こいごころ
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#521 [向日葵]
「クソ親父のことは……前話したよね?」
なんの前触れもなく、茉里が言った。
それでも宗助は、何も気にしていないかのように返事をした。
「ああ」
「私、何回も裏切られるうちに、心を黒い霧みたいなのに覆われていったの」
許せない。
裏切り者。
どうして。
何故。
いくつもの疑問や罵倒を頭の中で思う度、真っ黒になっていった。
その時は、そんな自分がひどい事を言っても許されると勝手に思い込んでいた。
「私ね、アイツに言ってしまったことがあるの。それは絶対言っちゃいけないこと」
:10/07/28 01:04
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#522 [向日葵]
「なんて言った?」
「お前なんか死んじゃえって」
茉里は無表情で、遠くを見つめるように言った。
「言ってから、ひどく嫌な気持ちになった。裏切られて、自分の心がこんなにも真っ黒になってたんだって思うと、私こそ、死んじゃえばって思えたわ」
だから、なおさら怖い。
しかも、最悪なことが起きた。
「言葉は言霊だってよく言うじゃない?あれ本当よ。その次の日、夜帰ってこようとしたアイツが、事故にあって、死にかけたのよ」
心臓の音がやけに早く聴こえた気がした。
血の気が引く音さえわかった。
無我夢中で病院まで行った茉里が見たのは、赤く光ったランプと、ソファで座る若い女性だった。
「でもアイツ……、その時すら浮気してたのよ……っ!その女と、今から……っ。――――っ!」
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#523 [向日葵]
言葉が出なかった。
出そうとしていた言葉を飲み込み、代わりに息を吐き出す。
しかし宗助はわかっていた。
きっと、茉里の父は、その女性と、夜の一時を過ごす気だったんだ。
「……また黒い影が迫ってきた。それを必死に抑えたわ。もう、こんな嫌な気分と、惨めな思いになりたくなかったから……」
茉里は下を向いて、ぎゅっと目を閉じた。
その顔は、必死にあの時の感情を飲み込もうとするような、苦悶に満ちた表情だった。
手は宗助から放れ、まるで誰かを殴るのを止めるように、強く組み合わされていた。
:10/07/28 01:05
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#524 [向日葵]
「……もしいつか、宗助に同じことを言ったら、私は前以上に自分を許せない。宗助だけじゃない、ミュシャや、華名ちゃんにだって……。本当にそれが現実になったら、私はきっと…………」
大好きな人達が、裏切り1つで死ねばいいと思えるほどになる自分が怖かった。
なんて自分勝手な感情だろうか。
ずっとずっと大好きでいたいのに、またいつか……。
「あんな思い……もうしたくないのに……」
声がかすれだす。
こんな事言ったら絶対重いって思われる。
いくら何も思わない宗助でも、絶対思う、
でも言わずにはいられなかった。
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#525 [向日葵]
離れないでと、思ってしまったから。
宗助が、組み合わせている茉里の手に、優しく触れる。
「じゃあ、もう別れたいって、思うの?」
「……そうじゃ……」
「うん。そうだよな。でも……そうやって、不安にさせるのは、栞じゃなく、俺のせいだよな」
「ちが……っ」
「前まであれだけ先輩を追い回して、何回もアンタを傷つけたくせに、急にアンタを好きだって言うし。交際経験がないから色々上手く出来ないし」
「違うの……!宗助は悪くないの!私が……っ」
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#526 [向日葵]
「茉里」
急に、宗助が名前を呼ぶものだから、驚いて宗助の方へ振り向く。
温かさが唇にともる。
控えめに押しつけるように重なっているのは、宗助の唇だった。
一瞬だけ触れて、すぐ離れる。
「どうやったら、アンタをその不安から救い出せる?俺だって、アンタから離れたくないんだ。もう、あのクリスマス前みたいに、傷つけたくなんかないんだ」
宗助は、重いとは言わない。
その思いすべて受け止めて、茉里を認めてくれる。
だから、茉里は甘えてしまう。
「もっと……キスして……」
どちらからともなく唇を寄せる。
:10/07/28 01:06
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#527 [向日葵]
繋がれた手を、お互いに強く、しかし優しく握る。
ぎこちなく触れる唇がいとおしい。
心がとかされていく。
黒い闇が、なくなっていく。
またあなたを好きになる。
好きで好きで、大好きになって、それから……。
ううん、この言葉を使うのは、きっとまだ早い。
まだ、その言葉の意味を知ってはいない。
だからいつか言わせて。
そして言って欲しい。
あなたを、愛してます。
:10/07/28 01:07
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#528 [向日葵]
[14]ヒロイン
いつだって、漫画の主人公は幸せになる。
お伽話さえも。
だから、主人公なんか、大嫌いなんだ。
―――――――――…………
1年生のある教室が騒がしい。
ざわざわと声が飛び交うなか、チョークが黒板をかする音がきこえる。
その黒板には、栞の名前が書かれていた。
:10/08/13 19:59
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#529 [向日葵]
冬休みがあけ、栞は茉里たちの学校へと転校してきた。
我ながら周りをコントロールする力には長けていると思っているので、とくに媚びをうってまで友達は作ろうだなんて思ってないし、作る前に寄ってくることはわかっている。
ただ、宗助とは別々なのが嫌だ。
そんな不満を、あの2人にぶつけてみた。
今頃騒いでいるのだろうと思えば、少しだけ胸がすく気がした。
―――――――…………
「しんっじらんなあーい!」
一方、こちらは茉里たちのクラス。
:10/08/13 19:59
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#530 [向日葵]
いつもどおりの毎日がまた始まると思いきや、なにやら事件が勃発していた。
「何事……?」
茉里よりも少し遅れて登校してきたミュシャが、馴染みのバカップルを見て呟く。
その顔には、「朝からうっとうしい」と書かれているように見える。
ミュシャに気づいた茉里は、持っていた漫画らしい本を宗助に投げつけると、駆け寄ってミュシャに抱き着いた。
「ミュー!宗助ったら私というものがありながらねー!」
:10/08/13 19:59
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