夏祭り、恋花火
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#1 [七瀬]
『星とぽんず』を書いてた七瀬ですo(^-^)o

趣味として書くので
更新が
遅くなる時もあります↓↓ご理解下さい。

中傷、荒らし
止めてね(ノд<。)゜。

感想板
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⏰:09/03/18 08:55 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#2 [七瀬]
 
 
前作 『星とぽんず』

bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/10022/
  
 

⏰:09/03/18 08:57 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#3 [七瀬]
 
ヒューッ ドーン!!





今日も遠くに聞こえる花火。


いつからだっただろう。



私の恋花火が上がってしまったのは。
 
 

⏰:09/03/18 09:00 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#4 [七瀬]
ジーンジーンジーン。
 
蝉の声が耳障りの7月下旬。
 
 
「いらっしゃい!」

「たこ焼きはどうですか?」

「はい、スーパーボールやってってやー!」


ここは大阪。

日本三代祭りの内の一つ。

天神祭。

⏰:09/03/18 09:05 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#5 [七瀬]
景気が悪かろうが、良かろうが、
この二日間は関係ない。
みんはアホになって騒ぐ。


そんな日に私は…

「お姉ちゃん。
金魚すくい一回、この子にやらしたって。」


『はーい。おおきに。』


私は働いている。

神野まつり(カンノマツリ)。
17歳。

⏰:09/03/18 09:10 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#6 [七瀬]
一回300円の文字。

持ち帰り 袋代50円。

赤と黒の金魚たち。


そう、ここは屋台。

“金魚すくい”


そして私は毎年ここで

『はい、いらっしゃーい!一回300円!!
今やったら金魚持ち帰り、オマケしとくでー!』

声を張り上げる。

⏰:09/03/18 09:14 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#7 [七瀬]
 
 
 
「お姉ちゃん、ありがとう。」


さっきの小さな子どもの紙が破けたらしく、
その母親が破れたワッパを返してきた。

『ありがとー。またしてなあ。』


そう言ってタオルを差し出してあげる。

⏰:09/03/18 09:17 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#8 [七瀬]
「すいません。ほんまに。」

『いえいえ。気にせんといて下さい。』

「お姉ちゃんありがとー!」

そう言う小さな子どもに、ニコッと笑いかける。


「バイバーイ!」

手を拭いてやっと帰った。

私、子ども嫌いやねん。
ほんまうんざり。


「お疲れさん。」

⏰:09/03/18 09:22 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#9 [七瀬]
横から声がする。

またうんざりする。


原因は、その声の持ち主。

「ほんま、お前は子ども嫌いやなあ。
顔に出とったぞ。」


佐藤遊希(サトウユウキ)。



『うっさいなあ。なんやねん。』

⏰:09/03/18 09:27 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#10 [七瀬]
「うるさいって
ゆうことはないやろ!

ワッパ持って来たってんぞ。」

さっきも出てきたけど、
“ワッパ”とは金魚すくいの時に使う紙を貼ったもの。

金魚すくい屋になかったら大変。


『はいはい。ありがと。』

「ほんま、
まつりは可愛げないなあ。」

⏰:09/03/18 09:31 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#11 [七瀬]
『黙れ、ボケ。』

「お前、顔はかわいいのに……。
学校とかでもモテへんやろ。」


『もぉ、なんなん!?
そんなん関係ないやろ?
さっさと自分の店へ帰りぃや。』

「わかったわかった。
はい、これ。」


熱帯びた私の腕に、ひんやり冷たいもんが当たる。
 

⏰:09/03/18 09:36 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#12 [七瀬]
「じゃあ頑張れよー。」


私の手元には冷たいジュースと、遊希が持ってきてくれたワッパ。


やっと行ったか。

遊希は2年前に“ここ”
つまり“神野商会”にやってきた。


遊希は今18歳で高校を中退した、
とか言ってた。

あとは何も知らない。

⏰:09/03/18 09:41 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#13 [七瀬]
 
住んでるところ。 

通っていた高校名。

職業
…は多分ここのバイトだけだと思うけど、

詳しいことは知らない。



これは遊希だけじゃなく、みんなそう。

ここで働いている子はみんなそう。

⏰:09/03/18 09:45 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#14 [七瀬]
 
でも、だからと言って
別に怪しい身元が分からないということはない。



私のおばあちゃんは大の買い物や。

そのおばあちゃんがよく行く
果物屋やら八百屋やら服屋やらの
息子、その息子の友達なんかを中心としてスカウトしてくる……らしい。

⏰:09/03/18 09:48 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#15 [七瀬]
で、遊希も2年前におばあちゃんにスカウトされ、この“神野商会”にやって来たわけや。


私?

私は、この“神野商会”を取り仕切る神野よしよの孫。

だから、ぜーんぜん怪しないよ。

むしろ一番、安全やから。笑

⏰:09/03/18 09:52 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#16 [七瀬]
だから、ここでは
数え切られへんくらいの
出会いがある。


バイト、ちゃう店の子、
地方の祭に出張に行った時に出会った子…。

年齢幅も
15〜50歳代まで。

選び放題やで。笑


だから、
デキ婚とか誰と誰が付き合ってるとかは、別に珍しい話ではない。

⏰:09/03/18 09:56 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#17 [七瀬]
特に、この“神野商会”。


たくさんある商会の中でも結構お偉いほう。

歴史もあるし。

金魚すくいやカステラ、
たこ焼きにリンゴ飴とか

まだまだいっぱい屋台をしてる。

さらに茶店も何店かやってる。

茶店ってゆうのは
飲んだり、おでんとかお好みとか食べたりするとこ。

⏰:09/03/18 10:02 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#18 [七瀬]
規模がデカいということは、

そんだけバイトもいっぱい必要やし、
色んなとこで店を出すから、

やっぱり出会いが
そんだけ多くなるわな。



私は今は一応4代目。

“神野商会”に継ぐことになったら
の話やけど。

⏰:09/03/18 10:06 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#19 [七瀬]
けど私に継ぐ気はさらさらない。

だって私には5人のいとこがいるし。

なんも私が継がんでも、
代わりはいっぱいおんねん。

まあ今のところ、
私が最有力候補やけどな。

だって春休み、夏休み、冬休み…。

祭がある日は、1日も欠かさず、商売を手伝いにきてる。

⏰:09/03/18 10:11 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#20 [七瀬]
あとは

“夏休みは遊びたい”

“なんかカッコ悪い”
         
とかゆうて、次第に来(コ)うへんくなった。


2つ上の麻友(マユ)ちゃんだけは
忙しい日は来てくれるけど。


でも私は欠かさず来てる。


あの日から、ずっと…。

⏰:09/03/18 10:17 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#21 [七瀬]
 
 
 
「まつり?
何をボーッとしてんの。
ご飯食べに行くよ。」


『あ、ああ…。
ごめんごめん。今行くわ。』

釣り銭を入れている袋。
つまり“釣り銭袋”を持って立ち上がる。


これ盗まれたら商売なれへんし!

⏰:09/03/18 10:25 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#22 [七瀬]
お母さんの後をついていく。

お母さんも、ずっとここで働いている。


昼食を食べるため、近くの牛丼屋へ。

『また牛丼〜?もう飽きたわ。』

「文句言わへんの!」

入るとクーラーの冷たい空気が気持ちいい。

⏰:09/03/18 10:29 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#23 [七瀬]
 
前のとこも、近くに牛丼屋しかなかったしなあ。



人の少ない昼は、店番を変わってもらったり、
ご飯を外で食べれる。

けど夜は人も多いし、
大概がお弁当やな。

食べられへん日だってあるくらい。

だって忙しかったり、
地域によっては、めっちゃ田舎で近くにコンビニもないとこもある。

⏰:09/03/18 10:35 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#24 [七瀬]
まあ、だから天神祭はまだマシな方かな。

近くにコンビニもあるし。


「はい。お待たせしました。牛丼の並がお二つでーす。」


いっぱい食べて体力つけへんと!


まだまだ夜は長いし…。
 

⏰:09/03/18 10:38 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#25 [七瀬]
「まつり、ごめん。
ちょっとカステラに持ってってほしいもん、あんねん。」

牛丼屋を出たあとに言われ、お母さんについていく。


この世界では

カステラ屋は“カステラ”

金魚すくい屋は“金魚”

リンゴ飴屋は“リンゴ”

スーパーボール屋は“ボール”
と略して呼ぶ。

⏰:09/03/18 11:10 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#26 [七瀬]
カステラは金魚に行く道のりの途中にある。


「はい。これ。」

大きなドリルを渡される。


重〜いっ!!

そんなこと思いながら、
カステラへ。


『はぁ、やっと着いた。
これ、はい。』 
 

⏰:09/03/18 11:13 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#27 [七瀬]
「おぅ、悪いな。
サンキュー。」

遊希が言った。


『あれ、大竹さんは?』

大竹さんとは、神野商会に長年いる40歳近くのおじさんだ。


いつもカステラを焼いている。

⏰:09/03/18 11:16 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#28 [七瀬]
「さっきご飯食べに行ったよ。」

と遊希。


遊希はカステラの“前場”をしている。

“前場”とは前に出て、カステラを袋に詰めて、
お金を貰ったりする役。

そんなに売れないところはカステラ焼く人が“前場”をしている。

でも、ここは天神祭。
一人じゃ普通に追い付けない。

⏰:09/03/18 11:21 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#29 [七瀬]
 
 
『ふーん。
遊希は食べに行ったん?』

「ああ、俺はまだや。
大竹さんが帰ってきてから行くわ。」


『私が店番、変わったるわ。
ご飯食べに行っといで。』

「いや、でもせっかく
まつりがドリル持って来てくれたしなぁ。
粉でも練るわ。」 
 

⏰:09/03/18 18:28 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#30 [七瀬]
私が持ってきたドリルを指さして言った。


このドリルは粉を練るのに使う。

そもそも“粉を練る”というのは、

…なんてゆうたらえーやろ。

まあ簡単にゆうたら、
カステラの元を作るとゆうことやな。


まあ気にしんといて。
 

⏰:09/03/18 18:33 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#31 [七瀬]
とりあえず遊希は粉を練り出した。


ブゥィーン

ドリルが回り始める。


遊希はそこに手際良く、
小麦粉、砂糖、牛乳、ハチミツを入れていく。


「ちょっと粉っぽいな。
まつり、水足して。」


水缶から水をすくって、そこに入れた。

⏰:09/03/18 18:39 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#32 [七瀬]
「うーん。
今度は水っぽくなってしもたわ。
粉足そ。」


小麦粉を入れる。

そんなことをしている内にどんどんバケツはいっぱいになってしまった。


『これ…、
作り過ぎちゃうん?』


「…そうやな。
ちょーっと作り過ぎたな。」

⏰:09/03/18 18:42 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#33 [七瀬]
『“ちょーっと作り過ぎたな”って

…ちゃうやろ!』


「ハハハ〜。」

遊希は笑って流そうとする。


『笑ってる場合ちゃうで!大竹さんに怒られるやん!!』



どうしよ…。
 

⏰:09/03/18 18:46 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#34 [七瀬]
 
 
 
「どうしたんや?」


おっと!

良いところに来た!!


『ちょっ、奏君!
来て!早く来てっ!!』

「奏!来てくれへん?」


奏君は駆け寄ってきた。
 

⏰:09/03/18 18:51 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#35 [七瀬]
『あんな、
遊希がアホみたいに粉作り過ぎてん。』


「アホはお前やろっ!
水足し過ぎるし、
粉は入れ過ぎるし…。」


『じゃあ頼まんかったら、ええやんか!』



「まあまあ。
二人共、落ち着いて。」

奏君が止めに入る。

⏰:09/03/18 18:55 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#36 [七瀬]
 
二人の目線は奏君に。

うーん
とでもゆうように首を捻っている奏君。



「うん、そうや!」

突然、奏君がひらめいたように言う。


『何!?なんか良い案でも思いついた?』

私たちは目を輝かせた。

⏰:09/03/18 18:59 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#37 [七瀬]
 
 
「おとなしく、大竹さんに怒られよ。」

それを聞いた途端に、
二人の顔がどうなったかは言うまでもない。


「なあ奏。もっと良いのないか?
怒られる以外に!」

遊希の必死な態度とは裏腹に奏君は

「ないな。」

キッパリと言った。

⏰:09/03/18 19:03 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#38 [七瀬]
 
しょんぼりした私たちに向かって奏君は言った。 



「俺も一緒に怒られたるから、な?」

なんだかんだ言っても、奏君は優しい。



その後、たっぷりと大竹さんに怒られた。
 
 

⏰:09/03/18 19:06 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#39 [七瀬]
 
『もう、さっきは遊希のせいで散々やったわ。』


「まあ許したって〜。」

奏君は言う。



遅くなったけど、この子は


仲嶋奏(ナカジマソウ)。
遊希より一つ上の19歳。

めっちゃ頼れる。
お兄ちゃんみたいや。

⏰:09/03/18 19:09 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#40 [七瀬]
遊希と同じ時期に入ってきた。

遊希とは、ほんまの兄弟みたいや。

もちろん遊希が弟の方やけど。笑



『でも奏君も最悪やな、怒られて。
なんかごめんなあ。』

「うん。
ほんまありがた迷惑や。」

笑い合う。

⏰:09/03/18 19:13 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#41 [七瀬]
『じゃっ!』

そんなこと言い合ってるうちに金魚に着いた。


奏君は自分の持ち場に戻っていった。

奏君はスーパーボール。


遊希は今ごろ、まだ怒られてるんだろう。



真面目に金魚すくい屋さんでも始めよっかな。

⏰:09/03/18 19:17 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#42 [七瀬]
夕焼けで目がチカチカする。


飲み物は遊希が買ってきてくれたのがあるし、

牛丼屋でトイレもした。

これから5時間以上は、こっから動かへんし。


金魚たちを眺める。

『あんたらも可哀相やなあ。こんなとこに閉じ込められて。』
 
今年も始まる。

⏰:09/03/18 19:23 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#43 [七瀬]
 
 
夏が。



ほんまの夏祭りが。


そして聞こえる。





恋花火が。
 
 

⏰:09/03/18 19:25 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#44 [七瀬]
 
 
 
ピリリリリリ…

携帯が鳴った。


『おばあちゃん?』

「お疲れさま。」

『お疲れ。もう潰す?』

「そぉやな。
そろそろ歩行者天国も終わって車が通りだすし。
潰そか。」

『わかった。』

⏰:09/03/18 19:49 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#45 [七瀬]
“店を潰す”というのは、決して不吉な意味ではない。

かたずけるという意味。


まだお客さんがいたから、細かいところから、かたずけていった。

携帯を見ると
PM 10:28。

もうじき電気が消えるな。

10時半には屋台の電気が全部、消えるようになっている。

⏰:09/03/18 19:54 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#46 [七瀬]
前は11時までやったのになぁ。


年々、店を出せる時間は短くなってきてる。

やっぱ未成年者が夜遅く出歩いてたり、
色々と問題が出てきてるみたいや。


私も未成年者やけどな。

でも私は一度も注意されたことない。
 
エプロンつけてるしな。
 

⏰:09/03/18 19:57 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#47 [七瀬]
 
ブチッ

電気が消えた。


この瞬間は、いつも周りはプチパニックになる。

いい加減慣れろよ!

と毎年思う。


これを機に、
私は本格的に潰し始める。


まず、お客さんのワッパを全て回収する。

⏰:09/03/18 20:02 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#48 [七瀬]
店から人が一気に散ると、再び電気がつき始める。


金魚たちをすくって、大きな袋に入れてゆく。

酸素ボンベも忘れずに。

売り上げを釣り銭袋に入れる。


これで実質的には私の仕事は終わり。

実質的にはね。
 

⏰:09/03/18 20:07 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#49 [七瀬]
 
「まつりっ。」

来た来た。


『遊希。』

遊希が来ると、一緒に店をバラバラにする。

ほんまは、バラバラにしたやつをトラックに積むんやけど、

明日もあるし、
小さくして、端に寄せとくだけ。
 

⏰:09/03/18 20:13 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#50 [七瀬]
 
 
「よし!終わったな。」



これで、
もう本当に終わり。


『疲れたなあ。』

終わった後、缶ジュース片手に遊希と話す。


至福の時。
 

⏰:09/03/18 20:18 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#51 [七瀬]
「今日はどうやった?」

『うん。
まあまあ売れたで。
去年と同じぐらいちゃう?』


「カステラもや。

まあ明日が本番みたいなもんやしな。
明日は花火も上がって、人の数も多なる。
勝負の日は明日や。」



花火かぁ…。
 

⏰:09/03/18 20:22 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#52 [七瀬]
 
 
 
花火は今日も上がってたで。


ずっと上がってた。

何発も何発も。



私の中で花火は上がっててん。
 
 

⏰:09/03/18 20:25 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#53 [七瀬]
 
 
 
「なあ、まつり。」

『ん?何?』


「お前さぁ、
彼氏とか、おるん?」

『はぁ、まだゆうてんの?ひつこいなあ。』


「だから!おんのか?

……彼氏。」
 

⏰:09/03/18 20:45 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#54 [七瀬]
いつも遊希には冗談半分で聞かれてた。

“彼氏おんの?”って。


『どうでもええやん。
そんなこ……と。』


そう言いながら、遊希を見ると

珍しく真剣な目付き。


ジッと見てくる。

なんか動けない。

⏰:09/03/18 20:49 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#55 [七瀬]
 
 
『お…おるわけないやん!彼氏なんて。』


すると遊希はニッと笑って
「そぉやんな。
まつりに彼氏なんておるわけない。
変なこと聞いてごめん。」

『まあ…いいけど。』


遊希…。
なんかほんまに変やで?
 

⏰:09/03/18 20:53 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#56 [七瀬]
 
 
「じゃあ経験は?
付き合ったことある?」


『なんでそんなこと急に聞くんよ。』

「たまにはええやんっ!
ぶっちゃけトークや!!」


そう明るく笑う遊希。



『…ない。
付き合ったことない。』
 

⏰:09/03/18 21:08 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#57 [七瀬]
「ええぇっ!ほんまに!?」


『…ほんまに。』

あんまりにも遊希が驚くから、恥ずかしくなってしもた。


「一回も!?」


『……そうや!
一回も付き合ったことないっ!!』
 
少し睨みながら言う。
 

⏰:09/03/18 21:11 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#58 [七瀬]
 
そう。

私は一回も男と付き合ったことがない。


男性経験なんて、もちろんあるわけない。

キスすらしたことないのに。


何回もゆうけど、

神野まつり。
17歳の高校2年生です。
 

⏰:09/03/18 21:15 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#59 [七瀬]
 
 
 
「なんでっなんでなんで!?告白とかされたことないん?」


『ちょっと!
遊希、興奮しすぎ!』

「あ、ごめん。

で、告白されたことないん?」



『それは…ある。』

⏰:09/03/18 21:19 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#60 [七瀬]
「それって、小学生の時に罰ゲームでされた……
とかじゃないよな?」


『ちゃうわ!
それはさすがに違うっ!!

こないだだって…。』


「こないだって?」

『夏休み入る前…。』


「“好き”
って言われたん!?」

『まあ…な。』

⏰:09/03/18 22:08 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#61 [七瀬]
「で!
で、なんて返事したん?」

『普通に断ったよ。
“ごめんなさい”って。』


「お試し期間みたいなんはないわけ!?」

『だって全然知らん人やし…。
一回もしゃべったことないし。』


はぁ。

遊希はため息をついた。

⏰:09/03/18 22:33 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#62 [七瀬]
「お前アカンわ。」

は?

