夏祭り、恋花火
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#100 [七瀬]
でも時々、
奏君の何気ない仕草や表情があの人に似てて
ドキドキする。
ほんま私はアカンな。
引きずり過ぎ。
いつまでも、あの人を忘れられへんまま…。
:09/03/19 21:30 :N703iD :DKWoRP7w
#101 [七瀬]
「まつり、ご飯食べに行かへん?」
いきなりの声で、ハッと我に帰る。
『あ…ああ、遊希。』
「ボーッとして、どしたんや?」
『なんもないよ。
あ、ごめん。
さっき奏君と行ってん。』
:09/03/19 21:34 :N703iD :DKWoRP7w
#102 [七瀬]
「奏と?
…ふーん、そっか。」
『うん。
ってか奏君ゆうたやろ!
私が“一度も男と付き合ったことない”って!!』
「うん、悪ぃ。」
そう言いながらも、
悪びれる様子のない遊希。
:09/03/19 21:39 :N703iD :DKWoRP7w
#103 [七瀬]
『ほんまに反省してる!?
もう変なこと、ゆわんといてや!』
「…ん。」
遊希は元気なく去っていった。
なんなん、あれ。
あんなに落ち込まんでもええやん。
私…、
そんなキツい言い方した?
:09/03/19 21:53 :N703iD :DKWoRP7w
#104 [七瀬]
ドンドンドンドン…
太鼓の音が段々、大きくなってきている。
祭の盛り上がりが最高潮になってきた。
金魚すくいに夢中の人たちも手を止めて見ている。
こんなん何がええんやろ。うるさいだけやん。
私は冷めた目で通り過ぎてゆくお神輿を見ている。
:09/03/19 22:00 :N703iD :DKWoRP7w
#105 [七瀬]
太鼓の音も次第に小さくなっていき、完全に消えた。
そして人々が、また金魚たちに目を戻した頃……
ヒューッ ドン!!
花火が上がる。
:09/03/19 22:04 :N703iD :DKWoRP7w
#106 [七瀬]
人々の目は空に向かう。
歩いていたカップルも
“わあ、キレイだね”
とか言いながら立ち止まる。
私のキライなガキ共も、キャッキャゆうて騒いでる。
これも毎年のこと。
:09/03/19 22:08 :N703iD :DKWoRP7w
#107 [七瀬]
毎年のことなのに、
私の心臓は慣れてくれない。
ドクドクうるさい。
あの人も見てるんかな?
これも毎年、思うこと。
見てるわけないのに。
:09/03/19 22:11 :N703iD :DKWoRP7w
#108 [七瀬]
花火が終わっても、
まだまだ人は、ようさん歩いてる。
「よーし、勝負しよーや。」
若い男たちが金魚すくいに群がる。
これも毎年のこと。
これにはさすがに慣れたけど。
:09/03/19 22:16 :N703iD :DKWoRP7w
#109 [七瀬]
毎年毎年、そんなこんなで天神祭を終える。
「まーつり。」
今度は奏君が一緒に潰しに来てくれた。
ドキドキする。
だって
昔、よくあの人も潰しに来てくれたから。
:09/03/19 22:20 :N703iD :DKWoRP7w
#110 [七瀬]
金魚も潰し終え、トラックがやってくる。
今日は天神祭は最終日やから、トラックに積み込みをする。
私は女の子やし、
これはさすがにやらない。
遊希、奏君、後の若いバイトの男の子たちが
軍手をはめて、どんどん積み込んでゆく。
:09/03/19 22:24 :N703iD :DKWoRP7w
#111 [七瀬]
まるで、
さっきまで人がワイワイ騒いでたようには見えない。
屋台も跡形もない。
『お疲れ〜。』
みんなにジュースを配る。
みんな死にそうな顔をしてる。
:09/03/19 22:27 :N703iD :DKWoRP7w
#112 [七瀬]
奏君にも渡す。
「ありがと、まつり。」
そう言って、缶コーヒーを飲み始める。
その横顔がほんまにあの人に似てて、
つい見惚れてしまう。
「どしたんや?
