夏祭り、恋花火
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#300 [七瀬]
 
『うん。

やり直せるか分からんけど、頑張ってみる。』




「…アカン。」


『遊希?』



「止めとき。」

こんな怖い目の遊希、
初めて見た。

⏰:09/03/27 19:33 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#301 [七瀬]
 
『遊希の言うてることは、分かってる。

そんな都合いいことアカンよな。』


「違う!
そんなんゆうてんのと、ちゃう!!」




コンコン

「神野さん?
入りますよー?」
 

⏰:09/03/27 19:36 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#302 [七瀬]
 
 
「じゃあ、もうそろそろ行くわ。
体調、崩さんようにな。」

『ありがとう。
遊希も頑張ってな、カステラ。』


「おう!」

そう笑った後、


「ほんまに、
もう奏には手ぇ、引きや。」

⏰:09/03/27 19:41 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#303 [七瀬]
また怖い目に戻って、病室を出ていった。


「気分はどうですか?」

お医者さんの質問に答えてる間にも、上の空。


“奏には手ぇ、引きや”

遊希の言葉がこだまする。


奏から手を引く?


そんなん嫌や。
 

⏰:09/03/27 19:46 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#304 [七瀬]
 
 
 
私には


もう奏のいない生活なんて考えられへんの。


せっかく、あの人が吹っ切れたのに、

今度は奏?


もう、あんな思いはしたない。
 
 

⏰:09/03/27 19:49 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#305 [七瀬]
 
 
 
「退院おめでとぉ!」


『ありがとう。
でもたかが熱中症で倒れて2日間、寝込んでただけやで?
大げさやわ。』


「何ゆうてんの。
はい、いっぱい食べ。
いっぱい食べて体力つけなさい。」

お母さんは、ステーキをテーブルに置いた。

⏰:09/03/27 21:07 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#306 [七瀬]
 
『おいひい〜。』

一口含むと、柔らかい舌触りと肉汁が広がった。


「そう、良かった。

まつり、ごめんな。
お母さん、気付いてあげられなくって。」


ステーキを飲み込んだ。

『ええよ。仕方ないやん。』
 

⏰:09/03/27 21:11 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#307 [七瀬]
 
それから
気持ち良くって、
ついお風呂に1時間以上、入ってしまった。

やっぱり我が家が一番。


自分の部屋に入る。

うわ〜、
めっちゃ久々やん!

部屋の中にある全てが、懐かしく感じた。
 
 
ふと見ると携帯が光ってるのが見えた。

⏰:09/03/27 21:16 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#308 [七瀬]
 
“退院おめでとう。”


ほんま遊希も大げさや。


“ありがとう!”

と送り返すと、


しばらくして遊希から電話。

『もしもーし。』


「まつり、退院おめでとう。」

⏰:09/03/27 21:19 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#309 [七瀬]
 
『遊希もお母さんも、おーげさや。』


「それだけ心配してんの。まつりのお母さんも、

俺もな。」


『…ありがと。』


「どーいたしまして。

それよりどう?
2日ぶりの我が家は。」
 

⏰:09/03/27 21:22 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#310 [七瀬]
『たった2日間おらんかっただけやのに、懐かしい。不思議な気持ちや。』


「そんなもんや。

それより、明後日。
明後日どう?」


『明後日?なんかあんの?祭はないやろ?』


「明後日、ヒマ?」
 

『ヒマってゆわれたら、
ヒマ…やけど。』
 

⏰:09/03/27 21:27 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#311 [七瀬]
 
「じゃあ決まりや!」


『は?決まりって…』


「昼の11時。
まつりの家に迎えに行くから、待ってて。」


『え!ちょっと遊希!?』


「じゃあ、明日もゆっくり休めよ。
明後日は、忙しいでー。
祭以上に。」
 

⏰:09/03/27 21:30 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#312 [七瀬]
『ちょ…待ってってば!
遊…希。』


