夏祭り、恋花火
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#201 [七瀬]
お母さんとおばあちゃんが話してるところを
盗み聞きした。



ショックやった。


なんでか分からへんけど、無性に悲しくって

イライラした。


今、思えば

出会った時から、あの人が好きやったんや。
 

⏰:09/03/22 05:47 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#202 [七瀬]
 
 
それに焦った。

奥さんがおるのは、
正直なんも思わんかった。


けれど、
子どもが生まれたら、
もう私なんか相手してくれへんくなる。


そう思うと、
苦しくって苦しくって
溜まらんかった。
 

⏰:09/03/22 05:50 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#203 [七瀬]
 
 
 
「なんか最近、冷たいやん。」


『別に。
真面目に働いてるだけ。』

私はこの頃から、1人で金魚を任されるようになった。


「そっか。
おっちゃん寂しぃわ。」

店を潰しながら、軽く言う。

⏰:09/03/22 19:04 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#204 [七瀬]
 
そんなこと、思ってないくせに。


あの人は私の前では
自分のことを
“おっちゃん”とゆう。

今まで、なんとも思わんかったのに

最近は子供扱いされてるみたいで、いやや。
 
 
むしゃくしゃする。
 

⏰:09/03/22 19:07 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#205 [七瀬]
 
 
あの人は、自分から
自分のことを話す人じゃない。

本人はなんも、ゆうてへんし、
お母さんらの間違いかも。

だから、ほんまは嘘なんかも。

そんな淡い期待を抱く。


『子供できたって
ほんまなん?』
 
 

⏰:09/03/22 22:09 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#206 [七瀬]
 
そうであってほしかった。

お母さんらの勘違い、

もしくは私の聞き間違い。





あの人は

「ほんまやで。」
 
 
サラリと答えた。
 

⏰:09/03/22 22:12 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#207 [七瀬]
 
 
それから、私は何も言わずあの人も何も話さなず。


あるのは沈黙だけ。



その夜、布団に入りながらなかなか寝付けなかった。

忙しくって疲れてるはずなのに。
 

私の気持ちが睡眠の邪魔をした。

⏰:09/03/22 22:16 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#208 [七瀬]
 
 
そして、ある決心をする。 
 
 
 
 
 
 
翌日。



『原田さん。』
 
 
あの人に声を掛ける。 
 

⏰:09/03/22 22:20 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#209 [七瀬]
 
「どしたんや、まつり。」


最近は
あの人が話し掛けて来ても、ほぼ無反応やったのに

しゃべって来た私に驚くあの人。







『…幸せにな。』
 
 

⏰:09/03/22 22:27 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#210 [七瀬]
 
え?
とでも聞くように目を丸くするあの人。



『だからっ!


…幸せになってな
ってゆうてんねんっ!!』


照れ隠しのため、少し声を荒げる。
 
 

⏰:09/03/22 22:30 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#211 [七瀬]
そんな私に気付いてるように、あの人は言った。

「ありがとう、まつり。」


すごい嬉しそぉに笑うあの人に

今までの嫉妬や醜い感情が全てアホらしく思えた。




『それだけやから。』

そう言って、
素早くその場から立ち去った。

⏰:09/03/22 22:34 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#212 [七瀬]
それからとゆうものの、
また私は質問攻めにした。

『男の子?女の子?』

「さあ、どっちやろな。」

『どっちがいい?』

「男やったら、一緒に遊んであげたいし、
女やったら、手料理とか食べたいしなあ。

…どっちでもええわ。」

『親バカや。』

二人の間に笑いが起こる。

⏰:09/03/22 22:47 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#213 [七瀬]
 
 
『名前は?』

「いくつか候補はあるよ。」

『例えば?』

「内緒。」

『ケチ。』



こんな感じで
前みたいに戻った。
 

⏰:09/03/22 22:50 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#214 [七瀬]
 
 
そして冬になった。



お初天神。

新年にみんなの心がウキウキしている時。


年が空け、大忙し。


日本一長い商店街の中、
金魚とたこ焼きは隣同士。 

⏰:09/03/22 22:53 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#215 [七瀬]
 
私は少し気掛かりだった。


だって
赤ちゃんのことを全然聞かへんし。


八月の中旬の頃に確か6ヵ月ってゆうてた。

今は1月。

もう生まれているはず。
 
 
でも、あの人は何も言わへん。

⏰:09/03/22 22:59 📱:N703iD 🆔:0553rOCs


#216 [七瀬]
気になって気になって
しょうがない!

歯がゆい気持ちが心中を支配する。



『子供、生まれたん?』

ガマン出来なくって、
たこ焼きにおる、あの人に聞いた。
 
 
すると、あの人は

「生まれたよ。」

笑って言った。

⏰:09/03/23 19:24 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#217 [七瀬]
 
『良かったなあ。

って、なんでゆうてくれへんのよっ!!』


「あれ?
おっちゃん、ゆうてなかったっけ。」

『もう!』



寂しいやん。

一言ゆうてよ。
 

⏰:09/03/23 19:27 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#218 [七瀬]
 
確かに私には関係ない。

関係ないけど、

わかってるけど、


一言ゆうてほしかった。



奥さんがいて、子供が生まれて…

やっぱり、
もう私の相手してくれへんのかな。
 
ただのガキんちょやもん。

⏰:09/03/23 19:31 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#219 [七瀬]
 
 
でも、やっぱり話したい。

一緒に笑いたい。


私は今まで以上に、話し掛けた。

あの人も、これまでと同じように話す。


少し安心する。

普通に話してくれる。

良かった。

⏰:09/03/23 19:34 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#220 [七瀬]
 
時々、

『子供は元気?』

と聞いた。

すると、あの人は

「元気やで。」

と決まって言う。


それやったらええ。

ええけど、

それだけしか言わん。

いっつも同じ答え。

⏰:09/03/23 19:37 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#221 [七瀬]
 
それに、

名前、性別…

いつ聞いても、答えてくれへん。


「なんやと思う?」

「どっちでしょーか?」

絶対はぐらかされる。


そのたび悲しい。
 

⏰:09/03/23 19:39 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#222 [七瀬]
 
 
 
そして中1の通り抜け。


あのままバイバイして今。





結局、最後まで子供のことは聞かれへんかった。
 
 

⏰:09/03/23 19:42 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#223 [七瀬]
 
 
 
どれくらい沈黙が続いただろうか。


多分5分くらい。

でも、何時間にも思えた。


今日は30度を超える真夏日。

なのに、
額には冷や汗ばかり流れる。
 

⏰:09/03/23 19:45 📱:N703iD 🆔:7XQi.j2w


#224 [七瀬]
 
 
この沈黙に我慢も限界。

『原田さ…』


「ごめん。」

遮られる。


“ごめん”?

なにが“ごめん”なん?



「嘘ついてた…。」
 

⏰:09/03/24 08:20 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#225 [七瀬]
 
嘘?


“奥さんが死んだ”

ってゆうのは嘘?






「ほんまは子供なんておらんねん。

8年前……。
まつりが小学生の時、流産した。」 
 

⏰:09/03/24 08:24 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#226 [七瀬]
 
なに…それ。


安心は束の間。

“奥さんが死んだ“
のが嘘なんやなくて、

“子供がおる”
ってゆうんが嘘?