そんなに見て…
俺の顔になんか付いてるか?」
:09/03/19 22:32 :N703iD :DKWoRP7w
#113 [七瀬]
『…似てる。』
「え?」
無意識に口が開く。
『…人に。
私の初恋の人に。』
奏君の目が大きくなっていったのに気付く。
『…あ、ごめん!
変なことゆうてごめん。』
:09/03/19 22:37 :N703iD :DKWoRP7w
#114 [七瀬]
すると奏君はフッと笑って
「どんな人なん?
まつりの初恋の人って。」
私は少し戸惑った。
『どんな人って…
優しい人やで。
奏君みたいに……。』
「なあ、まつり。
それって告白してんの?」
:09/03/19 22:40 :N703iD :DKWoRP7w
#115 [七瀬]
告白…してんのかな?
うつむく。
分からん。
「答えへんってことは、
そうゆう意味やって解釈すんで。」
え?
:09/03/19 22:44 :N703iD :DKWoRP7w
#116 [七瀬]
顔を上げると
チュ
唇に柔らかいものが当たる。
奏君にキスされてた。
:09/03/19 22:47 :N703iD :DKWoRP7w
#117 [七瀬]
「フフッ、驚いた?」
いきなりのことで固まる私。
これが私と奏が付き合い始めたきっかけ。
:09/03/19 22:49 :N703iD :DKWoRP7w
#118 [七瀬]
こめかみに汗の滝が流れる。
今、私はプリント集とにらめっこの最中。
あー、分からん。
お手上げや。
少し頭を冷やそうと冷蔵庫へ向かい、一番上を開ける。
:09/03/20 00:29 :N703iD :bKNl0Pwo
#119 [七瀬]
あったあった!!
アイスクリームを取出し、袋をポイッ。
口に運ぶ。
ああ、生き返るわあ。
アイスクリームで頭が冴え渡ってる内に
またプリントに目を通す。
でも次は他のことが思考回路を邪魔する。
:09/03/20 00:33 :N703iD :bKNl0Pwo
#120 [七瀬]
天神祭の最終日。
あの後、
まだ固まってる私に奏君は
「秘密やで。」
そう言って、
私の唇に人差し指を乗せて笑った。
私は体温が上昇するのを
感じた。
顔が熱い。
:09/03/20 00:37 :N703iD :bKNl0Pwo
#121 [七瀬]
顔が熱いまんまの私を
ほったらかしにしたまま、奏君は帰った。
今、改めて思い出しても恥ずかしくって溜まらん。
いきなり
キスするか、普通!?
あの日から2日経っても、頭から離れてくれない。
奏君が。
:09/03/20 00:43 :N703iD :bKNl0Pwo
#122 [七瀬]
それに明日また祭がある。
田舎の方で、2日間。
嫌でも、奏君に会う。
しかも
そこには金魚とカステラとボールの3店しか出せへん。
ってことは……
私と遊希と大竹さん。
そして奏君の4人しか、行けへんってこと。
:09/03/20 00:47 :N703iD :bKNl0Pwo
#123 [七瀬]
「まつり、早くしなさい。大竹さん、もう下に来てるよ。」
とお母さんの声。
『わかってるーっ!!』
しまった!
昨日は考えすぎて、寝られへんかった。
:09/03/20 07:46 :N703iD :bKNl0Pwo
#124 [七瀬]
汚れたスニーカーに足を突っ込む。
『行ってきまーすっ!』
家を出て、エレベータのボタンを押す。
あー、もう遅いなあ。
エレベータがなかなか来うへんのにイライラする。
プップー
下から車のクラクション。
:09/03/20 07:51 :N703iD :bKNl0Pwo
#125 [七瀬]
もういいや!