「一生男できんわ。
結婚もせんと、一人おばあちゃんや。」

頭を横にふる遊希。


『あんたにそんなこと
決められたくないっ!』

「そんな

“自分から好きになった人じゃなきゃいや”とか
幼稚園児みたいなこと言ってたら、そうなるやろ。」

⏰:09/03/18 22:39 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#63 [七瀬]
うっ……。

遊希の言ってることが
図星やから、なんも言い返されへんかった。



そう。

私は幼稚園児だ。


まだ
“いつか、あの人が迎えに来てくれる”
という甘い夢を見ている。

甘くて二度と叶わないだろう夢。

⏰:09/03/18 22:43 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#64 [七瀬]
 
7歳の時。


初めてあの人に出会ったのは、10年前。



その人もただのバイトだった。

そして当時7歳の私は、
ただの“バイト先の子供”という存在。

あの人は当時23歳。


年の差は15歳。

⏰:09/03/18 23:43 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#65 [七瀬]
 
また新しい人が来た。

最初はいつものように、
そう思ってた。


『なあなあ〜。
アンタ名前は〜?』


あの頃の私はバイトの子が入る度に
男だろうが、女だろうが、話し掛けてた。

そして質問攻めにする。
 

⏰:09/03/19 13:03 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#66 [七瀬]
『何才なん?』

『どこ住んでんの?』

『なんで、ここで働いてるん?』

『彼女おんの?』


今、思えば
かなりウザいガキ。

子供嫌いな私やったら、
多分キレてた。


お母さんにも、よく怒られた。
“邪魔したらアカン”って

⏰:09/03/19 13:09 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#67 [七瀬]
 
最初はニコニコと答えてた子たちも、

忙しくなってきたり、

隅々まで聞かれたり。

段々、うっとうしくなってくる。


当たり前やわな。

そんなことをするのが私は面白くって溜まらんかった。

ほんまひねくれてるガキ。

⏰:09/03/19 13:13 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#68 [七瀬]
 
で、いつものように質問しまくる。


でも、あの人は

いつもの私の逆のポジションにおった。


いつも、バイトの子を
質問して、うっとうしがってる顔を見て楽しんでる私。

私が質問しまくる姿を見て楽しんでるあの人。

⏰:09/03/19 13:16 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#69 [七瀬]
質問に答えながらも、ニヤニヤ笑ってる。


なんか負けた気がした。

負けず嫌いな私は、
ムキになってさらに質問する。


そんな私を見て楽しんでる。

あの人は“大人”やった。
“子供なんて、どうってこない”
って感じやった。

⏰:09/03/19 13:20 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#70 [七瀬]
それからというもの、
私はずっと祭に行ってる。

お母さんにたまに、ついていってただけやったのを、

“祭”と聞いたら
ついてゆく。

もちろん、あの人に会うために。

めっちゃ楽しい。

あの人としゃべることが。

あの人は子供の私にも真剣にしゃべってくれた。

最初は適当やったくせに。

⏰:09/03/19 13:26 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#71 [七瀬]
 
でも、そんなことが
ずっとは続かへん。


私が小学4年生になろうとする前、

「祭に来たいなら働き!」

とお母さんに言われた。


いつか言われるなあ
とは思ってた。

だって、
あの人のところで
ずっとしゃべってたら
そう言われるよな。

⏰:09/03/19 13:33 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#72 [七瀬]
 
 
 
それから、祭に行きたい私は働きだす。


と言っても、10歳になったばかり。

初めの内は、お母さんと一緒にした。

お金をもらって、お釣りを渡すだけの役。

でも、ドッと疲れた。
 

⏰:09/03/19 14:22 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#73 [七瀬]
しゃべる暇なんてない。

一歩も動かず、同じことを繰り返すだけ。


それでも私はうれしかった。
“また会える。
あの人に会える。”

そう思いながら頑張る。


あの人には前ほどは会えなくなったけど、
祭が始まる前と終わった後には
少しだけ話せた。

⏰:09/03/19 14:26 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#74 [七瀬]
 
それだけで十分やった。


それに働くことで、
働くことの気持ち良さ
を知った。


ますます祭が好きになっていく。



…はずやったのに。
 
 

⏰:09/03/19 14:29 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#75 [七瀬]
時は進んでゆく。

中学1年生になったばかりの春休み。


造幣局の通り抜け。

よくテレビでも放送されたりする。

この通り抜けには、
毎年、桜見物にたくさんの人が来る。

1メートル歩くだけでも、大変。

特に土日は押し潰されそうなくらい混雑する。

⏰:09/03/19 14:34 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#76 [七瀬]
 
 
そこには神野商会、唯一の茶店(チャミセ)を出す。


茶店を出してるのはここだけ。



私は茶店が大好き。

だって、あの人と長くおれるもん!

茶店の仕事は主に、
お客さんの注文を聞いて、料理、飲み物を届けて、
お金を貰う。

⏰:09/03/19 14:43 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#77 [七瀬]
 
一つの茶店に注文を聞く人が5、6人。


その他におでんを入れる人。
焼そばや焼き鳥を焼く人。

味噌汁を作る人。

とか、それぞれ役割分担する。


だから、
普段は屋台をしてる人も、茶店に一斉動員するというわけ。

⏰:09/03/19 14:48 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#78 [七瀬]
 
ってことは、

わざわざ屋台に遊びに行かんでも、
あの人は茶店におる。


やっぱ茶店は大好きや!

あの人は焼そばを焼いてる。

私は注文聞き係。

「焼そば一つ。」

と言われるたびにうれしくって、つい声が高くなる。

⏰:09/03/19 15:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#79 [七瀬]
『焼そば一つでーすっ!』


そしてあの人の傍で
焼そばが焼きあがるのを
待つ。


幸せな時間。


そんなことをしていると
時間はあっという間に過ぎてゆく。

通り抜けは夏祭りと違って終わるのが早い。


遅くて8時くらいまで。

⏰:09/03/19 15:31 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#80 [七瀬]
でも、

桜の咲き始めから満開まで

満開から散り始める頃まで店を出している。


だから10日間くらいしている。



学校が終わると、
ジャージに着替え、真っ先に駅へと向かう。


二駅向こうの
あの人の元へと…。

⏰:09/03/19 18:00 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#81 [七瀬]
 
 
 
でもその10日間もあっという間。


通り抜け最終日。



『ありがとうございました。』

最後まで酒を飲んで
なかなか腰を上げないサラリーマンたちも
ようやく席を立った。
 

⏰:09/03/19 18:02 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#82 [七瀬]
 
ふぅ。
やっと帰った。

疲れた身体にムチを打ち、最後の仕事をし始める。

それは洗い物。


お客さんの使った皿やら箸。
後はおでんを煮た大きな鍋など。

かなりの重労働。


大体2、3人の女の子たちとする。

⏰:09/03/19 18:11 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#83 [七瀬]
 
はずが女の子たちは、
おばあちゃんに呼ばれ、
とりあえず一人で始めることにした。


春とはいえ、まだ肌寒い季節。

冷たい水に耐え、金ダワシに洗剤をつけ、こする。



「まつり。」
 
後ろから柔らかい声。
 

⏰:09/03/19 18:14 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#84 [七瀬]
振り返ると、そこにはあの人。

「今日で最後やな。」

私はこの時、この意味がよく分からんかった。

『うん。今度は夏やな。』

これが終わると、天神祭まで祭がない。

「そやな。」

今、思うとなんで気付かんかったんやろう。

悲しそうな顔してたのに。

⏰:09/03/19 18:20 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#85 [七瀬]
 
 
『どうしたん?そんな顔して。』

「いやまた会おな。」

『なに言ってんの。』

クスクス笑う。


「また迎えに来るわ。」

『トラックで?』


その当時、私はよくトラックで送り向かいをしてもらってた。

⏰:09/03/19 19:58 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#86 [七瀬]
 
 
 
「うん、トラックで。
きっとな。」





それが最後に聞いた、あの人の言葉だった。
 
 
 

⏰:09/03/19 20:00 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#87 [七瀬]
 
中学生になって初めての、天神祭。



あの人は来なかった。


そして入れ替わるように、新しいバイトの子たちが入ってきた。


なんかあったんやろか?

と最初は思った。


けれども、もう4年。

⏰:09/03/19 20:04 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#88 [七瀬]
 
あれから4年が経った。



生きてるかどうかも分からない。


時は確実に過ぎて行ったのに、

私は置いてきぼり。


いつまでも中学生のまま。 
 
 

⏰:09/03/19 20:07 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#89 [七瀬]
 
 
 
もー、暑い!
暑い暑い!!

座ってるだけで汗が出てくる。


「まつり、ご飯食べに行こか。」

『奏君、行こか。』


天神祭二日目。

奏君と一緒にご飯を食べに行く。

⏰:09/03/19 20:25 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#90 [七瀬]
 
 
昨日はあんま寝られへんかった。


遊希が色々聞くから…。



「遊希から聞いてんけど、
まつり、男と付き合ったことないんやって?」


遊希〜!
 

⏰:09/03/19 20:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#91 [七瀬]
 
 
 
『…そうやけど。
やっぱ変かな?
この年で彼氏もできたことないって。』


「うーん。別にええやん。まつりのペースでゆっくり頑張りぃ。」



…ありがと、奏君。
 
 

⏰:09/03/19 20:31 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#92 [七瀬]
「あ、ここここ。」


そう言って、レトロ風の喫茶店?に入っていった。


「チャーハンが美味しいねん、ここの喫茶店。

チャーハン二つ。」

そう勝手に注文されてしまった。

ってか、やっぱりここは喫茶店みたい。

まるで昭和時代にタイムスリップしたみたいな店。

⏰:09/03/19 20:34 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#93 [七瀬]
 
 
しばらくしてチャーハンが二つ運ばれてくる。


普通のチャーハン。

特に目立ったとこはない。


『いただきます。』

スプーンを口に運ぶ。



『んっ!美味しい〜!!』
 

⏰:09/03/19 20:37 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#94 [七瀬]
 
なにこれなにこれ!


めっちゃ美味しいやん!!

素朴やのに、忘れられへん味。


「やろ?」

奏君はうれしそうに笑う。


あまりに美味しくって、
あっさりと食べおわる。

『ごちそうさま。』
 

⏰:09/03/19 20:40 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#95 [七瀬]
「旨かったやろ?」


見ると奏君もいつの間にか食べおわってて、タバコを吸うてる。

『うんっ!

こんな店知らんかったわ。最近はずっと牛丼やったから胃、もたれとってん。』


「満足してもらったみたいで良かった。」

そう言って、
奏君は横を向いてフーと白い煙をはく。

⏰:09/03/19 20:44 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#96 [七瀬]
 
 
あ…、やっぱ似てる。



そういう仕草。







奏君はあの人に似てる。
 
 
 

⏰:09/03/19 20:46 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#97 [七瀬]
 
「もうそろそろ店出よか。
あんまり油売っとったら、給料引かれるわ。」


店を出た。




奏君とバイバイして、金魚に向かう。


奏君…。
 

⏰:09/03/19 21:19 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#98 [七瀬]
 
 
初めて遊希がここにやって来た時、私は目を奪われた。



遊希の後ろにおった奏君に。


一瞬、
“あの人が迎えに来たんや”と思った。


そんなはずないのに。
 

⏰:09/03/19 21:22 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#99 [七瀬]
 
 
年が近いからか、
遊希はよく話し掛けてきた。

奏君と仲良くなりたかった私は、
遊希を通して、奏君に話し掛けた。


でも奏君のことを知れば知るほど思い知る。



奏君はあの人とは違うんやって…。
 

⏰:09/03/19 21:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#100 [七瀬]
 
 
でも時々、

奏君の何気ない仕草や表情があの人に似てて

ドキドキする。



ほんま私はアカンな。

引きずり過ぎ。


いつまでも、あの人を忘れられへんまま…。

⏰:09/03/19 21:30 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#101 [七瀬]
 
 
 
「まつり、ご飯食べに行かへん?」


いきなりの声で、ハッと我に帰る。

『あ…ああ、遊希。』

「ボーッとして、どしたんや?」


『なんもないよ。

あ、ごめん。
さっき奏君と行ってん。』

⏰:09/03/19 21:34 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#102 [七瀬]
 
「奏と?
…ふーん、そっか。」


『うん。


ってか奏君ゆうたやろ!

私が“一度も男と付き合ったことない”って!!』


「うん、悪ぃ。」

そう言いながらも、
悪びれる様子のない遊希。 
 

⏰:09/03/19 21:39 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#103 [七瀬]
『ほんまに反省してる!?
もう変なこと、ゆわんといてや!』


「…ん。」

遊希は元気なく去っていった。


なんなん、あれ。

あんなに落ち込まんでもええやん。

私…、
そんなキツい言い方した? 
 

⏰:09/03/19 21:53 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#104 [七瀬]
 
 
ドンドンドンドン…

太鼓の音が段々、大きくなってきている。


祭の盛り上がりが最高潮になってきた。

金魚すくいに夢中の人たちも手を止めて見ている。


こんなん何がええんやろ。うるさいだけやん。

私は冷めた目で通り過ぎてゆくお神輿を見ている。

⏰:09/03/19 22:00 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#105 [七瀬]
 
太鼓の音も次第に小さくなっていき、完全に消えた。



そして人々が、また金魚たちに目を戻した頃……





ヒューッ ドン!!
 
 
花火が上がる。
 

⏰:09/03/19 22:04 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#106 [七瀬]
 
 
人々の目は空に向かう。



歩いていたカップルも
“わあ、キレイだね”
とか言いながら立ち止まる。

私のキライなガキ共も、キャッキャゆうて騒いでる。


これも毎年のこと。
 
 

⏰:09/03/19 22:08 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#107 [七瀬]
 
 
毎年のことなのに、



私の心臓は慣れてくれない。


ドクドクうるさい。


あの人も見てるんかな?

これも毎年、思うこと。


見てるわけないのに。
 

⏰:09/03/19 22:11 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#108 [七瀬]
 
 
 
花火が終わっても、
まだまだ人は、ようさん歩いてる。


「よーし、勝負しよーや。」

若い男たちが金魚すくいに群がる。


これも毎年のこと。

これにはさすがに慣れたけど。

⏰:09/03/19 22:16 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#109 [七瀬]
 
 
 
毎年毎年、そんなこんなで天神祭を終える。



「まーつり。」

今度は奏君が一緒に潰しに来てくれた。


ドキドキする。

だって

昔、よくあの人も潰しに来てくれたから。

⏰:09/03/19 22:20 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#110 [七瀬]
 
 
 
金魚も潰し終え、トラックがやってくる。

今日は天神祭は最終日やから、トラックに積み込みをする。



私は女の子やし、
これはさすがにやらない。


遊希、奏君、後の若いバイトの男の子たちが
軍手をはめて、どんどん積み込んでゆく。

⏰:09/03/19 22:24 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#111 [七瀬]
 
まるで、
さっきまで人がワイワイ騒いでたようには見えない。

屋台も跡形もない。



『お疲れ〜。』

みんなにジュースを配る。


みんな死にそうな顔をしてる。
 

⏰:09/03/19 22:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#112 [七瀬]
 
奏君にも渡す。


「ありがと、まつり。」

そう言って、缶コーヒーを飲み始める。

その横顔がほんまにあの人に似てて、
つい見惚れてしまう。



「どしたんや?
そんなに見て…
俺の顔になんか付いてるか?」

⏰:09/03/19 22:32 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#113 [七瀬]
 
『…似てる。』


「え?」

無意識に口が開く。



『…人に。
私の初恋の人に。』

奏君の目が大きくなっていったのに気付く。


『…あ、ごめん!
変なことゆうてごめん。』 

⏰:09/03/19 22:37 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#114 [七瀬]
 
すると奏君はフッと笑って

「どんな人なん?
まつりの初恋の人って。」


私は少し戸惑った。

『どんな人って…
優しい人やで。

奏君みたいに……。』


「なあ、まつり。

それって告白してんの?」 
 

⏰:09/03/19 22:40 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#115 [七瀬]
 
告白…してんのかな?


うつむく。

分からん。





「答えへんってことは、
そうゆう意味やって解釈すんで。」



え?
 

⏰:09/03/19 22:44 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#116 [七瀬]
 
顔を上げると


チュ





唇に柔らかいものが当たる。



奏君にキスされてた。
 
 

⏰:09/03/19 22:47 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#117 [七瀬]
 
 
「フフッ、驚いた?」



いきなりのことで固まる私。





これが私と奏が付き合い始めたきっかけ。
 
 

⏰:09/03/19 22:49 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#118 [七瀬]
 
 
 
こめかみに汗の滝が流れる。

今、私はプリント集とにらめっこの最中。



あー、分からん。
お手上げや。

少し頭を冷やそうと冷蔵庫へ向かい、一番上を開ける。
 

⏰:09/03/20 00:29 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#119 [七瀬]
 
あったあった!!


アイスクリームを取出し、袋をポイッ。

口に運ぶ。

ああ、生き返るわあ。


アイスクリームで頭が冴え渡ってる内に
またプリントに目を通す。



でも次は他のことが思考回路を邪魔する。

⏰:09/03/20 00:33 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#120 [七瀬]
 
 
天神祭の最終日。


あの後、
まだ固まってる私に奏君は


「秘密やで。」

そう言って、
私の唇に人差し指を乗せて笑った。


私は体温が上昇するのを
感じた。

顔が熱い。

⏰:09/03/20 00:37 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#121 [七瀬]
 
 
顔が熱いまんまの私を
ほったらかしにしたまま、奏君は帰った。



今、改めて思い出しても恥ずかしくって溜まらん。

いきなり
キスするか、普通!?


あの日から2日経っても、頭から離れてくれない。

奏君が。

⏰:09/03/20 00:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#122 [七瀬]
 
 
それに明日また祭がある。

田舎の方で、2日間。


嫌でも、奏君に会う。

しかも

そこには金魚とカステラとボールの3店しか出せへん。

ってことは……

私と遊希と大竹さん。

そして奏君の4人しか、行けへんってこと。

⏰:09/03/20 00:47 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#123 [七瀬]
 
 
 
「まつり、早くしなさい。大竹さん、もう下に来てるよ。」

とお母さんの声。

『わかってるーっ!!』


しまった!

昨日は考えすぎて、寝られへんかった。
 

⏰:09/03/20 07:46 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#124 [七瀬]
 
汚れたスニーカーに足を突っ込む。


『行ってきまーすっ!』

家を出て、エレベータのボタンを押す。


あー、もう遅いなあ。

エレベータがなかなか来うへんのにイライラする。


プップー

下から車のクラクション。

⏰:09/03/20 07:51 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#125 [七瀬]
 
 
もういいや!

私の足は階段へ。


猛スピードで下へ降りていく。

ダンダンダンダン…



「まつり、はよしろ。」
 
大竹さんの白くて大きなワゴン車が見えた。
 

⏰:09/03/20 07:54 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#126 [七瀬]
 
『ごめーん。遅れて…』


忘れてた。



大竹さんの助手席に奏が座ってたこと。

太陽がギンギンしていて、よく見えへんかった。


窓の外を見てた顔を私へ向けた。


やっぱり似てる…。

⏰:09/03/20 07:58 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#127 [七瀬]
 
 
車の助手席の後ろの席に乗り込む。

高等座席に座ってる遊希がドアを開けてくれる。


『おはようございます。』

「おはよう。」

大竹さんの不機嫌な声。


『…その遅れて、ほんまにすみません。』

「もうええ。出発すんぞ。」

⏰:09/03/20 08:02 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#128 [七瀬]
車が走りだす。

はあ。
グダグダや。


前を見ると

“おはよう”

奏君が口パクをしている。


“散々やな”

と大竹さんを指さし笑う。


そんな奏君に肩をすくめて見せる。

⏰:09/03/20 08:09 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#129 [七瀬]
 
20分ほど走って、車はいつもの業務用スーパーへ。


「確か牛乳とハチミツがないてゆうとったなあ。」

大竹さんがメモ用紙を見て呟く。

ある程度は昨日の内に屋台の方に持って行く。

でも牛乳なんかは、
この炎天下に何時間も放っておいたら、一発アウトや。

私も車から降りる。

⏰:09/03/20 08:21 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#130 [七瀬]
 
 
大竹さんが店員に色々、指示してる。

その間に私らは、パンやペットボトルを買う。


あっ、これ!

このパンめっちゃ美味しいねん。


手を伸ばす。


『ああっ!』

⏰:09/03/20 08:25 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#131 [七瀬]
後ろから手が伸びてきて、お目当てのもんを奪われる。


「まつりはほんまに、これ好きやなあ。」

後ろを振り向くと奏君。


『奏君、なんでそれ取んのよ!
いっつも、甘いパンは食べへんやんか。』


「たまにはええかな、思て。」

⏰:09/03/20 08:29 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#132 [七瀬]
その言葉に子供みたいに膨れる。


「ブッ、ハハハ。
ほんままつりは面白いわ。

嘘やって!嘘嘘!!
まつりが食べるやろなあ
思て、カゴ入れてん。」


そう笑う奏君に、
三日前のことを思い出し、恥ずかしくなる。


『…ありがと。』

⏰:09/03/20 08:34 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#133 [七瀬]
 
「どういたしまして。


ってゆうか、まつりさあ。もしかして思い出した?

三日前のこと。」


そう耳元でささやく。


『な、なんのこと!?』

真っ赤にしながら聞く。


「分かってるくせに。」
 

⏰:09/03/20 08:38 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#134 [七瀬]
意地悪く笑う奏君。


「もうそろそろ行こか。

二人の秘密がバレてしまう前に。」





車に牛乳、ハチミツを積み込んだ。


車が再出発する。

私のドキドキは先ほどよりも増していた。

⏰:09/03/20 08:42 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#135 [七瀬]
業務用スーパーから出発して40分近くが経った。


車内では欠伸が響く。

そりゃ、そうなるわな。


向こうに着くには2時間ほどかかる。

11時過ぎには着く予定やし、業務用スーパーにも寄る予定やったから、かなりの早起きをしなアカン。

もちろん、
その中には私の欠伸も率先して入っている。

⏰:09/03/20 08:55 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#136 [七瀬]
 
前を見ると、奏君も寝てるみたい。


ああ、もう無理や。

私も仮眠しよ。


そう首を少し傾けて目を閉じる。

その時、

ピリリリリリ…


携帯が鳴る。
 

⏰:09/03/20 09:00 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#137 [七瀬]
 
メール?

こんな時に誰やねん。


少しイラッとする。

宛先は……


遊希?

