WHITE★CANDY
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#240 [Gibson]
一曲目が終わると、音を立てずに拍手をする私。

「ワリー、最後のサビの所、ちょいリズムがズレてた。」

「はーっ、ムズイな!」

落ち着く暇もなく、メンバーがそれぞれ、自分たちの反省点や課題となる部分をこぼす。

自由気ままなサークルとはいえ、皆技術の向上を目指している。

途中で、東吾兄と目が合った。

「…なぁ、ちょっとマキロンにボーカルやらせてみないか!?」

彼が名案を思いついたかのような顔をして、突然こんなことを口にした。

⏰:09/01/29 22:19 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#241 [Gibson]
「えっ…。」

私は焦った。
カラオケには全く行ったことがないし、人前で歌った経験もない。

「おっ、いいね!やってみる?」

「曲何にする?有名所が無難よね?」

「雨宮ちゃん、スパイラルの『カタツムリ』分かる?」

私の気持ちとは反対に、どんどんと話が進められていく。
さっき、東吾兄が少しでもかっこよく見えたこと、直ちに撤回。

⏰:09/01/29 22:33 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#242 [Gibson]
「2番が少し曖昧…。」

皆の勢いに釣られて、正直に答える私。
全然分からないと、嘘をつけば良かったと思った所で遅かった。

「はい、これ見ながら歌ってみて!」

佐々木さんが、私に歌詞カードのコピーを渡す。

その次に、彼の代わりにスタンドマイクの前に立たされ、彼が室内にある脚立イスに座った。

もう歌うしかないのか…―

トホホと嘆く気持ちと、一曲約5分、300秒を取りあえず耐えればいいだけかと、軽い気持ちで取り組むことにした。

⏰:09/01/29 22:43 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#243 [Gibson]
東吾兄の激しく叩くドラムの音と共に、演奏が始まった。

『与えられた仕事は、大小問わずに真剣に取り掛かる』のが、父の教訓。

投げやりな態度は見せずに、出来る限り一生懸命やってみよう。

今の私は、遊びであろうとも、バンドのボーカルを担当している。

感情を込めて歌うとか、歌い方強弱をつけるとか、専門的なことは全く分からない。

とにかく、無我夢中で歌った。

⏰:09/01/29 22:54 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#244 [Gibson]
「…雨宮ちゃん、なかなか上手だね!」

「うん、声がしっかりしてる感じが良かった!」

一曲歌い終えてみると、メンバーからは誉め言葉を貰った。

父は歌には自信があると言っていた。
その遺伝を少しは、娘の私も受け継いでいたようだ。

⏰:09/01/30 01:55 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#245 [Gibson]
「…そうだ!今度のライブ、特別ゲストでマキロンに一曲ボーカルをやらせてみないか!?」

「えぇ!!?」

次から次に思いついたことを口に出す東吾兄。

この発言には流石に、人前で感情をあまり表に出さない私も驚いた。

彼にはもう少し、考えてから物事を言うという思考がないのだろうか。

「それはいいかもね。聴く側も可愛い女の子がいる方が喜ぶだろうし。」

ギターの坂田さんが、東吾兄の提案に被せるように言う。

⏰:09/01/30 02:04 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#246 [Gibson]
「うちの大学には音楽サークルが3種類あるんだけど、多分うちの部がその中で毎年入って来る人数が少ないだろうね。

原因は宣伝活動を特にしていないのと、野郎だらけのもさ苦しさが、女子の入部を遠ざけてるからかな。」

続けて説明をする坂田さん。

「でも私、部員じゃないのに参加とか、悪いですよ…。」

「大丈夫大丈夫!
部長には、『部の活性化目指しての為です』って言っとく!」

相変わらず適当で無鉄砲な東吾兄。

⏰:09/01/30 12:59 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#247 [Gibson]
「雨宮ちゃんも来年受験生でしょ?
これもいい思い出作りだと思って、やってみたらどうかな?」

積極的に参加を勧める坂田さん。

「うーん…。」

迷う。悩む。渋る。

でも、先程一曲をとにかく歌ってみたら、意外と気持ちが良かった。
歌うのは嫌いではないし、寧ろ好きだということに気がついた。

⏰:09/01/30 20:27 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#248 [Gibson]
「…分かりました。
私でよければ、よろしくお願いします。」

考え抜いた後、4人に向かって頭を下げた。
ライブに出るという結論を出した。

「やっりぃ〜!
今日から猛練習だな!」

「こちらこそよろしくね。」

本番は二週間後らしい。
佐々木さんが数曲歌い終わった後、私が一曲歌って締めを飾る形にするという。

⏰:09/01/30 20:43 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#249 [Gibson]
練習日は、毎週二日となっている。

