こいごころ
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#666 [向日葵]
「冗談はやめてください」
もうっ、と馨はそっぽを向く。
裕之は冗談ではないのにと思いながら、そうやって雰囲気に流されない真面目な馨がいとおしくなる。
「まあ、そのうち嫌だって言っても結婚してもらうからね」
「なんですか。その脅迫めいたプロポーズは」
しかしその日もそう遠くはなかった。
大学を卒業し、半年ほどが過ぎた時、待ちきれないかのように裕之がまたプロポーズをした。
:11/04/10 22:33
:SH05A3
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#667 [向日葵]
車で出かけてた2人は、暗くなり、そろそろ帰ろうかという時に、海岸沿いに車をとめて、指輪を出した。
馨は嬉しくて涙を流すことで「はい」と答えた。
色んなことが足早に過ぎていき、気がつけば茉里が生まれて、毎日が本当に幸せだった。
そしてーーーーーーーー
裕之は間違ったのだった。
・・・・・・・・・・・
:11/04/10 22:34
:SH05A3
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#668 [向日葵]
「加賀」
上司から呼ばれた裕之は、足をとめて振り返る。
「はい?」
「この前のプレゼン良かったって評判だぞ。もしかしたらおれたちので決まるかもしれないって」
「本当ですか!」
もともと、なにをやっても器用にこなす裕之は、上司からの信頼も厚く、若くして色々な重要企画に加わっていた。
嬉しくて笑顔を隠せない裕之は、ふと、上司の後ろにいる影に気づく。
:11/04/10 22:34
:SH05A3
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#669 [向日葵]
「田辺さん、後ろにどなたかいらっしゃいますか?」
「あ、そうだった。ホラ、挨拶」
出てきた相手に、裕之は息を呑んだ。
「馨……?」
呟くように名前を呼ぶ。
しかし、馨ではない。
それはわかった。
ただその雰囲気、顔立ち、ほとんどが馨にそっくりだった。
控えめに笑う彼女は、裕之に向かって頭を下げる。
:11/04/10 22:34
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#670 [向日葵]
「はじめまして、加賀さん。私、花形香と申します。部署が変わりまして、加賀さんとお仕事させて頂くことになりました」
名前までそっくりだ。
しかし自分と仕事?
「田辺さん。話がみえないのですが……?」
「ああ、今言ったとおり、コイツ部署が変わってな。仕事は結構優秀だって言われてるんで、おれたちのチームに入ることになったんだ。で、一番新人のコイツを、チームの中で一番新人のお前が、面倒みるってこと」
ああ、なるほど。
:11/04/10 22:35
:SH05A3
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#671 [向日葵]
ちらりと見ると、花形はふわりと微笑む。
そして彼女からは、懐かしくも感じる、あの香りが漂ってきたのだった。
ーーーーーーーーー…………
「そんなに似てたんですか?」
家に帰ってきて、裕之は花形のことを話した。
3歳になった茉里を寝かしつけ、リビングに戻ってきた馨は、台所に立って、食器を洗っている。
「うん。職場に馨がいたらって僕の願いが叶ったのかって一瞬疑ったよ」
:11/04/10 22:35
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#672 [向日葵]
「それは良かったですね」
「でさー」と続けようとしたが、馨の後ろ姿から、さっきと雰囲気が変わったのがわかった。
気になった裕之は、おずおずと馨の隣に立つ。
馨を見ても、何も変わらないかのように見えるが、馨の機敏を読み取るのは、裕之は得意だった。
「なにか……怒らせた?」
泡だらけの手が、ぴたりととまる。
「ずいぶんと……、彼女が気に入ったんですね」
小さな声だった。
「私を、求めてくれてるのはよくわかりますけど、彼女は別人なんですよ」
:11/04/10 22:35
:SH05A3
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#673 [向日葵]
蛇口をひねると、騒がしい水の音が台所に響く。
シンクに洗った皿を置く。
「片付けの邪魔なので、あっちに行っててください」
その声が震えていたからいけなかった。
裕之は馨の腕をひいて、自分の腕の中に閉じ込めた。
少し抵抗があったが、裕之が抱く力を強くすると、ゆっくりと馨の力が抜けた。
「僕には馨だけだよ」
「わかってますよ。これは……私の勝手でわがままな嫉妬ですから」
「嫉妬なんて、僕を喜ばせたいの?」
:11/04/10 22:36
:SH05A3
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#674 [向日葵]
少し屈んで、唇を寄せる。
ちょっと抵抗するように馨は顔をそらそうとするが、顎に指をかけられては、そらしようがない。
熱いくちづけに馨はいつまでも慣れなくて、裕之を引き離そうとするが、裕之はそうすると余計に体を密着させる。
「ひ……ろ、ゆきさ……っ」
「もう少し黙ってて……」
口ごと食べられてしまいそうなキスに、馨もだんだんと酔いしれる。
息苦しい、でもそれが気持ちよくもある。
:11/04/17 00:20
:SH05A3
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#675 [向日葵]
キスの間に、裕之は何度も愛の言葉をささやく。
後に思い出す。
『あまり口にはしないで』
ーーどうして?嬉しくない?
『嬉しいの、とっても。でもね、あまり言ってしまうと、あなたの私への気持ちが、なくなってしまいそうで、とてもこわいわ』
なくなったわけじゃない。
むしろ増していた。
好きで、大好きで、いとおしくて、愛していて……。
:11/04/17 00:20
:SH05A3
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