夏祭り、恋花火
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#1 [七瀬]
『星とぽんず』を書いてた七瀬ですo(^-^)o

趣味として書くので
更新が
遅くなる時もあります↓↓ご理解下さい。

中傷、荒らし
止めてね(ノд<。)゜。

感想板
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⏰:09/03/18 08:55 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#2 [七瀬]
 
 
前作 『星とぽんず』

bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/10022/
  
 

⏰:09/03/18 08:57 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#3 [七瀬]
 
ヒューッ ドーン!!





今日も遠くに聞こえる花火。


いつからだっただろう。



私の恋花火が上がってしまったのは。
 
 

⏰:09/03/18 09:00 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#4 [七瀬]
ジーンジーンジーン。
 
蝉の声が耳障りの7月下旬。
 
 
「いらっしゃい!」

「たこ焼きはどうですか?」

「はい、スーパーボールやってってやー!」


ここは大阪。

日本三代祭りの内の一つ。

天神祭。

⏰:09/03/18 09:05 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#5 [七瀬]
景気が悪かろうが、良かろうが、
この二日間は関係ない。
みんはアホになって騒ぐ。


そんな日に私は…

「お姉ちゃん。
金魚すくい一回、この子にやらしたって。」


『はーい。おおきに。』


私は働いている。

神野まつり(カンノマツリ)。
17歳。

⏰:09/03/18 09:10 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#6 [七瀬]
一回300円の文字。

持ち帰り 袋代50円。

赤と黒の金魚たち。


そう、ここは屋台。

“金魚すくい”


そして私は毎年ここで

『はい、いらっしゃーい!一回300円!!
今やったら金魚持ち帰り、オマケしとくでー!』

声を張り上げる。

⏰:09/03/18 09:14 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#7 [七瀬]
 
 
 
「お姉ちゃん、ありがとう。」


さっきの小さな子どもの紙が破けたらしく、
その母親が破れたワッパを返してきた。

『ありがとー。またしてなあ。』


そう言ってタオルを差し出してあげる。

⏰:09/03/18 09:17 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#8 [七瀬]
「すいません。ほんまに。」

『いえいえ。気にせんといて下さい。』

「お姉ちゃんありがとー!」

そう言う小さな子どもに、ニコッと笑いかける。


「バイバーイ!」

手を拭いてやっと帰った。

私、子ども嫌いやねん。
ほんまうんざり。


「お疲れさん。」

⏰:09/03/18 09:22 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#9 [七瀬]
横から声がする。

またうんざりする。


原因は、その声の持ち主。

「ほんま、お前は子ども嫌いやなあ。
顔に出とったぞ。」


佐藤遊希(サトウユウキ)。



『うっさいなあ。なんやねん。』

⏰:09/03/18 09:27 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#10 [七瀬]
「うるさいって
ゆうことはないやろ!

ワッパ持って来たってんぞ。」

さっきも出てきたけど、
“ワッパ”とは金魚すくいの時に使う紙を貼ったもの。

金魚すくい屋になかったら大変。


『はいはい。ありがと。』

「ほんま、
まつりは可愛げないなあ。」

⏰:09/03/18 09:31 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#11 [七瀬]
『黙れ、ボケ。』

「お前、顔はかわいいのに……。
学校とかでもモテへんやろ。」


『もぉ、なんなん!?
そんなん関係ないやろ?
さっさと自分の店へ帰りぃや。』

「わかったわかった。
はい、これ。」


熱帯びた私の腕に、ひんやり冷たいもんが当たる。
 

⏰:09/03/18 09:36 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#12 [七瀬]
「じゃあ頑張れよー。」


私の手元には冷たいジュースと、遊希が持ってきてくれたワッパ。


やっと行ったか。

遊希は2年前に“ここ”
つまり“神野商会”にやってきた。


遊希は今18歳で高校を中退した、
とか言ってた。

あとは何も知らない。

⏰:09/03/18 09:41 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#13 [七瀬]
 
住んでるところ。 

通っていた高校名。

職業
…は多分ここのバイトだけだと思うけど、

詳しいことは知らない。



これは遊希だけじゃなく、みんなそう。

ここで働いている子はみんなそう。

⏰:09/03/18 09:45 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#14 [七瀬]
 
でも、だからと言って
別に怪しい身元が分からないということはない。



私のおばあちゃんは大の買い物や。

そのおばあちゃんがよく行く
果物屋やら八百屋やら服屋やらの
息子、その息子の友達なんかを中心としてスカウトしてくる……らしい。

⏰:09/03/18 09:48 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#15 [七瀬]
で、遊希も2年前におばあちゃんにスカウトされ、この“神野商会”にやって来たわけや。


私?

私は、この“神野商会”を取り仕切る神野よしよの孫。

だから、ぜーんぜん怪しないよ。

むしろ一番、安全やから。笑

⏰:09/03/18 09:52 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#16 [七瀬]
だから、ここでは
数え切られへんくらいの
出会いがある。


バイト、ちゃう店の子、
地方の祭に出張に行った時に出会った子…。

年齢幅も
15〜50歳代まで。

選び放題やで。笑


だから、
デキ婚とか誰と誰が付き合ってるとかは、別に珍しい話ではない。

⏰:09/03/18 09:56 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#17 [七瀬]
特に、この“神野商会”。


たくさんある商会の中でも結構お偉いほう。

歴史もあるし。

金魚すくいやカステラ、
たこ焼きにリンゴ飴とか

まだまだいっぱい屋台をしてる。

さらに茶店も何店かやってる。

茶店ってゆうのは
飲んだり、おでんとかお好みとか食べたりするとこ。

⏰:09/03/18 10:02 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#18 [七瀬]
規模がデカいということは、

そんだけバイトもいっぱい必要やし、
色んなとこで店を出すから、

やっぱり出会いが
そんだけ多くなるわな。



私は今は一応4代目。

“神野商会”に継ぐことになったら
の話やけど。

⏰:09/03/18 10:06 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#19 [七瀬]
けど私に継ぐ気はさらさらない。

だって私には5人のいとこがいるし。

なんも私が継がんでも、
代わりはいっぱいおんねん。

まあ今のところ、
私が最有力候補やけどな。

だって春休み、夏休み、冬休み…。

祭がある日は、1日も欠かさず、商売を手伝いにきてる。

⏰:09/03/18 10:11 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#20 [七瀬]
あとは

“夏休みは遊びたい”

“なんかカッコ悪い”
         
とかゆうて、次第に来(コ)うへんくなった。


2つ上の麻友(マユ)ちゃんだけは
忙しい日は来てくれるけど。


でも私は欠かさず来てる。


あの日から、ずっと…。

⏰:09/03/18 10:17 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#21 [七瀬]
 
 
 
「まつり?
何をボーッとしてんの。
ご飯食べに行くよ。」


『あ、ああ…。
ごめんごめん。今行くわ。』

釣り銭を入れている袋。
つまり“釣り銭袋”を持って立ち上がる。


これ盗まれたら商売なれへんし!

⏰:09/03/18 10:25 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#22 [七瀬]
お母さんの後をついていく。

お母さんも、ずっとここで働いている。


昼食を食べるため、近くの牛丼屋へ。

『また牛丼〜?もう飽きたわ。』

「文句言わへんの!」

入るとクーラーの冷たい空気が気持ちいい。

⏰:09/03/18 10:29 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#23 [七瀬]
 
前のとこも、近くに牛丼屋しかなかったしなあ。



人の少ない昼は、店番を変わってもらったり、
ご飯を外で食べれる。

けど夜は人も多いし、
大概がお弁当やな。

食べられへん日だってあるくらい。

だって忙しかったり、
地域によっては、めっちゃ田舎で近くにコンビニもないとこもある。

⏰:09/03/18 10:35 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#24 [七瀬]
まあ、だから天神祭はまだマシな方かな。

近くにコンビニもあるし。


「はい。お待たせしました。牛丼の並がお二つでーす。」


いっぱい食べて体力つけへんと!


