うまく言えない

「大丈夫か？」

‥大丈夫。

だって曜は死んでない。

ただ隠れてるだけやろ？

でも、やっぱり現実を受け止めなければならなくて‥

葬式が終わって一週間後、佳基さんに連れられて曜の家に行った。

そこで初めて声をあげて泣いた。

曜の匂いの残る部屋‥

ずっと変わらない部屋‥

だけどもう曜は帰って来ない。

「紗奈」って呼ぶ声も無い。

曜はもういない。

４月に入っても何もする気になれずに、実家にずっといた。

大学も行く気になれなかった。

だけど、自分で決めた道なのに、曜の死で終わらせてしまえば、曜は怒ると思った。

履修も出さないといけなかったし、うちは家に戻った。

学校に行っても特に仲良い友達がいるわけでもなくて、１人でぼーっとしてた。

誰かに話しかけられても上の空。

授業も聞いているようで聞いてない。

とにかく何もする気になれなかった。

曜を思い出して泣くことも少なくはなかった。

学内にある広場みたいなところでよく泣いた。

弱くなったなあ‥って。

だけど、曜はそれだけ大切な存在だった。

曜のことを少しでも考えれば涙が出てきた。

そんな状態がずっと続いてた。

気付いた頃にはもう夏休み前。

うちはいつものように広場のすみの方に座っていた。

「なあ」

後ろから声をかけられた。

「‥はい？」

背が低くて目がクリっとした男が立っていた。

‥誰？

「いっつも何してんの？」

「‥は？」

「いきなり何？って感じやんな!!俺の名前は‥」

「自己紹介とかいらん。気安く声掛けんといて。」

うちは立ち上がってその場を去った。

‥鬱陶しい。

だけどそいつはなぜか毎日毎日話しかけてくるようになった。

うちは完全にシカトしてるのに１人で勝手に横で喋ってた。

うちが立ち上がれば

「またな！」

って言ってた。