そんなん…、
なんでいまさら。

がく然とする。
 

⏰:09/03/24 08:27 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#227 [七瀬]
 
 
私が今まで見てきたのは

夢やった。


家族に囲まれて笑うあの人は


ただの幻やった。
 
 
なんのために願ったんだろう。


“幸せになっ”
 

⏰:09/03/24 08:30 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#228 [七瀬]
 
 
「あの時…。
まつりが“幸せにな”ってゆうてくれた時。

おっちゃん……心底、誓った。

なのに……」


あの人は声は震えている。


私は何も言わない。


言えない。
 

⏰:09/03/24 08:33 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#229 [七瀬]
 
それは、
あの人に同情して何も言えないんじゃない。


感情がない。

言わば、脱け殻状態。


あの人は続けた。

「買い物行ってた時、急に…。

普通にしてたのに。
転んだわけやない。無理してたわけでもない…。」
 

⏰:09/03/24 08:38 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#230 [七瀬]
 
声の震えが増してゆく。


「まつりには言われへんかった。
あんな喜んでくれてたのに。」


ここで、やっと悲しさが襲って来た。

あの人も苦しかったんや…。
泣きたかったんや。


私以上に。
 

⏰:09/03/24 08:41 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#231 [七瀬]
 
 
「それから、自殺しようとした。
その時は未遂で終わったけど…。

でも彼女は完全に病んでた。
何回も何回も……

止めても止めても、死のうとした。」

途中から、すすり泣きを入れつつ、話す彼。

 
私の目も自然と潤みだす。 
 

⏰:09/03/24 08:47 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#232 [七瀬]
「彼女の両親に、相談すると
“病院入れろ”と一言、
言われただけやった。」

冷たい両親。

怒りを覚える。


「俺、それだけはいやで…

俺の両親にゆうたら協力してくれた。

だから神野商会を止めた。

彼女となるべく一緒にいてあげよう思て。」

⏰:09/03/24 08:52 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#233 [七瀬]
 
途中、あの人が自分のことを
“おっちゃん”ではなく

“俺”とゆうてるのに気付いた。

それだけ余裕がなくなってんのかな?



『気付かんで、ごめん。』


すると、あの人は首を振った。
 

⏰:09/03/24 08:57 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#234 [七瀬]
 
「アホ。
お前は自分のことだけ考えてればいい。」

そう笑ったけど、今にも壊れてしまいそうだった。



「それから、まもなくして


癌…見つかった。」


なんとなく予想はしていた。
 

⏰:09/03/24 09:01 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#235 [七瀬]
 
 
“まもなく”とゆうても、あの人が神野商会を辞めて3年が経っていた頃。


私が中2の時だった。

私が奏と出会って1年が過ぎてた時期。


あの人の奥さんに癌が見つかった。

乳ガンだった。
 
 

⏰:09/03/24 09:05 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#236 [七瀬]
 
心の病は、癒されても
体はどんどん蝕まれてゆく。

手術を受けた。

結果は一応、成功。


でも1年後、転移した新たな癌が見つかったらしい。

医者には、“手遅れ”と言われた。

それから抗がん剤だけの治療が始まった。
 

⏰:09/03/24 09:09 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#237 [七瀬]
 
髪は抜け落ち、

頬は痩せこけ…

癒えた心の傷も、また開きだす。


あの人は頑張った。

だけど



とうとう先月


彼女は屋上から飛び降りた。

⏰:09/03/24 09:12 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#238 [七瀬]
 
飛び降りようが、しなかろうが、もう長くはなかっただろう

と医者は言ったとゆう。



「彼女……由利は最後の力を振り絞ってでも、
少しでも早く…

楽になりたかったんやな。」

遠くを見ながらあの人は言った。
 

⏰:09/03/24 09:16 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#239 [七瀬]
 
今度は同情して、何も言われへんかった。



「葬式はあっとゆう間やった。

あれ、不思議なもんで
葬式中は慌ただしくって悲しみも忘れてまうのに、

終わったら、普通の何倍も悲しくなる。」


そう笑うあの人に胸がキュッと締め付けられた。

⏰:09/03/24 09:24 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#240 [七瀬]
 
「俺も死んじゃおっかなーって思た時、

まつりの顔が浮かんで、
会いたなった。

だから今日、会いに来た。」

そうゆうと、真っすぐに私を見つめた。






『…死なんといて。』
 

⏰:09/03/24 09:29 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#241 [七瀬]
 
気が付けば、私の手と頬は涙でグッショリ。



『死んだらアカン。
死んだら…』

涙で詰まる。


「ありがとう。」

そう涙をすくってくれる。


これじゃ、どっちが慰めてんのか分からん。
 

⏰:09/03/24 09:33 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#242 [七瀬]
「でもな、まつり。
俺…許されへんねん。

由利が。
なんで自分から命を断ってしまったのか。

さっき、まつりがゆうたやろ?
“忘れられへんから、許されへん”って。

俺もそうや。
由利のこと愛してた。
だからこそ許されへんねん。
なんで俺を置いてってしまったんや…。

それに……」

⏰:09/03/24 15:49 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#243 [七瀬]
 
『それに…?』


「それに、俺自身も許されへん。

なんで、もっと由利を支えられなかったんや。

子供も守られへんかった。

もし、あの時……
流産なんかしてなかったら由利も俺も人生変わってた。
もっともっと頑張れた。」 
 

⏰:09/03/24 15:53 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#244 [七瀬]
 
頑張れた?

人生変わってた?


彼の言うとおり、
流産してなかったら、違う運命やったやろうな。


私も彼と、離れなくて済んだ。

みんなみんな幸せやったんや…。



『…そやけどっ!』

⏰:09/03/24 16:04 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#245 [七瀬]
 
私を見る原田さん。


『死んだら、なにもかも終わりやでっ!?

オシャレも出けへんし、
おいしいもんも食べられへん。
遊園地にも行かれへんねんで!?』


わわ、何言ってんねん私。
訳分からん!

そう思いつつも止まらない憎らしい口。

⏰:09/03/24 16:15 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#246 [七瀬]
 
『それにっ……


それにな!

原田さんの大好きな奥さんはもう、いいひん。

でも大好きな人が死んで、

“あの人が死んだから、
自分も死ぬ”とか

いちいちゆうてたら、

世界中の人口おらんくなるわっ!
人類滅亡やわ!!』
 

⏰:09/03/24 16:22 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#247 [七瀬]
 
かなり、的外れなことゆうてるよな?

自分でわかってる。


やけど、

どうしても彼に生きる希望を見てほしかった。

こんなこと、ゆうて
引き止められるのか、分からへん。

ってか絶対無理!

でも、言わずにはいられへんかった。

⏰:09/03/24 16:26 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#248 [七瀬]
 
 
「プッ、ハハハハハハ…」


あ…笑ってる?

てか爆笑やん。

ウケ狙ったわけとちゃうねんけど

むしろ結構、真剣やってんけど……


ま、いっか。

彼が笑ってくれるならええ。

⏰:09/03/24 16:30 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#249 [七瀬]
腹を抱えながら、まだ笑っている。


「ほんま…ほんまやわ!
まつりのゆう通り!!

人類滅亡するわあ〜!」

笑い過ぎてヒィヒィゆうてる原田さんに

さっきまでの気持ちは
どこへやら。


『はい。
戦争とか、新型インフルエンザとか、隕石とかゆうてる場合とちゃいますー!』

⏰:09/03/24 16:36 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#250 [七瀬]
少し膨れて見せた。


「うん、ほんまそやな。


やっぱりまつりに会えて良かった。
なんか光が見えた気がするわ。」

『そ、それは良かったなっ!』


ほんまに良かった…。



『あと…』

⏰:09/03/24 16:41 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#251 [七瀬]
 
「ん?
“あと”…なんや?」


『もし、
原田さんが死んだら、私が頭おかしなるわ…。』


真剣な目付きに戻る。

『それに、私はずっと思ってた。

“この花火、原田さんも見てるんかな?”って。

天神祭の花火を見るたびに。』

⏰:09/03/24 16:46 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#252 [七瀬]
 
 
「花火は見えへん。
俺の家からは見えへんな、残念ながら。


でも

聞こえてた。

花火がバーン!!
って弾ける音。

ほんま小さくやけどな。」


そう彼は笑った。
 

⏰:09/03/24 16:50 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#253 [七瀬]
 
「ほんまにありがとう、まつり」
 
 
そう言って、彼は去って行った。


新たな光へと向かって。



私は、もう忘れた。

彼との記憶ではなく、

その記憶をいつまでも引きずっていた私を。
 

⏰:09/03/24 16:58 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#254 [七瀬]
 
上を見上げる。

天神祭よりも、かなり小規模な今夜の祭の花火。


目を閉じる。

耳に神経を集中させる。


バーン!!