まだまだ夜は長いし…。
 

⏰:09/03/18 10:38 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#25 [七瀬]
「まつり、ごめん。
ちょっとカステラに持ってってほしいもん、あんねん。」

牛丼屋を出たあとに言われ、お母さんについていく。


この世界では

カステラ屋は“カステラ”

金魚すくい屋は“金魚”

リンゴ飴屋は“リンゴ”

スーパーボール屋は“ボール”
と略して呼ぶ。

⏰:09/03/18 11:10 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#26 [七瀬]
カステラは金魚に行く道のりの途中にある。


「はい。これ。」

大きなドリルを渡される。


重〜いっ!!

そんなこと思いながら、
カステラへ。


『はぁ、やっと着いた。
これ、はい。』 
 

⏰:09/03/18 11:13 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#27 [七瀬]
「おぅ、悪いな。
サンキュー。」

遊希が言った。


『あれ、大竹さんは?』

大竹さんとは、神野商会に長年いる40歳近くのおじさんだ。


いつもカステラを焼いている。

⏰:09/03/18 11:16 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#28 [七瀬]
「さっきご飯食べに行ったよ。」

と遊希。


遊希はカステラの“前場”をしている。

“前場”とは前に出て、カステラを袋に詰めて、
お金を貰ったりする役。

そんなに売れないところはカステラ焼く人が“前場”をしている。

でも、ここは天神祭。
一人じゃ普通に追い付けない。

⏰:09/03/18 11:21 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#29 [七瀬]
 
 
『ふーん。
遊希は食べに行ったん?』

「ああ、俺はまだや。
大竹さんが帰ってきてから行くわ。」


『私が店番、変わったるわ。
ご飯食べに行っといで。』

「いや、でもせっかく
まつりがドリル持って来てくれたしなぁ。
粉でも練るわ。」 
 

⏰:09/03/18 18:28 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#30 [七瀬]
私が持ってきたドリルを指さして言った。


このドリルは粉を練るのに使う。

そもそも“粉を練る”というのは、

…なんてゆうたらえーやろ。

まあ簡単にゆうたら、
カステラの元を作るとゆうことやな。


まあ気にしんといて。
 

⏰:09/03/18 18:33 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#31 [七瀬]
とりあえず遊希は粉を練り出した。


ブゥィーン

ドリルが回り始める。


遊希はそこに手際良く、
小麦粉、砂糖、牛乳、ハチミツを入れていく。


「ちょっと粉っぽいな。
まつり、水足して。」


水缶から水をすくって、そこに入れた。

⏰:09/03/18 18:39 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#32 [七瀬]
「うーん。
今度は水っぽくなってしもたわ。
粉足そ。」


小麦粉を入れる。

そんなことをしている内にどんどんバケツはいっぱいになってしまった。


『これ…、
作り過ぎちゃうん?』


「…そうやな。
ちょーっと作り過ぎたな。」

⏰:09/03/18 18:42 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#33 [七瀬]
『“ちょーっと作り過ぎたな”って

…ちゃうやろ!』


「ハハハ〜。」

遊希は笑って流そうとする。


『笑ってる場合ちゃうで!大竹さんに怒られるやん!!』



どうしよ…。
 

⏰:09/03/18 18:46 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#34 [七瀬]
 
 
 
「どうしたんや?」


おっと!

良いところに来た!!


『ちょっ、奏君!
来て!早く来てっ!!』

「奏!来てくれへん?」


奏君は駆け寄ってきた。
 

⏰:09/03/18 18:51 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#35 [七瀬]
『あんな、
遊希がアホみたいに粉作り過ぎてん。』


「アホはお前やろっ!
水足し過ぎるし、
粉は入れ過ぎるし…。」


『じゃあ頼まんかったら、ええやんか!』



「まあまあ。
二人共、落ち着いて。」

奏君が止めに入る。

⏰:09/03/18 18:55 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#36 [七瀬]
 
二人の目線は奏君に。

うーん
とでもゆうように首を捻っている奏君。



「うん、そうや!」

突然、奏君がひらめいたように言う。


『何!?なんか良い案でも思いついた?』

私たちは目を輝かせた。

⏰:09/03/18 18:59 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#37 [七瀬]
 
 
「おとなしく、大竹さんに怒られよ。」

それを聞いた途端に、
二人の顔がどうなったかは言うまでもない。


「なあ奏。もっと良いのないか?
怒られる以外に!」

遊希の必死な態度とは裏腹に奏君は

「ないな。」

キッパリと言った。

⏰:09/03/18 19:03 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#38 [七瀬]
 
しょんぼりした私たちに向かって奏君は言った。 



「俺も一緒に怒られたるから、な?」

なんだかんだ言っても、奏君は優しい。



その後、たっぷりと大竹さんに怒られた。
 
 

⏰:09/03/18 19:06 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#39 [七瀬]
 
『もう、さっきは遊希のせいで散々やったわ。』


「まあ許したって〜。」

奏君は言う。



遅くなったけど、この子は


仲嶋奏(ナカジマソウ)。
遊希より一つ上の19歳。

めっちゃ頼れる。
お兄ちゃんみたいや。

⏰:09/03/18 19:09 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#40 [七瀬]
遊希と同じ時期に入ってきた。

遊希とは、ほんまの兄弟みたいや。

もちろん遊希が弟の方やけど。笑



『でも奏君も最悪やな、怒られて。
なんかごめんなあ。』

「うん。
ほんまありがた迷惑や。」

笑い合う。

⏰:09/03/18 19:13 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#41 [七瀬]
『じゃっ!』

そんなこと言い合ってるうちに金魚に着いた。


奏君は自分の持ち場に戻っていった。

奏君はスーパーボール。


遊希は今ごろ、まだ怒られてるんだろう。



真面目に金魚すくい屋さんでも始めよっかな。

⏰:09/03/18 19:17 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#42 [七瀬]
夕焼けで目がチカチカする。


飲み物は遊希が買ってきてくれたのがあるし、

牛丼屋でトイレもした。

これから5時間以上は、こっから動かへんし。


金魚たちを眺める。

『あんたらも可哀相やなあ。こんなとこに閉じ込められて。』
 
今年も始まる。

⏰:09/03/18 19:23 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#43 [七瀬]
 
 
夏が。



ほんまの夏祭りが。


そして聞こえる。





恋花火が。
 
 

⏰:09/03/18 19:25 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#44 [七瀬]
 
 
 
ピリリリリリ…

携帯が鳴った。


『おばあちゃん?』

「お疲れさま。」

『お疲れ。もう潰す?』

「そぉやな。
そろそろ歩行者天国も終わって車が通りだすし。
潰そか。」

『わかった。』

⏰:09/03/18 19:49 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#45 [七瀬]
“店を潰す”というのは、決して不吉な意味ではない。

かたずけるという意味。


まだお客さんがいたから、細かいところから、かたずけていった。

携帯を見ると
PM 10:28。

もうじき電気が消えるな。

10時半には屋台の電気が全部、消えるようになっている。

⏰:09/03/18 19:54 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#46 [七瀬]
前は11時までやったのになぁ。


年々、店を出せる時間は短くなってきてる。

やっぱ未成年者が夜遅く出歩いてたり、
色々と問題が出てきてるみたいや。


私も未成年者やけどな。

でも私は一度も注意されたことない。
 
エプロンつけてるしな。
 

⏰:09/03/18 19:57 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#47 [七瀬]
 
ブチッ

電気が消えた。


この瞬間は、いつも周りはプチパニックになる。

いい加減慣れろよ!