翌週、水曜日の放課後は急ぎ足で大学に向かってバスを乗り継ぎ、日曜日は東吾兄と一緒に自転車で向かう。

そんな生活を一週間続けた日、昼休み、優平と一緒に屋上へ上る機会があった。

「真希、今度大学のライブに出るんだって!?」

多分、エリから聞いたのだろう。
彼が興味津々な感じで、目を見開いてこちらを伺っている。

⏰:09/01/31 14:26 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


#250 [Gibson]
「うん、一応…。」

「へぇ、凄いな!
俺、本番は見に行くから!
楽しみにしてる!」

「えっ…。」

真っすぐな瞳で私を見つける優平。
本番当日、これでますます下手なものは見せられなくなった。

⏰:09/01/31 14:32 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


#251 [Gibson]
その時、前気になっていた化粧の好みを尋ねようと思った。
しかし、唐突に聞くのは不自然だし、彼に気持ちを悟られるかも知れない。

「…優平は、薄口醤油と濃口醤油、どちらが好き?」
考えた末の、苦肉の策だった。

「へ!?あまり考えたこともないけど…さっぱりした薄口かなぁ…。」

薄い方が好きか。
それじゃあ、化粧もそんなに派手にやらなくていいか―

⏰:09/01/31 14:43 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


#252 [Gibson]
家に帰ってからも、CDを繰り返し聴き、歌詞を覚えながら歌の練習をする。

「『ハニー 君に伝えたい』かぁ…。
私も優平に、もっと素直な気持ちを言えたらなぁ…。」

歌詞カードを握りしめ、ため息をついた。
不器用な自分の性格に悩むことは、しょっちゅうである。

ライブ本番は、その優平も自分の歌を聴きにくる。
まずは、間接的に自分の思いを伝えることに励もう。

⏰:09/02/01 03:35 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#253 [Gibson]
そして一週間後、ライブ当日の日となった。
大学近くの、小さなライブハウスを借りて行われる。

スタート時間は、夕方の4時から。
私を含む東吾兄たちの出番は、4時半頃の予定である。

今日の服装は、シャツの上にパーカーを羽織り、ジーンズという格好だ。
ステージ衣装といっても、普段着とあまり変わらない。

⏰:09/02/01 03:49 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#254 [Gibson]
「よし!皆全力を出し切ろうな!」

私たちの前の組が終わった時、控え室で藤野さんの一声と共に、皆で円陣になって手を揃えた。

そして、音を立てずに歩きながらステージ上へと向かう。

やるだけのことはやった。
後は、その成果を発揮するだけだ―

⏰:09/02/01 13:45 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#255 [Gibson]
私以外の4人が暗がりの中ステージ上に立ち、それぞれ軽く音の調整を確認し終えた後、パッと明るく照明が点いた。

「皆さんこんにちは!」

佐々木さんが、客席側に挨拶をする。

4人の勇姿を、ステージの隅で見守る私。
成功を祈るように、両手を握った。

⏰:09/02/01 14:02 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#256 [Gibson]
一曲目の演奏が始まった。
練習やCDで、何度も聴いた歌。


ギターボーカルの佐々木さんは、誰からも好かれるタイプの人間だと思う。
笑顔が似合っていて、包容力のあるオーラをしている。

太くてどっしりした声は、歌詞の良さに一層重みがかかる。

その上、歌いながらギターもしっかり弾ける。
中学一年の頃から練習をし始めたらしい。

⏰:09/02/01 14:11 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#257 [Gibson]
同じくギターの坂田さんは、後ろに束ねられるほど髪が伸びきっていて、どこか脱力感のある人。

でも、練習となると一転して真面目な雰囲気に変わる。
空いてる時間は、ほとんど個人練習に当てていたとか。

ベースの藤野さんは、メンバーのリーダー的存在で、皆にまとまりがあるのは、彼の存在が大きいからだと他のメンバーは言う。

知的さは外見上だけでなく、学部もトップで入学したらしい。

大学に入って始めたベースも、すぐにコツを掴んだらしく、何をやっても出来るタイプの人間。

⏰:09/02/01 14:26 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#258 [Gibson]
最後に、ドラムの東吾兄。
突発的に物事の判断を決めることが多いので、危なっかしくてハラハラさせる。

初めて会った時から、友達の元基と似ていると思った。

深く考えることを知らないで、いつもヘラヘラ笑っていて、真面目な印象がない。

でも、自分が一度でも仲間だと感じた人には、全力で大切にする。
そうやって私も、彼にたくさんの素直な所に引き連れてもらった。

肝心のドラムの腕は…そこそこかな。

⏰:09/02/01 14:39 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#259 [Gibson]
3曲目が終了した時、佐々木さんが舞台袖の私を見た。

次の曲で最後となる。
いよいよ私の出番だ。

「…これから、特別ゲストを紹介します!」

佐々木さんが私に、「OK」のアイコンタクトをする。

ステージ上へとゆっくり歩き出す私。
ここまでは、予め5人で決めた手順通りだ。

⏰:09/02/01 14:50 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#260 [Gibson]
「彼女は、ドラムの古沢くんの知り合いの高校生。
今回、一曲だけボーカルを務めてくれることになりました。」

