WHITE★CANDY
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#201 [Gibson]
父の話によると、同じ会社に、海外で生計を立てるのを長年夢としていた人がいて、そして今日、夫妻で異国の地に旅立った。

非常にお世話になった先輩らしいので、率先して一人息子さんの面倒を、自分が引き受けたらしい。

そんなことで、今日から一緒に住むことになった東吾さんは、私立大学の一年生。

薄い顔に、茶髪の短い髪。
へらへらとした表情が、きっと賑やかな人だと想像させる。

⏰:09/01/26 01:50 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#202 [Gibson]
「よーし、今日は東吾くんの歓迎を祝って焼き肉だ!
奮発していい肉買ってきたぞー!」

鼻歌まじりにエプロンを身につけ、キッチンに立つ父。
居候がやって来たという環境に、子供のようにワクワクしているみたいだ。

その居候はというと、テーブルの上の袋菓子をつまみながら、ゲームの続きに熱中する。

初めてこの家に来たにしては、少々くつろぎ過ぎではないかと心の中でツッコミを入れた。

⏰:09/01/26 02:07 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#203 [Gibson]
三人で囲む夕飯の席。
居候一人の存在で、取り留めのないことも大きく違ってみえる。

「お父さん、おかわりお願いします!」

元気よく東吾さんが、空にした茶碗を父に差し出す。

私は、焦げ付かないように、プレートの上の肉を数枚ひっくり返している。

「何だか、真希にお兄ちゃんが出来たみたいだなぁ!」

ご飯を入れた茶碗を東吾さんに渡すと、父が私に明るい声で話し掛ける。

⏰:09/01/26 02:24 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#204 [Gibson]
お兄ちゃん、か。

父は今まで極力、私に寂しい思いをさせないように務めていた。

今回東吾さんを迎え入れたのも、きっとそういう意図も含めてのことだろう。

しばらくは家族同然の付き合いをするのだから、敬語は遣わなくていいよ、と続けて東吾さんに言われた。

その言葉に甘え、これから"東吾兄"と呼ぶことにした。

⏰:09/01/26 15:45 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#205 [Gibson]
一階にある空き部屋が、東吾兄の部屋となった。

晩御飯を食べ終えてから、その部屋を覗いてみると、引っ越しの荷物がまだ無造作に置かれていた。

和室に不似合いの、インテリアなテーブルや棚が部屋を飾っている。

たった一日だけで、人気がするようになったこの部屋を、不思議な気持ちで見ていた。

⏰:09/01/26 18:37 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#206 [Gibson]
次の日の朝、いつもの様に制服に着替えてから、リビングで朝食を取る。

トーストをかじりながら、TVのニュースに目をやる。
人の命に関わらない出来事を見ない日はないな、と感じる。

CMに入った時、タタタッと素足でフローリングを駆ける音が聞こえた。

「マキロン、トイレどこだっけ!?」

⏰:09/01/26 18:44 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#207 [Gibson]
東吾兄か、と軽い気持ちで声のする方に姿勢を向ける。
"マキロン"とは、彼が私につけたあだ名だ。

しかし、振り向き様に思わず、「きゃあっ!」と叫んでしまった。

目に映ったのは、トランクス一枚で下半身を押さえながら立っている、東吾兄の姿だった。

「あ、ごめんごめん!
昨日の夜、暑くてさー。」

⏰:09/01/26 18:54 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#208 [Gibson]
「…トイレは廊下を出たすぐ目の前。」

彼を見ず、場所の方向を指差した。

「サンキュー!」

再び素足で駆ける東吾兄。

何と言うか、家だというのに気を許せないな―

苦笑しながら、コップの牛乳を飲む。

⏰:09/01/26 19:07 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#209 [Gibson]
その後学校の休み時間の間に、早速エリたちに居候と暮らすことになったことを報告する。