パチパチパチパチ…


上がった花火が、燃え尽きる音が聞こえる。
 

⏰:09/03/24 17:05 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#255 [七瀬]
 
 
 
 
さようなら、初恋の人。




さようなら。





私の恋花火…
 
 

⏰:09/03/24 17:07 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#256 [七瀬]
 
 
『ごめんっ!ほんまごめんなあ、麻友ちゃん!!』

「ええよ。
だって原田さんと話せたんやろ?」

『うん!おかげさまで。
けじめ、つけれた。』

「じゃあ良かったやん。
私は、まつりが原田さんとちゃんと話せたなら、別にええねん。」


『麻友ちゃん…ほんまにありがとう。』

⏰:09/03/24 19:56 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#257 [七瀬]
今は、もう店も潰し終わったところ。


私がいなくなった後、
麻友ちゃんが金魚の店番をしてくれた。


「なに水臭いことゆうてんのよ。」

そう笑ったのも、束の間。


「まつり。」
 
深刻そうな面持ちで話し始めた。

⏰:09/03/24 20:00 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#258 [七瀬]
『ん?』


「あんた忘れてるやろ。」

『え?何を??』


ため息をつく麻友ちゃん。

「奏君。」


『あっ!!』


アカン…。

完全に忘れてた。
 

⏰:09/03/24 20:03 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#259 [七瀬]
 
『ごめん!!
もっかい行ってくる!』

そう言いながら、
私の足はボールへと急いでいた。


「はぁーい。
今日、まつりは給料なしやからなあー。」


遠くから、意味深な言葉を麻友ちゃんが発していたけど、
とりあえず頷いて、先へ走ってゆく。

⏰:09/03/24 20:07 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#260 [七瀬]
 
 
 
『奏!』


「まつり?」



『あれ、遊希…

奏っ!奏は!?どこにおんの?』


「え、奏なら先、帰ったよ。
体調悪いとかゆうて。」
 

⏰:09/03/24 20:11 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#261 [七瀬]
 
『嘘やんっ!?』


「そんなしょうもない嘘つかんわ。」

『そぉか…
ならええわ。ごめんな急に。』


しょうがない。

麻友ちゃんとこ戻ろか。
 
また奏にはメールしとこ。 
 

⏰:09/03/24 20:14 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#262 [七瀬]
 
「待てっ!!」


遊希に引き止められる。



『なに?』

振り向く。


「奏と…なんかあったんか?」


『遊希には関係ない。』  

⏰:09/03/24 20:17 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#263 [七瀬]
「関係あるわ、ボケ。

奏がいきなり帰るとか言いだすから、
俺、カステラの前場から、ボールに行かされるし。

なんかお前も、急におらんくなったみたいやし…。」


『遊希、ほんまごめん。
あんたにも迷惑掛けててんな。』


「まあ…ええけど。

で?何があったん?」
 

⏰:09/03/24 20:23 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#264 [七瀬]
 
黙り込む私。


「言いたないなら、別に言わんでえ…」


『私!


…私、奏を裏切ってん。』


遊希の目が大きく見開かれる。


「どうゆう…ことや。」 
 

⏰:09/03/24 20:34 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#265 [七瀬]
 
『奏を裏切った……

それだけ。』


「それだけって…
ふざけてんのか、お前。」


『ごめん、それじゃ。』

そう言って、
その場を素早く立ち去った。



「まつり…なんでなんや。」 
 

⏰:09/03/24 20:37 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#266 [七瀬]
 
その夜、奏にメールした。

“今日はごめんな。
会って話したい。”

それから眠りについた。


次の朝、奏からメールは来ていなかった。

やっぱ怒ってるかな。
当たり前か。


でも、奏。
私は決めてん。

もう私は答え出てるよ。

⏰:09/03/24 20:46 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#267 [七瀬]
 
 
それから次の日、
またその次の日……

奏からメールは来(コ)うへんかった。

毎朝、問い合わせしてる。


私のこと避けてるな。

でも、明日は祭がある。


逃げられへんで、奏。

一人で納得して、寝床についた。

⏰:09/03/24 20:51 📱:N703iD 🆔:z5682swI


#268 [七瀬]
 
 
ガタンゴトン
ガタンゴトン…


「今日はいつもより、暑いなあ。」

そうゆうお母さんの首筋は汗で光っていた。

『ほんま真夏日どころとちゃうわ。』

そんな私も、びっしょり。


「次の駅で降りんで。」
 

⏰:09/03/25 19:11 📱:N703iD 🆔:zoW2wVms


#269 [七瀬]
 
扉を開くと、
ふわ〜んと生暖かい風が顔に吹きかかった。


「はい、これ。」

『重っ!』

「そりゃ、ハチミツ入ってんもん。
じゃあこっち持つ?」

そう牛乳が6、7本入った、ビニール袋を見せた。


『…遠慮しときます。』  

⏰:09/03/25 19:16 📱:N703iD 🆔:zoW2wVms


#270 [七瀬]
「文句言わんと、はよ歩き。」

そう言われ、渋々歩き出す。




『まだ〜?まだ着かへんの?』

汗でベタベタして全身が気持ち悪い。


「後5分や!」
 
お母さんは言う。
 

⏰:09/03/26 21:36 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#271 [七瀬]
 
 
あの〜。
さっきから、ずっとゆうてるんですけど。

5分前に聞いた時も「後5分」

10分前に聞いた時も「後5分」……


重たい荷物に、
ガンガン照ってる太陽。


体力も限界に近づいていた。
 
 

⏰:09/03/26 21:42 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#272 [七瀬]
『なあ〜、
ちょっと休憩しよぉや。

ほら、そこの喫茶店で…』


「後5分やから!!」

『さっきから、5分5分ゆうて……、
もう20分近く経ってるわ!』


「そんなんゆうたって…

毎年来てるねんし、駅から遠いん、まつりも知ってるやん。」
 

⏰:09/03/26 21:47 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#273 [七瀬]
 
アカン。
もうアカンわ…

クラクラする。


「だいたい、あんたは…」

お母さんの小言が始まっても、
反論する力がない。


意識が朦朧としてきた。
 
ビニール袋を握っている手も、無意識にゆるむ。
 

⏰:09/03/26 21:52 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#274 [七瀬]
 
バサッ



「まつり?


まつり!」


あれ?
私、どしたんや。

私の目には、アスファルトが映る。

耳には、お母さんの
「まつり!まつり!」とゆう騒がしい声。

⏰:09/03/26 21:55 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#275 [七瀬]
「救急車…
そうや、救急車呼ぼ!」   

救急車?

あ、そっか。


私、倒れたんか。

こんな状況なのに、
お母さんより冷静な自分がいる。


ピーポーピーポー

という音を最後に記憶は途絶えた。

⏰:09/03/26 21:59 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#276 [七瀬]
 
 
 
『…うーん、ん!?』


目をパチッとさせる。

ここどこ?


え、えぇ!?

考えろ
考えろ……

ここはどこなんや。


んー、さっぱり。

⏰:09/03/26 22:02 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#277 [七瀬]
 
軽く焦る。


だって、
真っ白な部屋で、
真っ白なベッドに横たわってんねんもん!



