WHITE★CANDY
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#740 [ぎぶそん]
最後のG組のステージ発表の内容もあまり印象に残らないまま終わり、全てのクラスの発表及び今年の文化祭が終わった。
翌日、朝のホームルームでステージ発表の結果が言い渡された。
優勝は優平のいるF組。圧勝と言ってもいいほど票が入っていたという。
二位は、何と私たちB組。準優勝の表彰状が担任の手から委員長の篠崎君に渡された。
元基のいるC組は六位と、箸にも棒にも掛からない結果で終わった。
一限目の体育に合わせて、エリと一緒に体育館まで話しながら移動をする。
「二位になれたのは嬉しいけど、やっぱり優勝じゃないなんて悔しいー!
きっと優平目当ての女子共がF組に票を入れたに違いないわ!」
ステージ発表の結果を悔しがるエリ。
「ううん、私もF組のステージ発表が一番素晴らしかったと思うよ。皆熱演だったしセットも演出も細かく作ってあったし。
何より、主人公とヒロインが物語を通して『成長』していたのが良かった。」
主人公は不真面目な自分を、ヒロインは過去を忘れられない自分を変えたのが後味の良さを覚えた。
:12/04/27 01:30
:Android
:Mg0JTWgc
#741 [ぎぶそん]
「そんな悠長なこと言って、七瀬玲央奈に優平を取られても知らないよ」
「ナナセレオナ?」
聞き覚えのない名前を、私はエリに聞き返した。
「桜子を演じてた子よ。あの子、グループの子たちと一緒になってよく優平にまとわりついてるから」
七瀬玲央奈。あの子、そんな名前だったんだ。
文化祭一日目も私の存在を無視して優平を誘ってたし、そう考えると彼のことが好きなのかな。
悔しいけど、演劇を見ると彼女は彼の隣が似合ってたな。
細身で顔も整っているし、ライバルになるには避けたい人物である。
その日の放課後、職員室で数学の先生に今日の授業の質問を終えると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「文化祭、お疲れ」
優平だった。
:12/04/27 01:54
:Android
:Mg0JTWgc
#742 [ぎぶそん]
昨日までパーマだった彼の髪が、普段の真っ直ぐなヘアスタイルに戻っていた。
「良かったら今から屋上で話さない?」
珍しく彼が私を誘ってきた。
「いいよ」
考える間もなく私は即答した。
「俺、先にちょっと吉川先生に用事あるから。悪いけど先に屋上行って待ってて」
プリントを片手に、彼がせわしそうな顔をする。
私は「分かった」と言って頷いた。
数学のノートを持ったまま最上階まで上がり、古びた屋上のドアを開けた。
顔を見上げると、一面どんよりとした曇り空が視界を覆った。
一昨日の文化祭一日目は晴天に恵まれて良かったなと、ほっとした思いが巡る。
二日間の文化祭をぼんやりと思い返していると、途中で「お待たせ」と一声掛けて優平がやって来た。
「ステージ発表優勝おめでとう」
第一声に私は昨日の彼の雄姿を褒めた。
:12/04/27 02:14
:Android
:Mg0JTWgc
#743 [ぎぶそん]
彼が照れ臭そうにする。
「ギターは難しかった?」
一番気になっていることを彼に質問してみた。
「なかなか苦戦した。家に帰ってからも毎日ずっと練習してたし。まあ、バイオリニンに比べたら上達は早かったかな」
夏休み彼の家に遊びに行った時、彼が私の前でバイオリニンを弾いてくれたことを思い出した。
ギターもバイオリニンも、私だったらすぐ挫折してるだろうな。
「七瀬玲央奈さんだっけ。桜子役の子。すごく可愛かったね」
私は本心でありつつも彼に賛同を求めたくない言葉を言ってしまった。
「そうかな?俺、そんなこと一度も思ったことない。