プツッ

ツーツーツーツーツー


一方的に切られてしまった。

虚しい音だけが、私の耳に残る。


なんやねん、あれ。

意味分からんまま、眠りについた。

⏰:09/03/27 21:36 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#313 [七瀬]
 
 
 
そして明後日。


ピーンポーン


『はーいっ。』

ドアを開けると


『ほんまに来たん!?』


「冗談やと思った?」

ニカッと笑う遊希。

⏰:09/03/27 22:06 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#314 [七瀬]
 
『いや…冗談とゆうか…』


「用意出来たか?」

『用意って……』


「もちろん出掛ける用意。」



「あらあら!遊希くん!!」

その時、運悪く?
お母さんが登場した。
 
 

⏰:09/03/27 22:11 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#315 [七瀬]
「どぉも、こんにちは。」


「こんにちは〜。

もしかしたら、
これからまつりとデート!?

ごめんねぇ、遊希くん。
この娘、グータラして、まだ顔も洗ってないのよ!

ここで待つのも、あれだし…
あがってちょうだい!」


お母さんは、
かーなーり一方的、
かつ一気にしゃべった。

⏰:09/03/27 22:16 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#316 [七瀬]
 
『顔は洗ったし!
着替えてないだけで…

ってかデートちゃうわ!』


そんな私の言い分は無視され、
遊希は初めて私の家に足を踏み入れた。


『と、とりあえず着替えてくるから!』

バタン!

そう言って、部屋へ戻る。

⏰:09/03/27 22:20 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#317 [七瀬]
 
なにあれなにあれ!

来るとは言ってたけど、
ほんまに来るか!?


ドア越しに聞こえる
お母さんと遊希の笑い声。

ほとんどお母さんの声やけど。


そんな二人とは裏腹に、心臓バクバクな私。


えーとっ!
とりあえず着替な!!

⏰:09/03/27 23:55 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#318 [七瀬]
 
タンスを片っ端から開けて、あさる。


あ、あった!

少し大人っぽい白いワンピースを取り出す。


軽く化粧をする。


「まだかー、まつり。」


『ま、待って!』

最後にグロスを塗る。

⏰:09/03/28 00:00 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#319 [七瀬]
 
『おまたせっ。』


「よし、行こか!!

じゃあお母さん、
麦茶ありがとうございました。」


「はーい。気を付けて。
またおいでね、遊希くん。」


お母さんに見送られ、
家を後にした。
 

⏰:09/03/28 00:03 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#320 [七瀬]
 
しばらく歩いて、
近所のバス停に着いた。


『バス乗んの?

ってか、どこ行くんよ。』


「うーん、70点。」

私の質問をスルーして、
遊希は言った。


『え?』
 
 

⏰:09/03/28 00:10 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#321 [七瀬]
「後、
髪巻いてくれたら90点やのに。」


なーんだ、そうゆうことか。

『遊希が急かすからやろ。』

「じゃあ、時間あったら巻いてた?」


『さあ、どうかな。』

ちょっと意地悪して、はぐらかす。
 

⏰:09/03/28 00:13 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#322 [七瀬]
 
 
「これが奏とのデートやったら、
急かされても、巻いとったんやろな。」

独り言のように遊希は言った。


『なにゆうてんの。

ってゆうか、
デートちゃうってゆうてるやん!』


「そぉやったな。」
 

⏰:09/03/28 00:17 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#323 [七瀬]
寂しく笑う遊希。


『あとは…になるんよ。』


「なんて?」


『だからっ!

あとは、
どうやったら100点になんの?』


「あ、ああ。」

不意を突かれた様子。
 

⏰:09/03/28 00:21 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#324 [七瀬]
「そぉやな。」

見定めるように、
私を下から上まで見る。


「もぉちょっと
化粧濃くしてくれたら…」

『却下!』


ハハッと遊希が笑った。

私も吊られて笑う。


なぜか、この瞬間が大切に思えた。

⏰:09/03/28 00:26 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#325 [七瀬]
 
『あ、バス来たで!』


プシュー

扉が開いた。


足をバスへと一歩踏み出す。

『遊希?乗らへんの?』


ガバ
 

「やっぱり変更。」 
 

⏰:09/03/28 02:15 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#326 [七瀬]
 
そう言われ、
遊希に手を引っ張られたのだと気付く。


『じゃ、じゃあどこに行くんよ!?』

元々、行き先も知らないのに
急に変更とかされて……

ますます分からん!


