こいごころ
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#151 [向日葵]
溢れれば溢れるほど、涙に変わる。

「ごめん……すぐ、泣き止むから……」

宗助……ください。
あなたの心を、私にください……。
私もたくさん、あげるから……。好き……好き……。
大好き……。

茉里の涙を拭っている手を、宗助が握る。
そのまま引っ張られるようにして、歩き出す。

「そ……宗助……?手が……」

「いいから、黙ってろ……」

⏰:09/05/19 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#152 [向日葵]
そういう宗助の耳が赤い。

不器用な優しさ。

ああ……こんなにも宗助が……。
握る手をみつめる。

この手が、本当の意味で、自分のものになるのは、いつなのだろう。


――――あの手を、あの時離せば、違う道を一緒に歩む事が出来たのかな……。

⏰:09/05/19 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#153 [向日葵]
[5]夏の合宿と動悸

夏休みに入った。

茉里所属の剣道部では、毎年の恒例である2泊3日の夏合宿が行われていた。

海が近い場所にある総合体育館を借り、朝から夕方まで行われる。
ちょうど今は昼休憩で、皆で業者に頼んでいたお弁当を食べていた。

「え?今年もやるの?肝試し」

そう言ったのは、現女子キャプテンである綾香だ。
男子の副キャプテンに言った。

⏰:09/05/19 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#154 [向日葵]
「そんなの俺知らないぞ」

キャプテンの宗助が言う。

「だって、宗助に言ったら必要ない、っとかって却下しそうじゃん」

確かに。
会話を聞きながら、茉里は心の中で頷いた。

「先生も言ってたぞ。楽しんで合宿しなきゃなって」

「結局はなんと言おうがやるんだろ?」

呆れ気味に言えば、男子の副キャプテンは歯を見せて笑った。

肝試し……ね……。

実は、茉里はそういう類が得意ではなかったりする。

⏰:09/05/19 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#155 [向日葵]
肝試しと言っても、毎年やるのは行く前になんらかの怖い話をして、決められた道を歩くのみの、なんともシンプルなものだ。

それでも、何故かそういう時に限って、生暖かい風が吹いたりするから気味が悪くて仕方ない。

「茉里ちゃんもいい?」

「え?ああ、いいよ!楽しそうだし!」

嘘です。
ついノリで答えました。

でももう後戻りは出来ない。
皆やる気モードだ。

⏰:09/05/19 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#156 [向日葵]
「よし、これで練習にも実が入るだろ」

「そうね、なんかわくわくするよ」

まったくしないんですけど。

「あと10分で再開するからな」

宗助は早くも準備し始める。
そのあとに、茉里はついて行く。

「宗助は怖いの平気?」

「見たことないしな」

「そ、そう……」

「ん?なに、怖いの?」

「ま、まさか!」

つい強がる。

⏰:09/05/19 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#157 [向日葵]
ああ……どうして私ってこうなんだろう……。

―――――――…………

「茉里先輩、救急箱どこですか?」

「あ、ちょっと待ってね」

救急箱は少し離れた所にあった。緑色のネットに隠れているように置いてある。

取りに行き、後輩が求めているものが入っているか確認した茉里は、すぐに行こうとした。

しかしその時、ネットが足に絡まっていたのに気づかず、派手に転ぶ。

⏰:09/05/19 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#158 [向日葵]
見ていた後輩が驚いて、茉里のいる場所に飛んでくる。

「せ、先輩、大丈夫ですか?」

「いったたた、うん、まあね……」

立ち上がる時、ズキリと足首に痛みが走る。
どうやらひねってしまったらしかった。

やってしまった……。
あとでコールドスプレー借りよう……。

―――――――…………

練習が終わり、泊まる旅館で夕飯の準備が出来るまで自由時間がもうけられた。

⏰:09/05/19 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#159 [向日葵]
汗と疲れを取る為、ほとんどが銭湯へと直行する。

暑いので早めにあがってきた茉里は、ロビーのソファーで宗助が座って新聞を読んでいるのに気づいた。

「じじくさい……」

背後からの声に、宗助は振り向いて眉を寄せる。

「いいだろ別に」

「今日なんか面白いのやってる?」

宗助の隣に座った茉里は新聞を覗き込む。
宗助はドキリとした。

⏰:09/05/19 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#160 [向日葵]
寝巻き用に茉里が着ているTシャツは襟ぐりが大きく、鎖骨が見え、暑さで火照ったピンク色の肌からはボディーソープのいい香りが漂う。

