こいごころ
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#61 [向日葵]
「私は大丈夫だよ」
宗助がいるし。
―――――――――…………
「ってわけで、今日も護衛お願いしますっ!」
その日、やっぱり千早先輩は休みだった。
宗助はまた元気をなくしていたけれど、茉里は一緒に帰れる事が楽しみで仕方がなかった。
「……護衛って……」
「間違ってる?姫を助けてね、王子様っ」
「とんだじゃじゃ馬姫だな……」
「なんて今」
「別に?」
:09/04/19 01:52
:SO906i
:☆☆☆
#62 [向日葵]
背を向けながら、クスリと笑っているのを見逃さなかった。
それを見れば、茉里の心も躍る。
この時間だけは、2人の特別な時間。だから誰にも邪魔されたくない。
そう思っていた矢先だった。
「千早先輩!」
次の日の放課後、千早先輩が来た。
女子部員は皆して声をあげる。
「ごめんね休みがちで。今日から復帰するからさっ」
ニカッと笑う。元気そうで何よりだ。
:09/04/19 01:52
:SO906i
:☆☆☆
#63 [向日葵]
でも、1番に喜んでいるのは……。
茉里は宗助を見る。
興味が無いように道着に着替え始めているけど分かる。
その背中は、うきうきしている。
分かりやすいんだから……。
宗助が楽しければいい。嬉しければいい。
それなのに……悲しくなるのは何故だろう……。
―――――――――…………
練習が終わる少し前、雨が降ってきた。
折りたたみ傘持ってきてて良かった……。
「雨降ってんじゃーんっ!」
:09/04/19 01:53
:SO906i
:☆☆☆
#64 [向日葵]
千早先輩が叫ぶ。
「どうしたんです先輩」
話しかけたのは、宗助だ。
「傘忘れてたんだよねー……。ま、いっか」
「何言ってんですか。病み上がりのくせして」
茉里は聞き耳をたてながらも、窓を1年生と共に閉めまわる。
窓の鍵を、かけた時だった。
「俺の傘に入ってください」
茉里は鍵に手をかけたまま静止する。
「いいの?わっるいねー。じゃあ待っててね」
先輩は出ていった。
私はゆっくりと立ち上がり、皆が飲んでしまったコップを洗面台で洗う。
:09/04/19 01:53
:SO906i
:☆☆☆
#65 [向日葵]
スポンジに洗剤をつけた時、宗助がすぐ近くに立った。
「あの……今日、千早先輩と帰るから……」
スポンジを握りしめる。
帰りの、あの瞬間、隣にいていいのは……私だけのはずだったのに……。
「そうなの?丁度良かった!」
茉里はわざと明るい声を出して、宗助の方を見る。
宗助は、なんだか驚いていた。
「今日ね、先生から、帰り買い出し行ってくれって頼まれてたんだ!だからさ、今日は1人で帰るって言おうと思って!」
「……そっか。……気をつけてな」
:09/04/19 01:54
:SO906i
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#66 [向日葵]
そう言うと、宗助は着替える為に行ってしまった。
それだけなんだ……。
先輩には、病み上がりだからって心配してたくせに……。
コップを磨く手に、力が入ってしまう。
涙がながれないように、必死に歯を食いしばった。
――――――――――…………
ウォータークーラーの前に、茉里は身をかくしていた。
駅でばったり会うなんて嫌だし、デパートに行って、もしも先輩が寄りたいって言って会うのも嫌だから、ここでしばらく時間を潰すことにした。
様子をうかがえば、宗助と先輩が相合い傘をして帰るところだった。
:09/04/19 01:54
:SO906i
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#67 [向日葵]
宗助の歩き方に、緊張で力が入っているのが分かった。
きっと、先輩は気がついていない。
自分だけ。自分だけが分かる。
分かっているのに……。
どうして敵わないんだろう。
にじむ視界。
泣きたくなんかない。
自分が望んだ結果なら、尚更。
仮彼女でいいと自分で言ったのだから、それを貫き通す。
たとえ、それが不毛であると、言われたって……。
しばらくぼんやりとして過ごした。
雨足が、少し増した。
折りたたみ傘で間に合うかちょっと心配だ。
:09/04/22 03:01
:SO906i
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#68 [向日葵]
それでも、帰らなければ……。
茉里は立ち上がる。
雨の音が、より自分を惨めだと表している気がした。
今日は近道して帰ろう。
今時分なら、まだそんなにも暗くないし、変質者だって出ないだろうし。
いざとなれば傘を武器にする事だって考えている。
とぼとぼと歩いていく。
高架下に差し掛かった時、ぞくりと嫌な感じがした。
空はまだ暗くはない筈なのに、ここだけが異様に暗く、不気味な気がした。
「……大丈夫……大丈夫……」
まるで呪文のように呟く。
:09/04/22 03:02
:SO906i
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#69 [向日葵]
駅が見えてきた。
茉里は安堵の息を吐く。
もう大丈夫。
大体、変質者がそう毎日出るわけ……。
「お嬢さん、1人……」
びくりと、足が止まる。
どうして……?
私の馬鹿っ!止まらなくていいじゃない……っ!
早く、進んで……っ!
そう念じても、足は言うことをきいてくれない。
「服、濡れちゃってるね……。おじさんも濡れちゃったんだ……。あっちで、一緒に乾かそうか……」
目深にかぶったキャップから、口元が見える。
:09/04/22 03:02
:SO906i
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#70 [向日葵]
その口が、奇妙にニヤリと曲がった時、茉里は思わず「ひっ」と声を漏らす。
「さあ、おいで……」
汗で粘着質になった手で、茉里の腕を掴む。
気持ち悪い……っ!
「や……っ!放してっ!」
持っていた傘を振りかぶり、思いきり変質者目掛けて殴る。
しかし、開いたままだったので、大したダメージにはならなかった。
キャップの鍔で影になった目が、妖しく光る。
変質者はまたニヤリと笑みを浮かべる。
:09/04/22 03:03
:SO906i
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