こいごころ
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#201 [向日葵]
「何歳差?」
「兄は2歳、妹は4歳」
「じゃあまだ中1?可愛いっ!私、兄弟いないからうらやましいよっ。やっぱりケンカとかするの?」
「……さっきからヤケに色々訊いてくるな」
「だって、宗助のこと、少しでも知りたいと思うじゃない!」
宗助が、ご飯を箸に突っ込んだ状態で固まる。
茉里は思わず口を手でおさえる。
しまった。調子に乗りすぎた。
嫌そうな顔されちゃう。
:09/06/04 03:15
:SO906i
:☆☆☆
#202 [向日葵]
一向になんの反応もないので、そろりと宗助を見れば、弁当の方に目をやっていたが、口元が仄かに微笑んでいた。
それは、ただ単に弁当が美味しいのか、それとも茉里の発言を許してくれたのかは分からない。
けれど、二人の間に流れる沈黙は、居心地の悪いものではなかった。
少しだけ、その心に触れることを許してくれたのかな……。
だったら、嬉しいな……。
「アンタの親は?」
「え?」
「働いてるのか?」
「うん。ダメ親父がね」
:09/06/04 03:15
:SO906i
:☆☆☆
#203 [向日葵]
茉里の顔が少しだけ険しくなる。宗助は茉里に質問することをためらった。
「……訊いちゃ、ダメだったか?」
「全然。むしろ聞いてほしいくらい」
けろりとした茉里の表情にホッとした宗助は、茉里が再び口を開くのを待った。
「私のダメな馬鹿親父はね、無駄に顔がかっこいいのそりゃ、小さい頃は自慢だったよ。茉里ちゃんのパパはかっこいいねーとか、うらやましいとか言われたし。自分の親が褒められるって、悪い気はしないじゃない?」
「まあな」
:09/06/04 03:16
:SO906i
:☆☆☆
#204 [向日葵]
「でも……小6の時だった」
茉里はおにぎりを包んでいたラップをギュッと握った。
「アイツ、浮気したの」
夜中、喉が渇いて、リビングにやってきた茉里は聞いてしまった。両親のケンカを。
[今日、電話があったわ。あなたと別れてほしいんですって]
母の抑えたような声は、初めて聞くもので、すごく悲しそうだったのを今でも覚えている。
リビングに入れずにいた茉里は、ドアの前で二人の会話を息をひそめて聞いていた。
[……すまない]
[どれくらい付き合ってるの?]
:09/06/04 03:16
:SO906i
:☆☆☆
#205 [向日葵]
[……3年]
その答えに、茉里は驚いた。
3年間、今まで平然と帰って、おかえりと迎えた茉里を抱き締め、母の手料理を世界一だと言っていたのだ。
茉里は怒る気力すらなく、自分の部屋に帰り、枕に顔を埋めて泣いた。
母も損な性格で、父に謝られれば、許してしまった。
1度好きになった人を、簡単に突き放せない。
きっと茉里は、母に似たのだろう。
しかし、それから父は、茉里が知っている限りでは、今までに4回浮気を繰り返してきた。
:09/06/04 03:16
:SO906i
:☆☆☆
#206 [向日葵]
1度、母のように、浮気相手からの電話をとったことがあった。
{あなた……お子さん?}
[はあ……]
{やだ……あの人が奥さんと別れたら、あなた、ついて来ないでね}
どうしてそんなことを、浮気相手に言われなきゃならないのか。
怒りに任せて、茉里は電話を切った。
母は、それだけ浮気されても、やっぱり別れなかった。
未だに仲良く暮らしている。もちろん茉里も。
でも茉里は、1度目の浮気発覚以来、父とまともに話さなくなった。
「……ってわけ」
:09/06/04 03:17
:SO906i
:☆☆☆
#207 [向日葵]
おにぎりを口に運んで、もぐもぐと噛みながら、慣れたことのように話す茉里の一方、宗助は食べる事も忘れて、口を半開きにさせて茉里の話を聞いていた。
そんなドラマのような世界が、現実にあるものなのかと。
「その頃かな。私は絶対一途でいようって、絶対、好きな人を悲しませないって思った」
「その……親父さんのう……わき、今は?」
「さあ。今は珍しくしてないんじゃない?まあ、時間の問題だとは思うけど」
平気そうに話すが、いつもの茉里のように、口調は弾んでなかった。
:09/06/04 03:17
:SO906i
:☆☆☆
#208 [向日葵]
どこか冷静なその口調は、冷たささえ感じた。
―――――――――…………
時刻は5時。
そろそろ帰るかと、片付けを始める。
夏の日はまだ長く、夕暮れと言うにはまだ明るい。
道を歩けば、影が長く伸びる。
宗助は、あまり口を開かなかった。
茉里も今度こそ、やってしまったかと口数が少なくなっていた。
茉里の家の話をすれば、大抵が同情されるか、引かれるかのどちからだ。
宗助は、どちらなのだろうか。
:09/06/04 03:39
:SO906i
:☆☆☆
#209 [向日葵]
ホームに電車が来ても、帰宅ラッシュでいっぱいの電車に乗り込んでも、会話はそんなになかった。
茉里の降りる駅まで、あて2駅の時だった。
「そうやって……」
「え?なに?」
唐突に宗助が話し出したので、茉里は宗助を見上げる。
密着しそうなくらい、近い宗助。
宗助はずっと外を見ている。
「そうやって、裏切られたのに、加賀が変わらず、人の愛情や優しさを信じている人になってて、俺はよかったと思う」
:09/06/04 03:39
:SO906i
:☆☆☆
#210 [向日葵]
茉里は目を見開く。
ずっと、言葉を考えていたのだろうか。
それは同情なんかじゃなく、突き放すような言葉てもなく、茉里自身を心配した、優しい言葉だった。
泣きそうになって、歯をくいしばる。
下を向いた時、電車が大きく揺れる。
急ブレーキをかけたらしい。かと思えば、信号待ちだとアナウンスが流れた。
宗助は、ドアに手をついて、茉里をかばうような体勢になっている。
茉里は大きな揺れによって、宗助の胸に顔を埋める形になった。
:09/06/04 03:39
:SO906i
:☆☆☆
#211 [向日葵]
茉里はバレないように、宗助のシャツを掴む。
今、とても抱きつきたい気持ちになった。
でも、そんな事出来ないから、しばらくこのままで……。
電車が再び動き出す。
もしかしたら、宗助は気づいていたかもしれない。
でも、それ以降はまだ何も言わず、茉里の態度に文句も言わず、寄り添うように、そのままの体勢で、駅までいてくれた。
宗助……。もう少し、近づいていいって、思ってもいい……?
