黒猫の棲むところU
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#110 [イリア]
:09/04/05 02:33 :W61P :☆☆☆
#111 [イリア]
言われた通り真っ直ぐ走ると、
さっきいた場所よりずっと
人通りが少なくなってきた。
立ち止まり、辺りをを見渡す。
――……誰もいない。
:09/04/05 02:34 :W61P :☆☆☆
#112 [イリア]
七「……………」
聞き間違い?
確かに、麗さんの声だったと思うけど…
でも、もうすぐ舞台の始まる時間だし
もしかしたら―――………
:09/04/05 02:34 :W61P :☆☆☆
#113 [イリア]
七「………麗さん………」
男「あーッ!!いたいたッ!!!!」
七「?」
振り返ると、知っている顔が二つ。
:09/04/05 02:34 :W61P :☆☆☆
#114 [イリア]
男「七衣ちゃんだっけぇ?
俺らのこと知ってるぅ〜?」
語尾を上げる癖が耳につく。
猫さんの声と、真逆の音。
:09/04/05 02:35 :W61P :☆☆☆
#115 [イリア]
七「……昨日、森で
麗さんと話してた…」
男「ピンポーンっ♪♪
元オリオン劇団でぇ、合併されて
アスタリスクの一員になったんだよ☆
宜しくねえ〜♪」
:09/04/05 02:35 :W61P :☆☆☆
#116 [イリア]
七「――…何であなた達が、
ここにいるんですか?
舞台の手伝いをしてって、
狐さんが言ってたじゃないですか…」
嫌な予感がする。
さっき抱いた微(カス)かな期待が、
頭の中から消えてなくなる。
:09/04/05 02:36 :W61P :☆☆☆
#117 [イリア]
七「―……さっき文房具屋の前で…
麗さんの声、してませんでした?
……麗さん近くにいるんですか?」
男「さぁ〜ね〜?どう思う?」
:09/04/05 02:36 :W61P :☆☆☆
#118 [イリア]
七「―……ッッ!!ふざけないで下さい!!
麗さんいるんですか?!何で??!!
昨日のことだって……
どこにいるんですか??!!
早く言わないと、誰か人を―…ッッ!!」
男「黙れよ雨原ぁ〜」
七「!!」
後ろから羽交い締めにされる。
気がつかないうちに、
後ろにもう一人いたらしい。
:09/04/05 02:38 :W61P :☆☆☆
#119 [イリア]
七「離して下さいッッ!!!!」
男「あんたってさ、いっつもそうなの?
誰か人をってさ、あんたは?
あんたは何もしない訳?」
七「――……ッッ!!」
:09/04/05 02:38 :W61P :☆☆☆
#120 [イリア]
男「昨日も森で、
あんたが狼を呼びにいったんだろ?
何ですぐ飛び出して来なかったの?
本当に麗のこと好きなら、
なりふり構わず、
飛び出してくるっしょ〜」
:09/04/05 02:39 :W61P :☆☆☆
#121 [イリア]
考える。
思い出す。
昨日、私は森で
かなわないと思ったから
狼さんを呼びに行った。
震えてる麗さんを残して。
:09/04/05 02:39 :W61P :☆☆☆
#122 [イリア]
男「…まぁ所詮、俺たち半妖と人間は
解(ワカ)りあえないってこと♪
特にあんたら、雨原一族とはさぁ」
男「それにしても、
アスタリスクも墜ちたよなあ〜
まさか雨原を、
団員にするとは思わなかった」
:09/04/05 02:40 :W61P :☆☆☆
#123 [イリア]
男「雨原一族なんてさ、
利用して捨てるに限るよ♪
てか、最近続いてる雨も
よく考えたらこいつのせいじゃね?
まぢ体だるいんですけどー」
七「――…ッッ!!!!
知りませんよ、そんなの!!
いいから離して!!麗さんはどこ?!」
:09/04/05 02:41 :W61P :☆☆☆
#124 [イリア]
男「あははー♪威勢いいね。
あんたさ、黒猫や団長に
気に入られてるからって
調子のってない?
言いたくないけど、俺たちさぁ…」
後ろで私の首をしめてる
男性の声がやむ。
不思議に思って振り向こうとすると、
首もとに痛みが走った。
:09/04/05 02:41 :W61P :☆☆☆
#125 [イリア]
七「――――……………痛………」
何かに噛まれている感じがする。
なに―――………?
