こいごころ
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#617 [向日葵]
宗助は安心させるように薄く微笑む。
安心……?
その時、宗助は思った。
茉里は、恐がっているのではないかと。
「…………わかった」
ほとんどきこえないくらいだったが、茉里は納得したようだった。
宗助が引っ張るようにして、茉里の父が開けた後部座席へと行く。
茉里は、恐がっているのかもしれない。
茉里は本当はもう、父を許したいと思ってるのではないだろうか。
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#618 [向日葵]
憎しみや、嫌悪が消えたわけじゃない。
でも、それでも少し、歩み寄ってみようと思ってるのかもしれない。
ただ、彼女の中に引っかかるのは、“また裏切られてしまったらどうしよう”という思いだ。
バタンとドアが閉まった瞬間、茉里の手にグッと力が入った。
力のせいか、それとも他のことか、少し震えている。
暗い車内に入る光を頼りに茉里を見れば何かと戦っているのか、眉間にしわを寄せて、口を食いしばって目を瞑っていた。
:11/02/05 23:51
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#619 [向日葵]
かける言葉がみつからないから、宗助は手を握りかえした。
―――――――………………
「中学校から剣道を……。段は今はどれくらいかな?」
「まだ2段です。もう少ししたらまた昇段試験があるんで、それを受けようかと」
車内では、他愛のない会話をしていた。
茉里の父はゆったりとした話し方をするので、簡単に気を許してしまいそうになるが、そうするのは躊躇った。
茉里は先程よりは顔に険しさはなくなったが、相変わらず眉間にしわをよせて、過ぎ行く街並みを見つめていた。
:11/02/05 23:51
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#620 [向日葵]
「茉里とは、付き合ってどれくらいに?」
「1ヶ月ほどです。友達からの付き合いを足すと、1年の頃からになります」
「茉里は嫉妬深いだろ。母親似でね」
「……よく言う」
いつもの茉里の声からは考えられないぐらいの低い声がした。
嘲笑のようなものを浮かべて、茉里はまだ街並みを見ている。
この話題はきっとまずい。
「妹がいて、よく遊んでもらってます」
話をさりげなく変えてみる。
:11/02/05 23:52
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#621 [向日葵]
「妹がいるのかー。茉里も妹がほしかったか?」
「いらない。妹も私みたいにしたいの?」
気まずい空気が、車内を包む。
溝を埋めるつもりが、深さはそのままに距離がどんどん出来てるように思う。
「嫌われてるだろう、私は」
ハハハと父は笑う。
平気なんだろうか。
そうですね、なんて言えないので、宗助は苦笑いを浮かべる。
茉里をちらりと見た。
茉里の目に、涙がたまっているのがうっすらとわかる。
きっと、何か思い出したのだろう。
:11/02/05 23:52
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#622 [向日葵]
やっぱり、乗るべきではなかったか?
抱きしめてやりたいけれど、それが出来ないから、指と指が組むようにして、手を繋いだ。
いくら繋いでいても、茉里の手が暖かくならなかった。
ごめん、俺の勝手な思いで……。泣かせるつもりなんてなかった。
ただ茉里が、これまでよりも、もっと晴れ晴れ笑えるようになったらって思ったんだ。
:11/02/05 23:53
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#623 [向日葵]
――――――――………………
「私は宗助くんを送っていく。茉里は家に入りなさい」
茉里の家まで帰ってきた宗助は、心配そうに茉里をみる。
茉里は無言で宗助と手を繋いだまま外へ出た。
父親が見てる前でも構わない。
後ろ手にドアを閉めた宗助は、すぐに茉里を引っ張り、力いっぱい抱きしめた。
茉里も、宗助の胸に顔を埋める。
しばらくそうしてたが、茉里の方から離れた。
:11/02/12 23:21
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#624 [向日葵]
「大丈夫よ宗助。私も、強くならなきゃ。この前だって、元気もらったし、ねっ」
鼻を赤くして、茉里は微笑む。
そんな彼女がいとおしくて、宗助はまたギュッと抱きしめた。
そしてまた車へ乗り込んだ。
車が発進して後ろを見たら、茉里がまた立っていた。
きっと車が見えなくなるまで見送るのだろう。
宗助は前を向く。
ふとルームミラーを見ると、父と目があった。
柔らかく微笑む父に、宗助は複雑な思いを抱く。
:11/02/12 23:21
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#625 [向日葵]
「お訊き……したいことがあります」
「うん。なんでも言ってくれ」
「茉里さんから、貴方のことを色々ときいたことがあります」
ゆるやかなカーブだが、宗助は油断していたのでよろける。
父は宗助の続きを待っているのか、黙ったままだ。
「浮気…………なさっていたんですか。……本当に」
父は黙ったままだ。
急にハンドルをきられて、また宗助はよろける。
車がしばらくしてとまり、着いたのはどこかのお店だった。
:11/02/12 23:22
:SH05A3
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#626 [向日葵]
「少し、お茶でもしていこう」
柔らかなのに、有無を言わせない雰囲気に、宗助は父のあとを着いていくしかなかった。
そこはファミレスではなく、年季がはいった、けれど落ち着いた温かな雰囲気の喫茶店だった。
ドアを開けると、カランコロンとどこか懐かしい音を奏でる。
数人しかいない喫茶店の店主は、白髪頭とふさふさしたひげをつけた、穏やかそうな人だった。
カウンターのそばに、いくつかのポットがあり、湯気がたっている。
:11/02/12 23:23
:SH05A3
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