････幸せになれよ････

｢美…紅…｣

俺は掴んでいた腕をゆっくり離した。

｢…柊…痩せたね…｣

美紅がﾎﾟﾂﾘと言った。

久しぶりに見た美紅の顔。
｢まぁな…｣

………。

沈黙…

美紅が俺に背を向けた。

泣いてる…

｢…柊が好き…｣

耳を疑った。
でもﾊｯｷﾘと聞こえた。

｢柊がすき…ずっとすきだった…別れてもずっと好きだった…早く忘れなきゃって彼氏作って…だけど柊の事忘れた日なんかなかった…｣

｢…美紅…｣

別れて2年…
初めて聞いた美紅の気持ち。

今俺と美紅は初めてちゃんと向き合おうとしている。

｢でも…わからない…｣

美紅が言った。

｢どうしたらいいのかわからない…｣

そして…

｢…あたしに柊は無理だよ…｣

それが美紅の出した答え…
俺は何も言えなかった。

引き止めることなんてできなかった。

｢美…紅…っ｣

気づいたら美紅を抱きしめてた。

すげぇ強く美紅を抱きしめてた。

もうこの温もりを二度と感じることはできないんだ。
美紅も俺の背中にぎゅっと強くしがみついたのがわかった。

｢柊…っ…しゅう…!｣

美紅が俺の名前を何度も呼ぶ。

美紅と出会った日から今日までの思いが頭の中に蘇ってきた。

遊び人で女を信じられなかった俺が、初めて本気になった女。

最初は生意気でﾑｶﾂｸ女だと思った。

気付いたら好きになってた。

気持ち伝えて毎日が幸せだった。

初めて繋いだ手は温かかった。

美紅の笑顔に癒された。

ずっと一緒だと信じてた。

病気になり美紅を手放した。

自分のために、美紅のためにと別れを決めた。

それでもずっと…ずっと美紅を思いつづけた。

俺と美紅はなんで出会ってしまったんだろう。

こんなふうになるために?

美紅は俺と出会ったことを後悔してるか?

ごめんな、美紅。

こんな愛し方しかできなくてごめんな。

俺の腕の中にいた美紅がゆっくり離れていく。

｢…さよなら…柊…｣

美紅が涙を堪えて必死に言った、その最後の言葉を俺は今でも忘れない。

美紅の事を責める人もいるかもしれない。

好きなら側にいてあげたらいいのに

って。

でもあの頃、19歳のまだまだ子供だった俺と美紅にとって、｢死｣というものを受け入れることが、死によって離れ離れになるということが自分の中では整理できなかった。

自分が明日死ぬかもしれないのに｢一緒にいてくれ｣なんて、どうしても言えなかった。