夏祭り、恋花火

　
“先月、死んでん。

俺の奥さん。”

センゲツシンデン。

オレノオクサン。

ズキンズキン

頭、痛い。
　
　

　
　
　
記憶が蘇る。

あの人と出会った日…。
　
　
　
　
　

　
　
　
『なあなあ、
あんた、名前なんてゆうん？』

その日、
私はいつもみたいに新人イジメのため、
わざわざ神社の中にある、“たこ焼き”まで
やって来た。

プロパンをいじりながら、新人は言った。
　

　
｢ハラダタカシやで。｣

『ハラダタカシ？』

｢野原の“原”に、
田んぼの“田”で原田。

あと、俊足の“俊”でタカシって読むねん。｣

そう言われ
“原田”までは、思いついたものの、

小学2年生の私。
“俊”はカタカナのままだった。

　
　
とりあえず、

ふーん
と適当に頷く。

だって、

私がに聞きたいことは、
そんなんと違うし。

相手が嫌がるような、
うっとうしくて仕方なく
感じるようなことを聞くのが

ほんまの目的。

　
何歳？
　
誕生日は？

血液型は？

どこ住んでんの？

こんなんは、序の口。

ファーストキスはいつ？

どこで？

どんな風に？

好奇心だらけの質問。

　
どれにも笑って答えてゆく。

なかなかやるな、コイツ。

確かな手応えを感じ始める。

そして、

『今、彼女おんの？』

と、とうとう聞いた。
　

　
｢ん～、彼女ってゆうか、奥さんやな。｣

『結婚してんの？』

｢そぉやな。｣

たこ焼きを焼き始めた手を見ると

指輪。

子どもの私でも、
その意味は理解できた。
　

　
　
『ふーん。子どもは？
子どもはおんの？』

｢まだ籍入れて、2ヵ月しか経ってへんし、
そんなんまだまだ先や。｣

『じゃあ、まだ見ぬ赤ちゃんのために頑張りや。

ここで、さぼらんように
まつりが見張っといたるわ。』

｢そりゃ、
どーもありがとぉ。｣

　
ほんまえらそうなガキ。

そんな私にも、笑って答えるあの人。

今の私やったら、

ガキんちょに
自分の子どものことなんか心配してほしないわっ！

ってキレてる。
　
　