夏祭り、恋花火
最新 最初 全
#200 [七瀬]
それから、
本当に私は見張り続けた。
とゆうより、
お邪魔し続けた。
そして私が小学6年生になった時、
“原田さんに子どもが出来た”
と聞いた。
:09/03/22 05:44 :N703iD :0553rOCs
#201 [七瀬]
お母さんとおばあちゃんが話してるところを
盗み聞きした。
ショックやった。
なんでか分からへんけど、無性に悲しくって
イライラした。
今、思えば
出会った時から、あの人が好きやったんや。
:09/03/22 05:47 :N703iD :0553rOCs
#202 [七瀬]
それに焦った。
奥さんがおるのは、
正直なんも思わんかった。
けれど、
子どもが生まれたら、
もう私なんか相手してくれへんくなる。
そう思うと、
苦しくって苦しくって
溜まらんかった。
:09/03/22 05:50 :N703iD :0553rOCs
#203 [七瀬]
「なんか最近、冷たいやん。」
『別に。
真面目に働いてるだけ。』
私はこの頃から、1人で金魚を任されるようになった。
「そっか。
おっちゃん寂しぃわ。」
店を潰しながら、軽く言う。
:09/03/22 19:04 :N703iD :0553rOCs
#204 [七瀬]
そんなこと、思ってないくせに。
あの人は私の前では
自分のことを
“おっちゃん”とゆう。
今まで、なんとも思わんかったのに
最近は子供扱いされてるみたいで、いやや。
むしゃくしゃする。
:09/03/22 19:07 :N703iD :0553rOCs
#205 [七瀬]
あの人は、自分から
自分のことを話す人じゃない。
本人はなんも、ゆうてへんし、
お母さんらの間違いかも。
だから、ほんまは嘘なんかも。
そんな淡い期待を抱く。
『子供できたって
ほんまなん?』
:09/03/22 22:09 :N703iD :0553rOCs
#206 [七瀬]
そうであってほしかった。
お母さんらの勘違い、
もしくは私の聞き間違い。
あの人は
「ほんまやで。」
サラリと答えた。
:09/03/22 22:12 :N703iD :0553rOCs
#207 [七瀬]
それから、私は何も言わずあの人も何も話さなず。
あるのは沈黙だけ。
その夜、布団に入りながらなかなか寝付けなかった。
忙しくって疲れてるはずなのに。
私の気持ちが睡眠の邪魔をした。
:09/03/22 22:16 :N703iD :0553rOCs
#208 [七瀬]
そして、ある決心をする。
翌日。
『原田さん。』
あの人に声を掛ける。
:09/03/22 22:20 :N703iD :0553rOCs
#209 [七瀬]
「どしたんや、まつり。」
最近は
あの人が話し掛けて来ても、ほぼ無反応やったのに
しゃべって来た私に驚くあの人。
『…幸せにな。』
:09/03/22 22:27 :N703iD :0553rOCs
#210 [七瀬]
え?
とでも聞くように目を丸くするあの人。
『だからっ!
…幸せになってな
ってゆうてんねんっ!!』
照れ隠しのため、少し声を荒げる。
:09/03/22 22:30 :N703iD :0553rOCs
#211 [七瀬]
そんな私に気付いてるように、あの人は言った。
「ありがとう、まつり。」
すごい嬉しそぉに笑うあの人に
今までの嫉妬や醜い感情が全てアホらしく思えた。
『それだけやから。』
そう言って、
素早くその場から立ち去った。
:09/03/22 22:34 :N703iD :0553rOCs
#212 [七瀬]
それからとゆうものの、
また私は質問攻めにした。
『男の子?女の子?』
「さあ、どっちやろな。」
『どっちがいい?』
「男やったら、一緒に遊んであげたいし、
女やったら、手料理とか食べたいしなあ。
…どっちでもええわ。」
『親バカや。』
二人の間に笑いが起こる。
:09/03/22 22:47 :N703iD :0553rOCs
#213 [七瀬]
『名前は?』
「いくつか候補はあるよ。」
『例えば?』
「内緒。」
『ケチ。』
こんな感じで
前みたいに戻った。
:09/03/22 22:50 :N703iD :0553rOCs
#214 [七瀬]
そして冬になった。
お初天神。
新年にみんなの心がウキウキしている時。
年が空け、大忙し。
日本一長い商店街の中、
金魚とたこ焼きは隣同士。
:09/03/22 22:53 :N703iD :0553rOCs
#215 [七瀬]
私は少し気掛かりだった。
だって
赤ちゃんのことを全然聞かへんし。
八月の中旬の頃に確か6ヵ月ってゆうてた。
今は1月。
もう生まれているはず。
でも、あの人は何も言わへん。
:09/03/22 22:59 :N703iD :0553rOCs
#216 [七瀬]
気になって気になって
しょうがない!
