こいごころ
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#651 [向日葵]
な……なにを……言ってるの……?
「僕のことは嫌いかな?」
「お話してるぐらいなら……別に。こんなことされるのが嫌いなんです」
「そう……。でもこうしなきゃ、いつまでも君が捕まらない気がする」
「私は鳥かなにかですか。鑑賞したいのなら美術品に価値を見出だしてはいかが?私は価値などないの。こんなことされるのは、不愉快だわ!」
裕之の手をたたき落として、馨はその檻から脱走する。
もういつでも逃げられやすいように、棚と棚との間の通路へと出る。
:11/03/26 22:11
:SH05A3
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#652 [向日葵]
周りを注意深く見て、だれもいないかを見る。
じゃないと本を選ぶ場所にいて、棚ではなく通路で突っ立って怒っている自分が、なんだか浮いてて、見られたら変な子だと思われそうだったからだ。
「きっとすぐに気づきますよ。私じゃなくてもいいことに」
「気づくことがないから君がいいと言ってるんだよ」
もうやめて……っ!
馨は、思わず逃げだした。
いてもたってもいられなかった。
:11/03/26 22:12
:SH05A3
:☆☆☆
#653 [向日葵]
馨は実は、裕之が好きだった。
馨も一目惚れだった。
入学時、校内で迷った馨を案内してくれたのが裕之だった。
初めてだった、こんなに素敵な人を見るのは。
しかし入学してから知るのだった。
裕之は女の子なら誰でも好きなことに。
そんな人の、特別になりたいだなんて、無理にきまっている。
裕之はああ言ってくれているが、絶対に信じてはいけない。
信じてはこちらが痛い目にあうのだ。
:11/03/26 22:12
:SH05A3
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#654 [向日葵]
そうやって泣いている子を、何人、何十人と、見てきたから。
本当は、もうあのやさしい檻に閉じ込められたままでよかった。
その考えに、このまま委ねてしまおうとして、ハッと気づいた。
傷つくのはこわい、と。
真剣な彼の目が、心臓の音を早めて苦しかった。
どれくらい走ったかは知らないけれど、いつか彼と座った木陰のベンチを見つける。
ゆっくりと近づき、ゆっくりと腰をおろす。
:11/03/26 22:12
:SH05A3
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#655 [向日葵]
傷つきたくないから恋をしないだなんて……。
「私は臆病なのかしら……」
傷ついて、ひとつ成長するのも恋だと思う。
それでも、自分は傷つく勇気なんてない。
「きっとあの人も、そこまで私を好きじゃないでしょうしね」
「そんなことないよ」
頭の上からふってきた声に、馨は驚いて振り向く。
:11/03/26 22:13
:SH05A3
:☆☆☆
#656 [向日葵]
自分は走ってここまで来たというのに、後ろにいた裕之はまるで最初からいたかのように、先程と変わらない、涼しい顔をしてそこにいた。
そして少し汗ばんだ馨の頬に手を触れる。
「もうずっと、君に夢中なんだ。君しか考えられない。それぐらい、君を想ってる。こう言っても、まだ信じてくれない?」
美貌が近くにあれば、それだけで顔が熱くなるのに、更に強く、情熱的な言葉が出てくるものだから、馨はもう顔を熱くするどころか固まってしまった。
:11/03/26 22:13
:SH05A3
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#657 [向日葵]
「もう逃げないで。君を絶対に悲しませたりしない。だから僕を、受け入れてくれ」
真剣な目が、声が、言葉が、全てが馨に突き刺さって、思ってることすら口に出来ない。
わずかに動く目が、彼を避けるように泳ぐ。
「言葉に出来ないっていうなら、態度でしめして。今から君にキスをする。嫌なら今すぐに逃げて」
キ……キス……!?
更に馨は固まる。
しかし固まってる場合じゃない。
今は周りに人影がないといえ、いつ通るかわからない。
こんなとこ見られたら友人にどう言えば……っ。
とほんの数秒のうちに考え、馨はあれ?と思う。
:11/03/26 22:14
:SH05A3
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#658 [向日葵]
私……逃げることを考えてない……。
そう思った瞬間、柔らかなものが、唇におしつけられる。
ああ……、私もう、自分でもわからないうちに、覚悟を決めてたんだわ。
傷ついてもいい。
この人の気持ちに答えたい。
そして自分の気持ちを伝えたい。
どれくらい長い間キスをしていただろう。
離れてはまたしてを繰り返して、馨は息が少し荒くなっていた。
そんなキスをしたのは初めてだったから、恥ずかしくて困った顔になりながら、ちらりと裕之を見ると、今までに見たことがないくらい、眩しく、美しい笑顔で、馨を見つめていた。
:11/03/26 22:14
:SH05A3
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#659 [向日葵]
ーーーーーーー…………
話ながら茉里の父、裕之は、一口二口、コーヒーを飲んでいた。
宗助は手付かずのまま、裕之の話をきいていたので、きっともうコーヒーは冷めてしまっているだろう。
懐かしそうに笑う裕之は、コーヒーにうつる自分に微笑む。
「話をきかせて頂くと……、随分と奥さんに夢中みたいにきこえますが……」
宗助は眉を寄せて、まるで難解をつきつけられたような表情をする。
:11/03/26 22:14
:SH05A3
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#660 [向日葵]
そう言われて、裕之は寂しそうに笑った。
持っていたカップをかたりとソーサーに戻し、足を組みかえ、下を向いて静かに目を閉じる。
そう、夢中だった。
馨さえいれば良かった。
茉里さえいれば良かった。
2人がいり家があれば、それだけで幸せだったんだ。
なのに……。
自分でも許せない。
後悔してもしきれない。
いっそ殺してほしいぐらいに苦しい。
馬鹿だ。
馬鹿だったんだ。
:11/04/02 22:50
:SH05A3
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