夏祭り、恋花火

　
それに、

名前、性別…

いつ聞いても、答えてくれへん。

｢なんやと思う？｣

｢どっちでしょーか？｣

絶対はぐらかされる。

そのたび悲しい。
　

　
　
　
そして中1の通り抜け。

あのままバイバイして今。

結局、最後まで子供のことは聞かれへんかった。
　
　

　
　
　
どれくらい沈黙が続いただろうか。

多分5分くらい。

でも、何時間にも思えた。

今日は30度を超える真夏日。

なのに、
額には冷や汗ばかり流れる。
　

　
　
この沈黙に我慢も限界。

『原田さ…』

｢ごめん。｣

遮られる。

“ごめん”？

なにが“ごめん”なん？

｢嘘ついてた…。｣
　

　
嘘？

“奥さんが死んだ”

ってゆうのは嘘？

｢ほんまは子供なんておらんねん。

8年前……。
まつりが小学生の時、流産した。｣　
　

　
なに…それ。

安心は束の間。

“奥さんが死んだ“
のが嘘なんやなくて、

“子供がおる”
ってゆうんが嘘？

そんなん…、
なんでいまさら。

がく然とする。
　

　
　
私が今まで見てきたのは

夢やった。

家族に囲まれて笑うあの人は

ただの幻やった。
　
　
なんのために願ったんだろう。

“幸せになっ”
　

　
　
｢あの時…。
まつりが“幸せにな”ってゆうてくれた時。

おっちゃん……心底、誓った。

なのに……｣

あの人は声は震えている。

私は何も言わない。

言えない。
　

　
それは、
あの人に同情して何も言えないんじゃない。

感情がない。

言わば、脱け殻状態。

あの人は続けた。

｢買い物行ってた時、急に…。

普通にしてたのに。
転んだわけやない。無理してたわけでもない…。｣
　

　
声の震えが増してゆく。

｢まつりには言われへんかった。
あんな喜んでくれてたのに。｣

ここで、やっと悲しさが襲って来た。

あの人も苦しかったんや…。
泣きたかったんや。

私以上に。
　