歯がゆい気持ちが心中を支配する。
『子供、生まれたん?』
ガマン出来なくって、
たこ焼きにおる、あの人に聞いた。
すると、あの人は
「生まれたよ。」
笑って言った。
:09/03/23 19:24 :N703iD :7XQi.j2w
#217 [七瀬]
『良かったなあ。
って、なんでゆうてくれへんのよっ!!』
「あれ?
おっちゃん、ゆうてなかったっけ。」
『もう!』
寂しいやん。
一言ゆうてよ。
:09/03/23 19:27 :N703iD :7XQi.j2w
#218 [七瀬]
確かに私には関係ない。
関係ないけど、
わかってるけど、
一言ゆうてほしかった。
奥さんがいて、子供が生まれて…
やっぱり、
もう私の相手してくれへんのかな。
ただのガキんちょやもん。
:09/03/23 19:31 :N703iD :7XQi.j2w
#219 [七瀬]
でも、やっぱり話したい。
一緒に笑いたい。
私は今まで以上に、話し掛けた。
あの人も、これまでと同じように話す。
少し安心する。
普通に話してくれる。
良かった。
:09/03/23 19:34 :N703iD :7XQi.j2w
#220 [七瀬]
時々、
『子供は元気?』
と聞いた。
すると、あの人は
「元気やで。」
と決まって言う。
それやったらええ。
ええけど、
それだけしか言わん。
いっつも同じ答え。
:09/03/23 19:37 :N703iD :7XQi.j2w
#221 [七瀬]
それに、
名前、性別…
いつ聞いても、答えてくれへん。
「なんやと思う?」
「どっちでしょーか?」
絶対はぐらかされる。
そのたび悲しい。
:09/03/23 19:39 :N703iD :7XQi.j2w
#222 [七瀬]
そして中1の通り抜け。
あのままバイバイして今。
結局、最後まで子供のことは聞かれへんかった。
:09/03/23 19:42 :N703iD :7XQi.j2w
#223 [七瀬]
どれくらい沈黙が続いただろうか。
多分5分くらい。
でも、何時間にも思えた。
今日は30度を超える真夏日。
なのに、
額には冷や汗ばかり流れる。
:09/03/23 19:45 :N703iD :7XQi.j2w
#224 [七瀬]
この沈黙に我慢も限界。
『原田さ…』
「ごめん。」
遮られる。
“ごめん”?
なにが“ごめん”なん?
「嘘ついてた…。」
:09/03/24 08:20 :N703iD :z5682swI
#225 [七瀬]
嘘?
“奥さんが死んだ”
ってゆうのは嘘?
「ほんまは子供なんておらんねん。
8年前……。
まつりが小学生の時、流産した。」
:09/03/24 08:24 :N703iD :z5682swI
#226 [七瀬]
なに…それ。
安心は束の間。
“奥さんが死んだ“
のが嘘なんやなくて、
“子供がおる”
ってゆうんが嘘?