「まつりと、
ゆーっくり話せるところ。」

⏰:09/03/28 02:19 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#327 [七瀬]
今度は真剣にゆう遊希。


少し、たじろいでしまう。


『…ゆっくり話せるところってどこよ。』


「うーん、知らへん。」

『ファミレスとか、
喫茶店とか?』


「いいや、違うな。」


『じゃあどこ?』

⏰:09/03/28 03:44 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#328 [七瀬]
 
うんざりと聞く私に、
遊希は


「あっこ。」

指差して言った。


その指の向こうには






……ホテル?
 
 

⏰:09/03/28 03:47 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#329 [七瀬]
こ、これは!

もしかして…
もしかすると!!


イケナイ関係ってやつ!?


『ちょっ、ちょっと遊希!ふざけんのも、ええ加減にして!
そんな真っ昼間から、なに考えてんのよ!

しかも私には奏がおるし……

ほんまにアカンって!!』
 

⏰:09/03/28 03:51 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#330 [七瀬]
 
 
10分後。


「なあ、まつり。
奏は忘れ、な?」

私は遊希に迫られてる。


『…遊希。』

あまりにもの真剣な眼差しに流されてしまいそう。


「な、俺のゆう通りにし。絶対に後悔せんから。
ってか俺がさせへん。」

⏰:09/03/28 03:55 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#331 [七瀬]
 
そんなことゆわれたら…


ごめん。
ごめんな、奏。


『…遊希。

私、遊希のゆう通りに…』



バンッ
 
 
 
『いったー!』
 

⏰:09/03/28 03:59 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#332 [七瀬]
 
 
「おー!ホームランや!!
ホームラン!走れ走れ!」


遠くで聞こえるオッサンの声。


「大丈夫か、まつり!?」


『痛い痛い痛い!
ぜんっぜん大丈夫とちゃうわ!!』


見事に私の額にホームランしたボール。

⏰:09/03/28 04:03 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#333 [七瀬]
 
『だから、川原なんて嫌やってゆうたやんか!』


「ごめんごめん…。
それより、


お前、ほんま最高やな。」
含み笑いする遊希。


『笑うな!』

言った瞬間、遊希は吹き出した。
 

⏰:09/03/28 04:08 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#334 [七瀬]
一回、吹き出してしまうとなかなか止まってはくれないみたいで
遊希はお腹を抱えてる。


「お腹…ほんま最高!
おもろすぎやろ!!」


『そんなことで最高ってゆわれても…』

ブーと膨れる。


「すみませーん。
ボール、そっちに行ってませんか?」
 

⏰:09/03/28 04:12 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#335 [七瀬]
 
 
「あれ、もう帰って来たん?
デート終了?」

家に入っての第一声。


「いや〜、
さっき、まつりが…ブッ」


“デートちゃう!”

“笑うな!”

言い返す気力をすっかりなくしてしまってる。
 

⏰:09/03/28 11:47 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#336 [七瀬]
おとなしく、遊希とお母さんのやり取りを聞いてる私。


「アカン…
思い出したらまた笑えてきた。」


もう好きにして。

好きなだけ笑って下さい。


「あ、そうそう。
おばさん救急車、貸して下さい。」
 

⏰:09/03/28 11:51 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#337 [七瀬]
遊希は消毒液を取り出した。

「ちょっと痛いかもしれんけど我慢してな。」


ピクッ

「痛いか?」

消毒液が傷に染み込んで、ヒリヒリと痛んだ。

『ちょっと痛いかな…』


だけど、痛さの中に遊希の優しさが溢れているようで、うれしく思えた。

⏰:09/03/28 11:56 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#338 [七瀬]
  
