夏祭り、恋花火

『じゃっ！』

そんなこと言い合ってるうちに金魚に着いた。

奏君は自分の持ち場に戻っていった。

奏君はスーパーボール。

遊希は今ごろ、まだ怒られてるんだろう。

真面目に金魚すくい屋さんでも始めよっかな。

夕焼けで目がチカチカする。

飲み物は遊希が買ってきてくれたのがあるし、

牛丼屋でトイレもした。

これから５時間以上は、こっから動かへんし。

金魚たちを眺める。

『あんたらも可哀相やなあ。こんなとこに閉じ込められて。』
　
今年も始まる。

　
　
夏が。

ほんまの夏祭りが。

そして聞こえる。

恋花火が。
　
　

　
　
　
ピリリリリリ…

携帯が鳴った。

『おばあちゃん？』

｢お疲れさま。｣

『お疲れ。もう潰す？』

｢そぉやな。
そろそろ歩行者天国も終わって車が通りだすし。
潰そか。｣

『わかった。』

“店を潰す”というのは、決して不吉な意味ではない。

かたずけるという意味。

まだお客さんがいたから、細かいところから、かたずけていった。

携帯を見ると
PM 10:28。

もうじき電気が消えるな。

10時半には屋台の電気が全部、消えるようになっている。

前は11時までやったのになぁ。

年々、店を出せる時間は短くなってきてる。

やっぱ未成年者が夜遅く出歩いてたり、
色々と問題が出てきてるみたいや。

私も未成年者やけどな。

でも私は一度も注意されたことない。
　
エプロンつけてるしな。
　

　
ブチッ

電気が消えた。

この瞬間は、いつも周りはプチパニックになる。

いい加減慣れろよ！

と毎年思う。

これを機に、
私は本格的に潰し始める。

まず、お客さんのワッパを全て回収する。

店から人が一気に散ると、再び電気がつき始める。

金魚たちをすくって、大きな袋に入れてゆく。

酸素ボンベも忘れずに。

売り上げを釣り銭袋に入れる。

これで実質的には私の仕事は終わり。

実質的にはね。
　

　
｢まつりっ。｣

来た来た。

『遊希。』

遊希が来ると、一緒に店をバラバラにする。

ほんまは、バラバラにしたやつをトラックに積むんやけど、

明日もあるし、
小さくして、端に寄せとくだけ。
　

　
　
｢よし！終わったな。｣

これで、
もう本当に終わり。

『疲れたなあ。』

終わった後、缶ジュース片手に遊希と話す。

至福の時。
　