そんなん…、
なんでいまさら。
がく然とする。
:09/03/24 08:27 :N703iD :z5682swI
#227 [七瀬]
私が今まで見てきたのは
夢やった。
家族に囲まれて笑うあの人は
ただの幻やった。
なんのために願ったんだろう。
“幸せになっ”
:09/03/24 08:30 :N703iD :z5682swI
#228 [七瀬]
「あの時…。
まつりが“幸せにな”ってゆうてくれた時。
おっちゃん……心底、誓った。
なのに……」
あの人は声は震えている。
私は何も言わない。
言えない。
:09/03/24 08:33 :N703iD :z5682swI
#229 [七瀬]
それは、
あの人に同情して何も言えないんじゃない。
感情がない。
言わば、脱け殻状態。
あの人は続けた。
「買い物行ってた時、急に…。
普通にしてたのに。
転んだわけやない。無理してたわけでもない…。」
:09/03/24 08:38 :N703iD :z5682swI
#230 [七瀬]
声の震えが増してゆく。
「まつりには言われへんかった。
あんな喜んでくれてたのに。」
ここで、やっと悲しさが襲って来た。
あの人も苦しかったんや…。
泣きたかったんや。
私以上に。
:09/03/24 08:41 :N703iD :z5682swI
#231 [七瀬]
「それから、自殺しようとした。
その時は未遂で終わったけど…。
でも彼女は完全に病んでた。
何回も何回も……
止めても止めても、死のうとした。」
途中から、すすり泣きを入れつつ、話す彼。
私の目も自然と潤みだす。
:09/03/24 08:47 :N703iD :z5682swI
#232 [七瀬]
「彼女の両親に、相談すると
“病院入れろ”と一言、
言われただけやった。」
冷たい両親。
怒りを覚える。
「俺、それだけはいやで…
俺の両親にゆうたら協力してくれた。
だから神野商会を止めた。
彼女となるべく一緒にいてあげよう思て。」
:09/03/24 08:52 :N703iD :z5682swI
#233 [七瀬]
途中、あの人が自分のことを
“おっちゃん”ではなく
“俺”とゆうてるのに気付いた。
それだけ余裕がなくなってんのかな?
『気付かんで、ごめん。』
すると、あの人は首を振った。
:09/03/24 08:57 :N703iD :z5682swI
#234 [七瀬]
「アホ。
お前は自分のことだけ考えてればいい。」
そう笑ったけど、今にも壊れてしまいそうだった。
「それから、まもなくして
癌…見つかった。」
なんとなく予想はしていた。
:09/03/24 09:01 :N703iD :z5682swI
#235 [七瀬]
“まもなく”とゆうても、あの人が神野商会を辞めて3年が経っていた頃。
私が中2の時だった。
私が奏と出会って1年が過ぎてた時期。
あの人の奥さんに癌が見つかった。
乳ガンだった。
:09/03/24 09:05 :N703iD :z5682swI
#236 [七瀬]
心の病は、癒されても
体はどんどん蝕まれてゆく。
手術を受けた。
結果は一応、成功。
でも1年後、転移した新たな癌が見つかったらしい。
医者には、“手遅れ”と言われた。
それから抗がん剤だけの治療が始まった。
:09/03/24 09:09 :N703iD :z5682swI
#237 [七瀬]
髪は抜け落ち、
頬は痩せこけ…
癒えた心の傷も、また開きだす。
あの人は頑張った。
だけど
とうとう先月
彼女は屋上から飛び降りた。
:09/03/24 09:12 :N703iD :z5682swI
#238 [七瀬]
飛び降りようが、しなかろうが、もう長くはなかっただろう
と医者は言ったとゆう。
「彼女……由利は最後の力を振り絞ってでも、
少しでも早く…
楽になりたかったんやな。」
遠くを見ながらあの人は言った。
:09/03/24 09:16 :N703iD :z5682swI
#239 [七瀬]
今度は同情して、何も言われへんかった。
「葬式はあっとゆう間やった。
あれ、不思議なもんで
葬式中は慌ただしくって悲しみも忘れてまうのに、
終わったら、普通の何倍も悲しくなる。」
そう笑うあの人に胸がキュッと締め付けられた。
:09/03/24 09:24 :N703iD :z5682swI
#240 [七瀬]
「俺も死んじゃおっかなーって思た時、
まつりの顔が浮かんで、
会いたなった。
だから今日、会いに来た。」
そうゆうと、真っすぐに私を見つめた。
『…死なんといて。』
:09/03/24 09:29 :N703iD :z5682swI
#241 [七瀬]
気が付けば、私の手と頬は涙でグッショリ。
『死んだらアカン。
死んだら…』
涙で詰まる。
「ありがとう。」
そう涙をすくってくれる。
これじゃ、どっちが慰めてんのか分からん。
:09/03/24 09:33 :N703iD :z5682swI
#242 [七瀬]
「でもな、まつり。
俺…許されへんねん。
由利が。
なんで自分から命を断ってしまったのか。
さっき、まつりがゆうたやろ?