と毎年思う。


これを機に、
私は本格的に潰し始める。


まず、お客さんのワッパを全て回収する。

⏰:09/03/18 20:02 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#48 [七瀬]
店から人が一気に散ると、再び電気がつき始める。


金魚たちをすくって、大きな袋に入れてゆく。

酸素ボンベも忘れずに。

売り上げを釣り銭袋に入れる。


これで実質的には私の仕事は終わり。

実質的にはね。
 

⏰:09/03/18 20:07 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#49 [七瀬]
 
「まつりっ。」

来た来た。


『遊希。』

遊希が来ると、一緒に店をバラバラにする。

ほんまは、バラバラにしたやつをトラックに積むんやけど、

明日もあるし、
小さくして、端に寄せとくだけ。
 

⏰:09/03/18 20:13 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#50 [七瀬]
 
 
「よし!終わったな。」



これで、
もう本当に終わり。


『疲れたなあ。』

終わった後、缶ジュース片手に遊希と話す。


至福の時。
 

⏰:09/03/18 20:18 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#51 [七瀬]
「今日はどうやった?」

『うん。
まあまあ売れたで。
去年と同じぐらいちゃう?』


「カステラもや。

まあ明日が本番みたいなもんやしな。
明日は花火も上がって、人の数も多なる。
勝負の日は明日や。」



花火かぁ…。
 

⏰:09/03/18 20:22 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#52 [七瀬]
 
 
 
花火は今日も上がってたで。


ずっと上がってた。

何発も何発も。



私の中で花火は上がっててん。
 
 

⏰:09/03/18 20:25 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#53 [七瀬]
 
 
 
「なあ、まつり。」

『ん?何?』


「お前さぁ、
彼氏とか、おるん?」

『はぁ、まだゆうてんの?ひつこいなあ。』


「だから!おんのか?

……彼氏。」
 

⏰:09/03/18 20:45 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#54 [七瀬]
いつも遊希には冗談半分で聞かれてた。

“彼氏おんの?”って。


『どうでもええやん。
そんなこ……と。』


そう言いながら、遊希を見ると

珍しく真剣な目付き。


ジッと見てくる。

なんか動けない。

⏰:09/03/18 20:49 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#55 [七瀬]
 
 
『お…おるわけないやん!彼氏なんて。』


すると遊希はニッと笑って
「そぉやんな。
まつりに彼氏なんておるわけない。
変なこと聞いてごめん。」

『まあ…いいけど。』


遊希…。
なんかほんまに変やで?
 

⏰:09/03/18 20:53 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#56 [七瀬]
 
 
「じゃあ経験は?
付き合ったことある?」


『なんでそんなこと急に聞くんよ。』

「たまにはええやんっ!
ぶっちゃけトークや!!」


そう明るく笑う遊希。



『…ない。
付き合ったことない。』
 

⏰:09/03/18 21:08 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#57 [七瀬]
「ええぇっ!ほんまに!?」


『…ほんまに。』

あんまりにも遊希が驚くから、恥ずかしくなってしもた。


「一回も!?」


『……そうや!
一回も付き合ったことないっ!!』
 
少し睨みながら言う。
 

⏰:09/03/18 21:11 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#58 [七瀬]
 
そう。

私は一回も男と付き合ったことがない。


男性経験なんて、もちろんあるわけない。

キスすらしたことないのに。


何回もゆうけど、

神野まつり。
17歳の高校2年生です。
 

⏰:09/03/18 21:15 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#59 [七瀬]
 
 
 
「なんでっなんでなんで!?告白とかされたことないん?」


『ちょっと!
遊希、興奮しすぎ!』

「あ、ごめん。

で、告白されたことないん?」



『それは…ある。』

⏰:09/03/18 21:19 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#60 [七瀬]
「それって、小学生の時に罰ゲームでされた……
とかじゃないよな?」


『ちゃうわ!
それはさすがに違うっ!!

こないだだって…。』


「こないだって?」

『夏休み入る前…。』


「“好き”
って言われたん!?」

『まあ…な。』

⏰:09/03/18 22:08 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#61 [七瀬]
「で!
で、なんて返事したん?」

『普通に断ったよ。
“ごめんなさい”って。』


「お試し期間みたいなんはないわけ!?」

『だって全然知らん人やし…。
一回もしゃべったことないし。』


はぁ。

遊希はため息をついた。

⏰:09/03/18 22:33 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#62 [七瀬]
「お前アカンわ。」

は?

「一生男できんわ。
結婚もせんと、一人おばあちゃんや。」

頭を横にふる遊希。


『あんたにそんなこと
決められたくないっ!』

「そんな

“自分から好きになった人じゃなきゃいや”とか
幼稚園児みたいなこと言ってたら、そうなるやろ。」

⏰:09/03/18 22:39 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#63 [七瀬]
うっ……。

遊希の言ってることが
図星やから、なんも言い返されへんかった。



そう。

私は幼稚園児だ。


まだ
“いつか、あの人が迎えに来てくれる”
という甘い夢を見ている。

甘くて二度と叶わないだろう夢。

⏰:09/03/18 22:43 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#64 [七瀬]
 
7歳の時。


初めてあの人に出会ったのは、10年前。



その人もただのバイトだった。

そして当時7歳の私は、
ただの“バイト先の子供”という存在。

あの人は当時23歳。


年の差は15歳。

⏰:09/03/18 23:43 📱:N703iD 🆔:1U/TvnL6


#65 [七瀬]
 
また新しい人が来た。

最初はいつものように、
そう思ってた。


『なあなあ〜。
アンタ名前は〜?』


あの頃の私はバイトの子が入る度に
男だろうが、女だろうが、話し掛けてた。

そして質問攻めにする。
 

⏰:09/03/19 13:03 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#66 [七瀬]
『何才なん?』

『どこ住んでんの?』

『なんで、ここで働いてるん?』

『彼女おんの?』


今、思えば
かなりウザいガキ。

子供嫌いな私やったら、
多分キレてた。


お母さんにも、よく怒られた。
“邪魔したらアカン”って

⏰:09/03/19 13:09 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#67 [七瀬]
 
最初はニコニコと答えてた子たちも、

忙しくなってきたり、

隅々まで聞かれたり。

段々、うっとうしくなってくる。


当たり前やわな。

そんなことをするのが私は面白くって溜まらんかった。

ほんまひねくれてるガキ。

⏰:09/03/19 13:13 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#68 [七瀬]
 
で、いつものように質問しまくる。


でも、あの人は

いつもの私の逆のポジションにおった。


いつも、バイトの子を
質問して、うっとうしがってる顔を見て楽しんでる私。

私が質問しまくる姿を見て楽しんでるあの人。

⏰:09/03/19 13:16 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#69 [七瀬]
質問に答えながらも、ニヤニヤ笑ってる。


なんか負けた気がした。

負けず嫌いな私は、
ムキになってさらに質問する。


そんな私を見て楽しんでる。

あの人は“大人”やった。
“子供なんて、どうってこない”
って感じやった。

⏰:09/03/19 13:20 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#70 [七瀬]
それからというもの、
私はずっと祭に行ってる。

お母さんにたまに、ついていってただけやったのを、

“祭”と聞いたら
ついてゆく。

もちろん、あの人に会うために。

めっちゃ楽しい。

あの人としゃべることが。

あの人は子供の私にも真剣にしゃべってくれた。

最初は適当やったくせに。

⏰:09/03/19 13:26 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#71 [七瀬]
 
でも、そんなことが
ずっとは続かへん。


私が小学4年生になろうとする前、

「祭に来たいなら働き!」

とお母さんに言われた。


いつか言われるなあ
とは思ってた。

だって、
あの人のところで
ずっとしゃべってたら
そう言われるよな。

⏰:09/03/19 13:33 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#72 [七瀬]
 