 訂正


× 「あ、そうそう。
おばさん救急車、貸して下さい。」

〇 「あ、そうそう。
おばさん救急箱、貸して下さい。」

 
“救急箱”が“救急車”に間違っていました。
 
 

⏰:09/03/28 11:59 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#339 [七瀬]
 
「私、買い物に行ってくるからあ〜。」


お母さんは、なにを勘違いしたのか、
いらない気を利かした。


『ごめんな。
お母さん、なんか勘違いしてるみたいで…』


「はい、終わった。」


『…ありがとう。』
 

⏰:09/03/28 20:12 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#340 [七瀬]
 
 
「あんな、まつり…」


しばらくの沈黙ののち、
遊希が口を開いた。

「さっきの話の続きやねんけど。」


『…うん。』


さっきの話の続き……

嫌な予感。
 
 

⏰:09/03/28 20:14 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#341 [七瀬]
 
「ほんまに何回もゆうけど、奏とは別れ。」


さっきは流されそぉになったけど、今度は違う。

冷静になれ。

と自分に唱える。


『なんで?
なんで、そんなことゆうの?』


「知らん方がええ。」
 

⏰:09/03/28 21:10 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#342 [七瀬]
『知らん方がええって…

そんなんじゃ、納得でけへん!!』

思わず、身を乗り出す。

「知らん方が幸せなこともある。」

遊希は冷たく言った。


『…分からん。
もう分からへんわ!

奏も、


遊希も……』

⏰:09/03/28 21:14 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#343 [我輩は匿名である]
>>2-60
>>61-120
>>121-180
>>181-240
>>241-300

⏰:09/03/28 21:52 📱:W61SA 🆔:QPIROulk


#344 [七瀬]
 
匿名さん


ありがとう(*^□^*)
 

⏰:09/03/29 00:34 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#345 [七瀬]
 
なんだか、悲しい。


「知りたいか?」 


『知りたいってゆうか、
気になる!

いきなり別れろなんてゆわれて、
納得出来る人なんておらんやろ。』


「まあ…な。」

遊希は一人だけ納得している。

⏰:09/03/29 00:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#346 [七瀬]
 
「じゃあ、話そっかな。」


そう言いながらも、
なかなか話し始めない遊希に苛立つ。

『遊希、言いたいことあるんやったら、はっきり…』


「泣くなよ。」

え?


「頼むから、泣かんとってくれ。」

⏰:09/03/29 00:42 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#347 [七瀬]
 
やっぱり、良い話ではないみたい。


「約束できるか?
絶対に泣かへんって。」

そんなん、聞いてみな分からへん

そう思ったけれど

『…分かった。』

と答えた。


遊希の真剣さは、さっきよりも増したみたい。

⏰:09/03/29 00:46 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#348 [七瀬]
 
 
「あのな…」


怖い

怖い怖い…


いざ聞こうと思うと、
言い知れぬ恐怖が襲ってくる。


“奏と別れるかも”

とゆう恐怖が私の心を支配する。
 

⏰:09/03/29 00:50 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#349 [七瀬]
 
 
「あの日…
まつりが倒れた日。

実は俺、奏と一緒じゃなかった。」


少し息が荒くなる。

「俺は大竹さんと二人で
トラック乗って帰った。


もちろん最初は奏も一緒に帰るつもりやった。

でもあいつとは、一緒に帰らへんくなった。」
 

⏰:09/03/29 00:56 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#350 [七瀬]
 
なぜ?

そう聞きたかったけれど、聞けない。


なにも話されへん。


遊希は続けた。

「だから俺、知らんねん。

なんで奏が電話に出られへんかったのか。

一緒におらんかったからな。」
 

⏰:09/03/29 01:00 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#351 [七瀬]
 
じ、じゃあ…

奏が知って私の電話を無視したわけじゃないんや!


