漆黒の夜に君と。U[BL]
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#851 [ちか]
暫くして授業の終わりを知らせる鐘が鳴った。

もうそんな時間か。
次の授業どうしようかな。
俺はそんな短絡的なことをぼんやり考えていた。

すると、また戸が開く音がする。

保険医が帰ってきたのか。
そう思ったが、そのわりに足音は配慮が足りない。

何かを患った客でもないだろう。

来客を見ようと、顔を出したそのとき。

⏰:11/09/23 22:18 📱:Android 🆔:qQuJKEhM


#852 [ちか]
「黒羽くん、大丈夫?」


俺が来客を覗き込むより先に、その声が届いた。

そして遅れるようにして顔を見る。

あ、この人、たしか副会長の…

名前こそ思い出せないが、一時期恭弥と噂にもなったあの女子生徒であることは間違いなかった。
正しくは、この人もきっと元副会長、になるんだろうな。

⏰:11/09/24 01:10 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#853 [ちか]
って!!!!!

冷静な分析してる場合じゃない!


この人、今、黒羽くん、って…っ―――




まさかと思いながら隣のベッドにチラリと瞳だけ動かすと、ちょうどカーテンが開いて目があった。

⏰:11/09/24 01:13 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#854 [ちか]
きょう……や――――

思わず口に出してしまいそうになった名前を必死で飲み込む。

一瞬合った瞳は一瞬でそらされ、
代わりに労いの言葉をかけた女子生徒に向けられた。

「大丈夫だよ、ごめん心配かけて。もう行くから先に戻ってて。」

至って普通に、しかし気だるさのある声でそういうと女子生徒も多少の間を空けて、再び教室に戻っていった。


なんだよ、心配してくれる女の子も居るじゃん。
可愛いし。

やっぱり俺なんか居なくても、困らないんだよな、コイツは。

半ばふて腐れてそんなことを思う。

⏰:11/09/24 01:20 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#855 [ちか]
しかし、
自分の意思を伝えることは
それとは関係ない。

俺がちゃんと、言っておきたいだけなんだから。

ふて腐れている場合じゃないんだ。

このタイミングを逃してはならないと、俺は意を決して恭弥の居る方へ体を向けた。

⏰:11/09/24 01:22 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#856 [ちか]
「恭弥、あの、」

そう名前を呼んだとき、
冷たい目が俺を容赦なく刺した。

「…もう話しかけないでほしい」

ズキン

と確かに胸が痛んだ。

すぐ目の前に居るソイツが急に遠くに感じる。
だけど、引いてなどいられないと自分を励まし、言葉を繋げた。

⏰:11/09/24 01:27 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#857 [ちか]
「でも、ちゃんと話したいことがあって…っ」

噛みつくように言うと、
恭弥は一瞬だけ迷ったような顔を見せて立ち上がった。

「………僕には話すことなんて無い。」

「あんたに無くても俺にはあるんだよ!!」

なんで取り合ってくれないんだよ、
取り合ってくれようとさえしてくれないんだよ…―――っ

「恭弥っ……!!」

保健室を出ようとする恭弥の手を俺は咄嗟に掴んだ。
思わず力が入る。

⏰:11/09/24 01:34 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#858 [ちか]
俺たち以外に誰もいないこの空間。
張り詰められた空気はまるで糸のようだ。

掴んだ手は冷たく、
また、その声も冷たかった。

「離して、急いでるんだ。」

「なら、今日6時に学校の近くのファミレスの前で待ってる…っ、だからっ…、」

「離せって言ってるだろ…!!」

遮るようにして、恭弥は俺の手を振りほどいた。

そのまま、その背中は遠くなっていく。

⏰:11/09/24 01:41 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#859 [ちか]
「俺待ってるから!!あんたが来るまでずっと…―――、ずっと待ってるから!」


