こいごころ
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#657 [向日葵]
「もう逃げないで。君を絶対に悲しませたりしない。だから僕を、受け入れてくれ」
真剣な目が、声が、言葉が、全てが馨に突き刺さって、思ってることすら口に出来ない。
わずかに動く目が、彼を避けるように泳ぐ。
「言葉に出来ないっていうなら、態度でしめして。今から君にキスをする。嫌なら今すぐに逃げて」
キ……キス……!?
更に馨は固まる。
しかし固まってる場合じゃない。
今は周りに人影がないといえ、いつ通るかわからない。
こんなとこ見られたら友人にどう言えば……っ。
とほんの数秒のうちに考え、馨はあれ?と思う。
:11/03/26 22:14
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#658 [向日葵]
私……逃げることを考えてない……。
そう思った瞬間、柔らかなものが、唇におしつけられる。
ああ……、私もう、自分でもわからないうちに、覚悟を決めてたんだわ。
傷ついてもいい。
この人の気持ちに答えたい。
そして自分の気持ちを伝えたい。
どれくらい長い間キスをしていただろう。
離れてはまたしてを繰り返して、馨は息が少し荒くなっていた。
そんなキスをしたのは初めてだったから、恥ずかしくて困った顔になりながら、ちらりと裕之を見ると、今までに見たことがないくらい、眩しく、美しい笑顔で、馨を見つめていた。
:11/03/26 22:14
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#659 [向日葵]
ーーーーーーー…………
話ながら茉里の父、裕之は、一口二口、コーヒーを飲んでいた。
宗助は手付かずのまま、裕之の話をきいていたので、きっともうコーヒーは冷めてしまっているだろう。
懐かしそうに笑う裕之は、コーヒーにうつる自分に微笑む。
「話をきかせて頂くと……、随分と奥さんに夢中みたいにきこえますが……」
宗助は眉を寄せて、まるで難解をつきつけられたような表情をする。
:11/03/26 22:14
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#660 [向日葵]
そう言われて、裕之は寂しそうに笑った。
持っていたカップをかたりとソーサーに戻し、足を組みかえ、下を向いて静かに目を閉じる。
そう、夢中だった。
馨さえいれば良かった。
茉里さえいれば良かった。
2人がいり家があれば、それだけで幸せだったんだ。
なのに……。
自分でも許せない。
後悔してもしきれない。
いっそ殺してほしいぐらいに苦しい。
馬鹿だ。
馬鹿だったんだ。
:11/04/02 22:50
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#661 [向日葵]
[17]上げることの出来ない頭
帰ってこない……。
茉里はリビングで全身に力を入れて座っていた。
なにをしてるの?
宗助になにをしてるの?
関わらないでよ。
私の大切な人に、関わらないでよ……っ!
ことりと音がしたかと思い、いつの間にかかたく閉じていた目を開く。
目の前に、白く少し大きめのカップに、ココアが入っていた。
甘い匂いに、体の力が緩む。
:11/04/02 22:51
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#662 [向日葵]
「色々考えすぎると、可愛い顔に変なシワが入るわよ」
からかうように笑う母、馨は、茉里から見ても美人の類に入る人だと思う。
そんな母なら、他にいい人なんてたくさんいるはずなのに、どうして父にこだわるのだろう。
「今年で結婚何年目になる?」
「3月でー……17?18?それぐらいね。あら?19だったかしら?」
「まあ約20年ね……。」
:11/04/02 22:51
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#663 [向日葵]
少しだけとろみがついたココアに口をつける。
甘い味が口の中をいっぱいにする。
「アイツのなにがよかったの?」
「もう……。いい加減お父さんって呼びなさいよ。お父さん茉里にどう接したらいいかわからなくてオロオロしてるわよ」
「自業自得じゃない。私やお母さんがどんな思いしたかわかってんの?」
馨は苦笑いして、茉里の頭をふわりと撫でた。
茉里をなだめる為に撫でたのだが、茉里はなんだか叱られてる気分になって、肩を落とす。
:11/04/02 22:52
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#664 [向日葵]
そんな茉里を見ながら、馨は昔を思い出した。
ーーーーーーーー…………
大学を卒業した裕之は、有名ではないが社名を言えばみんなが「ああ……アレね」というぐらいのところへ就職出来た。
馨はまだ1年ある為、大学にまだ通っていたが、裕之は休みなど暇が出来れば馨に連絡するというマメぶりだった。
「馨は就職はどうするの?」
何回かのデートの時に、裕之がきいた。
「デート中の台詞がそれですか?」
:11/04/02 22:52
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#665 [向日葵]
ぶにっと、裕之の頬を軽くつねる。
そんなことさえ嬉しいのか、裕之はにこにこしている。
「あんまり忙しかったら会えないから、それなりのところがいいな」
「そんなの勝手に決めないでくださいよ。確かにそんな年がら年中バタバタ走り回ってるようなところには行きませんけど」
「じゃあもう働かずくる?」
「どこに?」
「僕のとこ」
:11/04/02 22:52
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#666 [向日葵]
「冗談はやめてください」
もうっ、と馨はそっぽを向く。
裕之は冗談ではないのにと思いながら、そうやって雰囲気に流されない真面目な馨がいとおしくなる。
「まあ、そのうち嫌だって言っても結婚してもらうからね」
「なんですか。その脅迫めいたプロポーズは」
しかしその日もそう遠くはなかった。
大学を卒業し、半年ほどが過ぎた時、待ちきれないかのように裕之がまたプロポーズをした。
:11/04/10 22:33
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