夏祭り、恋花火

『なあ～、
ちょっと休憩しよぉや。

ほら、そこの喫茶店で…』

｢後5分やから!!｣

『さっきから、5分5分ゆうて……、
もう20分近く経ってるわ！』

｢そんなんゆうたって…

毎年来てるねんし、駅から遠いん、まつりも知ってるやん。｣
　

　
アカン。
もうアカンわ…

クラクラする。

｢だいたい、あんたは…｣

お母さんの小言が始まっても、
反論する力がない。

意識が朦朧としてきた。
　
ビニール袋を握っている手も、無意識にゆるむ。
　

　
バサッ

｢まつり？

まつり！｣

あれ？
私、どしたんや。

私の目には、アスファルトが映る。

耳には、お母さんの
｢まつり！まつり！｣とゆう騒がしい声。

｢救急車…
そうや、救急車呼ぼ！｣　　　

救急車？

あ、そっか。

私、倒れたんか。

こんな状況なのに、
お母さんより冷静な自分がいる。

ピーポーピーポー

という音を最後に記憶は途絶えた。

　
　
　
『…うーん、ん!?』

目をパチッとさせる。

ここどこ？

え、えぇ!?

考えろ
考えろ……

ここはどこなんや。

んー、さっぱり。

　
軽く焦る。

だって、
真っ白な部屋で、
真っ白なベッドに横たわってんねんもん！

｢あら、神野さん。
目ぇ、覚めはってんな。｣

ガラッとドアが開いたと思ったら、
真っ白な服を来た女の人。　
　

　
　
あぁ、ここは病院かぁ。

で、目の前には看護士さん。

で、私は…

そう！そうや!!

倒れたんや！

なんか暑いなあ

って思たら、力が抜けてきて……　
　

　
それで、お母さんが……

｢まつり！意識戻ってんな。
心配したわあ。｣

お母さんが病室に入ってきた。

｢まつり、倒れてんで。
熱中症で。｣

そうなんや。

｢でも良かったぁ。
ほんま良かった。｣

心底、安心したように
お母さんは言った。

｢明日1日だけ、安静にしていれば、退院ですよ。｣

看護士さんが笑った。

『明日ってことは…』

｢行かれへんよ。｣

私の言葉は遮られた。

｢祭には行かれへん。
おばあちゃんにはお母さんからゆうとく。｣

　
『…うん、わかった。』

｢ゆっくり休み。

金魚なら、麻友がやってくれてるから。｣

そう言って、お母さんは病室から出ていった。

暇…やなあ。

シーンと静まり返った室内。

テレビを見ても、つまらへん。