こいごころ
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#251 [向日葵]
微笑まれれば、安心感に包まれる。
私は、宗助とは、結ばれないように出来ていたのかな……。
かき氷を持つ手のように、茉里の気持ちも麻痺しだす。
本当に宗助じゃなきゃ駄目だなんて、もしかすれば錯覚なのかもしれない。
それならば、沢口を選んでもいいのかもしれない……。
「わ……私……は……」
その時、携帯が鳴った。
最初、沢口も茉里も自分のだとはわからなかったが、やがて自分の鞄に手を当てると、自分だと茉里は分かった。
:09/06/26 03:54
:SO906i
:☆☆☆
#252 [向日葵]
「ご、ごめんあの……」
沢口を見ると、にこりと笑って、電話に出るよう促してくれた。
急いで、誰かも確かめずに、急いで出た。
「もしもし」
そう言ったが、向こうから返答がない。
ざわざわと受話器越しに聞こえるから、繋がっているのは確からしい。
聞こえてないのかな?
「もしもし?」
もう1度言う。
「今どこだ」
息が止まる。
:09/06/26 03:54
:SO906i
:☆☆☆
#253 [向日葵]
周りの声が、聞こえなくなる。
神経が全て、耳に集中する。
「おい、聞いてるのか」
声を出したいのに、喉の奥で詰まる。
ああ……やっぱりダメだ。
麻痺していた気持ちが、覚醒していく。
どんな事をされても、私はあなたが好きとしか考えられない。
運命じゃないからなんて決めてられない。
運命に逆らってでも、私は今、あなたしか見えないよ。
錯覚なんかじゃ、絶対ない。
「そ……すけ……っ!」
:09/06/26 03:55
:SO906i
:☆☆☆
#254 [向日葵]
思わず泣きそうになってしまう。
「どうした?なんかあったのか?」
茉里の涙声に、宗助は心配する。
「かわ……川沿い……に、いる……」
「わかった。今から行く」
そう言って、宗助は電話を切った。
茉里もゆっくりと携帯を閉じる。そして沢口を見る。
「ごめんなさいっ……。私、諦められない人がいる……。大好きな人がいる……っ」
:09/06/26 03:55
:SO906i
:☆☆☆
#255 [向日葵]
最低だ。
甘えるだけ甘えて、私は沢口くんを傷つけた。
それでも、沢口は微笑んだままだった。
少し、寂しそうだけれど。
「そう……。でも、僕も簡単には諦めないから」
「でも、あの……」
「とりあえず、今日は帰るね。加賀さんの求めてる王子様がくるみたいだから」
そう言って、沢口は川沿いを歩いて行ってしまった。
その背中を、小さくなってしまうまで、茉里は見続けた。
気が抜けてしまえば、ポロポロと涙が溢れ始めた。
:09/06/26 03:56
:SO906i
:☆☆☆
#256 [向日葵]
好きな人を思うだけで、涙が出るなんて知らなかった。
こんな気持ちになるのは、きっと、いや絶対宗助だけ。
他の誰にもなった事はない。
自分は何を弱気になってたんだろう。
見込みがないかもしれないのは、今までもそうだったじゃない。
仮彼女は、ただひたすら突き進むだけ。
そんな風にしてでも、私はあなたのそばにいたいの。
「加賀!」
出店の間から、宗助が出てくるのが見えた。
:09/06/29 04:01
:SO906i
:☆☆☆
#257 [向日葵]
宗助がこちらへ走って来る。
茉里も宗助の方へ走っていく。
そしてそのまま、茉里は宗助の胸に飛び込んだ。
そう来るとは思わなかった宗助は、飛び込んできた茉里の勢いに負けて尻餅をついた。
「いった……加賀?」
茉里は力一杯宗助にだきつく。
「泣いてるのか?」
茉里は答えない。
宗助は困るが、そっと手を伸ばし、茉里の頭を優しく撫でる。
「迷子になって、心細かったのか?もう大丈夫だから。ちゃんと、見つけたから」
その言葉に、茉里は更に涙を流す。
:09/06/29 04:01
:SO906i
:☆☆☆