「あら、神野さん。
目ぇ、覚めはってんな。」

ガラッとドアが開いたと思ったら、
真っ白な服を来た女の人。 
 

⏰:09/03/26 22:06 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#278 [七瀬]
 
 
あぁ、ここは病院かぁ。

で、目の前には看護士さん。

で、私は…


そう!そうや!!

倒れたんや!


なんか暑いなあ

って思たら、力が抜けてきて…… 
 

⏰:09/03/26 22:09 📱:N703iD 🆔:a//mBGPc


#279 [七瀬]
 
それで、お母さんが……


「まつり!意識戻ってんな。
心配したわあ。」

お母さんが病室に入ってきた。


「まつり、倒れてんで。
熱中症で。」

そうなんや。


「でも良かったぁ。
ほんま良かった。」

⏰:09/03/27 15:17 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#280 [七瀬]
心底、安心したように
お母さんは言った。


「明日1日だけ、安静にしていれば、退院ですよ。」

看護士さんが笑った。


『明日ってことは…』

「行かれへんよ。」

私の言葉は遮られた。


「祭には行かれへん。
おばあちゃんにはお母さんからゆうとく。」

⏰:09/03/27 15:25 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#281 [七瀬]
 
『…うん、わかった。』

「ゆっくり休み。

金魚なら、麻友がやってくれてるから。」


そう言って、お母さんは病室から出ていった。


暇…やなあ。

シーンと静まり返った室内。

テレビを見ても、つまらへん。

⏰:09/03/27 17:39 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#282 [七瀬]
 
そうやってノロノロと時間が過ぎる。


「もう就寝時間ですよー。」


イヤホンはしてるし、
個室やから、
苦情が出ることはない
と思うけど……

つまらないのも、あったのでテレビを消した。


携帯を開くと、
PM 9:12

⏰:09/03/27 17:46 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#283 [七瀬]
 
一番、忙しい時間帯やん。

ディスプレイを見て思う。


ふと見るとメールが来ている。


開くと、

“大丈夫か?”




遊希からだった。
 

⏰:09/03/27 17:49 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#284 [七瀬]
 
その一通だけだった。


奏も聞いてるはずやのに。

メールくらい、くれたってええやん。


そりゃあ、
私が悪いのは、分かってる。
分かってるけど…



この熱帯夜とモヤモヤした気持ちのせいで寝付けない。

⏰:09/03/27 17:54 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#285 [七瀬]
 
気が付けば、もう11時過ぎ。

祭が、ちょうど終わって…

潰し始めてるころかな。


携帯を開いてメールを打つ。

遊希には、

“さっきはメールありがとう。
明日も行かれへんけど、
すぐ退院出来るし、大丈夫や。”
 

⏰:09/03/27 17:58 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#286 [七瀬]
 
あと麻友ちゃんにも。

“今日は、ありがとう。
明日も行かれへんから、お願いします。
金魚ばっか、さしてごめんなあ。”



奏には送らへんかった。


その代わりに電話してみる。

プルルルルル…
 
 

⏰:09/03/27 18:02 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#287 [七瀬]
 
出ぇへん。


ため息をつきながら、携帯を閉じる。

もう、潰し終わって
大竹さんと遊希と一緒に
トラックで、帰っているはず。


なんで、出ぇへんねん。

やっぱ避けてんねや。

でもこんな時くらい、
怒っててもいいから声、聞きたかった。

⏰:09/03/27 18:07 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#288 [七瀬]
 
 
 
プルルルルル…


「奏、携帯なってる。」


「ああ、まつりからや。」

「出ぇへんの?」



「うん。」


プルルルルル…プツッ 
 

⏰:09/03/27 18:12 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#289 [七瀬]
 
 
 
カシャ

「なんや、もう目、覚めたんか。」



『…遊希。
なにしてんのよ。』


「あーバレた?」

そう笑う遊希の手には携帯。
 

⏰:09/03/27 18:27 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#290 [七瀬]
 
『…何が?』

嫌な予感がして、
遊希をジロリと睨む。


「まつりって寝顔の方が
かわいいな」

そう、携帯を見せてきた。


瞬間、私は遊希の手から携帯を奪っていた。



「ああっ!?なにすんねん!」 

⏰:09/03/27 18:31 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#291 [七瀬]
『“なにすんねん”は
こっちのセリフや!』


“カシャ”ってゆう音は
シャッター音やったんか!

まったく、油断も隙もないわ!!


ふぅー、
これで安心や。


“削除しました”

携帯を遊希に返す。

⏰:09/03/27 18:35 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#292 [七瀬]
 
「せーっかく、
俺の新しい待ち受けにしよぉと思ったのに。」


『せんでええわ!』


「まあ、そうスネんなって。
体調はどうや?
って、今のお前見てたら、元気っぽいけど。」


『…めちゃめちゃ元気や。』
 

⏰:09/03/27 18:53 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#293 [七瀬]
「“めちゃめちゃ元気や”って…

全然、元気ちゃうやん。
気のない声出して……」


『なあ、遊希!』

遊希の目を見る。


『…奏が電話に出てくれへん。
電話どころか、メールも返してくれへん。』


「まつり…」
 

⏰:09/03/27 18:58 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#294 [七瀬]
目をそらす遊希。


「まつり、それは……」


『分かってる!

…私が裏切ったから。

私が悪いってゆうのも、分かってる。

でもっ!


…なんかもう嫌や。』
 
やば、泣きそう。

⏰:09/03/27 19:02 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#295 [七瀬]
 
「まつり…」


『遊希、知ってんのやろ。

…昨日、奏が私の電話に出ぇへんかったこと。

奏と一緒やったんやろ?』


遊希は迷っている様子。



「…うん。知ってた。
一緒におったよ、奏と。」 

⏰:09/03/27 19:07 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#296 [七瀬]
『そっか。なんかごめんな。
遊希に、こんなん聞いても困らすだけやのにな…』


どっかで期待してた。

もしかしたら、奏に携帯に出られへん理由があったんとちゃうかな?

って、思ってた。


でも遊希も一緒におって私から電話したの知ってる。

奏は私の電話、
知って、無視したんや。

⏰:09/03/27 19:13 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#297 [七瀬]
 
 
分かってても、ショック。 
 
もう奏とは、終わりなんかな?

アホやな、私。





私は奏と
“やり直す”つもりやった。

ほんまアホやわ。
 

⏰:09/03/27 19:20 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#298 [七瀬]
 
 
 
「俺は…」


『遊希、もういいねん。
なんもゆわんといて。

何回も言うけど
悪いのは私。

奏は、なんも悪ない。』



「これから、どうするんや。」
 
 

⏰:09/03/27 19:24 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#299 [七瀬]
 
『とりあえず、明日には退院できるし、
次の祭…ちょうど一週間後かな?
一週間後、行くよ。

それで、奏と話し合う。』


「なに話し合うん?」


『謝って、やり直せたらいいなって思う。』
 
 
「本気なんか。」
 

⏰:09/03/27 19:29 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#300 [七瀬]
 
『うん。

やり直せるか分からんけど、頑張ってみる。』




「…アカン。」


『遊希?』



「止めとき。」

こんな怖い目の遊希、
初めて見た。

⏰:09/03/27 19:33 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#301 [七瀬]
 
『遊希の言うてることは、分かってる。

そんな都合いいことアカンよな。』


「違う!
そんなんゆうてんのと、ちゃう!!」




コンコン

「神野さん?
入りますよー?」
 

⏰:09/03/27 19:36 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#302 [七瀬]
 
 
「じゃあ、もうそろそろ行くわ。
体調、崩さんようにな。」

『ありがとう。
遊希も頑張ってな、カステラ。』


「おう!」

そう笑った後、


「ほんまに、
もう奏には手ぇ、引きや。」

⏰:09/03/27 19:41 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#303 [七瀬]
また怖い目に戻って、病室を出ていった。


「気分はどうですか?」

お医者さんの質問に答えてる間にも、上の空。


“奏には手ぇ、引きや”

遊希の言葉がこだまする。


奏から手を引く?