私の足は階段へ。
猛スピードで下へ降りていく。
ダンダンダンダン…
「まつり、はよしろ。」
大竹さんの白くて大きなワゴン車が見えた。
:09/03/20 07:54 :N703iD :bKNl0Pwo
#126 [七瀬]
『ごめーん。遅れて…』
忘れてた。
大竹さんの助手席に奏が座ってたこと。
太陽がギンギンしていて、よく見えへんかった。
窓の外を見てた顔を私へ向けた。
やっぱり似てる…。
:09/03/20 07:58 :N703iD :bKNl0Pwo
#127 [七瀬]
車の助手席の後ろの席に乗り込む。
高等座席に座ってる遊希がドアを開けてくれる。
『おはようございます。』
「おはよう。」
大竹さんの不機嫌な声。
『…その遅れて、ほんまにすみません。』
「もうええ。出発すんぞ。」
:09/03/20 08:02 :N703iD :bKNl0Pwo
#128 [七瀬]
車が走りだす。
はあ。
グダグダや。
前を見ると
“おはよう”
奏君が口パクをしている。
“散々やな”
と大竹さんを指さし笑う。
そんな奏君に肩をすくめて見せる。
:09/03/20 08:09 :N703iD :bKNl0Pwo
#129 [七瀬]
20分ほど走って、車はいつもの業務用スーパーへ。
「確か牛乳とハチミツがないてゆうとったなあ。」
大竹さんがメモ用紙を見て呟く。
ある程度は昨日の内に屋台の方に持って行く。
でも牛乳なんかは、
この炎天下に何時間も放っておいたら、一発アウトや。
私も車から降りる。
:09/03/20 08:21 :N703iD :bKNl0Pwo
#130 [七瀬]
大竹さんが店員に色々、指示してる。
その間に私らは、パンやペットボトルを買う。
あっ、これ!
このパンめっちゃ美味しいねん。
手を伸ばす。
『ああっ!』
:09/03/20 08:25 :N703iD :bKNl0Pwo
#131 [七瀬]
後ろから手が伸びてきて、お目当てのもんを奪われる。
「まつりはほんまに、これ好きやなあ。」
後ろを振り向くと奏君。
『奏君、なんでそれ取んのよ!
いっつも、甘いパンは食べへんやんか。』
「たまにはええかな、思て。」
:09/03/20 08:29 :N703iD :bKNl0Pwo
#132 [七瀬]
その言葉に子供みたいに膨れる。
「ブッ、ハハハ。
ほんままつりは面白いわ。
嘘やって!嘘嘘!!
まつりが食べるやろなあ
思て、カゴ入れてん。」
そう笑う奏君に、
三日前のことを思い出し、恥ずかしくなる。
『…ありがと。』
:09/03/20 08:34 :N703iD :bKNl0Pwo
#133 [七瀬]
「どういたしまして。
ってゆうか、まつりさあ。もしかして思い出した?
三日前のこと。」
そう耳元でささやく。
『な、なんのこと!?』
真っ赤にしながら聞く。
「分かってるくせに。」
:09/03/20 08:38 :N703iD :bKNl0Pwo
#134 [七瀬]
意地悪く笑う奏君。
「もうそろそろ行こか。
二人の秘密がバレてしまう前に。」
車に牛乳、ハチミツを積み込んだ。
車が再出発する。
私のドキドキは先ほどよりも増していた。
:09/03/20 08:42 :N703iD :bKNl0Pwo
#135 [七瀬]
業務用スーパーから出発して40分近くが経った。
車内では欠伸が響く。
そりゃ、そうなるわな。
向こうに着くには2時間ほどかかる。
11時過ぎには着く予定やし、業務用スーパーにも寄る予定やったから、かなりの早起きをしなアカン。
もちろん、
その中には私の欠伸も率先して入っている。
:09/03/20 08:55 :N703iD :bKNl0Pwo
#136 [七瀬]
前を見ると、奏君も寝てるみたい。
ああ、もう無理や。
私も仮眠しよ。
そう首を少し傾けて目を閉じる。
その時、
ピリリリリリ…
携帯が鳴る。
:09/03/20 09:00 :N703iD :bKNl0Pwo
#137 [七瀬]
メール?
こんな時に誰やねん。
少しイラッとする。
宛先は……
遊希?