なんなんよ、ほんまに…。


横におる遊希に目をやると視線が合う。
 

⏰:09/03/20 09:04 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#138 [七瀬]
“はよ開けてみい” 

と催促するような目。

仕方なく、遊希に見せ付けるように携帯を開く。

するとそこには


「奏と付き合ってんの?」

の一文。


私は目を見開き、遊希を見る。

遊希の瞳には強い光が宿っている。

⏰:09/03/20 09:08 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#139 [七瀬]
 
なっ、なんで!?

なんで遊希が
そんなこと聞くんよ!


頭が混乱する。

すると、

ピリリリリリ…


私は急いでメールを開く。

そのメールには
 
 

⏰:09/03/20 09:35 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#140 [七瀬]
 
「天神祭でキスしてたやろ。
しかも、さっきもイチャついてたし。」



み、見られてた…。


なんて
答えたらええんやろ。

だって私にも分かれへん。


私らは付き合ってんの?

なあ、奏君…。

⏰:09/03/20 09:39 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#141 [七瀬]
 
目を閉じてるであろう奏君を見る。





「やっぱ付き合ってんのや。」

遊希の声がする。



『…分からん。』


私らは付き合ってんの?
 

⏰:09/03/20 09:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#142 [七瀬]
“私らは付き合ってんの?”

って何回、思ってんのやろ。


自分で呆れる。



「…い!おい!」

『…ああ、ごめん。』


「自分の世界に入らんといてくれ。」
 
遊希も呆れてる様子。

⏰:09/03/20 09:47 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#143 [七瀬]
 
『ほんまに分かれへん。』


「そっか。」

遊希はせれ以上、なんも聞いてこうへんかった。


私は寝ようと目をつむったけど、
全然、寝られへんかった。


奏君が買ってくれたパンは放っておいたら、
チョコレートの部分が溶けてしまった。

⏰:09/03/20 09:53 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#144 [七瀬]
 
 
目的地に着いた。


カステラはボールの隣にある。

金魚だけ、この2店から
ちょっと離れている。

安心したような、残念なような…複雑な気分。


「店建てる前に昼飯、食いに行こか。」

4人で、少し歩いたところにあるファミレスへ。

⏰:09/03/20 10:27 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#145 [七瀬]
 
大竹さんの隣に奏君。
私の隣に遊希。

向き合うように座った。


料理を注文し終える。


チラッと前を右斜めを見ると、
奏君が笑って、こっちを見ている。

そして横には遊希…。

頬杖をついている。
 

⏰:09/03/20 10:35 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#146 [七瀬]
 
アカン。
なんか気まずい。


多分、私が意識してるからそう感じるだけやろう。

でも…この空気。


耐えられへん!



すると

「なんやお前ら、元気ないやんけ。」
 

⏰:09/03/20 10:38 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#147 [七瀬]
大竹さんが口を挟む。

「いつもみたいに、
うるさいとイラッと来るけど、
何もしゃべらんかったら、それはそれで調子狂うわ。

特にまつり。
俺はもう怒ってへんで?
朝の寝坊。」


うん。忘れてた。

自分が遅刻したってこと。

でも、
まあここは、そういうことにしとこか。

⏰:09/03/20 10:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#148 [七瀬]
『うん。
ありがとう、大竹さん。』


「ああ。
それともなんや?

恋煩いか?恋煩い。
男でもデキたんか?」

ニヤニヤしながら聞く大竹さん…。


空気読めよっ!


この空気で、
そんなことゆうか!?

⏰:09/03/20 10:47 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#149 [七瀬]
 
『ハハ…ハ……。
そんなわけないやんか。』

なんとか笑いながら誤魔化す。


そんな私を見て、

奏君はクスクス笑う。

遊希は不機嫌さを増すように見える。


「そぉかあ。」

大竹さんはガハハと豪快に笑ってるだけ。

⏰:09/03/20 10:51 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#150 [七瀬]
 
 
料理が運ばれて来た。

食べ始める。


さっきより空気が重い。

押し潰されそう。



「まつり。」


この沈黙の中、
奏君が声を発した。
 

⏰:09/03/20 10:54 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#151 [七瀬]
 
『ん?』

「ついてる。」


『へ?』

「口の周り。
ハンバーグソース。」

自分の口の周りを指して、奏君は言った。


うそっ!

私は慌てて、ティッシュを取り出す。
 

⏰:09/03/20 10:58 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#152 [七瀬]
 
 
そんな私を見て、奏君は


「ほんま面白いわ。
朝のことといい、
今のことといい。

なあ、そう思わんか?
遊希。」


「んあ?」

奏君の挑むような目に、
遊希の目付きは、一層キツくなる。
 

⏰:09/03/20 11:04 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#153 [七瀬]
 
 
ちょっとお二人さん?


『遊…希?』



「ほんまや。
ほんまにコイツはアホや。」

そう言って、また食べ始めた遊希。


なんやったんや、今の雰囲気…。
 

⏰:09/03/20 11:06 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#154 [七瀬]
 
よう分からん雰囲気のまま、

私はアホ呼ばわりされたまま、

ファミレスを後にする。


金魚に戻る。

「じゃあ、後で奏か遊希に金魚たち持って行かすわ。」

大竹さんの言葉に
わかった
と返事して、準備にとりかかる。

⏰:09/03/20 11:23 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#155 [七瀬]
 
 
店を組み始める。


この二日間、私はどうなるんやろか。

不安と期待が入り交じる。





「金魚、持って来たで。」
 
 

⏰:09/03/20 11:36 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#156 [七瀬]
 
『それはどうも。』

「ってか。
動揺し過ぎや、まつり。」


『それは、奏君があんなことゆうからやろ!
突然……』

「突然?」


『いきなり耳元でささやいたり、
遊希を挑発するようなことゆうたり、

それに……』

⏰:09/03/20 11:41 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#157 [七瀬]
 
「それに?」

知ってるくせに。
わざとやな。

分かってても、奏君の思うツボ。


『…それに

突然、キス……したり。』


言った。

小さくって消えてしまいそうな声で。
 

⏰:09/03/20 11:44 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#158 [七瀬]
 
 
 
「したよ。
確かに俺はまつりにキスした。
あの日に。

でもな、突然じゃない。

俺はずっとキスしたかった。
まつりと。」


うれしい。

私も分かってても、聞いてしまう。
 

⏰:09/03/20 11:48 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#159 [七瀬]
『キス出来るなら誰でも良かったん?』


「アホか。そんなわけないやろ。

お前だけや。


好きやで。」



たくさんの金魚たちに見届けられながら、
私たちはもう一度、唇を交わした。

今度は両思いのまま。

⏰:09/03/20 11:53 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#160 [七瀬]
 
 
神野まつり。

17歳の夏休み真っ盛り。

とうとう私にも彼氏が出来た。

あれから、もう2年。


『奏〜!
遅れて、ごめんなあ。』

「まつり、遅ーい。」


奏、大好き。
 

⏰:09/03/20 22:40 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#161 [七瀬]
 
 
今日は2周年の記念日。

そして久しぶりのデート。


最近、
二人共、忙しくって
忙しくって…。

なかなか会えなかった。


私は今、大学生。
19歳。

奏は21歳。
 

⏰:09/03/20 22:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#162 [七瀬]
 
『おめでとぉ。
また1年間よろしくな。』

「こちらこそ、よろしく、まつり。」


チンッ

乾杯して、グラスを口に運ぶ。

『でも、淋しいなあ。

2年前、私と奏が付き合った祭が
今年からなくなってしもたなんて。』

⏰:09/03/20 22:49 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#163 [七瀬]
「まあな。
でも、そのおかげで
今ここで、まつりと過ごせるわけやん。
ほんまの2周年を。」


『そうゆわれたら、そぉやけど。
去年は2日、ズラしてしたよな、1周年は。』



ほんま懐かしい。


今でも、もちろん祭には欠かさず行っている。

⏰:09/03/20 22:53 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#164 [七瀬]
 
 
でも17歳の私とは大きく違っているところがある。

それは、

私はあの人ではなく、

“奏のため”に行くようになった。


祭に行くたび、奏に会えてうれしい。

昔の傷は癒えた。

あの人のことを思い出すことも少なくなっている。

⏰:09/03/20 22:57 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#165 [七瀬]
 
確実に前に進んでいる。 

中学生で止まったままの
記憶も流れてゆく。


恋花火は、もう聞こえない。

聞こえるのは、

奏の優しい声だけ。
 
 
今、私は幸せなんや。
 

⏰:09/03/20 23:01 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#166 [七瀬]
 
 
 
 
「まつり!まつりっ!!」 


『どうしたん?麻友ちゃん。
そんな血相変えて…。』



今は、
祭で一番、忙しい時間帯。

麻友ちゃん、
こんな忙しい時に、どしたんやろか。
 

⏰:09/03/20 23:07 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#167 [七瀬]
 
息を整え、
麻友ちゃんは言った。


「あんな、まつり。
落ち着いて聞いてや。」

頷く。


「…来てんねん。

ハラダタカシが、ここに来てんねん!」


ハラダ…タカシ……。
 

⏰:09/03/20 23:12 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#168 [七瀬]
 
呼吸が荒くなる。

苦しい。



ハラダタカシ
ハラダタカシ
ハラダタカシ…


原田俊(ハラダタカシ)。



あの人。

私の初恋の人……。
 

⏰:09/03/20 23:15 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#169 [七瀬]
 
 
『…うそ。うそやっ!
来てるわけない……。

そんなん嘘やっ!』


私は完全に混乱している。

お客さんがおるのも忘れ
一人、取り乱す。



「ううん。嘘やない。
嘘ちゃうねん、まつり。」

麻友ちゃんは落ち着いた口調で言う。

⏰:09/03/20 23:19 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#170 [七瀬]
 
 
 
なんで?

なんで今さら。


せっかく忘れかけてたのに。



昨日は奏との記念日であんなに楽しかったのに、
今は苦しくって仕方ない。 
 

⏰:09/03/20 23:21 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#171 [七瀬]
 
 
 
「まつりに会いたいって原田さんゆうてるよ。」


少し落ち着いて、
そんなことを麻友ちゃんから聞かされる。



『…会わへん。』


「まつり、アカン。」

麻友ちゃんは厳しい目をして言った。

⏰:09/03/20 23:25 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#172 [七瀬]
 
麻友ちゃんは

…麻友ちゃんだけは、
私の初恋を知っている。


「ちゃんと自分の気持ちにけじめをつけ。」


けじめ?

そんなん
もうとっくについてる。


7年も時が過ぎてんで?

⏰:09/03/20 23:29 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#173 [七瀬]
 
 
「そのままやったら、
奏君も苦しい思いすることになる。」


奏が?

なんでなん?


私が愛してんのは奏だけやのに。


「まつりっ!待って!!」

麻友ちゃんの声も聞かず、私は立ち去った。

⏰:09/03/20 23:32 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#174 [七瀬]
 
 
 
「ちょっと…まつり。
どしたんや、急に。」


気が付けば、ボールに来ていた。

『奏っ!』

奏に抱きつき、泣きじゃくる。

『うっ、ヒック…。』

いきなりのことやのに、
奏はこれ以上、何も聞かずにいてくれた。

⏰:09/03/20 23:36 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#175 [七瀬]
『うっ、うっ、奏ぉ〜。』

「よしよし。」

頭を優しく撫でてくれる。

早く離れな。

ボールにも、金魚にも
お客さんがいっぱいおる。

このままじゃ
麻友ちゃんにも、奏にも
迷惑かけてまう。


早く泣き止め!

早く早く…。
 

⏰:09/03/21 01:35 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#176 [七瀬]
 
そう思ってるのに、

涙を堪えようとすれば、
するほど、溢れてくる。

あまのじゃくな自分の涙腺に腹が立つ。


「ちょっとお兄ちゃん?」

「抱き合ってんと、はよしてよ。」


そうゆう声が、後ろから聞こえてくる。
 
 

⏰:09/03/21 01:44 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#177 [七瀬]
お客さんの堪忍袋の緒も、もう限界。

なのに、体はチッともゆうことを聞いてくれない。







「まつり。」

声がした。



あの柔らかい声が。
 

⏰:09/03/21 01:47 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#178 [七瀬]
 
涙が止まる。

一瞬にして、
体温が上がってゆく。


ああ、

あの人が迎えに来てくれたんや。
 


 
「まつり?」

ピタリと泣き止んだ私を
奏が不思議そうに見る。
 

⏰:09/03/21 01:54 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#179 [七瀬]
 
 
「久しぶりやな、まつり。」

あの人の声。




「誰や、あいつ。」

奏の優しかった声が、低くなる。


なのに、
私はドキドキしてる。

あの人に。
 

⏰:09/03/21 02:14 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#180 [七瀬]
 
「なあ、まつり。
誰や?知り合いか?」

奏がさらに聞く。


「彼氏出来てんな。」

とあの人。



バッ

とっさに私は、奏から離れる。
 

⏰:09/03/21 02:18 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#181 [七瀬]
 
私は最低な女。



「なんで離れるんや。
俺はお前の彼氏やろ?

なあ、まつり!
答えてくれ!
あいつは誰なんやっ!!」

低い声が今度は荒くなった奏。


『…ごめん、奏。

お客さんおる時にいきなり来て、ほんまごめん。』

⏰:09/03/21 02:23 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#182 [七瀬]
「違う。
俺が聞きたいのは、そんなことちゃう。」


首を振る奏。




「奏…君ってゆうんかな?

ちょっとまつりを借りるね。」

そうあの人に引かれ、着いていく私を

きっと奏は、怒りに震えて見ていたに違いない。

⏰:09/03/21 02:27 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#183 [七瀬]
 
だけども

その瞬間、私は幸せに感じた。


愛する奏を放ってってしまった悲しみよりも

あの人が迎えに来てくれた喜びが勝っている

私は



奏を裏切ったんだ。
 

⏰:09/03/21 02:33 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#184 [七瀬]
 
 
「ええ加減に顔上げてくれへん?」


あの人が言う。

『…なんで。

なんで、
急におらんくなったん?』



「まつり、かわいくなったなあ。
あんなチビやったのに。」 

⏰:09/03/21 11:15 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#185 [七瀬]
 
『なんで?
なんでなんよっ!』


顔を上げて睨む。


「ほんまや…。
ほんまにかわいなったわ。」

悲しそうな目をするあの人。


『…原田さん。

原田さんは、オッサンになった。』

⏰:09/03/21 11:19 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#186 [七瀬]
 
すると、あの人は笑った。

「フフフッ、当たり前や。もう34やぞ。34歳。」



そんな悲しい顔せんといてよ。


「ごめんなあ、ほんまに。」

そう言って、タバコを吸い始めた。

その姿があまりにも昔のままで泣けてきた。

⏰:09/03/21 11:22 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#187 [七瀬]
『…一生許さへん。絶対に。』

「許さんくてもええ。

まつりは忘れてくれていい。」


『じゃあ何で会いに来たんよ!

それに
“忘れてくれていい”
って……

忘れられへんから、許さへんねん!』

怒鳴り付ける。

⏰:09/03/22 04:46 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#188 [七瀬]
 
 
「ほんまやな……。

俺、矛盾してるわ。


俺も忘れられへんから、
許さへんねんな…。」

独り言のように呟く、あの人。


意味分からん。

なにゆうてんの?
 
 

⏰:09/03/22 04:49 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#189 [七瀬]
“俺も”
ってどういうこと?

ちゃんと説明してよ…。


そう思いながらも
聞くのが怖い。








「先月、死んでん。

俺の奥さん。」
 

⏰:09/03/22 04:53 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#190 [七瀬]
 
“先月、死んでん。

俺の奥さん。”





センゲツシンデン。

オレノオクサン。


ズキンズキン

頭、痛い。
 
 

⏰:09/03/22 04:56 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#191 [七瀬]
 
 
 
記憶が蘇る。







あの人と出会った日…。
 
 
 
 
 

⏰:09/03/22 05:08 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#192 [七瀬]
 
 
 
『なあなあ、
あんた、名前なんてゆうん?』


その日、
私はいつもみたいに新人イジメのため、
わざわざ神社の中にある、“たこ焼き”まで
やって来た。



プロパンをいじりながら、新人は言った。
 

⏰:09/03/22 05:13 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#193 [七瀬]
 
「ハラダタカシやで。」


『ハラダタカシ?』

「野原の“原”に、
田んぼの“田”で原田。

あと、俊足の“俊”でタカシって読むねん。」


そう言われ
“原田”までは、思いついたものの、

小学2年生の私。
“俊”はカタカナのままだった。

⏰:09/03/22 05:19 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#194 [七瀬]
 
 
とりあえず、

ふーん
と適当に頷く。


だって、

私がに聞きたいことは、
そんなんと違うし。


相手が嫌がるような、
うっとうしくて仕方なく
感じるようなことを聞くのが

ほんまの目的。

⏰:09/03/22 05:24 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#195 [七瀬]
 
何歳?
 
誕生日は?

血液型は?

どこ住んでんの?


こんなんは、序の口。


ファーストキスはいつ?

どこで?

どんな風に?

好奇心だらけの質問。

⏰:09/03/22 05:27 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#196 [七瀬]
 
どれにも笑って答えてゆく。

なかなかやるな、コイツ。


確かな手応えを感じ始める。

そして、



『今、彼女おんの?』

と、とうとう聞いた。
 

⏰:09/03/22 05:30 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#197 [七瀬]
 
「ん〜、彼女ってゆうか、奥さんやな。」

『結婚してんの?』


「そぉやな。」


たこ焼きを焼き始めた手を見ると


指輪。


子どもの私でも、
その意味は理解できた。
 

⏰:09/03/22 05:34 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#198 [七瀬]
 
 
『ふーん。子どもは?
子どもはおんの?』


「まだ籍入れて、2ヵ月しか経ってへんし、
そんなんまだまだ先や。」

『じゃあ、まだ見ぬ赤ちゃんのために頑張りや。

ここで、さぼらんように
まつりが見張っといたるわ。』


「そりゃ、
どーもありがとぉ。」

⏰:09/03/22 05:38 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#199 [七瀬]
 
ほんまえらそうなガキ。


そんな私にも、笑って答えるあの人。


今の私やったら、

ガキんちょに
自分の子どものことなんか心配してほしないわっ!

ってキレてる。
 
 

⏰:09/03/22 05:41 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#200 [七瀬]
 
 
それから、
本当に私は見張り続けた。

とゆうより、
お邪魔し続けた。






そして私が小学6年生になった時、

“原田さんに子どもが出来た”

と聞いた。

⏰:09/03/22 05:44 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#201 [七瀬]
お母さんとおばあちゃんが話してるところを
盗み聞きした。



ショックやった。


なんでか分からへんけど、無性に悲しくって

イライラした。


今、思えば

出会った時から、あの人が好きやったんや。
 

⏰:09/03/22 05:47 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#202 [七瀬]
 
 
それに焦った。

奥さんがおるのは、
正直なんも思わんかった。


けれど、
子どもが生まれたら、
もう私なんか相手してくれへんくなる。


そう思うと、
苦しくって苦しくって
溜まらんかった。
 

⏰:09/03/22 05:50 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#203 [七瀬]
 
 
 
「なんか最近、冷たいやん。」


『別に。
真面目に働いてるだけ。』

私はこの頃から、1人で金魚を任されるようになった。


「そっか。
おっちゃん寂しぃわ。」

店を潰しながら、軽く言う。

⏰:09/03/22 19:04 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#204 [七瀬]
 
そんなこと、思ってないくせに。


あの人は私の前では
自分のことを
“おっちゃん”とゆう。

今まで、なんとも思わんかったのに

最近は子供扱いされてるみたいで、いやや。
 
 
むしゃくしゃする。
 

⏰:09/03/22 19:07 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#205 [七瀬]
 
 
あの人は、自分から
自分のことを話す人じゃない。

本人はなんも、ゆうてへんし、
お母さんらの間違いかも。

だから、ほんまは嘘なんかも。

そんな淡い期待を抱く。


『子供できたって
ほんまなん?』
 
 

⏰:09/03/22 22:09 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#206 [七瀬]
 
そうであってほしかった。

お母さんらの勘違い、

もしくは私の聞き間違い。





あの人は

「ほんまやで。」
 
 
サラリと答えた。
 

⏰:09/03/22 22:12 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#207 [七瀬]
 
 
それから、私は何も言わずあの人も何も話さなず。


あるのは沈黙だけ。



その夜、布団に入りながらなかなか寝付けなかった。

忙しくって疲れてるはずなのに。
 

私の気持ちが睡眠の邪魔をした。

⏰:09/03/22 22:16 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#208 [七瀬]
 
 
そして、ある決心をする。 
 
 
 
 
 
 
翌日。



『原田さん。』
 
 
あの人に声を掛ける。 
 

⏰:09/03/22 22:20 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#209 [七瀬]
 
「どしたんや、まつり。」


最近は
あの人が話し掛けて来ても、ほぼ無反応やったのに

しゃべって来た私に驚くあの人。







『…幸せにな。』
 
 

⏰:09/03/22 22:27 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#210 [七瀬]
 
え?
とでも聞くように目を丸くするあの人。



『だからっ!