濡れた髪も手伝い、茉里の可愛い部類に余裕で入る顔つきを艶っぽく感じさせ、宗助は顔を赤らめる。

「あ!今日可愛い動物特集あったんだ!宗助これ知って……。どうしたの宗助」

ぼんやりとしている宗助に、茉里は首を傾げる。

ハッとした宗助は、急いで立ち上がる。

⏰:09/05/19 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#161 [向日葵]
「な、何でもない!」

宗助は足早に部屋へ帰って行ってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

宗助は部屋の手前で壁によりかかっていた。

最近、先輩に対する気持ちが薄れつつある気がする。
それは、茉里に惹かれている事だろうか?
沢口が彼女に興味をもってべたべたしてるのはなんだか嫌だった。

だから可愛くないことを言ったり、意地悪な風にからかってみたりした。

⏰:09/05/19 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#162 [向日葵]
それは彼女にとって、不快なだけだったに違いないけれど、口が止まらなかった。

先輩に帰り誘われた時だって、先輩が彼氏と帰ると言ってくれなければ迷っているとこだった。

先輩が好きなのは事実。
しかし茉里が気になるのもまた事実なのだ。

彼女は、仮彼女という立場の不満をぶつけたりしない。
むしろ宗助を応援してくれたりだってしてくれる。

⏰:09/05/19 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#163 [向日葵]
そんな彼女の、自分に対する健気さは、少し心うたれるものがある。
だからと言って、茉里を好きになるのかと言ったらまた別の話のような気がする。

宗助は背中を壁につけたままズルズルとしゃがみ込む。

そして長いため息をもらす。

もしかしたら、いや、一番悪い事をしているのは、自分なのではないだれうか。

どうして茉里は、こんな自分を好きでいてくれるんだろうか。

⏰:09/05/19 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#164 [向日葵]
[男だからって、泣いちゃ駄目なんて、私は思わないよ?]

試合の帰りの、茉里の言葉だ。

そうやって、どんな自分も受け入れてくれる彼女に、自分は甘えているだけなのかもしれない。

そう思えば、やっぱり先輩に対する好きとは、違うような気がした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕飯の用意が整ったので、皆が食堂に集まる。
好きな場所に座るとき、茉里はさりげなく宗助の隣を選んだ。

⏰:09/05/19 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#165 [向日葵]
それに気づいた宗助は眉を寄せる。

「……なんでここ」

「席なんて決まってないじゃない」

「だからって……」

「美味しいものは、特別な人の隣だとより美味しいのっ」

ニカッと笑う茉里を見て、宗助はため息を吐く。

「やっぱり違うよな……」

「え?なにが?」

茉里の言葉を無視して、宗助は号令をかける。

皆、宗助に合わせて、手を合わせ、「いただきます」と言った。

⏰:09/05/19 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#166 [向日葵]
疲れた体に、夕飯が染み渡る。

「笹部君、いつ始める?」

綾香が言う。

「なにを?」

「肝試し」

それを聞いた茉里の握っていた箸が、音を立てて机に落ちる。

忘れてた……。

「あんまり遅くなって騒いでたら迷惑になるから、7時くらいに始めたら?」

「了解!じゃあ7時にロビーね!……って、茉里ちゃん、なんか顔青くない?」

⏰:09/05/19 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#167 [向日葵]
「え?気のせいじゃない?」

箸を拾った茉里は、早口で答える。

きっと誰かとペアになるから、大丈夫。
怖さも半減するだろう。

宗助が、茉里の顔をじっとみつめる。

「アンタ……もしかして、怖いの苦手?」

それを聞いた皆の楽しみに満ちていた表情がなくなる。
肝試しは中止になるのか?と。

「ま、まさか!全然だし!」

そう言ったあと、机の下で宗助の足を踏みつけた。

⏰:09/05/19 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#168 [向日葵]
宗助は声こそ出さなかったが、茉里を睨む。
茉里は何事もなかったかのように料理を口にいれていく。

