、必死に手を伸ばし、自分の顔に押し付けた。


「はぁ?」


康孝から見ればいきなりのキス。


私は康孝の目も気にせず、哲夫の口を広げた。

⏰:09/01/07 15:24 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#332 [ゆーちん]
息を送り、また哲夫の口の中の空気を吸う。


哲夫は驚き、唇を離してしまった。


「シホ?いきなりキスとか意味わかんねぇんだけど。しかも舌じゃなくて息入れてくるって、どういう事だよ!」

⏰:09/01/07 15:24 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#333 [ゆーちん]
照れてんのか怒ってんのかわかんないけど、哲夫は笑ってた。


すると康孝はいきなり哲夫の頭を掴み、私に押し当てた。


「わかった!テツ、お前の口が袋変わりだ。キスじゃねぇ。お前が二酸化炭素送り込んでやればいいんだ。」

⏰:09/01/07 15:25 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#334 [ゆーちん]
康孝、バカに見えて頭いいんだ…。


助かった。


哲夫は康孝に言われた通り、息を吐いてくれた。


それは私に二酸化炭素を与えてくれているのと同じで、私を救ってくれる。


しばらくすると涙が止まり、息も落ち着いて来た。

⏰:09/01/07 15:26 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#335 [ゆーちん]
哲夫の口を離し、酸素を吸った。


うん、もう大丈夫かな。


「シホ、もういいのか?」

「うん、ありがと。」


胸を撫で下ろす2人。


「ヤッちゃんも、ありがとうね。」

「どいたま。」


康孝に頭を撫でられ、生きた心地を感じた。

⏰:09/01/07 15:27 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#336 [ゆーちん]
「それにしても康、よく過呼吸なんてわかったな。」

「あぁ、漫画で見たから。」


…なんだ。


漫画が情報源かよ。


でも、その漫画の情報を覚えてくれていたおかげで私は助かった。


ありがとね、康孝。

⏰:09/01/07 15:27 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#337 [ゆーちん]
「そんじゃ、もう大丈夫だろうから俺帰るわ。」


そう言って康孝が帰ったすぐ、家の中の電気は真っ暗に消された。


「哲夫、ごめん。迷惑かけて…」


いつものように私の隣に潜り込み、ベットに寝転がると、哲夫は私を包み込んだ。

⏰:09/01/07 15:28 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#338 [ゆーちん]
「迷惑じゃねぇよ。でもすっげぇ心配した。」

「ごめんなさい。」


哲夫の腕の中はいい匂いで、温かくて、気持ち良い。


「謝るな。俺が悪い。ごめんな。」


哲夫が謝る理由なんか1つもないのに…何で謝ってんの?

⏰:09/01/07 15:29 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#339 [ゆーちん]
「怖かっただろ。ごめん。」


その優しい言葉に、おもわず涙が出そうになった。


うん、怖かったよ。


だけどそんなの素直に言えなくて…ただ黙って、哲夫の腕の中で目を閉じる事しかできなかった。

⏰:09/01/07 15:29 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#340 [ゆーちん]
過呼吸は、萌子の時に何度も経験した。


そのたび、自分で口に袋をあてて対処した。


あんなの慣れっこだったのに、久しぶりだったもんだから。


それにシホとしての過呼吸は初めてで…正直戸惑ったんだ。


自分で自分の事、わかんなくなってきてるかも。


自分が自分を理解できていない…。

⏰:09/01/07 15:32 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#341 [ゆーちん]
あの喧嘩事件から3日後、私は集会に顔を出した。


それまでの2日間は哲夫だけの参加。


顔を出すだけですぐに帰って来てくれた。


久しぶりの集会は、少し緊張した。

⏰:09/01/07 15:33 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#342 [ゆーちん]
「シホちゃん!」

「もう大丈夫?」


みんなの心配が、嬉しかった。


萌子の友達は、心配するっていう言葉を知らない奴らばっかだったから。


「ありがと。もう大丈夫だから。」


のんちゃん達と話していると、『シホさん。』と名前を呼ばれた。


振り返ると、喧嘩していたあの2人がいた。

⏰:09/01/07 15:33 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#343 [ゆーちん]
私が振り向くなり、頭を下げた。


「すみませんでした。」

「金輪際、喧嘩なんかしません。」


え?って顔で遠くにいた哲夫を見ると、ニッと笑っていた。


私は2人に視線を戻し『いえ、大丈夫です。』とだけ答えた。


言い訳や謝罪の言葉が聞こえたが、全部聞き流した。

⏰:09/01/07 15:34 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#344 [ゆーちん]
「許してくれますか?」