:09/06/04 03:40
:SO906i
:☆☆☆
#212 [向日葵]
――――――――…………
次の日。
宗助は茉里より早く学校に着いただろうと思って、暇つぶしに道場近くにある自販機に行く。
昨日、茉里は慣れたことなのか、とても普通に話していたが、心の底では深く傷ついているように見えた。
彼女は、傷を隠すのがうまい。
だから気づかず、通りすぎてしまいそうになるけれど、最近ではそういうのが分かってきた。
だから、傷つけない言葉を必死に探していたら、無口になってしまった。
:09/06/04 03:40
:SO906i
:☆☆☆
#213 [向日葵]
電車の揺れか、茉里の行動かは分からなかったけれど、胸にあった温もりを大切にしてあげたいと思った。
俺って……もしかして……。
ふと頭に浮かんだ言葉は、自販機近くのベンチに座っている人物を見つけた事によって、かき消された。
「先輩……?」
そう呼ばれた人物は、宗助の声を聞くと、顔をあげた。
座っていたのは、千早先輩だった。
その顔は、涙に濡れている。
「そーすけ……」
:09/06/13 01:42
:SO906i
:☆☆☆
#214 [向日葵]
宗助も、ゆっくりと先輩の横に座る。
「……っ、どうしたんですか……っ」
「彼氏と……ちょっと……」
先輩は、簡単に涙を流す人じゃない。
こんなに人目構わず泣いているということは、よほどショックな事があったか、大きなケンカをしたか……。
「道場の近くに来れば、なんか落ち着く気がしたんだけど……。なにも聞こえないからさ……」
「昨日から、明日まで休みなんですよ」
「そっか……」
:09/06/13 01:43
:SO906i
:☆☆☆
#215 [向日葵]
少し笑いながらも、先輩はまたポロポロ涙を流す。
「やっぱり、アンタの前で泣いてたせいか、アンタが近くにいると、安心して余計に泣けちゃうよ……」
そう言ったとき、宗助のポケットに入っている携帯のバイブが鳴る。
サブディスプレイを見れば、茉里からのメールだった。
返そうか迷いながら、とりあえず携帯を開く。
「宗助……」
「あ、はい」
受信ボックスを、開こうとする。
:09/06/13 01:43
:SO906i
:☆☆☆
#216 [向日葵]
「しばらく……そばにいて……」
しかし、その指は止まった。
「お願い……お願いだから……」
先輩は宗助の肩に額を乗せる。
そして指先で腕にそっと触れる。
宗助は少しためらって、やがて、携帯の電源を押した。
――――――――――…………
「あれー?」
茉里は道場の椅子に座っていた。茉里の方が、早くに着いていたのだ。
:09/06/13 01:43
:SO906i
:☆☆☆
#217 [向日葵]
到着すること20分。
宗助に現在どこにいるか聞こうとメールを送ったところだ。
「気づいてないのかなー。メール返信してくんないなー」
来るまで掃除でもしようとモップを手に取る。
その時、バイブが鳴ったので、携帯を置いてる机に飛んでくる、が、メルマガだったので、乱暴に携帯を机に投げて、掃除に取りかかる。
ひたすら待って、待って、待って……30分待った。
掃除も終えた。
なんなら棚整理も、救急箱整理も終わった。
もしかして寝坊?
:09/06/13 01:44
:SO906i
:☆☆☆
#218 [向日葵]
「しょうがないなー。モーニングコールしてあげようじゃないかー」
大きな独り言を恥ずかし気もなく言った茉里は、電話をかけてみることにした。
ブツッと音がしたので、口を開く。が。
{お客様がおかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入ってないため……}
「電源……?」
いれてないわけがないと思う。
多分電波が悪いのだろう。
「事故……じゃないよね?」
心配すれば、よからぬ事が次々に頭をよぎる。
:09/06/13 01:44
:SO906i
:☆☆☆
#219 [向日葵]
大丈夫なのかと、メールを送る。
3分待ったが、やっぱり返ってこない。
こうしちゃいれない。
駅まで行ってみよう。
行ったからといってどうなる訳でもないのに、茉里はそう思った。
鞄を持って、戸を開けようとすると、先に開けられた。
宗助かと思って、笑顔で顔を上げれば、茉里はその笑顔をすぐに引っ込めて、驚きの表情に変える。
「さ、沢口さん!」
「久しぶりだね。合宿だと聞いて、いつ帰ってきたのか知らなかったんだけど、イチかバチか来てみて良かった」
:09/06/13 01:44
:SO906i
:☆☆☆
#220 [向日葵]
「ちょ、他校に勝手にかつ簡単に入らないでください!」
「どこかの部活が練習試合で、他校が来てたから、入っても怪しまれないかなーって思って」
茉里は呆れて、思わずポカンと口を開けてしまったが、すぐに我に返る。
こんな事、してる場合じゃなかった。
「私、急いでるんです。じゃ……」
「あ、待って!」
腕を掴まれ、茉里は立ち止まる。
「この前、加賀さんを傷つけたみたいだから、謝りたくて……」
:09/06/13 01:45
:SO906i
:☆☆☆
#221 [向日葵]
「べ、別にあれは……」
半分八つ当たりみたいなもので、全部が沢口が悪いという訳じゃない。
「気に障るような事を言ったのだったら謝るから。だから、そんなに素っ気なくしないでくれるかな」
困ったように、でも申し訳なさそうに微笑む。
確かに、しつこいからと素っ気なくしてたけれど、沢口本人を見れば、別に大きな問題があるほど悪い人ではない。
むしろいい人なのだろう。
そう思えば、茉里の方が悪い気がして、茉里はシュンと肩を落とす。
:09/06/13 01:45
:SO906i
:☆☆☆
#222 [向日葵]
「いいの。あれは、少し……虫の居所が悪くて。あなたのせいじゃないから」
「そっか……良かった」
人懐っこく笑う。
その笑顔を見れば、初めのような悪い印象は無くなりつつあった。
好きにはなれない。
何故なら自分には宗助がいるから。
でも友達くらいなら考えてみなくもない。
などと考えて、茉里はハッとする。
「ごめん。私、宗助……笹部を探しに行くの。だから……」
:09/06/13 01:45
:SO906i
:☆☆☆
#223 [向日葵]
「笹部?笹部なら、さっき外で見たよ。すぐそこの自販機で」
「あ、そうなの?ありがとう!」
茉里は走って自販機の所まで行く。
良かった。なにも無かった。
あれ?でもなんで電源切ってんだろう。
その答えは、曲がり角を曲がったところで分かった。
ベンチで、宗助が先輩を抱き締めていた。
どういう状況か、分からないけれど、茉里は足を地面に縫いつけられたように動かないでいた。
先輩が顔を上げ、笑う。
宗助は座り直して、先輩がなにか言うのに、微笑みながら頷いている。
:09/06/13 01:49
:SO906i
:☆☆☆
#224 [向日葵]
なんだ……そっか……。
私からのメールで、邪魔にならないように、電源を……。
すると後ろから、沢口が追いついてきて、止まる。
「呼ばないの?」
呼びたい。
呼びたいよ……。でも、今は……。
迷っていると、先輩がこちらに気づいた。
「茉里ちゃーん!久しぶりー!」
それに驚いたように振り返る宗助は、振り返って更に驚いた。
沢口がいたからだ。
「せっかくだし、これからお昼一緒に食べに行こうよっ。沢口くんも」
:09/06/13 01:53
:SO906i
:☆☆☆
#225 [向日葵]
無邪気に笑う先輩が、今は殴ってしまいたいほど憎い。
どうして、彼氏がいるくせに、宗助に抱き締められて平然としてるの?
