人を嫌った犬の一生
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#57 [太郎]
駐車場には、次々と受診の終わった犬や猫が出てくる。その度にゴンは飛びかかろうとしたり、吠えたりした。

病院から出てくるペット達は、ヒステリーに吠えまくるゴンを蔑むように見ていく。

みんなおとなしくて、服を着たり、オシャレをしたり、上品なペットばかり。まるで飼い主の着せ替え人形だ。

そんな犬達を見ても、ゴンの可愛さに勝てる犬はいなかった。親バカならず、飼い主バカなのかな。

数10分して、先程の獣医さんがやってきた。

⏰:09/04/16 09:06 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#58 [太郎]
ゴンはまた飛びかかろうとした。獣医さんもどうやって検査・予防接種をするか悩んでいた。

今思えば悩んでも一緒だった。ゴンがおとなしくなる事などないのだから。

「不意をついて注射をするしかないですね。」

獣医さんは言った。正論だった。

まず持ってきたジャーキーをゴンの前においた。そして「待て」をさせて、ゴンの意識をジャーキーに向かせた。

静かに後ろから近づく獣医さん。まさに一瞬だった。

⏰:09/04/16 12:11 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#59 [太郎]
「よしっ」の声とともにゴンはジャーキーを食べる。それと同時に獣医さんは後ろからゴンの腰あたりに注射を刺した。一気に予防接種を打ち込み、即座に逃げるようにゴンから離れた。

ゴンはジャーキーに夢中だった。食い意地のはった犬だ。無事予防接種は終わった。

それから狂犬病検査なのだが…

申し訳ないが、どう検査したか覚えていない。

確か唾液かないかを採集しての検査だったと思う。

そしてゴンをまた車に乗せ、支払いを済ませてから家に戻った

⏰:09/04/16 12:47 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#60 [太郎]
検査結果。ゴンに狂犬病の疑いはなかった。それをゴンが噛んだおじさんに伝えると、ホッと胸をなで下ろしていた。

病院から帰ってきた俺はどっと疲れていた。ゴンと一緒に外出すると、歩行者などにかなりの注意をはらわなければならないので、俺の気の張り方は尋常じゃなかっただろう。

ましてや、先日他人を噛んだばかりだったから。


それから一時は、平和な日々が続いた。

その頃の俺は、フリーターとして何も考えずバイトをしていた。将来の事でお母さんと毎晩のように喧嘩していた。その喧嘩をゴンは玄関で聞いていただろう。

⏰:09/04/16 12:58 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#61 [太郎]
俺は一切勉強する気はなかった。一回道を踏み外したんだから、もう元の道には戻れない。…言い訳だった。

そんなどうしようもない俺でも、ゴンはやさしく接してくれた。全て分かっているような目で。

「ゴン、お前はやさしいなァ。」

そう言うと、ゴンは俺の肘をペロっと舐めた。ゴンはいつでも俺の味方だった。

そのまま一年以上たった。ゴンに大きな異変が起きた。

⏰:09/04/16 13:04 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#62 [太郎]
ゴンは左目を手でかきむしるようになった。かゆそうに目を気にしている。

今からバイトだったので、気にしながらもバイトに行った。

蜂にでも刺されたかな?

そんな事を考えながらバイトの終わった俺は、家に着いてゴンを見た瞬間驚いた。

左目の色が白く濁っている。平たく言えば、左目は死んでいた。

白内障。高年齢の犬がよくかかる病気だ。目が白く濁り、視界を奪われるとゆう恐ろしい病気。

「ゴンの左目はもう見えてないみたいよ。」

お母さんが言った。

⏰:09/04/16 13:10 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#63 [太郎]
確かに好物のジャーキーを投げてあげても、いつものように口でキャッチする事ができない。

片目を失った事で遠近感覚が取れないのだ。

それを見て、俺は涙が出た。昔から白内障の存在は知っていたが、このゴンがその病気にかかるなんて…。

ゴンは、半分になった目で俺を不思議そうに見つめていた。

もうゴンは、14歳になった。

⏰:09/04/16 13:15 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#64 [太郎]
視界が半分になろうと、ゴンは今までと変わらなかった。

訪問者にはヒステリーのように吠えるし、餌も山ほど食べるし、水もがぶ飲み。

その姿に俺は元気付けられた。その頃に知り合いに白内障の話をすると、「人間と違って、犬にとっての視力ってものは前感覚の20%くらいなんだよ。だから目が見えなくなる事は、あまり痛手ではないんだ。」

とおしえられた。

俺はやけにホッとした気分になった。やはり犬が一番恐れる事は、嗅覚がなくなる事なんだろう。

⏰:09/04/16 13:23 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#65 [太郎]
それから数日経った朝。ゴンは右目をかきむしっていた。

俺は青ざめた。病気とは残酷なものだ。

心配でたまらなかったがバイトを休む事はできず、俺は家を出た。

バイト中、ゴンの事ばかり考えていた。早く家に帰りたい。早くゴンに会いたい。

バイトを終えた俺は、すぐに家に帰った。

「ゴンっ!」

玄関に行くと、ゴンは壁に向かって座り壁を見ていた。いや、ゴンは「壁」を見る事さえできなくなっていた。

⏰:09/04/16 14:20 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#66 [太郎]
左目と同じ色に濁った右目。

「ゴン!こっちにおいで。」

俺が声をかけると、

「クゥゥン…」

と鳴いてそこを動かない。俺がどこにいるのか、どの方向にいるのか分からなかった。

俺は涙が溢れた。14年間付き添ったゴンは、もう俺の顔を見る事ができない。そう考えると胸がしめつけられた。そして寂しかった。

ゴンは急にパニックを起こしたように「キャンッキャンッ」と鳴きながら暴れだした。

俺の匂いはするのに姿は見えない。怖かったのだろう。

⏰:09/04/16 14:26 📱:D905i 🆔:l/weZALU


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