「あっ…はい、もちろん。」

「本当すみませんでした。」


もう一度頭を下げてから私の前から去って行った2人。


「あれ?許しちゃったの?」


のんちゃんが言った。

⏰:09/01/07 15:34 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#345 [ゆーちん]
「うん。だって許すも何も、私あの人たちに怒ったりしてないもん。」

「デコピンぐらい喰らわせればよかったのに。」


のんちゃんのエクボを見て、私の顔も緩んだ。


「行こ。」

⏰:09/01/07 15:35 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#346 [ゆーちん]
のんちゃんに手を取られ、みんながいる場所に向かった。


哲夫の手も好きだけど、のんちゃんの手も好き。


人の温もりが心地いいよ。


ねぇ。


ずっとこのままでいたいよ。


それは望んじゃいけないことなのかな?

⏰:09/01/07 15:36 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#347 [我輩は匿名である]
あげますx
頑張ってくださいP

⏰:09/01/07 22:06 📱:W61SA 🆔:kGu8gGvQ


#348 [(´ー`)]
あげあげ
更新楽しみにしてるよー
頑張って(*´∀)ノ

⏰:09/01/10 03:24 📱:SH902iS 🆔:tyjpPZnY


#349 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

age
ありがとう
ございます

不定期更新で
すみません

今から書きます

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/10 22:25 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#350 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

お釣り袋

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/10 22:27 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#351 [ゆーちん]
私の茶色い髪も、哲夫の金色の髪も、根本が黒くなって来た頃。


美容院で2人して髪色を変えた。


私は少し暗くしてもらったのに、哲夫はますます明るくなった。


金って言うか…銀?


銀色ヘアーがなんだかやけに馬鹿っぽく見えて、お腹を抱えて笑った。

⏰:09/01/10 22:28 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#352 [ゆーちん]
家に帰って来てから私は哲夫に髪を切ってもらった。


長くなっていた前髪がまた短くなる。


「うん、やっぱシホはパッツンのが似合うな。」


褒められると、嬉しい。


そんな12月の末。


もうすぐ今年が終わるよ。

⏰:09/01/10 22:29 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#353 [ゆーちん]
このまま大晦日を迎えて、新年も哲夫と一緒に迎えたい。


そんな事を願いながら、髪をイメチェンした2人は今日も集会に向かう。


寒くて寒くて、哲夫の腕から離れたくなかった。


だけどのんちゃん達とも話したい。


人間って…私って、わがままなんだ。

⏰:09/01/10 22:31 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#354 [ゆーちん]
「寒いねぇ。」


私がみんなの輪の中にいつものように混ざると、いつものように出迎えてくれる。


「シホちゃん、お疲れ〜。」

「てゆーか髪切ったべ?」

「色も変わった?暗くしたの?」

「前髪パッツン復活じゃーん!」

「超可愛い!」

⏰:09/01/10 22:33 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#355 [ゆーちん]
仲間に褒められるのも、嬉しい。


「ありがと。」


ありがとうって言葉を言える環境の中にいれるってのも嬉しい。


嬉しい事だらけの12月。


だけど、ちょっと厄介な事もあった。


それは…


「いやーっ!」


私が夜中に、叫び出す事。

⏰:09/01/10 22:35 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#356 [ゆーちん]
「シホ、大丈夫。俺ここにいるから。」

「やだ…怖い…テツ…怖いよ…」


あの喧嘩を見てから、なぜだか夜中に叫びながら起きてしまうって事がある。


暴力振るわれる夢を見ていたのか、ただ無意識に恐怖を感じていたのか、自分でもわからないけど夜中に叫び出す。

⏰:09/01/10 22:35 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#357 [ゆーちん]
「怖くない、怖くない。ゆっくり息吸ってみ?」


眠りについたすぐなのに、哲夫を起こしてしまい、こうやって介抱してくれる。


ギュッと抱きしめて、優しくなだめてくれる。


この前みたく焦ったりしないで、冷静に介抱してくれる哲夫の声に安心感を覚える。


ゆっくりと息を吸い、ゆっくり吐いた。

⏰:09/01/10 22:38 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#358 [ゆーちん]
「そう。よくできました。はい、目ぇ閉じて。」


催眠術のような哲夫の言葉で、私は再び眠りにつく。


こんな事が何日か続いた。


哲夫は気にするなって言ってくれるけど、そういう訳にもいかない。


別々に寝ようと試したけど、余計に叫んじゃうし、全然眠れない。

⏰:09/01/10 22:38 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#359 [ゆーちん]
つまり、私は哲夫の隣じゃないと眠れないの。


