こいごころ
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#743 [向日葵]
茉里は顔をあげると、素早く宗助の眼鏡をとる。
急に世界がぼんやりしたことに戸惑う宗助の顔に茉里は唇を押し付ける。
両頬、額にし終えて、宗助の首に抱きつく。
「大嫌いって連発しちゃったから、訂正のチュー」
「随分と瞬間的な……」
「だって……」
歯切れ悪く口を閉ざすから、宗助は茉里の方を向くが、耳しか見えない。
というか、耳も端しか見えない。
:11/05/28 20:11
:SH05A3
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#744 [向日葵]
「ほ……」
「ほ?」
腕をとくと、茉里の顔はほんのり赤かった。
「本当は……キスしたいけど、前みたいに宗助が……」
「……茉里の恥ずかしがるとこが、俺にはさっぱりだ。こうやって積極的なことするわりに、変なとこ恥ずかしいとか言うし」
けれど、そんな彼女をいとおしくも思う。
茉里がこんな姿を見せるのは、宗助に心を許してくれているからだ。
「それに……キスは宗助が初めてだし」
:11/05/28 20:11
:SH05A3
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#745 [向日葵]
「あー、初めてなら仕方な……。ええ!?だってアンタ、俺より経験……」
「経験って言ったって2人ぐらいよ。あとは告白したりした時に『お前は無理だ』とか言われてただけ。みんなそのキス手前ぐらいまで付き合うと『ああコイツ重くて疲れる』って思って、別れ告げられるパターンなの」
ぽかんとしていた宗助だが、顔をしばらく伏せて、次に上げた時は、なんとも言えない笑顔を浮かべていて、茉里はこれ以上ないくらいドキリとした。
「な……何を笑って……っ!」
「ゴメン。だってそういうのが初めてだと思うと、嬉しくて」
:11/05/28 20:11
:SH05A3
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#746 [向日葵]
ああもう!こんなこと思ったりこんな雰囲気になってる場合じゃないのに、どうして宗助はこんなに可愛いことをいうかなあー!?
ついさっき恥ずかしいだとか言ってたくせに、もう前のようなキスを、自分がしたくて仕方なくなってることに気づいた茉里は、とりあえず落ち着こうと深呼吸する。
「茉里ー、笹部くーん、ご飯食べましょー」
「あ、ハーイ!」
:11/05/28 20:12
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#747 [向日葵]
ふと下に裕之もいるのかと気づけば、憂鬱になった。
「今日の夕飯はカレー?」
「へ……。あ、うんそう。鼻いいね」
「カレーぐらいならわかるだろ」
ポンと頭を撫でてくれる宗助のおかげで、憂鬱な気分が少しなくなった。
ひそかにきゅっと宗助のブレザーの裾を握って、2人仲良く階段を降りる。
リビングに着いてから、宗助が「あれ?」と言う。
:11/05/28 20:12
:SH05A3
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#748 [向日葵]
「あの、親父さんは……」
「ああ、仕事が少し残ってるから、先に終わらせちゃうんですって。もう終わった頃かしら。茉里、呼んできてくれる?」
茉里はぎょっとして、目を見開いた。
何故なら普段そんなこと言わないからだ。
馨は茉里が裕之を避けているのを知っているし、晩御飯だって、別々でも何も言わなかったのに。
「ど、どうして……っ!」
「ノックするだけでいいわ。じゃないとお客さんを連れてきた張本人のくせに、自分は顔を出さないなんて、失礼じゃない」
:11/05/28 20:13
:SH05A3
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#749 [向日葵]
ならばお母さんが行けばいいじゃないと出かかったが、ノックするだけならいいかと言葉を口の手前でとめる。
せめてもの抵抗で、無言で裕之の元へ向かった。
宗助は心配そうに茉里と馨を交互に見るが、馨は微笑むだけだった。
ーーーーーーーー…………
裕之の部屋へと続く廊下が、とてつもなく長く思えた。
気分はもう息切れでもしてりんじゃないかとすら思えた。
:11/05/28 20:13
:SH05A3
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#750 [向日葵]
ノックを……するだけ……。
足をとめ、いつの間にか着いてしまった裕之の部屋のドアを見つめる。
苦しいと思ったら、息をとめてた。
ゆっくりと手をあげ、軽く握る。
控えめな音で、硬いそのドアを2回叩いた。
中で、人が動く気配が少しした。
会いたくもないのなら、早くここから動けばいいのに、そうしたいのはどうしてだろう。
:11/05/28 20:13
:SH05A3
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#751 [向日葵]
「ーーーーーどうして、動かないんだい」
ドアの向こうから声がした。
瞬間的に黒い渦が心を覆いつくしそうになるが、深呼吸でそれをやりすごす。
憎い………………わけじゃない。
許したい…………わけじゃない。
どちらの感情かもわからないけれど、どうして動かないんだろう。
「……ねえ」
ずっと、聞きたかった。
1つだけ、どうしても。
「浮気したのは……、私たちがどうでもよかったから?」
しん……と、全てが静寂で埋め尽くされた気がした。
なんとなく、足元がゆらゆらする。
:11/05/28 20:14
:SH05A3
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#752 [向日葵]
「違うよ」
ドアの向こうで、静かに、でもはっきりと答えた。
「昔も今も、大好きだよ。あの時は……ただおかしかった、これしか言えない」
おかしかった。
その言葉を聞いた時、茉里は思い出したことがあった。
まだ宗助が、茉里に気持ちを向けていない時、夏祭りで茉里は錯覚を起こしていた。
沢口の告白に身を任せれば、楽になるんじゃないかと。
こんな片思いの苦しみから、逃れることが出来るんじゃないかと。
自分から好きでいると言ったくせに、全てを投げ出して、逃げようとした。
:11/05/28 20:14
:SH05A3
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