なんなんよ、ほんまに…。
横におる遊希に目をやると視線が合う。
:09/03/20 09:04 :N703iD :bKNl0Pwo
#138 [七瀬]
“はよ開けてみい”
と催促するような目。
仕方なく、遊希に見せ付けるように携帯を開く。
するとそこには
「奏と付き合ってんの?」
の一文。
私は目を見開き、遊希を見る。
遊希の瞳には強い光が宿っている。
:09/03/20 09:08 :N703iD :bKNl0Pwo
#139 [七瀬]
なっ、なんで!?
なんで遊希が
そんなこと聞くんよ!
頭が混乱する。
すると、
ピリリリリリ…
私は急いでメールを開く。
そのメールには
:09/03/20 09:35 :N703iD :bKNl0Pwo
#140 [七瀬]
「天神祭でキスしてたやろ。
しかも、さっきもイチャついてたし。」
み、見られてた…。
なんて
答えたらええんやろ。
だって私にも分かれへん。
私らは付き合ってんの?
なあ、奏君…。
:09/03/20 09:39 :N703iD :bKNl0Pwo
#141 [七瀬]
目を閉じてるであろう奏君を見る。
「やっぱ付き合ってんのや。」
遊希の声がする。
『…分からん。』
私らは付き合ってんの?
:09/03/20 09:43 :N703iD :bKNl0Pwo
#142 [七瀬]
“私らは付き合ってんの?”
って何回、思ってんのやろ。
自分で呆れる。
「…い!おい!」
『…ああ、ごめん。』
「自分の世界に入らんといてくれ。」
遊希も呆れてる様子。
:09/03/20 09:47 :N703iD :bKNl0Pwo
#143 [七瀬]
『ほんまに分かれへん。』
「そっか。」
遊希はせれ以上、なんも聞いてこうへんかった。
私は寝ようと目をつむったけど、
全然、寝られへんかった。
奏君が買ってくれたパンは放っておいたら、
チョコレートの部分が溶けてしまった。
:09/03/20 09:53 :N703iD :bKNl0Pwo
#144 [七瀬]
目的地に着いた。
カステラはボールの隣にある。
金魚だけ、この2店から
ちょっと離れている。
安心したような、残念なような…複雑な気分。
「店建てる前に昼飯、食いに行こか。」
4人で、少し歩いたところにあるファミレスへ。
:09/03/20 10:27 :N703iD :bKNl0Pwo
#145 [七瀬]
大竹さんの隣に奏君。
私の隣に遊希。
向き合うように座った。
料理を注文し終える。
チラッと前を右斜めを見ると、
奏君が笑って、こっちを見ている。
そして横には遊希…。
頬杖をついている。
:09/03/20 10:35 :N703iD :bKNl0Pwo
#146 [七瀬]
アカン。
なんか気まずい。
多分、私が意識してるからそう感じるだけやろう。
でも…この空気。
耐えられへん!
すると
「なんやお前ら、元気ないやんけ。」
:09/03/20 10:38 :N703iD :bKNl0Pwo
#147 [七瀬]
大竹さんが口を挟む。
「いつもみたいに、
うるさいとイラッと来るけど、
何もしゃべらんかったら、それはそれで調子狂うわ。
特にまつり。
俺はもう怒ってへんで?
朝の寝坊。」
うん。忘れてた。
自分が遅刻したってこと。
でも、
まあここは、そういうことにしとこか。
:09/03/20 10:43 :N703iD :bKNl0Pwo
#148 [七瀬]
『うん。
ありがとう、大竹さん。』
「ああ。
それともなんや?
恋煩いか?恋煩い。
男でもデキたんか?」
ニヤニヤしながら聞く大竹さん…。
空気読めよっ!
この空気で、
そんなことゆうか!?