そんなん嫌や。
 

⏰:09/03/27 19:46 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#304 [七瀬]
 
 
 
私には


もう奏のいない生活なんて考えられへんの。


せっかく、あの人が吹っ切れたのに、

今度は奏?


もう、あんな思いはしたない。
 
 

⏰:09/03/27 19:49 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#305 [七瀬]
 
 
 
「退院おめでとぉ!」


『ありがとう。
でもたかが熱中症で倒れて2日間、寝込んでただけやで?
大げさやわ。』


「何ゆうてんの。
はい、いっぱい食べ。
いっぱい食べて体力つけなさい。」

お母さんは、ステーキをテーブルに置いた。

⏰:09/03/27 21:07 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#306 [七瀬]
 
『おいひい〜。』

一口含むと、柔らかい舌触りと肉汁が広がった。


「そう、良かった。

まつり、ごめんな。
お母さん、気付いてあげられなくって。」


ステーキを飲み込んだ。

『ええよ。仕方ないやん。』
 

⏰:09/03/27 21:11 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#307 [七瀬]
 
それから
気持ち良くって、
ついお風呂に1時間以上、入ってしまった。

やっぱり我が家が一番。


自分の部屋に入る。

うわ〜、
めっちゃ久々やん!

部屋の中にある全てが、懐かしく感じた。
 
 
ふと見ると携帯が光ってるのが見えた。

⏰:09/03/27 21:16 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#308 [七瀬]
 
“退院おめでとう。”


ほんま遊希も大げさや。


“ありがとう!”

と送り返すと、


しばらくして遊希から電話。

『もしもーし。』


「まつり、退院おめでとう。」

⏰:09/03/27 21:19 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#309 [七瀬]
 
『遊希もお母さんも、おーげさや。』


「それだけ心配してんの。まつりのお母さんも、

俺もな。」


『…ありがと。』


「どーいたしまして。

それよりどう?
2日ぶりの我が家は。」
 

⏰:09/03/27 21:22 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#310 [七瀬]
『たった2日間おらんかっただけやのに、懐かしい。不思議な気持ちや。』


「そんなもんや。

それより、明後日。
明後日どう?」


『明後日?なんかあんの?祭はないやろ?』


「明後日、ヒマ?」
 

『ヒマってゆわれたら、
ヒマ…やけど。』
 

⏰:09/03/27 21:27 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#311 [七瀬]
 
「じゃあ決まりや!」


『は?決まりって…』


「昼の11時。
まつりの家に迎えに行くから、待ってて。」


『え!ちょっと遊希!?』


「じゃあ、明日もゆっくり休めよ。
明後日は、忙しいでー。
祭以上に。」
 

⏰:09/03/27 21:30 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#312 [七瀬]
『ちょ…待ってってば!
遊…希。』


プツッ

ツーツーツーツーツー


一方的に切られてしまった。

虚しい音だけが、私の耳に残る。


なんやねん、あれ。

意味分からんまま、眠りについた。

⏰:09/03/27 21:36 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#313 [七瀬]
 
 
 
そして明後日。


ピーンポーン


『はーいっ。』

ドアを開けると


『ほんまに来たん!?』


「冗談やと思った?」

ニカッと笑う遊希。

⏰:09/03/27 22:06 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#314 [七瀬]
 
『いや…冗談とゆうか…』


「用意出来たか?」

『用意って……』


「もちろん出掛ける用意。」



「あらあら!遊希くん!!」

その時、運悪く?
お母さんが登場した。
 
 

⏰:09/03/27 22:11 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#315 [七瀬]
「どぉも、こんにちは。」


「こんにちは〜。

もしかしたら、
これからまつりとデート!?

ごめんねぇ、遊希くん。
この娘、グータラして、まだ顔も洗ってないのよ!

ここで待つのも、あれだし…
あがってちょうだい!」


お母さんは、
かーなーり一方的、
かつ一気にしゃべった。

⏰:09/03/27 22:16 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#316 [七瀬]
 
『顔は洗ったし!
着替えてないだけで…

ってかデートちゃうわ!』


そんな私の言い分は無視され、
遊希は初めて私の家に足を踏み入れた。


『と、とりあえず着替えてくるから!』

バタン!

そう言って、部屋へ戻る。

⏰:09/03/27 22:20 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#317 [七瀬]
 
なにあれなにあれ!

来るとは言ってたけど、
ほんまに来るか!?


ドア越しに聞こえる
お母さんと遊希の笑い声。

ほとんどお母さんの声やけど。


そんな二人とは裏腹に、心臓バクバクな私。


えーとっ!
とりあえず着替な!!

⏰:09/03/27 23:55 📱:N703iD 🆔:VBS6fHZc


#318 [七瀬]
 
タンスを片っ端から開けて、あさる。


あ、あった!

少し大人っぽい白いワンピースを取り出す。


軽く化粧をする。


「まだかー、まつり。」


『ま、待って!』

最後にグロスを塗る。

⏰:09/03/28 00:00 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#319 [七瀬]
 
『おまたせっ。』


「よし、行こか!!

じゃあお母さん、
麦茶ありがとうございました。」


「はーい。気を付けて。
またおいでね、遊希くん。」


お母さんに見送られ、
家を後にした。
 

⏰:09/03/28 00:03 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#320 [七瀬]
 
しばらく歩いて、
近所のバス停に着いた。


『バス乗んの?

ってか、どこ行くんよ。』


「うーん、70点。」

私の質問をスルーして、
遊希は言った。


『え?』
 
 

⏰:09/03/28 00:10 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#321 [七瀬]
「後、
髪巻いてくれたら90点やのに。」


なーんだ、そうゆうことか。

『遊希が急かすからやろ。』

「じゃあ、時間あったら巻いてた?」


『さあ、どうかな。』

ちょっと意地悪して、はぐらかす。
 

⏰:09/03/28 00:13 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#322 [七瀬]
 
 
「これが奏とのデートやったら、
急かされても、巻いとったんやろな。」

独り言のように遊希は言った。


『なにゆうてんの。

ってゆうか、
デートちゃうってゆうてるやん!』


「そぉやったな。」
 

⏰:09/03/28 00:17 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#323 [七瀬]
寂しく笑う遊希。


『あとは…になるんよ。』


「なんて?」


『だからっ!

あとは、
どうやったら100点になんの?』


「あ、ああ。」

不意を突かれた様子。
 

⏰:09/03/28 00:21 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#324 [七瀬]
「そぉやな。」

見定めるように、
私を下から上まで見る。


「もぉちょっと
化粧濃くしてくれたら…」

『却下!』


ハハッと遊希が笑った。

私も吊られて笑う。


なぜか、この瞬間が大切に思えた。

⏰:09/03/28 00:26 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#325 [七瀬]
 
『あ、バス来たで!』


プシュー

扉が開いた。


足をバスへと一歩踏み出す。

『遊希?乗らへんの?』


ガバ
 

「やっぱり変更。」 
 

⏰:09/03/28 02:15 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#326 [七瀬]
 
そう言われ、
遊希に手を引っ張られたのだと気付く。


『じゃ、じゃあどこに行くんよ!?』

元々、行き先も知らないのに
急に変更とかされて……

ますます分からん!