遠退いていく背中に、
精一杯届くように俺は叫んだ。

周りの目など頭にも入らず、

ただ、必死に、去っていく恭弥に向けて。


途切れそうな糸を繋ぎ止めたい一心で、
そうすることしか俺には出来なかったんだ。

⏰:11/09/24 01:46 📱:Android 🆔:MNDcM4s6


#860 [ちか]
それから授業なんて手につかなかった。
いや、いつものことなんだけど。
その最上級みたいな。

今更ながら、
話して何になるんだ、なんて答えようのない自問自答が頭を巡る。

気づけばホームルームも終わり、窓の外はオレンジに染まっていた。

「日下ー、」

⏰:11/09/25 20:30 📱:Android 🆔:lAqmw6zM


#861 [ちか]
「はい?」

名前を呼んだのは担任の前田だった。

「お前今日残れ。」

「は?!なんで?!」

咄嗟のことに、口調も姿勢も前のめりになると、前田は俺の左足を思いっきり蹴った。

「いってぇ〜!!」

「誰にタメ口きいてんだ、クソガキ。」

生徒をクソガキ呼ばわりかよ!

思わずそう叱咤しそうになったが、痛みのあまり声も出なかった。

前田は続ける。

「お前この前の古文の点数分かってんの?学年最低だぞ。
追試のためにもっかい作るのめんどくせーから、備品室の片付けで免除してやるよ。」

⏰:11/09/25 20:52 📱:Android 🆔:lAqmw6zM


#862 [ちか]
よかったな、俺が寛大で、と付け加えて前田は満足げに笑った。

しかし今日の俺はそんなことしてる暇がない。

「や、今日は大事な用事があって…!」

「用事と成績どっちが大事だ」

「用事です」

「バカたれ」

間髪入れずにテンポの良い押し合いが始まる。

「だから今日だけは無理なんですって!!」

これでもかと言わんばかりに懇願した瞳でそう言うと、前田は「あぁ?んー、」とあからさまに気だるそうに唸った。

⏰:11/09/26 17:10 📱:Android 🆔:O9JTdECU


#863 [ちか]
暫く地響きのような唸り声をあげた後、前田が渋々といった調子で口を開く。

「その用事って何時からよ?」

「6時」

そこで、また俺の頭に鉄拳が降る。
“6時です”だろ、と言う言葉と共に。

「6時れす…」

もはや痛みで呂律すら上手く回らない。
涙目で殴られた箇所を擦っている間に前田はニヤリと微笑みかけた。
背筋がゾクッとした。

「なら問題ないだろ!片付けなんか一時間ありゃ終わるし、まだ4時じゃねーか余裕余裕。」

あー、
なんで正直に時間言っちゃったんだろ…

⏰:11/09/26 17:18 📱:Android 🆔:O9JTdECU


#864 [ちか]
「つーことで、よろしくー♪備品室はもう空けてあっから〜」

ヒラヒラと手を降りながら、そんな言葉を残し前田は去っていった。

「今日の俺ついてねぇ〜。とおる〜(泣)」

嘆くように透の方へ駆け寄ると、めんどくさそうに頭を撫でられた。

「なに、どしたー?」

「さっき前田に備品室の片付け頼まれたー」

「うわー、どんまい。」

どんまい、なんて言葉を選んでおきなかがら微妙に笑って見えるのは気のせいだろうか。

⏰:11/09/26 17:25 📱:Android 🆔:O9JTdECU


#865 [ちか]
面白くない、と俺がふくれていると、廊下の方で透を呼ぶ声がした。

「蓮見ー、」

それを辿るように透がくるりと振り返るとクラスメイトとその隣に女の子。

「なにー?」

俺は呼ばれる方へ駆け寄っていく透の背中が見えなくなった後、さっきまで透が座っていた椅子に腰を下ろし、机に突っ伏した。

⏰:11/09/26 22:48 📱:Android 🆔:O9JTdECU


#866 [ちか]
そろそろ行かなきゃなー

さっさと片付けてこよ

そんなことを思いながら、結局だらだらと突っ伏したままどれくらい経っただろうか。
透が帰ってきた。

「あ、おかえりー、」

「ん、ただいま」

「なんだったー?」

「告白された」

は?!
そんなあっさりと何を言ってんの、こいつ!!

⏰:11/09/26 22:54 📱:Android 🆔:O9JTdECU


#867 [ちか]
俺のリアクションに比べ、透の顔は至ってクール。

透、オッケーしたのかな。
したらなんか…寂しいかも。

「で、返事は…」

「断った」

そうなんだ、と相槌を打ったあと、心の中でホッとしている自分がいた。

なんだよ、ホッて!ホッてなんだ、俺!