……真希が桜子役だったら良かったのにな―」
「え……?」
惜しむ表情を見せる彼に、どうしていいか戸惑う私。
だけど心の中で彼の言葉の全てが嬉しいと思ってしまう自分は、嫌な人間なのかな。
:12/04/27 02:38
:Android
:Mg0JTWgc
#744 [ぎぶそん]
【※743 正しくはバイオリンです。大変失礼致しました】
彼が手に持っていた漫画をぱらぱらと捲り始めた。
「ほら見てみて。雰囲気とか性格とか、真希と似てるんだよな」
桜子が載っているページを探し、私の前に差し出した。
真っ直ぐで長い黒い髪に、切れ長の目。原作の桜子は七瀬玲央奈が演じて感じたイメージと違い、飾り気のない落ち着きのある女の子として描かれていた。
「ま、まあ桜子より真希の方が、か、可愛い……けどな!」
彼が急にしどろもどろしだした。そして少し息を落ち着けて、
「昨日の梅原春佳の役、凄く良かったよ。何だっけ?『捕まえて!』って奴、やってみてよ」
と意味ありげな薄笑いを浮かべて指図してきた。
「嫌だ!恥ずかしい!」
私は大きく首を横に振った。
目の前の彼に目を瞑って唇を強調するなんて、顔から火が出る勢いだ。
「残念だなあ。じゃあ俺、そろそろ部活の練習に行くわ」
彼がその場を立ち去りながら手を振る。
私も手を振り返して彼を見送った。
:12/04/27 22:49
:Android
:Mg0JTWgc
#745 [ぎぶそん]
その日の晩。優平に「可愛い」と言われた喜ばしさを心の中で何度も噛み締めながらも、夕食の席で気丈に振る舞っていた。
「準優勝おめでとう!」
父は生ビール、私と東吾兄はオレンジジュースで乾杯をする。
父が駅前で買ってきてくれた唐揚げを皆で頂く。
「父さんも真希の踊り観たかったなあ」
酔いが回ったのか、顔を真っ赤にした父がいつも以上に饒舌になる。
「東吾兄は『星くずロック』読んだことある?」
呂律の回らない父の話を無視し、テレビ番組を観ている東吾兄に話し掛けた。
「あるよ。部室に全巻あるし」
テレビに視線を向けたまま、私の質問に答える東吾兄。
「何だっけ。サクラ……サクラ……」
私は演劇中に優平が歌っていた曲のタイトルを失念した。
「サクラプソディーのこと?実写化でCDリリースされた時、音楽ランキングで初登場三位だったな。俺は原作のイメージと違うと思ったからあんまり好きじゃないけど」
東吾兄がご飯を口に含みながらもごもごと喋る。
サクラプソディー。私にとってはいい曲だったな。
:12/04/27 23:19
:Android
:Mg0JTWgc
#746 [ぎぶそん]
夕飯を食べ終え部屋に上がると、私はすかさず机に座りノートパソコンを立ち上げた。
「サクラプソディー」で検索をかけるとトップに公式サイトがあり視聴再生可能の文字が見えたのでアクセスして聴いてみた。
プロモーションビデオの映像の中で、テレビでよく見る若手俳優がギターボーカルの役で歌い上げていた。
意中の彼への贔屓目か、優平の歌声の方が好きだなと感じた。
この歌を聴いてると、もう一度文化祭二日目の情景が甦ってきた。
結果的には二番であっても、エリ以外のクラスメートの女子たちと親しくなれたし私には何にも変えがたい最高の思い出となった。
そして、一度も聴いたことのない優平の歌声も聴くことが出来た。
「この世界が桜色に染まる頃には 僕のところへおいでよ
僕のところへおいでよ」
私は大切な皆のことを思い浮かべながら、文化祭の思い出の曲となるサクラプソディーのサビを口ずさんだ。
Chapter08 END.―
:12/04/27 23:54
:Android
:Mg0JTWgc
#747 [ぎぶそん]
Chapter09
「映画オタク」
:12/04/28 00:21
:Android
:t4h2WC2g
#748 [ぎぶそん]
