夏祭り、恋花火

　
なんだか、悲しい。

｢知りたいか？｣　

『知りたいってゆうか、
気になる！

いきなり別れろなんてゆわれて、
納得出来る人なんておらんやろ。』

｢まあ…な。｣

遊希は一人だけ納得している。

　
｢じゃあ、話そっかな。｣

そう言いながらも、
なかなか話し始めない遊希に苛立つ。

『遊希、言いたいことあるんやったら、はっきり…』

｢泣くなよ。｣

え？

｢頼むから、泣かんとってくれ。｣

　
やっぱり、良い話ではないみたい。

｢約束できるか？
絶対に泣かへんって。｣

そんなん、聞いてみな分からへん

そう思ったけれど

『…分かった。』

と答えた。

遊希の真剣さは、さっきよりも増したみたい。

　
　
｢あのな…｣

怖い

怖い怖い…

いざ聞こうと思うと、
言い知れぬ恐怖が襲ってくる。

“奏と別れるかも”

とゆう恐怖が私の心を支配する。
　

　
　
｢あの日…
まつりが倒れた日。

実は俺、奏と一緒じゃなかった。｣

少し息が荒くなる。

｢俺は大竹さんと二人で
トラック乗って帰った。

もちろん最初は奏も一緒に帰るつもりやった。

でもあいつとは、一緒に帰らへんくなった。｣
　

　
なぜ？

そう聞きたかったけれど、聞けない。

なにも話されへん。

遊希は続けた。

｢だから俺、知らんねん。

なんで奏が電話に出られへんかったのか。

一緒におらんかったからな。｣
　

　
じ、じゃあ…

奏が知って私の電話を無視したわけじゃないんや！

そう喜んだのも束の間。

｢けど大体、予想はついてんで。
なんで、奏が電話に出られへんかったのか。｣
　

心臓がどんどん加速してゆく。

　
『な…なんで？』

やっとの思いで口を開く。

｢こんなこと言いたないけどな。｣

遊希は念を押した。

｢あいつには他に女がおる。｣
　
なんとなく思ってた。

電話に出てくれなかった
あの日から、心の底のどこかで感じてた。

　
けど、そんなはずないと願っていたのも事実。

｢でな…｣

遊希は言葉を詰まらす。

｢その、あんな……｣

さっきよりも一層、深刻そうな顔に恐怖が倍増する。

『…なによ。』

ここで逃げたらアカン。

　
　
　
　
ピリリリリリ…

電話はもう10分近く鳴っている。

かけてきている主は遊希だと、見なくても分かる。

けれども私は、電話に出ず手にブザーを感じているだけ。

今はただ、駅へと足を急がすだけ。