“忘れられへんから、許されへん”って。
俺もそうや。
由利のこと愛してた。
だからこそ許されへんねん。
なんで俺を置いてってしまったんや…。
それに……」
:09/03/24 15:49 :N703iD :z5682swI
#243 [七瀬]
『それに…?』
「それに、俺自身も許されへん。
なんで、もっと由利を支えられなかったんや。
子供も守られへんかった。
もし、あの時……
流産なんかしてなかったら由利も俺も人生変わってた。
もっともっと頑張れた。」
:09/03/24 15:53 :N703iD :z5682swI
#244 [七瀬]
頑張れた?
人生変わってた?
彼の言うとおり、
流産してなかったら、違う運命やったやろうな。
私も彼と、離れなくて済んだ。
みんなみんな幸せやったんや…。
『…そやけどっ!』
:09/03/24 16:04 :N703iD :z5682swI
#245 [七瀬]
私を見る原田さん。
『死んだら、なにもかも終わりやでっ!?
オシャレも出けへんし、
おいしいもんも食べられへん。
遊園地にも行かれへんねんで!?』
わわ、何言ってんねん私。
訳分からん!
そう思いつつも止まらない憎らしい口。
:09/03/24 16:15 :N703iD :z5682swI
#246 [七瀬]
『それにっ……
それにな!
原田さんの大好きな奥さんはもう、いいひん。
でも大好きな人が死んで、
“あの人が死んだから、
自分も死ぬ”とか
いちいちゆうてたら、
世界中の人口おらんくなるわっ!
人類滅亡やわ!!』
:09/03/24 16:22 :N703iD :z5682swI
#247 [七瀬]
かなり、的外れなことゆうてるよな?
自分でわかってる。
やけど、
どうしても彼に生きる希望を見てほしかった。
こんなこと、ゆうて
引き止められるのか、分からへん。
ってか絶対無理!
でも、言わずにはいられへんかった。
:09/03/24 16:26 :N703iD :z5682swI
#248 [七瀬]
「プッ、ハハハハハハ…」
あ…笑ってる?
てか爆笑やん。
ウケ狙ったわけとちゃうねんけど
むしろ結構、真剣やってんけど……
ま、いっか。
彼が笑ってくれるならええ。
:09/03/24 16:30 :N703iD :z5682swI
#249 [七瀬]
腹を抱えながら、まだ笑っている。
「ほんま…ほんまやわ!
まつりのゆう通り!!
人類滅亡するわあ〜!」
笑い過ぎてヒィヒィゆうてる原田さんに
さっきまでの気持ちは
どこへやら。
『はい。
戦争とか、新型インフルエンザとか、隕石とかゆうてる場合とちゃいますー!』
:09/03/24 16:36 :N703iD :z5682swI
#250 [七瀬]
少し膨れて見せた。
「うん、ほんまそやな。
やっぱりまつりに会えて良かった。
なんか光が見えた気がするわ。」
『そ、それは良かったなっ!』
ほんまに良かった…。
『あと…』
:09/03/24 16:41 :N703iD :z5682swI
#251 [七瀬]
「ん?