:09/03/20 10:47 :N703iD :bKNl0Pwo
#149 [七瀬]
『ハハ…ハ……。
そんなわけないやんか。』
なんとか笑いながら誤魔化す。
そんな私を見て、
奏君はクスクス笑う。
遊希は不機嫌さを増すように見える。
「そぉかあ。」
大竹さんはガハハと豪快に笑ってるだけ。
:09/03/20 10:51 :N703iD :bKNl0Pwo
#150 [七瀬]
料理が運ばれて来た。
食べ始める。
さっきより空気が重い。
押し潰されそう。
「まつり。」
この沈黙の中、
奏君が声を発した。
:09/03/20 10:54 :N703iD :bKNl0Pwo
#151 [七瀬]
『ん?』
「ついてる。」
『へ?』
「口の周り。
ハンバーグソース。」
自分の口の周りを指して、奏君は言った。
うそっ!
私は慌てて、ティッシュを取り出す。
:09/03/20 10:58 :N703iD :bKNl0Pwo
#152 [七瀬]
そんな私を見て、奏君は
「ほんま面白いわ。
朝のことといい、
今のことといい。
なあ、そう思わんか?
遊希。」
「んあ?」
奏君の挑むような目に、
遊希の目付きは、一層キツくなる。
:09/03/20 11:04 :N703iD :bKNl0Pwo
#153 [七瀬]
ちょっとお二人さん?
『遊…希?』
「ほんまや。
ほんまにコイツはアホや。」
そう言って、また食べ始めた遊希。
なんやったんや、今の雰囲気…。
:09/03/20 11:06 :N703iD :bKNl0Pwo
#154 [七瀬]
よう分からん雰囲気のまま、
私はアホ呼ばわりされたまま、
ファミレスを後にする。
金魚に戻る。
「じゃあ、後で奏か遊希に金魚たち持って行かすわ。」
大竹さんの言葉に
わかった
と返事して、準備にとりかかる。
:09/03/20 11:23 :N703iD :bKNl0Pwo
#155 [七瀬]
店を組み始める。
この二日間、私はどうなるんやろか。
不安と期待が入り交じる。
「金魚、持って来たで。」
:09/03/20 11:36 :N703iD :bKNl0Pwo
#156 [七瀬]
『それはどうも。』
「ってか。
動揺し過ぎや、まつり。」
『それは、奏君があんなことゆうからやろ!
突然……』
「突然?」
『いきなり耳元でささやいたり、
遊希を挑発するようなことゆうたり、
それに……』
:09/03/20 11:41 :N703iD :bKNl0Pwo
#157 [七瀬]
「それに?」
知ってるくせに。
わざとやな。
分かってても、奏君の思うツボ。
『…それに
突然、キス……したり。』
言った。
小さくって消えてしまいそうな声で。
:09/03/20 11:44 :N703iD :bKNl0Pwo
#158 [七瀬]
「したよ。
確かに俺はまつりにキスした。
あの日に。
でもな、突然じゃない。
俺はずっとキスしたかった。
まつりと。」
うれしい。
私も分かってても、聞いてしまう。
:09/03/20 11:48 :N703iD :bKNl0Pwo
#159 [七瀬]
『キス出来るなら誰でも良かったん?』
「アホか。そんなわけないやろ。
お前だけや。
好きやで。」
たくさんの金魚たちに見届けられながら、
私たちはもう一度、唇を交わした。
今度は両思いのまま。
:09/03/20 11:53 :N703iD :bKNl0Pwo
#160 [七瀬]
神野まつり。
17歳の夏休み真っ盛り。
とうとう私にも彼氏が出来た。
あれから、もう2年。
『奏〜!