 
 
それから、祭に行きたい私は働きだす。


と言っても、10歳になったばかり。

初めの内は、お母さんと一緒にした。

お金をもらって、お釣りを渡すだけの役。

でも、ドッと疲れた。
 

⏰:09/03/19 14:22 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#73 [七瀬]
しゃべる暇なんてない。

一歩も動かず、同じことを繰り返すだけ。


それでも私はうれしかった。
“また会える。
あの人に会える。”

そう思いながら頑張る。


あの人には前ほどは会えなくなったけど、
祭が始まる前と終わった後には
少しだけ話せた。

⏰:09/03/19 14:26 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#74 [七瀬]
 
それだけで十分やった。


それに働くことで、
働くことの気持ち良さ
を知った。


ますます祭が好きになっていく。



…はずやったのに。
 
 

⏰:09/03/19 14:29 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#75 [七瀬]
時は進んでゆく。

中学1年生になったばかりの春休み。


造幣局の通り抜け。

よくテレビでも放送されたりする。

この通り抜けには、
毎年、桜見物にたくさんの人が来る。

1メートル歩くだけでも、大変。

特に土日は押し潰されそうなくらい混雑する。

⏰:09/03/19 14:34 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#76 [七瀬]
 
 
そこには神野商会、唯一の茶店(チャミセ)を出す。


茶店を出してるのはここだけ。



私は茶店が大好き。

だって、あの人と長くおれるもん!

茶店の仕事は主に、
お客さんの注文を聞いて、料理、飲み物を届けて、
お金を貰う。

⏰:09/03/19 14:43 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#77 [七瀬]
 
一つの茶店に注文を聞く人が5、6人。


その他におでんを入れる人。
焼そばや焼き鳥を焼く人。

味噌汁を作る人。

とか、それぞれ役割分担する。


だから、
普段は屋台をしてる人も、茶店に一斉動員するというわけ。

⏰:09/03/19 14:48 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#78 [七瀬]
 
ってことは、

わざわざ屋台に遊びに行かんでも、
あの人は茶店におる。


やっぱ茶店は大好きや!

あの人は焼そばを焼いてる。

私は注文聞き係。

「焼そば一つ。」

と言われるたびにうれしくって、つい声が高くなる。

⏰:09/03/19 15:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#79 [七瀬]
『焼そば一つでーすっ!』


そしてあの人の傍で
焼そばが焼きあがるのを
待つ。


幸せな時間。


そんなことをしていると
時間はあっという間に過ぎてゆく。

通り抜けは夏祭りと違って終わるのが早い。


遅くて8時くらいまで。

⏰:09/03/19 15:31 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#80 [七瀬]
でも、

桜の咲き始めから満開まで

満開から散り始める頃まで店を出している。


だから10日間くらいしている。



学校が終わると、
ジャージに着替え、真っ先に駅へと向かう。


二駅向こうの
あの人の元へと…。

⏰:09/03/19 18:00 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#81 [七瀬]
 
 
 
でもその10日間もあっという間。


通り抜け最終日。



『ありがとうございました。』

最後まで酒を飲んで
なかなか腰を上げないサラリーマンたちも
ようやく席を立った。
 

⏰:09/03/19 18:02 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#82 [七瀬]
 
ふぅ。
やっと帰った。

疲れた身体にムチを打ち、最後の仕事をし始める。

それは洗い物。


お客さんの使った皿やら箸。
後はおでんを煮た大きな鍋など。

かなりの重労働。


大体2、3人の女の子たちとする。

⏰:09/03/19 18:11 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#83 [七瀬]
 
はずが女の子たちは、
おばあちゃんに呼ばれ、
とりあえず一人で始めることにした。


春とはいえ、まだ肌寒い季節。

冷たい水に耐え、金ダワシに洗剤をつけ、こする。



「まつり。」
 
後ろから柔らかい声。
 

⏰:09/03/19 18:14 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#84 [七瀬]
振り返ると、そこにはあの人。

「今日で最後やな。」

私はこの時、この意味がよく分からんかった。

『うん。今度は夏やな。』

これが終わると、天神祭まで祭がない。

「そやな。」

今、思うとなんで気付かんかったんやろう。

悲しそうな顔してたのに。

⏰:09/03/19 18:20 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#85 [七瀬]
 
 
『どうしたん?そんな顔して。』

「いやまた会おな。」

『なに言ってんの。』

クスクス笑う。


「また迎えに来るわ。」

『トラックで?』


その当時、私はよくトラックで送り向かいをしてもらってた。

⏰:09/03/19 19:58 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#86 [七瀬]
 
 
 
「うん、トラックで。
きっとな。」





それが最後に聞いた、あの人の言葉だった。
 
 
 

⏰:09/03/19 20:00 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#87 [七瀬]
 
中学生になって初めての、天神祭。



あの人は来なかった。


そして入れ替わるように、新しいバイトの子たちが入ってきた。


なんかあったんやろか?

と最初は思った。


けれども、もう4年。

⏰:09/03/19 20:04 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#88 [七瀬]
 
あれから4年が経った。



生きてるかどうかも分からない。


時は確実に過ぎて行ったのに、

私は置いてきぼり。


いつまでも中学生のまま。 
 
 

⏰:09/03/19 20:07 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#89 [七瀬]
 
 
 
もー、暑い!
暑い暑い!!

座ってるだけで汗が出てくる。


「まつり、ご飯食べに行こか。」

『奏君、行こか。』


天神祭二日目。

奏君と一緒にご飯を食べに行く。

⏰:09/03/19 20:25 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#90 [七瀬]
 
 
昨日はあんま寝られへんかった。


遊希が色々聞くから…。



「遊希から聞いてんけど、
まつり、男と付き合ったことないんやって?」


遊希〜!
 

⏰:09/03/19 20:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#91 [七瀬]
 
 
 
『…そうやけど。
やっぱ変かな?
この年で彼氏もできたことないって。』


「うーん。別にええやん。まつりのペースでゆっくり頑張りぃ。」



…ありがと、奏君。
 
 

⏰:09/03/19 20:31 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#92 [七瀬]
「あ、ここここ。」


そう言って、レトロ風の喫茶店?に入っていった。


「チャーハンが美味しいねん、ここの喫茶店。

チャーハン二つ。」

そう勝手に注文されてしまった。

ってか、やっぱりここは喫茶店みたい。

まるで昭和時代にタイムスリップしたみたいな店。

⏰:09/03/19 20:34 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#93 [七瀬]
 
 
しばらくしてチャーハンが二つ運ばれてくる。


普通のチャーハン。

特に目立ったとこはない。


『いただきます。』

スプーンを口に運ぶ。



『んっ!美味しい〜!!』
 

⏰:09/03/19 20:37 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#94 [七瀬]
 
なにこれなにこれ!


めっちゃ美味しいやん!!

素朴やのに、忘れられへん味。


「やろ?」

奏君はうれしそうに笑う。


あまりに美味しくって、
あっさりと食べおわる。

『ごちそうさま。』
 

⏰:09/03/19 20:40 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#95 [七瀬]
「旨かったやろ?」


見ると奏君もいつの間にか食べおわってて、タバコを吸うてる。

『うんっ!