こんなの……まるで……。
ふと、瞼の裏に、声が漏れないように、枕に顔を押し付けて泣いていた昔の自分が映る。
……結局、宗助は自分の事を気にかけてすらいなかったんだ。
だから言ったじゃない。
自惚れたらダメって。
「わ……私、沢口くんに用があるので……失礼します……」
茉里は沢口の腕を引っ張って行ってしまう。
宗助は追いかけようとするが、すぐにやめた。
追いかける資格なんて、自分はないからだ。
そういえばと、携帯の電源を入れる。
:09/06/13 01:57
:SO906i
:☆☆☆
#226 [向日葵]
しばらくして、センターに止まっていたメールがくる。
茉里からだった。
〈宗助!事故とかにあってないよね!?〉
心配してくれたメール。
自分はそれを、邪魔かのように無視した。
宗助は自己嫌悪に陥りながら、茉里が行ってしまった方を見る。
茉里の姿は、もう見えなかった。
―――――あの時、気づくべきだった。
私が入る場所なんて、ないって事に。
:09/06/17 00:59
:SO906i
:☆☆☆
#227 [向日葵]
[7]揺れる先
宗助と、あの日以来、一緒に課題をする事はなかった。
部活の休みが終わったのもある。
でも茉里自身、宗助と2人きりになる事を避けていた。
だからミュシャに頼んで、部活帰りはいつも一緒に帰ってもらうよう頼んだ。
宗助は、一緒に帰らない事に、何も言わなかった。
「まったく……。私はいつまで有意義な夏休みを潰さなきゃいけないのかしら」
「ごめんなさい……」
:09/06/17 00:59
:SO906i
:☆☆☆
#228 [向日葵]
茶化したつもりが、思ったより茉里が落ち込むので、ミュシャは首を傾げる。
昼間の電車は、朝や夕方よりも空いているため、座れる。
ひんやりした車内は、少し肌寒い。
「無理に訊かないけど、あんまり溜め込むと、胃に穴があいちゃうわよ」
撫でてくれる細い指に、少し励まされる。
裏切られたように感じるのは間違っる。
でも、ほんの小さな、ただ課題を一緒にするっていう小さな約束は、守って欲しかった。
自分だけを、考えて欲しかった。
:09/06/17 00:59
:SO906i
:☆☆☆
#229 [向日葵]
―――――――…………
「花火大会?」
夏休みも終わりに近づいた時、沢口が校門で待っていた。
なんの用かと思えば、B5サイズの紙を渡してきた。
「良かったらどうかなーって。部活の人も誘っていいからさ」
茉里は紙を受け取りながら、少しうつむく。
「この前は……ごめんなさい……」
勝手に連れ出して、引っ張りまわして、自分の気分が少しほぐれるまで、沢口に付き合ってもらったのだ。
:09/06/17 01:00
:SO906i
:☆☆☆
#230 [向日葵]
沢口は何も言わず、ただいつものように、にこにこ笑ってついて来てくれた。
茉里は、それが嬉しかった。
沢口はそんな事気にしてないかのように微笑む。
「いいよ。こうして話してくれてるだけで、僕は嬉しいからさ」
その笑顔に、少し気が楽になり、茉里も少し微笑む。
どうして、こんな風に話さなかったか自分でも不思議なくらい、沢口はいい人だ。
「ありがとう……」
こんな勝手な自分を、責めもせず、受け止めてくれて。
:09/06/17 01:00
:SO906i
:☆☆☆
#231 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
茉里が話している間、ミュシャは暇だったので、学校の中をうろうろしていた。
茉里と帰ってる時、何回かさっきの沢口とかいう男の子に会った事があった。
物腰が柔らかくて、茉里のことを好きらしい。
茉里も、あっちにすればいいのに。
でも、1度好きになった人を、そう簡単に諦められないのが茉里なのも、ミュシャは知っている。
だから余計、茉里の今の状態が心配なのだ。
それもこれも……。
:09/06/17 01:00
:SO906i
:☆☆☆
#232 [向日葵]
「宗助!」
誰か、女の子が、宗助を呼ぶ。
それが聞こえた方を、ミュシャは見た。
宗助は、今帰るとこらしかった。
女の子は、1つ上の学年らしい。
その女の子に、宗助ははにかんでいる。
そんな宗助を見て、ミュシャはその綺麗な顔を怒りに歪ませた。
宗助の方へ歩いて行く。
あと少しで宗助に近づくとき、女の子はどこかへ行ってしまった。そして宗助はこちらに気づいた。
:09/06/17 01:01
:SO906i
:☆☆☆
#233 [向日葵]
「久瀬?帰ったんじゃなかったのか?」
「私がいつ帰ろうが帰らまいが、アンタに関係ないでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「さっきの先輩、アンタの好きな人?」
「……それこそ、関係ないだろ」
「まあね」
2人の間に、生ぬるい風が吹く。
ミュシャの柔らかそうで、少し波立っている長い髪を遊ぶかのように吹き上げる。
「人の恋愛に、どうこう言おうなんて気はない。」
:09/06/17 01:01
:SO906i
:☆☆☆
#234 [向日葵]
ミュシャの目が鋭くなり、宗助を射抜く。
宗助は少しだけピクリとする。
「本人たちの問題だし、第三者が出てきたからって何か変わるものでもないだろうからね」
「ただ」と、ミュシャは続ける。
怒りをはらんでいるだろうその蜂蜜のような色をした目が、怒りの赤い色が混じっているのではないかと宗助は感じた。
「アンタは、茉里をどうしたいの?」
宗助の表情が、風のせいで、髪が顔にかかっているから分かりにくい。
:09/06/17 01:02
:SO906i
:☆☆☆
#235 [向日葵]
「さっきの人が、アンタの好きな人なんでしょ?ならなんで、茉里の事をちゃんとフラないの?」
「……久瀬には関係ない」
「それは承知だっての。さっき言ったでしょ」
風が徐々にやむ。
宗助の目に、苦しさが滲んでいる気がした。
日差しのせいだろうか。
「茉里のこと、キープだとか思ってんの?」
「……違う」
「じゃあなに?」
そう言うと、宗助は口を閉ざしてしまった。
:09/06/17 01:02
:SO906i
:☆☆☆
#236 [向日葵]
風が徐々に止む。
宗助の目に、苦しさが滲んでいる気がしたが、それは日差しのせいだろうか。
「茉里をこれ以上悩ませないで。もしもなんかあれば、私はアンタを許さない」
それだけ言って、ミュシャは来た道を引き返していった。
残された宗助は、ただその背中を見るしか出来なかった。
自分の気持ちが、整理出来なかった……。
ミュシャが校門まで行けば、茉里だけしかいなかった。
どうやら沢口は帰ったらしい。
:09/06/23 03:42
:SO906i
:☆☆☆
#237 [向日葵]
「あ、ミュー。ゴメンネ待たせて」
「いいの。私も、ちょっとケンカ売りたい相手がいたから」
「え?ケ、ケンカ、売ったの?」
「相手が無抵抗だったから、張り合いなくて帰ってきちゃったよ」
心配そうにこちらを見る茉里に、ミュシャはそっと微笑む。
ミュシャは、茉里の家庭事情を知っている。
あの時、どうしようもなく傷ついている茉里を見て、ミュシャは茉里には幸せになってほしいと願った。
:09/06/23 03:42
:SO906i
:☆☆☆
#238 [向日葵]
自分よりも、ずっとずっと。
何があったとしても、茉里は笑顔を絶やさない。
だから、この笑顔を奪った奴は、誰だろうと許さない。
ミュシャは、そう思っていたのだった。
―――――――――…………
「夏祭りかあ……。いいねっ。皆、きいてきいて!」
次の日、茉里は沢口から誘われた夏祭りの事を、とりあえず綾香に話してみた。
「明日、夏祭りがあるんだって!行かない?皆でっ!」
:09/06/23 03:43
:SO906i
:☆☆☆
#239 [向日葵]
何人かは、予定があるとかで断ったが、ほとんどは行くと行った。
宗助も。
皆は道場の真ん中に集まって、あれやこれやと話し合っている。
皆が飲んだコップを重ねていると、宗助が静かに隣に立った。
ドキリとして、思わず手が止まってしまう。
「……宗助も、行くんだ」
「ああ」
「先輩が……来るの……?」
「なんで?」
「宗助、こういうの苦手そうだから。来るって言うとは思わなかったの」
:09/06/23 03:43
:SO906i
:☆☆☆
#240 [向日葵]
「……あの、さ……、前の事だけど」
「集合場所決まったよー」
綾香が言った。
「え、どこどこー?」
茉里はコップを置き、宗助から逃げるようにして綾香の元へと行った。
今更、言い訳なんて聞きたくなかった。
それならすぐに、あの時、訂正してほしかった。
今は何も、先輩の事は聞きたくなかった。
もう……潮時なのかな……。
諦めろって、神様が言ってるの?なら言わせてよ、宗助に。
:09/06/23 03:44
:SO906i
:☆☆☆
#241 [向日葵]
「アンタの事は、好きになれない」って。
そう言わすように、仕向けてよ。じゃないと私……。
諦められないよ……。
[そうやって、裏切られたのに、加賀が変わらず、人の愛情や優しさを信じている人になってて、俺は良かったと思う]
そうやって言ってくれた人を、どうやって嫌いになれって言うの?
