クソガキジジイと少年。みそ汁編

『トミーがいじわるするから！』

ジョウジロウちゃんは
トミーの虫とりあみを
指差す。

『わー！カメムシがプーした！』

トミーはムシトリアミを
放り投げた。

すいとうの中の氷も
すっかり溶けてなくなった頃

辺りは茜色に染まっていた。

広場まで迎えに来たのは
トミーのじいちゃん。
きーさんだった。

『おーい！もう帰ってこーい！』

トミーと
ジョウジロウちゃんは
きーさんにかけよった。

『じいちゃん見て！オレのバッタ！』

『きーさん！ボクもバッタとった！』

『ほうほう。すごいすごい。いい緑色をしておる。』

ガッシャーン。

『またぁ。』

この日何回目だろうか。
キュウの足から
血が流れ出てしまった。

『うー。。。』

キュウは泣くのをグッとこらえた。
きーさんはキュウを抱っこする。

『キュウちゃん。今日はもうオウチ帰ろう。』

『いやだー！』

目にたくさんの、涙をためて。

『キュウ。もう帰ろうよ。ボクがまた明日、持っててあげるから。』

『オレも一緒に来るから帰ろうよー。』

きーさんに抱っこされた
キュウを二人は見上げた。

『いやだ！自転車乗りたい！』
きーさんの抱っこを
嫌がるように暴れだす。
ひき止めるきーさんの手を
はらいのけ、
鼻先が真っ赤なキュウ。

『お母さんが帰って来たら見せるもん！』

きーさんは
カットバンだらけの
キュウの足を見て
キュウの両手をつかんだ。

『キュウのお母さんは、もう帰って来んのじゃよ。』

キュウは
今まで溜めていた涙が
こぼれ落ちた。

大きな口を開けて
目を
鼻を
真っ赤にさせて。

『きーさんのうそつき！うわーん！』

きーさんは
キュウの背中を優しく撫でた。

『ほんとうじゃ。キュウ。』

きーさんは
知っていたのだ。

きーさんだけではない。

大人達は
みんな知っていたのだ。

キュウのお母さんは
この先ずっと
マンションには

絶対に帰って来ないと言う事を。

だけどキュウは
帰って来ると
信じていた。

待っても待っても
帰って来ない
お母さんを
来る日も来る日も
待っていたのだ。

その間に出来る事を。

お母さんにほめてもらいたい

全ての事を。

キュウは小さいながらに
一生懸命やったのだった。