人を嫌った犬の一生
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#67 [太郎]
「ゴン!俺はここにおるよ!大丈夫!ここにおる!」
そう言いながらも俺は涙が止まらない。暴れるゴンをなだめようと、ゴンの横腹に触れるとゴンはビクッと驚いた。
「ゴン、俺はここにおるから大丈夫よ。怖がる事ないよ。」
何度も何度も言った。言う度に涙は流れ落ちた。次第に落ち着きを取り戻してきたゴンは、俺の腕をペロッと舐めた。
ジャーキーを投げてあげたが、見つける事ができない。今思えば、嗅覚も鈍っていたのかもしれない。
:09/04/16 14:37
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#68 [太郎]
白内障。普通の犬なら手術をして治すという手もあっただろう。しかし、ゴンは他人に対し凶暴だ。麻酔という手もあるが、もうすぐ15歳とゆう高齢には体への負担が大き過ぎた。
家族の誰もが、手術という手は考えなかった。
それからしばらくして、目の見えない生活に慣れたゴンは、比較的元気に生活していた。たまに階段を踏み外したり、壁にぶつかったりする事もあったが、餌もガッツリ食べるし、水も飲む。骨型の硬いガムも一気に食べるほど。
その頃の俺は、バイトをしながら自動車学校に通っていた。自動車学校やバイトが休みの日は、将来の為の勉強を始めた。
:09/04/16 14:52
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#69 [太郎]
お兄ちゃんは立派な社会人に。お母さんも仕事を始めた。お父さんは別居したままだが、両親のトラブルは減っていった。
まるでそれと比例するように、ゴンは弱りはじめた。
外を怖がるようになった。
前までは、ドアを開ける仕草をするだけで尻尾を振って喜んでいたゴンだが、視力を奪われてからは外に出るのをいやがった。縄を引っ張って外に出そうとしても、玄関から出ようとしなかった。
あれだけ元気で凶暴だったゴンは、見る影もなくなっていった。
:09/04/16 15:00
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#70 [太郎]
歩き方もヨロヨロになった。しかしそれでも誰かが家に帰ってくるとヨロヨロと立ち上がり、尻尾を振って出迎える。
「出迎えなくていいよ。ゆっくり寝ときなさい」
そう言っても出迎えをやめなかった。それが愛しくて可愛かった。
俺は日に日に弱っていくゴンが目に見えて分かった。餌や水はよく摂取していたが、歩き方、表情、吐息、その全てから、昔のような元気さを感じ取る事はできなかった。
:09/04/16 15:09
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#71 [太郎]
4月7日朝7時半。
なぜかいつもより早く目の覚めた俺は、玄関に行き、ゴンに骨型の硬いガムを一つ投げてあげた。
ゴンは少しヨロヨロとガムを探し、見つけて口にくわえると、自分専用のマットに乗って噛み始めた。
俺は朝食を済ませ、二階の部屋に戻った。今日の予定は昼過ぎから自動車学校だ。まだ時間はかなりあったので二度寝をした。
1時間後――朝8時半。
「ゴンの様子がおかしいみたい!ちょっときて!!」
お母さんの叫ぶ声で目が覚めた。
:09/04/16 15:16
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#72 [太郎]
俺は飛び起きて、急いで玄関へ向かった。
「もうダメかもね…」
お母さんは何かを悟ったように言った。
ゴンは地面に倒れていた。口からは嘔吐物、おしりからは血便、目からは涙のようなものが出ていた。足は完全に伸びきり、ピクリとも動かない。
だが息はしている。
「ゴンが死ぬ訳ない…」
そう言った俺も、どこかで覚悟していた。
:09/04/16 15:23
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#73 [太郎]
息はしているが少しも動かない。お母さんが言うには、急に倒れたらしい。
「ゴン!大丈夫よ!」
そう言って横腹をさすってあげた。ゴンの横腹には肋骨が浮き出ていた。
「小さくなったね…ゴン。」
お母さんの言葉に涙が溢れ出した。止まらなかった。
そのまま15分くらい経っただろうか。今日にゴンは鳴き声をあげた。
:09/04/16 15:29
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#74 [太郎]
すみません。訂正です。
「今日に」ではなく「急に」です。
:09/04/16 15:30
:D905i
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#75 [太郎]
「うゔ〜うゔ〜ワン!」
鳴き声と言えたのだろうか。うめき声にも聞こえた。ゴンが声を発したのは、この一回きりだった。
30分が経った。ずっと倒れたまま動かないゴン。もう病院につれていくしかなかった。
以前に予防接種をしてもらった病院に電話し、今の状況を伝えると、「今すぐに連れてきてくださいっ!」と言われた。
このまま連れて行く訳にもいかない。何かに入れて連れて行かなければ。
俺は倉庫から大きめのクリアケースを持ってきた。
:09/04/16 15:37
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#76 [太郎]
もし急に立ち上がり、獣医さんに噛みつくといけないので口輪をする事にした。
以前、口輪をつけるのに失敗したので、今回つけれるかどうか心配だった。
俺がゴンの長い鼻に口輪をあてる。ゴンは何も抵抗しなかった。抵抗する力もなかった。それを見てさらに涙が出た。
次に倉庫から持ってきたクリアケースにゴンを移した。毛布でくるんで寒くないように工夫した。
この時生まれて初めてゴンを担いだ。こんなに重いとは知らなかった。
:09/04/16 15:43
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