文化祭の余韻もまだ残る頃。朝、枯れ葉が舞落ち少し乾燥した秋の風を受けながら学校へ通う。
「まただ……」
玄関に着き下駄箱を空けると、その中に手紙や手作りお菓子などがいくつも入っていた。
ここ数日、毎日のように目にする光景である。
しかもその差出人は、どれもこれも下級生の女の子たちからなのである。
手紙にある内容は大体、「先輩の文化祭での梅原春佳役、素敵でした!」「梅原春佳に似ている先輩が好きです!」などである。
後輩に好かれて嬉しい気持ちはあるのだが、文化祭では出番もそんなになかったのに何故こんなに評判になっているのか疑問を抱く。
昼休み、一人購買でお菓子を選んでいる時だった。
「あ、あまき様だ!」
数人でいる女の子の内の一人が、私の方を指差した。
:12/04/28 00:41
:Android
:t4h2WC2g
#749 [ぎぶそん]
「あ、あまき……?」
私は彼女の言葉にきょとんとした。
「雨宮真希。略してあまき、ですわ。一年の間ではそう呼ばれているんです!」
清楚で気品漂う彼女が、両手を握り目を輝かせて私を見つめる。
あまき、密かにそんな名称までつけられていたんだ……。
芸能人じゃないんだし、あまり騒ぎが大きくならないようにと私は祈った。
「あまき様って、やっぱり桜井優平先輩とお付き合いをしているのですか?」
小柄な彼女が私の顔を見上げて尋ねてきた。周りの女の子たちも興味津々そうな顔をしてこちらを見てくる。優平の存在も下級生の間で知れ渡っているようだ。
「違うよ。ただの友達」
私は両手を振って否定した。
「そうなんですか。すごくお似合いなのにあ」
彼女が残念そうな顔をする。その言葉と表情に悪い気はしなかった。
その後彼女たちが私に「失礼します」と一言告げ、購買を後にした。
私も適当にお菓子を選び会計を済ませ、教室に戻ることにした。
:12/04/28 01:05
:Android
:t4h2WC2g
#750 [ぎぶそん]
のんびりと教室までの廊下を歩いていると、廊下で集まって話をしている女子たちからの冷たい視線を強く感じた。
「B組の雨宮真希ってさ、文化祭以来調子乗ってるよね」
「ブスのくせに梅原春佳なんて演じちゃってさ、勘違いも甚だしいわよ」
目の前を通りすぎる私に聞こえるようにはっきりと、私への批難の言葉を彼女たちが言ってくる。
その心ない言葉に胸が痛む。
「ちょっとあなた、もう桜井君に近づかないでくれる?」
その中にいた一人が私の目の前に飛び出して来て、私の行く手を阻んた。
それは、文化祭でF組の演劇のヒロインを演じた七瀬玲央奈だった。
:12/04/28 01:26
:Android
:t4h2WC2g
#751 [ぎぶそん]
「大体、あんたと桜井君じゃ釣り合わないのよ!」
演劇での役柄とは全然違い、彼女がきつい言葉を放ってくる。
私は戦慄を覚え思わず首をすくめた。
「……あら、劇でたかだか桜井君と両思いを演じたからって現実でも彼女気取りなあなたの方が、アタシにはよっぽど調子に乗ってるように見えるけど?」
私の窮地を気付いたのか、弥生ちゃんが間に入ってくれた。
「何ですって!B組ってうざったいのばっか!皆、行こう!」
彼女が捨て台詞を吐くと、その女子たちは向こうに去っていった。
「助けてくれて有難う」
私は一先ず弥生ちゃんに感謝をした。
「別に、馬鹿馬鹿しくて見ていられなかったから一言言ってやっただけ。あんなくだらないの、気にしなくていいから」
つっけんどんに返されたけど、私は彼女の優しさを感じた。
:12/04/28 01:49
:Android
:t4h2WC2g
#752 [ぎぶそん]
文化祭によって注目を浴びたり逆に批判されたりで、暫くは落ち着かない日々が続きそうである。
しかし、そんなことも気にしていられない位私には待ちわびているある出来事がある。
アメリカの映画女優、ミーナ・ハレルソンが新作映画の宣伝の為近々日本に来日するというのだ。