――――――――…………
夏祭り当日。
校門前で待ち合わせになった。
:09/06/23 03:44
:SO906i
:☆☆☆
#242 [向日葵]
沢口もそこへ来る。
茉里は浴衣を着なかった。
着ても意味がない気がしたからだ。
課題している時、頑張った髪型を褒めてくれた宗助。
でも今回ばかりは、もう褒めてはくれない気がした。
沢口はきっと褒めてくれると思う。
でも、褒められて嬉しいだろうけれど、宗助に誉められる喜びとはまた違う。
だから、着て行かない。
「あ、茉里ちゃん!」
校門にはもう何人かいた。
:09/06/23 03:44
:SO906i
:☆☆☆
#243 [向日葵]
茉里みたいに私服の子もいたが、ほとんどは浴衣だった。
「あ、沢口さん」
振り向けば、沢口が気づいた茉里に微笑みを浮かべて歩いてきていた。
「こんばんわ」
「こんばんわ。こんな大勢になっちゃったよ」
「いいよ。僕は大勢で騒ぐの好きだし」
そうやって微笑まれれば、なんだかホッとした。
この笑顔には、癒しを感じる。
「あ、笹部くん!こっちー!」
それを聞いて、茉里はドキリとする。
:09/06/23 03:45
:SO906i
:☆☆☆
#244 [向日葵]
でも、宗助の方は向かなかった。
「さ、さあ!今日は楽しむよー」
邪念を払うように、茉里はそう告げて歩き出した。
「加賀さんは、浴衣着ないの?」
沢口が隣に並んで喋りかけてきた。
「あ、うん。なかったから」
「そっか」
歩いて行く度、人が増えて行く。気をつけないと迷子になるかもしれない。
それに周りは、夏祭りならではのものばかりで目を奪われてしまう。
:09/06/23 03:45
:SO906i
:☆☆☆
#245 [向日葵]
最初、皆が立ち止まったのは、金魚すくいだった。
茉里は皆がやっているのをジッと見ている。
沢口は器用で、何匹も取る。
その容姿で集まってきた人も感嘆の声をあげる。
沢口はすくい終えると、金魚を3匹、袋に入れて茉里に差し出す。
赤く、光の加減によって金にも見える金魚は、とても綺麗で、ついつい茉里も嬉しくなって笑う。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そんな2人を、宗助は静かに見ていた。
:09/06/23 03:45
:SO906i
:☆☆☆
#246 [向日葵]
[アンタは、茉里をどうしたいの?]
ミュシャに言われた言葉が、頭の中を何回もよぎる。
どうしたいかなんて、分からない。
ただ、傷つけたけないと思ってる。
小さな約束すら守ってやれず、傷つけた奴が何言ってんだって思われるかもしれない。
あの日、見つけ出せそうだった答えが、今、また霧の中に消えてしまった。
また見つけ出すには、また時間がかかりそうだと思った。
いや……、もしかしたら自分は、避けているのか?
:09/06/26 03:52
:SO906i
:☆☆☆
#247 [向日葵]
本当の想いから。
そんな事を考えている間に、皆がどんどん先に進んでいっとしまう。
宗助も、後に続いた。
「夏祭りと言えば、かき氷!」
後輩が言う。
「じゃあ買っちゃおうよ!」
近くの屋台に寄る。
せっかくなので、茉里も買うことにした。
かき氷を受け取ったと同時に、誰かが茉里の腕を引いた。
「しー」
沢口だった。
:09/06/26 03:53
:SO906i
:☆☆☆
#248 [向日葵]
「え、な、なに……」
「ちょっと、付き合って」
有無を言わせず、茉里は連れて行かれる。
皆と離れていく。
振り替えっても、もう姿は見えなくなってしまった。
「ゴメンネ。強引に」
川沿いに来た時、沢口がそう言った。
ここはさっきとは違い、人混みから離れている為、静かだ。
周りが静かになれば、茉里の心も静かになり、落ち着いた。
さっきはなんだか落ち着かなかった。
宗助が、いたから……。
:09/06/26 03:53
:SO906i
:☆☆☆
#249 [向日葵]
「加賀さん」
沢口がまっすぐに見つめてくる。
手に持っているかき氷が、ひどく冷たく感じる。
それは段々と麻痺を起こし、持っていると意識しなければ落としてしまいそいになる。
「もう分かってるかもしれないけど、僕は加賀さんが好きです」
茉里は恥ずかしくなってうつむく。
「あ……ありがとう」
小さな消えそうな声でそう言うのが精一杯だった。
:09/06/26 03:53
:SO906i
:☆☆☆
#250 [向日葵]
「加賀さんさえよければ、付き合ってほしいんだ」
沢口を見る。
彼はやっぱり、優しげな笑みを浮かべて茉里を見ている。
出店の明かりで照らされた彼の顔は、皆が騒ぐようにかっこいい。
茉里はぼんやりとそう思った。
神様は、もしかして、今この瞬間、諦めろと言っているのだろうか。
たしかに沢口は嫌な奴じゃない。優しく、いつも自分を気遣ってくれている。
:09/06/26 03:54
:SO906i
:☆☆☆
#251 [向日葵]
微笑まれれば、安心感に包まれる。
私は、宗助とは、結ばれないように出来ていたのかな……。
かき氷を持つ手のように、茉里の気持ちも麻痺しだす。
本当に宗助じゃなきゃ駄目だなんて、もしかすれば錯覚なのかもしれない。
それならば、沢口を選んでもいいのかもしれない……。
「わ……私……は……」
その時、携帯が鳴った。
最初、沢口も茉里も自分のだとはわからなかったが、やがて自分の鞄に手を当てると、自分だと茉里は分かった。
:09/06/26 03:54
:SO906i
:☆☆☆
#252 [向日葵]
「ご、ごめんあの……」
沢口を見ると、にこりと笑って、電話に出るよう促してくれた。
急いで、誰かも確かめずに、急いで出た。
「もしもし」
そう言ったが、向こうから返答がない。
ざわざわと受話器越しに聞こえるから、繋がっているのは確からしい。
聞こえてないのかな?