男「…雨原一族、嫌いなんだよね」
首もとから、血の香り。
甘い甘い、あの夢と同じ。
:09/04/05 02:42 :W61P :☆☆☆
#126 [イリア]
男「うわ、やっぱこの女
本当に雨原なんだー…うん、
嫌な臭いがする。雨原の香り。」
男「…おい、あんまり血流させるな。
誰かが気づく。」
:09/04/05 02:43 :W61P :☆☆☆
#127 [イリア]
その声と同時に、私の首もとから
何か、が 離れた。
男「ペッ!まっずー
雨原一族なんて、噛むもんじゃないね」
:09/04/05 02:43 :W61P :☆☆☆
#128 [イリア]
七「――…吸血鬼(ヴァンパイア)…?」
男「おしいねー吸血鬼ではないよ♪
俺たちはコウモリの妖と
人間の間で生まれた半妖。
まぁ昔話みたく、噛まれたからって
あんたまで吸血鬼になることはないし
安心していいよー♪」
:09/04/05 02:45 :W61P :☆☆☆
#129 [イリア]
そう言われ、腕を引っ張られる。
頭がクラクラして、立っていられない。
その場に倒れこんだ。
男「おいおい、どんだけ吸ったわけ?」
男「ごめーん♪だってさ、
雨原一族の血だぜ?今貰わないと
一生飲むことなんて出来ないだろうし」
:09/04/05 02:45 :W61P :☆☆☆
#130 [イリア]
男「それもそうか…
まぁとりあえず続きは、
場所を移動させてからね♪」
意識が朦朧(モウロウ)としだす。
駄目、今意識を飛ばしたら、
必ず後悔する。
:09/04/05 02:46 :W61P :☆☆☆
#131 [イリア]
下唇を噛み、意識を保つ。
男達は私の腕を引っ張り、
引きずるように歩き出した。
:09/04/05 02:46 :W61P :☆☆☆
#132 [イリア]
しばらくすると、
道は行き止まりになった。
暗く狭い路地裏。
そこにいたのは、男性一人と、麗さん。
男「遅っせ〜待ちくたびれた…って、
あら、雨原?本当にいたんだ」
:09/04/05 02:46 :W61P :☆☆☆
#133 [イリア]
麗「――………ッッ??!!」
麗さんの驚いている顔が見える。
麗さんは紐(ヒモ)か何かで
腕を後ろで縛られていて、
壁にもたれ座りこんでいた。
でも、怪我はしてなさそう……
:09/04/05 02:48 :W61P :☆☆☆
#134 [イリア]
麗「ちょっとッッ!!!!!」
麗さんの声が、狭い路地裏に響く。
麗「何よ、その子……その血…
…ッッ!!本当いい加減にしてよ!!!!
何でこんなことするの!!!!
雨原は…関係ないでしょ??!!」
:09/04/05 02:52 :W61P :☆☆☆
#135 [イリア]
血が足りないからか
本当に飛びかけていた意識が、
麗さんの声で引き戻される。
:09/04/05 02:52 :W61P :☆☆☆
#136 [イリア]
男「関係なくはないでしょー♪
記憶はなくても、雨原なんだし?
別に個人的な恨みはないけど、
何かさ…雨原一族って
嫌いなんだよねー」
麗「……何言ってんの……
血は止まってるの?
止血はしてるの?」
:09/04/05 02:52 :W61P :☆☆☆
#137 [イリア]
麗さんの声で初めて気づく。
さっき噛まれた傷は
今も熱を持っていた。
耳に近いせいか、
ドクドクと、血の流れる音がする。
:09/04/05 02:53 :W61P :☆☆☆
#138 [イリア]
男「……やけに雨原のこと、
気にかけるのね〜……
止血?してるわけないじゃん。
思いっきり噛んじゃったから、
まだ血も止まってない。」
麗「……何で…こんなことするの……」
男「聞きたい?最後だし、
教えてあげようか?」
:09/04/05 02:53 :W61P :☆☆☆
#139 [イリア]
私のそばにいた男が一人、
麗さんに近づく。
男「俺たちさぁ、麗ちゃんの読み通り…
――………妖側の、スパイなの。」
麗「………ッッ!!」
:09/04/05 02:54 :W61P :☆☆☆
#140 [イリア]
男「半妖と妖が仲違いした日、
俺たちは妖に雇われたんだよね。
妖側に危害を加える恐れがないか
半妖の動きを観察…
移動場所をあらかじめ
妖側に伝えといて、
奇襲をかけさせたりもした」
:09/04/05 02:56 :W61P :☆☆☆
#141 [イリア]
麗「……………ッッ!!…」
七「―――……??」
麗さんの目からは、涙がこぼれていた。
:09/04/05 02:56 :W61P :☆☆☆
#142 [イリア]
男「あはは!!泣くほど悔しい?