#258 [向日葵]
「好き……」
涙声の茉里の声が、宗助の耳に届く。
「好き、私……宗助が好きだよ……っ」
「……うん」
「本当だよ」
「うん」
「信じて……っ」
「うん……」
信じてるよ、加賀の気持ちは。
ずっと前から。
真っ直ぐにぶつかってくる君が、俺は放っておけないんだ。
信じれないのは、霧の中に置いてきてしまった、自分の気持ちなんだ。
:09/06/29 04:01
:SO906i
:☆☆☆
#259 [向日葵]
だから今も、君のその細く震える肩を、抱いてあげる事すら、出来ないんだ。
――――――――…………
夏休みもついに終わった。
課題テストも終わり、今度は体育祭のお祭りムードが色濃くなってきた。
茉里は、また宗助と一緒に帰っている。
「体育祭、楽しみだねーっ」
「張り切りすぎて怪我しそうだよな、アンタは」
「それはー、あんまり頑張ると、怪我するから、無理しちゃ駄目だぞっ、て言ってくれてるの?」
:09/06/29 04:02
:SO906i
:☆☆☆
#260 [向日葵]
「アンタの妄想には毎度頭が下がるよ」
「違うの?」
「なにが?」
「心配、してくれてるんじゃないの?」
「好きなように取れば?」
そう言って、優しく、どこか意地悪に笑う。
最近、あの不器用な笑顔じゃなく、こんな風に自然に笑ってくれることが多くて嬉しい。
もちろん、あの不器用な笑顔だって好きだ。
でもこの頃の笑顔は、心から自分といることを楽しんでくれてる気がするから嬉しいのだ。
:09/06/29 04:02
:SO906i
:☆☆☆
#261 [向日葵]
そんな幸せも束の間。
体育祭も終わり、今度は冬の気配が色濃くなってきた頃のことだった。
その季節、茉里は知る事なる。
一途の重さと、苦しさを。
――――――――自分の諦めの悪さに、嫌気がさす。
どうして、運命を受け入れなかったんだろう……。
:09/06/29 04:02
:SO906i
:☆☆☆
#262 [向日葵]
[8]終わりの瞬間
気温は最近ついに1桁になってきた。
カイロはもちろん、マフラーは必需品。
「そーっおすーっけくーんっ。手がーさむーいんだけどなあー」
帰りの下校時間が早くなると同時に、日が暮れる時間も早くなって、辺りは真っ暗になるようになった。
当然、太陽が沈めば、また気温もグンッと下がるのだった。
手をプラプラとさせる茉里をじとっと見ながら宗助は呟く。
「……だからなに」
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#263 [向日葵]
「手っ!」
「見りゃ分かる」
「ちっがーうっ!繋ぎたいのーっ!」
「あーハイハイ」
まるでだだっ子。
しかしそんな茉里のわがままを、宗助はこの頃聞いてくれる。
普通に手を繋いだり、楽しく会話したり。
周りから見れば立派なカップルだ。
しかし未だ、茉里は仮彼女から昇格はしていない。
それでも茉里は楽しかったし、なんの不満もなかった。
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#264 [向日葵]
でもやっぱり、好きって言葉は聞きたい。
いずれ言ってくれたらいいなと思う。
こうやって、一緒に過ごせるだけでも、結構な進歩なのだから。
―――――――――…………
その日、妙に胸がざわついた。
別に自分が特別勘がいいだなんて、茉里は思った事がない。
でも悪い事というのは、意外にもよく当たるから、余計に茉里は嫌な感じがしてならなかった。
おそらく、朝からクソ親父にあったせいかもしれない。
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#265 [向日葵]
[おはよう茉里]
いつも朝は早いくせに、どうして今日だけは遅いのかと、茉里は嫌そうな顔を隠しもせずそう思った。
[そういえば、もうすぐクリスマスだけど、なにかその日予定はあるのか?]