遅れて、ごめんなあ。』
「まつり、遅ーい。」
奏、大好き。
:09/03/20 22:40 :N703iD :bKNl0Pwo
#161 [七瀬]
今日は2周年の記念日。
そして久しぶりのデート。
最近、
二人共、忙しくって
忙しくって…。
なかなか会えなかった。
私は今、大学生。
19歳。
奏は21歳。
:09/03/20 22:43 :N703iD :bKNl0Pwo
#162 [七瀬]
『おめでとぉ。
また1年間よろしくな。』
「こちらこそ、よろしく、まつり。」
チンッ
乾杯して、グラスを口に運ぶ。
『でも、淋しいなあ。
2年前、私と奏が付き合った祭が
今年からなくなってしもたなんて。』
:09/03/20 22:49 :N703iD :bKNl0Pwo
#163 [七瀬]
「まあな。
でも、そのおかげで
今ここで、まつりと過ごせるわけやん。
ほんまの2周年を。」
『そうゆわれたら、そぉやけど。
去年は2日、ズラしてしたよな、1周年は。』
ほんま懐かしい。
今でも、もちろん祭には欠かさず行っている。
:09/03/20 22:53 :N703iD :bKNl0Pwo
#164 [七瀬]
でも17歳の私とは大きく違っているところがある。
それは、
私はあの人ではなく、
“奏のため”に行くようになった。
祭に行くたび、奏に会えてうれしい。
昔の傷は癒えた。
あの人のことを思い出すことも少なくなっている。
:09/03/20 22:57 :N703iD :bKNl0Pwo
#165 [七瀬]
確実に前に進んでいる。
中学生で止まったままの
記憶も流れてゆく。
恋花火は、もう聞こえない。
聞こえるのは、
奏の優しい声だけ。
今、私は幸せなんや。
:09/03/20 23:01 :N703iD :bKNl0Pwo
#166 [七瀬]
「まつり!まつりっ!!」
『どうしたん?麻友ちゃん。
そんな血相変えて…。』
今は、
祭で一番、忙しい時間帯。
麻友ちゃん、
こんな忙しい時に、どしたんやろか。
:09/03/20 23:07 :N703iD :bKNl0Pwo
#167 [七瀬]
息を整え、
麻友ちゃんは言った。
「あんな、まつり。
落ち着いて聞いてや。」
頷く。
「…来てんねん。
ハラダタカシが、ここに来てんねん!」
ハラダ…タカシ……。
:09/03/20 23:12 :N703iD :bKNl0Pwo
#168 [七瀬]
呼吸が荒くなる。
苦しい。
ハラダタカシ
ハラダタカシ
ハラダタカシ…
原田俊(ハラダタカシ)。
あの人。
私の初恋の人……。
:09/03/20 23:15 :N703iD :bKNl0Pwo
#169 [七瀬]
『…うそ。うそやっ!
来てるわけない……。
そんなん嘘やっ!』
私は完全に混乱している。
お客さんがおるのも忘れ
一人、取り乱す。
「ううん。嘘やない。
嘘ちゃうねん、まつり。」
麻友ちゃんは落ち着いた口調で言う。
:09/03/20 23:19 :N703iD :bKNl0Pwo
#170 [七瀬]
なんで?
なんで今さら。
せっかく忘れかけてたのに。
昨日は奏との記念日であんなに楽しかったのに、
今は苦しくって仕方ない。
:09/03/20 23:21 :N703iD :bKNl0Pwo
#171 [七瀬]
「まつりに会いたいって原田さんゆうてるよ。」
少し落ち着いて、
そんなことを麻友ちゃんから聞かされる。
『…会わへん。』
「まつり、アカン。」
麻友ちゃんは厳しい目をして言った。
:09/03/20 23:25 :N703iD :bKNl0Pwo
#172 [七瀬]
麻友ちゃんは
…麻友ちゃんだけは、
私の初恋を知っている。
「ちゃんと自分の気持ちにけじめをつけ。」
けじめ?
そんなん
もうとっくについてる。
7年も時が過ぎてんで?
:09/03/20 23:29 :N703iD :bKNl0Pwo
#173 [七瀬]
「そのままやったら、
奏君も苦しい思いすることになる。」
奏が?
なんでなん?
私が愛してんのは奏だけやのに。
「まつりっ!待って!!」
麻友ちゃんの声も聞かず、私は立ち去った。
:09/03/20 23:32 :N703iD :bKNl0Pwo
#174 [七瀬]
「ちょっと…まつり。
どしたんや、急に。」
気が付けば、ボールに来ていた。
『奏っ!』
奏に抱きつき、泣きじゃくる。
『うっ、ヒック…。』
いきなりのことやのに、
奏はこれ以上、何も聞かずにいてくれた。
:09/03/20 23:36 :N703iD :bKNl0Pwo
#175 [七瀬]
『うっ、うっ、奏ぉ〜。』
「よしよし。」
頭を優しく撫でてくれる。
早く離れな。
ボールにも、金魚にも
お客さんがいっぱいおる。
このままじゃ
麻友ちゃんにも、奏にも
迷惑かけてまう。
早く泣き止め!