そりゃそうか、あんたら
アスタリスク劇団の移動ルートも
妖たちに流してたから♪
………結構減ったもんねぇ?数?」
麗さんの涙が頬を伝い、
コンクリートの上に落ちる。
:09/04/05 02:57 :W61P :☆☆☆
#143 [イリア]
七「――…??どういう……??」
必死に声を絞り出す。
麗さんは今、何で泣いているの?
:09/04/05 02:57 :W61P :☆☆☆
#144 [イリア]
男「あー新入りちゃんには
分かんない?あのね、
もともとこの世界には
半妖組織が二つあってね。
アスタリスク劇団と、オリオン劇団。
劇団は違っても、各地で妖と戦う
仲間だったわけだよ、だけど…」
:09/04/05 02:58 :W61P :☆☆☆
#145 [イリア]
――……アスタリスク劇団はご覧の通り
もう一つの半妖組織、
オリオン劇団と合併することになりました。
理由はたび重なる妖との戦いで
半妖の数が減っちゃったから――…
昨日の狐さんの言葉が頭に響いた。
:09/04/05 02:58 :W61P :☆☆☆
#146 [イリア]
男「昨日団長さんが言ってたとおり
このたび見事に合併することに
なったのね♪……まぁ理由は、
俺たちからの情報によって
的確に攻めてきた妖に…
……半妖たちが、
殺られちゃったからなんだけど」
麗「……うるさいッッ!!!!」
麗さんが叫ぶ。
:09/04/05 03:01 :W61P :☆☆☆
#147 [イリア]
麗「……うるさいよ、もう……
もう止めてよ……」
男「…残念だったよねぇ〜
半妖も必死に戦ったみたいだけど。
…仲間がさぁ、目の前で死ぬのって…
…あはは!!俺には分かんねぇや!!」
:09/04/05 03:02 :W61P :☆☆☆
#148 [イリア]
最低。
笑い続ける男達を睨(ニラ)む。
それを覚えてて、
それで泣いてる麗さんを前に
何でそんな風に笑えるの?
:09/04/05 03:02 :W61P :☆☆☆
#149 [イリア]
:09/04/05 03:03 :W61P :☆☆☆
#150 [イリア]
男「…雨原もさ、不運だよね。
もうちょい時期がズレてれば…
……こんな目に会わずに済んだのに」
七「麗さん」
名前を呼ぶ。
応(コタ)えて欲しいから。
逃げないで、
今だけは誰にも頼りたくない。
:09/04/05 03:03 :W61P :☆☆☆
#151 [イリア]
七「……何があったんですか…」
麗「…………」
泣き続ける麗さん。
言葉は返ってこない。
代わりに、横の男が
私を見ながら言った。
:09/04/05 03:04 :W61P :☆☆☆
#152 [イリア]
男「…ん?それって、
麗と俺たちのこと?
―…別に何もないよねぇ〜」
男「そうそう。敢えて言えば、
麗が、俺たちが妖側の
スパイなんじゃないかって
嗅ぎつけてきて、
話しかけてきたもんだから…」
:09/04/05 03:05 :W61P :☆☆☆
#153 [イリア]
男「嗅覚いいんだよねー麗ちゃん♪
まぁそれで何か
言い合いになったりしちゃったり?
あんまりしつこいんで
ちょっと殴ったりしたら、
痣(アザ)になっちゃうしさあ」
:09/04/05 03:05 :W61P :☆☆☆
#154 [イリア]
男「ついでにキスなんかしてみたら、
めっきり大人しくなっちゃって。
本当可愛いよねー♪
―……死んだ仲間のために、
生きている仲間のために、
スパイを見つけだそうとした?