⏰:11/09/26 22:57 📱:Android 🆔:O9JTdECU


#868 [ちか]
内心で自分自身にツッコミを入れ、話を続ける。

「で、でも可愛かったじゃん」

「お前は可愛かったらどんなか知らない女とも付き合うのか?」

「いや…付き合わない…です」

「だろ?」

はい…、と俺は縮こまった返事を返して仏頂面の透をチラリと見る。

幼なじみだからかあまり考えたこともなかったけど、
やっぱり透は端整な顔立ちをしている。
頭も運動神経も良いし、面倒見が良くて、人望があって、みんなにも優しくて。

考えているうちに自分が惨めになりそうなくらいだった。

⏰:11/09/27 18:34 📱:Android 🆔:eqbciHTs


#869 [ちか]
たぶん高校に入ってからも何度か告白をされていた気がする。
むしろ学年の中じゃ人気もある方だ。
その人気は上級生であっても変わらない。

でも、中学の頃に一度彼女が居たことがあったけど、それっきり透に彼女が出来たなんて聞いたことがない。


よくよく考えてみれば不思議だ。

なんでだろうか?

「なに人の顔じっと見てんの。」

「えっ!!あ、いやっ…」

チラリとしか見てなかったつもりが、いつの間にか凝視してしまっていたようだ。

⏰:11/09/27 19:06 📱:Android 🆔:eqbciHTs


#870 [ちか]
「よく考えたら、透、中学ん時以来彼女作らないなーって。なんでかなーって…」

俺は慌ててそらした目をもう一度透に向けて、またそらす。

見上げる姿勢のせいか、
透がいつもよりデカく頼もしい人間に見えた。

「あー、…俺好きな奴居るから。」

間があったのは一瞬。

開いた口が塞がらないとはまさにこの事。

⏰:11/09/28 01:07 📱:Android 🆔:g9cV2g72


#871 [ちか]
「〜〜っ……そんなの初耳なんだけどっ!!」

「だって言ってなかったし」


衝撃のあまりしどろもどろになる俺をよそに、透は飄々と語る。
この差は端から見れば滑稽極まりない。

なんで俺ばっか焦らなきゃなんないんだよ!!

と半ば逆ギレのような感情が芽生え、この際だからいろいろ聞き出してやる、と意気込んで俺は質問を投げた。

⏰:11/09/29 01:18 📱:Android 🆔:/gQR4j4Q


#872 [ちか]
「可愛い?」

「可愛いって言うよりは生意気…かなー」

「いつから好きなの?」

「だいぶ前」

「へえー、俺の知ってる人?」

「…………ひみつ。」

淡々と答えていた透がその時初めて黙った。

俺はそれに調子乗って追い討ちをかける。

「いいじゃん〜!俺も協力するって!
うちの学校?クラスは?なぁなぁ〜、教えろ…っい゛ってぇ゛!!」


どうやら調子に乗りすぎたみたいデス。

⏰:11/09/29 20:38 📱:Android 🆔:/gQR4j4Q


#873 [ちか]
「なにもしばかなくてもいいだろっ?!」

本日二回目の打撃をくらった頭を擦りながら言うと、透はしれっとしながら
「ごめん、つい手が」
と言って、これ見よがしに手をヒラヒラと見せた。

「それよりお前片付け行ってこなくていいのか?」

「あ。」


透の恋愛沙汰に気をとられ、すっかり忘れていた俺は、間抜けな声でそれを思い出した。

「部活終わる頃にはお前も終わってるだろ?今日帰りどうする?」

当然のようにそう訪ねてくる透に、俺は詫びるように片手を胸の前で立てた。

⏰:11/09/30 00:31 📱:Android 🆔:M6gMnZ3I


#874 [ちか]
「ごめん、今日は大事な用事あるから先帰ってて。」

大事な用事、という言葉に透は怪訝な顔をする。
心配性は相変わらずだ。

「心配しなくても遅くならないようにするから大丈夫だって!じゃあ俺、片付け行ってくるな!透も部活頑張れよー!」


半ば強制終了と言った形で会話を切り上げたのは、これ以上話すと透に感づかれそうだったから。

そうして一方的な言葉を投げて、俺はそのまま備品室へと走った。

⏰:11/09/30 00:37 📱:Android 🆔:M6gMnZ3I


#875 [ちか]
備品室は別名、物置小屋。

なんでも分別なく荷物が運ばれるせいで、備品室の片付けというのは気の遠くなる作業を暗に示唆しているようなものだった。


そんなところだから、場所も校舎の一番奥、人気が少なく、ホコリっぽい。

ガラ...ガラ...