私は無類の映画好きであり、映画を観る数は年間で三百作は優に越える。
最新作から昔の白黒映画や無声映画も観るし、内容のジャンルも問わず同級生の女子たちが毛嫌いするホラーやスプラッターも大好物である。
私はその中でも、この十年間変わらず第一線で女優業を活躍するミーナ・ハレルソンの大ファンなのだ。
彼女は現在三十四歳。男性にも劣らない華麗なアクションが彼女の持ち味であり、スタント無しで危険な役に挑む彼女の意欲に私は中学の時惹かれた。
:12/04/28 02:20
:Android
:t4h2WC2g
#753 [ぎぶそん]
それから、もう一つ気になっている出来事がある。
主に洋画を取り扱っている衛星放送の企画で、五十年代の不朽の名作映画「パリの祝日」になぞらえた衣装を着て写真撮影をするというものだ。
その映画の内容は、某国のエマ王女と父親のジョージ国王がこっそり職務を抜け出して滞在先のパリを観光するというものだ。
ラストは二人が罪に問われ国から追放されるという哀しい内容なのだが、親子間の純粋なやり取り、エマ王女を演じたジュリア・ドレイファスの世界でも類を見ない圧倒的な美しさを含めて、六十年以上経った今も尚数多くの人々に愛されている。
その企画に応募したが抽選で親子二組十名のみの為、まず当たりはしないだろうとあまり期待をしないで待っている。
父と二人、貴重な体験が出来るいい機会なんだけどな、と私は瞑想した。
:12/04/28 02:54
:Android
:t4h2WC2g
#754 [ぎぶそん]
その週の日曜日。家で昼食を済ませた後、私は東吾兄と一緒に街のショッピングモールの中にある映画館に足を運んだ。
目的は「午後二時の名作劇場」という、その映画館が毎日決まった時間に昔の映画作品を上映する機会を設けているからだ。
学生は五百円で鑑賞出来るというのもあり、これは映画ファンにとってはたまらないサービスなのである。
薄暗い館内に入り、販売で東吾兄から買ってもらったコーラを片手に座席に座る。
新作映画と比べると客数は少なく、私たちの他に中年の男性客がぽつぽつといるだけだった。
この日は一九七五年のアメリカ映画、「カーターvsウェイン」を上映していた。
主人公のジョセフ・カーターが男手一つで幼い娘を育てていた矢先に、「その娘の本当の父親は私だ!」とマイケル・ウェインという男が現れる。やがて裁判となり、二人が法廷で争うといった内容だ。
裁判はマイケルが勝ち娘を引き取ることになるのだが、娘の頑なな拒絶で結局ジョセフの元に返すという結果で終わる。
片親の私は娘の気持ちになってずっと映画を観ていた。もしこの映画のように実の父と名乗る人物が現れたとしても、私も娘のように絶対に今の父の元から離れないと思う。
まあ、私たちは正真正銘本当の親子なんだけどね。
:12/04/29 22:56
:Android
:gV/bURdI
#755 [ぎぶそん]
「昔の映画も悪くないな」
館内を出て、東吾兄が第一声にこう述べた。
「真の名作は時代を越えても愛されるからね」
私は最善と思った言葉を返した。
今も面白い映画はあるけれど、私は昔の映画の方が好きだ。近年の映画の画面は人物のアップが多いし、場面が頻繁に変わるから観ていて少し疲れるのが本音である。
「因みに、さっきの映画で主人公やってた人、すごく有名な俳優だよ。知ってる?デイビット・ホックマン」
私は彼に尋ねてみた。
「うーん、知らないなあ」
私の質問に無関心そうな顔をして欠伸をする彼。
「彼の出演する名作が多いの。サヴァン症候群を演じた『スノーマン』も良かったし、それから『入学』の時は……」
彼が聞いているかはお構い無しに、私は延々と映画に関する話を続けた。
:12/04/29 23:24
:Android
:gV/bURdI
#756 [ぎぶそん]