「先生、交じりますかー?」

「俺はいいよ。でもまあ、気分出すために、怖い話の1つや2つ、話してやってもいいよ」

1つで充分です。

茉里は心の中で激しく抗議した。

正直に言って、スタート地点で待つという手もあったとあとで気づく。
でも今更言うのも……と、茉里はせっかくの料理の味もわからないぐらいにパニックに陥っていた。

⏰:09/05/22 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#169 [向日葵]
ああ……どうしよう……。

―――――――……

「加賀」

部屋に帰ろうとしたら、宗助に呼び止められた。

「なに?」

「別に辞退したらいいじゃないか」

「……なんの話?」

「肝試しの話」

茉里は誰もいないことを確認し、宗助の近くまで行くと、声を落とす。

「そんなの、あんな皆の前で宣言したのに、実は怖いんですアハハなんて、格好悪いじゃない」

⏰:09/05/22 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#170 [向日葵]
「ビビりまくって腰抜かすのも格好悪いぞ」

「そんなヘマしませーん」

べーっと舌を出す。
宗助はしばらく茉里をじっと見て、ふうっとため息をする。

「じゃあ、俺とペアになれ」

「え?」

思わずアホっぽい声が出てしまった。
茉里は何回も瞬きをする。

「なんて?」

「俺とペアなら、心置きなく怖がれて楽だろ。まあ、アンタにとって、肝試し自体が楽じゃないだろうけど……」

⏰:09/05/22 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#171 [向日葵]
茉里は目を輝かせる。
宗助がそこまで自分の事を考えて配慮してくれるだなんて、嬉しすぎる。

思わず満面の笑みを宗助に見せる。
宗助は目を見開く。
口元を隠したと思えば、茉里に背を向けた。

「じゃあ、あとで……」

「え?宗助?」

急に行ってしまって、茉里の頭にハテナが何個も浮かぶ。

それにしても、宗助と一緒にいれるなんて、夢のようだ。

⏰:09/05/22 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#172 [向日葵]
茉里が嬉しがっているのを、振り向いた宗助はちらりと見る。

びっくりした。
あんなに嬉しそうに笑うから。

胸に手を当てれば、胸がドキドキしていた。

違う。これはそういう意味じゃない。
ホントに可愛く笑うから、驚いただけだ。

胸の動悸の本当の理由を、宗助は認めようとはしなかった。

一方、取り残された茉里は、いつもと違う宗助に違和感を感じながらも、宗助が自ら自分を気遣って誘ってくれるのが嬉しかった。

⏰:09/05/22 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#173 [向日葵]
「先生の話ってどんなだろうね」

たまたま売店に来た後輩が喋っているのを耳にする。

「さあね。でもなんか先生この辺のそういう話詳しいらしくって、さっき得意そうに、お前たちの怖がる顔が楽しみだとか言ってたよ」

「わー!聞き応えありそーっ」

そう言い、何か買って帰った後輩の後ろ姿を、茉里は黙って見送る。

いくらペアが宗助だと言っても、怖いという感情は、また別のものなのだった。

⏰:09/05/22 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#174 [向日葵]
―――――――――…………

「ってわけで、コースは言ったとおり、この道をぐるっとまわる。まあ短いから、さほど怖くないけどな」

そう言って、男子副キャプテンは仕切る。
茉里はと言うと、先ほどの先生が話した怖い話のおかげで、顔面蒼白の脱け殻状態になっていた。

どうして皆そんなに楽しそうに出来るわけ?

毎年恒例ては言え、今から行く道の暗いこと。
道の両端は森のようになっているし、しかも短いだなんてとんでもない。

帰ってくるまで20分はかかる。

⏰:09/05/22 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#175 [向日葵]
不気味でしょうがない。

先生の話を思い出せば、背筋にゾクゾクと寒気が走る。

「おい」

宗助が話しかける。

「次、俺ら行くぞ」

「えー……もうー……?」

「嫌なことはさっさと済ます」

他人事だからって……。ちょっとは優しくしてよね……。

しぶしぶ茉里、宗助ペアは、恒例肝試しロードを歩き始めた。

生い茂る木が、今にも化け物にかわるんじゃないかとビクビクしている茉里は、黙々と歩いていく宗助に必死について行く。

⏰:09/05/22 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#176 [向日葵]
「ねえ、もうちょっとゆっくり歩いてよ……」

「さっさと済ます」

意地悪……。

その時、ガサッと茂みで何かが動く。

「いっ、やあーっ!」

飛び付くように、宗助の背中にしがみつく。
倒れそうになった宗助だが、なんとか耐えた。

「なんなんだ!」

「そこ!そこに!」

「猫かなにかだろ?大袈裟」

冷たい……。

⏰:09/05/22 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#177 [向日葵]
なによ。これが先輩なら、「大丈夫ですか?」の一言くらい格好つけて言うくせに。
ほんの一言、なんか言ってくれてもいいじゃないっ!

