○最後の四季○

隼人は黙ったままで
手を少し強く握った。

あたしの大好きな手。

熱いくらいの体温も

冷え性なあたしには
心地よかったんだよ。
　

｢でも俺
お前の事好きだもん｣

何回そう言われて
許して来ただろう。

あたしも随分勝手な女だし
たくさん困らせたけど

嘘は言った事ないよ。
本当に大事に
してきたつもりだよ。

伝わってた？

あたしの想い。

ねぇ隼人…
　

溜め息を飲み込んで
言葉を返した。

｢あたしも好きだよ。
でも信じられないの。
ごめん｣

｢…別れるとか嫌だよ｣

｢じゃああたしだけ
傷付いてくの？
信じて裏切られてを
繰り返さなきゃいけないの？｣
　

｢もう裏切らない…｣

｢…それも信じられない｣

｢…｣

｢一回で直らなかったら
一生直らないよ。｣
　

車についた。
乗り込んでも
隼人はエンジンをかけない。

あたしも何も言わなかった。

隼人は傷付いた顔して
被害者みたいな空気出して
ほんといいよね。

自分が壊しといて
離れてくのは嫌だ嫌だって
どんなん？

毎回毎回。
あたしより勝手だよ。　

あたしは

疑われるより
疑う方が
辛いと思う。

許して貰えないより
許せない方が
辛いと思う。

両方後者は
あたし自身。

ほんとは
疑いたくない。
許したい。

でも自分じゃ
どうしようもないんだもん。
　

あたしは今
どんな顔してる？

今まで以上に
色を失って

今まで以上に
冷たい瞳に
なっているかな。

なんか
吹っ切れた
喪失感。

それは多分
諦めから
きてる。

もう
いいや。

どうでもいい。
　

｢そんなに別れたくないなら
別れなくていいよ。｣

静かな車内に
あたしの声が少し響いた。

｢え？｣

｢いいよ。
隼人がしたい様に
すればいいよ。｣
　

｢でもゆりは別れたいんでしょ…？｣

あー
堂々巡り。
あたしが何言っても
どうせあんたは
だだこねて
別れないくせに。

｢どっちでもいい。｣

｢なにそれ…｣

あー
めんどくさい。

何言っても
こんなんじゃん。
　

｢あたしにどうしろって言うの？｣

頭ん中が
ぐしゃぐしゃ。

もう傷付くとか
傷付けるとか
うんざりだよ。

｢…俺は別れたくないんだって…｣

ハンドルに手を置いて
隼人が俯いた。
　