二人でショッピングモールを出て、そこから歩いて五分のところにあるレンタルビデオ店に入った。
学校からも近く他のビデオ店より安い値段でレンタル出来るので、私は週に三回はこの場所を訪れる。
「何かおすすめの映画ある?お色気シーン満載のでお願い」
東吾兄がへらへら笑って聞いてきた。
私はそれを軽蔑の眼差しで見た。
「そうだなあ、私が好きなのは……」
店内をうろうろとし、ヒューマンのコーナーにあった「イアン・ウィリアムズ」という題名のパッケージを手に取る。
英国に実在したと言われる伝説の義賊、イアン・ウィリアムズの人生をフィクションを交えて映画化した内容のもの。
イアンを演じたライアン・ウッドの独特の重圧的な存在感が、暑苦しくて男臭いこの映画に非常にマッチしているのだ。
イアンを題材とした映画は多いけど、私は十年前に公開されたこの作品が一番好きである。
余談だがこの映画に女性はほとんど登場せず、東吾兄の求めるお色気シーンとやらは皆無である。
「あっ、この女の人今度来日するんでしょ?」
彼が新作コーナーに陳列してあったミーナ・ハレルソンが大きく載ってあるパッケージを指差す。
「うーん、美人っちゃ美人だけど貧乳で色気がないなあ」
パッケージを手に取り、彼がミーナに対して難癖を付ける。
その言葉に苛立った私は彼の頬をつねった。
:12/04/30 00:05
:Android
:KtkA0HNM
#757 [ぎぶそん]
翌日。昼休み、私は一人図書館に来ていた。
カウンターにいる図書委員と数人の生徒しかいない静かな一室で、前から読みたかった日本映画界の巨匠、故・白木清三郎監督の伝記を立ち読みする。
白木監督は昭和を代表する映画界の立役者の一人で、没するまで様々な名作を世に生み出してきた。
その本の中には、監督の映画に対するこだわりや思い、苦悩などが作家の手によって淡々と書かれていた。
監督に影響を受けた映画監督は世界中にいて、その数の多さは監督の偉大さを顕著としてると言えよう。
私も白木監督の作品はいくつか鑑賞したことがあるが、あれほど人の心に強く訴える作品を作れる人は他にいないだろうと思っている。
監督の映画は白黒画面が多くて若者は避けたがるかも知れないが、若者こそすすんで観るべきだと思う。日本人として忘れてはならない誇り、武士道とは何かと描かれているからだ。
:12/05/01 22:31
:Android
:swH1Ej9U
#758 [ぎぶそん]
毎日同じような日々が過ぎるとやがて金曜日になり、ミーナが日本にやって来る日が翌日に迫った。
明日、遂に憧れのミーナを間近で見れるのだ。
夜、居ても立っても居られず明日に備えてリビングで準備をし始めた。
「もしかしたらサインしてもらえるかも知れないから、明日はペンとノートでも持っていったらどうだ?」
リュックサックにカメラを入れていると、風呂上がりの父が髪をタオルで拭きながら提案してきた。
名案と判断した私は、サインペンとミーナ主演映画のDVDを持っていくことにした。
寝る前、目覚まし時計をセットし普段より早い時間に布団の中に入る。
明日はどれ位の距離と時間、ミーナが見れるのだろうか。サインをしてもらえたらすごくラッキーだなあ。そのサインはどう頼めばいいのか。ペンを差し出せば分かるか……――
私は頭の中で明日のシミュレーションを何度も行った。
:12/05/01 22:57
:Android
:swH1Ej9U
#759 [ぎぶそん]
次の日。昼前、私・父・東吾兄の三人は父の車でミーナが現れるという空港まで高速道路で向かった。
空港に着き中に入って、ロビーにいた女性にどこでミーナが見れるのかを訊いてみた。
女性の詳しい説明を受けゲート前へと移動すると、青い紐で出来た仕切りの前で数十人の人が待っていた。
待っている人は主に若い女性が多く、携帯電話を片手に一緒に来た知人と話し込んでいた。