「あってもアンタに言う訳ないでしょ」
茉里は用意を手早く済ませると、すぐに家を出た。
今日はいつも以上に寒い。
それもそのはず。雪が降っていたのだ。
そういえば、さっき少しだけ天気予報が耳に入ってきた。
:09/06/29 04:03
:SO906i
:☆☆☆
#266 [向日葵]
確か、今日は積もるんだとか。
雪合戦を宗助としたいな。
くそ親父の事を思い出すようで嫌だけど、宗助はクリスマスどうするんだろう。
一緒に過ごしてと言えば、一緒にいてくれるかな?
考えれば考えるほど、妄想が膨らんでいく。
今日訊いてみよう。
―――――――――…………
「え?覚えてないの?クリスマスの日って、確か試合があって、皆嘆いてたじゃん」
茉里は思わずムンクの叫びのように頬に手を当てて驚く。
:09/07/08 04:59
:SO906i
:☆☆☆
#267 [向日葵]
「わ……忘れてた……っ」
教室に来た宗助を、鞄を置く隙すら与えず、廊下に引っ張り出した茉里は、宗助にクリスマスの予定を訊いたとこだった。
しかし、その日は隣の市で開催される小さな大会に行くことになっていたのを、ついさっき、宗助に言われるまで忘れてたいた。
「しっかり、マネージャー……」
「そういえば、去年もあったっけ……」
「去年はクリスマスからは外れてたからな。今年は見事に」
:09/07/08 05:00
:SO906i
:☆☆☆
#268 [向日葵]
「当たっちゃったのね……」
宗助の続きを、茉里が繋げる。
茉里は心底がっかりする。
その様子を見て、宗助は眉を寄せる。
「そんなに何か楽しみにしてたのか?また部の皆でパーティーとか?」
「ちっがーう!私は宗助と過ごしたかったのっ!」
朝の廊下に高らかと茉里の声が反響する。
2回目くらいの自分の声のエコーに気づいた茉里は、ハッとして急いで口を手で塞ぐ。
廊下はひんやりとしているけれど、茉里の顔はどんどん熱くなっていく。
:09/07/08 05:00
:SO906i
:☆☆☆
#269 [向日葵]
その姿に、宗助は腕組みしながら、恥ずかしさを通り越して半ば呆れていた。
「毎日のように好きだなんだかんだ言ってたくせに、今更恥ずかしがっても意味ないだろ?」
「そ、それはそれ、これはこれな訳で……。わ、わ、私だって、恥ずかしがる事ぐらい……」
「勝手だな」
そう言っておかしそうに宗助は笑う。
「いいじゃん。結局は一緒にいるようなもんなんだから」
:09/07/08 05:00
:SO906i
:☆☆☆
#270 [向日葵]
その言葉に少し驚き、茉里はジッと宗助を見る。
「……宗助も、私と一緒にいたかったの?」
「違うっつーの」
頭をくしゃりと撫でられる。
宗助はそのまま教室に入っていってしまった。
その姿を、茉里はぼうっと見る。
こんな、温かいやりとり、初めてかもしれない。
撫でられた頭に、そっと触れる。胸がジンと、温かくなる気がした。
「なにあれ……」
:09/07/08 05:01
:SO906i
:☆☆☆
#271 [向日葵]
後ろから突然ミュシャが現れた。
その顔は、今にも口から砂を吐きそうな、うんざりした顔だった。
「なにが?」
「アイツはホントどういうつもり?私ははっきりしない男って嫌なんだけど」
その言葉に、茉里は苦笑するしかなかった。
少しでも、宗助の中の先輩に対する気持ちが、自分に向いてると嬉しい。
多分向いてくれてると信じているのは、自惚れじゃないと思うから、茉里は待つつもりだ。
:09/07/08 05:01
:SO906i
:☆☆☆
#272 [向日葵]
好きと言ってくれる、その日まで。
――――――――――…………
冬になったら、下校時間が早まるのと、気温のお陰で、お茶用ヤカンが1つに減ってくれるのが嬉しい。
「今日は試合練習?」
宗助に訊ねる。
「まだ決めてない。6時間目がホームルームだから、早く済む奴が多いだろうし、大体の人数が集まってから決める」
最近の宗助は、一段とキャプテンらしくなって、なんだか頼もしい。