“あと”…なんや?」
『もし、
原田さんが死んだら、私が頭おかしなるわ…。』
真剣な目付きに戻る。
『それに、私はずっと思ってた。
“この花火、原田さんも見てるんかな?”って。
天神祭の花火を見るたびに。』
:09/03/24 16:46 :N703iD :z5682swI
#252 [七瀬]
「花火は見えへん。
俺の家からは見えへんな、残念ながら。
でも
聞こえてた。
花火がバーン!!
って弾ける音。
ほんま小さくやけどな。」
そう彼は笑った。
:09/03/24 16:50 :N703iD :z5682swI
#253 [七瀬]
「ほんまにありがとう、まつり」
そう言って、彼は去って行った。
新たな光へと向かって。
私は、もう忘れた。
彼との記憶ではなく、
その記憶をいつまでも引きずっていた私を。
:09/03/24 16:58 :N703iD :z5682swI
#254 [七瀬]
上を見上げる。
天神祭よりも、かなり小規模な今夜の祭の花火。
目を閉じる。
耳に神経を集中させる。
バーン!!
パチパチパチパチ…
上がった花火が、燃え尽きる音が聞こえる。
:09/03/24 17:05 :N703iD :z5682swI
#255 [七瀬]
さようなら、初恋の人。
さようなら。
私の恋花火…
:09/03/24 17:07 :N703iD :z5682swI
#256 [七瀬]
『ごめんっ!ほんまごめんなあ、麻友ちゃん!!』
「ええよ。
だって原田さんと話せたんやろ?」
『うん!おかげさまで。
けじめ、つけれた。』
「じゃあ良かったやん。
私は、まつりが原田さんとちゃんと話せたなら、別にええねん。」
『麻友ちゃん…ほんまにありがとう。』
:09/03/24 19:56 :N703iD :z5682swI
#257 [七瀬]
今は、もう店も潰し終わったところ。
私がいなくなった後、
麻友ちゃんが金魚の店番をしてくれた。
「なに水臭いことゆうてんのよ。」
そう笑ったのも、束の間。
「まつり。」
深刻そうな面持ちで話し始めた。
:09/03/24 20:00 :N703iD :z5682swI
#258 [七瀬]
『ん?』
「あんた忘れてるやろ。」
『え?何を??』
ため息をつく麻友ちゃん。
「奏君。」
『あっ!!』
アカン…。
完全に忘れてた。
:09/03/24 20:03 :N703iD :z5682swI
#259 [七瀬]
『ごめん!!
もっかい行ってくる!』
そう言いながら、
私の足はボールへと急いでいた。
「はぁーい。
今日、まつりは給料なしやからなあー。」
遠くから、意味深な言葉を麻友ちゃんが発していたけど、
とりあえず頷いて、先へ走ってゆく。
:09/03/24 20:07 :N703iD :z5682swI
#260 [七瀬]
『奏!』
「まつり?」
『あれ、遊希…
奏っ!奏は!?どこにおんの?』
「え、奏なら先、帰ったよ。
体調悪いとかゆうて。」
:09/03/24 20:11 :N703iD :z5682swI
#261 [七瀬]
『嘘やんっ!?』
「そんなしょうもない嘘つかんわ。」
『そぉか…
ならええわ。ごめんな急に。』
しょうがない。
麻友ちゃんとこ戻ろか。
また奏にはメールしとこ。
:09/03/24 20:14 :N703iD :z5682swI
#262 [七瀬]
「待てっ!!」
遊希に引き止められる。
『なに?』
振り向く。
「奏と…なんかあったんか?」
『遊希には関係ない。』
:09/03/24 20:17 :N703iD :z5682swI
#263 [七瀬]
「関係あるわ、ボケ。
奏がいきなり帰るとか言いだすから、
俺、カステラの前場から、ボールに行かされるし。
なんかお前も、急におらんくなったみたいやし…。」
『遊希、ほんまごめん。
あんたにも迷惑掛けててんな。』
「まあ…ええけど。
で?何があったん?」
:09/03/24 20:23 :N703iD :z5682swI
#264 [七瀬]
黙り込む私。
「言いたないなら、別に言わんでえ…」
『私!