「もしもし?」
もう1度言う。
「今どこだ」
息が止まる。
:09/06/26 03:54
:SO906i
:☆☆☆
#253 [向日葵]
周りの声が、聞こえなくなる。
神経が全て、耳に集中する。
「おい、聞いてるのか」
声を出したいのに、喉の奥で詰まる。
ああ……やっぱりダメだ。
麻痺していた気持ちが、覚醒していく。
どんな事をされても、私はあなたが好きとしか考えられない。
運命じゃないからなんて決めてられない。
運命に逆らってでも、私は今、あなたしか見えないよ。
錯覚なんかじゃ、絶対ない。
「そ……すけ……っ!」
:09/06/26 03:55
:SO906i
:☆☆☆
#254 [向日葵]
思わず泣きそうになってしまう。
「どうした?なんかあったのか?」
茉里の涙声に、宗助は心配する。
「かわ……川沿い……に、いる……」
「わかった。今から行く」
そう言って、宗助は電話を切った。
茉里もゆっくりと携帯を閉じる。そして沢口を見る。
「ごめんなさいっ……。私、諦められない人がいる……。大好きな人がいる……っ」
:09/06/26 03:55
:SO906i
:☆☆☆
#255 [向日葵]
最低だ。
甘えるだけ甘えて、私は沢口くんを傷つけた。
それでも、沢口は微笑んだままだった。
少し、寂しそうだけれど。
「そう……。でも、僕も簡単には諦めないから」
「でも、あの……」
「とりあえず、今日は帰るね。加賀さんの求めてる王子様がくるみたいだから」
そう言って、沢口は川沿いを歩いて行ってしまった。
その背中を、小さくなってしまうまで、茉里は見続けた。
気が抜けてしまえば、ポロポロと涙が溢れ始めた。
:09/06/26 03:56
:SO906i
:☆☆☆
#256 [向日葵]
好きな人を思うだけで、涙が出るなんて知らなかった。
こんな気持ちになるのは、きっと、いや絶対宗助だけ。
他の誰にもなった事はない。
自分は何を弱気になってたんだろう。
見込みがないかもしれないのは、今までもそうだったじゃない。
仮彼女は、ただひたすら突き進むだけ。
そんな風にしてでも、私はあなたのそばにいたいの。
「加賀!」
出店の間から、宗助が出てくるのが見えた。
:09/06/29 04:01
:SO906i
:☆☆☆
#257 [向日葵]
宗助がこちらへ走って来る。
茉里も宗助の方へ走っていく。
そしてそのまま、茉里は宗助の胸に飛び込んだ。
そう来るとは思わなかった宗助は、飛び込んできた茉里の勢いに負けて尻餅をついた。
「いった……加賀?」
茉里は力一杯宗助にだきつく。
「泣いてるのか?」
茉里は答えない。
宗助は困るが、そっと手を伸ばし、茉里の頭を優しく撫でる。
「迷子になって、心細かったのか?もう大丈夫だから。ちゃんと、見つけたから」
その言葉に、茉里は更に涙を流す。
:09/06/29 04:01
:SO906i
:☆☆☆
#258 [向日葵]
「好き……」
涙声の茉里の声が、宗助の耳に届く。
「好き、私……宗助が好きだよ……っ」
「……うん」
「本当だよ」
「うん」
「信じて……っ」
「うん……」
信じてるよ、加賀の気持ちは。
ずっと前から。
真っ直ぐにぶつかってくる君が、俺は放っておけないんだ。
信じれないのは、霧の中に置いてきてしまった、自分の気持ちなんだ。
:09/06/29 04:01
:SO906i
:☆☆☆
#259 [向日葵]
だから今も、君のその細く震える肩を、抱いてあげる事すら、出来ないんだ。
――――――――…………
夏休みもついに終わった。
課題テストも終わり、今度は体育祭のお祭りムードが色濃くなってきた。
茉里は、また宗助と一緒に帰っている。
「体育祭、楽しみだねーっ」
「張り切りすぎて怪我しそうだよな、アンタは」
「それはー、あんまり頑張ると、怪我するから、無理しちゃ駄目だぞっ、て言ってくれてるの?」
:09/06/29 04:02
:SO906i
:☆☆☆
#260 [向日葵]
「アンタの妄想には毎度頭が下がるよ」
「違うの?」
「なにが?」
「心配、してくれてるんじゃないの?」
「好きなように取れば?」
そう言って、優しく、どこか意地悪に笑う。
最近、あの不器用な笑顔じゃなく、こんな風に自然に笑ってくれることが多くて嬉しい。
もちろん、あの不器用な笑顔だって好きだ。
でもこの頃の笑顔は、心から自分といることを楽しんでくれてる気がするから嬉しいのだ。
:09/06/29 04:02
:SO906i
:☆☆☆
#261 [向日葵]
そんな幸せも束の間。
体育祭も終わり、今度は冬の気配が色濃くなってきた頃のことだった。
その季節、茉里は知る事なる。
一途の重さと、苦しさを。
――――――――自分の諦めの悪さに、嫌気がさす。
どうして、運命を受け入れなかったんだろう……。
:09/06/29 04:02
:SO906i
:☆☆☆
#262 [向日葵]
[8]終わりの瞬間
気温は最近ついに1桁になってきた。
カイロはもちろん、マフラーは必需品。
「そーっおすーっけくーんっ。手がーさむーいんだけどなあー」
帰りの下校時間が早くなると同時に、日が暮れる時間も早くなって、辺りは真っ暗になるようになった。
当然、太陽が沈めば、また気温もグンッと下がるのだった。
手をプラプラとさせる茉里をじとっと見ながら宗助は呟く。
「……だからなに」
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#263 [向日葵]
「手っ!」
「見りゃ分かる」
「ちっがーうっ!繋ぎたいのーっ!」
「あーハイハイ」
まるでだだっ子。
しかしそんな茉里のわがままを、宗助はこの頃聞いてくれる。
普通に手を繋いだり、楽しく会話したり。
周りから見れば立派なカップルだ。
しかし未だ、茉里は仮彼女から昇格はしていない。
それでも茉里は楽しかったし、なんの不満もなかった。
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#264 [向日葵]
でもやっぱり、好きって言葉は聞きたい。
いずれ言ってくれたらいいなと思う。
こうやって、一緒に過ごせるだけでも、結構な進歩なのだから。
―――――――――…………
その日、妙に胸がざわついた。
別に自分が特別勘がいいだなんて、茉里は思った事がない。
でも悪い事というのは、意外にもよく当たるから、余計に茉里は嫌な感じがしてならなかった。
おそらく、朝からクソ親父にあったせいかもしれない。
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#265 [向日葵]
[おはよう茉里]
いつも朝は早いくせに、どうして今日だけは遅いのかと、茉里は嫌そうな顔を隠しもせずそう思った。
[そういえば、もうすぐクリスマスだけど、なにかその日予定はあるのか?]