こんな店知らんかったわ。最近はずっと牛丼やったから胃、もたれとってん。』


「満足してもらったみたいで良かった。」

そう言って、
奏君は横を向いてフーと白い煙をはく。

⏰:09/03/19 20:44 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#96 [七瀬]
 
 
あ…、やっぱ似てる。



そういう仕草。







奏君はあの人に似てる。
 
 
 

⏰:09/03/19 20:46 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#97 [七瀬]
 
「もうそろそろ店出よか。
あんまり油売っとったら、給料引かれるわ。」


店を出た。




奏君とバイバイして、金魚に向かう。


奏君…。
 

⏰:09/03/19 21:19 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#98 [七瀬]
 
 
初めて遊希がここにやって来た時、私は目を奪われた。



遊希の後ろにおった奏君に。


一瞬、
“あの人が迎えに来たんや”と思った。


そんなはずないのに。
 

⏰:09/03/19 21:22 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#99 [七瀬]
 
 
年が近いからか、
遊希はよく話し掛けてきた。

奏君と仲良くなりたかった私は、
遊希を通して、奏君に話し掛けた。


でも奏君のことを知れば知るほど思い知る。



奏君はあの人とは違うんやって…。
 

⏰:09/03/19 21:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#100 [七瀬]
 
 
でも時々、

奏君の何気ない仕草や表情があの人に似てて

ドキドキする。



ほんま私はアカンな。

引きずり過ぎ。


いつまでも、あの人を忘れられへんまま…。

⏰:09/03/19 21:30 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#101 [七瀬]
 
 
 
「まつり、ご飯食べに行かへん?」


いきなりの声で、ハッと我に帰る。

『あ…ああ、遊希。』

「ボーッとして、どしたんや?」


『なんもないよ。

あ、ごめん。
さっき奏君と行ってん。』

⏰:09/03/19 21:34 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#102 [七瀬]
 
「奏と?
…ふーん、そっか。」


『うん。


ってか奏君ゆうたやろ!

私が“一度も男と付き合ったことない”って!!』


「うん、悪ぃ。」

そう言いながらも、
悪びれる様子のない遊希。 
 

⏰:09/03/19 21:39 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#103 [七瀬]
『ほんまに反省してる!?
もう変なこと、ゆわんといてや!』


「…ん。」

遊希は元気なく去っていった。


なんなん、あれ。

あんなに落ち込まんでもええやん。

私…、
そんなキツい言い方した? 
 

⏰:09/03/19 21:53 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#104 [七瀬]
 
 
ドンドンドンドン…

太鼓の音が段々、大きくなってきている。


祭の盛り上がりが最高潮になってきた。

金魚すくいに夢中の人たちも手を止めて見ている。


こんなん何がええんやろ。うるさいだけやん。

私は冷めた目で通り過ぎてゆくお神輿を見ている。

⏰:09/03/19 22:00 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#105 [七瀬]
 
太鼓の音も次第に小さくなっていき、完全に消えた。



そして人々が、また金魚たちに目を戻した頃……





ヒューッ ドン!!
 
 
花火が上がる。
 

⏰:09/03/19 22:04 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#106 [七瀬]
 
 
人々の目は空に向かう。



歩いていたカップルも
“わあ、キレイだね”
とか言いながら立ち止まる。

私のキライなガキ共も、キャッキャゆうて騒いでる。


これも毎年のこと。
 
 

⏰:09/03/19 22:08 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#107 [七瀬]
 
 
毎年のことなのに、



私の心臓は慣れてくれない。


ドクドクうるさい。


あの人も見てるんかな?

これも毎年、思うこと。


見てるわけないのに。
 

⏰:09/03/19 22:11 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#108 [七瀬]
 
 
 
花火が終わっても、
まだまだ人は、ようさん歩いてる。


「よーし、勝負しよーや。」

若い男たちが金魚すくいに群がる。


これも毎年のこと。

これにはさすがに慣れたけど。

⏰:09/03/19 22:16 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#109 [七瀬]
 
 
 
毎年毎年、そんなこんなで天神祭を終える。



「まーつり。」

今度は奏君が一緒に潰しに来てくれた。


ドキドキする。

だって

昔、よくあの人も潰しに来てくれたから。

⏰:09/03/19 22:20 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#110 [七瀬]
 
 
 
金魚も潰し終え、トラックがやってくる。

今日は天神祭は最終日やから、トラックに積み込みをする。



私は女の子やし、
これはさすがにやらない。


遊希、奏君、後の若いバイトの男の子たちが
軍手をはめて、どんどん積み込んでゆく。

⏰:09/03/19 22:24 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#111 [七瀬]
 
まるで、
さっきまで人がワイワイ騒いでたようには見えない。

屋台も跡形もない。



『お疲れ〜。』

みんなにジュースを配る。


みんな死にそうな顔をしてる。
 

⏰:09/03/19 22:27 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#112 [七瀬]
 
奏君にも渡す。


「ありがと、まつり。」

そう言って、缶コーヒーを飲み始める。

その横顔がほんまにあの人に似てて、
つい見惚れてしまう。



「どしたんや?
そんなに見て…
俺の顔になんか付いてるか?」

⏰:09/03/19 22:32 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#113 [七瀬]
 
『…似てる。』


「え?」

無意識に口が開く。



『…人に。
私の初恋の人に。』

奏君の目が大きくなっていったのに気付く。


『…あ、ごめん!
変なことゆうてごめん。』 

⏰:09/03/19 22:37 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#114 [七瀬]
 
すると奏君はフッと笑って

「どんな人なん?
まつりの初恋の人って。」


私は少し戸惑った。

『どんな人って…
優しい人やで。

奏君みたいに……。』


「なあ、まつり。

それって告白してんの?」 
 

⏰:09/03/19 22:40 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#115 [七瀬]
 
告白…してんのかな?


うつむく。

分からん。





「答えへんってことは、
そうゆう意味やって解釈すんで。」



え?
 

⏰:09/03/19 22:44 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#116 [七瀬]
 
顔を上げると


チュ





唇に柔らかいものが当たる。



奏君にキスされてた。
 
 

⏰:09/03/19 22:47 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#117 [七瀬]
 
 
「フフッ、驚いた?」



いきなりのことで固まる私。





これが私と奏が付き合い始めたきっかけ。
 
 

⏰:09/03/19 22:49 📱:N703iD 🆔:DKWoRP7w


#118 [七瀬]
 
 
 
こめかみに汗の滝が流れる。

今、私はプリント集とにらめっこの最中。



あー、分からん。
お手上げや。

少し頭を冷やそうと冷蔵庫へ向かい、一番上を開ける。
 

⏰:09/03/20 00:29 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#119 [七瀬]
 
あったあった!!


アイスクリームを取出し、袋をポイッ。

口に運ぶ。

ああ、生き返るわあ。


アイスクリームで頭が冴え渡ってる内に
またプリントに目を通す。



でも次は他のことが思考回路を邪魔する。

⏰:09/03/20 00:33 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#120 [七瀬]
 
 
天神祭の最終日。


あの後、
まだ固まってる私に奏君は


「秘密やで。」

そう言って、
私の唇に人差し指を乗せて笑った。


私は体温が上昇するのを
感じた。

顔が熱い。

⏰:09/03/20 00:37 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#121 [七瀬]
 
 
顔が熱いまんまの私を
ほったらかしにしたまま、奏君は帰った。



今、改めて思い出しても恥ずかしくって溜まらん。

いきなり
キスするか、普通!?


あの日から2日経っても、頭から離れてくれない。

奏君が。

⏰:09/03/20 00:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#122 [七瀬]
 
 
それに明日また祭がある。

田舎の方で、2日間。


嫌でも、奏君に会う。

しかも

そこには金魚とカステラとボールの3店しか出せへん。

ってことは……

私と遊希と大竹さん。

そして奏君の4人しか、行けへんってこと。

⏰:09/03/20 00:47 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#123 [七瀬]
 
 
 
「まつり、早くしなさい。大竹さん、もう下に来てるよ。」

とお母さんの声。

『わかってるーっ!!』


しまった!