早く早く…。
:09/03/21 01:35 :N703iD :GhvADkNo
#176 [七瀬]
そう思ってるのに、
涙を堪えようとすれば、
するほど、溢れてくる。
あまのじゃくな自分の涙腺に腹が立つ。
「ちょっとお兄ちゃん?」
「抱き合ってんと、はよしてよ。」
そうゆう声が、後ろから聞こえてくる。
:09/03/21 01:44 :N703iD :GhvADkNo
#177 [七瀬]
お客さんの堪忍袋の緒も、もう限界。
なのに、体はチッともゆうことを聞いてくれない。
「まつり。」
声がした。
あの柔らかい声が。
:09/03/21 01:47 :N703iD :GhvADkNo
#178 [七瀬]
涙が止まる。
一瞬にして、
体温が上がってゆく。
ああ、
あの人が迎えに来てくれたんや。
「まつり?」
ピタリと泣き止んだ私を
奏が不思議そうに見る。
:09/03/21 01:54 :N703iD :GhvADkNo
#179 [七瀬]
「久しぶりやな、まつり。」
あの人の声。
「誰や、あいつ。」
奏の優しかった声が、低くなる。
なのに、
私はドキドキしてる。
あの人に。
:09/03/21 02:14 :N703iD :GhvADkNo
#180 [七瀬]
「なあ、まつり。
誰や?知り合いか?」
奏がさらに聞く。
「彼氏出来てんな。」
とあの人。
バッ
とっさに私は、奏から離れる。
:09/03/21 02:18 :N703iD :GhvADkNo
#181 [七瀬]
私は最低な女。
「なんで離れるんや。
俺はお前の彼氏やろ?
なあ、まつり!
答えてくれ!
あいつは誰なんやっ!!」
低い声が今度は荒くなった奏。
『…ごめん、奏。
お客さんおる時にいきなり来て、ほんまごめん。』
:09/03/21 02:23 :N703iD :GhvADkNo
#182 [七瀬]
「違う。
俺が聞きたいのは、そんなことちゃう。」
首を振る奏。
「奏…君ってゆうんかな?
ちょっとまつりを借りるね。」
そうあの人に引かれ、着いていく私を
きっと奏は、怒りに震えて見ていたに違いない。
:09/03/21 02:27 :N703iD :GhvADkNo
#183 [七瀬]
だけども
その瞬間、私は幸せに感じた。
愛する奏を放ってってしまった悲しみよりも
あの人が迎えに来てくれた喜びが勝っている
私は
奏を裏切ったんだ。
:09/03/21 02:33 :N703iD :GhvADkNo
#184 [七瀬]
「ええ加減に顔上げてくれへん?」
あの人が言う。
『…なんで。
なんで、
急におらんくなったん?』
「まつり、かわいくなったなあ。
あんなチビやったのに。」
:09/03/21 11:15 :N703iD :GhvADkNo
#185 [七瀬]
『なんで?
なんでなんよっ!』
顔を上げて睨む。
「ほんまや…。
ほんまにかわいなったわ。」
悲しそうな目をするあの人。
『…原田さん。
原田さんは、オッサンになった。』
:09/03/21 11:19 :N703iD :GhvADkNo
#186 [七瀬]
すると、あの人は笑った。
「フフフッ、当たり前や。もう34やぞ。34歳。」
そんな悲しい顔せんといてよ。
「ごめんなあ、ほんまに。」
そう言って、タバコを吸い始めた。
その姿があまりにも昔のままで泣けてきた。
:09/03/21 11:22 :N703iD :GhvADkNo
#187 [七瀬]
『…一生許さへん。絶対に。』
「許さんくてもええ。
まつりは忘れてくれていい。」
『じゃあ何で会いに来たんよ!