…私、奏を裏切ってん。』
遊希の目が大きく見開かれる。
「どうゆう…ことや。」
:09/03/24 20:34 :N703iD :z5682swI
#265 [七瀬]
『奏を裏切った……
それだけ。』
「それだけって…
ふざけてんのか、お前。」
『ごめん、それじゃ。』
そう言って、
その場を素早く立ち去った。
「まつり…なんでなんや。」
:09/03/24 20:37 :N703iD :z5682swI
#266 [七瀬]
その夜、奏にメールした。
“今日はごめんな。
会って話したい。”
それから眠りについた。
次の朝、奏からメールは来ていなかった。
やっぱ怒ってるかな。
当たり前か。
でも、奏。
私は決めてん。
もう私は答え出てるよ。
:09/03/24 20:46 :N703iD :z5682swI
#267 [七瀬]
それから次の日、
またその次の日……
奏からメールは来(コ)うへんかった。
毎朝、問い合わせしてる。
私のこと避けてるな。
でも、明日は祭がある。
逃げられへんで、奏。
一人で納得して、寝床についた。
:09/03/24 20:51 :N703iD :z5682swI
#268 [七瀬]
ガタンゴトン
ガタンゴトン…
「今日はいつもより、暑いなあ。」
そうゆうお母さんの首筋は汗で光っていた。
『ほんま真夏日どころとちゃうわ。』
そんな私も、びっしょり。
「次の駅で降りんで。」
:09/03/25 19:11 :N703iD :zoW2wVms
#269 [七瀬]
扉を開くと、
ふわ〜んと生暖かい風が顔に吹きかかった。
「はい、これ。」
『重っ!』
「そりゃ、ハチミツ入ってんもん。
じゃあこっち持つ?」
そう牛乳が6、7本入った、ビニール袋を見せた。
『…遠慮しときます。』
:09/03/25 19:16 :N703iD :zoW2wVms
#270 [七瀬]
「文句言わんと、はよ歩き。」
そう言われ、渋々歩き出す。
『まだ〜?まだ着かへんの?』
汗でベタベタして全身が気持ち悪い。
「後5分や!」
お母さんは言う。
:09/03/26 21:36 :N703iD :a//mBGPc
#271 [七瀬]
あの〜。
さっきから、ずっとゆうてるんですけど。
5分前に聞いた時も「後5分」
10分前に聞いた時も「後5分」……
重たい荷物に、
ガンガン照ってる太陽。
体力も限界に近づいていた。
:09/03/26 21:42 :N703iD :a//mBGPc
#272 [七瀬]
『なあ〜、
ちょっと休憩しよぉや。
ほら、そこの喫茶店で…』
「後5分やから!!」
『さっきから、5分5分ゆうて……、
もう20分近く経ってるわ!』
「そんなんゆうたって…
毎年来てるねんし、駅から遠いん、まつりも知ってるやん。」
:09/03/26 21:47 :N703iD :a//mBGPc
#273 [七瀬]
アカン。
もうアカンわ…
クラクラする。
「だいたい、あんたは…」
お母さんの小言が始まっても、
反論する力がない。
意識が朦朧としてきた。
ビニール袋を握っている手も、無意識にゆるむ。
:09/03/26 21:52 :N703iD :a//mBGPc
#274 [七瀬]
バサッ
「まつり?
まつり!」
あれ?
私、どしたんや。
私の目には、アスファルトが映る。
耳には、お母さんの
「まつり!まつり!」とゆう騒がしい声。
:09/03/26 21:55 :N703iD :a//mBGPc
#275 [七瀬]
「救急車…
そうや、救急車呼ぼ!」
救急車?
あ、そっか。
私、倒れたんか。
こんな状況なのに、
お母さんより冷静な自分がいる。
ピーポーピーポー
という音を最後に記憶は途絶えた。
:09/03/26 21:59 :N703iD :a//mBGPc
#276 [七瀬]
『…うーん、ん!?』
目をパチッとさせる。
ここどこ?