ステージの中央まで行った所で、佐々木さんが私のことを説明をする。

"高校生"の部分で、少し客席側がざわついた。

「皆さん初めまして、雨宮真希って言います…。
下手ですが一生懸命歌います…。」

想像していたよりお客さんの人数が多くて、心の中で驚く。
そのことで、喋る声が小さくなってしまった。

⏰:09/02/01 15:02 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#261 [Gibson]
「真希ー!がんばれー!」

薄暗い客席の中、私に声援を送ったのはエリだった。
その隣には元基、そして優平。

その近くにはますちゃん含むクラスメート数人に、竹下さんたちもいる。

優平が眩しい笑顔で、ずっとこちらを見ている。
彼の頭上にだけ、明かりが灯されているように感じた。

⏰:09/02/01 15:11 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#262 [Gibson]
練習と同じように、イントロで東吾兄がドラムを激しく叩き上げる。

それから、坂田さんのギター、藤野さんのベースが溶け込むように絡み合う。

速くなる胸の鼓動は、彼らの奏でるロックな音が掻き消してくれた。

スタンドマイクを強く握りしめ、真正面の壁だけを一点に目の焦点を合わせる私。

⏰:09/02/01 15:21 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#263 [Gibson]
歌を歌う時は、案外無心で挑む方が、最善を尽くしきれると聞いた。

何も考えずに、Aメロ、Bメロと腹の底から声を出し続ける。

そして、サビに入る。

『ハニー 君に伝えたい』
私がこの曲の歌詞で、一番好きな部分である。

元々男性バンドの歌ではあるが、女性が歌うのもまたいい味が出ると、坂田さんが言ってくれた。

⏰:09/02/01 15:30 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#264 [Gibson]
「…ありがとうございました。」

歌い終わると、その場で深く礼をする。

演奏が終わった。
特に大きな失敗もなく、練習以上の成果を出し切ったので、満足のいくものとなった。

客席が大きく拍手をしてくれた。
鳴り止まない歓声。
拍手の音には、癒しの効果があると思う。

こうして、私のライブ体験は何なりと終了した。
後悔はない。充実した気持ちでいっぱいだ。

⏰:09/02/01 19:52 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#265 [Gibson]
「真希ー!かっこよかったよー!」

次の組の出番になって客席側に向かうと、エリが大きく抱きついてきた。

「CD化希望!」

歯を出して笑う元基。

「本当、上手かったよ!また聴きたいな。」

優しく微笑む優平。

ますちゃんや竹下さんたちも、それぞれ一声掛けてきてくれた。

⏰:09/02/01 20:03 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#266 [Gibson]
夜7時。
全てのライブが出番を終えた。

皆で手際よく片付けをし、ライブハウスのスタッフさんに礼を告げた。

この後は、近くの居酒屋で打ち上げが行われるらしい。

一人でたくさんの大学生に囲まれる勇気がない為、優平を連れて行くことにした。

⏰:09/02/01 20:13 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#267 [Gibson]
皆で歩いて居酒屋まで向かい、予約しておいた和室でそれぞれ適当に腰を下ろす。

「では皆さん、今日はライブお疲れ様でしたー!」

全員分の飲み物が運び終えた所で、サークルの部長がその場を立ち上がって、代表して乾杯の言葉を述べる。

サークルには、約60名が在席しているとか。
室内はぎゅうぎゅう詰めといった様子であった。

大学には成人した人も裕にいるわけで、ジョッキを片手に、ぐびぐびと飲む人もいる。
私と優平は、コーラと烏龍茶を頼んだ。

⏰:09/02/01 20:30 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#268 [Gibson]
「真希ちゃんだっけ!?
歌上手かったよー。うちの大学に進学した時は、是非このサークルに入部してね。」

コーラを一口飲んだ所で、隣に座っていた男の人に声をかけられた。

「ねーねー。隣の男の子は彼氏?」

続いて、斜め前にいる金髪の女の人が、質問をしてくる。

私と優平が、付き合っているように見えたようだ。

⏰:09/02/01 20:38 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#269 [Gibson]
「え、えっと…。」

"違います、ただの友達です"
そう否定しようとした。

周りに妙な誤解をされてしまったら、優平に申し訳ない。
彼をここに連れて来たのは、やはり間違いであったか。

詳しく説明せねば、と思ったその時だった。
テーブルの下で、優平が私の手を軽く握ってきた。

⏰:09/02/01 20:43 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#270 [Gibson]
「…!」

咄嗟に彼の方に目を向ける。
彼は私の方を見ていない。

「あー!否定しないってことは、そうなんだねー!」

女の人が、声高らかに言う。

「残念!後でアドレス聞こうと思ってたのに。」

隣にいる男の人が、冗談でくやしがるポーズをした。

⏰:09/02/01 20:49 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


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