そう喜んだのも束の間。



「けど大体、予想はついてんで。
なんで、奏が電話に出られへんかったのか。」
 

心臓がどんどん加速してゆく。

⏰:09/03/29 01:04 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#352 [七瀬]
 
『な…なんで?』

やっとの思いで口を開く。


「こんなこと言いたないけどな。」

遊希は念を押した。


「あいつには他に女がおる。」
 
なんとなく思ってた。

電話に出てくれなかった
あの日から、心の底のどこかで感じてた。

⏰:09/03/29 13:51 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#353 [七瀬]
 
けど、そんなはずないと願っていたのも事実。


「でな…」

遊希は言葉を詰まらす。


「その、あんな……」

さっきよりも一層、深刻そうな顔に恐怖が倍増する。

『…なによ。』

ここで逃げたらアカン。

⏰:09/03/29 13:58 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#354 [七瀬]
 
 
 
 
ピリリリリリ…


電話はもう10分近く鳴っている。

かけてきている主は遊希だと、見なくても分かる。


けれども私は、電話に出ず手にブザーを感じているだけ。

今はただ、駅へと足を急がすだけ。

⏰:09/03/29 17:49 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#355 [七瀬]
 
 
駅に着いても、鳴り止まない携帯。


遊希…ごめんな。

私は電源を切った。


走ったからか、

それとも、
今から起こる出来事のせいか。

心臓は、
とてつもなく早い。
 

⏰:09/03/29 17:54 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#356 [七瀬]
 
2時間かけて向かう場所。


カツカツカツカツ…

階段を上っていると、


小さく“仲嶋”とゆう表札が見えた。


いつ来ても汚いアパート。


そう、ここは奏の家。
 

⏰:09/03/29 17:58 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#357 [七瀬]
 
 
よくここで、
一人暮らしをしている奏の家に遊びに来たなあ。


そんなことを思いながら、最後の一段を上り終えた。





ガチャ
 
 
 
 

⏰:09/03/29 18:02 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#358 [七瀬]
 
 
「まつり……」












『……麻友ちゃん。』
 
 
 

⏰:09/03/29 18:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#359 [七瀬]
 
さっきの遊希の言葉を思い出す。


「その、あんな……

奏の女ってゆうのは


多分、麻友…や。」



麻友ちゃん……?
 
 
その瞬間、
私は、走りだしていた。
 

⏰:09/03/29 18:42 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#360 [七瀬]
 
遊希の言ったことは、
ほんまやったんや……

落胆する。


「まつり…
なんで、ここにいるん?」


『いつ彼氏の家に来たってええやろ?
ただ奏に会いたなっただけ。』

私、ほんと嫌な女。

麻友ちゃんに、
こんなことゆうなんて。

⏰:09/03/29 23:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#361 [七瀬]
 
 
『麻友ちゃんこそ、なんで?
なんで、奏の家から出てきたわけ!?』


分かってるくせに

麻友ちゃんが答えられへんことを聞く私。


ズルいのは分かってる。


けれど、止められないの。 
 

⏰:09/03/29 23:43 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#362 [七瀬]
 
思った通り、

なにも言わず、目をそらす麻友ちゃん。


『なんで?
答えてよ、麻友ちゃん。』

ひるまず攻める。


「それは…」


ジッと麻友ちゃんの目を見る。
 

⏰:09/03/29 23:46 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#363 [七瀬]
 
「そ、奏君が忘れ物してて……
届けてあげてん。」


また祭あるから、その時に渡せばええやん。

そんなに大事な忘れ物なわけ?

ってゆうか、
そんなに大事な忘れ物なら忘れんやろ、普通。


それに、わざわざ2時間もかかるのに電車、乗って来たん?