え、えぇ!?
考えろ
考えろ……
ここはどこなんや。
んー、さっぱり。
:09/03/26 22:02 :N703iD :a//mBGPc
#277 [七瀬]
軽く焦る。
だって、
真っ白な部屋で、
真っ白なベッドに横たわってんねんもん!
「あら、神野さん。
目ぇ、覚めはってんな。」
ガラッとドアが開いたと思ったら、
真っ白な服を来た女の人。
:09/03/26 22:06 :N703iD :a//mBGPc
#278 [七瀬]
あぁ、ここは病院かぁ。
で、目の前には看護士さん。
で、私は…
そう!そうや!!
倒れたんや!
なんか暑いなあ
って思たら、力が抜けてきて……
:09/03/26 22:09 :N703iD :a//mBGPc
#279 [七瀬]
それで、お母さんが……
「まつり!意識戻ってんな。
心配したわあ。」
お母さんが病室に入ってきた。
「まつり、倒れてんで。
熱中症で。」
そうなんや。
「でも良かったぁ。
ほんま良かった。」
:09/03/27 15:17 :N703iD :VBS6fHZc
#280 [七瀬]
心底、安心したように
お母さんは言った。
「明日1日だけ、安静にしていれば、退院ですよ。」
看護士さんが笑った。
『明日ってことは…』
「行かれへんよ。」
私の言葉は遮られた。
「祭には行かれへん。
おばあちゃんにはお母さんからゆうとく。」
:09/03/27 15:25 :N703iD :VBS6fHZc
#281 [七瀬]
『…うん、わかった。』
「ゆっくり休み。
金魚なら、麻友がやってくれてるから。」
そう言って、お母さんは病室から出ていった。
暇…やなあ。
シーンと静まり返った室内。
テレビを見ても、つまらへん。
:09/03/27 17:39 :N703iD :VBS6fHZc
#282 [七瀬]
そうやってノロノロと時間が過ぎる。
「もう就寝時間ですよー。」
イヤホンはしてるし、
個室やから、
苦情が出ることはない
と思うけど……
つまらないのも、あったのでテレビを消した。
携帯を開くと、
PM 9:12
:09/03/27 17:46 :N703iD :VBS6fHZc
#283 [七瀬]
一番、忙しい時間帯やん。
ディスプレイを見て思う。
ふと見るとメールが来ている。
開くと、
“大丈夫か?”
遊希からだった。
:09/03/27 17:49 :N703iD :VBS6fHZc
#284 [七瀬]
その一通だけだった。
奏も聞いてるはずやのに。
メールくらい、くれたってええやん。
そりゃあ、
私が悪いのは、分かってる。
分かってるけど…
この熱帯夜とモヤモヤした気持ちのせいで寝付けない。
:09/03/27 17:54 :N703iD :VBS6fHZc
#285 [七瀬]
気が付けば、もう11時過ぎ。
祭が、ちょうど終わって…
潰し始めてるころかな。
携帯を開いてメールを打つ。
遊希には、
“さっきはメールありがとう。
明日も行かれへんけど、
すぐ退院出来るし、大丈夫や。”
:09/03/27 17:58 :N703iD :VBS6fHZc
#286 [七瀬]
あと麻友ちゃんにも。
“今日は、ありがとう。
明日も行かれへんから、お願いします。
金魚ばっか、さしてごめんなあ。”
奏には送らへんかった。
その代わりに電話してみる。
プルルルルル…
:09/03/27 18:02 :N703iD :VBS6fHZc
#287 [七瀬]
出ぇへん。
ため息をつきながら、携帯を閉じる。
もう、潰し終わって
大竹さんと遊希と一緒に
トラックで、帰っているはず。
なんで、出ぇへんねん。
やっぱ避けてんねや。
でもこんな時くらい、
怒っててもいいから声、聞きたかった。
:09/03/27 18:07 :N703iD :VBS6fHZc
#288 [七瀬]
プルルルルル…
「奏、携帯なってる。」
「ああ、まつりからや。」
「出ぇへんの?」
「うん。」
プルルルルル…プツッ
:09/03/27 18:12 :N703iD :VBS6fHZc
#289 [七瀬]
カシャ
「なんや、もう目、覚めたんか。」
『…遊希。
なにしてんのよ。』
「あーバレた?」
そう笑う遊希の手には携帯。
:09/03/27 18:27 :N703iD :VBS6fHZc
#290 [七瀬]
『…何が?』
嫌な予感がして、
遊希をジロリと睨む。
「まつりって寝顔の方が
かわいいな」
そう、携帯を見せてきた。
瞬間、私は遊希の手から携帯を奪っていた。
「ああっ!?なにすんねん!」
:09/03/27 18:31 :N703iD :VBS6fHZc
#291 [七瀬]
『“なにすんねん”は
こっちのセリフや!』
“カシャ”ってゆう音は
シャッター音やったんか!