立て付けの悪い戸を力ずくで開けると、覚悟していた通りの有り様だった。

「……さっさと終わらせよ…。」


自分に言い聞かせるように呟いて、俺は目の前のゴミに手を伸ばした。

⏰:11/10/01 18:37 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#876 [ちか]
一時間はゆうに越えた頃、
ようやく備品室は本来の姿に戻りかけていた。

備品室の間取りは単純だが、小さな収納部屋が中に1つある。

あとはそこさえ終われば終了…と言った感じで、俺は収納部屋に足を踏み入れたのだった。

それが悲劇の引き金と知らずに。

⏰:11/10/01 18:42 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#877 [ちか]
俺が収納部屋に入ってすぐの頃、
前田が備品室を訪ねてきていたことに俺は全く気づかない。

「日下ー?片付け終わったかー?」

そんな呼び掛けも、一枚の戸を隔てた小部屋で片付けに没頭していたため聞き逃してしまい、返事など出来ない。

「おー、キレイになってんじゃん。……6時前だしもう帰ったのか。」

そう納得した前田が備品室の鍵を閉めて職員室に戻っていったことさえ、気づかなかったんだ。……――――

⏰:11/10/01 18:49 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#878 [ちか]
「あれ?」

鍵が閉められてると気づいたのは、それから数分後のことだった。

最初は、立て付けの悪さを疑い力ずくで引いてみたが戸はビクともしない。

「え?!なんで?!うそ、は??!」

パニックになった俺はところ構わず、叫んだ。
誰か気づいてくれ。

そんな期待を抱いて。


しかし、ここ校舎の一番奥。
元々人通りがすくない上に、こんな夕方にわざわざ来る奴なんてまず居ない。

「うそだろ……」


携帯のディスプレイはすでに5時50分を表示していた。
―――――――……………
―――――…………
―――………

⏰:11/10/01 18:56 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#879 [ちか]
― 恭弥side.―


俺、待ってるから
あんたが来るまでずっと、
ずっと待ってるから  ……―――


冥のその言葉が何度も頭の中で繰り返された。
放課後になってもそれは変わらなかった。


今日は柄にもなく本当に熱が出て、保健室で休んでいた。
そんな矢先、まさか冥に会うなんて。
なんてタイミングなんだよ、と、苦笑すら溢れた。

僕は冷静を装えていただろうか。
そんなこと考えるだけ無駄だった。


掴まれた手首を指でなぞる。

⏰:11/10/01 19:02 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#880 [ちか]
「………………行ってみるか。」


ずっと待つ、
なんて言うから、行ってすぐに帰れと告げるだけだ。

そんな風に自分を納得させて、学校を後にした。
迎えの車を断って。

⏰:11/10/01 19:05 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#881 [ちか]
ファミレスの前に着いたのは5時きっかりだった。


「なに一時間前から来てるんだか。。」


呆れて自分に嘆く。


仕方なく、なんてそんなのは建前で本当は会いたくてしかたないと気づくと、気恥ずかしさでマフラーに顔を埋めた。


冬の5時はすっかり影を落として光るネオンを見ながらぼんやりと俯いた。


「寒いな。」

そんな呟きは白い息と一緒に、行き交う人々の中へと溶けていった。

……―――――
…――――

⏰:11/10/01 19:14 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#882 [ちか]
― 冥side.―

慌てて透に電話をかける。

「…あっ、もしもし透?!」

しかし、安心したのもつかの間、
《こちらは留守番電話サービスです…,》

機械的な音声に項垂れて電話を切る。

他に連絡の取れる奴…

思い付くままに電話をかけてみる。
数人にかけていくうちに、一人と電話が繋がった。

⏰:11/10/01 22:44 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#883 [ちか]
『おー、どしたん日下ー』

『あのさ、今どこ居る?!』

『えー?今?学校の近くのゲーセン〜』

俺はその返事に思わずガッツポーズを取った。
近くなら頼めば来てくれる、はず!