私たち三人はその集団の後ろとなる三列目に並んだ。
列の一番左端で、私はリュックサックからカメラを取り出し、レンズ越しからミーナが良く映る絶好の位置を探す。
「真希、サインは父さんに任せろ」
隣の隣にいた父に声を掛けられ、すかさず私はペンとDVDを父に渡した。
三人の中で一際背の高い父なら、前の方に少し手を伸ばせばこの不便な場所からでもサインをしてもらえる可能性はあるかも知れない。
そのまま同じ体勢のまま一時間ほど、真横にいる東吾とお喋りをしながら過ごした。
「ねえ、来たんじゃない?」
東吾兄との会話が盛り上がっているところで、前にいた女性が隣の女性に呟いたのを耳にした。
会話を止め、私は視線をゲートへと移した。
一時間、
:12/05/01 23:57
:Android
:swH1Ej9U
#760 [ぎぶそん]
関係者に囲われ、大きめの黒いサングラスを掛けたミーナがやって来た。
口元を緩ませ、こちら側に手を振る。
彼女と一緒に新作映画に出演するニタ・クルスとウェリントン・スミスもサングラス姿で現れた。
私たちのいる方は携帯で彼女らを撮ったり、二枚目俳優ウェリントンに対する黄色い声援が飛び交う。
彼女たちが現れたせいか後ろの人たちがどっと押し寄せて来て、私は列の中で圧迫しそうになった。
その中で根気強く体勢を保ち、私も彼女に向かって「ミーナ!」と叫んだ。
つま先立ちをしレンズを除き、ミーナが中心に映ったところでカメラのシャッターを押した。
終始ミーナたちはこちら側に近寄ることもなく、たちまち出口へと行ってしまった。
しばらくの間、私は彼女を生で見れた興奮が覚めないでいた。
:12/05/02 00:23
:Android
:kEs1dhPg
#761 [ぎぶそん]
夜、リビングでくつろぎながら三人で今日一日を振り返る。
「サイン貰えなくて残念だったな。しかも見れたのもちょっとだけだったし」
父が私を元気づける。
「ううん、見れただけで十分」
私はその気持ちを受け取った。
「あ、今日のことニュースで言ってるぞ!」
私たち親子に東吾兄がテレビに注意を向けさせる。
芸能ニュースの話題で、今日ミーナたちが来日したことが報道されていた。
今日リアルタイムで見たサングラス越しのミーナの微笑みが、画面に大きく映る。
その後その番組で「ミーナ・ハレルソンさんに単独インタビュー」という特集が流れた。
新作映画の看板を背景に、「日本ノ皆サン、コンニチハ」とミーナが最初に片言な日本語で挨拶をした。
彼女の女優としての来歴の説明の後、彼女が新作映画の見所や撮影でのエピソードなどをインタビュアーに語る。
最後に彼女がもう一度たどたどしい日本語で「皆サン、ゼヒ観ニ来テ下サイ」と喋り、映像は終わった。
この映画、出来れば優平と観に行きたいな。
:12/05/02 00:47
:Android
:kEs1dhPg
#762 [ぎぶそん]
二日後の月曜日。朝教室に着くと、私は一昨日撮ったミーナの写真をエリに見せた。
「よく撮れてるじゃん。優平にも見せてあげたら?」
エリの提案を受け、私は映画の誘いも兼ねて優平に会いに行くことにした。
昼休み昼食を済ませた後、写真と映画の前売り券を片手に優平がいるF組を訪ねてみる。
廊下から教室の中をちらりと覗くと、目の前に七瀬玲央奈たちのグループが賑やかに話し込んでいるのが見えた。
――また、彼女たちに何か言われたらどうしよう……。
一抹の不安が胸に過る。
結局彼に会わずその場を離れ、私は一呼吸落ち着けようと屋上に上がることにした。
:12/05/03 20:13
:Android
:wGpfMb4g
#763 [ぎぶそん]
残念な気持ちを後退りながらも、一秒も休むことなく階段を上った。
屋上の扉を開けると同時に、新鮮な空気が受動的に身体に入ってくる。
