こいごころ
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#686 [向日葵]
僕は今、君を、こんなにも欲している。
働かない頭のせいにする。
なにもかも。
気づけば、花形に唇を寄せていた。
今すぐ、自分を癒してほしくて、無我夢中で、花形を抱いた。
「加賀さん……」
「……花形。ーーーーーっ!?」
裕之は、ハッとした。
今、誰の名を呼んだ?
わからなくなった。
僕は馨を愛してるのか、花形を愛しているのか。
あんなに馨を欲していたのに、紡いだ名前は、違う名だった。
:11/04/23 20:30
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#687 [向日葵]
「加賀さん、私はいいんです。私は、ずっと、あなたのそばにいますから」
その言葉は、甘美な呪縛だった。
月日を重ねる度、裕之の評価は上がり、更に仕事は増え、家に帰れない日が続いたこともあった。
家に帰れば、自分が元の自分に戻った気がして、茉里と馨を力いっぱい抱きしめた。
同時に、懺悔をしたくなった。
僕は、君と似た女性と、肌を重ねた。
君と似た女性と関係をもっている。
許してくれ、君を求めた結果だったんだ。
君が……君が……。
:11/04/23 20:30
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#688 [向日葵]
許しを請う言葉は、最早、言い訳にしかきこえなくて、裕之は吐き気がした。
殴りたい。
殴れるなら、もう顔がわからないくらい、自分の顔を殴りたい。
そして、3年の月日が過ぎた。
あの甘美な呪縛に甘えて、疲れた体を、花形で癒していた裕之は、もう、いい加減関係を切らなければと、久々に早く帰りながら考えていた。
早いといっても、もう11時だったが。
「ただいま」
玄関をあけて、そう言っても、馨がこなかった。
いつもなら、たとえ手が泡だらけだろうと、ふんわり笑って「おかえりなさい」というのに。
:11/04/23 20:30
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#689 [向日葵]
リビングにはまだ光があった。
「馨……?」
リビングのテーブルに、疲れたような背中があった。
馨は声をかけられると、ゆっくり立ち上がり、同じ動作で裕之を見つめた。
その目が、恐ろしいほど澄んでいて、裕之は息を呑む。
「花形さん」
出てきた言葉は、「おかえりなさい」でも「お疲れ様」でもなかった。
「って方から、今日、電話があったわ」
:11/04/23 20:31
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#690 [向日葵]
裕之はもう終わりだと思った。
すべてバレた。
「あなたと別れてほしいんですって」
「…………すまない」
なんとか出た言葉が、そんな陳腐な言葉で、裕之は逃げ出したくなった。
暴れまわるくらい、怒られた方がまだマシだ。
馨はどこまでも静かで、冬の夜みたいに、しん……と冷たい。
「どれくらい付き合ってるの?」
「3年……」
終わった。
なにもかも、失った。
:11/04/23 20:31
:SH05A3
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#691 [向日葵]
「疲れたあなたに気づいてあげられないのなら、私が彼を癒します、って言われたわ」
裕之は、馨を見れなかった。
顔を伏せ、目をギュッととじる。
「あなたをそうさせたのは、わたしなのね……」
違う。
「別れたい?」
「そんなわけ……っ!!」
そんなわけないと言うため、顔を勢いよくあげる。
裕之は馨をみて、むしろもう別れたくなった。
:11/04/23 20:32
:SH05A3
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#692 [向日葵]
それでも馨は、裕之を責める気にはなれなかった。
いや、責めたかったのかもしれない。
でも、誰が正しいとか正しくないとか、悪いとか悪くないとか、考えだしたらキリがなくて、もう馨も自分がどうしたいのかわからなくなっていた。
でも裕之が、自分を心の底から愛してくれているのはわかっている。
しかし、3年間も自分しか知らない裕之を、他の誰かが見たのかと思えば、胸が痛むのは仕方がなかった。
:11/04/23 20:33
:SH05A3
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#693 [向日葵]
涙流すくらいは、ちゃんと感情は働いているんだわ……。
裕之をみつめて、頬を流れる涙を感じながら、馨は思った。
「ご飯は、食べる?」
涙を拭いて、口元に少しの笑みをたたえながら、裕之にたずねた。
裕之はしばらく黙って馨を見ていたが、彼女が今何を思っているかわからないので、小さく頷く。
静かに食器がテーブルに並べられる。
その日は、裕之の好物ばかりだった。
:11/04/23 20:33
:SH05A3
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#694 [向日葵]
ーーーーーーーー…………
「お母さん、なにか手伝うことある?」
茉里がひょこりと顔をだす。
昔に意識を飛ばしていた馨は、少しぼんやりと茉里をみる。
「え……。あ、ああ、大丈夫よ。もうあとは煮込むだけだから」
「カッレー!カッレー!」
茉里は馨が作ったカレーが大好きだった。
甘すぎず辛すぎず、でも少しピリッとする。
大きめに切ったジャガ芋はほくほくしてておいしい。
「玉ねぎを飴色になるまでいためるとおいしいらしいけど、お母さんどうしても面倒くさくなるのよね」
:11/04/30 20:29
:SH05A3
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#695 [向日葵]
そんな母の言葉に、茉里はきょとんとする。
「お母さんって、面倒くさがりだっけ?17、18年一緒にいるけど、そんな感じはしないな」
「じゃあ上手くごまかせてるのかしらね」
2人して、アハハと笑う。
笑いながら馨は気づく。
自分でも、知らなかった。
自分は、面倒くさくなることを、きっと避けてたんだわ。
:11/04/30 20:29
:SH05A3
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