ベランダの柵を掴みながら、私・エリ・元基・優平の順で並ぶ。

「真希のお父さんも、思い切ったことするよねー。」
紙パックのジュースを飲みながら言うエリ。

「それは楽しくなりそうだな!」と、脳天気な感想を述べる優平。
その紳士的な笑みが、今日は少し憎い。

⏰:09/01/26 21:08 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#210 [Gibson]
優平も、家では下着姿でうろついたりするのだろうか、と一瞬妙なことを想像してしまった。

彼を異性として意識しだしてからの自分は、どうも変だ。

一つだけ言えるのは、恋をすると、人は平常心を保てなくなる。

恋って不思議。

⏰:09/01/26 22:17 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#211 [Gibson]
放課後、私は東吾兄を学校近くの商店街に呼び出した。
スーパーの買い物に付き合ってほしいという用件だ。
今日は月に数回ある、大安売りの日。
店内は、いつもより多い買い物客で賑わう。

「お一人様一個でーす!」

特売の卵のパックを得る為、列に並ぶ私と東吾兄。

⏰:09/01/26 22:28 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#212 [Gibson]
「マキロン、あの苺なんかどう?」

カートを動かしながら、東吾兄が私に値段の品定めを求める。

「あー、ダメダメ。
隣町の八百屋さんで、200円で売ってる。」

「ハハハ、何か主婦みてぇ!」

誰かと話しながら、買い物をするのも悪くないな、と少し思った。

⏰:09/01/26 22:37 📱:SH705i 🆔:keS1jVx2


#213 [Gibson]
「荷物、ありがと。」

「いーえ!」

スーパーで購入したものを、東吾兄が一人で持ってくれた。
キャベツなどの野菜が入って重量感のある袋と、卵やドレッシングなど慎重に扱わねばならぬ袋をそれぞれ片方ずつ。

「今日の夕飯カレーっけ?
一緒に手伝う!」

「うんっ。」

⏰:09/01/27 12:40 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#214 [Gibson]
「なぁ、知ってる?
現世で出会ってる人間は、前世でも出会ってたっていう話。」

「へぇ、初耳。」

「俺はその話、ホントだと思ってる!
それで、前世では俺とマキロンは本当の兄妹だったんだ!」

彼があまりに真面目に話すので、思わずアハハ、と声に出して笑ってしまった。

前世か。
全く見当もつかないけど、前世でもお父さんや優平たちに会っていて欲しいな―

⏰:09/01/27 12:53 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#215 [Gibson]
帰宅してから早速、二人で台所に立つ。

自炊をする機会がほとんどなかったからか、腕まくりをし、張り切る東吾兄。

私が野菜を洗って、それを皮を剥いて切るのを彼に任せた。

包丁を持つ手がおっかなくて、横目で視線をちらつかせながら少しハラハラした。

⏰:09/01/27 17:12 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#216 [Gibson]
これまで特に、一人っ子で不満や不自由をした覚えではないけれど、兄弟がいれば、またそれはそれで違うのだろうな、と認識した。

東吾兄は、父や優平たちとはまた別の、喜びや楽しみを、私に与えてくれる。

まだ出会って間もない私たちだけれど、距離はぐんぐんと縮まってる。

彼はどこかせわしない人だけれど、いなくなる時のことはあまり考えたくない。

⏰:09/01/27 17:27 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#217 [Gibson]
「へぇ!二人で作ったのか!」

いつもの時間帯に帰ってきた父に、東吾兄がカレーをよそった皿を差し出し、サラダを手際よく小皿に取り分ける。

東吾兄が主に切った、不揃いな具たちを、あどけない表情でパクパクと食べる父。

実の娘からしても、父は他人にひどくは嫌われない性格だろうなと感じた。

⏰:09/01/27 17:39 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#218 [Gibson]
夕飯を済ませた後、リビングのソファーの上で本を読み、ゆっくりと時間を過ごしていると、
風呂上がりの東吾兄が濡れた髪をワシャワシャとタオルで乾かしながら、私の隣に座った。