いつもに増して風が強いせいなのか、今日は雲の流れを早く感じた。
フェンスを背もたれにして、ため息をつく。
「……映画、誘いたかったなあ」
両手で持った前売り券をまじまじと見つめる。
その時、屋上全体に強い風が吹く。
一瞬目を閉じた隙に、手にしていた券が飛んで行ってしまった。
「あ!」
私は慌てて空中に舞う券を追いかける。
すると、いつからいたのか給水塔で座っていた男子生徒が飛び降り、地面に落ちた券を拾い上げる。
「ほら」
「有難うございます」
私はその男子から券を受け取った。
「あんた、B組の雨宮真希やろ?」
割り箸をくわえたまま、その男子は話し掛けてくる。
:12/05/03 20:47
:Android
:wGpfMb4g
#764 [ぎぶそん]
「どうして私の名前を……?」
私は見覚えのない彼に訝しげに尋ねた。
「だって、あんたいつもここに来とうやろ。そん時俺も大抵あの場所にいたんやて」
彼が割り箸を口から離し、給水塔を指差す。
そうだったのか。今まで全く気がつかなかった、と思った。
「あ、俺、G組の横山って言うもんたい。横山礼司。よろしくなあ」
横山と名乗るその男子が、軽々しい態度で握手を求めてきた。
私も仕方なく右手を差し出す。
「因みに、こないだも俺ここにおったんやで。放課後、F組の桜井とか言う奴と話し込んでた時…」
「もう!詮索しないでよ!」
私は感情的になり咄嗟に握手していた手を離した。
不覚にもあのやり取りを他人に全部見られていたなんて、気恥ずかしい。
「詮索もなにも、事実を言ったまでやん。」
横山が離された手を撫でながら言い返してくる。
:12/05/03 21:29
:Android
:wGpfMb4g
#765 [ぎぶそん]
「ははーん。さては、その映画も桜井君と観に行くつもりなんやな」
彼が全てを悟ったかのような顔をする。
もしかしたら彼は、芸能ワイドショーとか人の噂話が好きな性質なのかも知れない。
「そうだよ。でもさっき誘おうとしたけど、F組の女子が怖くて逃げてきた」
気がつけば私は彼に事情を話していた。
今ある胸の内を、ただ誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。
でも何となく、この彼には気の許せる雰囲気が漂っていると感じた。
「俺、代わりに桜井君に渡してやってもよかとよ」
「本当?」
親切な彼の言葉に私の心が晴れる。
「ただし、条件がある」
条件、という言葉に息を呑んだ。
「俺も一緒に映画に行くこと」
彼がポケットから私と同じ前売り券を取り出した。
:12/05/03 22:50
:Android
:dIN0YH7U
#766 [ぎぶそん]
「俺もこの映画好きでな。
でも俺、こっちに引っ越してからあんま友達おらんし。一人で観に行くんも寂しいと思っとるし」
彼が侘しい表情で券を見つめる。
「友達がいない」「寂しい」という言葉に同情の念が生まれる私。
「分かった。じゃあ、頼んだから」
私は彼に前売り券を渡した。
「任しとき。あ、それから……」
給水塔に登った彼が振り返る。
「水色のパンツ、なかなか可愛かったで」
素早く弁当を片付けると、彼はそそくさと屋上から出ていった。
パンツって……さっき風が吹いた時見られてたんだ。
抜け目のない男、と私はあっけにとられた。
:12/05/03 23:11
:Android
:dIN0YH7U
#767 [ぎぶそん]
放課後、私はエリと机を真向かいにして一緒に勉強をしていた。
「ねえ、エリ。G組の横山礼司って知ってる?」
私は情報通のエリに昼休み出会った彼のことを尋ねてみた。
「あの天然パーマの人?生まれは九州らしいけど、家が転勤族でしょっちゅう引っ越してるとか。この学校に来たのも去年の二学期からだったと思う」
彼女がまるで辞書を引いたかのように、的確な情報だけを私に伝えてくる。