「あってもアンタに言う訳ないでしょ」
茉里は用意を手早く済ませると、すぐに家を出た。
今日はいつも以上に寒い。
それもそのはず。雪が降っていたのだ。
そういえば、さっき少しだけ天気予報が耳に入ってきた。
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#266 [向日葵]
確か、今日は積もるんだとか。
雪合戦を宗助としたいな。
くそ親父の事を思い出すようで嫌だけど、宗助はクリスマスどうするんだろう。
一緒に過ごしてと言えば、一緒にいてくれるかな?
考えれば考えるほど、妄想が膨らんでいく。
今日訊いてみよう。
―――――――――…………
「え?覚えてないの?クリスマスの日って、確か試合があって、皆嘆いてたじゃん」
茉里は思わずムンクの叫びのように頬に手を当てて驚く。
:09/07/08 04:59
:SO906i
:☆☆☆
#267 [向日葵]
「わ……忘れてた……っ」
教室に来た宗助を、鞄を置く隙すら与えず、廊下に引っ張り出した茉里は、宗助にクリスマスの予定を訊いたとこだった。
しかし、その日は隣の市で開催される小さな大会に行くことになっていたのを、ついさっき、宗助に言われるまで忘れてたいた。
「しっかり、マネージャー……」
「そういえば、去年もあったっけ……」
「去年はクリスマスからは外れてたからな。今年は見事に」
:09/07/08 05:00
:SO906i
:☆☆☆
#268 [向日葵]
「当たっちゃったのね……」
宗助の続きを、茉里が繋げる。
茉里は心底がっかりする。
その様子を見て、宗助は眉を寄せる。
「そんなに何か楽しみにしてたのか?また部の皆でパーティーとか?」
「ちっがーう!私は宗助と過ごしたかったのっ!」
朝の廊下に高らかと茉里の声が反響する。
2回目くらいの自分の声のエコーに気づいた茉里は、ハッとして急いで口を手で塞ぐ。
廊下はひんやりとしているけれど、茉里の顔はどんどん熱くなっていく。
:09/07/08 05:00
:SO906i
:☆☆☆
#269 [向日葵]
その姿に、宗助は腕組みしながら、恥ずかしさを通り越して半ば呆れていた。
「毎日のように好きだなんだかんだ言ってたくせに、今更恥ずかしがっても意味ないだろ?」
「そ、それはそれ、これはこれな訳で……。わ、わ、私だって、恥ずかしがる事ぐらい……」
「勝手だな」
そう言っておかしそうに宗助は笑う。
「いいじゃん。結局は一緒にいるようなもんなんだから」
:09/07/08 05:00
:SO906i
:☆☆☆
#270 [向日葵]
その言葉に少し驚き、茉里はジッと宗助を見る。
「……宗助も、私と一緒にいたかったの?」
「違うっつーの」
頭をくしゃりと撫でられる。
宗助はそのまま教室に入っていってしまった。
その姿を、茉里はぼうっと見る。
こんな、温かいやりとり、初めてかもしれない。
撫でられた頭に、そっと触れる。胸がジンと、温かくなる気がした。
「なにあれ……」
:09/07/08 05:01
:SO906i
:☆☆☆
#271 [向日葵]
後ろから突然ミュシャが現れた。
その顔は、今にも口から砂を吐きそうな、うんざりした顔だった。
「なにが?」
「アイツはホントどういうつもり?私ははっきりしない男って嫌なんだけど」
その言葉に、茉里は苦笑するしかなかった。
少しでも、宗助の中の先輩に対する気持ちが、自分に向いてると嬉しい。
多分向いてくれてると信じているのは、自惚れじゃないと思うから、茉里は待つつもりだ。
:09/07/08 05:01
:SO906i
:☆☆☆
#272 [向日葵]
好きと言ってくれる、その日まで。
――――――――――…………
冬になったら、下校時間が早まるのと、気温のお陰で、お茶用ヤカンが1つに減ってくれるのが嬉しい。
「今日は試合練習?」
宗助に訊ねる。
「まだ決めてない。6時間目がホームルームだから、早く済む奴が多いだろうし、大体の人数が集まってから決める」
最近の宗助は、一段とキャプテンらしくなって、なんだか頼もしい。
:09/07/08 05:01
:SO906i
:☆☆☆
#273 [向日葵]
もともとしっかりはしていたし、誰しもが認めるキャプテンだとは思ってたけれど、それに箔がついて、より格好よく見える。
「あ」
突然、宗助が声をあげる。
「どうかした?」
「加賀、面紐の予備ってあるか?」
「切れそう?」
宗助の面を見れば、確かに紐がいたんでいた。
「探すから、取って待ってて」
救急箱の中に入ってたはずと探してみれば、予想通りやっぱりあった。
:09/07/08 05:02
:SO906i
:☆☆☆
#274 [向日葵]
はさみと紐を持って、宗助の元へと行く。
「良かった。あったあった」
「ありがとう」
慣れた手つきで、面紐をつける。
いらない面紐をジッと見て、茉里が言った。
「これ、もらっちゃダメ?」
「は?」
「いいでしょ?どうせ捨てるなら」
捨てるものだから、尚更どうしてそんなものが欲しいのかと、宗助は首を傾げる。
そんな宗助を気にもせず、鞄に入れる。
:09/07/08 05:02
:SO906i
:☆☆☆
#275 [向日葵]
「なんかさ、宗助の頑張ってきた証のものを持っておけば、自分も強くなれる気がしてさ、お守りにしたいなって、思っちゃったの」
ふわりと茉里は微笑む。
その笑顔を、宗助はジッと見つめる。
ようやく宗助に見られていると気づいた茉里は、宗助の方を見ると、パチッと音がしたんじゃないかってくらいに宗助と目があった。
いつもとは違う宗助の雰囲気に、茉里の胸はどうしようもなくドキドキした。
だんだんと、宗助の顔が近づいて来るのは、見つめすぎてる為の錯覚?