「マキロン、今度の日曜ヒマ?」

「別に、何も用ないけど。」

背表紙を上にして本を腿に置き、考える間もなく返答した。

⏰:09/01/27 20:14 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#219 [Gibson]
「良かったら、俺の大学に遊びに来ない?
サークルに連れて行ってやるよ!」

幼さも残る目の前の彼は、一応自分より二歳年上。

高校卒業後の進路はまだ暗中模索の段階だが、とりあえず大学進学も配慮している。

未知で無知である大学という所の知識を得る、いい機会になるかも知れない。

「行く。」と、熱気も覇気もない一言を告げた。

⏰:09/01/27 20:20 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#220 [Gibson]
そして日曜日。
目覚まし時計の軽快なリズムと共に、目を覚ます。

勢いよく、スイッチを止める。
そういえばこの青紫色のシンプルな時計も、かれこれ小学校六年頃から使用している。

物持ちがいいのか、はたまた普通であるのか。
とりあえず、愛着はほのかに感じている。

⏰:09/01/27 21:16 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#221 [Gibson]
東吾兄は、昼の2時過ぎに大学に行くと言っていた。

今の時刻は、朝の9時。
家を出るまで、約5時間はある。

しかし私は、休日で丸一日予定がなくとも、朝までに起きないと気の済まない性分であるのだ。

一日が24時間というのは、実に少ないように思える。
勉強をして、テレビを観て、本を読んで、メールのやり取りをすれば、たちまち明日に備えて就寝しなければならない。

僅かな時間を、いかに無駄なく有効に遣うか。
若い内は財産だと、白髪頭の保おじさんが豪語していた。

時は金なり。
まあ、誰もが実感することだよね。

⏰:09/01/27 21:27 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#222 [Gibson]
昨夜取り出しておいた、クローゼットの奥に眠っていた洋服を手に取る。

丁度一年前買い物に出掛けた時、エリが私に似合いそうと言って、選んでくれた花柄のワンピース。

シャツにジーンズというラフな格好に慣れているから、なかなか手をつけずにいた。

意を決して、今日の服装はこれにする。

⏰:09/01/27 23:06 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#223 [Gibson]
小学校の時、高校生という身分は随分大人に見えていた。
そして高校生になった今、数歳年上の大学生らが、すごく大人に見える。

今日は大学に行く。
今日はちょっと大人な世界を覗きに行くのだ。

その意識から、少し背伸びをしたくなった。

そして、東吾兄の面目を潰さないためにも、おかしな格好は出来ない。

「一つ屋根の下で、あんな子と一緒で可哀相」なんて噂されたら、それこそ可哀相だ。

⏰:09/01/27 23:17 📱:SH705i 🆔:F1cdQ2Rw


#224 [Gibson]
ワンピースを着た自分を、鏡で見てみる。
自分が女として生まれてきたことを、再確認する。

次に、日頃あまりしない化粧をしようか迷う。

パスしようと思った時、優平の異性のタイプというものが、ふと気になった。

化粧はきちんとする子の方が好みなのだろうか。

彼を取り巻く女の子たちは、学校でも抜かりなく化粧をして来ている。

部屋にある数少ない化粧道具を見て、美意識の低さを見直したくなった。

⏰:09/01/28 18:58 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#225 [Gibson]
午後2時、東吾兄と共に家を出る。
出る際に、「今日の夕飯はざるそば」と、リビングにいる父が私たちに告げた。

東吾兄に「今日は女っぽいね」と、第一声に誉め言葉を貰った。

私の顔は、久しぶりに化粧で装飾されている。

睫毛をカールして、マスカラを塗って、眉毛を描いて、リップクリームを塗って完成。
今日の帰りに、ファッション雑誌を買って練習しようと思った。

⏰:09/01/28 19:15 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#226 [Gibson]
「よし、行くぞ!」