結局、哲夫に迷惑かけながら眠る日が続いた。


「ごめんね。」

「悪いと思うなら今日の昼飯はハンバーグにして。」

「…子供みたい。」

「うるせ!」


笑って許してくれる哲夫に、本当感謝だよ。

⏰:09/01/10 22:41 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#360 [ゆーちん]
ある日の会話。


康孝に乗せられて、買い物に出掛けていた。


「テッちゃーん。今年のクリスマスどうすんの?」



康孝が聞いた。


「いつも通りだけど。」

「シホちゃんも参加?」

「参加するだろ?」


康孝と哲夫に聞かれたのはいいけど、何の事だかさっぱり。

⏰:09/01/10 22:56 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#361 [ゆーちん]
聞くと、毎年12月25日はチームのみんなでクリスマスパーティーをしているらしい。


場所は、いつもの集会場所じゃ寒いから、近くの居酒屋でやるんだって。


「シホも行く?」

「行く。」


生まれて初めて、クリスマスに楽しみができた。

⏰:09/01/10 22:57 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#362 [ゆーちん]
買い物中も、クリスマスパーティーの事が楽しみで、胸が騒いだ。


「ヤッちゃん。」

「ん?」

「クリスマスパーティーって、どんな事すんの?」


哲夫が自分の服を選んでいる間、私と康孝は後ろで雑談。

⏰:09/01/10 22:58 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#363 [ゆーちん]
「別に普通だよ。飯食って、酒飲んで、カラオケして、ビンゴして。」

「ビンゴ?ビンゴするの?」

「いかつい集団のくせに、可愛いゲームだなって思った?」


康孝が笑った。


違う、そうじゃない。


私が驚いたのは、それが理由じゃない。

⏰:09/01/10 22:58 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#364 [ゆーちん]
「私ビンゴした事ない。」

「えっ、マジ?」

「うん。でもやり方はわかるよ!経験ないだけ。」

「そっか。じゃあ楽しみだな。」

「うん、楽しみ!ねぇ、景品って何があるの?」

「当日までのお楽しみ。」

「気になる〜!」

⏰:09/01/10 22:59 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#365 [ゆーちん]
なんて話をしていたら、哲夫は買う物が決まったらしくレジに向かう。


この日の哲夫は、カード支払いせずに現金払いが目立った。


万札だけで支払いを済ませ、康孝がお釣りを受け取り、いつもの袋に入れる。


「次行くぞ。」


哲夫の後ろを私と康孝でついて行く。

⏰:09/01/10 23:00 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#366 [ゆーちん]
「ねぇ哲夫、ヤッちゃんが持ってるこの袋、お釣り入れ?」

「ん?まぁ、そんなもんだな。」


哲夫に聞いた後、また違う店で服を漁り出したので私は康孝と後ろで待つ。

⏰:09/01/10 23:02 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#367 [ゆーちん]
「この袋は哲夫の優しさなんだよ。」


康孝が、さっきの質問の答えを詳しく教えてくれた。


「優しさ?」

「この袋に入れてる金は、チームの経費みたいなもん。集会場所、野外なのにいつも電気点いてんだろ?あの電気代は、この袋の中の金で払ってんの。」

「…そうだったんだ。」

⏰:09/01/10 23:02 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#368 [ゆーちん]
確かに、よく考えれば電気はいつも点いていた。


電気代とか、そんな事考えた事もなかったな。


「チームのみんなには内緒なんだ。哲夫が電気代払ってるって事。みんなには電気は勝手に点けてる、みたいに振る舞ってんだけど…でもたぶんみんな知ってる。哲夫が電気代払ってる事。」

「何か…カッコイイ。」

⏰:09/01/10 23:03 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#369 [ゆーちん]
「おう。あいつはカッコイイ男だよ。俺が払ってんだぜーとか言わないで、さりげなくチームの環境整えてんのがカッコイイ。だからみんな哲夫に付いて来るんだな。」


そっか。


そうなんだ。


納得かも。


哲夫はリーダー性のある男なんだね。

⏰:09/01/10 23:04 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#370 [ゆーちん]
買い物も済み、そのまま康孝の車で集会に直行。


のんちゃん達と話した事はもちろんクリスマスパーティーの事だ。


「もちろん。みんな参加だよー。シホちゃんもでしょ?」

「うん。参加する。」

「やったね。超楽しみだ。」

⏰:09/01/10 23:05 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#371 [ゆーちん]
「何か緊張する…」

「アハハハ!緊張とか、可愛いね〜。さすが17才。シホちゃん見てるとウチらまで初々しい気持ちになるよ。」


笑顔が絶えないの、この人達といると。


12月の夜空の下、体寄せ合って寒さを笑い飛ばすんだ。


その空間が心地いい。

⏰:09/01/10 23:05 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#372 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