:09/07/08 05:02
:SO906i
:☆☆☆
#276 [向日葵]
それとも……宗助が……。
目を瞑る。
そうしようとした時だった。
「こんにちわー!先輩今日は試合練習ですかー?」
がらりと道場の戸が開けられた瞬間、2人はすごい勢いで離れた。
「ま、まだ決めてない……」
「じゃあ一応、旗とストップウォッチと拍子木の用意しときますねー」
「わ、わ、私、お茶用意してくる……っ」
茉里はやかんを持って、全速力で道場を出る。
その時、今来たところの綾香に当たりそうになった。
:09/07/17 01:38
:SO906i
:☆☆☆
#277 [向日葵]
「わっ!ごめんっ!」
「ま、茉里ちゃんかあ……。びっくりした……。ん?なんか顔赤いよ?大丈夫?」
そう言われて、さっき吸い込まれそうになった宗助の目を思い出す。
だんだん近づいてきて……。
宗助ってまつ毛長いんだとか、のん気に思いながら目を閉じた。
更に、茉里は顔を赤くした。
「だ、大丈夫……っ!」
また走って、ウォータークーラーまで行く。
もうなんの息切れか分からないまま、その場にへたり込む。
:09/07/17 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#278 [向日葵]
もしあのまま……なんて考えたら、顔が赤くなってるとか、そんな問題じゃくなりそうで怖い。
思い出せば、胸が苦しい。
でもこのキューッと締め付けるような感覚は嫌いじゃない。
悲しい事があった時の胸の痛みとはまた違う。
しかしいつまでも余韻に浸ってる訳にもいかないので、さっさとやかんに水を入れる。
「――――っ」
「ん?」
どこかで話し声が聞こえてきた。
きになって、辺りを見回す。
しかし他の人たちの話し声と重なったりして、なかなかどこから聞こえてくるか分からない。
:09/07/17 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#279 [向日葵]
すると、中庭に通じる道から、男の人が出てきた。
多分1つ上の人。
近くにあったベンチで話していたのかもしれない。
茉里の位置からでは、そのベンチは植え込みがあるせいで見えにくい。
だが、一緒にいただろう人物が、ベンチから立ち上がると誰だか分かった。
千早先輩だった。
後ろ姿だったから、その表情は分からなかったけれど、悲しそうな雰囲気を漂わせていた。
どうしたのだろうと、声をかけようと思い、でもと思い止まる。
どうして、ライバルの心配をしなくちゃならないのかと。
:09/07/17 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#280 [向日葵]
茉里はやかんに水を入れて、見て見ぬふりをして、その場をあとにした。
――――――――…………
結局、その日は試合練習となった。
茉里はスコアを黒板に書いたり、時計係をしたり、バタバタとしていたら、さっきの事など忘れつつあった。
「茉里ちゃーん、竹刀削りってどこにあったっけー?」
「ちょっと待ってねー」
練習も終わり、後片付けをしていた茉里が立ち上がると同時に、道場の戸が開いた。
皆が先生かと思い、一瞬ピリッとするが、その人を見た途端、皆は肩の力を抜いた。
:09/07/17 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#281 [向日葵]
「千早先輩ーっ!」
「やー、なんかここに来るのひっさびさだなー」
さっきの悲しい気配はどこへやら。
先輩はからりと笑っている。
「今日は試合しただけ?」
綾香に訊く。
「クリスマスに、毎年恒例の山の中にあるキャンパス使っての大会があるもんで」
「あの相互審判のね。あの大会変に旗が軽かったり重かったりするから嫌なんだよねー。私なんか相手場外出しても反則とられなかったんだよー?」
明るく笑う先輩は、先ほど見た悲しそうな雰囲気なんてまったくなかった。
:09/07/17 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#282 [向日葵]
あの時、声をかけなくて良かった。
やっぱりなんともないじゃないか。
「宗助」
先輩が宗助を呼ぶ。
「なんですか?」
「ちょっといい?」
そう言われて、少しためらった宗助は、茉里がいるところまで来る。
「すぐ終わるから、校門で待ってて」
待っててなんて初めて言われたから、茉里は嬉しくなる。
大きく頷いて、道場をあとにした。
――――――――…………
「先輩別れたんでしょうかね?」
後輩がポツリと言った。
:09/07/17 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#283 [向日葵]
「別れた?」
綾香が訊く。
「千早先輩カップルって、結構有名なんですよ。でこの頃ケンカと言うか、もめてる所を目撃してる人多くて。なんで、ついに別れてしまったのかなーって」
あんなに明るかったのに?
まさか。
茉里は帰る支度をしながら少し悪態づいてみる。
「でも、今日の先輩、なんだかカラ元気って感じしませんでした?目だって赤くなってた気もしますし」
そんな細かいところまできにしてられないよ。
そう思いながら、ふと思う。
:09/07/17 01:41
:SO906i
:☆☆☆
#284 [向日葵]
もし、自分が宗助を好きではなかったら、きっとこの会話に加わっているんだろうなと。
人って本当に勝手だな……。
「―――……ね?茉里ちゃん」
「えっ……。えっと、なに?」
「茉里ちゃんは笹部くんと付き合って結構になるよね?」
え。
「な、なに言って……っ!私、宗助と付き合ってないよっ!」
それを聞いて、皆一斉に「えーっ!?」と叫んだ。
「だって、毎日好きだって言ってるんでしょ?噂で聞いたよ?」
:09/07/17 01:41
:SO906i
:☆☆☆
#285 [向日葵]
「しかもこの頃めちゃくちゃ雰囲気いいじゃないですか」
そんなことを言われても、自分は正式には仮彼女だ。
未だそこから進展はない。
でも……と、今日道場であった出来事を思い出す。
あれは絶対、キスしようとしたよね?
もしかすれば、近いうちに昇格する確立が?
なら、こうしちゃいられない。
鞄を持ち、更衣室を出る。
「あー!逃げるの反則!」
皆からブーイングの嵐。
「その話はまた今度!」
茉里は走って校門まで行く。
:09/07/17 01:41
:SO906i
:☆☆☆
#286 [向日葵]
するともう宗助がいた。
「宗助、お待たせー!」
少し離れたところから声をかける。が、宗助に聞こえてないのか、反応がない。
近くに来ても、まだ反応がない。
「宗助?」
宗助の目の前で手を降りながら呼びかけると、ようやく気づいた。
「どうしたの?」
「あ、いや……別に」
「寒かった?」
宗助の頬に手を当てる。
冷たかった。
:09/07/22 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#287 [向日葵]
そんなに待たせてしまったのだろうか。
考えていると、宗助はその手をやんわりとのけて、歩き出した。
どうも様子がおかしい。
後をついて行く。
なんとなく喋れなくて、茉里も黙ったまま歩く。
さっきまで雪が降っていたので、道には雪が積もっている。
歩けば、雪独特のシンとした静寂と、さくさく雪を踏む音だけが聞こえた。
「そ、宗助っ……!」
あまりに沈黙が長く、耐えられなくなった茉里は、口を開いた。
:09/07/22 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#288 [向日葵]
宗助はこちらを向かず、ぴたりと止まった。
「手、寒いんだけど……な……」
いつもの台詞。
こう言えば、しょうがないなって顔をしながらも、宗助はちゃんと手を繋いでくれる。
しかし、今日は違った。
宗助は、やっぱり黙ったままだ。
「そ、そうす……」
「分からない」
茉里の言葉を遮るように、宗助は口を開いた。
宗助はゆっくりと茉里の方に体を向ける。
:09/07/22 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#289 [向日葵]
街灯に照らされた宗助の顔は、悲しさと苦しさが混じった、複雑な表情をしていた。
「俺は、先輩が好きだと思ってた。はっきり言って、アンタなんか、絶対好きになんかならないって……思ってた」
なんの話?