東吾兄が私を自転車の後ろに乗せ、若干左右のバランスを崩しながら漕ぎ出す。

私たちの住む家から大学まで、自転車でおよそ15分くらいの距離らしい。
彼は、それを毎日と往復している。

家からすぐした距離にある下り坂を、彼がブレーキを掛けながら、程よいスピードで走る。
自転車が生み出す向かい風が、実に爽快だった。

⏰:09/01/28 19:24 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#227 [Gibson]
大通りに出て、そのまま一直線に漕ぎ続ける。

自動車が元気よく吐き出す排気ガスに、今日はむせ返る暇もない。

早送りしたかのように過ぎ去る景色の中に、新店舗のコンビニや老舗の饅頭屋さんを見つけた。

今日も地球は回り続けている。

⏰:09/01/28 20:55 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#228 [Gibson]
十字路信号を渡り、途中で道を右に曲がった。
「ほら、あそこ。」と東吾兄が言う先に、門に囲まれている建物が見えてきた。

これが東吾兄の通う大学か、が率直な意見だった。
高校に比べて、遥かに広い。

今の学校がこれくらいの規模だったら、エリたちと親しくなれた自信はない。

⏰:09/01/28 21:05 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#229 [Gibson]
東吾兄が現在在籍しているここは、宗教大学であるらしい。
一番に目につく大きな建物は、西洋を意識したレンガ作りの外観で、洒落た感じであった。

駐輪場に着き自転車を降りると、そこで改めて大学に着地する。

休日だというのに、学生の姿が結構見える。
私たちと同じように、きっとサークル通いなのだろう。

高校生でいう所の部活か。
中身はさほど変わりないのに、大学に制服がない部分が、より自由な感じを強調させる。

⏰:09/01/28 21:23 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#230 [Gibson]
東吾兄を一歩前に、彼の歩くまま歩き続ける。
慣れた雰囲気で大学を歩く彼が、少しだけたくましく見える。

私たちが向かった先は、大学内の主な建物からは離れた、二階建てのこじんまりとした建物だった。

白い壁にはこの大学の印象にそぐわない、汚れやひびが無数にあった。

階段を上がり、東吾兄がドアを開けっ放しにしている部屋を覗き込む。

「お疲れーッス!」

⏰:09/01/28 21:36 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#231 [Gibson]
「うぃーす、東吾ちん。」

中から、男の人の低い声が聞こえた。
丁度、東吾兄の背中で四角になっていて、何も見えない。

「あ、この子、俺が今居候させてもらってるとこの娘さん!
大学見学兼ねて連れてきた!」

室内の人と一先ず挨拶を交わし終えた所で、東吾兄が私の両肩を抱き、部屋の前に立たせた。

⏰:09/01/28 21:43 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#232 [Gibson]
「初めまして…。雨宮真希です…。」

室内にいたのは三人の男の人だった。
彼らの視線が、一気に東吾兄から私に注がれる。

緊張と恥ずかしさから下を向き、ぼそぼそと自分の名を名乗った。

「えっ、高校なの!?
大人っぽいね!」

「こんな子と暮らしてるなんて、古沢が羨ましい!」

⏰:09/01/28 21:51 📱:SH705i 🆔:94PVBjGA


#233 [Gibson]
中にいた男の人たちが、こぞってドアの前に集まる。

「おい古沢!
彼女に変なことはしてねーだろうな?」

「あ、大丈夫!
それは親父の信用問題に関わるから!」

ずっと俯き加減の私。
男性たちが、私を見ている気配はしている。

⏰:09/01/29 14:30 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#234 [Gibson]
「よし、皆揃った所で練習しますか!」

雑談を少々交わした所で、一番背の高い男の人が穏やかにまとめる。

その人の言葉と共に、男性陣がぞろぞろと移動し始めた。
活動場所は、今いた部屋ではないようだ。

気がつけば、東吾兄が何のサークルに入ってるか聞いてなかった。

まあとりあえず、着いていけばすぐに判明することだ。

⏰:09/01/29 17:52 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#235 [Gibson]
男性陣が、一番隅の部屋に入る。