…幸せになってな
ってゆうてんねんっ!!』


照れ隠しのため、少し声を荒げる。
 
 

⏰:09/03/22 22:30 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#211 [七瀬]
そんな私に気付いてるように、あの人は言った。

「ありがとう、まつり。」


すごい嬉しそぉに笑うあの人に

今までの嫉妬や醜い感情が全てアホらしく思えた。




『それだけやから。』

そう言って、
素早くその場から立ち去った。

⏰:09/03/22 22:34 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#212 [七瀬]
それからとゆうものの、
また私は質問攻めにした。

『男の子?女の子?』

「さあ、どっちやろな。」

『どっちがいい?』

「男やったら、一緒に遊んであげたいし、
女やったら、手料理とか食べたいしなあ。

…どっちでもええわ。」

『親バカや。』

二人の間に笑いが起こる。

⏰:09/03/22 22:47 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#213 [七瀬]
 
 
『名前は?』

「いくつか候補はあるよ。」

『例えば?』

「内緒。」

『ケチ。』



こんな感じで
前みたいに戻った。
 

⏰:09/03/22 22:50 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#214 [七瀬]
 
 
そして冬になった。



お初天神。

新年にみんなの心がウキウキしている時。


年が空け、大忙し。


日本一長い商店街の中、
金魚とたこ焼きは隣同士。 

⏰:09/03/22 22:53 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#215 [七瀬]
 
私は少し気掛かりだった。


だって
赤ちゃんのことを全然聞かへんし。


八月の中旬の頃に確か6ヵ月ってゆうてた。

今は1月。

もう生まれているはず。
 
 
でも、あの人は何も言わへん。

⏰:09/03/22 22:59 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#216 [七瀬]
気になって気になって
しょうがない!

歯がゆい気持ちが心中を支配する。



『子供、生まれたん?』

ガマン出来なくって、
たこ焼きにおる、あの人に聞いた。
 
 
すると、あの人は

「生まれたよ。」

笑って言った。

⏰:09/03/23 19:24 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#217 [七瀬]
 
『良かったなあ。

って、なんでゆうてくれへんのよっ!!』


「あれ?
おっちゃん、ゆうてなかったっけ。」

『もう!』



寂しいやん。

一言ゆうてよ。
 

⏰:09/03/23 19:27 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#218 [七瀬]
 
確かに私には関係ない。

関係ないけど、

わかってるけど、


一言ゆうてほしかった。



奥さんがいて、子供が生まれて…

やっぱり、
もう私の相手してくれへんのかな。
 
ただのガキんちょやもん。

⏰:09/03/23 19:31 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#219 [七瀬]
 
 
でも、やっぱり話したい。

一緒に笑いたい。


私は今まで以上に、話し掛けた。

あの人も、これまでと同じように話す。


少し安心する。

普通に話してくれる。

良かった。

⏰:09/03/23 19:34 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#220 [七瀬]
 
時々、

『子供は元気?』

と聞いた。

すると、あの人は

「元気やで。」

と決まって言う。


それやったらええ。

ええけど、

それだけしか言わん。

いっつも同じ答え。

⏰:09/03/23 19:37 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#221 [七瀬]
 
それに、

名前、性別…

いつ聞いても、答えてくれへん。


「なんやと思う?」

「どっちでしょーか?」

絶対はぐらかされる。


そのたび悲しい。
 

⏰:09/03/23 19:39 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#222 [七瀬]
 
 
 
そして中1の通り抜け。


あのままバイバイして今。





結局、最後まで子供のことは聞かれへんかった。
 
 

⏰:09/03/23 19:42 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#223 [七瀬]
 
 
 
どれくらい沈黙が続いただろうか。


多分5分くらい。

でも、何時間にも思えた。


今日は30度を超える真夏日。

なのに、
額には冷や汗ばかり流れる。
 

⏰:09/03/23 19:45 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#224 [七瀬]
 
 
この沈黙に我慢も限界。

『原田さ…』


「ごめん。」

遮られる。


“ごめん”?

なにが“ごめん”なん?



「嘘ついてた…。」
 

⏰:09/03/24 08:20 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#225 [七瀬]
 
嘘?


“奥さんが死んだ”

ってゆうのは嘘?






「ほんまは子供なんておらんねん。

8年前……。
まつりが小学生の時、流産した。」 
 

⏰:09/03/24 08:24 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#226 [七瀬]
 
なに…それ。


安心は束の間。

“奥さんが死んだ“
のが嘘なんやなくて、

“子供がおる”
ってゆうんが嘘?



そんなん…、
なんでいまさら。

がく然とする。
 

⏰:09/03/24 08:27 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#227 [七瀬]
 
 
私が今まで見てきたのは

夢やった。


家族に囲まれて笑うあの人は


ただの幻やった。
 
 
なんのために願ったんだろう。


“幸せになっ”
 

⏰:09/03/24 08:30 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#228 [七瀬]
 
 
「あの時…。
まつりが“幸せにな”ってゆうてくれた時。

おっちゃん……心底、誓った。

なのに……」


あの人は声は震えている。


私は何も言わない。


言えない。
 

⏰:09/03/24 08:33 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#229 [七瀬]
 
それは、
あの人に同情して何も言えないんじゃない。


感情がない。

言わば、脱け殻状態。


あの人は続けた。

「買い物行ってた時、急に…。

普通にしてたのに。
転んだわけやない。無理してたわけでもない…。」
 

⏰:09/03/24 08:38 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#230 [七瀬]
 
声の震えが増してゆく。


「まつりには言われへんかった。
あんな喜んでくれてたのに。」


ここで、やっと悲しさが襲って来た。

あの人も苦しかったんや…。
泣きたかったんや。


私以上に。
 

⏰:09/03/24 08:41 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#231 [七瀬]
 
 
「それから、自殺しようとした。
その時は未遂で終わったけど…。

でも彼女は完全に病んでた。
何回も何回も……

止めても止めても、死のうとした。」

途中から、すすり泣きを入れつつ、話す彼。

 
私の目も自然と潤みだす。 
 

⏰:09/03/24 08:47 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#232 [七瀬]
「彼女の両親に、相談すると
“病院入れろ”と一言、
言われただけやった。」

冷たい両親。

怒りを覚える。


「俺、それだけはいやで…

俺の両親にゆうたら協力してくれた。

だから神野商会を止めた。

彼女となるべく一緒にいてあげよう思て。」

⏰:09/03/24 08:52 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#233 [七瀬]
 
途中、あの人が自分のことを
“おっちゃん”ではなく

“俺”とゆうてるのに気付いた。

それだけ余裕がなくなってんのかな?



『気付かんで、ごめん。』


すると、あの人は首を振った。
 

⏰:09/03/24 08:57 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#234 [七瀬]
 
「アホ。
お前は自分のことだけ考えてればいい。」

そう笑ったけど、今にも壊れてしまいそうだった。



「それから、まもなくして


癌…見つかった。」


なんとなく予想はしていた。
 

⏰:09/03/24 09:01 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#235 [七瀬]
 
 
“まもなく”とゆうても、あの人が神野商会を辞めて3年が経っていた頃。


私が中2の時だった。

私が奏と出会って1年が過ぎてた時期。


あの人の奥さんに癌が見つかった。

乳ガンだった。
 
 

⏰:09/03/24 09:05 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#236 [七瀬]
 
心の病は、癒されても
体はどんどん蝕まれてゆく。

手術を受けた。

結果は一応、成功。


でも1年後、転移した新たな癌が見つかったらしい。

医者には、“手遅れ”と言われた。

それから抗がん剤だけの治療が始まった。
 

⏰:09/03/24 09:09 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#237 [七瀬]
 
髪は抜け落ち、

頬は痩せこけ…

癒えた心の傷も、また開きだす。


あの人は頑張った。

だけど



とうとう先月


彼女は屋上から飛び降りた。

⏰:09/03/24 09:12 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#238 [七瀬]
 
飛び降りようが、しなかろうが、もう長くはなかっただろう

と医者は言ったとゆう。



「彼女……由利は最後の力を振り絞ってでも、
少しでも早く…

楽になりたかったんやな。」

遠くを見ながらあの人は言った。
 

⏰:09/03/24 09:16 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#239 [七瀬]
 
今度は同情して、何も言われへんかった。



「葬式はあっとゆう間やった。

あれ、不思議なもんで
葬式中は慌ただしくって悲しみも忘れてまうのに、

終わったら、普通の何倍も悲しくなる。」


そう笑うあの人に胸がキュッと締め付けられた。

⏰:09/03/24 09:24 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#240 [七瀬]
 
「俺も死んじゃおっかなーって思た時、

まつりの顔が浮かんで、
会いたなった。

だから今日、会いに来た。」

そうゆうと、真っすぐに私を見つめた。






『…死なんといて。』
 

⏰:09/03/24 09:29 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#241 [七瀬]
 
気が付けば、私の手と頬は涙でグッショリ。



『死んだらアカン。
死んだら…』

涙で詰まる。


「ありがとう。」

そう涙をすくってくれる。


これじゃ、どっちが慰めてんのか分からん。
 

⏰:09/03/24 09:33 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#242 [七瀬]
「でもな、まつり。
俺…許されへんねん。

由利が。
なんで自分から命を断ってしまったのか。

さっき、まつりがゆうたやろ?
“忘れられへんから、許されへん”って。

俺もそうや。
由利のこと愛してた。
だからこそ許されへんねん。
なんで俺を置いてってしまったんや…。

それに……」

⏰:09/03/24 15:49 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#243 [七瀬]
 
『それに…?』


「それに、俺自身も許されへん。

なんで、もっと由利を支えられなかったんや。

子供も守られへんかった。

もし、あの時……
流産なんかしてなかったら由利も俺も人生変わってた。
もっともっと頑張れた。」 
 

⏰:09/03/24 15:53 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#244 [七瀬]
 
頑張れた?

人生変わってた?


彼の言うとおり、
流産してなかったら、違う運命やったやろうな。


私も彼と、離れなくて済んだ。

みんなみんな幸せやったんや…。



『…そやけどっ!』

⏰:09/03/24 16:04 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#245 [七瀬]
 
私を見る原田さん。


『死んだら、なにもかも終わりやでっ!?

オシャレも出けへんし、
おいしいもんも食べられへん。
遊園地にも行かれへんねんで!?』


わわ、何言ってんねん私。
訳分からん!

そう思いつつも止まらない憎らしい口。

⏰:09/03/24 16:15 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#246 [七瀬]
 
『それにっ……


それにな!

原田さんの大好きな奥さんはもう、いいひん。

でも大好きな人が死んで、

“あの人が死んだから、
自分も死ぬ”とか

いちいちゆうてたら、

世界中の人口おらんくなるわっ!
人類滅亡やわ!!』
 

⏰:09/03/24 16:22 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#247 [七瀬]
 
かなり、的外れなことゆうてるよな?

自分でわかってる。


やけど、

どうしても彼に生きる希望を見てほしかった。

こんなこと、ゆうて
引き止められるのか、分からへん。

ってか絶対無理!

でも、言わずにはいられへんかった。

⏰:09/03/24 16:26 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#248 [七瀬]
 
 
「プッ、ハハハハハハ…」


あ…笑ってる?

てか爆笑やん。

ウケ狙ったわけとちゃうねんけど

むしろ結構、真剣やってんけど……


ま、いっか。

彼が笑ってくれるならええ。

⏰:09/03/24 16:30 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#249 [七瀬]
腹を抱えながら、まだ笑っている。


「ほんま…ほんまやわ!
まつりのゆう通り!!

人類滅亡するわあ〜!」

笑い過ぎてヒィヒィゆうてる原田さんに

さっきまでの気持ちは
どこへやら。


『はい。
戦争とか、新型インフルエンザとか、隕石とかゆうてる場合とちゃいますー!』

⏰:09/03/24 16:36 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#250 [七瀬]
少し膨れて見せた。


「うん、ほんまそやな。


やっぱりまつりに会えて良かった。
なんか光が見えた気がするわ。」

『そ、それは良かったなっ!』


ほんまに良かった…。



『あと…』

⏰:09/03/24 16:41 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#251 [七瀬]
 
「ん?
“あと”…なんや?」


『もし、
原田さんが死んだら、私が頭おかしなるわ…。』


真剣な目付きに戻る。

『それに、私はずっと思ってた。

“この花火、原田さんも見てるんかな?”って。

天神祭の花火を見るたびに。』

⏰:09/03/24 16:46 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#252 [七瀬]
 
 
「花火は見えへん。
俺の家からは見えへんな、残念ながら。


でも

聞こえてた。

花火がバーン!!
って弾ける音。

ほんま小さくやけどな。」


そう彼は笑った。
 

⏰:09/03/24 16:50 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#253 [七瀬]
 
「ほんまにありがとう、まつり」
 
 
そう言って、彼は去って行った。


新たな光へと向かって。



私は、もう忘れた。

彼との記憶ではなく、

その記憶をいつまでも引きずっていた私を。
 

⏰:09/03/24 16:58 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#254 [七瀬]
 
上を見上げる。

天神祭よりも、かなり小規模な今夜の祭の花火。


目を閉じる。

耳に神経を集中させる。


バーン!!

パチパチパチパチ…


上がった花火が、燃え尽きる音が聞こえる。
 

⏰:09/03/24 17:05 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#255 [七瀬]
 
 
 
 
さようなら、初恋の人。




さようなら。





私の恋花火…
 
 

⏰:09/03/24 17:07 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#256 [七瀬]
 
 
『ごめんっ!ほんまごめんなあ、麻友ちゃん!!』

「ええよ。
だって原田さんと話せたんやろ?」

『うん!おかげさまで。
けじめ、つけれた。』

「じゃあ良かったやん。
私は、まつりが原田さんとちゃんと話せたなら、別にええねん。」


『麻友ちゃん…ほんまにありがとう。』

⏰:09/03/24 19:56 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#257 [七瀬]
今は、もう店も潰し終わったところ。


私がいなくなった後、
麻友ちゃんが金魚の店番をしてくれた。


「なに水臭いことゆうてんのよ。」

そう笑ったのも、束の間。


「まつり。」
 
深刻そうな面持ちで話し始めた。

⏰:09/03/24 20:00 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#258 [七瀬]
『ん?』


「あんた忘れてるやろ。」

『え?何を??』


ため息をつく麻友ちゃん。

「奏君。」


『あっ!!』


アカン…。

完全に忘れてた。
 

⏰:09/03/24 20:03 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#259 [七瀬]
 
『ごめん!!
もっかい行ってくる!』

そう言いながら、
私の足はボールへと急いでいた。


「はぁーい。
今日、まつりは給料なしやからなあー。」


遠くから、意味深な言葉を麻友ちゃんが発していたけど、
とりあえず頷いて、先へ走ってゆく。

⏰:09/03/24 20:07 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#260 [七瀬]
 
 
 
『奏!』


「まつり?」



『あれ、遊希…

奏っ!奏は!?どこにおんの?』


「え、奏なら先、帰ったよ。
体調悪いとかゆうて。」
 

⏰:09/03/24 20:11 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#261 [七瀬]
 
『嘘やんっ!?』


「そんなしょうもない嘘つかんわ。」

『そぉか…
ならええわ。ごめんな急に。』


しょうがない。

麻友ちゃんとこ戻ろか。
 
また奏にはメールしとこ。 
 

⏰:09/03/24 20:14 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#262 [七瀬]
 
「待てっ!!」


遊希に引き止められる。



『なに?』

振り向く。


「奏と…なんかあったんか?」


『遊希には関係ない。』  

⏰:09/03/24 20:17 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#263 [七瀬]
「関係あるわ、ボケ。

奏がいきなり帰るとか言いだすから、
俺、カステラの前場から、ボールに行かされるし。

なんかお前も、急におらんくなったみたいやし…。」


『遊希、ほんまごめん。
あんたにも迷惑掛けててんな。』


「まあ…ええけど。

で?何があったん?」
 

⏰:09/03/24 20:23 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#264 [七瀬]
 
黙り込む私。


「言いたないなら、別に言わんでえ…」


『私!


…私、奏を裏切ってん。』


遊希の目が大きく見開かれる。


「どうゆう…ことや。」 
 

⏰:09/03/24 20:34 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#265 [七瀬]
 
『奏を裏切った……

それだけ。』


「それだけって…
ふざけてんのか、お前。」


『ごめん、それじゃ。』

そう言って、
その場を素早く立ち去った。



「まつり…なんでなんや。」 
 

⏰:09/03/24 20:37 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#266 [七瀬]
 
その夜、奏にメールした。

“今日はごめんな。
会って話したい。”

それから眠りについた。


次の朝、奏からメールは来ていなかった。

やっぱ怒ってるかな。
当たり前か。


でも、奏。
私は決めてん。

もう私は答え出てるよ。

⏰:09/03/24 20:46 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#267 [七瀬]
 
 
それから次の日、
またその次の日……

奏からメールは来(コ)うへんかった。

毎朝、問い合わせしてる。


私のこと避けてるな。

でも、明日は祭がある。


逃げられへんで、奏。

一人で納得して、寝床についた。

⏰:09/03/24 20:51 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#268 [七瀬]
 
 
ガタンゴトン
ガタンゴトン…


「今日はいつもより、暑いなあ。」

そうゆうお母さんの首筋は汗で光っていた。

『ほんま真夏日どころとちゃうわ。』

そんな私も、びっしょり。


「次の駅で降りんで。」
 

⏰:09/03/25 19:11 📱:N703iD 🆔:zoW2wVms


#269 [七瀬]
 
扉を開くと、
ふわ〜んと生暖かい風が顔に吹きかかった。


「はい、これ。」

『重っ!』

「そりゃ、ハチミツ入ってんもん。
じゃあこっち持つ?」

そう牛乳が6、7本入った、ビニール袋を見せた。


『…遠慮しときます。』  

⏰:09/03/25 19:16 📱:N703iD 🆔:zoW2wVms


#270 [七瀬]
「文句言わんと、はよ歩き。」

そう言われ、渋々歩き出す。




『まだ〜?まだ着かへんの?』

汗でベタベタして全身が気持ち悪い。


「後5分や!」
 
お母さんは言う。
 

⏰:09/03/26 21:36 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#271 [七瀬]
 
 
あの〜。
さっきから、ずっとゆうてるんですけど。

5分前に聞いた時も「後5分」

10分前に聞いた時も「後5分」……


重たい荷物に、
ガンガン照ってる太陽。


体力も限界に近づいていた。
 
 

⏰:09/03/26 21:42 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#272 [七瀬]
『なあ〜、
ちょっと休憩しよぉや。

ほら、そこの喫茶店で…』


「後5分やから!!」

『さっきから、5分5分ゆうて……、
もう20分近く経ってるわ!』


「そんなんゆうたって…

毎年来てるねんし、駅から遠いん、まつりも知ってるやん。」
 

⏰:09/03/26 21:47 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#273 [七瀬]
 
アカン。
もうアカンわ…

クラクラする。


「だいたい、あんたは…」

お母さんの小言が始まっても、
反論する力がない。


意識が朦朧としてきた。
 
ビニール袋を握っている手も、無意識にゆるむ。
 

⏰:09/03/26 21:52 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#274 [七瀬]
 
バサッ



「まつり?


まつり!」


あれ?
私、どしたんや。

私の目には、アスファルトが映る。

耳には、お母さんの
「まつり!まつり!」とゆう騒がしい声。

⏰:09/03/26 21:55 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#275 [七瀬]
「救急車…
そうや、救急車呼ぼ!」   

救急車?

あ、そっか。


私、倒れたんか。

こんな状況なのに、
お母さんより冷静な自分がいる。


ピーポーピーポー

という音を最後に記憶は途絶えた。

⏰:09/03/26 21:59 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#276 [七瀬]
 
 
 
『…うーん、ん!?』


目をパチッとさせる。

ここどこ?


え、えぇ!?

考えろ
考えろ……

ここはどこなんや。


んー、さっぱり。

⏰:09/03/26 22:02 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#277 [七瀬]
 
軽く焦る。


だって、
真っ白な部屋で、
真っ白なベッドに横たわってんねんもん!



「あら、神野さん。
目ぇ、覚めはってんな。」

ガラッとドアが開いたと思ったら、
真っ白な服を来た女の人。 
 

⏰:09/03/26 22:06 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#278 [七瀬]
 
 
あぁ、ここは病院かぁ。

で、目の前には看護士さん。

で、私は…


そう!そうや!!

倒れたんや!


なんか暑いなあ

って思たら、力が抜けてきて…… 
 

⏰:09/03/26 22:09 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#279 [七瀬]
 
それで、お母さんが……


「まつり!意識戻ってんな。
心配したわあ。」

お母さんが病室に入ってきた。


「まつり、倒れてんで。
熱中症で。」

そうなんや。


「でも良かったぁ。
ほんま良かった。」

⏰:09/03/27 15:17 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#280 [七瀬]
心底、安心したように
お母さんは言った。


「明日1日だけ、安静にしていれば、退院ですよ。」

看護士さんが笑った。


『明日ってことは…』

「行かれへんよ。」

私の言葉は遮られた。


「祭には行かれへん。
おばあちゃんにはお母さんからゆうとく。」

⏰:09/03/27 15:25 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#281 [七瀬]
 
『…うん、わかった。』

「ゆっくり休み。

金魚なら、麻友がやってくれてるから。」


そう言って、お母さんは病室から出ていった。


暇…やなあ。

シーンと静まり返った室内。

テレビを見ても、つまらへん。

⏰:09/03/27 17:39 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#282 [七瀬]
 
そうやってノロノロと時間が過ぎる。


「もう就寝時間ですよー。」


イヤホンはしてるし、
個室やから、
苦情が出ることはない
と思うけど……

つまらないのも、あったのでテレビを消した。


携帯を開くと、
PM 9:12

⏰:09/03/27 17:46 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#283 [七瀬]
 
一番、忙しい時間帯やん。

ディスプレイを見て思う。


ふと見るとメールが来ている。


開くと、

“大丈夫か?”