⏰:09/03/29 23:50 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#364 [七瀬]
 
ツッコミ所、満載な答え。

麻友ちゃんの下手くそな嘘に、もっと強く睨む。


「フッ、フフフフ…」

麻友ちゃんが妖しく笑った。

「こんな言い訳、さすがに通じんよなぁ。
まつりも子供じゃないわけやし。」


いつもと違う麻友ちゃんに戸惑う。

⏰:09/03/29 23:56 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#365 [七瀬]
 
「ええわ。
そこのファミレスで話そ。

な?まつり。」


その戸惑いを隠すために
精一杯、麻友ちゃんの言葉に頷く。


この人は麻友ちゃんじゃない。

なんか、いつもより化粧も濃くって、露出の多い服。 
 

⏰:09/03/30 00:01 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#366 [七瀬]
それに見た目だけじゃなくって、

オーラが違う。


きつい、誰も寄せ付けないようなオーラを
今の麻友ちゃんは発していた。


いつもの、

優しくって、しっかりした清楚な女子大生の姿は


そこには、なかった。
 

⏰:09/03/30 00:06 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#367 [七瀬]
 
 
「いらっしゃいませー。」


「私はアイスミルクティーを一つ。
まつりは?」


『…私も、同じの。』


「じゃあ、アイスミルクティー二つ下さい。」


「かしこまりました。」
 

⏰:09/03/30 00:15 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#368 [七瀬]
 
「お待たせしました。
アイスミルクティーお二つです。」


カランカラン

しばらく、ストローでコップをかき回していた麻友ちゃんが話しだした。

「さあ、どっから話そか。まつり、何が聞きたい?」


なにがって…

挑発的な麻友ちゃんの態度に怒りを隠せない。

⏰:09/03/30 00:20 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#369 [七瀬]
 
 
「まあまあ、
そんな怖い目ぇせんと。」

『…』

黙って、睨み続ける。


「ごめん。
タバコ吸うていい?」

そう言うと、
麻友ちゃんは鞄からタバコを取出し、火を付けた。
 
 

⏰:09/03/30 00:24 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#370 [七瀬]
 
それ、奏と同じタバコ…


それに、麻友ちゃん。

タバコなんて吸うてたっけ?


フーと息を吐くと麻友ちゃんは言った。

「あんたの思てる通り、
私は奏とデキてる。

ってゆうても、一週間くらい前からやけどな。」
 

⏰:09/03/30 00:28 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#371 [七瀬]
 
一週間前……


ちょうど、私と原田さんが再開した日だった。


奏、やっぱり怒って
私への当て付けに麻友ちゃんと……

そう思っていると


「きっかけは私からやけどなあ。」

衝撃的な一言を麻友ちゃんは意図も簡単に言った。

⏰:09/03/30 00:35 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#372 [七瀬]
 
『…どういうこと?』


奏が、ヤケになってしたこてじゃないの?

麻友ちゃんからって……


なんでなん?


「私から、奏を誘ったの。でも決断したのは奏やで?私は、ただ誘惑しただけ。」


クスクス笑う麻友ちゃんに猛烈に腹が立った。

⏰:09/03/30 00:40 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#373 [七瀬]
 
「最初は奏もかなり渋ってたけどな。

でもほら、まつりは夢中やったやん?
初恋の人と。

それで奏、大分ショック受けてたみたいで。

だーかーら、
私が慰めてあげたの。」

そう笑う麻友ちゃん。


確かに言うとおりや。

私が奏を裏切ったから。

⏰:09/03/30 00:46 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#374 [七瀬]
 
最初に裏切ったのは私。


奏を誘惑した麻友ちゃんも

誘惑に負けた奏も


私に二人を責める資格はないんや…


黙り込む。

だってなんも言われへん。


自業自得や。
 

⏰:09/03/30 00:49 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#375 [七瀬]
 
「でも、良かったやろ?

まつりは原田さんと会えてんし。

感謝してほしいくらいやわ。
ほんま大変やったで。

原田さんの住所調べんの。」

ペラペラと楽しそうに話す麻友ちゃん。


私の知らんところで、
いろんなことが起こってて頭が着いていかなかった。

⏰:09/03/30 00:54 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#376 [七瀬]
 
 
「ほんまは、天神祭に連れて来たかってんけど、
思ったより時間かかって、間に合わんかった。

だって、おもろいやん。

奏とまつりが付き合った、天神祭で、その二人が壊れていくなんて。

それに思い出すんやろ?