……どうせ、今私が消えたとしても、宗助は何も思わないんでしょうね……。

茉里がふと横に目を向けると、何かが一瞬光ったように思った。

「蛍?」

「おい、加賀」

「宗助!蛍、蛍がいるよ!」

「どうでもいいよ。早く終わらすぞ」

どうでも……。

⏰:09/05/22 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#178 [向日葵]
何かが、茉里の中で切れた。

先々行く宗助の背中を睨みつける。

そんなに、私といるのが面倒くさいなら、1人でゴールしなさいよ。
私は、どうでもいい蛍を見つけてやるんだから!

支離滅裂にそう思いながら、茉里は茂みへと入っていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ん?おかしい。
さっきまで少しの物音でギャーギャー言っていた茉里が、何も言わなくなってしまった。

もしかして、怖くてだんまりになったのだろうか?

⏰:09/05/26 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#179 [向日葵]
「あー……、加賀?大丈夫だって。先生の話、実はフィクションらしいし、信憑性自体ないっていうかさ……」

安心させるように話しかけてみるが、反応がない。

「加賀?」

さすがに異変に気づいた宗助は、後ろを振り返る。
そして驚いた。
それもそのはず。
さっきまで居たはずの茉里が、忽然と姿を消しているのだから。

「……っ加賀!?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どーしよ……。

⏰:09/05/26 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#180 [向日葵]
あまりに頭にきたもんだから忘れていた。
自分は、怖いものが苦手だった。……なのにどうしてこんな場所に。

茉里がいる場所は、歩いていた道の脇の茂みの中、というよりも、軽い森のような場所。

しかも頭にきていたのと、蛍を探すので必死になっていた為、現在地不明状態になっている。

さらにおさらく木の幹だろうところに足を引っかけ、昼間にひねった場所に痛みがはしって歩きにくい。

もちろん、蛍なんてどこへ行ったのやら、だ。

⏰:09/05/26 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#181 [向日葵]
「も、もーっ!」

どうにもならなくて、叫んでみるも、辺りが静寂に包まれる。

木々独特の香りは、普通ならば癒されるものだが、今の茉里には恐怖の材料でしかなった。

その場にへたり込み、膝を抱える。
空回りとは、この事をいうのだろうな。

きっと、宗助は心配なんてしてない。
心配……なんて……。

惨めな気持ちが、心を埋め尽くす。

何やってんだろう。

⏰:09/05/26 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#182 [向日葵]
怖いくせに無理して、誘われて有頂天になって、冷たいからって怒って、意地になって迷子になって、怪我までして……。

帰ろう。きっと帰れる。
怖くない。だってここまで来れたのだから。
……歌でも唄って、意識をどこかにやればきっと出れる。

足だって、そんなに痛くないかも。
もしかしたら痛いって思い込んでるだけかもしれないし。

「こんな馬鹿なこと、二度とやらないようにしよう……」

「まったくだ」

⏰:09/05/26 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#183 [向日葵]
驚いて、顔を上げる。
急な光に、一瞬視界を奪われるが、少しそれが別の方へ向けば、懐中電灯を持った宗助が見えた。

あれ?
でも懐中電灯なんて、行く時は持ってなかったのに。

「急にいなくなって、とうとう幽霊にでも連れ去られたかって思った。」

宗助の息が、少し荒い気がするのは、気のせいだろうか。

「……残念ね」

茉里は呟く。

「なにが?」

⏰:09/05/26 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#184 [向日葵]
「連れ去られてれば、ギャーギャーうるさい私は、宗助の前から消えてたのに」

反省したばかりのくせに、茉里はまだ素直にはなれなかった。
しばらく沈黙が流れる。
やがて呆れたように長いため息を吐いて、宗助は茉里の前に膝をつく。

「懐中電灯、一旦戻って取りに行った。うるさい奴でも心配してたからだ」

「……」

「……ごめん。怖がってたのに、ろくな対応しなくて」

そう言って、宗助は手を差し出す。

⏰:09/05/26 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#185 [向日葵]
なんなのかと、茉里は宗助をじっと見る。