遊希からだった。
 

⏰:09/03/27 17:49 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#284 [七瀬]
 
その一通だけだった。


奏も聞いてるはずやのに。

メールくらい、くれたってええやん。


そりゃあ、
私が悪いのは、分かってる。
分かってるけど…



この熱帯夜とモヤモヤした気持ちのせいで寝付けない。

⏰:09/03/27 17:54 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#285 [七瀬]
 
気が付けば、もう11時過ぎ。

祭が、ちょうど終わって…

潰し始めてるころかな。


携帯を開いてメールを打つ。

遊希には、

“さっきはメールありがとう。
明日も行かれへんけど、
すぐ退院出来るし、大丈夫や。”
 

⏰:09/03/27 17:58 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#286 [七瀬]
 
あと麻友ちゃんにも。

“今日は、ありがとう。
明日も行かれへんから、お願いします。
金魚ばっか、さしてごめんなあ。”



奏には送らへんかった。


その代わりに電話してみる。

プルルルルル…
 
 

⏰:09/03/27 18:02 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#287 [七瀬]
 
出ぇへん。


ため息をつきながら、携帯を閉じる。

もう、潰し終わって
大竹さんと遊希と一緒に
トラックで、帰っているはず。


なんで、出ぇへんねん。

やっぱ避けてんねや。

でもこんな時くらい、
怒っててもいいから声、聞きたかった。

⏰:09/03/27 18:07 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#288 [七瀬]
 
 
 
プルルルルル…


「奏、携帯なってる。」


「ああ、まつりからや。」

「出ぇへんの?」



「うん。」


プルルルルル…プツッ 
 

⏰:09/03/27 18:12 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#289 [七瀬]
 
 
 
カシャ

「なんや、もう目、覚めたんか。」



『…遊希。
なにしてんのよ。』


「あーバレた?」

そう笑う遊希の手には携帯。
 

⏰:09/03/27 18:27 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#290 [七瀬]
 
『…何が?』

嫌な予感がして、
遊希をジロリと睨む。


「まつりって寝顔の方が
かわいいな」

そう、携帯を見せてきた。


瞬間、私は遊希の手から携帯を奪っていた。



「ああっ!?なにすんねん!」 

⏰:09/03/27 18:31 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#291 [七瀬]
『“なにすんねん”は
こっちのセリフや!』


“カシャ”ってゆう音は
シャッター音やったんか!

まったく、油断も隙もないわ!!


ふぅー、
これで安心や。


“削除しました”

携帯を遊希に返す。

⏰:09/03/27 18:35 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#292 [七瀬]
 
「せーっかく、
俺の新しい待ち受けにしよぉと思ったのに。」


『せんでええわ!』


「まあ、そうスネんなって。
体調はどうや?
って、今のお前見てたら、元気っぽいけど。」


『…めちゃめちゃ元気や。』
 

⏰:09/03/27 18:53 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#293 [七瀬]
「“めちゃめちゃ元気や”って…

全然、元気ちゃうやん。
気のない声出して……」


『なあ、遊希!』

遊希の目を見る。


『…奏が電話に出てくれへん。
電話どころか、メールも返してくれへん。』


「まつり…」
 

⏰:09/03/27 18:58 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#294 [七瀬]
目をそらす遊希。


「まつり、それは……」


『分かってる!

…私が裏切ったから。

私が悪いってゆうのも、分かってる。

でもっ!


…なんかもう嫌や。』
 
やば、泣きそう。

⏰:09/03/27 19:02 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#295 [七瀬]
 
「まつり…」


『遊希、知ってんのやろ。

…昨日、奏が私の電話に出ぇへんかったこと。

奏と一緒やったんやろ?』


遊希は迷っている様子。



「…うん。知ってた。
一緒におったよ、奏と。」 

⏰:09/03/27 19:07 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#296 [七瀬]
『そっか。なんかごめんな。
遊希に、こんなん聞いても困らすだけやのにな…』


どっかで期待してた。

もしかしたら、奏に携帯に出られへん理由があったんとちゃうかな?

って、思ってた。


でも遊希も一緒におって私から電話したの知ってる。

奏は私の電話、
知って、無視したんや。

⏰:09/03/27 19:13 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#297 [七瀬]
 
 
分かってても、ショック。 
 
もう奏とは、終わりなんかな?

アホやな、私。





私は奏と
“やり直す”つもりやった。

ほんまアホやわ。
 

⏰:09/03/27 19:20 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#298 [七瀬]
 
 
 
「俺は…」


『遊希、もういいねん。
なんもゆわんといて。

何回も言うけど
悪いのは私。

奏は、なんも悪ない。』



「これから、どうするんや。」
 
 

⏰:09/03/27 19:24 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#299 [七瀬]
 
『とりあえず、明日には退院できるし、
次の祭…ちょうど一週間後かな?
一週間後、行くよ。

それで、奏と話し合う。』


「なに話し合うん?」


『謝って、やり直せたらいいなって思う。』
 
 
「本気なんか。」
 

⏰:09/03/27 19:29 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#300 [七瀬]
 
『うん。

やり直せるか分からんけど、頑張ってみる。』




「…アカン。」


『遊希?』



「止めとき。」

こんな怖い目の遊希、
初めて見た。

⏰:09/03/27 19:33 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#301 [七瀬]
 
『遊希の言うてることは、分かってる。

そんな都合いいことアカンよな。』


「違う!
そんなんゆうてんのと、ちゃう!!」




コンコン

「神野さん?
入りますよー?」
 

⏰:09/03/27 19:36 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#302 [七瀬]
 
 
「じゃあ、もうそろそろ行くわ。
体調、崩さんようにな。」

『ありがとう。
遊希も頑張ってな、カステラ。』


「おう!」

そう笑った後、


「ほんまに、
もう奏には手ぇ、引きや。」

⏰:09/03/27 19:41 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#303 [七瀬]
また怖い目に戻って、病室を出ていった。


「気分はどうですか?」

お医者さんの質問に答えてる間にも、上の空。


“奏には手ぇ、引きや”

遊希の言葉がこだまする。


奏から手を引く?


そんなん嫌や。
 

⏰:09/03/27 19:46 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#304 [七瀬]
 
 
 
私には


もう奏のいない生活なんて考えられへんの。


せっかく、あの人が吹っ切れたのに、

今度は奏?


もう、あんな思いはしたない。
 
 

⏰:09/03/27 19:49 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#305 [七瀬]
 
 
 
「退院おめでとぉ!」


『ありがとう。
でもたかが熱中症で倒れて2日間、寝込んでただけやで?
大げさやわ。』


「何ゆうてんの。
はい、いっぱい食べ。
いっぱい食べて体力つけなさい。」

お母さんは、ステーキをテーブルに置いた。

⏰:09/03/27 21:07 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#306 [七瀬]
 
『おいひい〜。』

一口含むと、柔らかい舌触りと肉汁が広がった。


「そう、良かった。

まつり、ごめんな。
お母さん、気付いてあげられなくって。」


ステーキを飲み込んだ。

『ええよ。仕方ないやん。』
 

⏰:09/03/27 21:11 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#307 [七瀬]
 
それから
気持ち良くって、
ついお風呂に1時間以上、入ってしまった。

やっぱり我が家が一番。


自分の部屋に入る。

うわ〜、
めっちゃ久々やん!

部屋の中にある全てが、懐かしく感じた。
 
 
ふと見ると携帯が光ってるのが見えた。

⏰:09/03/27 21:16 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#308 [七瀬]
 
“退院おめでとう。”


ほんま遊希も大げさや。


“ありがとう!”

と送り返すと、


しばらくして遊希から電話。

『もしもーし。』


「まつり、退院おめでとう。」

⏰:09/03/27 21:19 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#309 [七瀬]
 
『遊希もお母さんも、おーげさや。』


「それだけ心配してんの。まつりのお母さんも、

俺もな。」


『…ありがと。』


「どーいたしまして。

それよりどう?
2日ぶりの我が家は。」
 

⏰:09/03/27 21:22 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#310 [七瀬]
『たった2日間おらんかっただけやのに、懐かしい。不思議な気持ちや。』


「そんなもんや。

それより、明後日。
明後日どう?」


『明後日?なんかあんの?祭はないやろ?』


「明後日、ヒマ?」
 

『ヒマってゆわれたら、
ヒマ…やけど。』
 

⏰:09/03/27 21:27 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#311 [七瀬]
 
「じゃあ決まりや!」


『は?決まりって…』


「昼の11時。
まつりの家に迎えに行くから、待ってて。」


『え!ちょっと遊希!?』


「じゃあ、明日もゆっくり休めよ。
明後日は、忙しいでー。
祭以上に。」
 

⏰:09/03/27 21:30 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#312 [七瀬]
『ちょ…待ってってば!
遊…希。』


プツッ

ツーツーツーツーツー


一方的に切られてしまった。

虚しい音だけが、私の耳に残る。


なんやねん、あれ。

意味分からんまま、眠りについた。

⏰:09/03/27 21:36 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#313 [七瀬]
 
 
 
そして明後日。


ピーンポーン


『はーいっ。』

ドアを開けると


『ほんまに来たん!?』


「冗談やと思った?」

ニカッと笑う遊希。

⏰:09/03/27 22:06 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#314 [七瀬]
 
『いや…冗談とゆうか…』


「用意出来たか?」

『用意って……』


「もちろん出掛ける用意。」



「あらあら!遊希くん!!」

その時、運悪く?
お母さんが登場した。
 
 

⏰:09/03/27 22:11 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#315 [七瀬]
「どぉも、こんにちは。」


「こんにちは〜。

もしかしたら、
これからまつりとデート!?

ごめんねぇ、遊希くん。
この娘、グータラして、まだ顔も洗ってないのよ!

ここで待つのも、あれだし…
あがってちょうだい!」


お母さんは、
かーなーり一方的、
かつ一気にしゃべった。

⏰:09/03/27 22:16 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#316 [七瀬]
 
『顔は洗ったし!
着替えてないだけで…

ってかデートちゃうわ!』


そんな私の言い分は無視され、
遊希は初めて私の家に足を踏み入れた。


『と、とりあえず着替えてくるから!』

バタン!

そう言って、部屋へ戻る。

⏰:09/03/27 22:20 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#317 [七瀬]
 
なにあれなにあれ!

来るとは言ってたけど、
ほんまに来るか!?


ドア越しに聞こえる
お母さんと遊希の笑い声。

ほとんどお母さんの声やけど。


そんな二人とは裏腹に、心臓バクバクな私。


えーとっ!
とりあえず着替な!!

⏰:09/03/27 23:55 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#318 [七瀬]
 
タンスを片っ端から開けて、あさる。


あ、あった!

少し大人っぽい白いワンピースを取り出す。


軽く化粧をする。


「まだかー、まつり。」


『ま、待って!』

最後にグロスを塗る。

⏰:09/03/28 00:00 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#319 [七瀬]
 
『おまたせっ。』


「よし、行こか!!

じゃあお母さん、
麦茶ありがとうございました。」


「はーい。気を付けて。
またおいでね、遊希くん。」


お母さんに見送られ、
家を後にした。
 

⏰:09/03/28 00:03 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#320 [七瀬]
 
しばらく歩いて、
近所のバス停に着いた。


『バス乗んの?

ってか、どこ行くんよ。』


「うーん、70点。」

私の質問をスルーして、
遊希は言った。


『え?』
 
 

⏰:09/03/28 00:10 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#321 [七瀬]
「後、
髪巻いてくれたら90点やのに。」


なーんだ、そうゆうことか。

『遊希が急かすからやろ。』

「じゃあ、時間あったら巻いてた?」


『さあ、どうかな。』

ちょっと意地悪して、はぐらかす。
 

⏰:09/03/28 00:13 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#322 [七瀬]
 
 
「これが奏とのデートやったら、
急かされても、巻いとったんやろな。」

独り言のように遊希は言った。


『なにゆうてんの。

ってゆうか、
デートちゃうってゆうてるやん!』


「そぉやったな。」
 

⏰:09/03/28 00:17 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#323 [七瀬]
寂しく笑う遊希。


『あとは…になるんよ。』


「なんて?」


『だからっ!

あとは、
どうやったら100点になんの?』


「あ、ああ。」

不意を突かれた様子。
 

⏰:09/03/28 00:21 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#324 [七瀬]
「そぉやな。」

見定めるように、
私を下から上まで見る。


「もぉちょっと
化粧濃くしてくれたら…」

『却下!』


ハハッと遊希が笑った。

私も吊られて笑う。


なぜか、この瞬間が大切に思えた。

⏰:09/03/28 00:26 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#325 [七瀬]
 
『あ、バス来たで!』


プシュー

扉が開いた。


足をバスへと一歩踏み出す。

『遊希?乗らへんの?』


ガバ
 

「やっぱり変更。」 
 

⏰:09/03/28 02:15 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#326 [七瀬]
 
そう言われ、
遊希に手を引っ張られたのだと気付く。


『じゃ、じゃあどこに行くんよ!?』

元々、行き先も知らないのに
急に変更とかされて……

ますます分からん!


「まつりと、
ゆーっくり話せるところ。」

⏰:09/03/28 02:19 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#327 [七瀬]
今度は真剣にゆう遊希。


少し、たじろいでしまう。


『…ゆっくり話せるところってどこよ。』


「うーん、知らへん。」

『ファミレスとか、
喫茶店とか?』


「いいや、違うな。」


『じゃあどこ?』

⏰:09/03/28 03:44 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#328 [七瀬]
 
うんざりと聞く私に、
遊希は


「あっこ。」

指差して言った。


その指の向こうには






……ホテル?
 
 

⏰:09/03/28 03:47 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#329 [七瀬]
こ、これは!

もしかして…
もしかすると!!


イケナイ関係ってやつ!?


『ちょっ、ちょっと遊希!ふざけんのも、ええ加減にして!
そんな真っ昼間から、なに考えてんのよ!

しかも私には奏がおるし……

ほんまにアカンって!!』
 

⏰:09/03/28 03:51 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#330 [七瀬]
 
 
10分後。


「なあ、まつり。
奏は忘れ、な?」

私は遊希に迫られてる。


『…遊希。』

あまりにもの真剣な眼差しに流されてしまいそう。


「な、俺のゆう通りにし。絶対に後悔せんから。
ってか俺がさせへん。」

⏰:09/03/28 03:55 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#331 [七瀬]
 
そんなことゆわれたら…


ごめん。
ごめんな、奏。


『…遊希。

私、遊希のゆう通りに…』



バンッ
 
 
 
『いったー!』
 

⏰:09/03/28 03:59 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#332 [七瀬]
 
 
「おー!ホームランや!!
ホームラン!走れ走れ!」


遠くで聞こえるオッサンの声。


「大丈夫か、まつり!?」


『痛い痛い痛い!
ぜんっぜん大丈夫とちゃうわ!!』


見事に私の額にホームランしたボール。

⏰:09/03/28 04:03 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#333 [七瀬]
 
『だから、川原なんて嫌やってゆうたやんか!』


「ごめんごめん…。
それより、


お前、ほんま最高やな。」
含み笑いする遊希。


『笑うな!』

言った瞬間、遊希は吹き出した。
 

⏰:09/03/28 04:08 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#334 [七瀬]
一回、吹き出してしまうとなかなか止まってはくれないみたいで
遊希はお腹を抱えてる。


「お腹…ほんま最高!
おもろすぎやろ!!」


『そんなことで最高ってゆわれても…』

ブーと膨れる。


「すみませーん。
ボール、そっちに行ってませんか?」
 

⏰:09/03/28 04:12 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#335 [七瀬]
 
 
「あれ、もう帰って来たん?
デート終了?」

家に入っての第一声。


「いや〜、
さっき、まつりが…ブッ」


“デートちゃう!”

“笑うな!”

言い返す気力をすっかりなくしてしまってる。
 

⏰:09/03/28 11:47 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#336 [七瀬]
おとなしく、遊希とお母さんのやり取りを聞いてる私。


「アカン…
思い出したらまた笑えてきた。」


もう好きにして。

好きなだけ笑って下さい。


「あ、そうそう。
おばさん救急車、貸して下さい。」
 

⏰:09/03/28 11:51 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#337 [七瀬]
遊希は消毒液を取り出した。

「ちょっと痛いかもしれんけど我慢してな。」


ピクッ

「痛いか?」

消毒液が傷に染み込んで、ヒリヒリと痛んだ。

『ちょっと痛いかな…』


だけど、痛さの中に遊希の優しさが溢れているようで、うれしく思えた。

⏰:09/03/28 11:56 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#338 [七瀬]
  
 訂正


× 「あ、そうそう。
おばさん救急車、貸して下さい。」

〇 「あ、そうそう。
おばさん救急箱、貸して下さい。」

 
“救急箱”が“救急車”に間違っていました。
 
 

⏰:09/03/28 11:59 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#339 [七瀬]
 
「私、買い物に行ってくるからあ〜。」


お母さんは、なにを勘違いしたのか、
いらない気を利かした。


『ごめんな。
お母さん、なんか勘違いしてるみたいで…』


「はい、終わった。」


『…ありがとう。』
 

⏰:09/03/28 20:12 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#340 [七瀬]
 
 
「あんな、まつり…」


しばらくの沈黙ののち、
遊希が口を開いた。

「さっきの話の続きやねんけど。」


『…うん。』


さっきの話の続き……

嫌な予感。
 
 

⏰:09/03/28 20:14 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#341 [七瀬]
 
「ほんまに何回もゆうけど、奏とは別れ。」


さっきは流されそぉになったけど、今度は違う。

冷静になれ。

と自分に唱える。


『なんで?
なんで、そんなことゆうの?』


「知らん方がええ。」
 

⏰:09/03/28 21:10 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#342 [七瀬]
『知らん方がええって…

そんなんじゃ、納得でけへん!!』

思わず、身を乗り出す。

「知らん方が幸せなこともある。」

遊希は冷たく言った。


『…分からん。
もう分からへんわ!

奏も、


遊希も……』

⏰:09/03/28 21:14 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#343 [我輩は匿名である]
>>2-60
>>61-120
>>121-180
>>181-240
>>241-300

⏰:09/03/28 21:52 📱:W61SA 🆔:QPIROulk


#344 [七瀬]
 
匿名さん


ありがとう(*^□^*)
 

⏰:09/03/29 00:34 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#345 [七瀬]
 
なんだか、悲しい。


「知りたいか?」 


『知りたいってゆうか、
気になる!

いきなり別れろなんてゆわれて、
納得出来る人なんておらんやろ。』


「まあ…な。」

遊希は一人だけ納得している。

⏰:09/03/29 00:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#346 [七瀬]
 
「じゃあ、話そっかな。」


そう言いながらも、
なかなか話し始めない遊希に苛立つ。

『遊希、言いたいことあるんやったら、はっきり…』


「泣くなよ。」

え?


「頼むから、泣かんとってくれ。」

⏰:09/03/29 00:42 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#347 [七瀬]
 
やっぱり、良い話ではないみたい。


「約束できるか?
絶対に泣かへんって。」

そんなん、聞いてみな分からへん

そう思ったけれど

『…分かった。』

と答えた。


遊希の真剣さは、さっきよりも増したみたい。

⏰:09/03/29 00:46 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#348 [七瀬]
 
 
「あのな…」


怖い

怖い怖い…


いざ聞こうと思うと、
言い知れぬ恐怖が襲ってくる。


“奏と別れるかも”

とゆう恐怖が私の心を支配する。
 

⏰:09/03/29 00:50 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#349 [七瀬]
 
 
「あの日…
まつりが倒れた日。

実は俺、奏と一緒じゃなかった。」


少し息が荒くなる。

「俺は大竹さんと二人で
トラック乗って帰った。


もちろん最初は奏も一緒に帰るつもりやった。

でもあいつとは、一緒に帰らへんくなった。」
 

⏰:09/03/29 00:56 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#350 [七瀬]
 
なぜ?

そう聞きたかったけれど、聞けない。


なにも話されへん。


遊希は続けた。

「だから俺、知らんねん。

なんで奏が電話に出られへんかったのか。

一緒におらんかったからな。」
 

⏰:09/03/29 01:00 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#351 [七瀬]
 
じ、じゃあ…

奏が知って私の電話を無視したわけじゃないんや!