昨日は考えすぎて、寝られへんかった。
 

⏰:09/03/20 07:46 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#124 [七瀬]
 
汚れたスニーカーに足を突っ込む。


『行ってきまーすっ!』

家を出て、エレベータのボタンを押す。


あー、もう遅いなあ。

エレベータがなかなか来うへんのにイライラする。


プップー

下から車のクラクション。

⏰:09/03/20 07:51 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#125 [七瀬]
 
 
もういいや!

私の足は階段へ。


猛スピードで下へ降りていく。

ダンダンダンダン…



「まつり、はよしろ。」
 
大竹さんの白くて大きなワゴン車が見えた。
 

⏰:09/03/20 07:54 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#126 [七瀬]
 
『ごめーん。遅れて…』


忘れてた。



大竹さんの助手席に奏が座ってたこと。

太陽がギンギンしていて、よく見えへんかった。


窓の外を見てた顔を私へ向けた。


やっぱり似てる…。

⏰:09/03/20 07:58 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#127 [七瀬]
 
 
車の助手席の後ろの席に乗り込む。

高等座席に座ってる遊希がドアを開けてくれる。


『おはようございます。』

「おはよう。」

大竹さんの不機嫌な声。


『…その遅れて、ほんまにすみません。』

「もうええ。出発すんぞ。」

⏰:09/03/20 08:02 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#128 [七瀬]
車が走りだす。

はあ。
グダグダや。


前を見ると

“おはよう”

奏君が口パクをしている。


“散々やな”

と大竹さんを指さし笑う。


そんな奏君に肩をすくめて見せる。

⏰:09/03/20 08:09 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#129 [七瀬]
 
20分ほど走って、車はいつもの業務用スーパーへ。


「確か牛乳とハチミツがないてゆうとったなあ。」

大竹さんがメモ用紙を見て呟く。

ある程度は昨日の内に屋台の方に持って行く。

でも牛乳なんかは、
この炎天下に何時間も放っておいたら、一発アウトや。

私も車から降りる。

⏰:09/03/20 08:21 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#130 [七瀬]
 
 
大竹さんが店員に色々、指示してる。

その間に私らは、パンやペットボトルを買う。


あっ、これ!

このパンめっちゃ美味しいねん。


手を伸ばす。


『ああっ!』

⏰:09/03/20 08:25 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#131 [七瀬]
後ろから手が伸びてきて、お目当てのもんを奪われる。


「まつりはほんまに、これ好きやなあ。」

後ろを振り向くと奏君。


『奏君、なんでそれ取んのよ!
いっつも、甘いパンは食べへんやんか。』


「たまにはええかな、思て。」

⏰:09/03/20 08:29 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#132 [七瀬]
その言葉に子供みたいに膨れる。


「ブッ、ハハハ。
ほんままつりは面白いわ。

嘘やって!嘘嘘!!
まつりが食べるやろなあ
思て、カゴ入れてん。」


そう笑う奏君に、
三日前のことを思い出し、恥ずかしくなる。


『…ありがと。』

⏰:09/03/20 08:34 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#133 [七瀬]
 
「どういたしまして。


ってゆうか、まつりさあ。もしかして思い出した?

三日前のこと。」


そう耳元でささやく。


『な、なんのこと!?』

真っ赤にしながら聞く。


「分かってるくせに。」
 

⏰:09/03/20 08:38 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#134 [七瀬]
意地悪く笑う奏君。


「もうそろそろ行こか。

二人の秘密がバレてしまう前に。」





車に牛乳、ハチミツを積み込んだ。


車が再出発する。

私のドキドキは先ほどよりも増していた。

⏰:09/03/20 08:42 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#135 [七瀬]
業務用スーパーから出発して40分近くが経った。


車内では欠伸が響く。

そりゃ、そうなるわな。


向こうに着くには2時間ほどかかる。

11時過ぎには着く予定やし、業務用スーパーにも寄る予定やったから、かなりの早起きをしなアカン。

もちろん、
その中には私の欠伸も率先して入っている。

⏰:09/03/20 08:55 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#136 [七瀬]
 
前を見ると、奏君も寝てるみたい。


ああ、もう無理や。

私も仮眠しよ。


そう首を少し傾けて目を閉じる。

その時、

ピリリリリリ…


携帯が鳴る。
 

⏰:09/03/20 09:00 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#137 [七瀬]
 
メール?

こんな時に誰やねん。


少しイラッとする。

宛先は……


遊希?

なんなんよ、ほんまに…。


横におる遊希に目をやると視線が合う。
 

⏰:09/03/20 09:04 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#138 [七瀬]
“はよ開けてみい” 

と催促するような目。

仕方なく、遊希に見せ付けるように携帯を開く。

するとそこには


「奏と付き合ってんの?」

の一文。


私は目を見開き、遊希を見る。

遊希の瞳には強い光が宿っている。

⏰:09/03/20 09:08 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#139 [七瀬]
 
なっ、なんで!?

なんで遊希が
そんなこと聞くんよ!


頭が混乱する。

すると、

ピリリリリリ…


私は急いでメールを開く。

そのメールには
 
 

⏰:09/03/20 09:35 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#140 [七瀬]
 
「天神祭でキスしてたやろ。
しかも、さっきもイチャついてたし。」



み、見られてた…。


なんて
答えたらええんやろ。

だって私にも分かれへん。


私らは付き合ってんの?

なあ、奏君…。

⏰:09/03/20 09:39 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#141 [七瀬]
 
目を閉じてるであろう奏君を見る。





「やっぱ付き合ってんのや。」

遊希の声がする。



『…分からん。』


私らは付き合ってんの?
 

⏰:09/03/20 09:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#142 [七瀬]
“私らは付き合ってんの?”

って何回、思ってんのやろ。


自分で呆れる。



「…い!おい!」

『…ああ、ごめん。』


「自分の世界に入らんといてくれ。」
 
遊希も呆れてる様子。

⏰:09/03/20 09:47 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#143 [七瀬]
 
『ほんまに分かれへん。』


「そっか。」

遊希はせれ以上、なんも聞いてこうへんかった。


私は寝ようと目をつむったけど、
全然、寝られへんかった。


奏君が買ってくれたパンは放っておいたら、
チョコレートの部分が溶けてしまった。

⏰:09/03/20 09:53 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#144 [七瀬]
 
 
目的地に着いた。


カステラはボールの隣にある。

金魚だけ、この2店から
ちょっと離れている。

安心したような、残念なような…複雑な気分。


「店建てる前に昼飯、食いに行こか。」

4人で、少し歩いたところにあるファミレスへ。

⏰:09/03/20 10:27 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#145 [七瀬]
 
大竹さんの隣に奏君。
私の隣に遊希。

向き合うように座った。


料理を注文し終える。


チラッと前を右斜めを見ると、
奏君が笑って、こっちを見ている。

そして横には遊希…。

頬杖をついている。
 

⏰:09/03/20 10:35 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#146 [七瀬]
 
アカン。
なんか気まずい。


多分、私が意識してるからそう感じるだけやろう。

でも…この空気。


耐えられへん!



すると

「なんやお前ら、元気ないやんけ。」
 

⏰:09/03/20 10:38 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#147 [七瀬]
大竹さんが口を挟む。

「いつもみたいに、
うるさいとイラッと来るけど、
何もしゃべらんかったら、それはそれで調子狂うわ。

特にまつり。
俺はもう怒ってへんで?
朝の寝坊。」


うん。忘れてた。

自分が遅刻したってこと。

でも、
まあここは、そういうことにしとこか。

⏰:09/03/20 10:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#148 [七瀬]
『うん。
ありがとう、大竹さん。』


「ああ。
それともなんや?

恋煩いか?恋煩い。
男でもデキたんか?」

ニヤニヤしながら聞く大竹さん…。


空気読めよっ!


この空気で、
そんなことゆうか!?