部屋の風景が視界いっぱいに広がった時、ドラムセットがどっしりと構えていた。

床には黒いコードが何本も敷かれており、機材のようなものが幾つも置かれている。

音楽サークル…―
一目見て分かるこの雰囲気。

東吾兄がバンドか。
しっくりくると言えば、そうとも言える。

彼のイメージは、いつも頭の中でメロディーが流れてる感じだったから。

⏰:09/01/29 18:13 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#236 [Gibson]
東吾兄が、ドラムセットの椅子に悠長に座った。
彼の担当はドラムか。

続いて、一番背の高い藤野さんという人が、部屋にケースからベースを取り出す。

帽子の被っている坂田さんと、明るい茶髪の佐々木さんという人は、それぞれギターを肩にかけた。

各パートが、取り留めのないが如く形をつくる。

⏰:09/01/29 18:21 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#237 [Gibson]
「ああ、俺ら練習し始めたばっかで、全然上手くないからね!」

佐々木さんが顔をクシャッとさせて、謙遜の言葉を述べる。

その言葉の後、4人が息を揃えるように静まる。
アイコンタクトだけで、それぞれ会話をする。

「…行くよ!ワン・ツー・1・2・3!」

東吾兄が、ドラムスティックを叩いて拍子を取った。

その合図と同時に、彼らの演奏が始まった。

⏰:09/01/29 18:33 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#238 [Gibson]
街中やテレビで、よく耳にするイントロが流れる。
中高生を中心に人気の火が着いた、若手ロックバンドの曲だ。

佐々木さんがギターを弾きながら、ボーカルを同時にこなす。

本来のボーカリストと、声の質が似てる気がした。

部屋の奥の東吾兄が、軽快にドラムを叩き続ける。
いつもより、3割増しでかっこよく見える。

⏰:09/01/29 18:46 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#239 [Gibson]
藤野さんが落ち着いた様子でベースを弾き、坂田さんが全身でリズムを取りながらギターを弾く。

佐々木さんが歌う歌詞の意味を理解しながら、彼らの演奏を聴く。

演奏が下手だとか幼稚だとかは、微塵にも感じなかった。

彼らはまだ全員一年生。
バンドを組んで間もないだろう。

しかし、チームワークの良さと熱い気迫が、奏でる旋律と共に、こちらにも伝わってくる。

⏰:09/01/29 18:55 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#240 [Gibson]
一曲目が終わると、音を立てずに拍手をする私。

「ワリー、最後のサビの所、ちょいリズムがズレてた。」

「はーっ、ムズイな!」

落ち着く暇もなく、メンバーがそれぞれ、自分たちの反省点や課題となる部分をこぼす。

自由気ままなサークルとはいえ、皆技術の向上を目指している。

途中で、東吾兄と目が合った。

「…なぁ、ちょっとマキロンにボーカルやらせてみないか!?」

彼が名案を思いついたかのような顔をして、突然こんなことを口にした。

⏰:09/01/29 22:19 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#241 [Gibson]
「えっ…。」

私は焦った。
カラオケには全く行ったことがないし、人前で歌った経験もない。

「おっ、いいね!やってみる?」

「曲何にする?有名所が無難よね?」

「雨宮ちゃん、スパイラルの『カタツムリ』分かる?」

私の気持ちとは反対に、どんどんと話が進められていく。
さっき、東吾兄が少しでもかっこよく見えたこと、直ちに撤回。

⏰:09/01/29 22:33 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#242 [Gibson]
「2番が少し曖昧…。」

皆の勢いに釣られて、正直に答える私。
全然分からないと、嘘をつけば良かったと思った所で遅かった。

「はい、これ見ながら歌ってみて!」

佐々木さんが、私に歌詞カードのコピーを渡す。

その次に、彼の代わりにスタンドマイクの前に立たされ、彼が室内にある脚立イスに座った。

もう歌うしかないのか…―

トホホと嘆く気持ちと、一曲約5分、300秒を取りあえず耐えればいいだけかと、軽い気持ちで取り組むことにした。

⏰:09/01/29 22:43 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#243 [Gibson]
東吾兄の激しく叩くドラムの音と共に、演奏が始まった。