「まつりと、
ゆーっくり話せるところ。」

⏰:09/03/28 02:19 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#327 [七瀬]
今度は真剣にゆう遊希。


少し、たじろいでしまう。


『…ゆっくり話せるところってどこよ。』


「うーん、知らへん。」

『ファミレスとか、
喫茶店とか?』


「いいや、違うな。」


『じゃあどこ?』

⏰:09/03/28 03:44 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#328 [七瀬]
 
うんざりと聞く私に、
遊希は


「あっこ。」

指差して言った。


その指の向こうには






……ホテル?
 
 

⏰:09/03/28 03:47 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#329 [七瀬]
こ、これは!

もしかして…
もしかすると!!


イケナイ関係ってやつ!?


『ちょっ、ちょっと遊希!ふざけんのも、ええ加減にして!
そんな真っ昼間から、なに考えてんのよ!

しかも私には奏がおるし……

ほんまにアカンって!!』
 

⏰:09/03/28 03:51 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#330 [七瀬]
 
 
10分後。


「なあ、まつり。
奏は忘れ、な?」

私は遊希に迫られてる。


『…遊希。』

あまりにもの真剣な眼差しに流されてしまいそう。


「な、俺のゆう通りにし。絶対に後悔せんから。
ってか俺がさせへん。」

⏰:09/03/28 03:55 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#331 [七瀬]
 
そんなことゆわれたら…


ごめん。
ごめんな、奏。


『…遊希。

私、遊希のゆう通りに…』



バンッ
 
 
 
『いったー!』
 

⏰:09/03/28 03:59 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#332 [七瀬]
 
 
「おー!ホームランや!!
ホームラン!走れ走れ!」


遠くで聞こえるオッサンの声。


「大丈夫か、まつり!?」


『痛い痛い痛い!
ぜんっぜん大丈夫とちゃうわ!!』


見事に私の額にホームランしたボール。

⏰:09/03/28 04:03 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#333 [七瀬]
 
『だから、川原なんて嫌やってゆうたやんか!』


「ごめんごめん…。
それより、


お前、ほんま最高やな。」
含み笑いする遊希。


『笑うな!』

言った瞬間、遊希は吹き出した。
 

⏰:09/03/28 04:08 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#334 [七瀬]
一回、吹き出してしまうとなかなか止まってはくれないみたいで
遊希はお腹を抱えてる。


「お腹…ほんま最高!
おもろすぎやろ!!」


『そんなことで最高ってゆわれても…』

ブーと膨れる。


「すみませーん。
ボール、そっちに行ってませんか?」
 

⏰:09/03/28 04:12 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#335 [七瀬]
 
 
「あれ、もう帰って来たん?
デート終了?」

家に入っての第一声。


「いや〜、
さっき、まつりが…ブッ」


“デートちゃう!”

“笑うな!”

言い返す気力をすっかりなくしてしまってる。
 

⏰:09/03/28 11:47 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#336 [七瀬]
おとなしく、遊希とお母さんのやり取りを聞いてる私。


「アカン…
思い出したらまた笑えてきた。」


もう好きにして。

好きなだけ笑って下さい。


「あ、そうそう。
おばさん救急車、貸して下さい。」
 

⏰:09/03/28 11:51 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#337 [七瀬]
遊希は消毒液を取り出した。

「ちょっと痛いかもしれんけど我慢してな。」


ピクッ

「痛いか?」

消毒液が傷に染み込んで、ヒリヒリと痛んだ。

『ちょっと痛いかな…』


だけど、痛さの中に遊希の優しさが溢れているようで、うれしく思えた。

⏰:09/03/28 11:56 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#338 [七瀬]
  
 訂正


× 「あ、そうそう。
おばさん救急車、貸して下さい。」

〇 「あ、そうそう。
おばさん救急箱、貸して下さい。」

 
“救急箱”が“救急車”に間違っていました。
 
 

⏰:09/03/28 11:59 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#339 [七瀬]
 
「私、買い物に行ってくるからあ〜。」


お母さんは、なにを勘違いしたのか、
いらない気を利かした。


『ごめんな。
お母さん、なんか勘違いしてるみたいで…』


「はい、終わった。」


『…ありがとう。』
 

⏰:09/03/28 20:12 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#340 [七瀬]
 
 
「あんな、まつり…」


しばらくの沈黙ののち、
遊希が口を開いた。

「さっきの話の続きやねんけど。」


『…うん。』


さっきの話の続き……

嫌な予感。
 
 

⏰:09/03/28 20:14 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#341 [七瀬]
 
「ほんまに何回もゆうけど、奏とは別れ。」


さっきは流されそぉになったけど、今度は違う。

冷静になれ。

と自分に唱える。


『なんで?
なんで、そんなことゆうの?』


「知らん方がええ。」
 

⏰:09/03/28 21:10 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#342 [七瀬]
『知らん方がええって…

そんなんじゃ、納得でけへん!!』

思わず、身を乗り出す。

「知らん方が幸せなこともある。」

遊希は冷たく言った。


『…分からん。
もう分からへんわ!

奏も、


遊希も……』

⏰:09/03/28 21:14 📱:N703iD 🆔:23CTAh1M


#343 [我輩は匿名である]
>>2-60
>>61-120
>>121-180
>>181-240
>>241-300

⏰:09/03/28 21:52 📱:W61SA 🆔:QPIROulk


#344 [七瀬]
 
匿名さん


ありがとう(*^□^*)
 

⏰:09/03/29 00:34 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#345 [七瀬]
 
なんだか、悲しい。


「知りたいか?」 


『知りたいってゆうか、
気になる!

いきなり別れろなんてゆわれて、
納得出来る人なんておらんやろ。』


「まあ…な。」

遊希は一人だけ納得している。

⏰:09/03/29 00:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#346 [七瀬]
 
「じゃあ、話そっかな。」


そう言いながらも、
なかなか話し始めない遊希に苛立つ。

『遊希、言いたいことあるんやったら、はっきり…』


「泣くなよ。」

え?


「頼むから、泣かんとってくれ。」

⏰:09/03/29 00:42 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#347 [七瀬]
 
やっぱり、良い話ではないみたい。


「約束できるか?
絶対に泣かへんって。」

そんなん、聞いてみな分からへん

そう思ったけれど

『…分かった。』

と答えた。


遊希の真剣さは、さっきよりも増したみたい。

⏰:09/03/29 00:46 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#348 [七瀬]
 
 
「あのな…」


怖い

怖い怖い…


いざ聞こうと思うと、
言い知れぬ恐怖が襲ってくる。


“奏と別れるかも”

とゆう恐怖が私の心を支配する。
 

⏰:09/03/29 00:50 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#349 [七瀬]
 
 
「あの日…
まつりが倒れた日。

実は俺、奏と一緒じゃなかった。」


少し息が荒くなる。

「俺は大竹さんと二人で
トラック乗って帰った。


もちろん最初は奏も一緒に帰るつもりやった。

でもあいつとは、一緒に帰らへんくなった。」
 

⏰:09/03/29 00:56 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#350 [七瀬]
 
なぜ?

そう聞きたかったけれど、聞けない。


なにも話されへん。


遊希は続けた。

「だから俺、知らんねん。

なんで奏が電話に出られへんかったのか。

一緒におらんかったからな。」
 

⏰:09/03/29 01:00 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#351 [七瀬]
 
じ、じゃあ…

奏が知って私の電話を無視したわけじゃないんや!