:09/07/08 05:01
:SO906i
:☆☆☆
#273 [向日葵]
もともとしっかりはしていたし、誰しもが認めるキャプテンだとは思ってたけれど、それに箔がついて、より格好よく見える。
「あ」
突然、宗助が声をあげる。
「どうかした?」
「加賀、面紐の予備ってあるか?」
「切れそう?」
宗助の面を見れば、確かに紐がいたんでいた。
「探すから、取って待ってて」
救急箱の中に入ってたはずと探してみれば、予想通りやっぱりあった。
:09/07/08 05:02
:SO906i
:☆☆☆
#274 [向日葵]
はさみと紐を持って、宗助の元へと行く。
「良かった。あったあった」
「ありがとう」
慣れた手つきで、面紐をつける。
いらない面紐をジッと見て、茉里が言った。
「これ、もらっちゃダメ?」
「は?」
「いいでしょ?どうせ捨てるなら」
捨てるものだから、尚更どうしてそんなものが欲しいのかと、宗助は首を傾げる。
そんな宗助を気にもせず、鞄に入れる。
:09/07/08 05:02
:SO906i
:☆☆☆
#275 [向日葵]
「なんかさ、宗助の頑張ってきた証のものを持っておけば、自分も強くなれる気がしてさ、お守りにしたいなって、思っちゃったの」
ふわりと茉里は微笑む。
その笑顔を、宗助はジッと見つめる。
ようやく宗助に見られていると気づいた茉里は、宗助の方を見ると、パチッと音がしたんじゃないかってくらいに宗助と目があった。
いつもとは違う宗助の雰囲気に、茉里の胸はどうしようもなくドキドキした。
だんだんと、宗助の顔が近づいて来るのは、見つめすぎてる為の錯覚?
:09/07/08 05:02
:SO906i
:☆☆☆
#276 [向日葵]
それとも……宗助が……。
目を瞑る。
そうしようとした時だった。
「こんにちわー!先輩今日は試合練習ですかー?」
がらりと道場の戸が開けられた瞬間、2人はすごい勢いで離れた。
「ま、まだ決めてない……」
「じゃあ一応、旗とストップウォッチと拍子木の用意しときますねー」
「わ、わ、私、お茶用意してくる……っ」
茉里はやかんを持って、全速力で道場を出る。
その時、今来たところの綾香に当たりそうになった。
:09/07/17 01:38
:SO906i
:☆☆☆
#277 [向日葵]
「わっ!ごめんっ!」
「ま、茉里ちゃんかあ……。びっくりした……。ん?なんか顔赤いよ?大丈夫?」
そう言われて、さっき吸い込まれそうになった宗助の目を思い出す。
だんだん近づいてきて……。
宗助ってまつ毛長いんだとか、のん気に思いながら目を閉じた。
更に、茉里は顔を赤くした。
「だ、大丈夫……っ!」
また走って、ウォータークーラーまで行く。
もうなんの息切れか分からないまま、その場にへたり込む。
:09/07/17 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#278 [向日葵]
もしあのまま……なんて考えたら、顔が赤くなってるとか、そんな問題じゃくなりそうで怖い。
思い出せば、胸が苦しい。
でもこのキューッと締め付けるような感覚は嫌いじゃない。
悲しい事があった時の胸の痛みとはまた違う。
しかしいつまでも余韻に浸ってる訳にもいかないので、さっさとやかんに水を入れる。
「――――っ」
「ん?」
どこかで話し声が聞こえてきた。
きになって、辺りを見回す。
しかし他の人たちの話し声と重なったりして、なかなかどこから聞こえてくるか分からない。
:09/07/17 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#279 [向日葵]
すると、中庭に通じる道から、男の人が出てきた。
多分1つ上の人。
近くにあったベンチで話していたのかもしれない。
茉里の位置からでは、そのベンチは植え込みがあるせいで見えにくい。
だが、一緒にいただろう人物が、ベンチから立ち上がると誰だか分かった。