天神祭の花火見たら、初恋の、あの人を。」
 

⏰:09/03/30 01:01 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#377 [七瀬]
 
麻友ちゃんは、心底悔しそうに、そして愉快そうに言った。

「ほんま惜しいことしたわ。」


『ふ…ふざけんといて。』


なんて弱気な声なんやろ。


麻友ちゃんとは、まるで対照的な声だった。
 

⏰:09/03/30 01:05 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#378 [七瀬]
「ふざける?」

そんな私を鼻で笑う麻友ちゃん。


「“ありがとう”くらい
ゆうてほしいなあ。

会いたかったやろ?

運命の赤い糸で結ばれた
愛しい愛しいあの人と。」


バンッ


『ええ加減にして!』
 

⏰:09/03/30 01:10 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#379 [七瀬]
 
机に手をつく。


周りの視線が突き刺さる。


今の私には精一杯の反撃だった。

けれども麻友ちゃんは
そんな私に、もろともしないようだった。


「“ええ加減にして”?

それはこっちのセリフや。」
 

⏰:09/03/30 01:14 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#380 [七瀬]
「いつまでも奏を振り回して…

ええ加減にしてよ!」

初めて、麻友ちゃんは声を荒げた。


大きな目が吊り上がり気味に私を見ている。


「私はまつりとは違う!

まつりみたいに
奏を初恋の人と重ねて見たりしてない!!」
 

⏰:09/03/30 01:19 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#381 [七瀬]
 
ズキン…

麻友ちゃんの言葉が
胸を傷める。


「私の方が奏を幸せに出来る。
一人の男として見れる!

私の方が…


奏を愛してる!!」
 
 
それでも、
容赦なく降り掛かってくる言葉。

⏰:09/03/30 01:23 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#382 [七瀬]
 
確かにそうかもしれない。

私は奏とあの人を重ねてた。


「私は、ずっと前から奏が好きやった。

まつりが悪いんやで。」


麻友ちゃんは店を出た。


私はポツリと、麻友ちゃんの言い残した言葉の重みを感じていた。

⏰:09/03/30 11:38 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#383 [七瀬]
 
 
祭があるまでの、この四日間。

すごくすごく考えた。

こんなに頭を使ったのは、人生初かもしれへん。


今日は雨がザーザー降ってじめじめしていた。

余りにも、すごい雨やから祭は中止に、なりかけけどセーフだった。

でも、花火は中止のようだった。

⏰:09/03/30 11:47 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#384 [七瀬]
 
 
傘をさして、カステラへと向かう。

今日は、大竹さんがお休みなので、
遊希がカステラを焼いて、私は前場をすることになった。

金魚は麻友ちゃんがするみたい。

少し安心した。


奏も来てるみたいだけど、会う元気と勇気はすっかりなくしてしまった。

⏰:09/03/30 11:51 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#385 [七瀬]
 
 
「ちょっと、まつり。
これ、金魚に持っていって。」


お母さんが、最悪な仕事を持って来て、自分の店に帰っていった。

金魚…

麻友ちゃん。


「俺が持って行くわ。」

遊希は、なにかを察して
気を使ってくれた。

⏰:09/03/30 11:55 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#386 [七瀬]
 
『ううん…遊希は粉練らなあかんし、私が行くわ。』

遊希にいつまでも迷惑かけたらあかん。


もう一度、
傘を広げ、金魚へと足を運ばせた。

パシャパシャパシャ

歩くたびに、水溜まりが足に跳ねて、冷たい。


金魚の約10メートル前で
立ち止まる。

⏰:09/03/30 11:59 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#387 [七瀬]
 
 
 
 
 
麻友ちゃんと奏が

キスしてた。



まるで、あの日みたい。


たくさんの金魚たちに見守られて…


そう、2年前の天神祭。
 

⏰:09/03/30 12:02 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#388 [七瀬]
 