そう喜んだのも束の間。



「けど大体、予想はついてんで。
なんで、奏が電話に出られへんかったのか。」
 

心臓がどんどん加速してゆく。

⏰:09/03/29 01:04 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#352 [七瀬]
 
『な…なんで?』

やっとの思いで口を開く。


「こんなこと言いたないけどな。」

遊希は念を押した。


「あいつには他に女がおる。」
 
なんとなく思ってた。

電話に出てくれなかった
あの日から、心の底のどこかで感じてた。

⏰:09/03/29 13:51 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#353 [七瀬]
 
けど、そんなはずないと願っていたのも事実。


「でな…」

遊希は言葉を詰まらす。


「その、あんな……」

さっきよりも一層、深刻そうな顔に恐怖が倍増する。

『…なによ。』

ここで逃げたらアカン。

⏰:09/03/29 13:58 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#354 [七瀬]
 
 
 
 
ピリリリリリ…


電話はもう10分近く鳴っている。

かけてきている主は遊希だと、見なくても分かる。


けれども私は、電話に出ず手にブザーを感じているだけ。

今はただ、駅へと足を急がすだけ。

⏰:09/03/29 17:49 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#355 [七瀬]
 
 
駅に着いても、鳴り止まない携帯。


遊希…ごめんな。

私は電源を切った。


走ったからか、

それとも、
今から起こる出来事のせいか。

心臓は、
とてつもなく早い。
 

⏰:09/03/29 17:54 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#356 [七瀬]
 
2時間かけて向かう場所。


カツカツカツカツ…

階段を上っていると、


小さく“仲嶋”とゆう表札が見えた。


いつ来ても汚いアパート。


そう、ここは奏の家。
 

⏰:09/03/29 17:58 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#357 [七瀬]
 
 
よくここで、
一人暮らしをしている奏の家に遊びに来たなあ。


そんなことを思いながら、最後の一段を上り終えた。





ガチャ
 
 
 
 

⏰:09/03/29 18:02 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#358 [七瀬]
 
 
「まつり……」












『……麻友ちゃん。』
 
 
 

⏰:09/03/29 18:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#359 [七瀬]
 
さっきの遊希の言葉を思い出す。


「その、あんな……

奏の女ってゆうのは


多分、麻友…や。」



麻友ちゃん……?
 
 
その瞬間、
私は、走りだしていた。
 

⏰:09/03/29 18:42 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#360 [七瀬]
 
遊希の言ったことは、
ほんまやったんや……

落胆する。


「まつり…
なんで、ここにいるん?」


『いつ彼氏の家に来たってええやろ?
ただ奏に会いたなっただけ。』

私、ほんと嫌な女。

麻友ちゃんに、
こんなことゆうなんて。

⏰:09/03/29 23:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#361 [七瀬]
 
 
『麻友ちゃんこそ、なんで?
なんで、奏の家から出てきたわけ!?』


分かってるくせに

麻友ちゃんが答えられへんことを聞く私。


ズルいのは分かってる。


けれど、止められないの。 
 

⏰:09/03/29 23:43 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#362 [七瀬]
 
思った通り、

なにも言わず、目をそらす麻友ちゃん。


『なんで?
答えてよ、麻友ちゃん。』

ひるまず攻める。


「それは…」


ジッと麻友ちゃんの目を見る。
 

⏰:09/03/29 23:46 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#363 [七瀬]
 
「そ、奏君が忘れ物してて……
届けてあげてん。」


また祭あるから、その時に渡せばええやん。

そんなに大事な忘れ物なわけ?

ってゆうか、
そんなに大事な忘れ物なら忘れんやろ、普通。


それに、わざわざ2時間もかかるのに電車、乗って来たん?

⏰:09/03/29 23:50 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#364 [七瀬]
 
ツッコミ所、満載な答え。

麻友ちゃんの下手くそな嘘に、もっと強く睨む。


「フッ、フフフフ…」

麻友ちゃんが妖しく笑った。

「こんな言い訳、さすがに通じんよなぁ。
まつりも子供じゃないわけやし。」


いつもと違う麻友ちゃんに戸惑う。

⏰:09/03/29 23:56 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#365 [七瀬]
 
「ええわ。
そこのファミレスで話そ。

な?まつり。」


その戸惑いを隠すために
精一杯、麻友ちゃんの言葉に頷く。


この人は麻友ちゃんじゃない。

なんか、いつもより化粧も濃くって、露出の多い服。 
 

⏰:09/03/30 00:01 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#366 [七瀬]
それに見た目だけじゃなくって、

オーラが違う。


きつい、誰も寄せ付けないようなオーラを
今の麻友ちゃんは発していた。


いつもの、

優しくって、しっかりした清楚な女子大生の姿は


そこには、なかった。
 

⏰:09/03/30 00:06 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#367 [七瀬]
 
 
「いらっしゃいませー。」


「私はアイスミルクティーを一つ。
まつりは?」


『…私も、同じの。』


「じゃあ、アイスミルクティー二つ下さい。」


「かしこまりました。」
 

⏰:09/03/30 00:15 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#368 [七瀬]
 
「お待たせしました。
アイスミルクティーお二つです。」


カランカラン

しばらく、ストローでコップをかき回していた麻友ちゃんが話しだした。

「さあ、どっから話そか。まつり、何が聞きたい?」


なにがって…

挑発的な麻友ちゃんの態度に怒りを隠せない。

⏰:09/03/30 00:20 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#369 [七瀬]
 
 
「まあまあ、
そんな怖い目ぇせんと。」

『…』

黙って、睨み続ける。


「ごめん。
タバコ吸うていい?」

そう言うと、
麻友ちゃんは鞄からタバコを取出し、火を付けた。
 
 

⏰:09/03/30 00:24 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#370 [七瀬]
 
それ、奏と同じタバコ…


それに、麻友ちゃん。

タバコなんて吸うてたっけ?


フーと息を吐くと麻友ちゃんは言った。

「あんたの思てる通り、
私は奏とデキてる。

ってゆうても、一週間くらい前からやけどな。」
 

⏰:09/03/30 00:28 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#371 [七瀬]
 
一週間前……


ちょうど、私と原田さんが再開した日だった。


奏、やっぱり怒って
私への当て付けに麻友ちゃんと……

そう思っていると


「きっかけは私からやけどなあ。」

衝撃的な一言を麻友ちゃんは意図も簡単に言った。

⏰:09/03/30 00:35 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#372 [七瀬]
 
『…どういうこと?』


奏が、ヤケになってしたこてじゃないの?

麻友ちゃんからって……


なんでなん?


「私から、奏を誘ったの。でも決断したのは奏やで?私は、ただ誘惑しただけ。」


クスクス笑う麻友ちゃんに猛烈に腹が立った。

⏰:09/03/30 00:40 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#373 [七瀬]
 
「最初は奏もかなり渋ってたけどな。

でもほら、まつりは夢中やったやん?
初恋の人と。

それで奏、大分ショック受けてたみたいで。

だーかーら、
私が慰めてあげたの。」

そう笑う麻友ちゃん。


確かに言うとおりや。

私が奏を裏切ったから。

⏰:09/03/30 00:46 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#374 [七瀬]
 
最初に裏切ったのは私。


奏を誘惑した麻友ちゃんも

誘惑に負けた奏も


私に二人を責める資格はないんや…


黙り込む。

だってなんも言われへん。


自業自得や。
 

⏰:09/03/30 00:49 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#375 [七瀬]
 
「でも、良かったやろ?

まつりは原田さんと会えてんし。

感謝してほしいくらいやわ。
ほんま大変やったで。

原田さんの住所調べんの。」

ペラペラと楽しそうに話す麻友ちゃん。


私の知らんところで、
いろんなことが起こってて頭が着いていかなかった。

⏰:09/03/30 00:54 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#376 [七瀬]
 
 
「ほんまは、天神祭に連れて来たかってんけど、
思ったより時間かかって、間に合わんかった。

だって、おもろいやん。

奏とまつりが付き合った、天神祭で、その二人が壊れていくなんて。

それに思い出すんやろ?

天神祭の花火見たら、初恋の、あの人を。」
 

⏰:09/03/30 01:01 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#377 [七瀬]
 
麻友ちゃんは、心底悔しそうに、そして愉快そうに言った。

「ほんま惜しいことしたわ。」


『ふ…ふざけんといて。』


なんて弱気な声なんやろ。


麻友ちゃんとは、まるで対照的な声だった。
 

⏰:09/03/30 01:05 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#378 [七瀬]
「ふざける?」

そんな私を鼻で笑う麻友ちゃん。


「“ありがとう”くらい
ゆうてほしいなあ。

会いたかったやろ?

運命の赤い糸で結ばれた
愛しい愛しいあの人と。」


バンッ


『ええ加減にして!』
 

⏰:09/03/30 01:10 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#379 [七瀬]
 
机に手をつく。


周りの視線が突き刺さる。


今の私には精一杯の反撃だった。

けれども麻友ちゃんは
そんな私に、もろともしないようだった。


「“ええ加減にして”?

それはこっちのセリフや。」
 

⏰:09/03/30 01:14 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#380 [七瀬]
「いつまでも奏を振り回して…

ええ加減にしてよ!」

初めて、麻友ちゃんは声を荒げた。


大きな目が吊り上がり気味に私を見ている。


「私はまつりとは違う!

まつりみたいに
奏を初恋の人と重ねて見たりしてない!!」
 

⏰:09/03/30 01:19 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#381 [七瀬]
 
ズキン…

麻友ちゃんの言葉が
胸を傷める。


「私の方が奏を幸せに出来る。
一人の男として見れる!

私の方が…


奏を愛してる!!」
 
 
それでも、
容赦なく降り掛かってくる言葉。

⏰:09/03/30 01:23 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#382 [七瀬]
 
確かにそうかもしれない。

私は奏とあの人を重ねてた。


「私は、ずっと前から奏が好きやった。

まつりが悪いんやで。」


麻友ちゃんは店を出た。


私はポツリと、麻友ちゃんの言い残した言葉の重みを感じていた。

⏰:09/03/30 11:38 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#383 [七瀬]
 
 
祭があるまでの、この四日間。

すごくすごく考えた。

こんなに頭を使ったのは、人生初かもしれへん。


今日は雨がザーザー降ってじめじめしていた。

余りにも、すごい雨やから祭は中止に、なりかけけどセーフだった。

でも、花火は中止のようだった。

⏰:09/03/30 11:47 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#384 [七瀬]
 
 
傘をさして、カステラへと向かう。

今日は、大竹さんがお休みなので、
遊希がカステラを焼いて、私は前場をすることになった。

金魚は麻友ちゃんがするみたい。

少し安心した。


奏も来てるみたいだけど、会う元気と勇気はすっかりなくしてしまった。

⏰:09/03/30 11:51 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#385 [七瀬]
 
 
「ちょっと、まつり。
これ、金魚に持っていって。」


お母さんが、最悪な仕事を持って来て、自分の店に帰っていった。

金魚…

麻友ちゃん。


「俺が持って行くわ。」

遊希は、なにかを察して
気を使ってくれた。

⏰:09/03/30 11:55 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#386 [七瀬]
 
『ううん…遊希は粉練らなあかんし、私が行くわ。』

遊希にいつまでも迷惑かけたらあかん。


もう一度、
傘を広げ、金魚へと足を運ばせた。

パシャパシャパシャ

歩くたびに、水溜まりが足に跳ねて、冷たい。


金魚の約10メートル前で
立ち止まる。

⏰:09/03/30 11:59 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#387 [七瀬]
 
 
 
 
 
麻友ちゃんと奏が

キスしてた。



まるで、あの日みたい。


たくさんの金魚たちに見守られて…


そう、2年前の天神祭。
 

⏰:09/03/30 12:02 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#388 [七瀬]
 
 
ボォーっと、2人を眺めていると、

麻友ちゃんが私に思えてきた。


私と奏が、そこにいるように錯覚してきた。



早く、こっから立ち去らないと…

身体の危険信号が黄色になっていた。

⏰:09/03/30 12:05 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#389 [七瀬]
 
 
奏と目が合う。



時間が止まったみたい。


奏と麻友ちゃんは向かい合っていて、
私には麻友ちゃんの背中と、奏の大きく見開かれた目しか見えない。


危険信号はすでに、赤に変わっているはずなのに
なぜか客観的に見てる自分がいた。

⏰:09/04/01 11:11 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#390 [七瀬]
 
 
人生初の浮気現場を目撃して…

これから
人生初の修羅場?


なーんてアホなことを考えてると

奏は麻友ちゃんから離れ、金魚からも、遠ざかっていった。


麻友ちゃんの見たことない幸せそうな横顔が小さく見えた。

⏰:09/04/01 11:18 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#391 [七瀬]
 
 
ここで、つっ立ってっていてもアカンし…


麻友ちゃんへと歩いてゆく。


水の跳ねる足音でなのか、麻友ちゃんが私の存在に気付いた。


『これ…』

お母さんに頼まれてたものを渡す。

⏰:09/04/01 11:22 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#392 [七瀬]
 
「ありがとぉ、まつり。」

昨日と同じ人物と思えない。


化粧の仕方

服装

そしてオーラ…

なにもかもが、
いつもの麻友ちゃん。

やっぱり昨日のことは夢やったんやろか…

それと、さっきのことも…

⏰:09/04/01 11:25 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#393 [七瀬]
 
 
『じゃあ…』


「待って。」

どうやら、夢のままでは
終わってくれないみたい。

私の願いも虚しく、
現実に引き戻される。 


「見た?」

と、たった一言。


低い声。

⏰:09/04/01 11:29 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#394 [七瀬]
 
 
『見たよ。』

と、私も一言。


「そう。」


カステラへと体の向きを変える。





「…奏を私にちょうだい。」 

⏰:09/04/01 11:36 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#395 [七瀬]
 
 訂正


× なにもかもが昨日のこと〜

〇 なにもかもが四日前のこと〜


すいません(><)

“昨日”をすべて
“四日前”とします。

⏰:09/04/01 12:56 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#396 [七瀬]
 
 
 
「まつり、どしたんや。さっきからボーっとして。」


『遊希…なんもないよ。

それよりお客さん0やなあ。客所か人っ子一人、歩いてへんわ。』


「当たり前や。
こんな大雨やのに。

って、それより…
やっぱ、なんかあったんやろ、あの日。」

⏰:09/04/01 13:04 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#397 [七瀬]
 
 
『あったよ。』

なにも考えずゆう。


なんかもう、どうでもなれって感じ。

『麻友ちゃんに
“奏を私にちょうだい”
ってゆわれた。』


「麻友と会ったんか。」


『会ったよ〜
遊希のゆうてるあの日に』

⏰:09/04/01 13:07 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#398 [七瀬]
 
「やっぱり…
いきなり走りだした思たけど、やっぱり奏の家、行っとってんな。」


『そう!ご名答!!
遊希するどーい。』

笑って、おどけて見せる。

『そして…家から出てきた。麻友ちゃんが。

でも、奏をちょうだいってゆわれたのは、その日じゃない。

ついさっき。』

⏰:09/04/01 13:13 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#399 [七瀬]
 
 
遊希は小さくため息をしながら言った。

「だから、ゆうたやんけ。
俺が行ったるって…」


ほんま、そうすれば良かった。

遊希に頼んでれば、
あんなシーン見なくて済んだのに。


アホや、と後悔する。
 

⏰:09/04/01 13:17 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#400 [七瀬]
 
 
「お前…」

今度は大きくため息をつく遊希。

「だから、言いたくなかってん。

絶対泣くから…」


『ほんっ…ま、聞かんかったら…良かった。
私…アホやな…。』


なぜか、こんな時になって泣けてくる。

⏰:09/04/01 13:30 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#401 [我輩は匿名である]
>>325-500

⏰:09/04/01 16:41 📱:D705i 🆔:1QngmUEY


#402 [七瀬]
 
匿名さん


ありがとう(^3^)/
 

⏰:09/04/01 23:25 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#403 [七瀬]
 
 
「頼む、お願いや。
頼むから泣かんといて。」


こんなとこで、泣いたって遊希を困らせるだけ。

『ご…ごめん。
遊希に…グズッ迷惑かけて、ウゥ〜…ほんま悪いと思てる。』

必死に涙を堪える。


…はずが泣き止まず。
 

⏰:09/04/01 23:30 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#404 [七瀬]
 
 
「ちゃう!
俺が、泣くなゆうたのは、迷惑やからとかじゃなくって…

…まつりに、そんな顔させたくなかったから。」


『遊希、優しい〜…』

遊希の優しい言葉にさらに涙が止まらず、

遊希を見た、その瞬間に


涙は止まっていた。

⏰:09/04/01 23:34 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#405 [七瀬]
 
だって


あまりにも、遊希が赤い顔してたから。

『遊…希?』


「だから、悲しい顔せんといて。」

そんな顔しないでは、
こっちが言いたいよ。

そんな恥ずかしそうに言わんといて。

私も赤くなってしまう。

⏰:09/04/01 23:38 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#406 [七瀬]
 
 
「ってか、まつり…」


『えっ、なに!?』


遊希の手がスッと伸びてくる。

そして私の頬に優しく触れた。


「髪、食ってる。」

そう言って、私の口に入っていた横髪を払った。

⏰:09/04/01 23:42 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#407 [七瀬]
 
 
手を伸ばす時の遊希の真っすぐな瞳と、
髪を払い終えた後の笑った顔が
より私の頬を赤く染めた。


『…ありがとう。』

やばい意識しすぎだ、私。


「おう。」

そうやって
目線を再び、私の頬から目へと戻した遊希。

⏰:09/04/01 23:47 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#408 [七瀬]
 
また目が合う。


ドクンドクン
ドクンドクン…

心臓は破裂寸前。



「…んな顔すんな。」

遊希が目を逸らした。


『じゃあ…どんな顔すればいいんよ。』

私も顔を横に逸らした。

⏰:09/04/02 01:35 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#409 [七瀬]
 
 
「そうやな…
泣きもせず、悲しい顔もせず、
そんな、こっちが恥ずかしくなるような顔もせず…」


“こっちが恥ずかしくなるような顔”
は遊希が先にしたんやろ。

そう思ったけれども、黙って遊希の言葉を聞く。



「笑っといて。」
 

⏰:09/04/02 01:40 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#410 [七瀬]
 
フイと後ろを向く。

遊希と私の背中が向かい合う状態になった。


「ただ、笑っといてくれたらええ。
いつものお前みたいに、
キャーキャーうるさく騒いでて。」

“キャーキャー”って…

大きなお世話。


だけど、うれしかった。
 

⏰:09/04/02 01:47 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#411 [七瀬]
 
 
私が遊希に背を向けたのは

泣いてるのを隠すため。


だって

“泣かんといて”って
ゆわれたばっかやもん…



でもね、遊希。

私、悲しくて泣いてるんとちゃうよ?
 

⏰:09/04/02 01:52 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#412 [七瀬]
 
 
これは、うれし涙。

幸せで泣いてるの。

なんて、やっぱり変かな。


それでもいい。

矛盾してても
人に笑われても…

今だけはいいと思えるの。
 
 
それはやっぱり、

君のおかげ。

⏰:09/04/02 01:58 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#413 [七瀬]
 
 
小刻みに肩が震え、
消え入りそうな嗚咽が漏れはじめる。


君は、私の考えてること分かってたみたい。


「そんな、涙やったら
たまにはええかもな。」

そう笑った。

後ろを向いてるから、見たわけじゃないけれど、

確かに笑った。

⏰:09/04/02 02:03 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#414 []
>>1-100
>>101-200
>>200-300
>>300-400
>>400-500

⏰:09/04/02 07:44 📱:P905i 🆔:Mef.VGG.