「横山君がどうかしたの?」
彼女が不思議そうに尋ねてくる。
「実は……、今度その彼と優平と三人で映画観に行くことになりそうなんだ」
私は昼休みあった出来事を彼女に話した。
「ぷっ!あはは!横山君って、見た目どおり変わった人なんだね。
優平と二人きりで映画を観れないのは残念だけど、横山君って悪い人じゃなさそうし楽しんできなよ」
私の話に、彼女がくすくすと笑う。
彼女の言うように、私も新しい友達が一人出来たと思うことにした。
「雨宮ーっ!」
教室の前で、けたたましい声で誰かが私を呼ぶ。その音量に耳がきんきんと鳴る。
:12/05/03 23:39
:Android
:dIN0YH7U
#768 [ぎぶそん]
横山だった。
教室にいる皆の視線が彼に向けられる。
私は慌てて彼の元に行った。
「ちょっと、そんな大きな声で呼ばないでよ。皆の迷惑でしょ」
「例のあれ、桜井君にばっちり渡したけん」
横山が大きな目を細めてにんまりと笑う。
「桜井君、今週の日曜なら予定空いとうって。俺、彼のメールアドレスもゲットしちゃった」
彼が満面の笑みで自分のケータイをちらつかせる。
「何でそんなに嬉しそうなのよ」
私は彼を疑問視した。
「だって、俺ゲイやもん」
「え?そうなの?」
彼の意外な告白に、私は目を丸くした。
「嘘に決まっとうやろ、ヘテロや。でも、雨宮みたいな背の高い女はあんま好みやないっちゃけどな」
そう言い残すと、彼は大笑いをしながら教室を去っていった。
なかなか癖のある人物だけど、いい友達にはなれそうだ。
:12/05/05 02:47
:Android
:PQ0W3.s6
#769 [ぎぶそん]
その日の夜、部屋で本を読んでいるとケータイの着信音が鳴った。
相手が「もしもし?」と遠慮がちに話す。
優平だった。
「今日、横山って人から突然映画のチケット渡されたんだけど…」
彼が戸惑った声を出す。
私は咄嗟にところどころ嘘を交えながら彼に経緯を話した。
横山と親しくなり、偶然同じ映画の前売り券を持っていたのでそのまま意気投合したと。
七瀬玲央奈たちを避けたかったという話は、かえって彼に気を遣わせることになりそうなので言わなかった。
「直接渡してくれたら良かったのに」
「ああ。えーっと、今日は何か忙しくて……」
彼の純粋な問い掛けに、やや冷や汗が出る。
「分かった。じゃあ、また日曜日な」
その後お互い「おやすみ」と言い合った後、私たちは電話を切った。
久しぶりに優平と電話出来て嬉しかったな。
でもF組の女子を敵に回したくないし、しばらくは学校で会えそうにないな。
:12/05/05 03:15
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#770 [ぎぶそん]
水曜日。リビングでテレビを観ていると、父のケータイが鳴る。
いつもみたいに会社からかなと思い、そのまま気にせずテレビを観続ける。
「はい、そうです。えっ……本当ですか!」
父の嬉しそうな声が聞こえ、思わずそちらに目をやる。
「真希、例の『パリの祝日』のイベントに当選したって!」
父が通話中のケータイを離し、私に声を掛ける。
「えっ!?本当に?」
あまりの驚きで一瞬、自分の中の時が止まる。
きっと、宝くじに当たった時ってこんな気持ちになるのだろうと思った。
父はそれから相手の話を従順に聞くと、深々と頭を下げながら丁寧に電話を切った。
「今週の土曜日、とりあえず衣装の寸法計りたいからスタジオに来てって」
相手に言われたことを私に説明する。
日曜日じゃなくて良かった、と一先ず安心した。
それからずっと、毎週欠かさず観てるテレビ番組の内容も全然頭に入らないくらい混乱していた。
:12/05/05 03:40
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