⏰:09/03/20 10:47 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#149 [七瀬]
 
『ハハ…ハ……。
そんなわけないやんか。』

なんとか笑いながら誤魔化す。


そんな私を見て、

奏君はクスクス笑う。

遊希は不機嫌さを増すように見える。


「そぉかあ。」

大竹さんはガハハと豪快に笑ってるだけ。

⏰:09/03/20 10:51 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#150 [七瀬]
 
 
料理が運ばれて来た。

食べ始める。


さっきより空気が重い。

押し潰されそう。



「まつり。」


この沈黙の中、
奏君が声を発した。
 

⏰:09/03/20 10:54 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#151 [七瀬]
 
『ん?』

「ついてる。」


『へ?』

「口の周り。
ハンバーグソース。」

自分の口の周りを指して、奏君は言った。


うそっ!

私は慌てて、ティッシュを取り出す。
 

⏰:09/03/20 10:58 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#152 [七瀬]
 
 
そんな私を見て、奏君は


「ほんま面白いわ。
朝のことといい、
今のことといい。

なあ、そう思わんか?
遊希。」


「んあ?」

奏君の挑むような目に、
遊希の目付きは、一層キツくなる。
 

⏰:09/03/20 11:04 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#153 [七瀬]
 
 
ちょっとお二人さん?


『遊…希?』



「ほんまや。
ほんまにコイツはアホや。」

そう言って、また食べ始めた遊希。


なんやったんや、今の雰囲気…。
 

⏰:09/03/20 11:06 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#154 [七瀬]
 
よう分からん雰囲気のまま、

私はアホ呼ばわりされたまま、

ファミレスを後にする。


金魚に戻る。

「じゃあ、後で奏か遊希に金魚たち持って行かすわ。」

大竹さんの言葉に
わかった
と返事して、準備にとりかかる。

⏰:09/03/20 11:23 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#155 [七瀬]
 
 
店を組み始める。


この二日間、私はどうなるんやろか。

不安と期待が入り交じる。





「金魚、持って来たで。」
 
 

⏰:09/03/20 11:36 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#156 [七瀬]
 
『それはどうも。』

「ってか。
動揺し過ぎや、まつり。」


『それは、奏君があんなことゆうからやろ!
突然……』

「突然?」


『いきなり耳元でささやいたり、
遊希を挑発するようなことゆうたり、

それに……』

⏰:09/03/20 11:41 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#157 [七瀬]
 
「それに?」

知ってるくせに。
わざとやな。

分かってても、奏君の思うツボ。


『…それに

突然、キス……したり。』


言った。

小さくって消えてしまいそうな声で。
 

⏰:09/03/20 11:44 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#158 [七瀬]
 
 
 
「したよ。
確かに俺はまつりにキスした。
あの日に。

でもな、突然じゃない。

俺はずっとキスしたかった。
まつりと。」


うれしい。

私も分かってても、聞いてしまう。
 

⏰:09/03/20 11:48 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#159 [七瀬]
『キス出来るなら誰でも良かったん?』


「アホか。そんなわけないやろ。

お前だけや。


好きやで。」



たくさんの金魚たちに見届けられながら、
私たちはもう一度、唇を交わした。

今度は両思いのまま。

⏰:09/03/20 11:53 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#160 [七瀬]
 
 
神野まつり。

17歳の夏休み真っ盛り。

とうとう私にも彼氏が出来た。

あれから、もう2年。


『奏〜!
遅れて、ごめんなあ。』

「まつり、遅ーい。」


奏、大好き。
 

⏰:09/03/20 22:40 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#161 [七瀬]
 
 
今日は2周年の記念日。

そして久しぶりのデート。


最近、
二人共、忙しくって
忙しくって…。

なかなか会えなかった。


私は今、大学生。
19歳。

奏は21歳。
 

⏰:09/03/20 22:43 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#162 [七瀬]
 
『おめでとぉ。
また1年間よろしくな。』

「こちらこそ、よろしく、まつり。」


チンッ

乾杯して、グラスを口に運ぶ。

『でも、淋しいなあ。

2年前、私と奏が付き合った祭が
今年からなくなってしもたなんて。』

⏰:09/03/20 22:49 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#163 [七瀬]
「まあな。
でも、そのおかげで
今ここで、まつりと過ごせるわけやん。
ほんまの2周年を。」


『そうゆわれたら、そぉやけど。
去年は2日、ズラしてしたよな、1周年は。』



ほんま懐かしい。


今でも、もちろん祭には欠かさず行っている。

⏰:09/03/20 22:53 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#164 [七瀬]
 
 
でも17歳の私とは大きく違っているところがある。

それは、

私はあの人ではなく、

“奏のため”に行くようになった。


祭に行くたび、奏に会えてうれしい。

昔の傷は癒えた。

あの人のことを思い出すことも少なくなっている。

⏰:09/03/20 22:57 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#165 [七瀬]
 
確実に前に進んでいる。 

中学生で止まったままの
記憶も流れてゆく。


恋花火は、もう聞こえない。

聞こえるのは、

奏の優しい声だけ。
 
 
今、私は幸せなんや。
 

⏰:09/03/20 23:01 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#166 [七瀬]
 
 
 
 
「まつり!まつりっ!!」 


『どうしたん?麻友ちゃん。
そんな血相変えて…。』



今は、
祭で一番、忙しい時間帯。

麻友ちゃん、
こんな忙しい時に、どしたんやろか。
 

⏰:09/03/20 23:07 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#167 [七瀬]
 
息を整え、
麻友ちゃんは言った。


「あんな、まつり。
落ち着いて聞いてや。」

頷く。


「…来てんねん。

ハラダタカシが、ここに来てんねん!」


ハラダ…タカシ……。
 

⏰:09/03/20 23:12 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#168 [七瀬]
 
呼吸が荒くなる。

苦しい。



ハラダタカシ
ハラダタカシ
ハラダタカシ…


原田俊(ハラダタカシ)。



あの人。

私の初恋の人……。
 

⏰:09/03/20 23:15 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#169 [七瀬]
 
 
『…うそ。うそやっ!
来てるわけない……。

そんなん嘘やっ!』


私は完全に混乱している。

お客さんがおるのも忘れ
一人、取り乱す。



「ううん。嘘やない。
嘘ちゃうねん、まつり。」

麻友ちゃんは落ち着いた口調で言う。

⏰:09/03/20 23:19 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#170 [七瀬]
 
 
 
なんで?

なんで今さら。


せっかく忘れかけてたのに。



昨日は奏との記念日であんなに楽しかったのに、
今は苦しくって仕方ない。 
 

⏰:09/03/20 23:21 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#171 [七瀬]
 
 
 
「まつりに会いたいって原田さんゆうてるよ。」


少し落ち着いて、
そんなことを麻友ちゃんから聞かされる。



『…会わへん。』


「まつり、アカン。」

麻友ちゃんは厳しい目をして言った。

⏰:09/03/20 23:25 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#172 [七瀬]
 
麻友ちゃんは

…麻友ちゃんだけは、
私の初恋を知っている。


「ちゃんと自分の気持ちにけじめをつけ。」


けじめ?

そんなん
もうとっくについてる。


7年も時が過ぎてんで?

⏰:09/03/20 23:29 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#173 [七瀬]
 
 
「そのままやったら、
奏君も苦しい思いすることになる。」


奏が?

なんでなん?