千早先輩だった。
後ろ姿だったから、その表情は分からなかったけれど、悲しそうな雰囲気を漂わせていた。
どうしたのだろうと、声をかけようと思い、でもと思い止まる。
どうして、ライバルの心配をしなくちゃならないのかと。
:09/07/17 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#280 [向日葵]
茉里はやかんに水を入れて、見て見ぬふりをして、その場をあとにした。
――――――――…………
結局、その日は試合練習となった。
茉里はスコアを黒板に書いたり、時計係をしたり、バタバタとしていたら、さっきの事など忘れつつあった。
「茉里ちゃーん、竹刀削りってどこにあったっけー?」
「ちょっと待ってねー」
練習も終わり、後片付けをしていた茉里が立ち上がると同時に、道場の戸が開いた。
皆が先生かと思い、一瞬ピリッとするが、その人を見た途端、皆は肩の力を抜いた。
:09/07/17 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#281 [向日葵]
「千早先輩ーっ!」
「やー、なんかここに来るのひっさびさだなー」
さっきの悲しい気配はどこへやら。
先輩はからりと笑っている。
「今日は試合しただけ?」
綾香に訊く。
「クリスマスに、毎年恒例の山の中にあるキャンパス使っての大会があるもんで」
「あの相互審判のね。あの大会変に旗が軽かったり重かったりするから嫌なんだよねー。私なんか相手場外出しても反則とられなかったんだよー?」
明るく笑う先輩は、先ほど見た悲しそうな雰囲気なんてまったくなかった。
:09/07/17 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#282 [向日葵]
あの時、声をかけなくて良かった。
やっぱりなんともないじゃないか。
「宗助」
先輩が宗助を呼ぶ。
「なんですか?」
「ちょっといい?」
そう言われて、少しためらった宗助は、茉里がいるところまで来る。
「すぐ終わるから、校門で待ってて」
待っててなんて初めて言われたから、茉里は嬉しくなる。
大きく頷いて、道場をあとにした。
――――――――…………
「先輩別れたんでしょうかね?」
後輩がポツリと言った。
:09/07/17 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#283 [向日葵]
「別れた?」
綾香が訊く。
「千早先輩カップルって、結構有名なんですよ。でこの頃ケンカと言うか、もめてる所を目撃してる人多くて。なんで、ついに別れてしまったのかなーって」
あんなに明るかったのに?
まさか。
茉里は帰る支度をしながら少し悪態づいてみる。
「でも、今日の先輩、なんだかカラ元気って感じしませんでした?目だって赤くなってた気もしますし」
そんな細かいところまできにしてられないよ。
そう思いながら、ふと思う。
:09/07/17 01:41
:SO906i
:☆☆☆
#284 [向日葵]
もし、自分が宗助を好きではなかったら、きっとこの会話に加わっているんだろうなと。
人って本当に勝手だな……。
「―――……ね?茉里ちゃん」
「えっ……。えっと、なに?」
「茉里ちゃんは笹部くんと付き合って結構になるよね?」
え。
「な、なに言って……っ!私、宗助と付き合ってないよっ!」
それを聞いて、皆一斉に「えーっ!?」と叫んだ。
「だって、毎日好きだって言ってるんでしょ?噂で聞いたよ?」
:09/07/17 01:41
:SO906i
:☆☆☆
#285 [向日葵]
「しかもこの頃めちゃくちゃ雰囲気いいじゃないですか」
そんなことを言われても、自分は正式には仮彼女だ。
未だそこから進展はない。
でも……と、今日道場であった出来事を思い出す。
あれは絶対、キスしようとしたよね?
もしかすれば、近いうちに昇格する確立が?