俺が安堵の息をついている間に
電話の向こうでは
誰?、日下、なんで?、と言った風な会話がなされている。
数人で遊んでるみたいだ。

俺は噛みつくように携帯に話しかけた。

『あ、あのさ、今から学校に、』

『え?ごめん、なんて?』

オメーらうっせーって、と叫ぶ友人の声が聞こえる。
ゲーセンという場所柄、騒々しくてきこえづらいのだろう。

『ごめんごめん、え、なに学校?学校がなんて?』

『あの、俺今、』ップ…ツーツーツー


「えぇ?!もしもし?!あれ?!は?!」

暫く応答のない電話に話しかけたあと、ディスプレイに目を落として漸く分かった。


携帯の寿命切れ。

⏰:11/10/01 23:00 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#884 [ちか]
「まじかよー…」


俺はその場にへたりこんだ。

恭弥との約束が。

もうきっと6時を回っている。


「どうしたらいいんだよ…」

そう呟いて俺は項垂れるしかなかった。

⏰:11/10/01 23:05 📱:Android 🆔:g.cKTL3o


#885 [ちか]
― 透side.―

「いやー、雨降るとか聞いてねえよなー!」

そう話しかけてきたのは、同じサッカー部の同期だった。

「そうだなー」

「うわ、パンツまでびっしょびしょだし。」

「うんー」

ちょうど部活もラストスパートのとき、急に降りだした雨のせいで早めに部活が終わった俺たちは更衣室で着替えたり、くだらない話をしていた。

「お前、今日集中力無さすぎだろー」

「ん、ごめん」


確かにそうだ。
冥の大事な用事とやらが気になって、気が気じゃなかった。

⏰:11/10/02 00:48 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#886 [ちか]
「いや、いんじゃね?お前にしては珍しいっつーか。」

そんな風に言いながらそいつは鼻歌混じりに着替えをロッカーから探していた。

珍しい、か。


珍しくなんかないんだけどな。

俺はいつだって冥(アイツ)のこととなると、いっぱいいっぱいになる。

⏰:11/10/02 01:10 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#887 [ちか]
「普段完璧なお前がぼーっとしてんの見るとさ、なんかホッとするし!」

「なんだよ、それー。誉め言葉?」

誉め言葉、誉め言葉、と言いながら漸く着替えを見つけたようだ。

普段完璧とは、俺も外面が良くなったもんだな。
なんて他人事のように解釈しながら、濡れた髪をタオルで雑に拭く。

「 ? 」

とその時、鞄からタオルを取った拍子に、その下にあった携帯が点滅していることに気づいた。

⏰:11/10/02 01:16 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#888 [ちか]
着信?

誰からだろうか。

そう思い、おもむろに不在着信の画面を表示する。


「冥?」

そこに表示されていたのは
冥の名前だった。

用事が無くなったのか?
一緒に帰る連絡かなにかだと思い、そのままリダイアルを押す。

しかし何回か呼び出しのコールがなったあとその電話に出たのは、

『お掛けになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため…』

と、機械的な女の声だった。

⏰:11/10/02 01:23 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#889 [ちか]
とは言え、大した用事でもないか。

もしかしたら教室で待ってるかも知れないと思い、着替えたあと、そっちを覗いたが冥の姿は無かった。


「やっぱ帰ったか?」

なんだか良くない予感が頭を過ったが、気のせいだろうとそのまま玄関口まで降りた。

外は大雨だ。

「傘、ねえよ。」

こんな時に隣に冥が居れば、
嫌いな雨も好きになれるのに。

なんて、
思ってる俺は欲が出すぎてるのだろうか。

虚無感に思わず失笑した時、
携帯のバイブが鳴った。

「もしもし?」

『あ、蓮見ー?』

電話の主は同じクラスの武内だった。
冥と仲が良いから自然と俺も仲良くなった、そんな流れの付き合いだ。

電話なんてよっぽど用がない限りしない。

⏰:11/10/02 01:35 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#890 [ちか]
「なに、どうしたー?」

当たり障りなく返事を返す。
その際に聞こえてくる騒がしさからゲーセンかカラオケに居ることは察しがついた。

自ずと聞こえやすくなるように、大きめの声量で話す。

向こうも素直に聞き取れたようで、スムーズな会話が期待できた。
その時。

『いやー、なんかさっき日下から電話あったんだけどさ、急に切れちゃって。かけ直したけど出ねーし。』

ああ、
武内にもかけてたのか。

そんな小さな嫉妬は心の隅に追いやって口や顔には出さない。

俺は至って冷静に相槌を打った。

⏰:11/10/02 01:42 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#891 [ちか]
『でさ、なんか学校、学校言っててな、なんかすげー焦ってたみたいだから、蓮見ならなんか分かるかなーって。』

学校?
焦ってる?