「怖いんだろ?だからせめて手を……。おい、その足どうした?」

たまたま光に照らされた茉里の足は、赤く腫れていた。

「昼にひねって、痛くなかったから忘れてたら、さっきまたひねった……」

また沈黙が流れる。
明らかに、宗助が呆れているのが分かった。
でもその空気が、なんだかアホっぽくて、茉里はついつい笑ってしまった。

「笑える立場かアンタは」

⏰:09/05/26 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#186 [向日葵]
「はいっ、ごめんなさいっ」

ふざけて敬礼のポーズをとれば、宗助がまたため息を吐く。

「仕方ない、おふざれ……」

「え、でも……」

「早く。皆待ってんだから」

宗助の懐中電灯を持って、茉里はそろりと宗助の肩に触れる。

かたいなあ……。

抱きついた事すらないのに、こんな状態になるなんてと、茉里は不謹慎にも嬉しくなった。

宗助が立ち上がる。
体が密着する。

⏰:09/05/26 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#187 [向日葵]
心臓の音、絶対聞こえてる。

そのくせに、もっとドキドキしてしまうことを言いたくなってしまう。

「宗助、大好き……」

「は、はあ……っ?」

「心配してくれて、ありがとう……」

宗助は、冷たい時は確かにあるが、本当はとても優しいことを思い出した。
そんな宗助だから、茉里は好きになった。

宗助の首に回している腕に、少しだけ力を入れる。
そして彼の耳元に、頭を押しつけた。

⏰:09/05/26 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#188 [向日葵]
そうやることで、茉里の髪の毛が首元をくすぐるから、宗助はいままでになくドキドキしていた。

後ろにある重みが、少しいとおしく感じるのは、どうしてなんだろう……。



――――――私の重み。
私は文字通り、ただのお荷物だったね……。

⏰:09/05/27 02:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#189 [向日葵]
[6]勘違い

あの夏合宿。
少しだけ気持ちが近づいた気がした、と思った茉里は、宗助に言ってみた。

「夏休みの課題、一緒にしない?」

かと。

もちろん茉里は宗助の性格や言動はだいぶ把握してきたから、どんな返事が返ってくるかも予想していた。

でももしかしたらという、彼女のいつものポジティブシンキングで言ってみた。

しかし、返事は驚くものだった。

「いいよ、別に」

思わず茉里は、喜ぶのを忘れて言葉を無くした。

⏰:09/05/27 02:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#190 [向日葵]
そんなわけで、宗助との勉強会が始まった。

「なにそれ、彼氏きどり?」

決まったとうかれて、親友であるミュシャを家に呼んだ茉里は、合宿と勉強会についてのいきさつを全部話した。

「まさか。宗助は先輩がまだ好きだもん」

「でも今の話から言えば、笹部は茉里を好きかもしれないんでしょ?」

「そこまでは言ってないよ」

今までに比べれば、いい感じかな?というだけで、まだそこまでには発展はしていない。

「笹部もさっさとおちればいいのに」

⏰:09/05/27 02:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#191 [向日葵]
「いいの。一途は悪いことじゃないもの」

茉里はそう思う。
しかしミュシャは、そういう彼女に呆れてもいたが、しっかりと茉里の申し出を断らず、まるで弄んでいるような宗助の態度に怒りを感じていた。

茉里は、ただ苦しんでいるだけのような気がする。

あまりにも、彼女に対する扱いが、不相応だと。

「苦しい思いをしてまで笹部がいいなんて、相当なMだね茉里は」

それでも、どう言おうと彼女は彼を悪く言わない。

⏰:09/05/27 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#192 [向日葵]
むしろ自分が悪いだとかばう。
だからミュシャは、ふざけながらも労っている。

あまり無理はしないでくれと。

その思いを知ってか知らずか、茉里はにっこりと笑った。

―――――――――…………

宗助とは道場で宿題をやろうと言っている。

教室は補習で使われている事が多いし、なんだかんだ言っても道場が一番落ち着く場所でもある。

私服を着て、とびっきり可愛い自分を見てほしい茉里だが、残念ながら学校は制服で行かなければいけない。

⏰:09/05/27 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#193 [向日葵]
だからせめて、髪型だけでもと気合いを入れた。
お気に入りのシュシュは、可愛らしくレースがあしらっていたりする。