#415 [七瀬]
 
さん


ありがとうヾ(=^▽^=)ノ
 

⏰:09/04/02 08:57 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#416 [七瀬]
 
 
 
『いらっしゃい!』

「1000円の二つ。」

焼きたてホカホカのカステラを、袋に詰めてゆく。


『はい、1000円の二つ。
おおきに〜!!』


あんなに降っていた雨が
奇跡的に止んで

カステラには長蛇の列が
出来ていた。

⏰:09/04/02 09:01 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#417 [七瀬]
 
 
あまり星の見えない大阪。

だけど祭は無数ライトと
人々の目の輝きでキラキラしてる。



雨が降らなかったら
ほんまは、もっと売れてたけれど…


「500円の一つ下さい。」

小さな5歳くらいの女の子が立っていた。

⏰:09/04/02 09:06 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#418 [七瀬]
 
はぁーいと返事しながら見ると、カステラは一つしかなくて遊希が焼いている最中だった。


遊希は汗だくだった。

と言っても当たり前かな。


だって、
この8月に、こんな機械の前にいて汗を流さない人はいない。

少し離れたところにおる私も、その熱気は伝わってくる。

⏰:09/04/02 09:10 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#419 [七瀬]
 
機械とは、もちろんカステラを焼く機械。


大きなフタがあって、
それを開けると、小さな穴がたくさん規則的に並んでいる。

その穴に粉を入れて、
フタを閉める。

そして、一定時間待って
再び開けると、


丸くて甘いカステラの完成とゆうわけ。
 

⏰:09/04/02 09:15 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#420 [七瀬]
でも、カステラを焼くのは難しい。


粉を入れる量。

たくさんある穴に、すべてを同じ量にするのは、考えただけでも…


フタを開くタイミングも、大切。

早すぎると、中が生で冷たかったりする。

中には、生が好きで、
わざと生にしてとゆう人もおるけど、ごくまれだ。

⏰:09/04/02 09:19 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#421 [七瀬]
 
だから商品にならない。


かといって、焼きすぎてももちろんダメ。

このタイミングが一番、
大切で難しい。



ポンポンポンポンと
軽やかに穴からカステラを取り出してゆく遊希。


「なにしてんねん。」
 

⏰:09/04/02 09:32 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#422 [七瀬]
 
『へ!?』


「“へ”ちゃうわ。
はよ入れぇや。」

『ああ、ごめん。』


私がボンヤリしてる間に、焼き上がって
湯気の出ているカステラたち。


「お、毎年、来てくれる子やんな。」
 

⏰:09/04/02 09:36 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#423 [七瀬]
 
遊希が女の子に笑いかけると、その子は笑った。


「この子、毎年カステラ買いに来てくれんねん。」

うれしそうな遊希。


「いつもは、お父さんと一緒やのに…お父さんは?」

「そこ。」

女の子の指差す。

その先に目を向けると、男性が一人、軽く会釈した。

⏰:09/04/02 09:41 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#424 [七瀬]
「はい。」

私が、急いで詰めてる間に遊希は残ってたカステラを一つ、女の子の手に握らせた。

「ありがと。」

カステラを口一杯に頬張る女の子に遊希は


「こちらこそ、いつもありがとぉな。
また来年も来てな。」

と言った。

⏰:09/04/02 09:46 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#425 [七瀬]
 
 
女の子と、バイバイした後も列は続く。

遊希の汗も私の手も止まらない。

たくさんあったペットボトルも空に近づいてゆく。


3時間近く、この状況。

さすがに疲れた…


体力も限界に達する

その瞬間…

⏰:09/04/02 09:54 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#426 [七瀬]
 
 
 
 
ヒュー、ドーン!!


花火が上がった。

人々の目が空へと向かう。


うそ…っ

今日は、中止なんじゃ…


「お!」

遊希も店から乗り出した。

⏰:09/04/02 12:32 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#427 [七瀬]
「今年は天神祭に負けへんくらい、きれぇや。」

遊希のゆう通り、とても綺麗な花火だった。


今、思うと



この時から、
また私の花火は上がり始めていたのかもしれない。


以前よりも、激しさを増した恋花火が…
 

⏰:09/04/02 12:37 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#428 [七瀬]
 
 
パチパチパチパチ…

最後の取りを飾った、大きな花火も散っていった。


花火が終わると、
客数はより一層、増えて
詰める作業が続いた。



「お疲れ。」

そして、祭が終わる頃に
やってくるのは

いつもの幸せな時間。

⏰:09/04/02 21:56 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#429 [七瀬]
 
 
『お疲れ〜…フフ。』


「なに笑ってんねん。
薄気味悪い。」


『いや〜、遊希はええパパになるなあ思て。』


「なんやそれ。」

缶ジュースをクイッと飲みながら遊希は言った。
 
 

⏰:09/04/02 21:59 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#430 [七瀬]
 
『だって、さっきの女の子、めっちゃ遊希に懐いてたもん。
どっちがお父さんか分からんかったわ。』


「俺、そんな老けてる?」


『老けてる。』

そんな冗談を言い合う。


こういう、ほのぼのしたのっていいな。
 

⏰:09/04/02 22:03 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#431 [七瀬]
 
 
「初めてあの子が来たの時は、3年前でなあ…」

楽しそうに話す遊希に耳を傾ける。


「最初は、あのお父さんに肩車されて、買いに来てくれてん。
めっちゃ小さくって…
まあ、今もちっちゃいけどな。

でも一応、小学1年やねんで。
幼稚園児みたいやろ。」
 

⏰:09/04/02 22:08 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#432 [七瀬]
 
 
ほんとお父さんみたい。


「で、それから毎年、買いに来てくれんねん。
今年はおっきなってて、ビックリしたわ。
子供の成長って、ほんま早いなあ。」

しみじみする遊希。


「…でなあ、
将来の夢が俺と結婚することやねんて〜!
毎年ゆうてくれんねん。」

⏰:09/04/02 22:12 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#433 [七瀬]
 
『ふーん…』

あまりに楽しそうにゆうから、少し嫉妬してしまう。

相手は小学生なのに、
バカみたい。


それに…


「なんや、まつり。
ブスッとして……

もしかしてヤキモチ焼いてんのか。」

そう私を茶化す遊希。

⏰:09/04/02 22:16 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#434 [七瀬]
 
 
「なんてな〜冗談…」


『…焼いてるよ。』


上目遣いに見た遊希は、
あっけらかんとしている。






「アカンで、まつり。」
 
 

⏰:09/04/02 22:19 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#435 [七瀬]
 
そうだよね。


遊希を見ていた目は
握りしめてる空になった缶へと移動する。


「まつりには、奏がおる。やり直すんやろ?」


『…ん。』

そうだよ、私には奏がいる。

だから嫉妬なんてする権利なんてないんだよ…

⏰:09/04/02 22:23 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#436 [七瀬]
 
 
「一回、反対したけど、
やっぱり奏とやり直し。

あいつはええヤツや。」


…遊希。

「麻友のこともあるし、
つらいかもしれんけど…」


『うん!分かってる!!』

遊希の言葉を遮る。
 

⏰:09/04/02 22:26 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#437 [七瀬]
『私には、奏しかおらんもん!頑張るよ。

ってゆうか、なに勘違いしてんのよ〜、遊希。
冗談やで、冗談!!

焼くわけないやん、ヤキモチなんて。』


痛い…

胸がチクチクする。


それでも、笑っていないと遊希との今の関係が崩れてしまうんじゃないか
って思ったから。

⏰:09/04/02 22:31 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#438 [七瀬]
 
 
「ごめんごめん!!」

遊希が、笑ってくれたから少し安心した。


「もうそろそろ行こか。」

缶をゴミ箱に投げ捨て、
立ち上がる。



なにゆうてんねん…

自分で自分が嫌になる。
 

⏰:09/04/02 22:34 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#439 [七瀬]
 
私は奏が好きなんやろ?

奏しかおらんのやろ?


なのに、
なに揺らいでんのよ…


少し前を歩く遊希を
チラッと見る。


でも…
 


遊希がわからない。
 

⏰:09/04/02 23:21 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#440 [七瀬]
 
奏と別れろ
ってあんなにすごい剣幕でゆうくせに


急に、やり直せなんて…


わからないよ。
 
 
 
遊希も

自分自身も…
 
 
どうすればええんか…
 

⏰:09/04/02 23:25 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#441 [七瀬]
 
 
「まつり。」

遊希の呼ぶ声。


「行っといで。」

そう遊希がゆう先には




奏と麻友ちゃん。


遊希を見ると、笑ってる。 

⏰:09/04/02 23:28 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#442 [七瀬]
 
ああ、そうやな。


やっぱり私の居場所は

私の愛しい人は


奏なんだ。


遊希が応援してくれてるんだから頑張らないと。


行かないと…
 
 
けれども、足は動かない。 

⏰:09/04/02 23:31 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#443 [七瀬]
 
 
「どしたんや…まつり?」


やっぱり怖い。

奏と別れるかもしれない恐怖じゃなくって


このままでええんやろか

という、焦りの交じった恐怖。


やだ…

訴えるように遊希を見る。

⏰:09/04/02 23:34 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#444 [七瀬]
 
助けて…



「まつりっ!!」


前から、麻友ちゃんが手を振ってくる。

仕方なく、引きつった笑顔を向ける。


奏は…


目を逸らす。
 

⏰:09/04/02 23:37 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#445 [七瀬]
 
 
「どぉしたのぉ?
そんなところに、いないでこっちおいでよっ!」

麻友ちゃんのやけに高い声が耳をキンキンさせる。


「ちょっと、麻友。」

「なにー?遊希。」


「ちょっと、こっち来い。」

「えー?どしたんよ。
そんな怖ーい顔して。」
 

⏰:09/04/02 23:42 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#446 [七瀬]
 
 
「ええから。」


「もぉー、
わかったわかった。」

うんざりしたように
麻友ちゃんはこっちへ来た。



「じゃあ、頑張れよ。」

遊希は小さくそう言って、私を睨む麻友ちゃんを連れて消えていった。
 

⏰:09/04/02 23:45 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#447 [七瀬]
 
 
「まつり、久ぶりやな。」

しばらくして、奏が重たい口取りで言った。


「こっち来て。」


ちょこんと、奏の隣に座った。


その距離は
近すぎず、遠すぎず…

あまりにも、微妙な距離で気まずさは増すばかり。

⏰:09/04/02 23:58 📱:N703iD 🆔:opfWhb72


#448 [七瀬]
 
 
「あのな…」

長い長い沈黙の末、
奏は口を開く。


「昼間のことやねんけど…」


ドクン

心臓が飛び跳ねる。


「まつり、目合ったよな。

その…麻友と…」
 

⏰:09/04/03 00:03 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#449 [七瀬]
 
言葉を濁らす奏。


『…合ったよ。

奏と麻友ちゃんがキスしてるとき。』

奏が一番言いたいことを、先に言ってやった。


また黙る奏に少し苛立つ。



「…ごめん!!」
 

⏰:09/04/03 00:06 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#450 [七瀬]
 
必死に頭を下げる奏。


『知ってたよ、私。

キスしてるとこ
見る前から…』

それに反応して、
顔を上げる奏。


「ほんま…ごめんな。

ってゆうても許してもらえるなんて思ってない。」


震える声。

⏰:09/04/03 00:11 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#451 [七瀬]
 
 


香水の匂い

サラサラとした髪…


奏のすべてが懐かしい。


だけど前みたいに
“愛しい”と思えない。



『…許す。』
 

⏰:09/04/03 00:24 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#452 [七瀬]
 
 
バッと顔を上げて、
私を見る奏の目は、大きく見開いている。


『許すけど


……忘れない。』

その目を強く見返す。


「それは…ヨリ戻してくれるってこと?」
 

⏰:09/04/03 00:27 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#453 [七瀬]
 
コクリと頷く。


「まつり、ありがとぉ。」

泣きそうな奏。


『私も悪いし…
お互い様や!!』

久々に見る奏の笑い顔は、思ったより心地よかった。



こうして、奏との再スタートが始まった。
 

⏰:09/04/03 00:32 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#454 [七瀬]
 
 
 
「あーあ…
良かったの?遊希。」


「まつりが幸せなら、
それでええ。」


「私は納得出来ないけど…」


「もう、なんもすんなよ、麻友。

これでええんや…」
 
 

⏰:09/04/03 00:35 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#455 [七瀬]
 
 
 
奏とヨリを戻して、
もう2ヶ月。



私たちの仲は




最低最悪だった。
 
 
 
 

⏰:09/04/03 00:44 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#456 [七瀬]
 
 
ちょっとしたことで
ケンカばかりしている。


そして
一番、私の頭を悩ませている一言。

「じゃあハラダさんのとこ行けば?」


ほら、また言った。

なにか気に食わないことがあるとこれ。

口癖になってしまってる。

⏰:09/04/03 02:44 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#457 [七瀬]
 
そんな奏に向かっての一言。

『もう別れるっ!』

これもまた、口癖になってしまっている。


その後、奏が謝ってくる。

お決まりのパターン。


最初の1ヶ月は良かった。 
お互い、ヨリを戻したばかりで気を遣い合っていた。

⏰:09/04/03 03:06 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#458 [七瀬]
 
でも、
段々と溝が大きくなっていって…


この一週間は、この繰り返し。


やっぱり、奏は気にしてるんだ


原田さんのこと。
 
本人は“気にしてないよ”って言っても、ほんまは心の奥底では気にしてる。

⏰:09/04/03 03:09 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#459 [七瀬]
 
それは私も同じで


麻友ちゃんのことを
いくら

“お互い様”と思ってても

“許す”と言ったことでも

終わったことでも…


責めたくなる。

どうして?

って問い詰めたくなる。

⏰:09/04/03 03:13 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#460 [七瀬]
 
 
でも、
そうするとキリがない。

いつまでも終わらない。


分かってるのに、
私たちはぶつかり合う。



はぁ

ため息をつく。


今、奏は雑誌を読んでて、私はテレビを見ている。

⏰:09/04/03 03:17 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#461 [七瀬]
 
二人の間には会話はなく

ただ、テレビの音と
紙がめくれるパラパラとゆう音が部屋に響く。



「まつり…さっきはごめん」


『いいよ。
こっちこそ、ごめんね?』


こうゆうことにも、慣れてしまった。
 

⏰:09/04/03 03:21 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#462 [七瀬]
 
こんなことに、慣れたいわけじゃない。


前みたいに、笑顔の二人はもうここにはいない。


疲れた…

最近は、一緒におるだけでその空気に参ってしまう。

まさに最低最悪。



『…なあ、奏。』
 

⏰:09/04/03 03:25 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#463 [七瀬]
 
「ん?」


『…私、ほんま原田さんとは、なんもないよ。

確かに私の初恋の人やし、あの時、奏を放って原田さんのとこ行ったのも事実やけど、今は…』


「分かってる。」


『じゃあ、

…もうあんなこと、ゆわんといて。』

⏰:09/04/03 14:54 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#464 [七瀬]
 
「…ん。
じゃあ、まつりも言わんといて、
“別れる”なんて。」

『言わへんよ。』


「俺から離れんとって。」

『…離れへんよ。』


大丈夫。
大丈夫大丈夫…

私は奏と上手くやっていける。

⏰:09/04/03 14:57 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#465 [七瀬]
 
そう自分に言い聞かせる。



「約束。」

そう言って、小指を絡める。

少し心が軽くなった。


『指きりげんまん。
嘘ついたら、針千本飲ーますっ!!』
 

久しぶりに笑った。

⏰:09/04/03 15:05 📱:N703iD 🆔:aggujxUQ


#466 [七瀬]
 
『ゆーび、切った!!』

二人の声が重なって、
唇も重なる。





でも、
この“約束”は、すぐに壊れてしまうことになる。


それも私のせいで。


奏、ほんまごめん。
 

⏰:09/04/05 00:27 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#467 [七瀬]
 
 
 
あれから、順調に交際は続いた。


『今から行っていいー?』

「ええよ。
おいで、まつり。」

電話越しに聞こえる、
奏の声に安心する。


『うん。
今から駅向かうわ。
コンビニ寄るけど、なんかいるー?』

⏰:09/04/05 00:33 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#468 [七瀬]
 
「うーん、そぉやなあ。」

少し間が開いて、
また奏の声が聞こえる。


「ビールと、

そやな…なんかエクレアとかシュークリームとか、
甘いやつ、お願い!!」


『え?
奏…甘いのん、食べへんやん。』


奏は、甘いもんが苦手。

⏰:09/04/05 00:37 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#469 [七瀬]
 
特に、生クリームが
ダメらしい。


「うん、俺が食べるんじゃなくって遊希が…
ほらアイツ、めっちゃ甘党やん?
それに酒飲まれへんし。」

『え、遊希おんの?』

「うん。今、俺の隣に。」


『ふーん、わかった。
とりあえず買って行くわ。』

⏰:09/04/05 00:41 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#470 [七瀬]
 
遊希に会うのは久しぶり。


大学の夏休みが終わる、
3日前の祭で会った以来。

ってゆうか、
遊希とは祭以外では会うことはない。

退院した後に遊希が急に私の家に来た、
あの日以外には会ったことない。


長いこと、遊希とおるけどプライベートなことは
あまりわからない。

⏰:09/04/05 00:47 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#471 [七瀬]
 
でも、仕方ない。


前にもゆうたけど、
“神野商会”とはそうゆうとこ。

ただの仕事仲間でしかない。
相手のことに、一々干渉しない。

お互いなにも知らんでいい。


“祭”とは、そうゆうとこ。

⏰:09/04/05 00:51 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#472 [七瀬]
 
それが暗黙の了解であり、掟。


そう思うと、昔の私は掟、破り過ぎやろ。笑

プライベートも、なにもなく質問攻めやったもん。



でも大きくなるに連れ、
そうゆうことが分かってくる。

自然と、体に染み付いてくる。
 

⏰:09/04/05 00:55 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#473 [七瀬]
 
 
 
そして、


そのたびに





遊希が遠くなってゆく
気がして
ひしひしと胸を締め付けた。
 
 
 

⏰:09/04/05 00:57 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#474 [七瀬]
 
 
ピンポーン


「開いてるー。」

中からそう声が聞こえたから、ドアを開けた。


「まつり、ありがとう。
重かったやろ?」

奏がビニール袋を持ってくれたその時


「おう。」
 

⏰:09/04/05 01:00 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#475 [七瀬]
 
下から声が聞こえた。


『遊希…』


「まつり、久しぶりやなっ」

そうやって、白い歯を見せて笑った。

そのおかげで、
少しだけ緊張がほぐれた。


『ほんま久々やな。』
 
「うん、やな。」
 

⏰:09/04/05 01:03 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#476 [七瀬]
 
『あ、そうや。これ…』

そういって、
袋に入ったシュークリームを渡す。


「サンキュー。
なんか口が寂しかってん」

ルンルンしながら
あさる遊希に、


少しホッとする。


良かった。
いつもの遊希や。

⏰:09/04/05 22:46 📱:N703iD 🆔:6MvmfN.s


#477 [七瀬]
 
 
だって、
あの奏とヨリを戻した日から、
遊希とは、なんか気まずくって…

それは多分、

応援してくれてる遊希と
なぜか苦しい私の気持ちが反比例してたから。


遊希の気遣いが
私は嫌で

遊希の“良かったな”
って笑う顔が息苦しかった

⏰:09/04/06 01:44 📱:N703iD 🆔:YoigC51Q


#478 [七瀬]
 
 
「まーつり、乾杯しよ!!」


奏がビール
私はチューハイ、
遊希はコーラ片手に乾杯する。


チンッ

グラスの響く音が
気持ち良く部屋に響く。


『かんぱーいっ』

3人の声も元気良く響く。

⏰:09/04/06 01:49 📱:N703iD 🆔:YoigC51Q


#479 [七瀬]
 
 
「あれ?
もう酒無くなかったわ。」

空になった缶を手に
物足りなそうな奏。

『じゃあ、
私、買ってくるわ…』

そう立ち上がろうとした
瞬間に

「いいよ。
もう外暗いし、俺が行ってくるわ。」

奏は言った。

⏰:09/04/08 23:55 📱:N703iD 🆔:JtNg4n8U


#480 [七瀬]
 
「じゃっ、行ってくるわー」

『いってらっしゃい。』


近所のコンビニへと向かう奏を見送った後、
元の場所に腰を下ろす。

「あいつ、
ほんま酒好きやな。」

ゴロゴロ寝転びながら
遊希。


『そぉゆう遊希は…』

横目で遊希を見る。

⏰:09/04/08 23:59 📱:N703iD 🆔:JtNg4n8U


#481 [七瀬]
 
『ほんま、
甘いもん好きやなあ。』

少し呆れながら、
でも、からかうような声。


「うっさいわ!!」

うつむきながら、
抵抗する遊希の耳は赤みを帯びていた。


そんな遊希が、面白くってついクスクス笑ってしまった。
 

⏰:09/04/09 00:03 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#482 [七瀬]
 
「笑うなっ!」

そうゆわれると、
余計おかしなる。


少々、酔っていたのもあって笑いが止まらなかった。


が、次の遊希の言葉で一気に笑いは冷めてしまう。



「…で、奏とはどうなんや」 
 

⏰:09/04/09 00:07 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#483 [七瀬]
『どうって…』


「見た感じ、上手くいってるみたいやけど?」


『まあ…いってるけど。』


「なんや、
その浮かない顔は。」



遊希が、
そんなこと聞くからやん。

そう言いたかった。
 

⏰:09/04/09 06:49 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#484 [七瀬]
 
「まあ、ええわ。

…で?」


『なによ。』


「だから、麻友とは?
あれからどんな感じなん?」


麻友ちゃん…

これはこれで
答えられない。
 

⏰:09/04/09 06:52 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#485 [七瀬]
 
遊希の言う“あれから”
とは、もちろん奏とヨリを戻した日。


あれから3ヶ月が経とうとしている。

麻友ちゃんとは、
一切連絡をとっていない。


どこでなにをしてんのか…


奏のことも、
どう思ってるんやろか。
 
それも謎のまま。

⏰:09/04/09 06:58 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#486 [七瀬]
 
 
カンカンカンカン…

階段を上る音が
段々、大きくなってきた。


「…またなんかあったら、俺にゆいや。」


カチャ


『あ…奏、おかえり』
 
 
「ただいま。」

⏰:09/04/09 22:01 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#487 [七瀬]
 
お酒が入っているせいか、奏の頬は赤くなっていた。


「もっかい飲み直そー!!」

そう言って、
持っている袋を上げて見せた。

中にはぎっしりと缶が
詰まっている。


はぁ

横からため息が。
 

⏰:09/04/09 22:05 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#488 [七瀬]
 
 
『ねえ〜ねぇねぇねぇー!ねぇってば!!』


「ん?」

振り向いた奏は


…完全に出来上がってた。


『飲み過ぎだって!!
もうそろそろ…』


「まだいーじゃ〜ん。」
 

⏰:09/04/09 22:09 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#489 [七瀬]
 
困ったように
遊希をチラッと見る。


『なんとかしてよ〜』

小さな声と目線で訴える。


しょうがないなあ
とでもゆうように重い腰を上げた遊希。

「ほら、奏!」


肩を叩く。
 

⏰:09/04/09 22:13 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#490 [七瀬]
 
「遅なったら電車なくなるし、
外もこれ以上、暗なったらまつりも女やし、危ないやろ。
今日はこの辺でお開きにしよーや、な?」


奏は納得していない様子だったけど、渋々頷いた。


「よし、じゃあ帰ろか!
まつり、送るわ。」


『うん。』
 

⏰:09/04/09 22:21 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#491 [七瀬]
 
ん〜、
やっと解放されるー!!