すみません

今日はここまで

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/10 23:06 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#373 [ゆーちん]
そして待ちに待ったクリスマスパーティー前日。


そう、今日はイヴ。


彼女でもない私と、この日を一緒に過ごしてくれるなんて…。


「哲夫、彼女いないの?」

「はぁ?今更な質問だな。」

「聞くタイミングがなくて。」

「そ。」

⏰:09/01/11 11:24 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#374 [ゆーちん]
「いないの?」

「いない。いたらこんな日にこんな事してない。」


こんな事とは…クローゼット掃除。


また新しい服が増えたので、いらなくなった服を引きずり出しているらしい。


「いないんだ。ふーん。」

⏰:09/01/11 11:25 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#375 [ゆーちん]
「リアルな話。もしいたらシホをこの家に住ませないだろ?」

「…それも、そうだね。」

「わかったなら、そんな悲しい質問はもうすんなよ。」

「フッ。悲しいの?」

「悲しいよぉ。俺クリスマスとかに、ちゃんとした彼女いた事ないもん。」

「…ふーん。」

⏰:09/01/11 11:27 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#376 [ゆーちん]
哲夫の過去、聞きたいようで聞きたくないな。


私だけ哲夫の過去を聞いて、私は自分の過去を話さない。


そんなフェアじゃないのは、あんまり好きじゃないし…。


って、何きれいごと言ってんだろう私。

⏰:09/01/11 11:31 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#377 [ゆーちん]
哲夫に迷惑かけて、生かせてもらっているのに…何がフェアじゃない、だよ。


私は、自分の過去を思い出すのが怖いだけの、ただの弱虫じゃないの。


「今日はチキンでも焼く?」

「…イヴだから?」

「うん。嫌?」

「嫌じゃねぇけど…俺はシホの作る煮魚が食べたい。」

⏰:09/01/11 11:34 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#378 [ゆーちん]
「煮魚ぁ?」


思わず笑ってしまった。


「うん。」


哲夫は黙々とクローゼットの整理に励む。


「別にいいけど…クリスマスっぽくないよ、煮魚は。」

「俺日本人だし。別にキリストさんとか興味ないし。だからあえて日本食がいい。」

⏰:09/01/11 11:35 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#379 [ゆーちん]
「興味ないとか言っちゃってぇ…明日クリスマスパーティーなのに。」

「それはー…まぁあいつらがパーティーしたいっつうから仕方なく?」

「クリスマスに恋人がいない人の負け惜しみに聞こえるよ、テッちゃん。」

⏰:09/01/11 11:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#380 [ゆーちん]
からかうように私が肩を叩くと、哲夫は『うるせぇ。』とひるんでいた。


そんな哲夫を見て、自然と笑顔が零れてしまった。


「煮魚とご飯とみそ汁!頼んだよシホちゃん。」

「はいはい。」

⏰:09/01/11 11:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#381 [ゆーちん]
この前買い物に行った時、魚を買っておいてよかった。


こんな寒い日に買い物に行きたいとは思わないから。


いつの間にか、この家で料理をするのも手慣れたものになっていた。


調理具や調味料や食器。


どこに何があるのか今では全部把握できているはず。

⏰:09/01/11 21:34 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#382 [ゆーちん]
哲夫に言われた3品と、ちょっとしたおかずを作り終わると、お風呂の時間を迎えていた。


衣装部屋から戻ってきた哲夫が『風呂だぞ。』と呼びに来るまで、料理に夢中だった私。


「もうこんな時間?」

「いい匂い。早く風呂入って、飯食おうぜ〜。腹へった。」

⏰:09/01/11 21:35 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#383 [ゆーちん]
いつものように哲夫とお風呂に入り、のんびりと湯舟に浸かる。


体の芯から温まった。

⏰:09/01/11 21:36 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#384 [ゆーちん]
「片付け終わった?」

「あと少し。風呂出て飯食ってから続きする。たぶん集会行く前には終わると思うし。」

「…手伝おうか?」

「んあ?手伝う、イコール、クリスマスプレゼントのつもりか?」

⏰:09/01/11 21:37 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#385 [ゆーちん]
哲夫がニヤッとした。


「あぁ!うん、そう!」

「ナイスアイディアだ哲夫、とか思っただろ〜。」


脇腹をくすぐってくる哲夫。


笑いながら暴れたせいで、お湯も暴れる。

⏰:09/01/11 21:37 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#386 [ゆーちん]
お風呂から出て、和食尽くしの夜ご飯を食べた。