そう思っても、茉里は口を挟まず、静かに聞いていた。
「でも……最近は違う。アンタの事、考えることの方が、多くなってきた……」
これは、告白?
そう思うが、なんだか違うと思った。
告白は、こんなに緊迫したムードはない。
:09/07/22 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#290 [向日葵]
いや、あるのだけれど、何かが違う。
「正直好きなのかもしれない」
それを聞いて、茉里は息を止める。
宗助が……私を?
しかし、喜ぶのはまだ早かった。
「でも俺は、そんな俺が許せない」
え……。
「先輩の事、その程度だったのか?いや違う、でも……って、何度も自問自答する。俺は、自分の気持ちをうまく整理出来ないん。きっと俺は、アンタが満足するような答えなんて、出せないんだ……っ!先輩を諦めるなんて、絶対無理なんだ……っ!」
:09/07/22 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#291 [向日葵]
宗助は泣くのではないかと思うくらいの、しぼり出した声で、そう告げた。
そして茉里は気づいてしまった。
こんなに、宗助を苦しめているのは、自分だと。
自分が無理矢理「仮彼女にしろ」だなんて言ってしまったから、宗助は、ずっとずっと、苦しんでいたんだ。
それに気づかず、何が彼女に昇格……だ。
「アンタを、もう傷つけたくない……。気持ちに、嘘つけないんだ……っ」
宗助は嘘なんてついた事ない。
:09/07/22 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#292 [向日葵]
ずっと、一途に、先輩だけを見ていた。
むしろ嘘をついていたのは自分だ。
一途は悪い事じゃない。
そう言っておきながら、先輩に一途である宗助をずっと許せなかった。
好いてもらいたくて、綺麗事を並べた。
仮彼女制度は、ただ単に諦めるように仕向けたものだったと、今気づいた。
「……今日、先輩と、なんの話してたの?」
静かな問いかけに、宗助はハッとした。
:09/07/22 02:20
:SO906i
:☆☆☆
#293 [向日葵]
茉里は声音と同じくらい、静かな表情で宗助を見ていたが、不思議と、視線は温かかった。
「彼氏と別れたから、ちょっとそばで泣かせてくれって……。今も、多分1人で泣いてる」
それで、茉里が来た時、気づかなかったのだ。
先輩を、気にして。
「戻ってきなよ」
その言葉に、宗助は驚く。
また雪が降ってきた。
茉里はマフラーを巻き直し、手を繋ぐ為に隠していた手袋を出す。
「仮彼女は、もういいからさ。解除。これで宗助は、私に縛られる事はないよ」
:09/07/22 02:20
:SO906i
:☆☆☆
#294 [向日葵]
さらりとした言い方に、宗助は戸惑う。
「でも、今日は一緒に」
「だめ!先輩を慰めるのは、宗助の仕事でしょ!」
腰に手を当て、宗助を見上げる。
それでもまだ、宗助が迷っているので、茉里はフッと笑う。
「あのね、失恋ごときで落ち込まないから。何回もフラれた経験はあるの。自慢じゃないけどね」
茉里は宗助の横を通りすぎて、駅へと歩き出す。
「じゃ、まった明日ー!」
前を向いて歩いたまま、宗助に手をふる。
:09/07/22 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#295 [向日葵]
自分の足音とは別の足音が、だんだんと遠くなる。
少しして振り向けば、宗助が来た道を引き返していた。
その背中を見ていた茉里の目から、一筋の涙が流れる。
「……ありがとう」
重いから別れてくれと言われ続けてきた自分に、重いと1度も言わず、重いという理由で自分を選ばなかったわけじゃなかった宗助。
そんな人、初めてだったよ。
本当に茉里自身を見てくれた。
今、流れる涙が、悲しい涙じゃなく、嬉しい涙だと言い聞かす。
だって、宗助は悪くないもの。
:09/07/22 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#296 [向日葵]
悪いのは、苦しめた自分だから……。
だから……。
そう思っても、胸を締めつける痛みや、込み上げる嗚咽を止めることは出来なかった。
また、嘘をついた。
失恋ごときで落ち込まないなんて、嘘。
今、消えてしまいたいほど、辛い……。
涙が、雪のように、地面に落ちては消えていく。
クリスマスまで、あと4日の出来事だった。
:09/07/22 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#297 [向日葵]
[9]それぞれの気持ち。
明日はクリスマス。
そして今日は終業式。
ミュシャはそれはもう怒っていた。
どちらかと言えばたれ目と言える彼女の目はつり上がり、髪の毛に隠れた額にはおさらく、いや絶対青筋があるだろう。
しかしそれは、あくまで茉里にバレないように気をつけている。
「ミュー。通知表どうだった?」
茉里が無邪気に笑いかけてくる。
その目が、また赤かった。
きっとまた泣いたんだ。
:09/07/31 03:43
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#298 [向日葵]
一昨日の一連の出来事を、茉里は親友であるミュシャに話した。
ミュシャが宗助をあまり好いてないのは知っていたが、いつもより今回はミュシャに迷惑をかけたりしたので、関係ないだろうと報告しないのは何か違う気がした。
話した時、からりと不自然なくらい笑っていた茉里だが、ミュシャには何もかも分かっていた。
きっと、子供のように、大声で泣きたいほど、今辛いのだと。
茉里は元気でいるように努めているが、バレバレだったのだ。
「加賀ー。ちょっとー」
:09/07/31 03:43
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#299 [向日葵]
担任が茉里を呼ぶ。
茉里がどこかに行った隙に、ミュシャは動いた。
歩いていくその先にいるのは、決まっていた。
男子と談笑している途中、歩いてきたミュシャに気づいた宗助は、突然ネクタイを引っ張って、顔を近づけて低く声を出す。
「ちょっと来なさいよ」
そのままネクタイを引っ張って、強制的に宗助を廊下に連れ出す。
廊下に出ると同時に、投げるようにして宗助を出し、ネクタイを持っていた手を離す。
ネクタイで首が絞められていた宗助は、少し咳き込む。
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#300 [向日葵]
「なにから言ってほしい?……違うわね。なにからしてほしい?」
「……なんでもいいよ」
投げやりのような答えに、いつも冷静なミュシャはカッとなって宗助に平手をお見舞いした。
乾いた音が、廊下に小さくこだまする。
「たくさん叩けばいい」
前髪が長い宗助は、あまり表情が見えない。
しかし口元は、なにか悔しそうに歯を食いしばっていた。
「俺だって、自分が許せない……」
そんな顔、するのは反則だ。
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#301 [向日葵]
こんな顔をさせるのを、茉里は望まない。
いつだって、相手に罪悪感を抱かせないように、笑ってた。
頑張って、本当に欲しいものを我慢した。
それでめ、ミュシャの怒りがおさまるわけではない。
「自分が許せないなんて被害者ぶらないで。一番、中途半端な事をして、辛い思いをさせるだけさしたのはアンタよ!」
宗助はなにも言わない。
口を真一文字に結んで、下を向いている。
「結局、アンタは茉里を利用したのよ」
宗助の肩が、少しだけピクリと動く。
:09/07/31 03:44
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