そう喜んだのも束の間。



「けど大体、予想はついてんで。
なんで、奏が電話に出られへんかったのか。」
 

心臓がどんどん加速してゆく。

⏰:09/03/29 01:04 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#352 [七瀬]
 
『な…なんで?』

やっとの思いで口を開く。


「こんなこと言いたないけどな。」

遊希は念を押した。


「あいつには他に女がおる。」
 
なんとなく思ってた。

電話に出てくれなかった
あの日から、心の底のどこかで感じてた。

⏰:09/03/29 13:51 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#353 [七瀬]
 
けど、そんなはずないと願っていたのも事実。


「でな…」

遊希は言葉を詰まらす。


「その、あんな……」

さっきよりも一層、深刻そうな顔に恐怖が倍増する。

『…なによ。』

ここで逃げたらアカン。

⏰:09/03/29 13:58 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#354 [七瀬]
 
 
 
 
ピリリリリリ…


電話はもう10分近く鳴っている。

かけてきている主は遊希だと、見なくても分かる。


けれども私は、電話に出ず手にブザーを感じているだけ。

今はただ、駅へと足を急がすだけ。

⏰:09/03/29 17:49 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#355 [七瀬]
 
 
駅に着いても、鳴り止まない携帯。


遊希…ごめんな。

私は電源を切った。


走ったからか、

それとも、
今から起こる出来事のせいか。

心臓は、
とてつもなく早い。
 

⏰:09/03/29 17:54 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#356 [七瀬]
 
2時間かけて向かう場所。


カツカツカツカツ…

階段を上っていると、


小さく“仲嶋”とゆう表札が見えた。


いつ来ても汚いアパート。


そう、ここは奏の家。
 

⏰:09/03/29 17:58 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#357 [七瀬]
 
 
よくここで、
一人暮らしをしている奏の家に遊びに来たなあ。


そんなことを思いながら、最後の一段を上り終えた。





ガチャ
 
 
 
 

⏰:09/03/29 18:02 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#358 [七瀬]
 
 
「まつり……」












『……麻友ちゃん。』
 
 
 

⏰:09/03/29 18:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#359 [七瀬]
 
さっきの遊希の言葉を思い出す。


「その、あんな……

奏の女ってゆうのは


多分、麻友…や。」



麻友ちゃん……?
 
 
その瞬間、
私は、走りだしていた。
 

⏰:09/03/29 18:42 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#360 [七瀬]
 
遊希の言ったことは、
ほんまやったんや……

落胆する。


「まつり…
なんで、ここにいるん?」


『いつ彼氏の家に来たってええやろ?
ただ奏に会いたなっただけ。』

私、ほんと嫌な女。

麻友ちゃんに、
こんなことゆうなんて。

⏰:09/03/29 23:39 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#361 [七瀬]
 
 
『麻友ちゃんこそ、なんで?
なんで、奏の家から出てきたわけ!?』


分かってるくせに

麻友ちゃんが答えられへんことを聞く私。


ズルいのは分かってる。


けれど、止められないの。 
 

⏰:09/03/29 23:43 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#362 [七瀬]
 
思った通り、

なにも言わず、目をそらす麻友ちゃん。


『なんで?
答えてよ、麻友ちゃん。』

ひるまず攻める。


「それは…」


ジッと麻友ちゃんの目を見る。
 

⏰:09/03/29 23:46 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#363 [七瀬]
 
「そ、奏君が忘れ物してて……
届けてあげてん。」


また祭あるから、その時に渡せばええやん。

そんなに大事な忘れ物なわけ?

ってゆうか、
そんなに大事な忘れ物なら忘れんやろ、普通。


それに、わざわざ2時間もかかるのに電車、乗って来たん?

⏰:09/03/29 23:50 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#364 [七瀬]
 
ツッコミ所、満載な答え。

麻友ちゃんの下手くそな嘘に、もっと強く睨む。


「フッ、フフフフ…」

麻友ちゃんが妖しく笑った。

「こんな言い訳、さすがに通じんよなぁ。
まつりも子供じゃないわけやし。」


いつもと違う麻友ちゃんに戸惑う。

⏰:09/03/29 23:56 📱:N703iD 🆔:raWiQQ8.


#365 [七瀬]
 
「ええわ。
そこのファミレスで話そ。

な?まつり。」


その戸惑いを隠すために
精一杯、麻友ちゃんの言葉に頷く。


この人は麻友ちゃんじゃない。

なんか、いつもより化粧も濃くって、露出の多い服。 
 

⏰:09/03/30 00:01 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#366 [七瀬]
それに見た目だけじゃなくって、

オーラが違う。


きつい、誰も寄せ付けないようなオーラを
今の麻友ちゃんは発していた。


いつもの、

優しくって、しっかりした清楚な女子大生の姿は


そこには、なかった。
 

⏰:09/03/30 00:06 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#367 [七瀬]
 
 
「いらっしゃいませー。」


「私はアイスミルクティーを一つ。
まつりは?」


『…私も、同じの。』


「じゃあ、アイスミルクティー二つ下さい。」


「かしこまりました。」
 

⏰:09/03/30 00:15 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#368 [七瀬]
 
「お待たせしました。
アイスミルクティーお二つです。」


カランカラン

しばらく、ストローでコップをかき回していた麻友ちゃんが話しだした。

「さあ、どっから話そか。まつり、何が聞きたい?」


なにがって…

挑発的な麻友ちゃんの態度に怒りを隠せない。

⏰:09/03/30 00:20 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#369 [七瀬]
 
 
「まあまあ、
そんな怖い目ぇせんと。」

『…』

黙って、睨み続ける。


「ごめん。
タバコ吸うていい?」

そう言うと、
麻友ちゃんは鞄からタバコを取出し、火を付けた。
 
 

⏰:09/03/30 00:24 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#370 [七瀬]
 
それ、奏と同じタバコ…


それに、麻友ちゃん。

タバコなんて吸うてたっけ?


フーと息を吐くと麻友ちゃんは言った。

「あんたの思てる通り、
私は奏とデキてる。

ってゆうても、一週間くらい前からやけどな。」
 

⏰:09/03/30 00:28 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#371 [七瀬]
 
一週間前……


ちょうど、私と原田さんが再開した日だった。


奏、やっぱり怒って
私への当て付けに麻友ちゃんと……

そう思っていると


「きっかけは私からやけどなあ。」

衝撃的な一言を麻友ちゃんは意図も簡単に言った。

⏰:09/03/30 00:35 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#372 [七瀬]
 
『…どういうこと?』


奏が、ヤケになってしたこてじゃないの?

麻友ちゃんからって……


なんでなん?


「私から、奏を誘ったの。でも決断したのは奏やで?私は、ただ誘惑しただけ。」


クスクス笑う麻友ちゃんに猛烈に腹が立った。

⏰:09/03/30 00:40 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#373 [七瀬]
 
「最初は奏もかなり渋ってたけどな。

でもほら、まつりは夢中やったやん?
初恋の人と。

それで奏、大分ショック受けてたみたいで。

だーかーら、
私が慰めてあげたの。」

そう笑う麻友ちゃん。


確かに言うとおりや。

私が奏を裏切ったから。

⏰:09/03/30 00:46 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#374 [七瀬]
 
最初に裏切ったのは私。


奏を誘惑した麻友ちゃんも

誘惑に負けた奏も


私に二人を責める資格はないんや…


黙り込む。

だってなんも言われへん。


自業自得や。
 

⏰:09/03/30 00:49 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#375 [七瀬]
 
「でも、良かったやろ?

まつりは原田さんと会えてんし。

感謝してほしいくらいやわ。
ほんま大変やったで。

原田さんの住所調べんの。」

ペラペラと楽しそうに話す麻友ちゃん。


私の知らんところで、
いろんなことが起こってて頭が着いていかなかった。

⏰:09/03/30 00:54 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#376 [七瀬]
 
 
「ほんまは、天神祭に連れて来たかってんけど、
思ったより時間かかって、間に合わんかった。

だって、おもろいやん。

奏とまつりが付き合った、天神祭で、その二人が壊れていくなんて。

それに思い出すんやろ?