もちろん、色違いのお箸で。


「全然クリスマスっぽくなーい。」

「美味いな〜、煮魚。日本食最高だ。」


まぁ、いっか。


美味いって言ってくれたし。

⏰:09/01/11 21:38 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#387 [ゆーちん]
食べ終えた哲夫は、すぐにまたクローゼットに引き寄せられて行った。


私は後片付け。


お箸を洗うと、無意識に笑みが零れる。


こんな姿、哲夫に見られたら『何ニヤけてんだ?』って気味悪いって思われるかもしれないね。


最近さ、色んな感情が経験できて楽しいんだ私。

⏰:09/01/11 21:39 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#388 [ゆーちん]
「終わった?」


私が衣装部屋に顔を出すと、ちょうど哲夫がクローゼットの扉を閉めた所だった。


「残念でした。クリスマスプレゼントはまた別のものちょうだいね。」


銀色頭の哲夫が笑った。

⏰:09/01/11 21:39 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#389 [ゆーちん]
片付けが終わったという事で、私たちはいつものように集会へ向かった。


いつもと変わらない夜道はクリスマスイヴって感じはしない。


「この辺りってイルミネーションしてる家とか無いんだね。」

「そういえばそうだな。みんなシケシケ〜って感じ?」

⏰:09/01/11 21:40 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#390 [ゆーちん]
哲夫の家にイルミネーションを付けようと提案すると、笑われた。


明日飾って、すぐ片付けるのか?って。


「そっか。」

「おバカちゃんだな。」

「んー。」

「じゃあさ、また来年な。」

⏰:09/01/11 21:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#391 [ゆーちん]
「…来年?」

「おう。来年は12月に入ったらすぐにイルミネーション飾ろう。だから来年まで我慢しろよ。」


当たり前のように口走った【来年】と言う言葉。

⏰:09/01/11 21:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#392 [ゆーちん]
私、来年のクリスマスも哲夫と一緒にいるのかな?


もし、哲夫に彼女ができたら…私どうなっちゃうんだろ。

⏰:09/01/11 21:42 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#393 [ゆーちん]
来年のクリスマスの楽しみができて、ちょっと嬉しくなった。


けど、哲夫に彼女ができたらどうしようと、すごく不安になった。


そんなイヴの夜道。


賑やかな声が聞こえ始めた。

⏰:09/01/11 21:42 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#394 [ゆーちん]
その日の集会は、いつもと少し違った。


挨拶の後にある【報告】と呼ばれる作業は、いつもより手短だった。


そしてなぜかツリーがあった。


CDデッキもあり、クリスマスソングが大音量で流されていた。


自然と、笑顔が零れた。

⏰:09/01/11 21:43 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#395 [ゆーちん]
「のんちゃん。」

「んー?」

「明日クリスマスパーティーなんでしょ?なのに今日も騒ぐの?」

「前夜祭みたいなもんだよ。毎年イヴの集会はこんな感じ。」

「そうなんだ。」

⏰:09/01/11 21:43 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#396 [ゆーちん]
寒さなんか忘れちゃうくらい、たくさん笑った。


笑うって、楽しいね。


仲間って、楽しいね。


涙が出そうなくらい、幸せなイヴだった。

⏰:09/01/11 21:44 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#397 [ゆーちん]
あのツリーの輝きも、あのクリスマスソングを響かせるのも、全部哲夫がいるから存在するもの。


お金や人を管理するっていう康孝もすごいけど、哲夫もやっぱすごいと思う。


私は、とんでもない人に拾われたんだ。

⏰:09/01/11 21:45 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#398 [ゆーちん]
「はーい、注目〜!」


康孝の声が響いた。


クリスマスソングがピタリと止まると、哲夫の声が響く。


「みんなお疲れ。明日のパーティーに備えて、今日はここで全員解散な。」

⏰:09/01/11 21:45 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#399 [ゆーちん]
のんちゃんが携帯電話の時計を見ているのを私も覗かせてもらうと、いつもの解散より2時間程早い。


「去年もこのくらいに強制解散だったよ。」


と、のんちゃんが教えてくれた。

⏰:09/01/11 21:46 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#400 [ゆーちん]
「つーわけで、みんなまた明日な〜。」

「はいっ!お疲れっした!」


哲夫が話し終えると、みんなが声を揃えて挨拶する。


クリスマスツリーの明かりが消え、みんなそれぞれ帰って行く。

⏰:09/01/11 21:46 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#401 [ゆーちん]
「シホちゃん。また明日ね。」

「うん。また明日。」


のんちゃん達も帰って行くので、私は哲夫のところに向かった。

⏰:09/01/11 21:47 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


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