道場まで来て、おかしなところはないか、最終チェックをする。
よしと意気込み、戸を開ける。

「おはよう!」

開ければ、宗助は机と椅子を2人分用意してるところだった。

「おはよう」

「早いね」

「普通だよ」

席につけば、宗助も席につく。

⏰:09/05/27 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#194 [向日葵]
髪型に気づいては……くれないよね……。

宗助は黙々と準備する。

「数学の問題集、教えてくれない?」

「自分でやったのか?」

「やってもわからないから訊いてんのー」

頬を膨らませながら分からなかったところを見せる。
一通り目を通した宗助は、茉里に問題集を返す。

「ここ、代入すればいいんだよ。そしたら答え出るから、こっちの式とあわせて……」

「あ、なーる……」

⏰:09/05/27 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#195 [向日葵]
「ここに例題あるだろ」

「だってこれ応用だもん。分かりにくい。大体ね、数学なんて、計算が出来ればもういいと思うの!なんでサインやらコサインやらやらなきゃいけないの!」

急に数学について不満を爆発させた為、宗助はぽかんとしていた。

茉里はいきなりやってしまったと、熱弁してる際に握りしめた拳をどうしようかと考えて固まった。

しばらくして、宗助が息をフッと吐き出す。

⏰:09/05/27 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#196 [向日葵]
「そんなこと言う人、初めて見たよ」

そう言って、目を細めて笑う。

思わず胸が高鳴る。

そんな、可愛く笑わないでよ……。

「まあ、数学嫌いは分かった。でも、おしゃれに時間かけるなら、少しは勉学に時間かけような」

「へ?」

「髪、いつもと違うみたいだから」

気づいて……くれてた……?

ぼんやりと、宗助を見つめれば、頬杖をついて微笑んでくれる。

「ん?なに?」

「……な、なんでもない……」

⏰:09/05/27 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#197 [向日葵]
問題集で、顔を隠す。
そうしないと、ニヤけているのがバレてしまう。

やっぱり、あの合宿以来、宗助の自分に対する態度が違う気がする。
どこか優しげだ。
いつもなら、もう少しツンツンしてるのに、今はその雰囲気が和らいでいるような気がする。

もしかして……。

問題集から、少し顔を出す。

宗助は自分の課題をしていた。

もしかして……少しは気持ちを分かってくれた?
少しだけ、うぬぼれたりしてもいいんだれうか?

⏰:09/05/27 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#198 [向日葵]
でも焦れば、また傷ついたりするかもしれない。

それに、宗助に強制はしないという約束だ。
仮彼女というポジションを、しっかりと覚えておかなければ。

そう思ってても、この少し優しげな雰囲気に甘えたりしてみたくなる。

「そ、宗助、今日は何時までする?」

「ん?アンタの都合がいい時間でいいけど」

合わせてくれるの?
ああ、もう、今は何を言われても嬉しいかも……っ。

⏰:09/06/04 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#199 [向日葵]
「もう帰るとか言わないでくれよ。このクソ暑い中、わざわざ付き合ってんだから」

……やっぱり、限度はあるかな……。

―――――――――…………

「はーい!休憩希望ーっ!」

2時間くらいしてから、茉里が万歳しながらそう言った。
ちらりと時間を見た宗助は、少しだけ書くと、シャーペンを置いた。

「アンタ、昼ごはんは?」

「おにぎり持ってきてるよ」

「なら良かった。貴重な弁当を分けなきゃならないかと思った」

⏰:09/06/04 03:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#200 [向日葵]
反論しようとした時、宗助が弁当を出す。
中身を見れば、美味しそうなおかずが並んでいて、茉里は思わずよだれを垂らしそうになった。

「お母さん優しいね。わざわざ作ってくれたんだ」

「いや、これ俺が作った」

「ええっ!?」

茉里の声が、道場に響く。
鳴り止んだころ、宗助が口を開く。

「親、共働きだし、自分の事は自分で出来るようにはなってる」

「へー……、共働きなんだ……。兄弟とかは?」

「兄、妹」

⏰:09/06/04 03:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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