まったく、油断も隙もないわ!!
ふぅー、
これで安心や。
“削除しました”
携帯を遊希に返す。
:09/03/27 18:35 :N703iD :VBS6fHZc
#292 [七瀬]
「せーっかく、
俺の新しい待ち受けにしよぉと思ったのに。」
『せんでええわ!』
「まあ、そうスネんなって。
体調はどうや?
って、今のお前見てたら、元気っぽいけど。」
『…めちゃめちゃ元気や。』
:09/03/27 18:53 :N703iD :VBS6fHZc
#293 [七瀬]
「“めちゃめちゃ元気や”って…
全然、元気ちゃうやん。
気のない声出して……」
『なあ、遊希!』
遊希の目を見る。
『…奏が電話に出てくれへん。
電話どころか、メールも返してくれへん。』
「まつり…」
:09/03/27 18:58 :N703iD :VBS6fHZc
#294 [七瀬]
目をそらす遊希。
「まつり、それは……」
『分かってる!
…私が裏切ったから。
私が悪いってゆうのも、分かってる。
でもっ!
…なんかもう嫌や。』
やば、泣きそう。
:09/03/27 19:02 :N703iD :VBS6fHZc
#295 [七瀬]
「まつり…」
『遊希、知ってんのやろ。
…昨日、奏が私の電話に出ぇへんかったこと。
奏と一緒やったんやろ?』
遊希は迷っている様子。
「…うん。知ってた。
一緒におったよ、奏と。」
:09/03/27 19:07 :N703iD :VBS6fHZc
#296 [七瀬]
『そっか。なんかごめんな。
遊希に、こんなん聞いても困らすだけやのにな…』
どっかで期待してた。
もしかしたら、奏に携帯に出られへん理由があったんとちゃうかな?
って、思ってた。
でも遊希も一緒におって私から電話したの知ってる。
奏は私の電話、
知って、無視したんや。
:09/03/27 19:13 :N703iD :VBS6fHZc
#297 [七瀬]
分かってても、ショック。
もう奏とは、終わりなんかな?
アホやな、私。
私は奏と
“やり直す”つもりやった。
ほんまアホやわ。
:09/03/27 19:20 :N703iD :VBS6fHZc
#298 [七瀬]
「俺は…」
『遊希、もういいねん。
なんもゆわんといて。
何回も言うけど
悪いのは私。
奏は、なんも悪ない。』
「これから、どうするんや。」
:09/03/27 19:24 :N703iD :VBS6fHZc
#299 [七瀬]
『とりあえず、明日には退院できるし、
次の祭…ちょうど一週間後かな?
一週間後、行くよ。
それで、奏と話し合う。』
「なに話し合うん?」
『謝って、やり直せたらいいなって思う。』
「本気なんか。」
:09/03/27 19:29 :N703iD :VBS6fHZc
#300 [七瀬]
『うん。
やり直せるか分からんけど、頑張ってみる。』
「…アカン。」
『遊希?』
「止めとき。」
こんな怖い目の遊希、
初めて見た。
:09/03/27 19:33 :N703iD :VBS6fHZc
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194