『与えられた仕事は、大小問わずに真剣に取り掛かる』のが、父の教訓。

投げやりな態度は見せずに、出来る限り一生懸命やってみよう。

今の私は、遊びであろうとも、バンドのボーカルを担当している。

感情を込めて歌うとか、歌い方強弱をつけるとか、専門的なことは全く分からない。

とにかく、無我夢中で歌った。

⏰:09/01/29 22:54 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#244 [Gibson]
「…雨宮ちゃん、なかなか上手だね!」

「うん、声がしっかりしてる感じが良かった!」

一曲歌い終えてみると、メンバーからは誉め言葉を貰った。

父は歌には自信があると言っていた。
その遺伝を少しは、娘の私も受け継いでいたようだ。

⏰:09/01/30 01:55 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#245 [Gibson]
「…そうだ!今度のライブ、特別ゲストでマキロンに一曲ボーカルをやらせてみないか!?」

「えぇ!!?」

次から次に思いついたことを口に出す東吾兄。

この発言には流石に、人前で感情をあまり表に出さない私も驚いた。

彼にはもう少し、考えてから物事を言うという思考がないのだろうか。

「それはいいかもね。聴く側も可愛い女の子がいる方が喜ぶだろうし。」

ギターの坂田さんが、東吾兄の提案に被せるように言う。

⏰:09/01/30 02:04 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#246 [Gibson]
「うちの大学には音楽サークルが3種類あるんだけど、多分うちの部がその中で毎年入って来る人数が少ないだろうね。

原因は宣伝活動を特にしていないのと、野郎だらけのもさ苦しさが、女子の入部を遠ざけてるからかな。」

続けて説明をする坂田さん。

「でも私、部員じゃないのに参加とか、悪いですよ…。」

「大丈夫大丈夫!
部長には、『部の活性化目指しての為です』って言っとく!」

相変わらず適当で無鉄砲な東吾兄。

⏰:09/01/30 12:59 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#247 [Gibson]
「雨宮ちゃんも来年受験生でしょ?
これもいい思い出作りだと思って、やってみたらどうかな?」

積極的に参加を勧める坂田さん。

「うーん…。」

迷う。悩む。渋る。

でも、先程一曲をとにかく歌ってみたら、意外と気持ちが良かった。
歌うのは嫌いではないし、寧ろ好きだということに気がついた。

⏰:09/01/30 20:27 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#248 [Gibson]
「…分かりました。
私でよければ、よろしくお願いします。」

考え抜いた後、4人に向かって頭を下げた。
ライブに出るという結論を出した。

「やっりぃ〜!
今日から猛練習だな!」

「こちらこそよろしくね。」

本番は二週間後らしい。
佐々木さんが数曲歌い終わった後、私が一曲歌って締めを飾る形にするという。

⏰:09/01/30 20:43 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#249 [Gibson]
練習日は、毎週二日となっている。

翌週、水曜日の放課後は急ぎ足で大学に向かってバスを乗り継ぎ、日曜日は東吾兄と一緒に自転車で向かう。

そんな生活を一週間続けた日、昼休み、優平と一緒に屋上へ上る機会があった。

「真希、今度大学のライブに出るんだって!?」

多分、エリから聞いたのだろう。
彼が興味津々な感じで、目を見開いてこちらを伺っている。

⏰:09/01/31 14:26 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


#250 [Gibson]
「うん、一応…。」

「へぇ、凄いな!
俺、本番は見に行くから!
楽しみにしてる!」

「えっ…。」

真っすぐな瞳で私を見つける優平。
本番当日、これでますます下手なものは見せられなくなった。

⏰:09/01/31 14:32 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


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