 
ボォーっと、2人を眺めていると、

麻友ちゃんが私に思えてきた。


私と奏が、そこにいるように錯覚してきた。



早く、こっから立ち去らないと…

身体の危険信号が黄色になっていた。

⏰:09/03/30 12:05 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#389 [七瀬]
 
 
奏と目が合う。



時間が止まったみたい。


奏と麻友ちゃんは向かい合っていて、
私には麻友ちゃんの背中と、奏の大きく見開かれた目しか見えない。


危険信号はすでに、赤に変わっているはずなのに
なぜか客観的に見てる自分がいた。

⏰:09/04/01 11:11 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#390 [七瀬]
 
 
人生初の浮気現場を目撃して…

これから
人生初の修羅場?


なーんてアホなことを考えてると

奏は麻友ちゃんから離れ、金魚からも、遠ざかっていった。


麻友ちゃんの見たことない幸せそうな横顔が小さく見えた。

⏰:09/04/01 11:18 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#391 [七瀬]
 
 
ここで、つっ立ってっていてもアカンし…


麻友ちゃんへと歩いてゆく。


水の跳ねる足音でなのか、麻友ちゃんが私の存在に気付いた。


『これ…』

お母さんに頼まれてたものを渡す。

⏰:09/04/01 11:22 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#392 [七瀬]
 
「ありがとぉ、まつり。」

昨日と同じ人物と思えない。


化粧の仕方

服装

そしてオーラ…

なにもかもが、
いつもの麻友ちゃん。

やっぱり昨日のことは夢やったんやろか…

それと、さっきのことも…

⏰:09/04/01 11:25 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#393 [七瀬]
 
 
『じゃあ…』


「待って。」

どうやら、夢のままでは
終わってくれないみたい。

私の願いも虚しく、
現実に引き戻される。 


「見た?」

と、たった一言。


低い声。

⏰:09/04/01 11:29 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#394 [七瀬]
 
 
『見たよ。』

と、私も一言。


「そう。」


カステラへと体の向きを変える。





「…奏を私にちょうだい。」 

⏰:09/04/01 11:36 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#395 [七瀬]
 
 訂正


× なにもかもが昨日のこと〜

〇 なにもかもが四日前のこと〜


すいません(><)

“昨日”をすべて
“四日前”とします。

⏰:09/04/01 12:56 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#396 [七瀬]
 
 
 
「まつり、どしたんや。さっきからボーっとして。」


『遊希…なんもないよ。

それよりお客さん0やなあ。客所か人っ子一人、歩いてへんわ。』


「当たり前や。
こんな大雨やのに。

って、それより…
やっぱ、なんかあったんやろ、あの日。」

⏰:09/04/01 13:04 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#397 [七瀬]
 
 
『あったよ。』

なにも考えずゆう。


なんかもう、どうでもなれって感じ。

『麻友ちゃんに
“奏を私にちょうだい”
ってゆわれた。』


「麻友と会ったんか。」


『会ったよ〜
遊希のゆうてるあの日に』

⏰:09/04/01 13:07 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#398 [七瀬]
 
「やっぱり…
いきなり走りだした思たけど、やっぱり奏の家、行っとってんな。」


『そう!ご名答!!
遊希するどーい。』

笑って、おどけて見せる。

『そして…家から出てきた。麻友ちゃんが。

でも、奏をちょうだいってゆわれたのは、その日じゃない。

ついさっき。』

⏰:09/04/01 13:13 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#399 [七瀬]
 
 
遊希は小さくため息をしながら言った。

「だから、ゆうたやんけ。
俺が行ったるって…」


ほんま、そうすれば良かった。

遊希に頼んでれば、
あんなシーン見なくて済んだのに。


アホや、と後悔する。
 

⏰:09/04/01 13:17 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#400 [七瀬]
 
 
「お前…」

今度は大きくため息をつく遊希。

「だから、言いたくなかってん。

絶対泣くから…」


『ほんっ…ま、聞かんかったら…良かった。
私…アホやな…。』


なぜか、こんな時になって泣けてくる。

⏰:09/04/01 13:30 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


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