奏はアルコールが入ると
いつものしっかり者で頼れるイメージの奏が

…うーん、なんとゆうか
その逆になるって感じ、


それに、めっちゃ飲む!!

お酒は嫌いやないけど
強い方でもない私はいつもクタクタ。
 

⏰:09/04/09 23:17 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#492 [七瀬]
とりあえず、
酒から解放されるんや

とゆう解放感に浸りながらドア付近まで足を運ぶ。


「じゃあ帰るわな、奏。」

『おやすみ〜またあし…』


「待って!」
 
奏の引き止める声に
2人で振り向く。


「どしたんや。」
 

⏰:09/04/09 23:21 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#493 [七瀬]
 
 
「別に〜帰らなくても〜」

奏は呂律の回らない口調。


「まつり、今日泊まりぃや」


『え、でも…』

「明日は学校ないやろ?」


『まあ…
でも!その…』

「じゃあえーやん。
決定!!」

⏰:09/04/09 23:26 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#494 [七瀬]
 
おろおろしながら
遊希を見る。

「じゃー、俺は帰るわ。」


チラッと私を見て、
すたすたと階段を降りていった。


私を置いて。


「ま〜つりぃ。」

取り残された私には奏の声が聞こえただけだった。
 

⏰:09/04/09 23:39 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#495 [七瀬]
 
 
「なあ〜」

私を呼ぶ。


「好きやで、まつり。」

『んんっ…』


いつもの優しいキスではなく、荒っぽい。


こんなに余裕のない奏、
初めて。
 

⏰:09/04/09 23:48 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#496 [七瀬]
 
 
そのままベッドへ。




私は、奏に抱かれながら
遊希のことを考えてた。




時折聞こえる奏の

“まつり、離れんな”
とゆう言葉を耳に… 
 
 

⏰:09/04/09 23:53 📱:N703iD 🆔:bh4XHvt6


#497 [七瀬]
 
 
 
『う〜ん…』


ムクッと体を起こすと
太陽の光いっぱい差し込んでいて、目を上手く開けられない。

ふと、下を見ると
奏が静かな寝息を立てて
眠っている。


あ…そうか。

昨日は泊まったんだ…
 

⏰:09/04/10 20:42 📱:N703iD 🆔:M6Uf2VzY


#498 [七瀬]
 
 
ズキン

『…いった…〜』

立ち上がろうとすると
頭が痛む。


お酒の飲み過ぎだろうか。


それとも…




「…んん〜まつり?」
 

⏰:09/04/10 20:45 📱:N703iD 🆔:M6Uf2VzY


#499 [七瀬]
 
『奏…おはよ。』 


「おはよ…痛っ」

頭を抱えて、
そうゆう奏に冷蔵庫から
水を取出し注いであげる。


「ありがとう。」

そう言って、一気に飲み干す。

それを見て、
私もコップを口へ運んだ。 

⏰:09/04/10 20:49 📱:N703iD 🆔:M6Uf2VzY


#500 [七瀬]
 
ズキンズキン…

まだ頭は痛むけれど、
傍にある服を着始める。


「帰んの?」


『うん、
ちょっと疲れたし…』

「もぉちょっとおりぃや。」


『…』
 
 

⏰:09/04/10 20:53 📱:N703iD 🆔:M6Uf2VzY


#501 [七瀬]
「お願い。
もうちょっといて?」

黙っている私を見て、
手を合わせて言った。


もう…帰りたい。

『…ごめんね。』


「そっか。
なんか俺の方こそ、ごめんな。
しんどいのに、ワガママゆうて。」

淋しそうな笑顔に
少し後悔する。

⏰:09/04/11 01:30 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#502 [我輩は匿名である]
>>1-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:09/04/11 08:02 📱:F905i 🆔:CY80YEAQ


#503 [我輩は匿名である]
>>500-600

⏰:09/04/11 08:13 📱:F905i 🆔:CY80YEAQ


#504 [七瀬]
匿名さん


ありがとう(*´∀`*)
 
 

⏰:09/04/11 10:18 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#505 [七瀬]
  
 
『ううん、
じゃ、またね』


奏の家を後にした。



外の空気が清々しい。




ああ…そうか。
 
 

⏰:09/04/11 10:21 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#506 [七瀬]
 
 
私、



酒から解放されたいんやなくって、







奏から解放されたかったんや…
 
 

⏰:09/04/11 10:23 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#507 [七瀬]
 
 
『ただいま。』


「おかえりー。」 


家へ入った瞬間、
目を見開く。

その訳は
声の主がお母さんじゃなかったから。


「まつり、久しぶり。」

『麻友ちゃん…』
 

⏰:09/04/11 11:13 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#508 [七瀬]
 
「朝帰り?
奏と上手くやってるみたいやな。」


『…どうしたの?
私になにか用?』

「そんなこと言いなやぁ。せっかく来てくれたんやから。
ね、麻友。」

台所からお母さんが出てきた。


「おばさん。
いいんですよー。」

⏰:09/04/11 11:17 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#509 [七瀬]
 
 
私は無言で部屋へ戻った。





「ごめんな、麻友。
あの子、なにをあんなに
つんけんしてんのか…」


「いいんですよ。
ほんまにいいんです。
ほんまに…ね。」
 
 
 

⏰:09/04/11 11:20 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#510 [七瀬]
 
なに考えてんの?

麻友ちゃん…



机の上で、ノートを開くものの頭に入らない。


なんだか、
今日はついてないかも。



夕方になって
私のイライラはもっと増すことになる。
 

⏰:09/04/11 11:25 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#511 [七瀬]
 
 
もう夕飯かな。

時計は6時を指していた。


『お母さん、
今日はご飯な…に』

って!
まだ麻友ちゃんいるの!?


「ああ、
今日は私が作ってん。
はよ座って食べ。」
 

⏰:09/04/11 13:34 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#512 [七瀬]
 
ニコニコ笑う麻友ちゃん。

「今日はまつりの好きなハンバーグやで。」

その笑顔に食欲を一気になくす。


「麻友は、ほんますごいなあ。
料理出来て、
気もよく利くし…
ええ嫁さんになるわ。」

お母さんは口をモグモグと動かしながら絶賛している。

⏰:09/04/11 13:37 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#513 [七瀬]
その、“ええ嫁さん”は
従姉妹の彼氏と浮気してたんです。

そうキッチンに立っている“ええ嫁さん”を見た。


「ほーんま誰かさんとは
大違いや。」

そうやって、お母さんが私を横目で見たのは言うまでもない。


食欲はすっかり無くなったはずなのに、肉の良い匂いが鼻を刺激して、またお腹がグーグー鳴りだした。

⏰:09/04/11 13:43 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#514 [七瀬]
 
「はよ食べぇや。」

変なプライドが邪魔してたけど、食欲には適わず…

お母さんにも促され、イスに座った。


見た目は完璧なハンバーグを口に含んだ。



まっ…負けた。

悔しいけど……美味しい。


味も完璧だった。

⏰:09/04/11 13:47 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#515 [七瀬]
 
「どう?味の方は…」


『完璧です。』


「フフ、ありがとぉ。」


ええ嫁なりますなぁ、
こりゃ。

うん、なるわ。


やっぱり
麻友ちゃんは完璧な女子大生だった。

⏰:09/04/11 13:51 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#516 [七瀬]
 
 
『ごちそうさま。
おいしかったあ〜!!』

私のお腹は満たされた。


「じゃあ、私もうそろそろ帰ります。」

洗い物を済ませた麻友ちゃんはタオルで手を拭きながら言った。



「あら?もう帰るの?」

少し残念そうなお母さん。

⏰:09/04/11 13:54 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#517 [七瀬]
 
「はい。
明日も早いんで…」

「そう…
なんか色々ありがとねぇ。あ、そうだ!
まつり、駅まで送ってあげなさい。」


『ええーっ!?』

やだやだ!
いくら麻友ちゃんが
美味しいハンバーグを作ってくれても…

本性は……
 

⏰:09/04/11 13:59 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#518 [七瀬]
 
『いやっ、その…
食べたばっかやし…』

「なにゆうてんのよ。
いっつも夕飯食べた後は
“太る太る!”
って騒いでるやんか。」


確かに…そぉやけど……


「運動がてら、歩いて麻友を駅まで送ってあげたらえーやん。」

同意を求めるように
麻友ちゃんを見るお母さん。

⏰:09/04/11 14:04 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#519 [七瀬]
 
「そうやなあ。
じゃっお願いしよっかな」

ニコッと笑う麻友ちゃん。



やはり麻友ちゃんは
一枚上手だ。




こうして麻友ちゃんを
送るハメになってしまった。
 

⏰:09/04/11 14:31 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#520 [七瀬]
 
 
『…なあ。』

家を出てから、
驚くほどなにも話さない
麻友ちゃん。

ほんっと分からへん!
なに考えてんのやら…


「なに。」

たった一言。



…なんか怒ってはります? 

⏰:09/04/11 14:35 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#521 [七瀬]
 
 
う〜ん、
やっぱり奏のことか…


『…あの〜、え〜っとぉ…なんかごめん…』

「なにが?」


『……奏のこと。』


「別に。」 
 

⏰:09/04/11 14:38 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#522 [七瀬]
 
また沈黙が続く。



とゆうより!

なんで私が謝ってるわけ!?


浮気したのは麻友ちゃんやんか!!


後になってから気付く
自分も自分やけど…

ああ〜っ!

ムシャクシャする。

⏰:09/04/11 14:41 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#523 [七瀬]
 
「うまくいってるの?
…奏と。」


遊希と同じこと聞いてくるなぁ。

「ま、朝帰りするくらいやから、うまくいってるんやろなあ。」


また遊希と似たようなこと言う。


『…』
 
 

⏰:09/04/11 14:45 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#524 [七瀬]
 
やっぱりなにも
答えられへん私。


「なんで黙ってるん?」

少し声が大きくなった。

「うまくいってるんやったら、そぉ言えば?
それともなに?
気ぃ遣ってるわけ、私に。そぉゆうとこ、ほんまムカつくっ!!」


『別に
そうゆうわけじゃ…』
 

⏰:09/04/11 14:49 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#525 [七瀬]
 
思わず、言葉を飲み込んだ。


だって…



麻友ちゃんが泣いてたから。


『まっ麻友ちゃん!?』


「なんで…なんよ。」

弱々しく響く声。
 

⏰:09/04/11 14:51 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#526 [七瀬]
 
 
いつも強気な麻友ちゃんが泣いてる。


「私…っ、
ほんまに好きやねん…
そ…うが……」


途切れ途切れ聞こえる
“奏”の名前。


麻友ちゃんが、こんなに想っている奏を

私は今日“解放されたい”と思った。

⏰:09/04/11 15:05 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#527 [七瀬]
 
私は…なんて愚か者なんだろう。



こんなに好きでいてくれる人がいても
私を選んで愛してくれてる“奏”がいるのに…


幸せ者のはずなのに。



私は愚か者。
 
 

⏰:09/04/11 15:10 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#528 [七瀬]
 
 
だって


私が愛してほしい人は


奏じゃないから。




私の愛したい人は



きっと…
 
 

⏰:09/04/11 15:12 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#529 [七瀬]
 
 
 
 
『別れよう。』


奏の目が見開かれ、
すぐに優しい目になった。

「わかった。」


空気が重たい。

『ありがとう。』


「こちらこそ…ありがとう」 

⏰:09/04/11 15:17 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#530 [七瀬]
 
正直…意外だった。


別れを切り出したら
絶対に怒ると思ったから。


「最後くらい笑って。」

『ご…めん。グズッ』

頭を撫でてくれる。


“笑って”なんて
無理に決まってるやん。

なんで…そんなに優しいんよ……

⏰:09/04/11 15:21 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#531 [七瀬]
 
“最後くらい”って
奏はゆうけど、


私も“最後くらい”もっと怒って罵ってほしかった。


そんなに優しくしんといてほしかった。


罪悪感は増えてくばかり。


「気付いてた。」
 
 

⏰:09/04/11 15:24 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#532 [七瀬]
『え…っ?』

赤くなった目を向けた。


「俺、気付いててん。
もうまつりの気持ちが俺にないこと。
分かってて知らんふりしてた…ズルいよな。」

そう笑った。


それはお互い様や。

だって私も、そんな自分に薄々気付いてながらも
奏にしがみ付いてたんやから。

⏰:09/04/11 15:28 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#533 [七瀬]
 
首を振った。


『ほんまにありがとう…』


そうゆって立ち上がった。







『バイバイ。』
 
 

⏰:09/04/11 15:30 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#534 [七瀬]
 
そうやって、
店を出ようとした…その時


「まつり!」

奏がこっちを見ている。


「遊希はまつりのこと
好きやで!!
やから大丈夫や!」

『なっ…』

なんで知ってんの!?


口をパクパクさせた。

⏰:09/04/11 15:34 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#535 [七瀬]
 
 
すると


「だからゆったやん!
“気付いてた”って!!」

そうやって意地悪く笑う奏に、違う意味で惚れ直した。



『ほんまズルいわ!』

そう笑い返してファミレスを後にした。
 

⏰:09/04/11 15:37 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#536 [七瀬]
 
たった今、
奏に別れを告げたこのファミレスは
麻友ちゃんとの初修羅場を体験したあのファミレス。


だけど、
あの時とは違ってすっきりしていた。

ここで再び飲んだ
アイスミルクティーは甘いような苦いような…
複雑な味だった。


一生忘れない味。
 

⏰:09/04/11 15:41 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#537 [七瀬]
 
もう二度と飲みたくはないけど、ね?





プルルルルル…


『あ、もしもし遊希?』


高鳴る心臓。

『今から会えるかな?』  
 

⏰:09/04/11 15:43 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#538 [七瀬]
 
 
 
「まつり…遅いな。」


約束した2時は
もうとっくに過ぎている。






『ごめんごめん!遊希…』 
 
 

⏰:09/04/11 15:46 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#539 [七瀬]
 
そこには愛しい人の姿。



『化粧、濃くは出けへんかったけど…』

そうやってニカッと笑いかける彼女を俺は抱き締めていた。



髪を巻いた、彼女を。


『さすがに、もう11月やしあのワンピースは着られへんかったわ。』

⏰:09/04/11 15:50 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#540 [七瀬]
 
 
そうやって俺の肩に顔を埋めてゆう彼女。



「90点…」


『えぇーっ、
頑張ったのにぃ…』

「…………ら。」


その瞬間、
彼女の小さな嗚咽が聞こえた。

⏰:09/04/11 15:53 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#541 [七瀬]
 
 
震える小さな体をもう一度強く抱き締めてゆう。






「俺の彼女になってくれたら100点満点。」
 
 
 
 
 
 

⏰:09/04/11 15:55 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#542 [七瀬]
 
 
 
私の恋花火は
激しく上がって

きれいに夜空に咲いた。


この花火を消せるのは
遊希だけ。




二度と消えない私の花火。 
 

⏰:09/04/11 15:58 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#543 [七瀬]
 
 
「いらっしゃい!!」


「1000円の一つ。」


『おおきに。』





たくさんある中で
一つのカステラ屋が列を作っていた。
 
 

⏰:09/04/11 16:01 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#544 [七瀬]
 
 
“佐藤商店”

カステラの袋には、そう書かれていた。





『なあ、遊希?』

「なんや?」


『遊希のカステラって
ほんま最高!』
 

⏰:09/04/11 16:04 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#545 [七瀬]
 
 
「当たり前やろっ!」

そう笑う遊希を見て、
幸せを感じる。


おばあちゃんみたいな
神野商会みたいな

大きな“商会”には
適わない
小さな小さな“商店”。
 
 
だけど
私は誇りに思う。

⏰:09/04/11 16:07 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#546 [七瀬]
 
 
だって
私と遊希の愛の証だから。



そして証はもう一つ。





「ママー、パパー!!」
 
 
 

⏰:09/04/11 16:09 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#547 [七瀬]
 
 
 
遊希はゆう。

「あの時、
“奏とやり直し”ってゆうたのは、高校中退の俺なんかとおるよりも
ちゃんと大学行ってる奏の方がまつりの為やと思ったから。」


どうやら遊希には学歴コンプレックスがあったみたい。 
 

⏰:09/04/11 16:13 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#548 [七瀬]
 
 
『でも、
私は遊希の奥さんになれて幸せやでっ!』

そういって
甘えてくる小さな証を抱っこした。







花火は今も上がったまま… 
 
 

⏰:09/04/11 16:17 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#549 [七瀬]
 
 
 
 
 
 
 
 
おしまい
 
 
 

⏰:09/04/11 16:18 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#550 [七瀬]
2作品目…
やっと完結しました><

どうだったでしょうか?
また感想下さいねっ♪


星と〜と比べると
少しドロドロしてたような…
 
またちょっと違った作品になったかなあ
と思いますっ!!

⏰:09/04/11 16:21 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#551 [七瀬]
祭はですね〜

実は私もバイトしたことがあります(*´∀`*)

私はスーパーボールでしたけどね(◎-◎;)

結構、疲れるんですけど
楽しいバイトでした(^O^) 

っと余談はこれまでにして…

⏰:09/04/11 16:24 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#552 [七瀬]
まつりはですね、
最初はクールなイメージだったんですけど
段々、柚子と被っていってしまって…

改めて文才の無さを感じました↓↓


遊希は…
ノーコメントで♪笑


奏は、最悪なイメージを
少しでも無くそうと頑張りましたが……

どうでしょう(^^ゞ

⏰:09/04/11 16:28 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#553 [七瀬]
まあ、一番の悪者は
麻友になってしまいましたねー(^.^)b

でも彼女はただ素直になれないだけとゆうか…

そんな悪い人じゃないんですよ(><)

まつりが奏と別れる決心が出来たのも
麻友のおかげだし(^^)v

⏰:09/04/11 16:31 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#554 [七瀬]
 
 
話が変わりますが、
もう春ですね。

今日もぽかぽかしていて暖かいです(´`)


この話にも出てきましたがもう少しで“通り抜け”が始まりますっ!!

とっても桜がきれいなんですよ〜(*^□^*)
 

⏰:09/04/11 16:35 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#555 [七瀬]
 
 
最後に

この季節のように
みなさんの心もぽかぽかになりますように…


七瀬は心より願っていますm(__)m
 
 

⏰:09/04/11 16:37 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#556 [七瀬]
 
 
感想板

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4276/
 
 

⏰:09/04/11 16:42 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#557 [我輩は匿名である]
 
たった今、アンカーのつけ方を覚えたのでつけときます!!

>>1-100
>>100-200
>>200-300
>>300-400
>>400-500
>>500-600
 
 

⏰:09/04/11 16:57 📱:N703iD 🆔:EJWDtS.g


#558 [*紫陽花*]
あげます
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:09/08/07 17:35 📱:N02A 🆔:xhzALeAY


#559 [七瀬]
*紫陽花*さん

こちらも、あげていただきありがとうございます!
\(^O^)/
 

⏰:09/08/07 19:56 📱:N703iD 🆔:Rtsevn3Y


#560 [*紫陽花*]
>>1-200
>>201-400
>>401-600
あげ(´・3・`)

⏰:09/08/15 04:01 📱:N02A 🆔:OI5ek87Q


#561 [*紫陽花*]
あげ⊂^⌒⊃_д_)⊃

⏰:09/08/23 04:28 📱:N02A 🆔:tLZ4T7cc


#562 [まり]
あげ

⏰:10/01/08 10:29 📱:SH01B 🆔:oZzA7zDI


#563 [*]
あげます(´・ω・`)
>>1-200
>>201-400
>>401-600

⏰:10/01/24 01:12 📱:N02A 🆔:Q9Ft8Mzk


#564 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑a

⏰:22/10/01 22:31 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#565 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/04 23:09 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


#566 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>500-530

⏰:22/10/04 23:39 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


#567 [○○&◆.x/9qDRof2]
↑(*゚∀゚*)

⏰:22/10/20 09:33 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#568 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑

⏰:23/01/02 13:26 📱:Android 🆔:jK5SBgKM


#569 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑(∩゚∀゚)∩age

⏰:23/01/21 20:15 📱:Android 🆔:IhSnmgVI


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