なら、こうしちゃいられない。
鞄を持ち、更衣室を出る。
「あー!逃げるの反則!」
皆からブーイングの嵐。
「その話はまた今度!」
茉里は走って校門まで行く。
:09/07/17 01:41
:SO906i
:☆☆☆
#286 [向日葵]
するともう宗助がいた。
「宗助、お待たせー!」
少し離れたところから声をかける。が、宗助に聞こえてないのか、反応がない。
近くに来ても、まだ反応がない。
「宗助?」
宗助の目の前で手を降りながら呼びかけると、ようやく気づいた。
「どうしたの?」
「あ、いや……別に」
「寒かった?」
宗助の頬に手を当てる。
冷たかった。
:09/07/22 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#287 [向日葵]
そんなに待たせてしまったのだろうか。
考えていると、宗助はその手をやんわりとのけて、歩き出した。
どうも様子がおかしい。
後をついて行く。
なんとなく喋れなくて、茉里も黙ったまま歩く。
さっきまで雪が降っていたので、道には雪が積もっている。
歩けば、雪独特のシンとした静寂と、さくさく雪を踏む音だけが聞こえた。
「そ、宗助っ……!」
あまりに沈黙が長く、耐えられなくなった茉里は、口を開いた。
:09/07/22 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#288 [向日葵]
宗助はこちらを向かず、ぴたりと止まった。
「手、寒いんだけど……な……」
いつもの台詞。
こう言えば、しょうがないなって顔をしながらも、宗助はちゃんと手を繋いでくれる。
しかし、今日は違った。
宗助は、やっぱり黙ったままだ。
「そ、そうす……」
「分からない」
茉里の言葉を遮るように、宗助は口を開いた。
宗助はゆっくりと茉里の方に体を向ける。
:09/07/22 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#289 [向日葵]
街灯に照らされた宗助の顔は、悲しさと苦しさが混じった、複雑な表情をしていた。
「俺は、先輩が好きだと思ってた。はっきり言って、アンタなんか、絶対好きになんかならないって……思ってた」
なんの話?
そう思っても、茉里は口を挟まず、静かに聞いていた。
「でも……最近は違う。アンタの事、考えることの方が、多くなってきた……」
これは、告白?
そう思うが、なんだか違うと思った。
告白は、こんなに緊迫したムードはない。
:09/07/22 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#290 [向日葵]
いや、あるのだけれど、何かが違う。
「正直好きなのかもしれない」
それを聞いて、茉里は息を止める。
宗助が……私を?
しかし、喜ぶのはまだ早かった。
「でも俺は、そんな俺が許せない」
え……。
「先輩の事、その程度だったのか?いや違う、でも……って、何度も自問自答する。俺は、自分の気持ちをうまく整理出来ないん。きっと俺は、アンタが満足するような答えなんて、出せないんだ……っ!先輩を諦めるなんて、絶対無理なんだ……っ!」
:09/07/22 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#291 [向日葵]
宗助は泣くのではないかと思うくらいの、しぼり出した声で、そう告げた。
そして茉里は気づいてしまった。
こんなに、宗助を苦しめているのは、自分だと。
自分が無理矢理「仮彼女にしろ」だなんて言ってしまったから、宗助は、ずっとずっと、苦しんでいたんだ。
それに気づかず、何が彼女に昇格……だ。
「アンタを、もう傷つけたくない……。気持ちに、嘘つけないんだ……っ」
宗助は嘘なんてついた事ない。
:09/07/22 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#292 [向日葵]
ずっと、一途に、先輩だけを見ていた。
むしろ嘘をついていたのは自分だ。
一途は悪い事じゃない。
そう言っておきながら、先輩に一途である宗助をずっと許せなかった。
好いてもらいたくて、綺麗事を並べた。
仮彼女制度は、ただ単に諦めるように仕向けたものだったと、今気づいた。
「……今日、先輩と、なんの話してたの?」
静かな問いかけに、宗助はハッとした。
:09/07/22 02:20
:SO906i
:☆☆☆
#293 [向日葵]
茉里は声音と同じくらい、静かな表情で宗助を見ていたが、不思議と、視線は温かかった。
「彼氏と別れたから、ちょっとそばで泣かせてくれって……。今も、多分1人で泣いてる」