天神祭の花火見たら、初恋の、あの人を。」
 

⏰:09/03/30 01:01 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#377 [七瀬]
 
麻友ちゃんは、心底悔しそうに、そして愉快そうに言った。

「ほんま惜しいことしたわ。」


『ふ…ふざけんといて。』


なんて弱気な声なんやろ。


麻友ちゃんとは、まるで対照的な声だった。
 

⏰:09/03/30 01:05 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#378 [七瀬]
「ふざける?」

そんな私を鼻で笑う麻友ちゃん。


「“ありがとう”くらい
ゆうてほしいなあ。

会いたかったやろ?

運命の赤い糸で結ばれた
愛しい愛しいあの人と。」


バンッ


『ええ加減にして!』
 

⏰:09/03/30 01:10 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#379 [七瀬]
 
机に手をつく。


周りの視線が突き刺さる。


今の私には精一杯の反撃だった。

けれども麻友ちゃんは
そんな私に、もろともしないようだった。


「“ええ加減にして”?

それはこっちのセリフや。」
 

⏰:09/03/30 01:14 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#380 [七瀬]
「いつまでも奏を振り回して…

ええ加減にしてよ!」

初めて、麻友ちゃんは声を荒げた。


大きな目が吊り上がり気味に私を見ている。


「私はまつりとは違う!

まつりみたいに
奏を初恋の人と重ねて見たりしてない!!」
 

⏰:09/03/30 01:19 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#381 [七瀬]
 
ズキン…

麻友ちゃんの言葉が
胸を傷める。


「私の方が奏を幸せに出来る。
一人の男として見れる!

私の方が…


奏を愛してる!!」
 
 
それでも、
容赦なく降り掛かってくる言葉。

⏰:09/03/30 01:23 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#382 [七瀬]
 
確かにそうかもしれない。

私は奏とあの人を重ねてた。


「私は、ずっと前から奏が好きやった。

まつりが悪いんやで。」


麻友ちゃんは店を出た。


私はポツリと、麻友ちゃんの言い残した言葉の重みを感じていた。

⏰:09/03/30 11:38 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#383 [七瀬]
 
 
祭があるまでの、この四日間。

すごくすごく考えた。

こんなに頭を使ったのは、人生初かもしれへん。


今日は雨がザーザー降ってじめじめしていた。

余りにも、すごい雨やから祭は中止に、なりかけけどセーフだった。

でも、花火は中止のようだった。

⏰:09/03/30 11:47 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#384 [七瀬]
 
 
傘をさして、カステラへと向かう。

今日は、大竹さんがお休みなので、
遊希がカステラを焼いて、私は前場をすることになった。

金魚は麻友ちゃんがするみたい。

少し安心した。


奏も来てるみたいだけど、会う元気と勇気はすっかりなくしてしまった。

⏰:09/03/30 11:51 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#385 [七瀬]
 
 
「ちょっと、まつり。
これ、金魚に持っていって。」


お母さんが、最悪な仕事を持って来て、自分の店に帰っていった。

金魚…

麻友ちゃん。


「俺が持って行くわ。」

遊希は、なにかを察して
気を使ってくれた。

⏰:09/03/30 11:55 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#386 [七瀬]
 
『ううん…遊希は粉練らなあかんし、私が行くわ。』

遊希にいつまでも迷惑かけたらあかん。


もう一度、
傘を広げ、金魚へと足を運ばせた。

パシャパシャパシャ

歩くたびに、水溜まりが足に跳ねて、冷たい。


金魚の約10メートル前で
立ち止まる。

⏰:09/03/30 11:59 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#387 [七瀬]
 
 
 
 
 
麻友ちゃんと奏が

キスしてた。



まるで、あの日みたい。


たくさんの金魚たちに見守られて…


そう、2年前の天神祭。
 

⏰:09/03/30 12:02 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#388 [七瀬]
 
 
ボォーっと、2人を眺めていると、

麻友ちゃんが私に思えてきた。


私と奏が、そこにいるように錯覚してきた。



早く、こっから立ち去らないと…

身体の危険信号が黄色になっていた。

⏰:09/03/30 12:05 📱:N703iD 🆔:gYBu1X56


#389 [七瀬]
 
 
奏と目が合う。



時間が止まったみたい。


奏と麻友ちゃんは向かい合っていて、
私には麻友ちゃんの背中と、奏の大きく見開かれた目しか見えない。


危険信号はすでに、赤に変わっているはずなのに
なぜか客観的に見てる自分がいた。

⏰:09/04/01 11:11 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#390 [七瀬]
 
 
人生初の浮気現場を目撃して…

これから
人生初の修羅場?


なーんてアホなことを考えてると

奏は麻友ちゃんから離れ、金魚からも、遠ざかっていった。


麻友ちゃんの見たことない幸せそうな横顔が小さく見えた。

⏰:09/04/01 11:18 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#391 [七瀬]
 
 
ここで、つっ立ってっていてもアカンし…


麻友ちゃんへと歩いてゆく。


水の跳ねる足音でなのか、麻友ちゃんが私の存在に気付いた。


『これ…』

お母さんに頼まれてたものを渡す。

⏰:09/04/01 11:22 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#392 [七瀬]
 
「ありがとぉ、まつり。」

昨日と同じ人物と思えない。


化粧の仕方

服装

そしてオーラ…

なにもかもが、
いつもの麻友ちゃん。

やっぱり昨日のことは夢やったんやろか…

それと、さっきのことも…

⏰:09/04/01 11:25 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#393 [七瀬]
 
 
『じゃあ…』


「待って。」

どうやら、夢のままでは
終わってくれないみたい。

私の願いも虚しく、
現実に引き戻される。 


「見た?」

と、たった一言。


低い声。

⏰:09/04/01 11:29 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#394 [七瀬]
 
 
『見たよ。』

と、私も一言。


「そう。」


カステラへと体の向きを変える。





「…奏を私にちょうだい。」 

⏰:09/04/01 11:36 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#395 [七瀬]
 
 訂正


× なにもかもが昨日のこと〜

〇 なにもかもが四日前のこと〜


すいません(><)

“昨日”をすべて
“四日前”とします。

⏰:09/04/01 12:56 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#396 [七瀬]
 
 
 
「まつり、どしたんや。さっきからボーっとして。」


『遊希…なんもないよ。

それよりお客さん0やなあ。客所か人っ子一人、歩いてへんわ。』


「当たり前や。
こんな大雨やのに。

って、それより…
やっぱ、なんかあったんやろ、あの日。」

⏰:09/04/01 13:04 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#397 [七瀬]
 
 
『あったよ。』

なにも考えずゆう。


なんかもう、どうでもなれって感じ。

『麻友ちゃんに
“奏を私にちょうだい”
ってゆわれた。』


「麻友と会ったんか。」


『会ったよ〜
遊希のゆうてるあの日に』

⏰:09/04/01 13:07 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#398 [七瀬]
 
「やっぱり…
いきなり走りだした思たけど、やっぱり奏の家、行っとってんな。」


『そう!ご名答!!
遊希するどーい。』

笑って、おどけて見せる。

『そして…家から出てきた。麻友ちゃんが。

でも、奏をちょうだいってゆわれたのは、その日じゃない。

ついさっき。』

⏰:09/04/01 13:13 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#399 [七瀬]
 
 
遊希は小さくため息をしながら言った。

「だから、ゆうたやんけ。
俺が行ったるって…」


ほんま、そうすれば良かった。

遊希に頼んでれば、
あんなシーン見なくて済んだのに。


アホや、と後悔する。
 

⏰:09/04/01 13:17 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


#400 [七瀬]
 
 
「お前…」

今度は大きくため息をつく遊希。

「だから、言いたくなかってん。

絶対泣くから…」


『ほんっ…ま、聞かんかったら…良かった。
私…アホやな…。』


なぜか、こんな時になって泣けてくる。

⏰:09/04/01 13:30 📱:N703iD 🆔:VvI5HsyM


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