私が愛してんのは奏だけやのに。


「まつりっ!待って!!」

麻友ちゃんの声も聞かず、私は立ち去った。

⏰:09/03/20 23:32 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#174 [七瀬]
 
 
 
「ちょっと…まつり。
どしたんや、急に。」


気が付けば、ボールに来ていた。

『奏っ!』

奏に抱きつき、泣きじゃくる。

『うっ、ヒック…。』

いきなりのことやのに、
奏はこれ以上、何も聞かずにいてくれた。

⏰:09/03/20 23:36 📱:N703iD 🆔:bKNl0Pwo


#175 [七瀬]
『うっ、うっ、奏ぉ〜。』

「よしよし。」

頭を優しく撫でてくれる。

早く離れな。

ボールにも、金魚にも
お客さんがいっぱいおる。

このままじゃ
麻友ちゃんにも、奏にも
迷惑かけてまう。


早く泣き止め!

早く早く…。
 

⏰:09/03/21 01:35 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#176 [七瀬]
 
そう思ってるのに、

涙を堪えようとすれば、
するほど、溢れてくる。

あまのじゃくな自分の涙腺に腹が立つ。


「ちょっとお兄ちゃん?」

「抱き合ってんと、はよしてよ。」


そうゆう声が、後ろから聞こえてくる。
 
 

⏰:09/03/21 01:44 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#177 [七瀬]
お客さんの堪忍袋の緒も、もう限界。

なのに、体はチッともゆうことを聞いてくれない。







「まつり。」

声がした。



あの柔らかい声が。
 

⏰:09/03/21 01:47 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#178 [七瀬]
 
涙が止まる。

一瞬にして、
体温が上がってゆく。


ああ、

あの人が迎えに来てくれたんや。
 


 
「まつり?」

ピタリと泣き止んだ私を
奏が不思議そうに見る。
 

⏰:09/03/21 01:54 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#179 [七瀬]
 
 
「久しぶりやな、まつり。」

あの人の声。




「誰や、あいつ。」

奏の優しかった声が、低くなる。


なのに、
私はドキドキしてる。

あの人に。
 

⏰:09/03/21 02:14 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#180 [七瀬]
 
「なあ、まつり。
誰や?知り合いか?」

奏がさらに聞く。


「彼氏出来てんな。」

とあの人。



バッ

とっさに私は、奏から離れる。
 

⏰:09/03/21 02:18 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#181 [七瀬]
 
私は最低な女。



「なんで離れるんや。
俺はお前の彼氏やろ?

なあ、まつり!
答えてくれ!
あいつは誰なんやっ!!」

低い声が今度は荒くなった奏。


『…ごめん、奏。

お客さんおる時にいきなり来て、ほんまごめん。』

⏰:09/03/21 02:23 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#182 [七瀬]
「違う。
俺が聞きたいのは、そんなことちゃう。」


首を振る奏。




「奏…君ってゆうんかな?

ちょっとまつりを借りるね。」

そうあの人に引かれ、着いていく私を

きっと奏は、怒りに震えて見ていたに違いない。

⏰:09/03/21 02:27 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#183 [七瀬]
 
だけども

その瞬間、私は幸せに感じた。


愛する奏を放ってってしまった悲しみよりも

あの人が迎えに来てくれた喜びが勝っている

私は



奏を裏切ったんだ。
 

⏰:09/03/21 02:33 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#184 [七瀬]
 
 
「ええ加減に顔上げてくれへん?」


あの人が言う。

『…なんで。

なんで、
急におらんくなったん?』



「まつり、かわいくなったなあ。
あんなチビやったのに。」 

⏰:09/03/21 11:15 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#185 [七瀬]
 
『なんで?
なんでなんよっ!』


顔を上げて睨む。


「ほんまや…。
ほんまにかわいなったわ。」

悲しそうな目をするあの人。


『…原田さん。

原田さんは、オッサンになった。』

⏰:09/03/21 11:19 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#186 [七瀬]
 
すると、あの人は笑った。

「フフフッ、当たり前や。もう34やぞ。34歳。」



そんな悲しい顔せんといてよ。


「ごめんなあ、ほんまに。」

そう言って、タバコを吸い始めた。

その姿があまりにも昔のままで泣けてきた。

⏰:09/03/21 11:22 📱:N703iD 🆔:GhvADkNo


#187 [七瀬]
『…一生許さへん。絶対に。』

「許さんくてもええ。

まつりは忘れてくれていい。」


『じゃあ何で会いに来たんよ!

それに
“忘れてくれていい”
って……

忘れられへんから、許さへんねん!』

怒鳴り付ける。

⏰:09/03/22 04:46 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#188 [七瀬]
 
 
「ほんまやな……。

俺、矛盾してるわ。


俺も忘れられへんから、
許さへんねんな…。」

独り言のように呟く、あの人。


意味分からん。

なにゆうてんの?
 
 

⏰:09/03/22 04:49 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#189 [七瀬]
“俺も”
ってどういうこと?

ちゃんと説明してよ…。


そう思いながらも
聞くのが怖い。








「先月、死んでん。

俺の奥さん。」
 

⏰:09/03/22 04:53 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#190 [七瀬]
 
“先月、死んでん。

俺の奥さん。”





センゲツシンデン。

オレノオクサン。


ズキンズキン

頭、痛い。
 
 

⏰:09/03/22 04:56 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#191 [七瀬]
 
 
 
記憶が蘇る。







あの人と出会った日…。
 
 
 
 
 

⏰:09/03/22 05:08 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#192 [七瀬]
 
 
 
『なあなあ、
あんた、名前なんてゆうん?』


その日、
私はいつもみたいに新人イジメのため、
わざわざ神社の中にある、“たこ焼き”まで
やって来た。



プロパンをいじりながら、新人は言った。
 

⏰:09/03/22 05:13 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#193 [七瀬]
 
「ハラダタカシやで。」


『ハラダタカシ?』

「野原の“原”に、
田んぼの“田”で原田。

あと、俊足の“俊”でタカシって読むねん。」


そう言われ
“原田”までは、思いついたものの、

小学2年生の私。
“俊”はカタカナのままだった。

⏰:09/03/22 05:19 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#194 [七瀬]
 
 
とりあえず、

ふーん
と適当に頷く。


だって、

私がに聞きたいことは、
そんなんと違うし。


相手が嫌がるような、
うっとうしくて仕方なく
感じるようなことを聞くのが

ほんまの目的。

⏰:09/03/22 05:24 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#195 [七瀬]
 
何歳?
 
誕生日は?

血液型は?

どこ住んでんの?


こんなんは、序の口。


ファーストキスはいつ?

どこで?

どんな風に?

好奇心だらけの質問。

⏰:09/03/22 05:27 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#196 [七瀬]
 
どれにも笑って答えてゆく。

なかなかやるな、コイツ。


確かな手応えを感じ始める。

そして、



『今、彼女おんの?』

と、とうとう聞いた。
 

⏰:09/03/22 05:30 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#197 [七瀬]
 
「ん〜、彼女ってゆうか、奥さんやな。」

『結婚してんの?』


「そぉやな。」


たこ焼きを焼き始めた手を見ると


指輪。


子どもの私でも、
その意味は理解できた。
 

⏰:09/03/22 05:34 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#198 [七瀬]
 
 
『ふーん。子どもは?
子どもはおんの?』


「まだ籍入れて、2ヵ月しか経ってへんし、
そんなんまだまだ先や。」

『じゃあ、まだ見ぬ赤ちゃんのために頑張りや。

ここで、さぼらんように
まつりが見張っといたるわ。』


「そりゃ、
どーもありがとぉ。」

⏰:09/03/22 05:38 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#199 [七瀬]
 
ほんまえらそうなガキ。


そんな私にも、笑って答えるあの人。


今の私やったら、

ガキんちょに
自分の子どものことなんか心配してほしないわっ!

ってキレてる。
 
 

⏰:09/03/22 05:41 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#200 [七瀬]
 
 
それから、
本当に私は見張り続けた。

とゆうより、
お邪魔し続けた。






そして私が小学6年生になった時、

“原田さんに子どもが出来た”

と聞いた。

⏰:09/03/22 05:44 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


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