それに
“忘れてくれていい”
って……
忘れられへんから、許さへんねん!』
怒鳴り付ける。
:09/03/22 04:46 :N703iD :0553rOCs
#188 [七瀬]
「ほんまやな……。
俺、矛盾してるわ。
俺も忘れられへんから、
許さへんねんな…。」
独り言のように呟く、あの人。
意味分からん。
なにゆうてんの?
:09/03/22 04:49 :N703iD :0553rOCs
#189 [七瀬]
“俺も”
ってどういうこと?
ちゃんと説明してよ…。
そう思いながらも
聞くのが怖い。
「先月、死んでん。
俺の奥さん。」
:09/03/22 04:53 :N703iD :0553rOCs
#190 [七瀬]
“先月、死んでん。
俺の奥さん。”
センゲツシンデン。
オレノオクサン。
ズキンズキン
頭、痛い。
:09/03/22 04:56 :N703iD :0553rOCs
#191 [七瀬]
記憶が蘇る。
あの人と出会った日…。
:09/03/22 05:08 :N703iD :0553rOCs
#192 [七瀬]
『なあなあ、
あんた、名前なんてゆうん?』
その日、
私はいつもみたいに新人イジメのため、
わざわざ神社の中にある、“たこ焼き”まで
やって来た。
プロパンをいじりながら、新人は言った。
:09/03/22 05:13 :N703iD :0553rOCs
#193 [七瀬]
「ハラダタカシやで。」
『ハラダタカシ?』
「野原の“原”に、
田んぼの“田”で原田。
あと、俊足の“俊”でタカシって読むねん。」
そう言われ
“原田”までは、思いついたものの、
小学2年生の私。
“俊”はカタカナのままだった。
:09/03/22 05:19 :N703iD :0553rOCs
#194 [七瀬]
とりあえず、
ふーん
と適当に頷く。
だって、
私がに聞きたいことは、
そんなんと違うし。
相手が嫌がるような、
うっとうしくて仕方なく
感じるようなことを聞くのが
ほんまの目的。
:09/03/22 05:24 :N703iD :0553rOCs
#195 [七瀬]
何歳?
誕生日は?
血液型は?
どこ住んでんの?
こんなんは、序の口。
ファーストキスはいつ?
どこで?
どんな風に?
好奇心だらけの質問。
:09/03/22 05:27 :N703iD :0553rOCs
#196 [七瀬]
どれにも笑って答えてゆく。
なかなかやるな、コイツ。
確かな手応えを感じ始める。
そして、
『今、彼女おんの?』
と、とうとう聞いた。
:09/03/22 05:30 :N703iD :0553rOCs
#197 [七瀬]
「ん〜、彼女ってゆうか、奥さんやな。」
『結婚してんの?』
「そぉやな。」
たこ焼きを焼き始めた手を見ると
指輪。
子どもの私でも、
その意味は理解できた。
:09/03/22 05:34 :N703iD :0553rOCs
#198 [七瀬]
『ふーん。子どもは?
子どもはおんの?』
「まだ籍入れて、2ヵ月しか経ってへんし、
そんなんまだまだ先や。」
『じゃあ、まだ見ぬ赤ちゃんのために頑張りや。
ここで、さぼらんように
まつりが見張っといたるわ。』
「そりゃ、
どーもありがとぉ。」
:09/03/22 05:38 :N703iD :0553rOCs
#199 [七瀬]
ほんまえらそうなガキ。
そんな私にも、笑って答えるあの人。
今の私やったら、
ガキんちょに
自分の子どものことなんか心配してほしないわっ!
ってキレてる。
:09/03/22 05:41 :N703iD :0553rOCs
#200 [七瀬]
それから、
本当に私は見張り続けた。
とゆうより、
お邪魔し続けた。
そして私が小学6年生になった時、
“原田さんに子どもが出来た”
と聞いた。
:09/03/22 05:44 :N703iD :0553rOCs
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