でも麗ちゃん、やっぱ甘いよ。
一人で何でもしようとするから―…」
:09/04/05 03:06 :W61P :☆☆☆
#155 [イリア]
七「――……痛ッッ……!!」
上から髪を引っ張られ、
思わず声が出る。
:09/04/05 03:07 :W61P :☆☆☆
#156 [イリア]
男「結局、こういう風に…
麗ちゃんいわく『関係ない雨原』まで
巻き込むことになるんだよ…
……ねぇ俺たち、妖側から
呼び出しかかったんだ。
もう妖様(アヤカシサマ)のところに
戻らなきゃいけない……だから」
男が麗さんの顎(アゴ)を掴み、
無理やり上を向かせる。
:09/04/05 03:07 :W61P :☆☆☆
#157 [イリア]
男「――……最後に、
思い出ちょうだい?」
男が麗さんに口を近づける。
やめて。
:09/04/05 03:08 :W61P :☆☆☆
#158 [イリア]
七「―――……ッッ!!やめ…ッッ!!」
麗「―――――――………ッッやッ…!!」
――……そのとき、
:09/04/05 03:10 :W61P :☆☆☆
#159 [イリア]
男「ギャアァアアァア―――ッッ!!!!!!」
私の横にいる男の一人が、
叫び声をあげた。
:09/04/05 03:11 :W61P :☆☆☆
#160 [イリア]
いや、正確には
横に いた。
さっきまで私の横で
髪を掴んでいた男は、
何かに、首もとを噛みつかれたまま
麗さんの近くの壁に押さえつけられ、
血を流しぐったりしている。
男に噛みついているものは―……
:09/04/05 03:11 :W61P :☆☆☆
#161 [イリア]
美しい、金色の毛並み。
男の二倍はあるであろう体。
七「――――………狼(オオカミ)…」
私が言葉を出したとき、
一瞬だけその狼がこっちを見た。
:09/04/05 03:12 :W61P :☆☆☆
#162 [イリア]
綺麗な毛並みから、赤色の瞳が覗く。
七「―――………狼さん……ッッ??!」
その狼は、ガルル…と
怒りに満ちた声を上げると、
麗さんの顎を掴んでいた男に
襲いかかる。
:09/04/05 03:12 :W61P :☆☆☆
#163 [イリア]
男「……ッッ!!やめろ!!やめ―…ッッ!!」
男の声も虚しく、
狼はその男の首もとに牙をむいた。
:09/04/05 03:13 :W61P :☆☆☆
#164 [イリア]
男「――………クソッッ!!!!」
七「…キャッ!!」
残り一人、私のそばにいた男が
私の首もとにナイフを突きつけた。
:09/04/05 03:13 :W61P :☆☆☆
#165 [イリア]
男「……狼!!今すぐそいつから離れろ!!
……この女の命が欲しくないのか??
今すぐ離れなければ、
この女の首…切り落として…ッッ!!」
:09/04/05 03:13 :W61P :☆☆☆
#166 [イリア]
「―――……ふーん」
男の声が止み、
代わりに違う声が響く。
:09/04/05 03:15 :W61P :☆☆☆
#167 [イリア]
そうだ私、
この声が聞きたかったんだ。
この声は私を安心させてくれるから。
綺麗な声は、私を守ってくれるから。
:09/04/05 03:15 :W61P :☆☆☆
#168 [イリア]
「―……やれるもんなら、やってみれば?
でも、1ミリでも体…動かしてみろよ」
甘く、妖艶な声が辺りに響く。
:09/04/05 03:16 :W61P :☆☆☆
#169 [イリア]
「――……あんたの首、
ひと思いにかっ切ってあげる」
クス…
猫さんが笑う。
男「――……ッッヒッ……!!」
:09/04/05 03:17 :W61P :☆☆☆
#170 [イリア]
猫「ナイフを、落とせ」
今度は猫さんの低い声が響く。
同時に男は、ナイフを地面に落とした。
:09/04/05 03:18 :W61P :☆☆☆
#171 [イリア]
カラン…
振り向くと猫さんは、
銀に煌(キラ)めく刃を
男の首もとに当てている。
:09/04/05 03:18 :W61P :☆☆☆
#172 [イリア]
七「――……///」
猫「―…大丈夫?怪我は」
男「ギャアアアアアア!!!!!」
猫さんがそこまで言ったとき、
後ろからまた、男の叫び声が聞こえた。
:09/04/05 03:19 :W61P :☆☆☆
#173 [イリア]
七「――……え…??」
後ろを見ると、男に噛みつく
美しい毛並みの狼。
:09/04/05 03:20 :W61P :☆☆☆
#174 [イリア]
猫「……チッ、おい、やめろ狼!!
その辺にしとけ!!」
猫さんの声が聞こえないのか、
狼(オオカミ)は変わらず男に牙を向ける。
:09/04/05 03:21 :W61P :☆☆☆
#175 [イリア]
猫「……あの、カス……ッッ!!」
ザッ
猫さんが狼のほうに
足を進めようとした、そのとき…
麗「――……やめて!!!!!!」
:09/04/05 03:21 :W61P :☆☆☆
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