それで、茉里が来た時、気づかなかったのだ。
先輩を、気にして。
「戻ってきなよ」
その言葉に、宗助は驚く。
また雪が降ってきた。
茉里はマフラーを巻き直し、手を繋ぐ為に隠していた手袋を出す。
「仮彼女は、もういいからさ。解除。これで宗助は、私に縛られる事はないよ」
:09/07/22 02:20
:SO906i
:☆☆☆
#294 [向日葵]
さらりとした言い方に、宗助は戸惑う。
「でも、今日は一緒に」
「だめ!先輩を慰めるのは、宗助の仕事でしょ!」
腰に手を当て、宗助を見上げる。
それでもまだ、宗助が迷っているので、茉里はフッと笑う。
「あのね、失恋ごときで落ち込まないから。何回もフラれた経験はあるの。自慢じゃないけどね」
茉里は宗助の横を通りすぎて、駅へと歩き出す。
「じゃ、まった明日ー!」
前を向いて歩いたまま、宗助に手をふる。
:09/07/22 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#295 [向日葵]
自分の足音とは別の足音が、だんだんと遠くなる。
少しして振り向けば、宗助が来た道を引き返していた。
その背中を見ていた茉里の目から、一筋の涙が流れる。
「……ありがとう」
重いから別れてくれと言われ続けてきた自分に、重いと1度も言わず、重いという理由で自分を選ばなかったわけじゃなかった宗助。
そんな人、初めてだったよ。
本当に茉里自身を見てくれた。
今、流れる涙が、悲しい涙じゃなく、嬉しい涙だと言い聞かす。
だって、宗助は悪くないもの。
:09/07/22 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#296 [向日葵]
悪いのは、苦しめた自分だから……。
だから……。
そう思っても、胸を締めつける痛みや、込み上げる嗚咽を止めることは出来なかった。
また、嘘をついた。
失恋ごときで落ち込まないなんて、嘘。
今、消えてしまいたいほど、辛い……。
涙が、雪のように、地面に落ちては消えていく。
クリスマスまで、あと4日の出来事だった。
:09/07/22 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#297 [向日葵]
[9]それぞれの気持ち。
明日はクリスマス。
そして今日は終業式。
ミュシャはそれはもう怒っていた。
どちらかと言えばたれ目と言える彼女の目はつり上がり、髪の毛に隠れた額にはおさらく、いや絶対青筋があるだろう。
しかしそれは、あくまで茉里にバレないように気をつけている。
「ミュー。通知表どうだった?」
茉里が無邪気に笑いかけてくる。
その目が、また赤かった。
きっとまた泣いたんだ。
:09/07/31 03:43
:SO906i
:☆☆☆
#298 [向日葵]
一昨日の一連の出来事を、茉里は親友であるミュシャに話した。
ミュシャが宗助をあまり好いてないのは知っていたが、いつもより今回はミュシャに迷惑をかけたりしたので、関係ないだろうと報告しないのは何か違う気がした。
話した時、からりと不自然なくらい笑っていた茉里だが、ミュシャには何もかも分かっていた。
きっと、子供のように、大声で泣きたいほど、今辛いのだと。
茉里は元気でいるように努めているが、バレバレだったのだ。
「加賀ー。ちょっとー」
:09/07/31 03:43
:SO906i
:☆☆☆
#299 [向日葵]
担任が茉里を呼ぶ。
茉里がどこかに行った隙に、ミュシャは動いた。
歩いていくその先にいるのは、決まっていた。
男子と談笑している途中、歩いてきたミュシャに気づいた宗助は、突然ネクタイを引っ張って、顔を近づけて低く声を出す。
「ちょっと来なさいよ」
そのままネクタイを引っ張って、強制的に宗助を廊下に連れ出す。
廊下に出ると同時に、投げるようにして宗助を出し、ネクタイを持っていた手を離す。
ネクタイで首が絞められていた宗助は、少し咳き込む。
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#300 [向日葵]
「なにから言ってほしい?……違うわね。なにからしてほしい?」
「……なんでもいいよ」
投げやりのような答えに、いつも冷静なミュシャはカッとなって宗助に平手をお見舞いした。
乾いた音が、廊下に小さくこだまする。
「たくさん叩けばいい」
前髪が長い宗助は、あまり表情が見えない。
しかし口元は、なにか悔しそうに歯を食いしばっていた。
「俺だって、自分が許せない……」
そんな顔、するのは反則だ。
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