嫌な予感がしなくもない。


まさか。

俺は咄嗟に下駄箱に戻った。

冥の靴は……




まだある。

⏰:11/10/02 01:47 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#892 [ちか]
『ってあれ?蓮見?聞いてる?』


受話器の向こう側からそんな声がして咄嗟に言葉を返す。

「あ、聞いてる聞いてる。冥まだ学校みたいだから探すわ。連絡さんきゅ。」

そう言って一方的に通話を切った。


もう既に冷静を保ててはいない。

⏰:11/10/02 01:50 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#893 [ちか]
「どこ行ったんだよ、あのバカ…っ」


焦ってる。
その言葉が妙に引っ掛かる。

校舎内に居るのは確かだ。
教室には居なかった。

この雨じゃ中庭や屋上でもないはず。
そしたらアイツの居そうな場所は……、

「………備品室…っ」


そう呟いたと同時に、
俺の足は既に走り出していた。

⏰:11/10/02 01:56 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#894 [華子]
1から一気に読みました´ω`
面白いお話をありがとう
どうか2人が別れませんように

⏰:11/10/02 13:05 📱:SH08B 🆔:yVZPv3.k


#895 [ちか]
>>894 華子さま.

わりと長いシリーズなんですが
一気に読んでもらえて嬉しいです(*^^*)
こちらこそありがとうございます!
これから更新するので続きをお楽しみに♪
感想板もあるので遊びに来てくださいねっ

⏰:11/10/02 15:51 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#896 [ちか]
>>893

はぁっはぁっ…

「無駄に広いっつーの、この校舎…っ」

一気に階段をかけあがり、別館の最奥にある備品室に着く頃には既に息が上がっていた。

人気もなく、薄気味悪い。


「冥ー!!」

余っている体力から絞りように声を張り上げた。

すると、
「透?!」

紛れもない冥の声が耳を掠めた。

俺は備品室の戸を雑に叩く。

⏰:11/10/02 15:56 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#897 [ちか]
「冥?!こん中か?!」

問いかけに応えるように、内側でも戸を叩く音がする。

「なんか閉じ込められちゃって…」

いつからこうしていたのか、
すでに冥の声に覇気は無かった。

闇雲に戸を開けようとしてみたが、ビクともしない。

やはり鍵がかかっているようだ。

⏰:11/10/02 16:01 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#898 [ちか]
職員室まで鍵取りに行くか?


………いやもうめんどくさい。

それならいっそのこと、


「冥、そこ退いとけ。」

「へ?」

ガンッ

「透?!」

もう一度、ガンッと音が鳴る。

もう一度。

そして、

⏰:11/10/02 16:08 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#899 [ちか]
その瞬間けたたましい音と共に戸が室内に倒れた。
倒れた拍子に戸に嵌め込まれていたガラスが床に散らばる。

「案外、開くもんだな。」

思いっきり打ち付けた体にじんわりと痛みが滲んだ。


「冥、ケガしてない?」


目の前には涙の溜まった目を丸くした冥が突っ立っている。
俺がそう訪ねると、何度も頷いた。

よかった。無事で。

「お待たせ。」

自然と笑みが溢れる。

⏰:11/10/02 16:12 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


#900 [ちか]
「本気で死ぬかと思った〜…」

半泣きのそいつを宥めるように、頭を叩いた。

「ったく、お前はほんとに心配ばっかりかけさせて…」

「ごめんなさい…」

冥は身を縮こめて謝ると、その拍子に無惨に倒れた戸の姿が目に入った。


「あれ、どうしよっか…」

責任を感じるような面持ちでソレを眺める冥。

俺がさせたいのはそんな顔じゃない。

だから、

⏰:11/10/02 20:30 📱:Android 🆔:LOoeYdJY


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